説明

マニホールド

【課題】種々の生理学的条件または治療要件に準じて十分に適合性のある心臓支援をもたらし、血液損傷および装置によって誘発される合併症を避け、移植手術および治療後のケアが単純であり、および安全な手術を保障し、必要な装置の保守/補修または取換えを含む緊急救助が可能である心室補助装置の提供。他の目的は、共拍動および逆拍動による循環支援を行うための二重拍動機構を備える二重拍動式の両心室補助装置(DPbi−VAD)を提供する。
【解決手段】T字状導管に構成されて、水平部および垂直端部を有するマニホールドであって、前記水平部が大動脈に移植され、前記垂直端部が大動脈の外側に向かって延びるように形成され、前記水平部が大動脈単独によって保持される構成となっている、マニホールドを有する心室補助装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心室補助装置(VAD)のマニホールドに関し、特に、二重拍動式の両心室補助装置(DPbi−VAD)のマニホールドに関する。
【背景技術】
【0002】
米国では、心不全は主たる公衆の健康問題であり、その対応に米国医療保険財源の約1%が費やされている。約3百万〜4百万の米国人が心不全を患い、毎年40万人の新たな患者が診断されている。心臓移植は、他の医学的治療と比較して最も効果的な治療とされている。それにもかかわらず、心臓移植は、例えば、長期の免疫抑制治療による合併症、同種移植の冠動脈疾患、および最も決定的なものである深刻なドナー不足によって、制限を受けている。年間のドナー心臓の数は、常に約2,000個となっている。一方で、ドナー心臓移植の資格のある患者は、年間16,500人となっている。
【0003】
全人工心臓(TAH)および心室補助装置(VAD)の両方を含む機械的循環支援(MCS)システムが、末期心不全患者への心臓移植の果たす役割に取って代わるべく、広く研究されている。左心室補助装置(LVAD)が、心臓移植への橋渡し、回復への橋渡し、および心臓移植の代替えを含む治療を、心不全患者に施すために広く用いられている。19の医療センターおよび129人の末期心不全患者を対象とする大規模なREMATCH(Randam Evaluation of Mechanical Assistance for the Treatment of Congestive Heart Failure、うっ血性心不全の治療に対する機械的補助の無作為評価)の試行によれば、LVADまたは薬理学的療法によって治療された患者の場合、LVADグループの年間生存率は、薬理学的療法グループの2倍であることが分かっている。さらに、LVADグループでは、支援期間中の生活の質が極めて良好なものとなっている。全移植可能な長期(3年〜5年)にわたる機械的循環支援装置、特にLVADが、心不全患者に対するドナー不足の現在の窮地を解消し得ることは、心臓学会ではすでに認められた事実である。
【0004】
LVADは、近年、心臓移植への短期の橋渡し支援として機能すると期待されるか、または心臓移植の代替えとして長期にわたって置き換えられると期待される新しい医学的手法として発達してきている。連続流式のLVADは、小型ではあるが、血栓を形成することがあり、この非拍動循環支援が慢性的に用いられると、末端器官における微小循環系に多くの合併症を誘発することがある。拍動LVADは、より優れた生理学的な適合性を有しているが、嵩高く、かつエネルギー消費が大きいために広く用いられていない。
【0005】
理想的な機械的循環支援(MCS)設計は、制限されないが、以下の特性、すなわち、(1)種々の生理学的条件または治療要件に準じて十分に適合性のある心臓支援をもたらすこと、(2)血液損傷および装置によって誘発される合併症を避けること、(3)移植手術および治療後のケアが単純であること、および(4)安全な手術を保障し、必要な装置の保守/補修または取換えを含む緊急救助が可能であること、を有するべきとされている。これまでのところ、最先端のLVADのいずれも、これらの全ての要件を満たすことができていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、従来の心室補助装置(VAD)に関する主な問題を回避するVADを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、共拍動および逆拍動による循環支援を行うための二重拍動機構を備える二重拍動式の両心室補助装置(DPbi−VAD)を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、本発明の二重拍動式の両心室補助装置を用いることによって、心臓疾患のある患者を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明によって構成される心室補助装置は、本発明の心室補助装置が記載される以下の項目1、および以下の複数の項目における項目1の好ましい実施形態に記載される形態を備えている。
【0010】
1.T字状導管に構成されて、水平部および垂直端部を有するマニホールドであって、前記水平部が大動脈に移植され、前記垂直端部が大動脈の外側に向かって延びるように形成され、前記水平部が大動脈のみによって保持されるように構成されている、マニホールド。
【0011】
2.金属および弾性ポリマーからなる群から選択される生体適合性材料から作製されている項目1に記載のマニホールド。
【0012】
3.前記水平部の壁部の厚さが、前記水平部の両端に向かって徐々に減少している、項目1に記載のマニホールド。
【0013】
4.前記水平部および前記垂直端部が円形断面を有している、項目1に記載のマニホールド。
【0014】
5.前記水平部の外面の直径が、前記大動脈の内面の直径よりもわずかに大きくなっている、項目4に記載のマニホールド。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】上行大動脈に移植される本発明の導管マニホールド/血液ポンプアセンブリを示す概略断面図である。
【図1b】上行大動脈に移植された図1aに示される導管マニホールド/血液ポンプアセンブリの収縮過程におけるポンピング中の状態を示す概略図である。
【図1c】上行大動脈に移植された図1aに示される導管マニホールド/血液ポンプアセンブリの拡張過程におけるポンピング中の状態を示す概略図である。
【図2a】下行大動脈に移植された本発明の導管マニホールド/血液ポンプアセンブリを示す概略断面図である。
【図2b】下行大動脈に移植された図2aに示される導管マニホールド/血液ポンプアセンブリの収縮過程におけるポンピング中の状態を示す概略断面図である。
【図2c】下行大動脈に移植された図2aに示される導管マニホールド/血液ポンプアセンブリの拡張過程におけるポンピング中の状態を示す概略断面図である。
【図3a】本発明のコンプライアンス整合性導管マニホールドを示す概略断面図である。
【図3b】収縮過程でのポンピング中における図3aのコンプライアンス整合性導管マニホールドの血流力学特性を示す概略断面図である。
【図3c】拡張過程でのポンピング中における図3aのコンプライアンス整合性導管マニホールドの血流力学特性を示す概略断面図である。
【図4a】本発明のステント状導管マニホールドを示す概略斜視図である。
【図4b】図4aにおけるステント状導管マニホールドを示す概略断面図である。
【図5a】本発明の組織再生導管マニホールドを示す概略斜視図である。
【図5b】図5aにおける組織再生導管マニホールドを示す概略断面図である。
【図6】本発明の円形状血液ポンプの概略断面図である。
【図7a】外側殻部の片側を透過して示す本発明の体適合血液ポンプの概略図である。
【図7b】図7aにおける体適合血液ポンプを異なる角度で示す概略図である。
【図8a】組立前の本発明に用いられる混成流型の電気−流体圧ドライバの斜視図である。
【図8b】組立後の図8aにおける混成流型の電気−流体圧ドライバの断面図である。
【図9a】図8aおよび図8bにおける混成流型の電気−流体圧ドライバ内に形成された血液ポンプから収縮支援嚢に向かう流路を示す図である。
【図9b】図8aおよび図8bにおける混成流型の電気−流体圧ドライバ内に形成された収縮支援嚢から血液ポンプに向かう流路を示す図である。
【図10a】組立前の本発明に用いられる遠心型の電気−流体圧ドライバの斜視図である。
【図10b】組立後の本発明に用いられる遠心型の電気−流体圧ドライバの部分断面図である。
【図11a】図10aおよび図10bにおける遠心型の電気−流体圧ドライバに形成された血液ポンプから収縮支援嚢に向かう流路を示す図である。
【図11b】図10aおよび図10bにおける遠心型の電気−流体圧ドライバに形成された収縮支援嚢から血液ポンプに向かう流路を示す図である。
【図12】本発明の携帯用DPbi−VADシステムのレイアウトを示す概略図である。
【図13】図12における携帯DPbi−VADシステムの詳細を示す概略図である。
