説明

マスター情報坦体およびマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法

【課題】 磁気ディスク媒体のプリフォーマット記録に関する従来技術において、生産性が低くコスト高であるとともに、将来の高トラック密度記録に対してはトラック幅方向の記録分解能が不十分でありトラッキング精度が不十分となる。
【解決手段】 基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、この凹凸形状の少なくとも凸部表面が強磁性材料により構成されることを特徴とするマスター情報坦体表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させることにより、マスター情報坦体表面の凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大容量、高記録密度の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体への情報信号の記録方法と、記録される情報信号を備えたマスター情報坦体に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、磁気記録再生装置は、小型でかつ大容量を実現するために、高記録密度化の傾向にある。代表的な磁気記憶装置であるハードディスクドライブの分野においては、すでに面記録密度1Gbit/in2を超える装置が商品化されており、数年後には、10Gbit/in2の実用化が議論されるほどの急激な技術進歩が認められる。
【0003】このような高記録密度化を可能とした技術的背景としては、媒体性能、ヘッド・ディスクインターフェース性能の向上やパーシャルレスポンス等の新規な信号処理方式の出現による線記録密度の向上も大きな要因である。しかしながら近年では、トラック密度の増加傾向が線記録密度の増加傾向を大きく上回り、面記録密度向上のための主たる要因となっている。これは、従来の誘導型磁気ヘッドに比べてはるかに再生出力性能に優れた磁気抵抗素子型ヘッドの実用化による寄与である。現在、磁気抵抗素子型ヘッドの実用化により、わずか数μmのトラック幅信号をSN良く再生することが可能となっている。一方、今後さらなるヘッド性能の向上にともない、近い将来にはトラックピッチがサブミクロン領域に達するものと予想されている。
【0004】さて、ヘッドがこのような狭トラックを正確に走査し、信号をSN良く再生するためには、ヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。このようなトラッキングサーボ技術に関しては、例えば、”山口:磁気ディスク装置の高精度サーボ技術、日本応用磁気学会誌、Vol.20, No.3, pp.771, (1996)”に詳細な内容が示されている。上記文献によれば、現在のハードディスクドライブでは、ディスクの1周、すなわち角度にして360度中において、一定の角度間隔でトラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等が記録された領域を設けている(以下、プリフォーマットと称する)。磁気ヘッドは、一定間隔でこれらの信号を再生することにより、ヘッドの位置を確認、修正しながら正確にトラック上を走査することができるのである。
【0005】既述のトラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等は、ヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となるものであるので、その記録時には、正確な位置決め精度が要求される。例えば、”植松、他:メカ・サーボ、HDI技術の現状と展望、日本応用磁気学会第93回研究会資料、93-5, pp.35 (1996)”に記載された内容によれば、現在のハードディスクドライブでは、ディスクをドライブに組み込んだ後、専用のサーボ記録装置を用いて厳密に位置制御された磁気ヘッドによりプリフォーマット記録が行われている。
【0006】このようなサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号のプリフォーマット記録は、近年商品化された大容量フレキシブルディスクや、ディスクカートリッジが着脱可能なリムーバブルハードディスク用媒体においても同様に、専用のサーボ記録装置を用いて、磁気ヘッドにより行われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記方法によるサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号のプリフォーマット記録においては、以下のような課題が存在する。
【0008】まず第1の課題として、磁気ヘッドによる記録は、基本的にヘッドと媒体との相対移動に基づく線記録である。このため、専用のサーボ記録装置を用いて磁気ヘッドを厳密に位置制御しながら記録を行う上記の方法では、プリフォーマット記録に多くの時間を要するとともに、専用のサーボ記録装置が相当に高価であることにも起因して、非常にコスト高となる。
【0009】この課題は、磁気記録装置のトラック密度が向上するほど深刻である。これは、ディスク径方向のトラック数が増加することのみに起因するものではない。トラック密度が向上するほどヘッドの位置決めに高精度が要求されるため、ディスクの1周、すなわち360度中において、トラッキング用サーボ信号等が記録されたサーボ領域を設ける角度間隔を小さくしなければならない。このため高記録密度の装置ほどプリフォーマット記録すべき信号量が多くなり、さらに多くの時間を要することになる。
【0010】また、磁気ディスク媒体は小径化の傾向にあるものの、依然として3.5インチや5インチの大径ディスクに対する需要も多い。ディスクの記録面積が大きいほどプリフォーマット記録すべき信号量が多くなるのは必然であり、このような広面積ディスクのコストパフォーマンスに関しても、プリフォーマット記録に要する時間が大きく寄与している。
