マスタ操作入力装置及びマスタスレーブマニピュレータ
【課題】より直感的な操作を可能として操作性を向上したマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータを提供すること。
【解決手段】操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、位置及び姿勢の変化に応じて、スレーブマニピュレータの遠位端の関節の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部101に、スレーブマニピュレータの遠位端の関節と同一の構造を有し、手動操作を受けてスレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値を与えるように構成された第1ロール関節102を設ける。さらに、第1ロール関節102にスレーブマニピュレータの遠位端の関節に設けられた先端効果器を設けるための関節を設ける。
【解決手段】操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、位置及び姿勢の変化に応じて、スレーブマニピュレータの遠位端の関節の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部101に、スレーブマニピュレータの遠位端の関節と同一の構造を有し、手動操作を受けてスレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値を与えるように構成された第1ロール関節102を設ける。さらに、第1ロール関節102にスレーブマニピュレータの遠位端の関節に設けられた先端効果器を設けるための関節を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スレーブマニピュレータを遠隔操作するためのマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療施設の省人化を図るため、ロボットによる医療処置の研究が行われている。特に、外科分野では、多自由度(多関節)アームを有するマニピュレータによって患者の処置をするマニピュレータシステムについての各種の提案がなされている。このようなマニピュレータシステムにおいて、患者の体腔に直接接触するマニピュレータ(スレーブマニピュレータ)を、マスタ操作入力装置によって遠隔操作できるようにしたマニピュレータシステム(マスタスレーブマニピュレータ)が知られている。また、近年では、スレーブマニピュレータが有するスレーブアームの自由度を7自由度以上(位置の3自由度+姿勢の3自由度+冗長自由度)としたマスタスレーブマニピュレータも知られている。
【0003】
一般に、7自由度以上を有するスレーブアームの場合、マスタ操作入力装置から入力可能な指令値が6個以下であると、スレーブアームの各関節の駆動量を計算するための逆運動学計算が複雑化する。このような複雑な計算を避けるための提案の1つとして例えば特許文献1の提案がなされている。特許文献1では、ハンドルの操作によって6自由度の指令値を入力可能としたマスタアーム(マスタ操作入力装置)において、スイッチやダイヤル等の操作部をさらに設けることで、7自由度に対応した指令値を片手で入力可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−228854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を直接指令することも可能である。ここで、特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を指令するための操作部の構造が、スレーブアームの冗長自由度に対応した関節の構造と異なっている。したがって、特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を直接指令する場合において、操作者は、どの程度の量の操作を行えば良いのかが直感的には分からず、操作性が必ずしも良いとは言えない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、より直感的な操作を可能として操作性を向上したマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様のマスタ操作入力装置は、複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータを操作するためのマスタ操作入力装置であって、操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、該位置及び姿勢の変化に応じて、前記スレーブマニピュレータを固定端から見た場合の最も遠い端部である前記スレーブマニピュレータの遠位端の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部と、前記把持部が把持された状態で前記操作者の指先によって操作可能な位置に設けられ、前記把持部とは独立に操作可能な第1の操作部と、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、上記の目的を達成するために、本発明の第2の態様のマスタスレーブマニピュレータは、複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータと、第1の態様に記載のマスタ操作入力装置と、前記位置及び姿勢の指令値、並びに前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値から、前記スレーブマニピュレータの各関節の駆動量を算出し、該駆動量の算出結果に従って前記スレーブマニピュレータの各関節を駆動する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より直感的な操作を可能として操作性を向上したマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るマスタ操作入力装置の操作部の構成を示す図である。
【図3】図2で示した構成の操作部の模式図である。
【図4】マスタ操作入力装置の操作部が実際に操作される際の様子を示す図である。
【図5】スレーブアームの構造の一例を示す図である。
【図6】第1ロール関節を2重軸構造とした変形例の操作部の構成を示す図である。
【図7】図6で示した構成の操作部の模式図である。
【図8】把持部に設ける関節をヨー関節とする場合の変形例を示す図である。
【図9】把持部に設ける関節をピッチ関節とする場合の変形例を示す図である。
【図10】把持部に設ける関節を直動関節とする場合の変形例を示す図である。
【図11】把持部に設ける関節を複数とする場合の変形例を示す図である。
【図12】無線式の操作部の例を示す図である。
【図13】(a)から(c)は、操作部の移動について説明する図である。
【図14】本発明の実施例1におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図15】先端効果器操作部の開き角度を示す図である。
【図16】本発明の実施例2におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図17】先端効果器操作部に作用する力を示す図である。
【図18】本発明の実施例3におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図19】本発明の実施例4におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの一例の全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータは、マスタ操作入力装置10と、制御装置20と、スレーブマニピュレータ30と、を有している。
【0012】
マスタ操作入力装置10は、本マスタスレーブマニピュレータにおけるマスタとして機能するものであって、操作部11と、表示部12と、を有している。
操作部11は、例えばマスタ操作入力装置10の表示部12に固定されており、操作者1の操作を受けてスレーブマニピュレータ30を操作するための操作信号を出力する。
図2は、本実施形態に係るマスタ操作入力装置10の操作部11の構成を示す図である。また、図3は、図2で示した構成の操作部11の模式図である。ここで、図2は、右手用の操作部の構成を例示している。左手用の操作部の構成は、右手用の操作部に対して左右の関係が逆転するだけで実質的な構成は図2に示すものと同様である。
【0013】
図2に示すように、操作部11は、把持部101を有している。把持部101は、操作者1が手で把持する部分である。把持部101は、直交3軸(図2に示すX軸、Y軸、Z軸)方向及び各軸周りの回転方向に移動可能に支持されている。ここで、図2では、図1に示すようにして操作者1がマスタ操作入力装置10を操作する場合において、地面と平行で、操作者1の顔から表示部12に向かう方向を正方向としてX軸を設定している。また、地面と平行でX軸に対して垂直な方向に沿ってY軸を設定している。さらに、地面と垂直な方向に沿ってZ軸を設定している。
【0014】
把持部101には、第1の操作部の一例としての第1ロール関節102が軸止されている。このような構成において、第1ロール関節102は、その回転軸が図2に示すX軸と平行であり、操作者1が把持部101を手で持った際に指先で回転可能なように構成されている。第1ロール関節102の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1によって第1ロール関節102が回転操作された場合には、その駆動量(回転量)θ5が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第1ロール関節102の駆動量(回転量)θ5に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。後述するが、第1ロール関節102の操作信号は、スレーブマニピュレータ30が有するスレーブアーム31の遠位端の関節の駆動量を直接的に指令するための指令値を与える信号である。
【0015】
また、第1ロール関節102と同一直線上には、第2の操作部の一例としての先端効果器(end effector)操作部103が取り付けられている。つまり、把持部101の位置・姿勢とは独立して、第1ロール関節102と先端効果器操作部103が操作可能に取り付けられている。先端効果器操作部103は、操作者1が把持部101を手で持った際に指先で開閉操作可能なように構成されている。先端効果器操作部103の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1によって先端効果器操作部103が開閉操作された場合には、その開閉量(例えば開閉角θ6)が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、先端効果器操作部103の開閉量θ6に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。後述するが、先端効果器操作部103の操作信号は、スレーブマニピュレータ30が有するスレーブアーム31の遠位端の関節に取り付けられた先端効果器の開閉量を直接的に指令するための指令値を与える信号である。
【0016】