【図14】二重拍動制御スケジュール(AoP:大動脈圧、ECG:心電図、T,T,T,T:連続的な期間、T,T’:血液ポンプ充填期間、T:血液ポンプ放出期間)を示すプロットである。
【図15】左心室(LV)の圧力−容積の関係対二重拍動ポンピングを示すプロットである。
【図16a】本発明の収縮支援嚢を示す概略斜視図である。
【図16b】図16aにおける収縮支援嚢の一部を切断して示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(二重拍動設計の概念)
共拍動(co−pulsation)および逆拍動(counter−pulsation)を組み合わせた両心室補助装置の設計は、最新のLVAD設計において存在する上述の欠点を改良するため、以下のいくつかの新規な設計の特徴を有している。基本的に、拍動ポンピング手法を採用することは、2つの主たる考察事項、すなわち(1)移植した装置が人間の生理機能と適合して機能すること、および(2)操作安全性および患者の生活の質を確実にする長期の開存性が保障されること、に基づいている。拍動循環補助は、極めて生理学的に適合可能であり、長期の合併症、特に、末端器官の微小循環および神経ホルモン調整に関する長期の合併症を誘発させないために、この拍動の循環支援を考慮することは、論理的により賢明であるといえる。拍動装置が義務付けられないことによって、突発的なポンプの誤作動が生じたときに、患者自身の心臓機能によって切り抜けることができるため、患者にとって安全なものとなっている。加えて、拍動LVADの場合、装置によって誘発される血液損傷が少なく、従って、抗凝結剤治療への依存が少ないか、または全く依存しないため、患者の手術後の生活の質が大幅に保障されることとなる。
【0017】
本発明者の見解によれば、最近における連続流式の設計への切換えは、機械的な問題を解消する代わりに生理学的な合併症をもたらす、と考えられている。本来ならば、LVADに関する機械的設計の問題を解消するための適切な手法は、新しい未知の難治性の長期にわたる合併症を誘発する可能性の大きい非生理学的なポンピングに置換える方向性ではなく、LVADの寸法およびエネルギー消費の要求を低減させる方向性によって、解決法を見出すように試みられるべきである。
【0018】
逆拍動は、疾患のある心臓に対して、収縮期後負荷を低減し、かつ拡張期冠潅流を増加させることに有用であることが分かっている。一方、共拍動による心臓圧迫は、右心室および左心室における直接的な同時の心外膜圧迫によって、心臓収縮を補助することを可能としている。これらの2つのポンピング特性は、拍動装置を用いることによってのみ実施可能となっている。逆拍動の循環支援または共拍動の循環支援のいずれかの場合、エネルギーを血液循環に与えるための機械的作動を開始するに当たって、自然の心拍に対する正確な相制御が必要となっている。これまでに、逆拍動の原理または共拍動の原理を個々に用いる装置が、それぞれ提案かつ設計されている。逆拍動の循環支援および共拍動の循環支援を単一の装置において相乗的に用いることが、この両VAD設計原理の基礎となっている。
【0019】
心臓収縮中に、共拍動および逆拍動を併用して、上流側の心室の収縮を増加させるとともに下流側の血管の後負荷を低減させることによって、血液循環を補助することができる機械的装置であれば、上流側の補助または下流側の補助のいずれかのみによる支援循環と比較して、心拍出量の増加効率を著しく向上させることができる。拡張のモードでは、大動脈内から付勢される逆拍動のポンピングによって、すでに十分に検証されている従来の大動脈内バルーンポンプ(IABP)装置によって行なわれるものと同じように、冠潅流を補助することができる。さらに、拡張期では、装置の他の共拍動の機能によって、疾患のある心臓がさらに異常に膨張することを防止するための機械的な閉じ込め効果が得られることとなる。心臓の血行性および心筋の収縮および弛緩を改良するために共拍動および逆拍動を同時に使用する技術は、ここでは、二重拍動心臓補助と呼ばれ、この特別の循環支援手法を容易にするハードウエアは、「二重拍動式の両心室補助装置」という名称で呼ばれ、DPbi−VADと略称されている。
【0020】
二重拍動心臓補助の有意性および効果は、拍動LVAD設計と対比して少なくとも3つ存在している。第1に、二重拍動式心臓補助は、従来の拍動ドライバ設計におけるエネルギーの必要性を低減させている。これまでは作動流体(空気またはシリコンオイル)をポンピングユニットからコンプライアンス室に引き出すために消費されていた逆方向性エネルギーが、回収され、かつ収縮期圧縮支援用のエネルギーとして変換されることとなる。自然の両心室の上流端および下流端の両方から働くこの押込み−引込み(push−and−pull)作用は、ドライバのエネルギー消費を著しく低減させ、その結果、どのような最新の拍動装置によっても得られない独自の特徴が得られることとなる。第2に、コンプライアンス室を収容するための余分な空間が必要とされなくなっている。このDPbi−VADにおいて再設計されるコンプライアンス室は、本来的には無用の容積の貯蔵ポーチを機能的な収縮期圧縮支援ユニットに変換することとなる。従って、コンプライアンス室は、もはや、拍動装置にとって欠くことのできないものではなくなっている。自然の心臓を機能させるための胸腔が、ここでは、コンプライアンス室(または収縮支援嚢)によって動的に共有されている。第3に、流入/流出移植片は、もはや、LVADを機能させるために装備しなければならないバイパス流路ではなくなっている。過去の心室補助装置および最新の心室補助装置のほとんど全てが、心室/心房からの血液の排出、および機械的加圧の後、血管床内への血液の再流入を容易にするダクト通路として、合成移植片、典型的には、ポリエチレンテレフタレート(ダクロン(Dacron))または発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から作製された移植片を用いる必要があることに留意されたい。臨床では、心肺バイパス(CPB)支援によって行われねばならない移植片カニュレーションおよび吻合は、手術前後のかなりの出血および血栓形成の危険を伴う外科手術時間の大半を占めている。多くの手術後の合併症、例えば、血栓形成、移植片の捩れ、出血、およびパンヌスの過成長は、これらの流入/流出移植片に関連していることが、統計的に確認されている。逆拍動の循環支援を容易にするこの単一ポート流入/流出設計は、従来の移植片の吻合を根本的に変えることができる。実質的にどのような従来の合成移植片も、このDPbi−VADでは必要とされず、吻合は、鼓動する心臓エネルギーによって実施することができる。特別に設計された半剛体の導管マニホールドを導入することによって、血流をDPbi−VADの血液ポンプに対して流入出させるように、著しく短く、かつより流線形の通路が得られることとなる。上述したこれらの新しい固有の特徴は、拍動LVAD移植が、より嵩高い部品をうっ血した胸腔内に移植する必要があるため、より複雑、かつより困難であるという一般的な印象とは逆になっている。
【0021】
LVAD患者のほぼ30%が右心不全から死亡していることが、臨床的に確認されている。これまでに、LVAD移植の適合性を画定できる手術前マーカが、十分に開発されている。LVAD患者は、誘発された右心不全を補助するために、追加的なRVAD移植を必要とすることが多くなっている。もしも、このRVAD移植を行わないと、肺動脈圧が、上昇し、LVADの充填、すなわち、送達される心拍出量の増加が、不十分な右心室収縮によって損なわれることになる。ここに提案されるDPbi−VADは、右心室および左心室の両方への直接的な心臓圧迫を用いることによって、この問題を完全に解消することとなる。収縮支援嚢の共拍動の作用によって、肺循環および全身循環が同時に補助されている。この両心室の支援中に、心臓の自由壁の周囲に加えられる均一な加圧によって、血液バイパス用の左心室尖孔を用いる全てのLVAD移植において長い間確認されてきた合併症である房室中膜の移動を防ぐことができる。この両心室の循環支援は、この装置に他の重要かつ独自の特徴をもたらすこととなる。すなわち、DPbi−VADを移植したとき、従来のLVAD移植に関連する危険は、均衡の取れた両心室の循環支援によって、著しく低減されると考えられる。
【0022】
また、この革新的なDPbi−VAD設計は、移植手順を簡素化し、外科手術の危険を著しく軽減することとなる。このDPbi−VAD移植手順には、鼓動している心臓の外科手術が適用可能である。DPbi−VAD移植の場合、左心室の負荷を軽減させるために、および血液ポンプを充填させるために、心尖部穿孔は、もはや必要ではなくなっている。血流の直列の排出および再流入は、例えば、下行大動脈から接続される単一ポート導管マニホールドによって容易にされ、これによって、CPB手術を必要としない健全な心臓VAD移植を可能にすることができる。
【0023】
