説明

マスチック接着剤

【課題】 加熱硬化しても、歪みにくく、しかも、強度に優れたマスチック接着剤を提供する。
【解決手段】 ゴムを主剤として架橋反応により硬化させるマスチック接着剤であって、前記マスチック接着剤は、樹脂製中空体として、平均粒径20μm〜40μmの第1の樹脂製中空体を6質量部〜12質量部、及び、平均粒径50μm〜70μmの第2の樹脂製中空体を4質量部〜9質量部を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボンネット、トランクリッド、ドア、ルーフ等の外パネルと内パネルとの間に、パネルの防振を目的として接着剤及び緩衝材として機能するマスチック接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスチック接着剤は、加熱硬化可能な合成ゴム、或いは、熱可塑性樹脂等の材料を主体として構成され、自動車ボディを構成するアウターパネルやインナーパネル等の部材や他のパネル等の部材を接合するために自動車製造ラインにおいて使用されている(例えば、特許文献1参照)。
このマスチック接着剤には、間隙を埋めて歪を軽減するために発泡剤が添加されるが、接着剤自体を加熱して発泡させると強度が充分に確保されないことがあった。
その対策として、発泡剤を添加しない方法が考えられるが、加熱硬化時において収縮が緩和できないために接着剤付着面を引き込んで歪が発生してしまう原因になる。
また、別の対策として、発泡剤を通常量添加した組成に架橋剤を多量添加することで強度確保を行う方法もあるが、加熱硬化後の脆化が大きくなり強靭性が失われ、振動や車体の変形に伴い接着剤の剥離や破断が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−291247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、加熱硬化しても、歪みにくく、しかも、強度に優れたマスチック接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討の結果、平均粒子径の異なる少なくとも2種類の樹脂製中空体を、ゴムを主剤とするマスチック接着剤に含有させることにより、上記課題を解決できることを知見し、以下の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明のマスチック接着剤は、請求項1に記載の通り、ゴムを主剤として架橋反応により硬化させるマスチック接着剤であって、前記マスチック接着剤は、樹脂製中空体として、平均粒径20μm〜40μmの第1の樹脂製中空体を6質量部〜12質量部、及び、平均粒径50μm〜70μmの第2の樹脂製中空体を4質量部〜9質量部を含有することを特徴とする。
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載の発明において、前記樹脂製中空体は、アクリロニトリル、MMA、塩化ビニリデン及びメタクリロニトリルの何れかから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本マスチック接着剤によれば、加熱硬化後に高い強度を得ることができると共に、ボディの歪を軽減することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のマスチック接着剤の主剤となるゴムは、ゴムであれば架橋型及び未架橋型を問わず特に制限するものではないが、単独又は混合して使用することができる。部分架橋型の合成ゴムとしては、アクリロニトリル−イソプレン共重合体ゴム(NIR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム及びこれらのうちの少なくとも2種類を混合したゴム等のジエン系ゴムであって、予めジビニルベンゼン又は硫黄等の架橋剤を用いて部分的に加熱架橋したゴムを使用することができる。また、未架橋型の合成ゴムとしては、例えば、前記した部分架橋型の合成ゴムと同様のものを使用することができる。
上記の中でも、加工性、価格の理由から、ブタジエンゴム及びスチレン−ブタジエンゴムのいずれか又は両方を含むもの等を使用することが好ましい。
【0008】
樹脂製中空体の構成材料についても、樹脂であれば特に制限するものではないが、例示すれば、アクリロニトリル、MMA、塩化ビニリデンやメタクリロニトリル等がある。尚、ガラス製中空体を使用すると、後述するように、マスチック接着剤が少ない変形状態にある場合に歪を緩和する効果が劣り、更には、自動車の製造ラインにおけるポンプを使用した塗布の場合にポンプの摩耗が生じ易いという問題がある。
【0009】
上記ゴムは、架橋反応により硬化させるために、架橋剤及び架橋促進剤を添加する。
架橋剤としては、例えば、硫黄、ジベンゾチアジルジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドやジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等のチウラムポリサルファイド化合物、4,4−ジチオモルフォリン、p−キノンジオキシム、p,p'−ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミド、過酸化物を使用することができる。この加硫剤の配合量は、ゴム100質量部に対して、3〜20質量部とする。3質量部未満であると、組成物中のゴムの加硫が充分に行われず、パネルの動きや振動などによってマスチック接着剤が変形した後に回復しづらい為、耐デント性や緩衝性が損なわれてしまうおそれがある。20質量部を超えると、組成物の加熱硬化後のゴム弾性が失われ、パネルの動きや振動などで割れてしまうおそれがある。また、硬すぎる為に歪を発生させてしまうおそれもある。