【0011】第2の課題として、ヘッド・媒体間スペーシングや記録ヘッドのポール形状による記録磁界の広がりのため、プリフォーマット記録されたトラック端部の磁化遷移が急峻性に欠けるという点がある。
【0012】磁気ヘッドによる記録は、基本的にヘッドと媒体との相対移動に基づく動的線記録であるため、ヘッド・媒体間のインターフェース性能の観点から、一定量のヘッド・媒体間スペーシングを設けざるを得ない。また、現在の磁気ヘッドは通常、記録と再生を別々に担う2つのエレメントを有する構造上、記録ギャップの前縁側ポール幅が記録トラック幅に相等するのに対し、後縁側ポール幅が記録トラック幅の数倍以上に大きくなっている。
【0013】上記の2点は、いずれも、記録トラック端部における記録磁界の広がりを生じる要因となり、結果的にプリフォーマット記録されたトラック端部の磁化遷移が急峻性に欠ける、あるいはトラック端両側に消去領域を生じるという課題に帰着する。現在のトラッキングサーボ技術は、ヘッドがトラックを外れて走査した際の再生出力の変化量によって、ヘッドの位置検出を行うものである。従って、サーボ領域間に記録されたデータ情報信号を再生する際のようにヘッドがトラック上を正確に走査した際のSNに優れるだけではなく、ヘッドがトラックを外れて走査した際の再生出力変化量、すなわちオフトラック特性が急峻であることが要求される。上記の課題はこの要求に反するものであり、今後のサブミクロントラック記録における正確なトラッキングサーボ技術の実現を困難なものとしている。
【0014】上記2つの課題の内、前者に対する解決策としては、例えば特開昭63−183623号公報に磁気転写技術を用いたトラッキングサーボ信号等の複写技術が開示されている。このような磁気転写技術を用いれば、プリフォーマット記録の際の生産性が改善されることは事実である。しかしながら上記技術は、フレキシブルディスクのように比較的保磁力が低く、面記録密度の小さい磁気ディスク媒体には有効であるが、今日のハードディスク媒体のように数百メガビットからギガビットオーダーの面記録密度を担う分解能を備えた高保磁力媒体に対して使用することは不可能である。磁気転写技術においては、転写効率を確保するために、被転写ディスク保磁力の1.5倍程度の振幅の交流バイアス磁界を印加する必要がある。マスターディスクに記録されたマスター情報は磁化パターンであるので、この交流バイアス磁界によってマスター情報が消磁されないためには、マスターディスクの保磁力において、被転写ディスクの保磁力の3倍程度以上の値が要求されるのである。現在の高密度ハードディスク媒体の保磁力は高面記録密度を担うために1500〜2500エルステッドもある。さらに将来の10ギガビットオーダーの面記録密度を担うためには、この値は3000〜4000エルステッドにも達するものと予想される。つまりマスターディスクには、現状において4500〜7500エルステッド、将来的には9000〜12000エルステッドの保磁力が要求されることになる。マスターディスクにおいてこのような保磁力を実現することは、磁性材料の選択の面から困難である。さらに、現状の磁気記録技術を用いては、このような高保磁力を有するマスターディスク自体にマスター情報を記録する手段が存在しない。従って、磁気転写技術においては、マスターディスクにおいて実現可能な保磁力値を考慮すると、必然的に被転写ディスクの保磁力に制約を受けることになる。
【0015】また、例えば特開平7−153060号公報によれば、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等に対応する凹凸形状を有するディスク媒体用基板をスタンパにより形成し、この基板上に磁性層を形成するというプリエンボストディスク技術が開示されている。この技術は、既述の2つの課題に対して、ともに有効な解決策である。しかしながら、ディスク表面の凹凸形状が記録再生時のヘッドの浮上特性(あるいは接触記録の場合には媒体とのコンタクト状態)に影響を及ぼし、ヘッド・媒体インターフェース性能に課題を生じることが予想される。また、スタンパで製造される基板は基本的にプラスチック基板であるため、媒体性能の確保のために必要な磁性層成膜時の基板加熱ができず、必要な媒体SNが確保されないという問題もある。
【0016】以上のような技術的背景から、既述の2つの課題に関しては、媒体SNやインターフェース性能など、他の重要性能を犠牲にすることのない、真に有効な解決策は見いだされていない。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の課題に鑑み、媒体SNやインターフェース性能など、他の重要性能を犠牲にすることなく、プリフォーマット記録時の生産性、およびプリフォーマット記録されたトラック端部の磁化遷移の急峻性を向上する手段を提供するものである。
【0018】以上の手段を実現するために本発明は、基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、この凹凸形状の少なくとも凸部表面が強磁性材料により構成されることを特徴とするマスター情報坦体表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させることにより、マスター情報坦体表面の凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録することを特徴とする。好ましくは、マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料が軟質磁性、あるいは基体面内保磁力が40kA/m以下の硬質もしくは半硬質磁性を有することを特徴とする。さらに好ましくは、マスター情報坦体表面を磁気記録媒体表面に接触させる際において、マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料を励磁するための直流磁界、あるいは磁化パターンの記録を助成するための交流バイアス磁界を印加することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】まず、上記に記載した本発明の構成がもたらす作用について説明する。