要するに、DPbi−VADは、対合二重拍動の相乗作用を発揮させ、拍動装置に関する従来の欠点を改善することができるのである。DPbi−VADは、有益なIABPによっても生じる逆拍動を含んでいるが、従来のIABPの欠点、すなわち、閉鎖式の血管内バルーンの膨張による不十分な心拍出量の増加を、動脈血管に端側吻合された非閉鎖式の傍大動脈ポンプを用いることによって改良している。収縮支援嚢によってもたらされる直接的な心臓圧迫によって、心臓収縮を付加的に増強することもできる。従来のコンプライアンス室を両心室収縮支援嚢に変換することによって、過度の空間を必要とする問題が解消されるのみならず、両心室の収縮支援嚢に変換されない場合には無駄に消費されていた逆方向性エネルギーを用いることによって、心室収縮が積極的に強化されることとなる。均衡の取れた右心室および左心室の支援も必然的に達成され、LVADによって誘発される右心不全を防ぐことができる。この嚢は、さらに拡張モードにおいて、膨張した心臓を治療的に包み込むことができる。移植片カニュレーションも、このDPbi−VADにおいて根本的に改良されている。血流に対する単一ポート流入/流出接続は、外科手術を簡素化し、移植片によって誘発される合併症に関する死亡率および病変率を低減させることとなる。心臓支援に二重拍動補助を用いることによって、拍動装置の本来的な高エネルギーの要求、過剰な外科空間の要求、および移植困難性が、著しく改良されることを理解されたい。心不全を治療する上で、治療的な血流力学機能および機械的な機能、すなわち、収縮期後負荷軽減、拡張期大動脈圧増加、心拍出量増加、および受動的な機械的閉じ込めの全てが、相乗的に確保されることとなる。最も重要なことは、DPbi−VADが、疾患のある心臓を健全に保ちながら、これらの機械的な治療措置の全てをもたらすことができることである。これらの臨床的な利点および外科的な利点は、最新MCSによって心不全患者を低死亡率および低病変率で治療する新たな発想およびプロトコルの進展を駆り立てることである。回復への橋渡しが、心不全治療の主目的とされ、心臓移植への橋渡しおよび目標治療が、次の優先的な考慮事項とされる。
【0024】
(DPbi−VADシステムの説明)
DPbi−VADシステムは、以下の6つのモジュール、すなわち、(1)導管マニホールド、(2)血液ポンプ、(3)体内ドライバシステムおよび/または体外ドライバシステム、(4)生理的制御装置、(5)収縮支援嚢、および(6)エネルギー/情報伝達システムから構成されている。各モジュールは、それぞれ、以下の図面に示されている。以下、各モジュールの設計的な特徴および機能特性を説明し、システムの全体に必要とされる仕様に対する各モジュールの役割を明らかにする。
【0025】
(a.導管マニホールド)
導管マニホールドは、大動脈に接続されるDPbi−VAD用の一体化流入/流出ポートを構成している。この傍大動脈導管マニホールドは、弁を有していてもよいし、または弁を有しない2方向ダクトであってもよい。各選択枝は、達成すべき独自の設計目標を有し、どの形式のマニホールドがより適しているかの選択は、臨床的兆候、種々の複雑さ、および医師が移植前に下す判断に基づいて行なわれることとなる。図1および図2は、それぞれ、上行大動脈または下行大動脈に移植されることが意図される代表的なマニホールドのレイアウトを示している。基本的に、マニホールドは、2つの流れ方向を1つにすることによって構成されている。流路は、血液ポンプの拍動作動中の運動量損失および乱流生成を低減させるために可能な限り流線形に形成されている。
【0026】
図1aに示されるように、クイックコネクタ204によって血液ポンプ200に接続された上行マニホールド100Aは、血流を大動脈10内に放出する(図1c)接線方向遠位側流出路101と、血液ポンプを充填する(図1b)湾曲近位側ダクト102とを有している。この設計は、高速ポンプ放出過程において、血液が導管ダクトを通過するときに頻繁に生じる全圧損失および乱流生成を最小限に抑えることを意図している。遠位端には、弁が設けられなくてもよいし、または血流方向を調節する人工弁103が取り付けられてもよい。ここでは、ジェリーフィッシュ(Jellyfish)弁が用いられている。なぜならば、この弁は、低コスト、良好な血流力学性能、低弁騒音、および導管壁への継目のない一体化によって得られる耐血栓性を有しているからである。また、高価になるが、機械的人工弁または豚生体人工弁が用いられてもよい。弁を設けたマニホールドは、良好なポンプ充填効果を有し、最も重要なことには、ポンプ充填過程中における脳血液の逆行を防ぐことができる。もちろん、欠点は、弁閉塞によって生じる高流動抵抗による心臓弁の貫通エネルギー損失に加えて、弁によって誘発される溶血および血栓塞栓症が生じることである。
【0027】
一方、図2aに示されるように、下行マニホールド100は、クイックコネクタ204によって血液ポンプ200に接続されたT字状導管となっている。収縮過程中(図2b)、血液ポンプ200が、大動脈10から下行マニホールド100を介して流れる血液によって充填されるとともに、電気−流体圧ドライバ300を用いることによって、心臓の直接圧迫が、収縮支援嚢500によって行なわれることとなる。拡張過程中(図2c)、血液ポンプ200内の血液は、下行マニホールド100を介して大動脈10内に放出されることとなる。分岐合流点の交差角は、種々の流動抵抗、すなわち、上流側血液循環および下流側血液循環に対する種々の偏向潅流を生じさせるように、変化させることができる。上行マニホールドと同様、下行マニホールドも、弁を有していてもよいし、または弁を有していなくてもよい。人工弁の設置は、血液ポンプ200によって得られる収縮期後負荷軽減(systolic unloading)をより有効にするのに役立つこととなる。なぜならば、下行大動脈流のこの一方向流れの調整によって、大腿循環の逆行によって生じる体積変位を避けることができるからである。導管マニホールド100および血液ポンプ200を下行大動脈側に配置することによって、流入/流出ポートから大動脈根元に至る管腔の距離が長くなっているため、逆拍動は、大動脈内に付与される圧力パルスが大動脈根元に達するまでの有限の距離による位相遅れを考慮して行なわれなければならない。下行マニホールドの配置によって、脳卒中の可能性が最小限に抑えられることとなる。なぜならば、血液ポンプ200の放出時に、装置によって誘発される凝結塊または微小塞栓が脳に向かう上流側への対流によって移動することは、移動距離が大きくかつ対流波速度が小さいために、比較的困難になるからである。
【0028】
弁を有しない下行マニホールドは、最も好ましい形態である。なぜならば、下行マニホールドは、2つの主な臨床的利点を有するからである。第1の利点は、鼓動している心臓の手術によって行うことができることにある。第2の利点は、人工弁によって生じる合併症を避けることができることにある。T字状流路は生理学的なものではないため、血栓形成、血管内膜の異常増殖、および平滑筋細胞の過成長を助長する生理学的な不適応性が生じることがある。流動条件および応力条件を最適化するために、この端側吻合に対処する特別の設計が提案されている。これらの提案として、制限されないが、以下の設計代替手段、すなわち、(1)コンプライアンス整合性マニホールド、(2)ステント状マニホールド、および(3)組織再生マニホールドが挙げられる。以下、これらのマニホールドについて、説明する。
【0029】
(1.コンプライアンス整合性マニホールド)
コンプライアンス不整合は、吻合接合点における狭窄の主な原因として知られている。移植片両端においてコンプライアンスが跳ね上がると、血圧拍動を受けたとき、幾何学的な不連続が生じることとなる。この幾何学的な不連続によって、高い壁せん断応力勾配が移植片/血管接合部に生じるとともに、低速再循環流が直下流側に生じ、その結果、内皮細胞浸食および拡散によって誘発される細胞増殖が、吻合部位の周囲に生じることとなる。コンプライアンス整合性移植片の設計は、移植片/血管接合部におけるこのコンプライアンス不連続現象をなくすことを意図している。図3aに示されているのは、コンプライアンス整合性マニホールド設計の原理である。移植片は、弾性ポリマー、例えば、制限されないが、ポリウレタンから作製されている。このコンプライアンス整合性マニホールド100は、血液ポンプに接続される垂直端104と、大動脈内に移植されるように構成された水平部105とを有している。水平部105は、その両端に向かって徐々に薄くなる壁部の厚さを有している。壁部のコンプライアンスは、壁部の厚さと移植片/血管材料のヤング率との積に逆比例しているために、コンプライアンス整合性移植片は、原則として、鋭利な端部、または厚みが零の導管端形状を有するべきである。移植片の直径は、大動脈内腔の直径よりもわずかに(0%〜20%)大きく設計されている。変化する壁部の厚さを有する移植片を挿入式の吻合によって大動脈管腔の内側に埋設し、互いに重ねられた移植片および大動脈を縫合方法によって緊密に嵌合することによって、互いに重ねられた移植片/血管領域の全体にわたって連続的に変化するコンプライアンスが得られることとなる。
