説明

マルチウェルプレート

【課題】生化学分析用のマルチウェルプレートにおいて、ウェル間の溶液のコンタミネーション阻止を確保するプレートを提供する。
【解決手段】形状は、複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置される平面部とを有するマルチウェルプレートであり、隣接するウェル開口部間に疎水処理部分を設けることによる液体流延防止処理により、ウェル間の液体の混入を防ぐことが可能なマルチウェルプレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学分析用のマルチウェルプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチウェルプレートは、1枚のプレートに複数の反応部分であるウェルを設けたもので、生化学分析用として、種々の形態が市販されている。例えば、96、384、又は1536個のウェルを有するプレートが市販されている。
生化学分析の対象としては、DNA,RNAの核酸、蛋白質、ペプチド、糖鎖等があげられる。
【0003】
多くの種類の生化学分析で、マルチウェルプレートのウェル中にサンプルを固定化し、当該サンプルを反応する物質を検出する、ウェル内で免疫反応を利用し対象物質を検出する、などの方法で種々の用途に用いられている。特にウェル内で免疫反応を利用して対象物質を検出する方法は、抗原抗体反応を用いる場合が多く、ELISA法等、汎用性の高い方法が開発、利用されている。
【0004】
マルチウェルプレートにおいて、隣接するウェルで異なる試料を用いる場合が多く、溶液分注時の隣接ウェルの汚染を防ぐために、プレート上面部のウェル開口部の周囲にリング状の突起部を有するプレートや、ウェル側壁が底面部から立ち上がり各ウェルが煙突状に独立して存在するプレート等が開発されている。
【0005】
上記のELISA法等では、抗原抗体反応をウェル内で溶液系で行うが、この際、反応を起こしやすくするために、プレート全体を撹拌する必要があり、そのためのプレートミキサーが種々開発さている。
【0006】
生化学分析用マルチウェルプレートは、ウェル内を親水性処理する場合が多いが(例えば特許文献1)、一般的に、プレート全体を同時に表面親水処理を実施する。これは生産性を上げるためであるが、こうした場合、ウェル外の部分も親水化されるため、先のプレートミキサー使用時に、プレート上面の親水性が高いため、隣接するウェルへの溶液の混入などの問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−64213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マルチウェルプレートにおいて、ウェル間の液体流延防止処理がなされたマルチウェルプレートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、以下の(1)〜(12)に記載の本発明により達成される。
(1)2つ以上のウェルを有する生物学的分析用のマルチウェルプレートであって、
プレート上面に平面部を有し、
隣接するウェル開口部間に液体流延防止部を有する
ことを特徴とするマルチウェルプレート。
(2)ウェル内面が、親水性処理がなされた(1)記載のマルチウェルプレート。
(3)液体流延防止部が、隣接するウェル開口部間に設けられた疎水部である(1)または(2)記載のマルチウェルプレート。
(4)前記疎水部が、疎水性樹脂基材である、または疎水性処理である(1)ないし(3)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(5)疎水性処理が、プレート上面で平面部に施されている(1)ないし(4)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(6)疎水性樹脂基材による疎水性処理が、以下の工程で作製される(1)ないし(5)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
ウェル上面部にマスキング剤を塗布。
マルチウェルプレートを表面酸化処理。
マスキング剤を除去。
(7)前記疎水性処理が、疎水性物質を塗布する(1)ないし(5)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(8)塗布する疎水性物質が、シリコン化合物、フッ素化合物である(7)記載のマルチウェルプレート。
(9)ウェル内の親水性が、水の前進接触角で45度以下である(1)ないし(8)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(10)疎水性処理部の水の前進接触角が70度以上である(1)ないし(9)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート
(11)前記マルチウェルプレートが、96ウェルプレートである(1)ないし(10)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(12)前記マルチウェルプレートが、プラスチック樹脂製である(1)ないし(11)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
(13)前記プラスチック樹脂が、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートである(12)項に記載のマルチウェルプレート。
(14)前記マルチウェルプレートが、射出成型で製造される(12)または(13)に記載のマルチウェルプレート。
(15)ウェル開口部が、円形または楕円形である(1)ないし(14)いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【発明の効果】
【0010】
マルチウェルプレートの隣接するウェル開口部間に疎水処理部分を設けることによる液体流延防止処理により、ウェル間の液体の混入を防ぐことが可能なマルチウェルプレートを得た。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一般的なマルチウェルプレート上面の形態図。
【図2】本発発明の流延防止部を設けたマルチウェルプレートの撹拌後の上面を表す図。
【図3】比較例の全面親水性処理したマルチウェルプレートの撹拌後の上面を表す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のマルチウェルプレートの詳細について説明する。
【0013】