【0020】本発明の構成においては、一方向に磁化されたマスター情報坦体表面凸部の強磁性材料より発生する記録磁界により、磁気記録媒体には、マスター情報坦体の凹凸形状に対応した磁化パターンが記録される。すなわち、マスター情報坦体表面に、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等に対応する凹凸形状を形成することにより、磁気記録媒体上にはこれらに対応するプリフォーマット記録を行うことができるのである。
【0021】本発明は、凹凸形状による磁気抵抗変化に起因して凸部の強磁性材料より発生する漏れ磁界により記録を行う。従って記録機構の観点では、ヘッド記録ギャップより発生する漏れ磁界により記録を行う、従来の磁気ヘッドによる記録と同様である。一方、従来の磁気ヘッドによる記録が、基本的にヘッドと媒体との相対移動に基づく動的線記録であるのに対し、本発明の特徴は、マスター情報坦体と媒体との相対移動を伴わない静的な面記録であるということである。上記の特徴により本発明は、既述の2つの課題に対して極めて有効な効果を発揮することができる。
【0022】第1に、面記録であるため、プリフォーマット記録に要する時間は、従来の磁気ヘッドによる記録方法に比べて、非常に短い。また、磁気ヘッドを厳密に位置制御しながら記録を行うための高価なサーボ記録装置も不要である。従って、本発明によれば、プリフォーマット記録に関わる生産性を大幅に向上できるとともに、生産コストに関しても低減することができる。
【0023】第2に、マスター情報坦体と媒体との相対移動を伴わない静的記録であるため、マスター情報坦体表面と磁気記録媒体表面を密着させることにより、記録時の両者間のスペーシングを最小限にすることができる。さらに、磁気ヘッドによる記録のように、記録ヘッドのポール形状による記録磁界の広がりを生じることもない。このため、プリフォーマット記録されたトラック端部の磁化遷移は、従来の磁気ヘッドによる記録に比べて、優れた急峻性を有し、より正確なトラッキングが可能となる。
【0024】一方本発明によれば、特開昭63−183623号公報に開示された磁気転写技術や特開平7−153060号公報に開示されたプリエンボストディスク技術において認められたような、プリフォーマット記録される磁気記録媒体の構成や磁気特性に制約を受けるという課題を生じることもない。
【0025】例えば、特開昭63−183623号公報に開示された磁気転写技術において、磁化パターンにより記録されたマスター情報を備えるマスターディスクは、それ自体が磁気記録媒体であるために相応の磁気記録媒体分解能を必要とする。このため、マスターディスク磁性層の磁束密度および膜厚を十分に大きくすることができず、発生する転写磁界の大きさが非常に小さいものとなってしまう。またマスター情報は磁化パターンにより記録されているため、ダイビットの突き合わせ磁化による減磁を生じ、磁化遷移領域における転写磁界勾配も緩やかである。このような弱い転写磁界によっても十分な転写効率を確保するために、磁気転写技術においては、被転写ディスク保磁力の1.5倍程度もの振幅の交流バイアス磁界を印加する必要が生じる。結果的に既述のように、被転写ディスクの保磁力において制約を受け、比較的記録密度の低いフレキシブルディスク等にしか使用することができなかった。
【0026】一方、本発明のマスター情報坦体はマスター情報を凹凸形状パターンとして有しており、その凹凸形状による磁気抵抗変化に起因して凸部の強磁性材料より発生する漏れ磁界により記録を行う機構を有する、磁気ヘッドに似た記録素子である。磁気転写技術におけるマスターディスクのように磁気記録媒体としての分解能を必要としないので、マスター情報坦体表面凸部を構成する強磁性材料の磁束密度や体積を従来の磁気ヘッドと同等程度に大きくすることにより、磁気ヘッド並に急峻で大きな記録磁界を発生することができる。これにより、通常のフレキシブルディスクやハードディスクから将来的なギガビット記録を担う高保磁力媒体に至るまで、あらゆる磁気記録媒体に対して十分な記録能力を発揮することができるのである。
【0027】また、特開平7−153060号公報に開示されたプリエンボストディスク技術においては既述のように、プリフォーマット記録されるディスク媒体の基板材料と形状に制約を受けるため、媒体成膜時の基板温度に関わる媒体SN性能およびヘッドの浮上特性(あるいは接触記録の場合には媒体とのコンタクト状態)に関わるヘッド・メディアインターフェース性能を犠牲にしていた。一方、本発明の構成では、上記のようにプリフォーマット記録される磁気記録媒体の基板材料や表面形状においては何等の制約も受けない。
【0028】以上のように本発明の構成は、プリフォーマット記録される磁気記録媒体の構成や磁気特性を問わずに静的な面記録を行うことができ、既述の2つの課題に関して、媒体SNやインターフェース性能など、他の重要性能を犠牲にすることなく、真に有効な解決策を提供することができるのである。
【0029】なお、本発明の方法による記録過程においても、時間の経過とともに減衰する交流バイアス磁界を印加することは、さらに記録効率を向上する上で有効な手段である。この際、マスター情報が磁化パターンにより記録された磁気転写技術とは異なり、本発明のマスター情報は凹凸形状によるパターンであるため、このような交流バイアス磁界等の外部磁界が印加された場合にもマスター情報自体が消失することはない。このような観点から本発明においては、マスター情報坦体表面凸部を構成する強磁性材料の保磁力値に大きな制約を受けない。このため、磁気記録媒体にマスター情報を記録するための十分な記録磁界を発生することができる限りにおいては、マスター情報坦体表面凸部を構成する強磁性材料としては、高保磁力材料に限らず、半硬質磁性や軟質磁性を有する多くの材料から適切な材料を選択することができる。