【0030】
このコンプライアンス整合性マニホールド100は、多くの血流力学上の利点および生理学的な利点を有している。滑らかなコンプライアンス整合性接合部を設計することによって、吻合部位の周囲に生じる狭窄および血管内膜の異常増殖の傾向が最小限に抑えられることとなる。また、滑らかにかつ連続的に変化する複合管腔形状によって、流線形の流動パターンを可能な限り維持することができる。このような低乱流ダクト設計は、端側吻合を得るのに最適である。一般的に、ポンプ充填過程およびポンプ放出過程では、図3bおよび図3bにそれぞれ示されるように、分離流に関連する高圧滞留区域106および低速再循環領域107が、T接合部の近傍に生じることとなる。これらの非生理学的な流動特性は、血液細胞外傷および病的血管適応症を生じる主な因子となっている。しかしながら、このマニホールド設計および吻合の場合、非生理学的移植片をライニングすることによって、自然の血管は、これらの高せん断と低速とを組み合わせた異常な流れ特性によって受ける悪影響が防がれることとなる。このライニングによる防止効果によって、外科創傷を高加圧から保護し、これによって、手術近くおよび手術後の出血性合併症の可能性を著しく低減することに留意されたい。低コンプライアンスが優位である端領域以外は、この中心導管マニホールドは、実際には硬質壁を有する移植片となっている。この硬質壁は、逆拍動による冠潅流を容易にすることに、より有利となっている。拡張期大動脈圧増加(diastolic augmentation)は、血管壁の弾性に敏感であることが分かっている。挿入式の吻合によって、自然の血管の一部が事実上硬壁移植片によって置き換えられている。血液ポンプの放出時に、最も高い滞留流れ領域は、硬質壁を有するマニホールドに直接含まれ、このマニホールドによって支持されることとなる。従って、壁コンプライアンスの全体を低下させることによって、拡張期大動脈増加が容易になると考えられる。
【0031】
(2.ステント状マニホールド)
導管マニホールドの他の実施形態は、マニホールド移植片のステント化によって、実施されている。図4aおよび図4bは、この設計概念の概略図を示している。導管マニホールド100は、ステンレス鋼、チタン、またはチタン合金のような生体適合性材料を用いて構成されている。大動脈に埋設されるダクト部(水平部105)には、種々の形状および種々の多孔率を有する孔または穿孔108が分配され、孔付き壁部109が形成され、これによって、ステントが移植された血管内において観察されるのと同じような内皮細胞移動が可能となっている。ステント多孔性が、移植片/血管接合部の周囲に高多孔率(低ヤング率)領域を配置するように、変化してもよい。このマニホールドでは、上述のコンプライアンス整合性を有するポリマー移植片の設計と比較すると、コンプライアンス整合性を得ることが困難であるが、移植後のある期間を経た後、内皮細胞増殖が、大動脈管腔の内側のステント状マニホールドを覆って埋設し、その結果、中央領域に高剛性を有するとともに、両端の周囲に軟質かつ平滑な幾何学的/コンプライアンス遷移領域を有する新規な複合管が得られることとなる。このマニホールドでは、大きな直径(>6mm〜9mm)の動脈の場合、高流速効果によって、再狭窄は臨床的に滅多に生じないこととなる。また、移植片構造のステント特性によって生じる新しい血管内膜層によって、耐血小板性が保証されることとなる。ステント移植された動脈部分の低コンプライアンスによって、コンプライアンス整合性マニホールドが示すような拡張期大動脈圧増加を十分に高めることができる。
【0032】
(3.組織再生マニホールド)
組織再生マニホールドは、コンプライアンス整合性移植片設計の他の変更例である。使用される移植片材料は、上述の弾性ポリマーとすることができる。マニホールドの水平部105の望ましい一部の内壁面領域または外壁面領域の周囲に、小直径(30〜300μm)の微細孔または空洞110を分配して作製することができる(図5aおよび図5b参照)。これらのテキスチャー加工されたポリマー表面は、血流内の細胞が付着して成長する骨格として作用することとなる。固着した濃厚血栓は、血液細胞の相互作用をさらに促進させる。装置移植の後、血小板、単核白血球、大食細胞、異物巨細胞、リンパ球などを含む異質表面が堆積する。時間が経過すると、内膜細胞が増殖した新しい血管内膜は、マニホールドのテキスチャー加工された領域の全体にわたって拡がることとなる。好ましくは、これらの組織再生された新しい血管内膜は、移植片/血管接合部に配置されている。これによって、良好なコンプライアンス整合性、滑らかな幾何学的遷移、および動脈への強靭な移植片付着に関して、接合部の性能をさらに高めることができる。
【0033】
(b.血液ポンプ)
血液ポンプは、血液量を受けるリザーバとして、および貯蔵された血液量を動脈に押し戻すエジェクタとして、交互に機能するように構成されている。図6に示されるように、この血液ポンプ200は、単一ポート設計により構成され、隔膜205が、血液区画201内の血液とポンピング区画202内のシリコン作動流体を分離している。この血液ポンプを構成するために、生体適合性材料(例えば、ポリウレタン)が用いられている。基本的な形状または円形状は、ポンプ室において完全に行なわれる血流洗流し効果を助長することとなる。一方、流れの旋回を助長するために、流入/流出ポート203が、ポンプ中心線に対して接線方向に偏心して配置されてもよい。ポンプの一回拍出量は、胸部の許容空間およびドライバに供給される推進動力の設計値に依存して、30cc〜100cc以上の範囲内とすることができる。
【0034】
図7aおよび図7bは、図6に示されるものと同様の血液ポンプ設計の他の変更例を示している。ここでは、同様の部品は、同一の番号によって示されている。この血液ポンプ200は、楕円状で、平坦側および湾曲側を有している。凸角をなくすことによって、流線形の輪郭が得られている。外側殻部は、その形状を胸郭内壁に一致させるように、構成されている。この体適合設計によって、胸部空間を最大に利用することができ、これによって、肺との干渉を最小限に抑えることができる。ポンプの一回拍出量は、30cc〜100cc以上の範囲内とすることができる。
【0035】
円形状ポンプ設計および体適合ポンプ設計のいずれにおいても、血液および作動流体は、隔膜によって分離されている。図6に示される円形状血液ポンプの場合、隔膜205は、ポンプ殻部形状とほぼ同様の応力零の形状を有している。隔膜205は、ポンプ殻部中央の内周の周囲に密封して取り付けられている。しかしながら、図7aおよび図7bに示される体適合血液ポンプの場合、外側殻部と類似しているがそれよりも小さい形状の隔膜、実際には、ポーチ205が、流入/流出ポート203に接線方向に取り付けられている。いずれの設計においても、硬質の外側殻部が、ポーチの伸長を抑制し、隔膜の歪を疲労に関連する閾値未満に十分に制限することによって、隔膜の寿命を延ばすことができる。円形状ポンプが血液を放出するとき、隔膜205は、上方に移動し、殻部内面にかろうじて接触し、わずかな量の血液をポンプ内に残すこととなる。次のポンプ充填過程において、この残っている血液量が洗い流され、新しく補充された血液と混合される。体適合ポンプの場合、完全放出時には、ポーチ205は、その互いに向き合った隔膜がポーチ205内の血液区画201に最少の残余量を残して互いに接触するまで、完全に圧縮され、ポンプが充填すると、ポーチ205は、元の応力零の皺のない完全な形状に戻り、これによって、ポーチ205と血液ポンプ200の外側殻部との間に形成されるポンピング区画202の体積が減少することとなる。一方、部分放出の場合、貯蔵された血液は、数回のストロークによって、ポンプから完全に放出されることとなる。このポンプ設計の血流停止のない特性は、変動する拍動流れ運動と連動する殻部形状および隔膜形状によってもたらされる渦洗流し効果による。
【0036】
空気除去のための脱気ポートが血液ポンプ壁に配置されている。その位置は、血液ポンプが左開胸を介して移植されたときに気泡が集まることとなる、最上領域の周囲に選択されている。図6に示される円形状ポンプの場合、脱気ポート206は、隔膜取付け縁部の近傍に配置されている。一方、体適合ポンプの場合、脱気ポート206は、図7aおよび図7bに示されるように、ポーチ取付け/固定スタブが収容されるポーチの底部に配置されている。
【0037】
図6,図7aおよび図7bに示されるように、血液ポンプの上端は、その喉の周囲に取り付けられたクイックコネクタ204を有している。クイックコネクタ204によって、導管マニホールドに対するポンプ200の便利な迅速組立または迅速分解が可能になっている。シリコンガスケットを用いることによって、血液ポンプをマニホールドに緊密に一体化することができる。一方、底端部では、ポンプ殻部がドライバに接合可能な円形ダクト208に収束している。ポンプ/ドライバ設置を効率的に行うために、導管マニホールド/血液ポンプの一体化に用いられたことと同様のクイックコネクタ設計が用いられている。血液ポンプに対するシリコンオイルの流出入は、体内ドライバシステムまたは体外ドライバシステムを用いることによって達成されることとなる。血液ポンプをドライバに組み込むときに空気除去を促進するため、ポンプケーシング殻部には追加的な脱気ポート207が設けられている。