【0010】
架橋促進剤としては、例えば、チウラム系、置換ジチオカルバミン酸塩系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、キサンテート系などが挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも一種を配合することができる。この加硫促進剤の配合量は、ゴム100質量部に対して、3〜20質量部とする。3質量部未満であると、組成物中のゴムの加硫が充分に行われず、パネルの動きや振動などによって変形した後に回復しづらい為、耐デント性や緩衝性が損なわれてしまうおそれがある。20質量部を超えると組成物の加熱硬化後のゴム弾性が失われ、パネルの動きや振動などで割れてしまうおそれがある。また硬すぎる為に歪を発生させてしまうおそれもあるためである。
【0011】
上記マスチック接着剤の全重量に対して、本発明では、樹脂製中空体を10〜20質量部含有させる。10量部未満では、歪みやすくなり、20質量部を超えると強度が劣るからである。
樹脂製中空体は、少なくとも2種類の異なる平均粒径のもの、即ち、平均粒径20〜40μmの第1の樹脂製中空体と、平均粒径50〜70μmの第2の樹脂製中空体とから構成する。平均粒径の大きい第2の樹脂製中空体は、変形してゴム成分が架橋する際の収縮を緩和して、被着面を引っ張る応力を抑え、平均粒径の小さい第1の樹脂製中空体は、第2の樹脂製中空体の対象とする変形以上の大きな変形に対する強度を確保する。
また、本発明のマスチック接着剤は、強度確保のために、加熱硬化後の体積変化を10%以下にすることが好ましい。尚、平均粒径の小さい第1の樹脂製中空体は、この強度確保にも寄与する。体積変化率を低く抑え、ゴムを架橋するための材料を減じることができるためである。
【0012】
また、本発明のマスチック接着剤には、従来から添加される材料、例えば、充填剤、軟化剤、吸湿防止剤、発泡剤などを加えるようにしてもよい。
【0013】
上記充填剤の具体例としては、例えば、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、珪藻土、白土、ヒュームシリカ、沈降性シリカ、無水珪酸、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸マグネシウム、石英、アルミニウム微粉末、フリント粉末、亜鉛末等が挙げられる。これらは小粒径充填剤の2次凝集を防ぐ目的で、表面処理を施したものでも良い。これら充填剤のなかでも、炭酸カルシウムを使用することが好ましい。この充填剤の配合量は、ゴム100質量部に対して、50〜500質量部とする。50質量部未満であると、組成物のチクソ性が低下し、塗布後に接着剤が垂れてしまうため好ましくない。また、500質量部を超えると、組成物の粘度を塗布可能な粘度にする為に、可塑剤、軟化剤、溶剤などの液状分を多量に添加する必要があるため、接着剤が被着する部位であるパネルとの密着が悪くなり、パネルの動きや振動などで接着剤が剥れてしまうおそれがある。
【0014】
軟化剤としては、フタル酸エステルや石油系分溜精製物、例えば、DOP、DBP、DIDP、BBP、DINP、DHP、スルホン酸系、リン酸系、高級アルコールフタレート等が挙げられる。この可塑剤の配合量は、ゴム100質量部に対して、50〜500質量部とする。50質量部未満であると組成物の粘度が高すぎて塗布ができなくなり、また、塗布することができたとしても加熱硬化後の組成物が脆化しやすくなり、パネルの振動や動きによって割れてしまうおそれがある。500質量部を超えると塗布後に垂れてしまうおそれがある。
【0015】
また、発泡剤は、アゾジカルボンアミド(ADCA)や、アゾジカルボンアミド(ADCA)に撥水処理のコーティングを施したものを使用することができ、具体的な製品名としては、セルマイクCAP500(三協化成株式会社)やビニホールST#70(永和化成工業株式会社製)を挙げることができる。また、同処理が施されていない発泡剤としては、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)やDPT等を使用することができる。
【実施例】
【0016】
下記の配合原料を、表1に示す組成で配合して、実施例1〜4及び比較例1〜9を作製した。
【0017】
[配合原料]
(1)合成ゴム:スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(JSR(株)社製 型番:SL552)、ブタジエンゴム(BR)(宇部興産(株)社製 型番:BR113P)
(2)充填剤
・表面処理炭酸カルシウム(竹原化学工業(株)社製 型番:ネオライトAT1)
・炭酸カルシウム(三共製粉(株)社製 型番:重質炭酸カルシウム特#1)
(3)軟化剤:「DINP」(ジェイプラス(株)社製 型番:DINP)、「プロセスオイル」(三共油化工業(株)社製 型番:SNH−22)
(4)吸湿防止剤:酸化カルシウム(近江化学(株)社製 型番:CML−35)
(5)発泡剤:アゾジカルボンアミド(三協化成(株)社製 型番:セルマイクCAP500)
(6)架橋剤:硫黄(細井化学工業(株)社製 型番:粉末硫黄)
(7)架橋促進剤:p−キノンジオキシム(大内新興化学工業(株)社製 型番:バルノックGM)、ジベンゾチアジルジスルフィド(大内新興化学工業(株)社製 型番:ノクセラーDM)
(8)樹脂製中空体:
・平均粒径20〜40μm:(松本油脂(株)社製 型番:100SCA)
・平均粒径50〜70μm:(松本油脂(株)社製 型番:100MCA)
【0018】