また、把持部101は、第1ロール関節102のX軸方向長さと先端効果器操作部103のX軸方向長さの分だけX軸の正方向(図1において操作者1から離れる方向)に向かって延在されて第1リンクを構成している。この第1リンクは、さらに、Z軸の正方向(図1における地面方向)に向かって延在されている。Z軸の正方向に向かう第1リンクの延在部101aは、第1ロール関節102の回転軸と同一直線上の位置で第2リンク104に回転自在に軸止されている。延在部101aと第2リンク104とによって構成される第2ロール関節(図3では第2リンクと同じ符号を付している)の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第2ロール関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ4が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第2ロール関節の駆動量θ4に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0017】
また、第2リンク104は、第1リンクの延在部101aと平行となるようにZ軸の負方向及びX軸の負方向に向かって延在されて第3リンク105に回転自在に軸止されている。第3リンク105にはカバー105aが取り付けられている。カバー105aにより、第2リンク104と第3リンク105とによって構成されるヨー関節(図3では第3リンクと同じ符号を付している)における回転軸の抜け落ちが防止される。また、第2リンク104と第3リンク105とによって構成されるヨー関節の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴ってヨー関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ3が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、ヨー関節の駆動量θ3に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0018】
また、第3リンク105は、Y軸の負方向(図1における右手方向)に向かって延在され、さらに、Z軸の正方向に向かって延在されて第4リンク106に回転自在に軸止されている。第3リンク105と第4リンク106とによって構成されるピッチ関節(図3では第4リンクと同じ符号を付している)の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴ってピッチ関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ2が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、ピッチ関節の駆動量θ2に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0019】
また、第4リンク106は、第1直動関節107に取り付けられている。第1直動関節107の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第1直動関節107が駆動された場合には、その駆動量(直動量)d2が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第1直動関節107の駆動量d2に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0020】
第1直動関節107からは第4リンク106と直交する方向に第5リンクが延在されている。この第5リンクは、第2直動関節108に取り付けられている。第2直動関節108の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第2直動関節108が駆動された場合には、その駆動量(直動量)d1が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第2直動関節108の駆動量d1に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0021】
第2直動関節108には、ヨー方向に回転自在に構成された回転部材109が取り付けられている。回転部材109の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って回転部材109が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ1が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、回転部材109の駆動量θ1に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0022】
図4は、マスタ操作入力装置10の操作部11が実際に操作される際の様子を示している。図4に示すように、操作者1は、把持部101を手200に把持した状態で、手首や肘、肩の動きにより把持部101の位置・姿勢を変化させる。把持部101の位置・姿勢の変化に伴って操作部11の各関節が駆動される。各関節の駆動量は、各関節の近傍に配置された位置検出器によって検出され、各駆動量に応じた操作信号がマスタ制御部21に入力される。
【0023】
また、図4に示すように、本実施形態では、操作者1は、把持部101を把持しつつ指先で第1ロール関節102及び先端効果器操作部103を操作可能である。第1ロール関節102及び先端効果器操作部103の操作量は、各々の近傍に配置された位置検出器によって検出され、各操作量に応じた操作信号がマスタ制御部21に入力される。
【0024】
以上のような構成により、操作部11は、把持部101の位置・姿勢の変化に対応した6個の操作信号と第1ロール関節102の操作量を示す操作信号との、7自由度に対応した操作信号(+先端効果器の操作信号)を制御装置20のマスタ制御部21に入力する。
【0025】
ここで、図1に戻って説明を続ける。図1に示す表示部12は、例えば液晶ディスプレイから構成され、制御装置20から入力された画像信号に基づいて画像を表示する。後述するが、制御装置20から入力される画像信号は、スレーブアーム31に取り付けられた電子カメラ(電子内視鏡)を介して得られた画像信号を、制御装置20において処理したものである。このような画像信号に基づく画像を、表示部12に表示させることにより、マスタ操作入力装置10の操作者1は、マスタ操作入力装置10から離れた場所に配置されたスレーブマニピュレータ30の手先の画像を確認することが可能である。
【0026】
制御装置20は、マスタ制御部21と、マニピュレータ制御部22と、画像処理部23と、を有している。
マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢の指令値を例えば運動学計算に従って算出し、この位置・姿勢の指令値をマニピュレータ制御部22に出力する。また、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの遠位端の関節の駆動量を指令するための操作信号及び先端効果器の駆動量を指令するための操作信号をマニピュレータ制御部22に出力する。
【0027】
マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21からの位置・姿勢の指令値を受けて、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令値に一致させるために必要なスレーブアーム31の各関節の駆動量を、例えば逆運動学計算によって算出する。そして、マニピュレータ制御部22は、算出した駆動量に従ってスレーブアーム31の各関節を駆動させる。また、マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21からの遠位端の関節の駆動量を指令するための操作信号及び先端効果器の駆動量を指令するための操作信号を受けてスレーブアーム31の遠位端の関節を駆動させたり、先端効果器を駆動させたりする。
【0028】
画像処理部23は、スレーブアーム31の先端に設けられた電子カメラ(電子内視鏡等)から得られた画像信号を処理し、表示部12の表示用の画像信号を生成して表示部12に出力する。
スレーブマニピュレータ30は、スレーブアーム31を有している。スレーブアーム31は、マニピュレータ制御部22からの制御信号に従って各関節が駆動される。図5にスレーブアーム31の構造の一例を示す。図5に示すスレーブアーム31は、7個の関節202〜208が連設して配置され、さらに遠位端の関節202に先端効果器201が取り付けられている。ここで、遠位端の関節とは、スレーブアーム31が固定されている側から見て最も遠い位置に配置された関節のことを言う。また、図5で示した先端効果器201は、把持器(グリッパー)の例を示している。この他、先端部にカメラ(電子内視鏡)等を取り付けても良い。
【0029】
図5に示す関節のうち、関節202、205はロール軸(図2に示すX軸に対応)周りに回転するロール関節であり、関節203、208はヨー軸(図2に示すZ軸に対応)周りに回転するヨー関節であり、関節204、207はピッチ軸(図2に示すY軸に対応)周りに回転するピッチ関節である。また、関節206はロール軸に沿って直動する直動関節である。図5の例においては、7個の関節は全てが独立している。
【0030】
図5に示した関節203〜208を協調させながら駆動させることによって、スレーブアーム31における手先の位置の3自由度と姿勢の3自由度とが実現される。また、これらの関節に加えて図5では、先端効果器201をローリングさせるための関節202を冗長関節として設けている。このような構成により、例えば、スレーブアーム31をローリングさせる場合において、先端効果器201の付近のみをローリングさせるような動作も可能である。上述したように、遠位端の関節202と先端効果器201は、マスタ操作入力装置10によって駆動量を直接指令することが可能である。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、マスタ操作入力装置10の操作部11における、操作者1が把持部101を把持した状態で指先によって操作可能な位置に、スレーブアーム31の遠位端の関節202と同一の構造を有する操作部である第1ロール関節102を設けるようにしている。これにより、操作者1は、7自由度のスレーブアーム31の操作を片手でかつ安定して行うことが可能である。
【0032】
ここで、例えば、内視鏡下手術においては、術後の縫合の際に針かけ動作が必要となる。このような針かけ動作においては、スレーブアーム31の手先に取り付けられた先端効果器201としてのグリッパーをローリングさせながら患者の必要な部位に針をかけることになる。このとき、先端効果器201から遠い関節であるロール関節205をローリングさせると、先端効果器201のローリングも行われる反面、その他の関節も大きく動作してしまってスレーブアーム31の関節が周囲の臓器等に衝突してしまう場合があり得る。このため、針かけ動作のような、主にローリング動作が必要な場合には、他の関節が不必要に動作しないよう、スレーブアーム31の遠位端の関節であるロール関節202をローリングさせることが望ましい。本実施形態では、第1ロール関節102の構造をスレーブアーム31の遠位端の関節202と同一の構造としているので、操作者1は、第1ロール関節102の操作量とロール関節202の駆動量との関係を直感的に認識することが可能である。このため、操作者1は、スレーブアーム31の遠位端の関節202の駆動量を細かく制御することが可能となる。つまり、手の平で握っている把持部101で先端効果器201の位置・姿勢を指示しながら、先端遠位端の関節202を、第1ロール関節102を動かすことにより操作でき、指の姿勢が先端効果器201の姿勢と対応し、直感的な操作が可能となる。当然、把持部101に対して相対的に第1ロール関節102が回転しなくても、指の姿勢が先端効果器201の位置・姿勢と対応する。