【0038】
(c.体内/体外ドライバシステム)
(1.体内ドライバシステム)
体内ドライバ設計には、流体圧ポンピング原理が用いられている。設計された電気−流体圧(EH)式ドライバには、インペラおよび切換弁に加えて、トルク生成用および流れ方向調整用の2つの電気駆動直流(DC)ブラシレスモータが設けられている。加圧流体またはシリコンオイルを用いることによって、作動機構の位置および配向に全く拘束されずに、動力の分配が可能になる。このEHドライバは、心電図(ECG)波形を参照して、血液ポンプおよび収縮支援嚢を非同期で作動させることとなる。動力伝達には、カニューレが用いられ、このカニューレには加圧作動流体が通ることとなる。EHドライバ本体が血液ポンプおよび/または収縮支援嚢に接続されるときには、クイックコネクタによって、EHドライバ本体の迅速かつ便利な組立/分解および配行調整が可能となっている。
【0039】
拍動流ポンピングの場合には、1つの最適設計点を探すことは、重要でなく、現実的でもない。なぜならば、ポンピング中には、固定された点ではなくループが、ポンプ性能図上に示されることになるからである。多くの場合、特定の作動ループの範囲にわたる高効率の平衡な領域全体を探すべきである。移植を容易にするために、大抵の場合、小型LVAD設計を達成するには、高作動流体圧の効率化が次の達成目的とされ、解剖学的または空間的な検討をより優先的な設計基準とすることが必要となる。
【0040】
このDPbi−VADドライバ設計では、2つのDCブラシレスモータは、EHドライバに含まれるシリコンオイル浴内に浸漬されている。電機子巻線および電子制御装置から主に、熱が生じることとなる。循環する血流と接触する外側殻部、カニューレ、および隔膜を含む全DPbi−VADの表面への消散熱を、対流によって循環して再分配する効果的な冷却機構として、オイル流れの跳ね回る動きが作用することとなる。このようにして、VAD移植片を覆う組織への伝導によって、熱を局部的に伝達させることができ、またはヒト循環システムを通して体の全体に及ぶ対流によって、熱を全体的に伝達させることができる。この電気―流体圧設計では、どのような高温点も全く生じることがないが、このことが、電子機器の信頼性を向上させるためであり、かつDPbi−VAD作動の寿命を延ばすための重要な因子となっている。
【0041】
以下、2つの電気−流体圧ドライバ設計について説明する。効率またはポンプヘッド増加のいずれに重点を置くかによって、混成流型インペラ設計または他の遠心型インペラ設計が採用されることとなる。
【0042】
(1.1 混成流型ドライバ)
本発明の好ましい実施形態の1つによって構成された混成流型電気―流体圧式ドライバが、図8a,8bに示されている。このドライバは、以下の要素/部品、すなわち、
301 ドライバケーシング、
302 基部キャップ、
303 軸受、
304 係止リング、
305 トルクモータケーシング、
306 トルクモータステータ、
307 トルクモータロータ、
308 軸受、
309 係止リング、
310 切換弁本体、
311 軸受、
312 切換弁ヘッド、
313 切換弁流出ダクト、
314 ステッピングモータロータ、
315 ステッピングモータステータ、
316 切換弁流入ダクト、
317 軸受、および
318 混成流型インペラ
から組み立てられている。
【0043】
インペラ318は、内側切換弁内に収容されており、この内側切換弁は、回転しないように互いに係合された切換弁流出ダクト313と切換弁流入ダクト316とによって形成されており、切換弁本体310と切換弁ヘッド312とによって形成された静止ケーシング内に回転可能に配置されている。モータケーシング305と、モータステータ306と、モータロータ307とによって形成されたDCブラシレストルクモータは、5,000回転/分(RPM)〜12,000RPMの典型的な速度範囲内の速度で、この混成流型インペラ318を駆動するように構成されている。約11,000RPMの速度では、少なくとも20リットル/分(LPM)の流量が、大動脈側の120mmHgの圧力上昇に対して、送達されるべきである。このインペラは、CFD(コンピュータ流体動力学)解析を用いて、設計され、かつ最適化されたものである。モータロータ314およびモータステータ315によって形成されたステッピングモータが、切換弁(313,316)の腰部の周囲に設置されている。このステッピングモータ(314,315)は、静止ケーシング(310,312)の側壁部と、内側回転切換弁(313,316)の側壁部とにそれぞれ穿孔された流入/流出開口部の対と一直線に並ぶことができる。逆拍動ポンピングを行うためのステッピング動作は、ECG波形を参考として用いる制御装置によって調整されることとなる。両モータは、方向を逆にすることによるエネルギー消費を最小限に抑えるために、一方向に回転する。切換弁の動作によって決定される2つの流路経路は、加圧オイルを、ドライバケーシング301に形成された流入/流出ポート320および流出/流入ポート319を介して、血液ポンプと収縮支援嚢との間で前方向および後方向に循環させる。図2bおよび図2cに示されるように、血液ポンプ200は、カニューレ321を介してドライバ300に接続され、収縮支援嚢500は、他のカニューレ322を介してドライバ300に接続されている。この一体化されたドライバおよび流路システムは、図9aおよび図9bに示されている。電気部品および機械部品の全ては、オイル室内に浸漬されていることに留意されたい。EHドライバの長期的な開存性を維持するためには、良好な冷却および潤滑を行ってもよい。
【0044】
(1.2 遠心型ドライバ)
本発明の好ましい実施形態の1つによって構成されたシリコンオイルをポンピングするための遠心型インペラを用いる電気―流体圧ドライバが、図10aおよび図10bに示されている。このドライバは、以下の要素/部品、すなわち、
401 ドライバケーシング、
402 ドーム弁、
403 トルクモータ、
404 遠心型インペラ、
405 ドーム弁ヘッド、
406 切換コネクタ、
407 軸受、
408 ステッピングモータロータ、
409 ステッピングモータステータ、および
410 ドライバヘッド
から組み立てられている。
【0045】
この遠心型ドライバによって、収縮支援嚢と血液ポンプとの間でオイルの循環を可能にする流路が、図11aおよび図11bに示されている。インペラ404は、社内の設計最適化手順によって支援された最新のCFDパッケージを用いて設計されたものである。流入面および流出面における半径方向インペラの入口径および出口径とブレード高さとは、広い作動速度範囲にわたる高ポンプ効率が得られるように、適切に選択されている。この遠心型EHドライバの設計目標は、約4000RPM〜8000RPMの回転速度で、200mmHgの圧力勾配に対して(>20LPM)の体積流量を供給するように設定されている。DCブラシレストルクモータ403の回転軸でもある動力伝達シャフトを支持するために、金属製またはセラミック製ボール軸受が用いられてもよい。内側回転ロータ設計および外側回転ロータ設計のいずれが採用されてもよい。シリコンオイルは軸受内に生じる熱および破片を排出することが可能であることによって、このEHドライバの長期にわたる寿命が保証されることとなる。
【0046】
ドーム弁402およびドーム弁ヘッド405によって形成されたベル状切換弁が、流れ方向および流体動力伝達方向を調整するように構成されている。このベル状切換弁は、ステッピングモータロータ408およびステッピングモータステータ409を含むDCブラシレスステッピングモータによって、駆動されることとなる。ドーム弁402の上端の近くで、かつドーム弁ヘッド405と切換コネクタ406との間において、窓部が周方向に形成されている。EHドライバのベル状切換弁とドライバケーシング401との間に形成された間隙および凹部によって、シリコンオイル流をインペラ入口に入れるように環状通路が形成されている。収縮嚢または血液ポンプのいずれかから流入したシリコンオイルは、環状の間隙の周りを循環し、上昇し、ドームの開口窓部に流入し、最終的にインペラ入口の中心に吸い込まれることとなる。
【0047】