【0030】一方本発明の構成においては、凸部を構成する強磁性材料は、記録過程において一方向に磁化されて記録磁界を発生することが必要である。このため、半硬質磁性材料や軟質磁性材料を用いる構成において安定な一方向磁化が得られない場合や、比較的振幅の大きな交流バイアス磁界を印加する場合においては、強磁性材料を励磁して適切な記録磁界を発生するために直流励磁磁界を別途印可する。この直流励磁磁界は、磁気ヘッドにおいて巻線電流により供給される励磁磁界に対応するものである。
【0031】以下には、本発明の実施の形態例について詳細に説明する。まず、本発明のマスター情報坦体表面の一構成例を図1に示す。図1は、例えばディスク状磁気記録媒体の周方向(すなわちトラック長さ方向)において一定角度毎に設けられるプリフォーマット領域に記録されるマスター情報パターンを、ディスク媒体の径方向(すなわちトラック幅方向)に10トラック分のみ示したものである。なお参考のため、マスター情報パターンがディスク媒体に記録された後、ディスク媒体上でデータ領域となるトラック部分を破線により示した。実際のマスター情報坦体表面は、マスター情報が記録される磁気ディスク媒体の記録領域に対応して、ディスクの周方向において一定角度毎に、かつディスク媒体の径方向には全記録トラック分、図1のようなマスター情報パターンが形成されて構成されている。
【0032】マスター情報パターンは、例えば図1に示されるように、クロック信号、トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号の各々の領域がトラック長さ方向に順次配列して構成される。本発明のマスター情報坦体においては、このマスター情報パターンは、情報パターンに対応する表面凹凸形状により形成されている。例えば図1においては、ハッチングを施した部分が凸部となっており、その表面が強磁性材料により構成されている。
【0033】図1に示されるような情報信号に対応する微細な凹凸形状パターンは、例えば光ディスク成形用マスタースタンパの形成プロセスや、半導体プロセス等において用いられる様々な微細加工技術を用いて容易に形成することができる。特に、フォトリソグラフィ法をはじめ、レーザビームや電子ビームを用いたリソグラフィ技術のように、レジスト膜を露光、現像した後、ドライエッチングによって微細な凹凸形状パターンを形成する方法が最も適している。もちろん、情報信号に対応する微細な凹凸形状パターンが精度良く形成される限りにおいては、レジスト膜を用いることなく、直接レーザや電子ビーム、イオンビーム、あるいはその他の機械加工によって微細加工を施す等の方法を用いても構わない。
【0034】次に、図1に示した一点鎖線AA’におけるマスター情報坦体のトラック長さ方向断面の構成例を図2から図4に示す。
【0035】図2および図3は、平面状の基体1表面に強磁性薄膜2を形成した後、マスター情報信号に対応する凹凸形状を形成した例である。凹凸形状形成に際しては、図2に示すように凸部、凹部ともに強磁性薄膜2を残留させても良いし、図3に示すように凹部の底を基体1内にまで至らしめて凸部表面にのみ強磁性薄膜2を残留させても良い。
【0036】図4は、図2および図3の構成とは異なり、基体1表面に先に凹凸形状を形成した後、その上に強磁性薄膜2を形成した例である。
【0037】図4の構成例では、凸部と凹部の境界において強磁性薄膜2表面に曲面形状を呈し、急峻な段差が得られ難くなる。この場合、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際に、凸部と凹部の境界における記録磁界勾配が低下し、記録性能を劣化する可能性もあるので留意を要する。
【0038】一方、図2および図3の構成例は、凸部と凹部の境界において十分に大きな勾配を有する急峻な記録磁界が得られ易いので、一般的には図4の構成例よりも好ましい。しかしながら凹凸形状の形成に際しては、強磁性薄膜表面に変質層やレジスト膜が残留しないよう留意する必要がある。なぜならばこれらは、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際において記録スペーシング損失を生じるからである。
【0039】基体材料に関しては、基体上に強磁性薄膜2が形成でき、マスター情報信号に対応する凹凸形状が精度良く形成できる限りにおいて特に制約はないが、凹凸形状が形成される面の表面粗度が小さく、できる限り平坦性の良いものが好ましい。表面粗度が大きい場合には、基体上に形成される強磁性薄膜の表面粗度も大きくなり、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際の記録スペーシング損失を増加させてしまうからである。従って、できる限り平坦性の良い表面を実現できる材料として、例えば、従来より磁気ディスクや光ディスク用の基板として用いられている種々のガラス基板、ポリカーボネート等のプラスチック基板、Al等の金属基板の他、Si基板やカーボン基板等が適している。
【0040】また、上記の記録スペーシング損失に関して言えば、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際にはマスター情報坦体表面と磁気ディスク媒体表面が密着し、良好な接触状態にあることが好ましい。特にマスター情報が記録される磁気ディスクがハードディスク媒体の場合には、マスター情報坦体表面が磁気ディスク媒体表面の微妙なうねりや撓みにも追従して、ディスク全面において良好な接触状態を実現することが必要である。このため、マスター情報坦体の基体材料としては、多少なりとも可撓性を有するもの、例えばシート状もしくはディスク状のプラスチック基板や金属薄板等がより好ましい。
【0041】なお、図4に示すマスター情報坦体断面の構成例をレジスト膜を用いて形成する場合においては、マスター情報坦体の基体表面にレジスト膜を塗布することになるので、一般的には基体材料としてプラスチック基板を用いることはできない。この場合には、基体表面に別途薄膜を形成してバッファ層とし、このバッファ層上にレジスト膜を形成する等の工夫が必要である。