【0033】
また、本実施形態では、第1ロール関節102と把持部101とを結ぶ同一直線上に先端効果器操作部103を取り付けるようにしているので、操作者1は、把持部101を把持したままで先端効果器操作部103を操作することが可能である。なお、第1ロール関節102と先端効果器操作部103は独立して駆動可能であり、先端効果器操作部103に指をかけて、先端効果器操作部103を開閉することによりθ6が取得でき、先端効果器操作部103をねじることにより、そのベースである第1ロール関節102が回転してθ5を取得することができる。
なお、本実施形態における第1ロール関節102は、他の関節とは独立して駆動される。したがって、本実施形態におけるマスタ操作入力装置10は、6自由度以下の冗長な自由度を有しないスレーブマニピュレータ30に対しても適用可能である。
【0034】
[変形例]
以下、本実施形態の変形例について説明する。まず、図2に示した例では、第1ロール関節102は、把持部101のみで支持されているが、第1ロール関節102は、他の関節と独立してローリング可能に構成されていれば良く、例えば図6で示したように把持部101と第1リンクの延在部101aの2点で第1ロール関節102(図6では先端効果器操作部103)を支持するようにしても良い。図6の構成の模式図を図7に示す。図7に示すように、図6に示した構成の場合には第1ロール関節102と第2ロール関節104とが実質的に隣接して配置されることになる。しかしながら、第1ロール関節102と第2ロール関節104とは回転軸が異なる2重軸構造とすることで、第1ロール関節102のローリングに伴って第2ロール関節104がローリングしないようにする。
【0035】
また、図2に示した例では、把持部101にロール関節を設けた例を示している。これは、スレーブアーム31の遠位端の関節がロール関節であるためである。スレーブアーム31の遠位端の関節がロール関節でない場合には、把持部101に設ける関節も変更する。例えば、図8(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節がヨー関節である場合には、図8(b)に示すように把持部101に設ける関節1021もヨー関節とする。同様に、図9(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節がピッチ関節である場合には、図9(b)に示すように把持部101に設ける関節1022もピッチ関節とする。また、図10(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節が直動関節である場合には、図10(b)に示すように把持部101に設ける関節1023も直動関節とする。
【0036】
さらに、図11(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端に2種以上の独立な関節202a、202bが設けられている場合には、把持部101に設ける関節も複数とする。例えば、図11(a)は、6自由度に対応した関節203〜208に加えて、ロール関節202bと、直動関節202aとを加えた8自由度のスレーブアーム31を例示している。この場合には、把持部101においても、ロール関節102bと直動関節102aとを有する独立して操作可能な2つの関節を設ける。このように構成することで、スレーブアーム31の遠位端の関節と把持部101に設けた関節とを同一の構造とすることができる。これにより、操作者1は、スレーブアーム31のロール関節202bと、直動関節202aとを直感的に操作することが可能である。なお、図11(b)の例は、2つの関節を設けた例であるが、スレーブアーム31の関節数が増加した場合にはそれに応じてマスタ操作入力装置10の把持部101に設ける関節数も増加させる。
【0037】
また、スレーブアーム31の先端効果器201の構造が図5で示したものと異なるものとなる場合には、それに合わせて先端効果器操作部103の構造も変化させることが望ましい。
さらに、図2に示した操作部11に設けた関節104〜109は、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令するためのものであって、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令できるのであれば、関節104〜109はなくとも良い。例えば、操作部11に3軸の並進移動を検出するためのセンサ(例えば加速度センサ)を設けるようにすれば、図12に示すようにして、操作部11を構成することもできる。図12の例において、操作者1が操作部11の把持部101を把持し、当該操作部11を3次元空間内で移動させたり、回転させたりすることで、位置の3自由度に対応した操作信号を与えることが可能である。姿勢の3自由度に対応した操作信号については、例えばカメラ13によって得られた画像を解析することによって得る。なお、図12は、操作部11で得られた操作信号を、無線通信部14を経由して無線通信可能とした例を示している。勿論、図12の例において、操作部11で得られた操作信号を有線通信するようにしても良い。また、操作部11の姿勢を、角速度センサを用いて検出するようにしても良い。
【0038】
以下では、第一実施形態のマスタスレーブマニピュレータを所定の制御態様と組み合わせた実施例のいくつかについて説明する。これらの実施例では、スレーブアーム31において冗長関係にある2つの関節のうち1つを駆動関節として選択し、残りを固定関節とすることにより、各関節の駆動量を求めるための逆運動学計算を簡素にしてマニピュレータ制御部22の負荷を軽減する。なお、本発明において「冗長関係にある」とは、関節の回転軸、直動軸等の動作軸が互いに平行である関係を指す。
【0039】
[実施例1]
実施例1では、等価回転ベクトル(等価回転軸ベクトル等とも呼ばれる)を用いて、いずれの関節を駆動関節とするかの判定を行うため、まず、等価回転ベクトルについて説明する。
まず、操作部11の把持部101の姿勢変化について次のように定義する。例えば、ある時刻tにおいて、図13(c)に示す把持部101の位置が、図13(a)に示す位置Om(t)であるとする。また、時刻tにおける把持部101の姿勢が、マスタロール軸Xm、マスタピッチ軸Ym、マスタヨー軸Zmがそれぞれ、図13(a)および図13(c)に示すXm(t)、Ym(t)、Zm(t)の方向を向くような姿勢であるとする。この状態から、所定時間Δt経過後の時刻t+1において、把持部101の位置が、図13(a)に示す位置Om(t+1)に変化したとする。また、時刻t+1における把持部101の姿勢が、マスタロール軸Xm、マスタピッチ軸Ym、マスタヨー軸Zmがそれぞれ、図13(a)に示すXm(t+1)、Ym(t+1)、Zm(t+1)の方向を向くような姿勢に変化したとする。このときの把持部101の姿勢変化は、マスタロール軸Xm(t)周りの回転と、マスタピッチ軸Ym(t)周りの回転と、マスタヨー軸Zm(t)周りの回転とを合成したものである。さらに、数学的には、このような3つの軸周りの回転を、1つの軸周りの回転に置き換えることが可能である。即ち、図13(b)に示すように、ある回転軸Vr(t)を設定すると、時刻tから時刻t+1の間の把持部101の姿勢変化は、把持部101を回転軸Vr(t)周りにθ(t)だけ回転させたものと等価となる。一般に、このような回転軸Vr(t)を表わすベクトルを、等価回転ベクトルと言う。
【0040】
スレーブアーム31においては、図5に示すように、関節202と関節205との2つのロール関節が冗長関係にある。実施例1では、マスタ制御部21が上述の回転軸Vrを用いた判定により、関節202および関節205の一方を駆動関節として選択し、他方を固定関節に設定する。すなわち、この時点では、スレーブアーム31を、一時的に冗長自由度を有さないものとして取り扱えるため、各関節の駆動量を求めるための演算を容易にすることができるのである。
【0041】
図14は、実施例1におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10において、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、把持部の現時点における位置および姿勢と、直前の位置および姿勢とを求める。そしてこれらの値に基づいて、直前の把持部のマスタロール軸Xmと、姿勢変化に伴う回転軸Vrを示す等価回転ベクトルとをさらに算出する。
【0042】
続くステップS20において、マスタ制御部21は、マスタロール軸Xmと回転軸Vrとがなす角度φが予め設定した規定値以下であるか否かを判定する。
当該判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
【0043】
ステップS20における判定は、以下のような考え方に基づいている。
即ち、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とが一致(φ(t)=0)していれば、時刻tから時刻t+1の間の把持部101の姿勢変化は、ローリングによる姿勢変化のみであると考えることができる。この場合には、操作部11により、スレーブアーム31の手先のローリングのみが必要な動作が指令されたと考えることができる。実際には、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とが完全に一致する場合だけでなく、他の動作も入るが主に手先のローリング操作である場合も含まれるように、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とのなす角φ(t)にある規定値を設定し、φ(t)がこの規定値以下の場合には、先端のロール軸関節がもっぱら動作する、針かけ操作等のような「細かい動き」であるとみなすのである。したがって、判定の基準となる規定値は、どの程度の操作を「細かい動き」であると判定するかによって適宜設定することができ、例えば15度とすることができる。
ステップS21またはステップS22において、駆動関節および固定関節が決定されたら、マスタ制御部21は、選択結果を示す関節選択信号を、位置・姿勢の指令値とともにマニピュレータ制御部22に出力する。ステップS21またはステップS22の終了後、処理はステップS30に進む。
【0044】
ステップS30において、マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21から受け取った位置・姿勢の指令値と関節選択信号とにもとづいて、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令値に一致させるために必要なスレーブアーム31の各関節の駆動量を、逆運動学計算によって算出し、各関節に対する指令値を決定する。
ここで、スレーブアーム31は、本来7自由度に対応した関節であるが、冗長関係にある関節202および205の一方が固定関節とされる(すなわち、駆動量がゼロとなる。)ため、7自由度の全ての駆動量が未知の場合よりも逆運動学計算で算出する関節数を低減でき,逆運動学計算が簡略化されてマニピュレータ制御部22に対する演算による負荷が軽減される。
なお、逆運動学計算については、例えば解析的な手法等の従来周知の各種の手法を用いることができる。ここでは、その詳細についての説明は省略する。
【0045】
続くステップS40において、マニピュレータ制御部22は、マスタ側冗長関節である第1ロール関節102の駆動量Mrをマスタ制御部21から受け取った情報に基づき算出する。
さらに、ステップS50において、マニピュレータ制御部22は、ステップS30で算出された関節202の駆動量に、ステップS40で算出された駆動量Mrを加え、関節202の指令値を確定する。これによりスレーブアーム31のすべての関節の指令値が定まる。