一方、インペラによって加圧されたオイルは、螺旋構造412によって収集されることとなる。螺旋構造412の外壁部は、ドーム弁402となっている。1つの開口部413が、この螺旋壁部に開通している。開口部413は、螺旋壁部の回転によって、血液ポンプおよび収縮支援嚢に接続された2つの側カニューレに対して交互に一直線に並び、これによって、動力伝達を果たすことができる。EHドライバケーシング401の左側および右側からそれぞれ突き出る1対の「V字状」に開いたアーム414,415は、作動流体を血液ポンプと収縮支援嚢との間で前方向および後方向に循環させる流入/流出路を形成している。EHドライバは、両端(一端が低圧(〜0mmHg)の心室側で、他端が高圧(80mmHg〜120mmHg)の大動脈側)間で交互にオイルの流れを循環させる加圧ユニットと見なされる。血液ポンプのポンピングに対して好ましい高性能流出路角度が、螺旋構造に与えられている。一方、螺旋構造の出口の流出路が鋭利な湾曲を有しているため、血液ポンプからオイルの流れをドライバに引き込む後続の過程において、余分の損失が生じることとなる。しかしながら、この損失は、血液ポンプからオイルをドライバに戻すとき、心室を圧迫し、大動脈をより高い予圧状態にすることによって、補償されることとなる。
【0048】
(2.体外ドライバシステム)
体外ドライバシステムは、ベッドサイド用ユニットまたは携帯用ユニットのいずれかとすることができる。ベッドサイド用のモデルは、主に、病院内の集中治療ユニット(ICU)において用いられるように構成されている。一方、携帯用のモデルは、DPbi−VAD移植がなされ、手術後の治療期間を終了して、退院した外来患者用に設計されている。
【0049】
体外ドライバシステムは、以下に説明するように、空圧動力源またはハイブリッド空圧/電気−流体圧動力源のいずれかによって、駆動されるように構成されている。経皮ドライバラインによって生じる感染の可能性を最小限に抑えるために、IABPによって用いられるのと同様の細い空圧ラインが用いられている。基本的に、以下に示される全ての体外システムに対して、移植片、すなわち、血液ポンプおよび収縮支援嚢のそれぞれに接続される胸郭内流体源作動ラインは、ヘリウムのような不活性低分子量ガスが流れる細い空圧チューブとなっている。各胸郭内の空圧駆動ラインの出口において、経皮ボタンが皮膚の下に移植され、これによって、外側電源システムに対する内側空圧駆動ラインの使い勝手のよい迅速な取付け/取外しが可能となっている。
【0050】
体外ドライバの全てに対して、胸郭内の動力伝達設計は同一となっている。ベッドサイド用コンソールまたは携帯用DPbi−VADドライバユニットのいずれかに接続される外部駆動ラインを脱着することによって、この胸郭内装置を移植された患者は、医学治療および患者の生活様式に応じて、寝ることもできるし、または通院することもできる。
【0051】
(2.1 ベッドサイド用ドライバシステム)
このDPbi−VADは、IABPと同じ作動原理を用いているため、IABPドライバコンソールは、DPbi−VADをポンピングするドライバシステムとして用いられてもよい。DPbi−VADをIABPコンソールに接続し、かつ空圧量およびポンピング圧をDPbi−VAD作動条件に従って調整するように、アダプタを設計することができる。一般的に、DPbi−VADシステムを駆動するために、血液ポンプおよび収縮支援嚢を非同期作動する2つのIABPドライバが必要となっている。いくつかの臨床条件下で、1つのみの循環支援様式しか必要としない患者に対して、逆拍動および共拍動が単独で適用されてもよい。
【0052】
ベッドサイド用DPbi−VADの他の実施形態が、指定された駆動システムを用いて達成されている。このベッドサイド用ドライバは、ほぼ、以下に示される携帯用DPbi−VADドライバから派生した同様の機器となっている。唯一の差は、第1に、電源モジュールがバッテリ供給直流以外の代替的壁電流を受けることができる点にある。第2に、医者が参照および制御するためのより精巧な監視/表示/調整システムが装備される点にある。
【0053】
(2.2 携帯ドライバシステム)
携帯用ドライバは、ICU(集中治療室)ステージを脱した患者用に設計されている。この携帯システムは、上述の体内ドライバの変更例となっている。図12および図13は、このハイブリッド空圧/電気−流体圧ドライバシステムをいかに構成するかを示している。このシステムは、実際には、体内EHドライバにおける空間的/解剖学的な制約を緩めることによって、得られている。インペラの大きさおよびトルクモータの回転速度を、体外システムに関連するより長い流体経路内における損失を考慮して、修正することができる。良好な流体圧効率を達成するため、流体経路における鋭利な湾曲をなくすように、螺旋構造の流入/流出路は、螺旋構造本体に対して接線方向に沿って一直線に並べて配置されている。流入/流出カニューレ321,322に接続されているのは、体内システム用に設計された本来的な血液ポンプ200および収縮支援嚢500に代わって、2つのリザーバ323,324である。各リザーバは、隔膜325,326の層によって、シリコンオイルおよびヘリウムガスによって満たされた2つの区画に分割されている。各リザーバの近位ヘリウム区画側に、空圧ライン327(328)が位置し、特別に設計された抗感染経皮ボタン329(330)を介して、胸郭内ユニットに接続されている。作動状態では、インペラによって駆動された往復動するシリコンオイルが、2つの隣接リザーバ323、324に圧縮力および真空力を及ぼし、これによって、ヘリウム空気を駆動し、その結果、患者の胸郭内に移植された血液ポンプ200および収縮支援嚢500を同時に作動させることとなる。
【0054】
多重冗長(multiple redundacy)が、多重ハイブリッドドライバを用いて、実施されてもよい。平行に配置された2つのドライバユニットEDH1,EDH2を用いる二重冗長が、図13に例示されている。ポンプ誤動作が検出されると、電子制御装置600は、コマンド信号を即時に送り出し、予備のドライバを始動させ、これによって、停止のない連続的な駆動運動を保障することができる。作動流体の方向を調整するために、制御弁601,602が流体経路の接合点に設置されている。代替的に、制御装置内にプログラム化された制御ロジックを用いて、2つのEHドライバの間欠作動が設計されてもよい。各EHドライバに適切な遊休時間を交換可能に設けることによって、携帯用ドライバシステムの全体的な寿命を延長させることができる。
【0055】
各リザーバ323(324)は、ヘリウム補充システム700に接続された空圧ラインを有している。種々の心不全症候群を臨床的に治療するように、適切なヘリウム量を選択することができる。補充手順は、IABPシステムに対して実施されるものと同様となっている。体外空圧ライン327,328および体内空圧ライン331,332を再接続した後、ヘリウム量は、まず完全に排出され、次いで、必要量まで補充されねばならない。
【0056】
嵩高く重量のある往復エンジンおよび貯蔵タンクを用いる最新の空圧ドライバシステムと比較して、このターボ機械システムは、極めて軽量でかつ静かなものとなっている。バッテリパック603、電子制御装置600、およびハイブリッド空圧/電気−流体圧ユニット800のようなサブシステムは、ボックス容器に一体化され、このボックス容器は、図12に示されるように、着用可能なジャケットを用いる患者に容易に取付け可能となっている。人体の内側に移植されねばならないモジュールを最小限としたVADシステムを有することは、常に望まれている。この携帯DPbi−VADの場合、複雑な電気−機械的モジュールおよび電力供給/制御モジュールは、全て、体外に配置されている。ドライバおよび制御装置の規則的な検査および保守を行うことができるのみならず、操作中にドライバによって生じた熱を容易に大気に放出することができる。突発的な機械の誤動作が生じた場合、故障したユニットの迅速な置換を行うことができる。この携帯ドライバシステムによって、大きな移動性および安全操作性が保障されることとなる。血液ポンプおよび収縮支援嚢の拍動操作は、義務付けられていないため、ある期間(数分から数分の一時間)にわたって、DPbi−VADを停止することができる。これによって、実生活において頻繁に行われる衣服の取換え、および/または入浴などの一連の動作に対して、患者が使い勝手よく自在にDPbi−VADジャケットを脱着することができる。
【0057】
(d.生理学的制御装置)
この制御装置設計の目的は、EHドライバに対して、予定タイミングを実行し、レベル制御を強制的に行うことにある。収縮期後負荷軽減、拡張期大動脈圧増加、および心外膜圧迫(epicardial compression)を好ましく実施するには、心臓の鼓動に関連する繊細な位相操作を行うことが必要となっている。収縮期後負荷軽減および心外膜圧迫は、単一の作動として同時に実施され、心室がまさに収縮するときに始動するように設定されるのが最良である。一方、拡張期大動脈圧増加は、心臓拡張中、大動脈弁が(大動脈圧記録波形の重複隆起(discrotic notch)から開始し)丁度閉じて、冠動脈壁が緩和し始めたとき、始動される。これらの作動制御は、全て、ECGまたは大動脈圧力波形を参考基準として用いる必要がある。ECGをポンピングの制御に用いる場合、ECG信号記録においてR波を他の波形特徴から見分けるアルゴリズムを作成しなければならない。もし大動脈圧がセンサ信号として選択される場合、同様の波形認識法を容易に得ることができる。