【0042】図2から図4の構成例における凹部深さ、すなわち凸部表面と凹部底面の段差は、マスター情報が記録される磁気ディスク媒体の表面性やマスター情報のビットサイズにもよるが、一般的には0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上とする。特に図2や図4の構成のように凹部底面に強磁性材料が残留する場合、凹部深さが0.1μm以下とすると、凸部と凹部の境界において十分に勾配の大きい急峻な記録磁界が得られにくい。また、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際のマスター坦体表面と磁気ディスク媒体表面のコンタクト状態の観点からも、0.1μmから0.5μm程度の範囲が好ましい。
【0043】強磁性薄膜2の形成は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等、従来より一般的な薄膜形成方法を用いて行うことができる。
【0044】強磁性薄膜材料には、既述したように、硬質磁性材料、半硬質磁性材料、軟質磁性材料を問わず、多くの種類の材料を用いることが可能であるが、マスター情報が記録される磁気ディスク媒体の種類に依らず、十分な記録磁界を発生するためには、その飽和磁束密度が大きいほどよい。特に2000Oeを超える高保磁力媒体や、磁性層厚の大きいフレキシブルディスク媒体に対しては、飽和磁束密度が0.8T以下となると十分な記録が行われない場合があるので、一般的には0.8T以上、好ましくは1.0T以上の飽和磁束密度を有する材料を用いる。
【0045】また、強磁性薄膜の膜厚も、磁気ディスク媒体への記録能力に影響を及ぼす。磁気ディスク媒体の種類に依らず、十分な記録磁界を発生するためには強磁性薄膜には一定以上の膜厚が必要であるが、一方でマスター情報のビット形状との兼ね合いから反磁界の影響をも考慮しなければならない。すなわち本発明の構成では、磁気ディスク媒体が垂直磁気記録媒体であるような特殊な場合を除いて、一般的にマスター情報坦体凸部の強磁性薄膜を膜面内においてトラック方向に磁化し、記録磁界を発生させる。しかし、膜厚が厚すぎる場合には反磁界の影響によって漏れ磁束が減少し、かえって記録能力に欠ける結果となる。従って強磁性薄膜の膜厚に関しては、マスター情報のビット長に応じて適切な値を設定する必要がある。例えばマスター情報の最短ビット長が1μm程度の場合には、0.1μmから1μm程度の範囲が適切である。
【0046】なお、これらの強磁性材料における好ましい磁気特性については、マスター情報の磁気ディスク媒体への記録方法との関連からも、別途後述する。
【0047】図5には、図1に示した一点鎖線AA’におけるマスター情報坦体断面の別の構成例を示す。図5は、図2から図4の構成例とは異なり、基体自体が強磁性材料よりなる構成例である。すなわち図5の構成では、強磁性材料よりなる基体3の表面にマスター情報信号に対応する凹凸形状を形成することにより、強磁性薄膜を形成するプロセスを省くことができるので、図2から図4の構成に比べてマスター情報坦体自体の生産性を向上することができる。
【0048】一方、強磁性材料基体3として焼結体のようなバルク材料を用いると、マスター情報坦体の表面粗度が比較的大きくなる場合が多い。この場合、マスター情報を磁気ディスク媒体に記録する際において記録スペーシング損失を増加させることになるので、できる限り平坦な表面性を有する基体材料を選択することが必要である。また一般的に焼結体のようなバルク材料においては、可撓性を実現できない。従って図5の構成例は、ハードディスク媒体への記録よりも、フレキシブルディスク媒体への記録により適する構成である。
【0049】次に、上述のマスター情報坦体を用いて、磁気記録媒体にマスター情報信号を記録する方法について、実施の形態例を述べる。
【0050】図6には、(a)マスター情報坦体を用いた面内磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法と、(b)磁気記録媒体に記録された記録磁化パターン、および(c)上記の記録磁化を磁気抵抗型(MR)ヘッドを用いて再生した際の信号波形の一例を示すものである。なお、(a)、(b)は、いずれも磁気記録媒体のトラック長さ方向における断面の構成例として示してある。
【0051】面内磁気記録媒体に記録を行う場合には(a)に示されるように、マスター情報坦体4の凸部を構成する強磁性材料には、磁気記録媒体5表面と平行にトラック長さ方向に磁化6を与える。この磁化6は、例えば凸部を構成する強磁性材料が高保磁力材料よりなる場合には、これを予めトラック長さ方向に直流飽和させることによって生じる残留磁化によって与えられる。なお、上記のような強磁性材料に適した高保磁力材料としては、例えば、Sm−Co、Ne−Fe−Bをはじめとする希土類−遷移金属系材料等が、保磁力、飽和磁束密度ともに大きく適している。
【0052】マスター情報坦体4表面には凹凸形状による磁気抵抗変化を生じるため、凸部強磁性材料の磁化6によって記録磁界7を発生する。この記録磁界7は、マスター情報坦体4の凸部表面と凹部表面とで逆極性となるため、結果的に磁気記録媒体5には、(b)に示すような凹凸形状に対応する記録磁化8のパターンが記録されることになる。
【0053】本発明の記録方法による記録磁化8から磁気ヘッド再生される再生波形状は、(c)に示すように、従来の磁気ヘッドを用いて記録された記録磁化からの再生波形状と基本的に同様である。従って、信号処理上でも、特に不都合を生じることはない。むしろ本発明の記録方法では、磁気ヘッドによる記録に比べて記録磁界の対称性がよいこと、マスター情報坦体と磁気記録媒体の相対移動を伴わない静的記録であることに起因して、再生波形の対称性にも優れる傾向が認められる。
【0054】本発明の記録過程においては既述したように、時間の経過とともに減衰する交流バイアス磁界を印加することにより、さらに記録効率を向上することができる。本発明を応用する技術分野を考慮すると、本発明の記録方法では、基本的にディジタル飽和記録を行うことが好ましい。しかしながら記録すべき情報信号パターンや磁気記録媒体の磁気特性によっては、記録能力が若干不足する場合もある。このような場合には、上記の時間の経過とともに減衰する交流バイアス磁界の印加は、十分な飽和記録を助成するために有効な手段である。