【0046】
ステップS60において、マニピュレータ制御部は、ステップS50で求められた各関節の指令値に従ってスレーブアーム31の各関節を駆動し、一連の処理が終了する。このフローは、所定間隔、例えば10〜数十ミリ秒ごとに繰り返し行われ、駆動関節の選択が繰り返し行われる。
【0047】
例えば、内視鏡下手術においては、術後の縫合の際に針かけ動作が必要となる。このような針かけ動作においては、スレーブアームの手先に取り付けられたグリッパー等の先端効果器をローリングさせながら患者の必要な部位に針をかける動作が行われ、対象部位で先端効果器が細かく動かされる。上述したように、スレーブアーム31は、7つの関節を協調動作させながら、先端効果器の位置・姿勢を制御するものであるが、針かけ動作等において先端効果器から遠い関節(例えば、関節205)をローリングさせると、先端効果器のローリングも行われる反面、その他の関節も大きく動作してしまってスレーブアーム31の関節が周囲の臓器等に衝突してしまう場合があり得る。
【0048】
実施例1においては、ステップS20の判定により、角度φが規定値以下の場合、先端効果器201に近い関節202が駆動関節として選択され、先端効果器201から遠い方の関節205は、固定される。したがって、針かけ動作等のように、もっぱら先端効果器のみがローリング動作されるような「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0049】
また、冗長関係にある関節202および205の一方を固定関節に設定するため、ステップS30における逆運動学計算を簡略化することが可能となる。その結果、演算によるマニピュレータ制御部の負荷を軽減するとともに、演算に要する時間も短縮され、スレーブアームの各関節をスムーズに駆動させることができる。
【0050】
[実施例2]
実施例2は、駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例2においては、先端効果器操作部103が閉じられているときは、先端効果器201で何かが把持されている、すなわち前述の「細かい動き」が行われるときであるとの考えに基づき、図15に示す先端効果器操作部103の開き角度θgの値に基づいて、駆動関節を選択する判定を行う。
【0051】
図16は、実施例2におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Aにおいて、先端効果器操作部103の開き角度θgが計測され、マスタ操作入力装置10からマスタ制御部21に送られる。そして、ステップS20Aにおいて、マスタ制御部21は、開き角度θgが規定値、例えば1度以下であるか否かを判定する。
【0052】
ステップS20Aにおける判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0053】
実施例2においては、例えば先端効果器201で針等が把持されている際には、開き角度θgの値が規定値以下となり、関節202が駆動関節として選択される。したがって、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0054】
本実施例においては、開き角度θgの値をマスタ操作入力装置10から取得する例を説明したが、これに代えて、先端効果器201に角度センサ等を設け、先端効果器201の開き角度を取得してステップS20Aの判定に用いてもよい。さらに、先端効果器201の開き角度を判定に用いる場合は、表示部に表示された先端効果器の画像を処理することにより先端効果器201の開き角度を取得してもよい。
【0055】
[実施例3]
実施例3も、実施例1に対して駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例3においては、先端効果器操作部103に規定値以上の力が作用しているときは、先端効果器で何かが把持されている、すなわち前述の「細かい動き」が行われるときであるとの考えに基づき、図17に示す先端効果器操作部103に作用する力Fgの値に基づいて、駆動関節を選択する判定を行う。なお、実施例3においては、力Fgを検出できるよう、先端効果器操作部103に公知の力センサ等を取り付け、その検出値がマスタ制御部21に送られるようにしておく。
【0056】
図18は、実施例3におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Bにおいて、先端効果器操作部103に作用する力Fgが計測され、マスタ操作入力装置10からマスタ制御部21に送られる。そして、ステップS20Bにおいて、マスタ制御部21は、力Fgが規定値、例えば1N以上であるか否かを判定する。
【0057】
ステップS20Bにおける判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0058】
実施例3においては、例えば先端効果器201で針等が把持されている際には、力Fgの値が規定値以上となり、関節202が駆動関節として選択される。したがって、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0059】
本実施例においては、力Fgの値をマスタ操作入力装置10から取得する例を説明したが、これに代えて、先端効果器201に力センサ等を設け、針等の把持により先端効果器201が受ける反力の値を取得してステップS20Bの判定に用いてもよい。
【0060】
[実施例4]
実施例4も、実施例1に対して駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例4においては、マスタ操作入力装置10の把持部101が比較的高速で移動しているときは、先端効果器201を処置対象部位に向かって移動させている、すなわち前述の「細かい動き」が行われていないときであるとの考えに基づき、把持部101の移動量に基づいて駆動関節を選択する判定を行う。
【0061】
図19は、実施例4におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Cにおいて、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、把持部101の現時点における位置と、直前の位置とを求める。そしてこれらの値に基づいて、把持部101の位置変化の絶対値em((ΔXm2+ΔYm2+ΔZm2)の平方根)を取得する。
【0062】
続くステップS20Cにおいて、マスタ制御部21は、上述の絶対値emが規定値以下であるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、所定間隔における把持部101の移動量が小さい、すなわち把持部101が比較的低速で移動していることになり、処理はステップS21に進んで先端効果器201に近い関節202が駆動関節として選択され、もう一方の関節205が固定関節に設定される。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0063】
実施例4においても、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0064】
本実施例においては、把持部の移動量をマスタ操作入力装置から取得する例を説明したが、これに代えて、スレーブアーム先端に設けられた先端効果器の移動量が取得されてステップS20Cの判定に用いられてもよい。
【0065】
以上、実施形態および実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【0066】
例えば、上述の各実施例においては、スレーブアームにおいて、ロール関節202および205が冗長関係にある例について説明したが、上述の各制御態様は、冗長関係にある関節がロール関節でない場合も適用可能である。したがって、冗長関係にある関節は、図8(a)に示すようなヨー関節202および208であってもよいし、図9(a)に示すようなピッチ関節202および204であってもよい。さらには、図10(a)に示すような直動関節202および206であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…マスタ操作入力装置、11…操作部、12…表示部、13…カメラ、14…無線通信部、20…制御装置、21…マスタ制御部、22…マニピュレータ制御部、23…画像処理部、30…スレーブマニピュレータ、31…スレーブアーム、101…把持部、102…第1ロール関節、103…先端効果器操作部、104…第2リンク、105…第3リンク、106…第4リンク、107…第1直動関節、108…第2直動関節、109…回転部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、スレーブマニピュレータを遠隔操作するためのマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療施設の省人化を図るため、ロボットによる医療処置の研究が行われている。特に、外科分野では、多自由度(多関節)アームを有するマニピュレータによって患者の処置をするマニピュレータシステムについての各種の提案がなされている。このようなマニピュレータシステムにおいて、患者の体腔に直接接触するマニピュレータ(スレーブマニピュレータ)を、マスタ操作入力装置によって遠隔操作できるようにしたマニピュレータシステム(マスタスレーブマニピュレータ)が知られている。また、近年では、スレーブマニピュレータが有するスレーブアームの自由度を7自由度以上(位置の3自由度+姿勢の3自由度+冗長自由度)としたマスタスレーブマニピュレータも知られている。
【0003】
一般に、7自由度以上を有するスレーブアームの場合、マスタ操作入力装置から入力可能な指令値が6個以下であると、スレーブアームの各関節の駆動量を計算するための逆運動学計算が複雑化する。このような複雑な計算を避けるための提案の1つとして例えば特許文献1の提案がなされている。特許文献1では、ハンドルの操作によって6自由度の指令値を入力可能としたマスタアーム(マスタ操作入力装置)において、スイッチやダイヤル等の操作部をさらに設けることで、7自由度に対応した指令値を片手で入力可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−228854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を直接指令することも可能である。ここで、特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を指令するための操作部の構造が、スレーブアームの冗長自由度に対応した関節の構造と異なっている。したがって、特許文献1では、冗長自由度に対応した関節の駆動量を直接指令する場合において、操作者は、どの程度の量の操作を行えば良いのかが直感的には分からず、操作性が必ずしも良いとは言えない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、より直感的な操作を可能として操作性を向上したマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様のマスタ操作入力装置は、複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータを操作するためのマスタ操作入力装置であって、操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、該位置及び姿勢の変化に応じて、前記スレーブマニピュレータを固定端から見た場合の最も遠い端部である前記スレーブマニピュレータの遠位端の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部と、前記把持部が把持された状態で前記操作者の指先によって操作可能な位置に設けられ、前記把持部とは独立に操作可能な第1の操作部と、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、上記の目的を達成するために、本発明の第2の態様のマスタスレーブマニピュレータは、複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータと、第1の態様に記載のマスタ操作入力装置と、前記位置及び姿勢の指令値、並びに前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値から、前記スレーブマニピュレータの各関節の駆動量を算出し、該駆動量の算出結果に従って前記スレーブマニピュレータの各関節を駆動する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より直感的な操作を可能として操作性を向上したマスタ操作入力装置及びそのようなマスタ操作入力装置を有するマスタスレーブマニピュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るマスタ操作入力装置の操作部の構成を示す図である。