【0058】
心拍出量は、一回拍出量と心拍数との積として得られる。生理学的な心拍調整は、一回拍出量および心拍数を、神経制御およびホルモン制御を介して自律的に調整することによって、達成されることとなる。通常、高い心拍数は、大きな心筋収縮、従って、高い拍出量に対応している。従って、自然の心臓調整を模倣する生理学的制御装置を、ECG信号を唯一の必要な制御入力として、心拍数のみに基づいて、構成することができる。すなわち、R波が追跡記録されるので、EHドライバのポンピング周期を、検出された心拍数と同じかまたは比例するように、決定することができる。この特性によって、この装置は、生理学的循環の要求に応じて、作動することができる。極めて頻繁な電気−流体圧ポンプ放出が切換弁開口部の迅速な遮断によって行われるため、この開口部における流れに対する遮断抵抗が大きくなることに留意されたい。結果的に、開口損失および必要な高放出慣性を上回る圧力をもたらすために、インペラによって供給される流体圧を増やさなければならない。従って、ステッピングモータおよびトルクモータの速度制御は、循環補助装置が心拍出力要件および治療目的の両方を満たすように生理学的に実施される状況が得られるように、適切な制御ロジックを用いて調整されねばならない。不整脈の場合、不整脈ECG信号とは無関係に、一定のポンピング周波数による既定ポンピングが指令されることになる。
【0059】
この制御装置のアクチュエータシステムは、周波数または心拍数を制御する切換弁(またはドーム弁)および機械的動力供給を調整するインペラをそれぞれ駆動する2つのモータから構成されている。混成流型EHドライバおよび遠心型EHドライバは、制御装置の構成に関しては、同じであるため、以下、遠心型ポンプの制御設計のみについて説明する。混成流型ポンプに対する同等の制御設計は、含まれるパラメータをわずかに調整することによって得られることとなる。
【0060】
遠心型EHドライバの場合、位置制御および運動制御用のステッピングモータは、ドーム弁ヘッドに取り付けられている。オイルの流れ方向を制御する場合、ステッピングモータは、連続的または間欠的に、一方向に回転する。各拍動において、ポンピング制御を、2つの段階に分けることができる。第1の段階における制御は、大動脈側における収縮期後負荷軽減制御、および同時になされる心室側における心外膜圧迫を行なう。第2の段階における制御は、拡張期大動脈圧増加を制御することであり、ここでは、収縮支援嚢は、追従オイル嚢として機能する。収縮期作動および拡張期作動のいずれにおいても、各ポンピング制御は、基本的に、始動制御から始まり、その後に位置制御および継続制御が続く3つのステップから構成されている。始動制御は、いつ制御動作を開始させるかを決定する。位置制御は、ドーム開口部を流入/流出ポートと一直線に並ぶように駆動する。一方、継続制御は、開口部の位置合わせが完了した時点で、ポンプ放出をどの程度継続するべきかを決定している。これらの6つの制御ステップの全てが、制御アルゴリズムを画定する基準としてすでに検出された期間を用いて、一心拍サイクル内において行なわれることとなる。図14は、連続的な心周期における血流力学、弁作動、および心電図に関連する制御スケジュールを示している。制御アクチュエータのこれらのタイミングおよび期間は、図15において、左心室の圧力−体積関係に置き換えて、さらに示されている。
【0061】
図14に、この制御アルゴリズムを説明するために、4つの連続的な心臓の拍動サイクルが示されている。初期位置は、インペラの螺旋構造の開口部が収縮支援嚢に繋がる流入ポート/カニューレと一直線に並ぶ位置となっている。これは、各回転の後、基準零角度が画定され、再設定される位置にもなっている。サイクル0において、制御が始動され、切換弁は、初期零度位置に配置される。ドライバは、ポンピング方向を収縮期後負荷軽減用に配向させて静止している。2つの連続的なR波が検出されると、サイクル期Tが計算され、これによって、Tに比例する2つの時間間隔T,Tが決定される。入手可能なサイクル期Tに対するT,Tの割合を画定する1対のパラメータが、制御ロジック内に当初から予め設定されている。拡張期大動脈圧増加は、第1の経過時間間隔Tの終了時に開始される。このとき、位置制御によって、ドーム弁開口部が、迅速に移動し、血液ポンプに繋がる流出ポート/カニューレと一直線に並ぶことになる。次いで、拡張期大動脈圧増加が、T期間の終了まで行われる。拡張器大動脈圧の増加の終了時に、ステッピングモータが作動し、回転を継続し、弁開口部を収縮支援嚢に繋がる流入ポート/カニューレと一直線に並ぶように再位置決めをする。収縮期後負荷軽減は、開口部の位置合わせが終了すると、直ちに開始される。概略を言えば、残っている時間間隔は、次のR波の発生の前に、残っているポンピングサイクルを行うということである。これは、大動脈圧が、心臓収縮の前に既に減少していることを意味している。新しいR波が検出されると、サイクル期間Tの更新が可能になり、続いて、2つの期間T,Tが再計算されることとなる。このサイクル制御コマンドシーケンスは、連続的に検出されるR波によって、再帰的に生成かつ実施されることとなる。
【0062】
ドーム弁の一回転(360°)がサイクル内で終了したときに、そのドーム弁の初期位置の再位置決めを補助するため、光検出センサ対が、ドーム弁およびドライバケーシングに取り付けられている。各サイクルにおいて、光検出器対が互いに一直線に並んだとき、零度の基準位置が再画定される。この設計では、零度の位置は、それぞれの開口部が収縮期後負荷軽減を行うように一直線に並ぶ位置に設定されている。この再位置決め制御によって、角度の偏りが累積することを防ぐことができ、各心拍において、螺旋構造の開口部を流出路に対して正確に一直線に並べることが確実になる。
【0063】
通流開口部が大きい場合、放出損失が小さいという事実によって、制御ロジックは、ステッピングモータの動力限界下において、ドーム弁の開口部を左流出路または右流出路と一直線に並べるように位置決めするために、可能な限り迅速に、モータの回転加速度を最大限にするように選択されるべきである。最適な拡張大動脈圧の増加および全身循環への補助を行なうように、収縮/拡張比を調整することができる。不整脈の場合、またはある限界(すなわち、100拍/分)よりも大きい心拍の場合、制御装置は、IABP制御ロジックによって供給されるものと同様の最適な心臓補助をもたらすために、心電図を無視し、一定比率の拍動補助、または2拍に1回若しくは3拍に一回の拍動補助のいずれかのコマンドを与えるように構成されている。
【0064】
DCブラシレストルクモータは、インペラに主駆動力をもたらすように構成されている。この動力は、バッテリパックによって供給され、速度制御装置によって調整されることとなる。このトルクモータは、20ワット〜30ワットの範囲内の出力を供給することが見込まれている。心拍数が増加すると、開口抵抗および動脈圧の両方が上昇し、所望の心拍出力の要求を達成するため、大きなポンピング力が必要とされることとなる。この生理学的な要求に対処するために、受動的トルクモータまたは能動的トルクモータのいずれかを用いることができる。例えば、受動制御用の心拍範囲に対して、所定の区分的なRPM目標スケジュールを、モータドライバに含まれる自律的なRPM追跡制御装置によって、設定することができる。より多くのセンサを必要とする、すなわち、人体の要求または心臓機能が有するはずの規律を反映するために供給される情報を必要とする精緻な能動的生理制御装置が考えられてもよい。
【0065】
(e.収縮支援嚢)
両心室収縮期圧迫と逆拍動循環補助との組合せが、本発明の独自の特徴である。拍動LVAD装置の場合、本来的に、コンプライアンス室を設けることが不可欠な必要条件とされてきた。なぜならば、拍動は、一回拍出量分の前後変位を行うために、追加的な容積部を必要とするからである。従って、装置移植に必要な空間が2倍になっている。収縮支援嚢の移植は、この欠点を利点に変えるものである。嚢が膨張すると、心室が収縮し、嚢が委縮すると、心室が膨張する。従って、この嚢を収容する空間は、その空間を自然の心室と動力学的に共有するため、それほど大きい追加的な空間を占有しないこととなる。
【0066】
好ましい実施形態によれば、この収縮支援嚢は、ポリウレタン(PU)箔の2枚のシートから構成されている。一枚のシート、具体的には、半剛体でかつ非膨張性のある外側殻部を構成するシートは、その伸長変形を拘束するために、布地網内に埋設されている。他のシート、具体的には、心収縮を補助するために用いられる隔膜を構成するシートは、溶液浸漬法によって作製される薄い柔軟膜となっている。これら二枚のPU箔の寸法および形態は、原理的に、拡張期の終端の状態における心臓の寸法および形態とほとんど同じになるように、選択される。心不全の心臓が膨張する場合、嚢を適切に寸法決めすることによって、さらなる病的な膨張を制限することができる。病的に膨張している心臓は、極めて不規則な形状を有する可能性があることが、臨床的に確認されている。効果的な心外膜圧迫を達成するために、疾患のある心臓の形状に対する嚢の適合性が、極めて重要となっている。移植前に取られたCTスキャン画像を用いて、特注の嚢を作製することができる。