【0055】交流バイアス磁界の印加による記録機構は、基本的に従来のアナログ交流バイアス記録の機構と同様である。ただし本発明の記録方法は、マスター情報坦体と磁気記録媒体の相対移動を伴わない静的記録であるため、交流バイアス磁界の周波数に関する制約は、従来のアナログ交流バイアス記録に比べてはるかに小さい。従って、本発明の記録方法において印加される交流バイアス磁界の周波数は、例えば家庭用交流電源に用いられている50Hzあるいは60Hzの周波数で十分である。
【0056】交流バイアス磁界の減衰時間は交流バイアス周期に比べて十分に長く、好ましくは交流バイアス5周期以上に設定する。例えば、交流バイアス磁界の周波数が50Hzあるいは60Hzの場合には、その減衰時間を100ms程度以上とすれば十分である。
【0057】一方、図6に示した構成においては、交流バイアス磁界の最大振幅を、マスター情報坦体4の凸部を構成する強磁性材料の保磁力よりも小さくする必要がある。図6に示した構成において強磁性材料の保磁力よりも大きな交流バイアス磁界を与えた場合には、凸部強磁性材料の磁化6が減少して十分な記録磁界7が得られなくなる。
【0058】上記では、マスター情報坦体の凸部を構成する強磁性材料が高保磁力材料よりなる場合に主眼をおいて述べた。しかしながら、高保磁力材料を用いる場合には、マスター情報坦体表面の凹凸パターン形状によっては、強磁性材料の磁化容易軸を磁気記録媒体のトラック長さ方向に与えて、十分な磁化6を得ることが困難な場合がある。
【0059】例えば、マスター情報坦体の凸部で与えられるマスター情報信号のビット形状が磁気記録媒体のトラック長さ方向よりもトラック幅方向に細長い場合には、凸部を構成する強磁性材料にトラック幅方向の形状異方性を生じ、トラック幅方向が磁化容易軸となり易い。従って、強磁性材料をトラック長さ方向に直流飽和させることによって生じる残留磁化が小さく、トラック長さ方向成分の記録磁界が十分に得られなくなる。また、硬質磁性を有する高保磁力材料は、一般的に磁気異方性の制御が困難であり、上記のようなビット形状の寄与を補償できるほどの異方性をトラック長さ方向に誘導することも困難である。
【0060】マスター情報坦体の凸部を構成する強磁性材料を軟質磁性材料、あるいは比較的低保磁力を有する硬質もしくは半硬質磁性材料により構成する場合には、上記の問題を比較的容易に解決できるので好ましい。なお、硬質磁性材料と半硬質磁性材料の区別は曖昧であるので、以下、本願においては、比較的低保磁力を有する硬質もしくは半硬質磁性材料を半硬質磁性材料として総称して用いることとする。
【0061】これらの軟質磁性材料や半硬質磁性材料では、材料の形成プロセス中に様々な種類のエネルギーを意図的に与える手段や、材料形成後の磁界中アニールなどの手段によって、高保磁力を有する硬質磁性材料に比べて、適切な磁気異方性を容易に誘導することができる。このため、既述のようなビット形状の寄与による形状異方性に関しても、比較的容易に補償できる場合が多い。さらに、軟質磁性材料あるいは半硬質磁性材料においては、マスター情報坦体の凸部を構成する強磁性材料として適した高飽和磁束密度を有する材料も豊富である。本発明のマスター情報坦体の凸部を構成する強磁性材料に適した軟質磁性材料としては、例えば磁気ヘッドコア材料として一般的に用いられているNi−Fe、Fe−Al−Si等の結晶材料、Co−Zr−Nb等のCo基のアモルファス材料、Fe−Ta−N等のFe系微結晶材料がある。また比較的低保磁力を有する半硬質磁性材料としては、たとえばFe、Co、Fe−Co等が適している。
【0062】本発明の構成において凸部を構成する強磁性材料は、記録過程において一方向に磁化されて記録磁界を発生することが必要であるが、軟質磁性材料や半硬質磁性材料では、もともと残留磁化状態において安定な一方向磁化が得られないものが多い。従って軟質磁性材料や半硬質磁性材料を用いる構成においては多くの場合、これらを励磁して適切な記録磁界を発生するための直流励磁磁界を別途印可する。既述したようにこの直流励磁磁界は、磁気ヘッドにおいて巻線電流により供給される励磁磁界に対応するものと考えることができる。
【0063】図7に、上記のような直流励磁磁界を用いたマスター情報信号の記録方法の構成例を示す。図7も図6と同様に、磁気記録媒体のトラック長さ方向における断面の構成例として示してある。
【0064】マスター情報坦体の凸部を構成する軟質磁性材料もしくは半硬質磁性材料は、直流励磁磁界9により、磁気記録媒体5のトラック長さ方向に安定に磁化され、記録磁界7を発生する。直流励磁磁界9は磁気記録媒体5にも印加されることになるので、あまり大きな値とすることはできない。多くの場合には、磁気記録媒体の保磁力と同等程度の大きさが好ましい。直流励磁磁界9の大きさが磁気記録媒体の保磁力と同等程度以下であれば、凸部を構成する軟質磁性材料もしくは半硬質磁性材料から発生する記録磁界7の方が十分に大きいので、図6の構成と同様に、凹凸形状に対応する記録磁化パターンを記録することができる。実際には、適切な直流励磁磁界9の大きさは、マスター情報坦体の凸部を構成する軟質磁性材料や半硬質磁性材料の磁気特性、磁気記録媒体の磁気特性、凹凸パターン形状等の要因によって様々に変化する。従って磁気記録媒体の保磁力値を目安とし、各々の場合に応じて最も記録特性が優れるよう、実験的に最適化を図る必要がある。
【0065】上記の観点から、マスター情報坦体の凸部を構成する軟質磁性材料や半硬質磁性材料は、磁気記録媒体の保磁力と同等程度の直流励磁磁界9により、ほぼ磁気飽和に達するものが好ましい。軟質磁性材料の場合には、低磁界で良好な飽和特性を示す場合が多い。しかしながら、半硬質磁性材料の中には比較的大きな飽和磁界を必要とする場合があるので、材料選択に留意を要する。本発明者らの実験結果によれば、現状の一般的な保磁力を有するハードディスク媒体や大容量フレキシブルディスク媒体に記録を行う場合には、半硬質磁性材料として40kA/m以下の保磁力を有するものが好ましい。保磁力が40kA/mよりも大きい場合には、半硬質磁性材料を磁気記録媒体5のトラック長さ方向に安定に磁化するために必要な直流励磁磁界9が媒体保磁力に比べて大きくなるので、分解能に優れた記録を行うことが困難になる。