【図3】図2で示した構成の操作部の模式図である。
【図4】マスタ操作入力装置の操作部が実際に操作される際の様子を示す図である。
【図5】スレーブアームの構造の一例を示す図である。
【図6】第1ロール関節を2重軸構造とした変形例の操作部の構成を示す図である。
【図7】図6で示した構成の操作部の模式図である。
【図8】把持部に設ける関節をヨー関節とする場合の変形例を示す図である。
【図9】把持部に設ける関節をピッチ関節とする場合の変形例を示す図である。
【図10】把持部に設ける関節を直動関節とする場合の変形例を示す図である。
【図11】把持部に設ける関節を複数とする場合の変形例を示す図である。
【図12】無線式の操作部の例を示す図である。
【図13】(a)から(c)は、操作部の移動について説明する図である。
【図14】本発明の実施例1におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図15】先端効果器操作部の開き角度を示す図である。
【図16】本発明の実施例2におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図17】先端効果器操作部に作用する力を示す図である。
【図18】本発明の実施例3におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【図19】本発明の実施例4におけるスレーブアームの関節駆動の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの一例の全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータは、マスタ操作入力装置10と、制御装置20と、スレーブマニピュレータ30と、を有している。
【0012】
マスタ操作入力装置10は、本マスタスレーブマニピュレータにおけるマスタとして機能するものであって、操作部11と、表示部12と、を有している。
操作部11は、例えばマスタ操作入力装置10の表示部12に固定されており、操作者1の操作を受けてスレーブマニピュレータ30を操作するための操作信号を出力する。
図2は、本実施形態に係るマスタ操作入力装置10の操作部11の構成を示す図である。また、図3は、図2で示した構成の操作部11の模式図である。ここで、図2は、右手用の操作部の構成を例示している。左手用の操作部の構成は、右手用の操作部に対して左右の関係が逆転するだけで実質的な構成は図2に示すものと同様である。
【0013】
図2に示すように、操作部11は、把持部101を有している。把持部101は、操作者1が手で把持する部分である。把持部101は、直交3軸(図2に示すX軸、Y軸、Z軸)方向及び各軸周りの回転方向に移動可能に支持されている。ここで、図2では、図1に示すようにして操作者1がマスタ操作入力装置10を操作する場合において、地面と平行で、操作者1の顔から表示部12に向かう方向を正方向としてX軸を設定している。また、地面と平行でX軸に対して垂直な方向に沿ってY軸を設定している。さらに、地面と垂直な方向に沿ってZ軸を設定している。
【0014】
把持部101には、第1の操作部の一例としての第1ロール関節102が軸止されている。このような構成において、第1ロール関節102は、その回転軸が図2に示すX軸と平行であり、操作者1が把持部101を手で持った際に指先で回転可能なように構成されている。第1ロール関節102の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1によって第1ロール関節102が回転操作された場合には、その駆動量(回転量)θ5が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第1ロール関節102の駆動量(回転量)θ5に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。後述するが、第1ロール関節102の操作信号は、スレーブマニピュレータ30が有するスレーブアーム31の遠位端の関節の駆動量を直接的に指令するための指令値を与える信号である。
【0015】
また、第1ロール関節102と同一直線上には、第2の操作部の一例としての先端効果器(end effector)操作部103が取り付けられている。つまり、把持部101の位置・姿勢とは独立して、第1ロール関節102と先端効果器操作部103が操作可能に取り付けられている。先端効果器操作部103は、操作者1が把持部101を手で持った際に指先で開閉操作可能なように構成されている。先端効果器操作部103の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1によって先端効果器操作部103が開閉操作された場合には、その開閉量(例えば開閉角θ6)が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、先端効果器操作部103の開閉量θ6に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。後述するが、先端効果器操作部103の操作信号は、スレーブマニピュレータ30が有するスレーブアーム31の遠位端の関節に取り付けられた先端効果器の開閉量を直接的に指令するための指令値を与える信号である。
【0016】
また、把持部101は、第1ロール関節102のX軸方向長さと先端効果器操作部103のX軸方向長さの分だけX軸の正方向(図1において操作者1から離れる方向)に向かって延在されて第1リンクを構成している。この第1リンクは、さらに、Z軸の正方向(図1における地面方向)に向かって延在されている。Z軸の正方向に向かう第1リンクの延在部101aは、第1ロール関節102の回転軸と同一直線上の位置で第2リンク104に回転自在に軸止されている。延在部101aと第2リンク104とによって構成される第2ロール関節(図3では第2リンクと同じ符号を付している)の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第2ロール関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ4が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第2ロール関節の駆動量θ4に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0017】
また、第2リンク104は、第1リンクの延在部101aと平行となるようにZ軸の負方向及びX軸の負方向に向かって延在されて第3リンク105に回転自在に軸止されている。第3リンク105にはカバー105aが取り付けられている。カバー105aにより、第2リンク104と第3リンク105とによって構成されるヨー関節(図3では第3リンクと同じ符号を付している)における回転軸の抜け落ちが防止される。また、第2リンク104と第3リンク105とによって構成されるヨー関節の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴ってヨー関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ3が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、ヨー関節の駆動量θ3に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0018】
また、第3リンク105は、Y軸の負方向(図1における右手方向)に向かって延在され、さらに、Z軸の正方向に向かって延在されて第4リンク106に回転自在に軸止されている。第3リンク105と第4リンク106とによって構成されるピッチ関節(図3では第4リンクと同じ符号を付している)の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴ってピッチ関節が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ2が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、ピッチ関節の駆動量θ2に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0019】
また、第4リンク106は、第1直動関節107に取り付けられている。第1直動関節107の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第1直動関節107が駆動された場合には、その駆動量(直動量)d2が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第1直動関節107の駆動量d2に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0020】
第1直動関節107からは第4リンク106と直交する方向に第5リンクが延在されている。この第5リンクは、第2直動関節108に取り付けられている。第2直動関節108の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って第2直動関節108が駆動された場合には、その駆動量(直動量)d1が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、第2直動関節108の駆動量d1に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0021】
第2直動関節108には、ヨー方向に回転自在に構成された回転部材109が取り付けられている。回転部材109の近傍には、図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)が設けられている。操作者1の把持部101の操作に伴って回転部材109が駆動された場合には、その駆動量(回転量)θ1が位置検出器によって検出される。この位置検出器からは、回転部材109の駆動量θ1に応じた操作信号が制御装置20のマスタ制御部21に入力される。
【0022】
図4は、マスタ操作入力装置10の操作部11が実際に操作される際の様子を示している。図4に示すように、操作者1は、把持部101を手200に把持した状態で、手首や肘、肩の動きにより把持部101の位置・姿勢を変化させる。把持部101の位置・姿勢の変化に伴って操作部11の各関節が駆動される。各関節の駆動量は、各関節の近傍に配置された位置検出器によって検出され、各駆動量に応じた操作信号がマスタ制御部21に入力される。