【0067】
図16aおよび図16bに示されているものは、収縮支援嚢500の概略図である。外側殻部501および弾性隔膜502は、PU溶媒法または他の方法によって、嚢縁部の周囲に一緒に融合され、その結果、密封体が得られることとなる。導管503が、柔軟ではない外側殻部501に設けられ、これによって、シリコンオイルが嚢500内に導かれ、および/または嚢500から引き出されることが可能になる。必要に応じて、脱気ポート504が、空気除去を容易にするために、外側殻部に設置されるとよい。弾性隔膜502は、周辺縁部を除けば、外側殻部に対するどのような取付け点も有していないことに留意されたい。弾性隔膜が自由に運動するこの特性によって、著しい形状適応能力を嚢にもたらすことができる。さらに、この弾性隔膜設計は、弾性隔膜と心臓皮膚との間に生じる相対的な運動を最小限に抑えることに特に意味がある。これによって、心筋挫傷または瘢痕組織形成を著しく回避することができる。
【0068】
嚢を設置する場合、嚢の挿入を可能にするために、心膜が最初に切除され、流体が排出される。次いで、収縮支援嚢が、心臓の周囲をぴったりと包むことができるように、心膜開口部内に挿入される。嚢は、右心室および左心室のみを包むことに留意されたい。この寸法決め制御によって、供給された流体圧が両心房を圧迫することを防ぐことができる。この考えは、合理的な低拡張終期圧を維持し、後続の両心室充填の機能障害を避けるために、不可欠となっている。心室収縮期において両心房が圧迫されるとき、早まって房室弁の開口部が現れることがあるが、これは、機能不全弁を有する患者によっては、特に望ましくない。概して、嚢の形状を心房が嚢を包まなくするように輪郭形成することに、注意が払われるべきである。収縮期圧迫支援から心房を隔離することが必要であり、もしも、心房を収縮期圧迫支援から隔離しないと、静脈環流圧および肺静脈圧が、加えられる圧迫力によって上昇することになる。
【0069】
両心室と接触する薄いPU隔膜は、極めて柔軟であり、両心室と共通の形状を有している。心臓皮膚に残っている心筋流体が、嚢を両心室に取付けたときに捕捉された空気を排除する液体膜として作用することとなる。典型的には、数回のポンピングストロークによって取付け時に捕捉された気泡を絞り出し、これによって、嚢の内膜を心室皮膚に緊密に取り付けることができることが、体内実験によって確認されている。嚢が心臓と同期して作用するため、冠潅流を著しく低下させることがない。拡張期には、心臓および嚢の両方が弛緩し、これによって、冠潅流が促されることとなる。嚢の膜が心臓皮膚に緊密に取り付けられているので、拡張期大動脈圧増加ストローク中に、嚢内に生じた真空が心室の自由壁への吸引効果をもたらすこととなる。これは、拡張終期の体積、従って、一回拍出量を増加させることに有益となっている。加えて、この吸引効果は、冠動脈腔を拡張させて、冠動脈の流れを増加させる他の有益な効果をもたらすのにも役立つこととなる。
【0070】
嚢の固定は、直接的な心臓圧迫の性能を維持することに関して、重要な役割を有している。心室が収縮するとき、嚢に作用する反応力は、概略的に、隔膜面の先端方向に向けられることとなる。この反応力は、主に、移植されたEHドライバによって支持されるオイル導管支柱によって支持されている。そのため、嚢500の基部に位置する導管503の周囲に、カフリング505が形成されている。この基部のカフリング505を、嚢の配向および固定の制御を助長するように、心外膜に緊密に縫合することができる。必要に応じて、他の嚢のカフ(図示せず)を周囲の胸膜組織および/または骨構造に縫い付けるか、または係留することによって、追加的な固定を行ってもよい。
【0071】
左心室および右心室の両方が嚢内に包まれているため、この嚢によって、両心室の循環支援が達成されることとなる。収縮期後負荷軽減モードでは、一回拍出量と同程度の量のシリコンオイルが、収縮支援嚢内に排出されることとなる。この往復方向の移動量(shuttled volume)、典型的には、30cc〜90ccは、左心室および右心室の両方の収縮によって生じた内側の凹部内に再分配されることとなる。この往復方向の移動量は、左右心室の収縮による全拍出量の一部のみしか占めないことに留意されたい。従って、効果的な心外膜圧迫作用は、最初の圧迫過程のみにおいて生じるにすぎない。換言すると、両心室の最前部が、血液放出に至る等積収縮の開始時またはその直前に押圧されるということである。残余の収縮期において、嚢の隔膜は、収縮する心筋によって受動的に支持され、一緒に内方に移動することとなる。嚢のこの制限された内向きの動力ストロークによって、右心室を極端に圧縮することが防止されることとなる。それにもかかわらず、心筋が嚢の隔膜に直接的に接触することによって、心筋酸素消費を低減するために重要と知られる初期心筋短縮を効果的に助長することができる。
【0072】
要約すると、収縮支援嚢の機能は、多岐にわたっている。第1の機能は、この嚢が、心臓の損傷を防止し、外側から加えられる振動または衝撃運動を吸収する人工心膜ポーチとして作用することである。第2の機能は、拡張期には、嚢が、心臓のさらに異常な膨張を抑制する役割を果たすことである。第3のもっとも重要な機能は、嚢が、右心室および左心室の両方の収縮を補助し、その結果、均衡の取れた循環支援をもたらし、頻繁に観察されるLVAによって誘発される合併症である左心室支援による右心不全を回避することができる。直接的な嚢の圧迫は、疾患のある両心室の収縮を強め、逆拍動循環補助と協働して、血液ポンプを充填するのみならず、冠潅流の増加に有害であると知られる過大な後負荷軽減を防ぐことができる。
【0073】
(f.エネルギー/情報伝達システム)
皮下移植式エネルギー/情報伝達システムおよび経皮移植式エネルギー/情報伝達システムの両方が考えられる。皮下移植式システムの場合、移植される部品が少ないため、手術後の感染の可能性が増加するという犠牲を伴うが、外科手術は容易となっている。高質ワイヤが用いられるため、電気エネルギーおよびセンサ信号/指令信号を、高い信頼性でかつ高効率で伝達することができる。無線エネルギー/データ伝達によって生じる干渉を最小限に抑えることができる。加えて、多くの発熱電子機器、例えば、モータ制御装置、バッテリ、データ取得ユニットおよびデータ処理ユニットが体内に移植されていないため、胸郭内の放熱を低下させることもできる。
【0074】
経皮移植式伝達システムは、患者の生活の質を最大限に高めることができるため、好ましいものである。内部充電バッテリセットおよび電子制御装置のような追加部品が移植されねばならないため、移植可能なVADシステムの嵩高さが増加することとなる。移植片から内部的に生じる熱を外に伝達させるために、熱を生じる部品は、EHドライバ内にパッケージされねばならないため、EHドライバの寸法が大きくなることとなる。
【0075】
出願中の特許請求の範囲に記載されていない上述の特徴は、本出願の分割出願に記載されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
T字状導管に構成されて、水平部および垂直端部を有するマニホールドであって、
前記水平部が大動脈に移植され、
前記垂直端部が大動脈の外側に向かって延びるように形成され、
前記水平部が大動脈のみによって保持される構成となっている、マニホールド。
【請求項2】
金属および弾性ポリマーからなる群から選択される生体適合性材料から作製されている請求項1に記載のマニホールド。
【請求項3】
前記水平部の壁部の厚さが、前記水平部の両端に向かって徐々に減少している、請求項1に記載のマニホールド。
【請求項4】
前記水平部および前記垂直端部が円形断面を有している、請求項1に記載のマニホールド。
【請求項5】
前記水平部の外面の直径が、大動脈の内面の直径よりもわずかに大きくなっている、請求項4に記載のマニホールド。


【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【公開番号】特開2011−120944(P2011−120944A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26804(P2011−26804)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2008−553260(P2008−553260)の分割
【原出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(509053835)ナショナル・チェン・クン・ユニヴァーシティ (5)
【Fターム(参考)】