【0066】図7に示したような直流励磁磁界を与える記録方法は、マスター情報坦体凸部を構成する強磁性材料が高保磁力材料よりなる構成においても、特にその保磁力よりも大きな交流バイアス磁界を与える場合に有効である。既述のように、図6に示した構成において強磁性材料の保磁力よりも大きな交流バイアス磁界を与えた場合には、凸部強磁性材料の磁化6が減少して十分な記録磁界7が得られなくなる。この際、直流励磁磁界を重畳して与えることによって、強磁性材料の磁化6と逆極性に印加されるトータルの外部磁界が低減され、交流バイアス磁界を与えない場合と同様に安定な記録磁界を発生することが可能となる。上記のように、時間とともに減衰する交流バイアス磁界と直流励磁磁界を重畳して印加する構成は、マスター情報坦体凸部を構成する強磁性材料が半硬質磁性材料あるいは軟質磁性材料よりなる場合においても、もちろん有効である。
【0067】マスター情報坦体表面の凹凸形状パターンによっては、図8に示すように、磁気記録媒体を予め直流飽和消去し、一方向への初期磁化10を与えておくことにより、より良好な記録が可能となる場合がある。
【0068】凹凸形状パターンは、各々の応用例に必要な情報信号に応じて、様々な形態を有する。このため凹凸形状パターンによっては、凸部表面上の記録磁界と凹部表面上の記録磁界の一方が他方よりも小さくなり、小さい方の極性において十分な飽和記録が困難になる、あるいは記録の線形性を損なうといった現象を生じるのである。図8に示す構成においては、凸部表面上の記録磁界と凹部表面上の記録磁界の両者の内、小さい方の記録磁界と同じ極性に予め磁気記録媒体5を直流飽和消去しておくことにより、同極性方向への飽和記録を助成することができる。
【0069】なお図8では、磁気記録媒体5を凸部表面上の記録磁界と同じ極性に直流飽和消去する例について示したが、上記から明らかなように、磁気記録媒体を直流飽和消去すべき極性は、各々の場合によって異なるので注意を要する。また図8においては、図7と同様に直流励磁磁界9を与える場合について示したが、直流励磁磁界9を与えない場合においても、同様に直流飽和消去の効果は得られる。
【0070】以上においては、面内磁気記録媒体に記録を行う場合を主眼において述べた。一方、本発明の記録方法における構成は、磁気記録媒体の種類によって様々な変更を行うことが可能であり、また上記と同様に発明の効果を得ることができる。
【0071】典型的な例として、磁気記録媒体が垂直磁気記録媒体である場合の本発明の記録方法の構成を図9に示す。図9は、(a)マスター情報坦体を用いた垂直磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法と、(b)垂直磁気記録媒体に記録された記録磁化パターン、および(c)上記の記録磁化を磁気抵抗型(MR)ヘッドを用いて再生した際の信号波形の一例を示すものである。なお、(a)、(b)は、図6から図8と同様に、いずれも磁気記録媒体のトラック長さ方向における断面の構成例として示してある。
【0072】垂直磁気記録媒体に記録を行う場合には(a)に示されるように、マスター情報坦体4の凸部を構成する強磁性材料には、磁気記録媒体5表面と直交する垂直方向に磁化6を与えることになる。従って、例えば凸部を構成する強磁性材料が強磁性薄膜である場合、垂直方向における反磁界を低減するために、強磁性薄膜の膜厚を十分に大きくすることが好ましい。
【0073】また直流励磁電流9を与える場合にも、面内磁気記録媒体に記録を行う場合とは異なり、磁気記録媒体5表面に対して垂直方向に印加する。さらに、磁気記録媒体5を予め直流飽和消去し、一方向への初期磁化10を与えておく場合にも、直流飽和消去は垂直方向に行われ、垂直方向の初期磁化10を残留させることになる。
【0074】本発明の構成は上記の他、様々な磁気記録媒体への応用が可能である。例えば上記の本発明の実施の形態例には、主に磁気ディスク媒体に主眼をおいて記述を行ったが、本発明はこれに限られるものではなく、磁気カードや磁気テープ等の磁気記録媒体においても応用可能であり、上記と同様に発明の効果を得ることができる。
【0075】また、磁気記録媒体に記録される情報信号に関しては、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等のプリフォーマット信号に主眼をおいて記述を行ったが、本発明の構成が応用可能な情報信号も、上記に限られたものではない。例えば、本発明の構成を用いて様々なデータ信号やオーディオ、ビデオ信号の記録を行うことも原理的に可能である。この場合には、本発明のマスター情報坦体とこれを用いた磁気記録媒体への記録方法によって、ソフトディスク媒体の大量複写生産を行うことができ、安価に提供することが可能である。
【0076】上記のような様々な本発明の応用の形態が、その特徴に応じて変更された様々な構成の形態とともに、本発明の範疇に属することは言うまでもない。
【0077】
【発明の効果】本発明によれば、磁気記録媒体、特に固定ハードディスク媒体、リムーバブルハードディスク媒体、大容量フレキシブル媒体等のディスク状媒体に、短時間に生産性良く、かつ安価に、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等のプリフォーマット記録を行うことが可能である。
【0078】また本発明の記録方法によれば、従来の方法に比べて、より高トラック密度領域において高精度のトラッキングが可能となる。
【0079】なお、本発明は上記の効果を実現するために、磁気記録媒体SNやヘッド・媒体インターフェース性能など、他の重要性能をいささかも犠牲にすることはなく、従来技術の課題に対して、真に有効な解決策を提供することができる。すなわち本発明は、磁気記録再生装置の分野において、将来のギガビットオーダー以上の面記録密度を担うために有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマスター情報坦体表面の構成例を示す図