【0023】
また、図4に示すように、本実施形態では、操作者1は、把持部101を把持しつつ指先で第1ロール関節102及び先端効果器操作部103を操作可能である。第1ロール関節102及び先端効果器操作部103の操作量は、各々の近傍に配置された位置検出器によって検出され、各操作量に応じた操作信号がマスタ制御部21に入力される。
【0024】
以上のような構成により、操作部11は、把持部101の位置・姿勢の変化に対応した6個の操作信号と第1ロール関節102の操作量を示す操作信号との、7自由度に対応した操作信号(+先端効果器の操作信号)を制御装置20のマスタ制御部21に入力する。
【0025】
ここで、図1に戻って説明を続ける。図1に示す表示部12は、例えば液晶ディスプレイから構成され、制御装置20から入力された画像信号に基づいて画像を表示する。後述するが、制御装置20から入力される画像信号は、スレーブアーム31に取り付けられた電子カメラ(電子内視鏡)を介して得られた画像信号を、制御装置20において処理したものである。このような画像信号に基づく画像を、表示部12に表示させることにより、マスタ操作入力装置10の操作者1は、マスタ操作入力装置10から離れた場所に配置されたスレーブマニピュレータ30の手先の画像を確認することが可能である。
【0026】
制御装置20は、マスタ制御部21と、マニピュレータ制御部22と、画像処理部23と、を有している。
マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢の指令値を例えば運動学計算に従って算出し、この位置・姿勢の指令値をマニピュレータ制御部22に出力する。また、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの遠位端の関節の駆動量を指令するための操作信号及び先端効果器の駆動量を指令するための操作信号をマニピュレータ制御部22に出力する。
【0027】
マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21からの位置・姿勢の指令値を受けて、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令値に一致させるために必要なスレーブアーム31の各関節の駆動量を、例えば逆運動学計算によって算出する。そして、マニピュレータ制御部22は、算出した駆動量に従ってスレーブアーム31の各関節を駆動させる。また、マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21からの遠位端の関節の駆動量を指令するための操作信号及び先端効果器の駆動量を指令するための操作信号を受けてスレーブアーム31の遠位端の関節を駆動させたり、先端効果器を駆動させたりする。
【0028】
画像処理部23は、スレーブアーム31の先端に設けられた電子カメラ(電子内視鏡等)から得られた画像信号を処理し、表示部12の表示用の画像信号を生成して表示部12に出力する。
スレーブマニピュレータ30は、スレーブアーム31を有している。スレーブアーム31は、マニピュレータ制御部22からの制御信号に従って各関節が駆動される。図5にスレーブアーム31の構造の一例を示す。図5に示すスレーブアーム31は、7個の関節202〜208が連設して配置され、さらに遠位端の関節202に先端効果器201が取り付けられている。ここで、遠位端の関節とは、スレーブアーム31が固定されている側から見て最も遠い位置に配置された関節のことを言う。また、図5で示した先端効果器201は、把持器(グリッパー)の例を示している。この他、先端部にカメラ(電子内視鏡)等を取り付けても良い。
【0029】
図5に示す関節のうち、関節202、205はロール軸(図2に示すX軸に対応)周りに回転するロール関節であり、関節203、208はヨー軸(図2に示すZ軸に対応)周りに回転するヨー関節であり、関節204、207はピッチ軸(図2に示すY軸に対応)周りに回転するピッチ関節である。また、関節206はロール軸に沿って直動する直動関節である。図5の例においては、7個の関節は全てが独立している。
【0030】
図5に示した関節203〜208を協調させながら駆動させることによって、スレーブアーム31における手先の位置の3自由度と姿勢の3自由度とが実現される。また、これらの関節に加えて図5では、先端効果器201をローリングさせるための関節202を冗長関節として設けている。このような構成により、例えば、スレーブアーム31をローリングさせる場合において、先端効果器201の付近のみをローリングさせるような動作も可能である。上述したように、遠位端の関節202と先端効果器201は、マスタ操作入力装置10によって駆動量を直接指令することが可能である。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、マスタ操作入力装置10の操作部11における、操作者1が把持部101を把持した状態で指先によって操作可能な位置に、スレーブアーム31の遠位端の関節202と同一の構造を有する操作部である第1ロール関節102を設けるようにしている。これにより、操作者1は、7自由度のスレーブアーム31の操作を片手でかつ安定して行うことが可能である。
【0032】
ここで、例えば、内視鏡下手術においては、術後の縫合の際に針かけ動作が必要となる。このような針かけ動作においては、スレーブアーム31の手先に取り付けられた先端効果器201としてのグリッパーをローリングさせながら患者の必要な部位に針をかけることになる。このとき、先端効果器201から遠い関節であるロール関節205をローリングさせると、先端効果器201のローリングも行われる反面、その他の関節も大きく動作してしまってスレーブアーム31の関節が周囲の臓器等に衝突してしまう場合があり得る。このため、針かけ動作のような、主にローリング動作が必要な場合には、他の関節が不必要に動作しないよう、スレーブアーム31の遠位端の関節であるロール関節202をローリングさせることが望ましい。本実施形態では、第1ロール関節102の構造をスレーブアーム31の遠位端の関節202と同一の構造としているので、操作者1は、第1ロール関節102の操作量とロール関節202の駆動量との関係を直感的に認識することが可能である。このため、操作者1は、スレーブアーム31の遠位端の関節202の駆動量を細かく制御することが可能となる。つまり、手の平で握っている把持部101で先端効果器201の位置・姿勢を指示しながら、先端遠位端の関節202を、第1ロール関節102を動かすことにより操作でき、指の姿勢が先端効果器201の姿勢と対応し、直感的な操作が可能となる。当然、把持部101に対して相対的に第1ロール関節102が回転しなくても、指の姿勢が先端効果器201の位置・姿勢と対応する。
【0033】
また、本実施形態では、第1ロール関節102と把持部101とを結ぶ同一直線上に先端効果器操作部103を取り付けるようにしているので、操作者1は、把持部101を把持したままで先端効果器操作部103を操作することが可能である。なお、第1ロール関節102と先端効果器操作部103は独立して駆動可能であり、先端効果器操作部103に指をかけて、先端効果器操作部103を開閉することによりθ6が取得でき、先端効果器操作部103をねじることにより、そのベースである第1ロール関節102が回転してθ5を取得することができる。
なお、本実施形態における第1ロール関節102は、他の関節とは独立して駆動される。したがって、本実施形態におけるマスタ操作入力装置10は、6自由度以下の冗長な自由度を有しないスレーブマニピュレータ30に対しても適用可能である。
【0034】
[変形例]
以下、本実施形態の変形例について説明する。まず、図2に示した例では、第1ロール関節102は、把持部101のみで支持されているが、第1ロール関節102は、他の関節と独立してローリング可能に構成されていれば良く、例えば図6で示したように把持部101と第1リンクの延在部101aの2点で第1ロール関節102(図6では先端効果器操作部103)を支持するようにしても良い。図6の構成の模式図を図7に示す。図7に示すように、図6に示した構成の場合には第1ロール関節102と第2ロール関節104とが実質的に隣接して配置されることになる。しかしながら、第1ロール関節102と第2ロール関節104とは回転軸が異なる2重軸構造とすることで、第1ロール関節102のローリングに伴って第2ロール関節104がローリングしないようにする。
【0035】
また、図2に示した例では、把持部101にロール関節を設けた例を示している。これは、スレーブアーム31の遠位端の関節がロール関節であるためである。スレーブアーム31の遠位端の関節がロール関節でない場合には、把持部101に設ける関節も変更する。例えば、図8(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節がヨー関節である場合には、図8(b)に示すように把持部101に設ける関節1021もヨー関節とする。同様に、図9(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節がピッチ関節である場合には、図9(b)に示すように把持部101に設ける関節1022もピッチ関節とする。また、図10(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端の関節が直動関節である場合には、図10(b)に示すように把持部101に設ける関節1023も直動関節とする。
【0036】
さらに、図11(a)に示すように、スレーブアーム31の遠位端に2種以上の独立な関節202a、202bが設けられている場合には、把持部101に設ける関節も複数とする。例えば、図11(a)は、6自由度に対応した関節203〜208に加えて、ロール関節202bと、直動関節202aとを加えた8自由度のスレーブアーム31を例示している。この場合には、把持部101においても、ロール関節102bと直動関節102aとを有する独立して操作可能な2つの関節を設ける。このように構成することで、スレーブアーム31の遠位端の関節と把持部101に設けた関節とを同一の構造とすることができる。これにより、操作者1は、スレーブアーム31のロール関節202bと、直動関節202aとを直感的に操作することが可能である。なお、図11(b)の例は、2つの関節を設けた例であるが、スレーブアーム31の関節数が増加した場合にはそれに応じてマスタ操作入力装置10の把持部101に設ける関節数も増加させる。
【0037】
また、スレーブアーム31の先端効果器201の構造が図5で示したものと異なるものとなる場合には、それに合わせて先端効果器操作部103の構造も変化させることが望ましい。
さらに、図2に示した操作部11に設けた関節104〜109は、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令するためのものであって、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令できるのであれば、関節104〜109はなくとも良い。例えば、操作部11に3軸の並進移動を検出するためのセンサ(例えば加速度センサ)を設けるようにすれば、図12に示すようにして、操作部11を構成することもできる。図12の例において、操作者1が操作部11の把持部101を把持し、当該操作部11を3次元空間内で移動させたり、回転させたりすることで、位置の3自由度に対応した操作信号を与えることが可能である。姿勢の3自由度に対応した操作信号については、例えばカメラ13によって得られた画像を解析することによって得る。なお、図12は、操作部11で得られた操作信号を、無線通信部14を経由して無線通信可能とした例を示している。勿論、図12の例において、操作部11で得られた操作信号を有線通信するようにしても良い。また、操作部11の姿勢を、角速度センサを用いて検出するようにしても良い。