上記実施例及び比較例を使用して、下記条件で評価試験を行い、その結果を表1(図1)に示す。
(1)10%変位引張強度:
1.6mm厚×25mm×100mmのSPC鋼板に、各例の組成物を塗布し3mmのスペーサーを用いて3mm厚×25mm×15mmの形状になるように前記同サイズのSPC鋼板を十字に交差させながら挟み込み、クリップ等で固定する。この試験片を170℃にて20分間加熱し、各例の組成物を硬化させる。硬化後の試験片は23℃±2℃の恒温室にて24時間養生させ、スペーサーやクリップ等を外して前記室温で試験実施する。試験機は引張り試験が可能なオートグラフ等を用い、挟み込んだSPC鋼板をオートグラフのつかみ冶具にセットさせ、引張り速度5mm/分にて引っ張る。厚み3mmに対し10%の変位時(0.3mm変位時)の荷重(N)を記録し、組成物の断面積(15mm×25mm)にて除した数値(kPa)を10%変位引張強度とする。尚、表1中の評価は、25kPa以下を○とし、以外を×とした。
(2)50%変位引張強度:
前記(1)と同じ条件で試験片を作成し、同じ試験機、条件で試験を実施する。厚み3mmに対し50%の変位時(1.5mm変位時)の荷重(N)を記録し、組成物の断面積(15mm×25mm)にて除した数値(kPa)を50%変位引張強度とする。尚、表1中の評価は、100kPa以上を○とし、以外を×とした。
(3)50%圧縮強度:
1.6mm厚×25mm×100mmのSPC鋼板に、各例の組成物を塗布し5mmのスペーサーを用いて5mm厚×25mm×25mmの形状になるように前記同サイズのSPC鋼板を挟み込み、クリップ等で固定する。この試験片を170℃にて20分間加熱し、各例の組成物を硬化させる。硬化後の試験片は23℃±2℃の恒温室にて24時間養生させ、スペーサーやクリップ等を外して前記室温で試験実施する。試験機は圧縮方向の試験が可能なオートグラフ等を用い、試験片を圧縮冶具にセットさせ、圧縮速度50mm/分で実施する。厚み5mmに対し50%の圧縮変位時(2.5mm圧縮変位時)の荷重(N)を50%圧縮荷重とする。尚、表1中の評価は、500N以上を○とし、以外を×とした。
(4)鋼板引き込み性:
1.6mm厚×25mm×100mmのSPC鋼板に、各例の組成物を塗布し5mmのスペーサーを用いて5mm厚×25mm×25mmの形状になるように、0.8mm厚×25mm×100mmのSPC鋼板を上から挟み込み、スペーサーの位置へクリップ等で固定する。この試験片を23℃±2℃の恒温室にて6時間以上放置させた後、挟み込んだSPC鋼板と試料を含んだ厚み(T0)をダイヤルゲージ等で測定する。その後170℃にて20分間加熱し、各例の組成物を硬化させる。硬化後の試験片は23℃±2℃の恒温室にて3時間以上養生させた後、スペーサーやクリップ等を外して、更に同温度条件で10分以上放置した後、挟み込んだSPC鋼板と試料を含む厚み(T1)をダイヤルゲージ等で測定する。硬化前の厚み(T0)から硬化後の厚み(T1)を引いた値(mm)を鋼板引き込み性とし、表1中の評価は、±0.2mm以内を○とし、以外を×とした。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から、1種類の平均粒子径の樹脂製中空体から構成した比較例1は、平均粒径が20〜40μmのものから構成したため、10%変位の引張強度と鋼板引き込み性に問題があることが分かった。同様に1種類の平均粒径の樹脂製中空体から構成した比較例2は、平均粒径が50〜70μmのものからのみ構成したために、比較例1とは異なり、50%の圧縮強度において問題があることが分かった。
また、比較例3〜5は、樹脂製中空体の含有量が、本発明の範囲外にあるために、何れかの評価項目で問題があることが分かった。
比較例1より更に平均粒径の小さい10〜20μmの樹脂製中空体から構成した比較例6は、10%変位の引張強度と鋼板引き込み性に問題があることが分かった。
比較例2より更に平均粒径の大きい80〜110μmの樹脂製中空体から構成した比較例7は、50%変位の引張強度と50%圧縮強度において問題があることが分かった。
比較例7、8は、2種類の樹脂製中空体のうち小さい粒径のもの、もしくは大きい粒径のもののいずれかが本発明の範囲外にあるため、何れかの評価項目で問題があることが分かった。
これら比較例に対して、実施例1〜4は、全ての評価項目において優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のマスチック接着剤は、自動車等の構造物を始めとして広く産業上利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムを主剤として架橋反応により硬化させるマスチック接着剤であって、前記マスチック接着剤は、樹脂製中空体として、平均粒径20μm〜40μmの第1の樹脂製中空体を6質量部〜12質量部、及び、平均粒径50μm〜70μmの第2の樹脂製中空体を4質量部〜9質量部を含有することを特徴とするマスチック接着剤。
【請求項2】
前記樹脂製中空体は、アクリロニトリル、MMA、塩化ビニリデン及びメタクリロニトリルの何れかから構成されることを特徴とする請求項1に記載のマスチック接着剤。

【公開番号】特開2012−67191(P2012−67191A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213227(P2010−213227)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(598109187)アサヒゴム株式会社 (27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】