【図2】本発明のマスター情報坦体のトラック長さ方向の断面図
【図3】本発明のマスター情報坦体のトラック長さ方向の断面図
【図4】本発明のマスター情報坦体のトラック長さ方向の断面図
【図5】本発明のマスター情報坦体のトラック長さ方向の断面図
【図6】(a)本発明のマスター情報坦体を用いた磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法の説明図
(b)磁気記録媒体に記録された記録磁化パターンの模式図
(c)磁気記録媒体に記録された記録磁化パターンからのヘッド再生波形図
【図7】本発明のマスター情報坦体を用いた磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法の説明図
【図8】本発明のマスター情報坦体を用いた磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法の説明図
【図9】(a)本発明のマスター情報坦体を用いた磁気記録媒体へのマスター情報信号の記録方法の説明図
(b)磁気記録媒体に記録された記録磁化パターンの模式図
(c)磁気記録媒体に記録された記録磁化パターンからのヘッド再生波形図
【符号の説明】
1 マスター情報坦体の基体
2 強磁性薄膜
3 マスター情報坦体の強磁性材料よりなる基体
4 マスター情報坦体
5 磁気記録媒体
6 マスター情報坦体の凸部を構成する強磁性材料の磁化
7 記録磁界
8 磁気記録媒体の記録磁化
9 直流励磁磁界
10 磁気記録媒体の初期磁化

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、前記凹凸形状の少なくとも凸部表面に強磁性薄膜が形成されたことを特徴とするマスター情報坦体。
【請求項2】 基体の凸部表面を構成する強磁性薄膜が、軟質磁性薄膜であることを特徴とする請求項1記載のマスター情報坦体。
【請求項3】 基体の凸部表面を構成する強磁性薄膜が、基体面内保磁力40kA/m以下の硬質もしくは半硬質磁性薄膜であることを特徴とする請求項1記載のマスター情報坦体。
【請求項4】 基体の凸部表面を構成する強磁性薄膜の飽和磁束密度が、0.8T以上であることを特徴とする請求項1記載のマスター情報坦体。
【請求項5】 基体が、可撓性を有するシート状もしくはディスク状の基板により構成されることを特徴とする請求項1記載のマスター情報坦体。
【請求項6】 強磁性材料よりなる基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成されたことを特徴とする請求項1記載のマスター情報坦体。
【請求項7】 基体を構成する強磁性材料が、軟質磁性を有することを特徴とする請求項6記載のマスター情報坦体。
【請求項8】 基体を構成する強磁性材料が、基体面内保磁力40kA/m以下の硬質もしくは半硬質磁性を有することを特徴とする請求項6記載のマスター情報坦体。
【請求項9】 基体を構成する強磁性材料の飽和磁束密度が0.8T以上であることを特徴とする請求項6記載のマスター情報坦体。
【請求項10】 基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、前記凹凸形状の少なくとも凸部表面が強磁性材料により構成されるマスター情報坦体の表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させることにより、前記凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録することを特徴とする磁気記録媒体への記録方法。
【請求項11】 マスター情報坦体表面を磁気記録媒体表面に接触させる際において、交流バイアス磁界を印加することを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項12】 マスター情報坦体表面を磁気記録媒体表面に接触させる際において、マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料を励磁するための直流磁界を印加することを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項13】 マスター情報坦体表面を磁気記録媒体表面に接触させる際において、交流バイアス磁界を印加し、かつマスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料を励磁するための直流磁界を印加することを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項14】 マスター情報坦体表面を磁気記録媒体表面に接触させるに先だって、前記磁気記録媒体を予め直流磁界消去しておくことを特徴とする請求項9記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項15】 マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料が軟質磁性を有することを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項16】 マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料が基体面内保磁力40kA/m以下の硬質もしくは半硬質磁性を有することを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。
【請求項17】 マスター情報坦体の凸部表面を構成する強磁性材料の飽和磁束密度が、0.8T以上であることを特徴とする請求項10記載の磁気記録媒体への記録方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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