【0038】
以下では、第一実施形態のマスタスレーブマニピュレータを所定の制御態様と組み合わせた実施例のいくつかについて説明する。これらの実施例では、スレーブアーム31において冗長関係にある2つの関節のうち1つを駆動関節として選択し、残りを固定関節とすることにより、各関節の駆動量を求めるための逆運動学計算を簡素にしてマニピュレータ制御部22の負荷を軽減する。なお、本発明において「冗長関係にある」とは、関節の回転軸、直動軸等の動作軸が互いに平行である関係を指す。
【0039】
[実施例1]
実施例1では、等価回転ベクトル(等価回転軸ベクトル等とも呼ばれる)を用いて、いずれの関節を駆動関節とするかの判定を行うため、まず、等価回転ベクトルについて説明する。
まず、操作部11の把持部101の姿勢変化について次のように定義する。例えば、ある時刻tにおいて、図13(c)に示す把持部101の位置が、図13(a)に示す位置Om(t)であるとする。また、時刻tにおける把持部101の姿勢が、マスタロール軸Xm、マスタピッチ軸Ym、マスタヨー軸Zmがそれぞれ、図13(a)および図13(c)に示すXm(t)、Ym(t)、Zm(t)の方向を向くような姿勢であるとする。この状態から、所定時間Δt経過後の時刻t+1において、把持部101の位置が、図13(a)に示す位置Om(t+1)に変化したとする。また、時刻t+1における把持部101の姿勢が、マスタロール軸Xm、マスタピッチ軸Ym、マスタヨー軸Zmがそれぞれ、図13(a)に示すXm(t+1)、Ym(t+1)、Zm(t+1)の方向を向くような姿勢に変化したとする。このときの把持部101の姿勢変化は、マスタロール軸Xm(t)周りの回転と、マスタピッチ軸Ym(t)周りの回転と、マスタヨー軸Zm(t)周りの回転とを合成したものである。さらに、数学的には、このような3つの軸周りの回転を、1つの軸周りの回転に置き換えることが可能である。即ち、図13(b)に示すように、ある回転軸Vr(t)を設定すると、時刻tから時刻t+1の間の把持部101の姿勢変化は、把持部101を回転軸Vr(t)周りにθ(t)だけ回転させたものと等価となる。一般に、このような回転軸Vr(t)を表わすベクトルを、等価回転ベクトルと言う。
【0040】
スレーブアーム31においては、図5に示すように、関節202と関節205との2つのロール関節が冗長関係にある。実施例1では、マスタ制御部21が上述の回転軸Vrを用いた判定により、関節202および関節205の一方を駆動関節として選択し、他方を固定関節に設定する。すなわち、この時点では、スレーブアーム31を、一時的に冗長自由度を有さないものとして取り扱えるため、各関節の駆動量を求めるための演算を容易にすることができるのである。
【0041】
図14は、実施例1におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10において、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、把持部の現時点における位置および姿勢と、直前の位置および姿勢とを求める。そしてこれらの値に基づいて、直前の把持部のマスタロール軸Xmと、姿勢変化に伴う回転軸Vrを示す等価回転ベクトルとをさらに算出する。
【0042】
続くステップS20において、マスタ制御部21は、マスタロール軸Xmと回転軸Vrとがなす角度φが予め設定した規定値以下であるか否かを判定する。
当該判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
【0043】
ステップS20における判定は、以下のような考え方に基づいている。
即ち、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とが一致(φ(t)=0)していれば、時刻tから時刻t+1の間の把持部101の姿勢変化は、ローリングによる姿勢変化のみであると考えることができる。この場合には、操作部11により、スレーブアーム31の手先のローリングのみが必要な動作が指令されたと考えることができる。実際には、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とが完全に一致する場合だけでなく、他の動作も入るが主に手先のローリング操作である場合も含まれるように、等価回転ベクトルVr(t)とマスタロール軸Xm(t)とのなす角φ(t)にある規定値を設定し、φ(t)がこの規定値以下の場合には、先端のロール軸関節がもっぱら動作する、針かけ操作等のような「細かい動き」であるとみなすのである。したがって、判定の基準となる規定値は、どの程度の操作を「細かい動き」であると判定するかによって適宜設定することができ、例えば15度とすることができる。
ステップS21またはステップS22において、駆動関節および固定関節が決定されたら、マスタ制御部21は、選択結果を示す関節選択信号を、位置・姿勢の指令値とともにマニピュレータ制御部22に出力する。ステップS21またはステップS22の終了後、処理はステップS30に進む。
【0044】
ステップS30において、マニピュレータ制御部22は、マスタ制御部21から受け取った位置・姿勢の指令値と関節選択信号とにもとづいて、スレーブアーム31の手先の位置・姿勢を指令値に一致させるために必要なスレーブアーム31の各関節の駆動量を、逆運動学計算によって算出し、各関節に対する指令値を決定する。
ここで、スレーブアーム31は、本来7自由度に対応した関節であるが、冗長関係にある関節202および205の一方が固定関節とされる(すなわち、駆動量がゼロとなる。)ため、7自由度の全ての駆動量が未知の場合よりも逆運動学計算で算出する関節数を低減でき,逆運動学計算が簡略化されてマニピュレータ制御部22に対する演算による負荷が軽減される。
なお、逆運動学計算については、例えば解析的な手法等の従来周知の各種の手法を用いることができる。ここでは、その詳細についての説明は省略する。
【0045】
続くステップS40において、マニピュレータ制御部22は、マスタ側冗長関節である第1ロール関節102の駆動量Mrをマスタ制御部21から受け取った情報に基づき算出する。
さらに、ステップS50において、マニピュレータ制御部22は、ステップS30で算出された関節202の駆動量に、ステップS40で算出された駆動量Mrを加え、関節202の指令値を確定する。これによりスレーブアーム31のすべての関節の指令値が定まる。
【0046】
ステップS60において、マニピュレータ制御部は、ステップS50で求められた各関節の指令値に従ってスレーブアーム31の各関節を駆動し、一連の処理が終了する。このフローは、所定間隔、例えば10〜数十ミリ秒ごとに繰り返し行われ、駆動関節の選択が繰り返し行われる。
【0047】
例えば、内視鏡下手術においては、術後の縫合の際に針かけ動作が必要となる。このような針かけ動作においては、スレーブアームの手先に取り付けられたグリッパー等の先端効果器をローリングさせながら患者の必要な部位に針をかける動作が行われ、対象部位で先端効果器が細かく動かされる。上述したように、スレーブアーム31は、7つの関節を協調動作させながら、先端効果器の位置・姿勢を制御するものであるが、針かけ動作等において先端効果器から遠い関節(例えば、関節205)をローリングさせると、先端効果器のローリングも行われる反面、その他の関節も大きく動作してしまってスレーブアーム31の関節が周囲の臓器等に衝突してしまう場合があり得る。
【0048】
実施例1においては、ステップS20の判定により、角度φが規定値以下の場合、先端効果器201に近い関節202が駆動関節として選択され、先端効果器201から遠い方の関節205は、固定される。したがって、針かけ動作等のように、もっぱら先端効果器のみがローリング動作されるような「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0049】
また、冗長関係にある関節202および205の一方を固定関節に設定するため、ステップS30における逆運動学計算を簡略化することが可能となる。その結果、演算によるマニピュレータ制御部の負荷を軽減するとともに、演算に要する時間も短縮され、スレーブアームの各関節をスムーズに駆動させることができる。
【0050】
[実施例2]
実施例2は、駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例2においては、先端効果器操作部103が閉じられているときは、先端効果器201で何かが把持されている、すなわち前述の「細かい動き」が行われるときであるとの考えに基づき、図15に示す先端効果器操作部103の開き角度θgの値に基づいて、駆動関節を選択する判定を行う。
【0051】
図16は、実施例2におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Aにおいて、先端効果器操作部103の開き角度θgが計測され、マスタ操作入力装置10からマスタ制御部21に送られる。そして、ステップS20Aにおいて、マスタ制御部21は、開き角度θgが規定値、例えば1度以下であるか否かを判定する。
【0052】
ステップS20Aにおける判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0053】
実施例2においては、例えば先端効果器201で針等が把持されている際には、開き角度θgの値が規定値以下となり、関節202が駆動関節として選択される。したがって、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0054】
本実施例においては、開き角度θgの値をマスタ操作入力装置10から取得する例を説明したが、これに代えて、先端効果器201に角度センサ等を設け、先端効果器201の開き角度を取得してステップS20Aの判定に用いてもよい。さらに、先端効果器201の開き角度を判定に用いる場合は、表示部に表示された先端効果器の画像を処理することにより先端効果器201の開き角度を取得してもよい。
【0055】
[実施例3]
実施例3も、実施例1に対して駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例3においては、先端効果器操作部103に規定値以上の力が作用しているときは、先端効果器で何かが把持されている、すなわち前述の「細かい動き」が行われるときであるとの考えに基づき、図17に示す先端効果器操作部103に作用する力Fgの値に基づいて、駆動関節を選択する判定を行う。なお、実施例3においては、力Fgを検出できるよう、先端効果器操作部103に公知の力センサ等を取り付け、その検出値がマスタ制御部21に送られるようにしておく。
【0056】
図18は、実施例3におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Bにおいて、先端効果器操作部103に作用する力Fgが計測され、マスタ操作入力装置10からマスタ制御部21に送られる。そして、ステップS20Bにおいて、マスタ制御部21は、力Fgが規定値、例えば1N以上であるか否かを判定する。
【0057】
ステップS20Bにおける判定がYesの場合、処理はステップS21に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201に近い関節202を駆動関節として選択し、もう一方の関節205を固定関節に設定する。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0058】
実施例3においては、例えば先端効果器201で針等が把持されている際には、力Fgの値が規定値以上となり、関節202が駆動関節として選択される。したがって、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0059】
本実施例においては、力Fgの値をマスタ操作入力装置10から取得する例を説明したが、これに代えて、先端効果器201に力センサ等を設け、針等の把持により先端効果器201が受ける反力の値を取得してステップS20Bの判定に用いてもよい。
【0060】
[実施例4]
実施例4も、実施例1に対して駆動関節を選択するための判定基準のみ異なっているため、判定基準を中心に説明し、共通する部分については重複する説明を省略する。
実施例4においては、マスタ操作入力装置10の把持部101が比較的高速で移動しているときは、先端効果器201を処置対象部位に向かって移動させている、すなわち前述の「細かい動き」が行われていないときであるとの考えに基づき、把持部101の移動量に基づいて駆動関節を選択する判定を行う。
【0061】
図19は、実施例4におけるスレーブアーム31の関節駆動の流れを示すフローチャートである。ステップS10Cにおいて、マスタ制御部21は、マスタ操作入力装置10からの操作信号に従って、把持部101の現時点における位置と、直前の位置とを求める。そしてこれらの値に基づいて、把持部101の位置変化の絶対値em((ΔXm2+ΔYm2+ΔZm2)の平方根)を取得する。
【0062】
続くステップS20Cにおいて、マスタ制御部21は、上述の絶対値emが規定値以下であるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、所定間隔における把持部101の移動量が小さい、すなわち把持部101が比較的低速で移動していることになり、処理はステップS21に進んで先端効果器201に近い関節202が駆動関節として選択され、もう一方の関節205が固定関節に設定される。一方、当該判定がNoの場合、処理はステップS22に進み、マスタ制御部21は、先端効果器201から遠い関節205を駆動関節として選択し、もう一方の関節202を固定関節に設定する。
その後の流れは、実施例1と同様である。
【0063】
実施例4においても、実施例1と同様に、「細かい動き」のときに、スレーブアームの他の関節が大きく動作することがなく、細かい動きを伴う手技や操作を患者に対してより安全に行うことができる。
【0064】
本実施例においては、把持部の移動量をマスタ操作入力装置から取得する例を説明したが、これに代えて、スレーブアーム先端に設けられた先端効果器の移動量が取得されてステップS20Cの判定に用いられてもよい。
【0065】
以上、実施形態および実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【0066】
例えば、上述の各実施例においては、スレーブアームにおいて、ロール関節202および205が冗長関係にある例について説明したが、上述の各制御態様は、冗長関係にある関節がロール関節でない場合も適用可能である。したがって、冗長関係にある関節は、図8(a)に示すようなヨー関節202および208であってもよいし、図9(a)に示すようなピッチ関節202および204であってもよい。さらには、図10(a)に示すような直動関節202および206であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…マスタ操作入力装置、11…操作部、12…表示部、13…カメラ、14…無線通信部、20…制御装置、21…マスタ制御部、22…マニピュレータ制御部、23…画像処理部、30…スレーブマニピュレータ、31…スレーブアーム、101…把持部、102…第1ロール関節、103…先端効果器操作部、104…第2リンク、105…第3リンク、106…第4リンク、107…第1直動関節、108…第2直動関節、109…回転部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータを操作するためのマスタ操作入力装置であって、
操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、該位置及び姿勢の変化に応じて、前記スレーブマニピュレータを固定端から見た場合の最も遠い端部である前記スレーブマニピュレータの遠位端の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部と、
前記把持部が把持された状態で前記操作者の指先によって操作可能な位置に設けられ、前記把持部とは独立に操作可能な第1の操作部と、
を具備することを特徴とするマスタ操作入力装置。
【請求項2】
前記第1の操作部が前記把持部に対して、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節と同一の構造を有し、手動操作を受けて前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値を与えるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項3】
前記第1の操作部には、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節に設けられた効果器を操作するための第2の操作部が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項4】
前記把持部と、前記第1の操作部と、前記第2の操作部とは、同一直線上に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項5】
前記第1の操作部は、前記把持部によって支持されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項6】
前記把持部は、該把持部の位置及び姿勢の変化に従って駆動されるアーム部に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項7】
前記第1の操作部は、さらに、前記アーム部によって支持されていることを特徴とする請求項6に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項8】
前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節は、複数の自由度に対応した複数の関節を有し、
前記第1の操作部は、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節が有する各関節の駆動量の指令値を各々与えるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項9】
複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータと、
請求項1乃至8の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置と、
前記位置及び姿勢の指令値、並びに前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値から、前記スレーブマニピュレータの各関節の駆動量を算出し、該駆動量の算出結果に従って前記スレーブマニピュレータの各関節を駆動する制御部と、
を有することを特徴とするマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項1】
複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータを操作するためのマスタ操作入力装置であって、
操作者によって把持された状態で位置及び姿勢を変化自在であって、該位置及び姿勢の変化に応じて、前記スレーブマニピュレータを固定端から見た場合の最も遠い端部である前記スレーブマニピュレータの遠位端の位置及び姿勢の指令値を与えるように構成された把持部と、
前記把持部が把持された状態で前記操作者の指先によって操作可能な位置に設けられ、前記把持部とは独立に操作可能な第1の操作部と、
を具備することを特徴とするマスタ操作入力装置。
【請求項2】
前記第1の操作部が前記把持部に対して、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節と同一の構造を有し、手動操作を受けて前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値を与えるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項3】
前記第1の操作部には、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節に設けられた効果器を操作するための第2の操作部が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項4】
前記把持部と、前記第1の操作部と、前記第2の操作部とは、同一直線上に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項5】
前記第1の操作部は、前記把持部によって支持されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項6】
前記把持部は、該把持部の位置及び姿勢の変化に従って駆動されるアーム部に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項7】
前記第1の操作部は、さらに、前記アーム部によって支持されていることを特徴とする請求項6に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項8】
前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節は、複数の自由度に対応した複数の関節を有し、
前記第1の操作部は、前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節が有する各関節の駆動量の指令値を各々与えるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置。
【請求項9】
複数の自由度に対応した関節を有するスレーブマニピュレータと、
請求項1乃至8の何れか1項に記載のマスタ操作入力装置と、
前記位置及び姿勢の指令値、並びに前記スレーブマニピュレータの遠位端の関節を駆動するための駆動量の指令値から、前記スレーブマニピュレータの各関節の駆動量を算出し、該駆動量の算出結果に従って前記スレーブマニピュレータの各関節を駆動する制御部と、
を有することを特徴とするマスタスレーブマニピュレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−131014(P2012−131014A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257864(P2011−257864)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超低侵襲治療機器システムの研究開発/内視鏡下手術支援システムの研究開発プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超低侵襲治療機器システムの研究開発/内視鏡下手術支援システムの研究開発プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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