本発明におけるマルチウェルプレートの形状は、複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置される平面部とを有するマルチウェルプレートであり、前記ウェルの開口部間に体流延防止部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
ここで述べる液体流延防止部とは、本来ウェル内に収まるはずの溶液が、ウェル外に流れ、隣接するウェル内に流れ入ることを防止するために設けたものである。この液体流延防
止部は、マルチウェルプレート上面の平坦部に液体がウェル外に流れても、当該ウェル以外のウェルには到達しないようにするためのものである。
【0015】
本願発明における液体流延防止部としては、疎水部をウェル開口部間に設けることで達成される。
線機目的は、隣接するウェル開口部の平面に部に疎水部分を設けることで達成される。
【0016】
隣接するウェル開口部の平面間に疎水部分を設けることについて、以下に述べる。
この方法は隣接するウェル間に疎水性の領域を設け、疎水性に対し親和性のない溶液の流延を防ぐものである。通常、生化学分析に用いられる溶液は、水溶液であることが多いので疎水性の領域を設けることで流延を防止することが可能である。
【0017】
疎水性処理の具体的な方法としては、例えば、疎水性物質をプレート平面部に塗布する、マルチウェルプレートを親水化処理する際に、パターン状にマスキングを施した後、表面親水化処理し、マスキング剤を除去する方法がある。
【0018】
疎水性物質を塗布する方法としては、シリコンコーティング剤を塗布し乾燥させ、シリコン層を形成させる方法が一般的である。シリコンコーティング用の樹脂は、市販されており、特に限定するものではない。
【0019】
また、パターン状にマスキングする方法としては、例えば、マスキング剤を図3の形状に塗布する、マスキングテープなどを各ウェル間に線状に配置する、マスキングシートを図3の形状にカットしマルチウェルプレート上面に貼り合わせる方法がある。
親水処理としては、後で詳細に説明するが、具体的には表面酸化処理を用いる。表面酸化処理後、マスキングを除去することで、成形品の生なりの樹脂部分(一般的には疎水性)がマスキングの形状に残ることになり、液体流延防止が可能となる。
【0020】
本発明に述べるマルチウェルプレートは、1枚のプレートに複数のウェルを有するものであれば、特に限定するものではないが、96、384ウェルプレートが好ましく、特に好ましくは96ウェルプレートである。一般的な96ウェルプレートのサイズとして、横127.6mm、奥行85.8mm、高さ14mmで、ウェル容量が0.4mLである場合が多く、好ましくはこのサイズであるが、特に限定するものではない。
【0021】
ウェル開口部は、円形または楕円形であることが好ましい。
【0022】
本発明のマイクロプレートは、樹脂製の材料で成形することができる。この樹脂材料は、上記マイクロプレートをディスポーザルタイプにすることができるのに加え、容易に成形することができる。上記樹脂材料としては、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフ
ィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも該マイクロプレートに求められる成形性、透明性の点においてポリスチレン樹脂が特に好ましい。
【0023】
上記樹脂材料から本発明のマイクロプレートを製造する場合、例えば射出成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形により、製造することができる。
【0024】
表面処理には、検体成分のプレートへの物理化学吸着を促進するために、行う。具体的には、ウェル内面を親水処理する、ウェル内面に官能基を形成させることがあげられる
【0025】
表面親水化処理には、例えばプラズマ処理、コロナ放電処理、放射線照射処理がある。これらの処理により、例えば抗体の固定化量を向上させることができる。
【0026】
また、官能基を有するポリマーを塗布することにより、ウェル内面の生理活性物質との親和性を向上させることが可能である。
【0027】
使用可能な滅菌は、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、低温プラズマ滅菌、蒸気滅菌などが挙げられるが、使用する樹脂により選択すれば良い。一般的には、滅菌のバリデーション、在留物質の管理等を考慮すると放射線滅菌を用いることが好ましい。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例を以下に記載するが、これに限定されるものではない。
【0029】
<実施例1>
(マルチウェルプレートの作製)
ポリスチレン樹脂製の96ウェルプレート(住友ベークライト製、MS−9096W)を準備し、プレート上面の平面部にウェル開口部に相当する個所をパンチで打ち抜き開口させたプレートシールを貼りつた。これによりプレート平面部がマスキングされ、ウェル開口部が解放された状態のプレートを作製し、プラズマ処理装置(BRANSON/IPC社製 SERIES7000)を用いてプラズマ処理(酸素プラズマ10分)を行い、プラズマ処理後、プレートシールをはがし、ウェル内面に親水性を付与したプレートを作製した。
【0030】
<実施例2>
(マルチウェルプレートの作製)
ポリスチレン樹脂製の96ウェルプレート(住友ベークライト製、MS−9096W)を準備し、プラズマ処理装置(BRANSON/IPC社製 SERIES7000)を用いてプラズマ処理(酸素プラズマ10分)を行った後、プレート上面の平面部をシリコナイズ処理した。
シリコナイズ試薬(シリコナイズ L−25、富士システムズ製)を60℃のお湯で40倍希釈し、直ちにプレート平面部に塗布。10秒後、プレート全体を蒸留水につけて洗浄、乾燥させて用いた。
【0031】
<比較例1>
実施例1記載の96ウェルプレートをプラズマ処理装置(BRANSON/IPC社製 SERIES7000)を用いてプラズマ処理(酸素プラズマ10分)を行い、プレート全体に親水性を付与したものを比較例1として用いた。
【0032】
(接触角の測定)
接触角測定器でプレートウェル内面、及びプレート平面部の水の前進接触角を測定した。
【0033】
(プレート撹拌試験)
トリパンブルー(TrypanBlue Stain 0,4%、GIBCO社製)を超純水で10倍希釈した溶液を作製。実施例1、比較例のウェルに200μL加え、プレートミキサー(Thermomixer confort、エッペンドルフ社製)にセット
し、1300rpmで5分間振とうさせ、結果を図2、図3に示す。
【表1】

【0034】
表1より、実施例1、2では、ウェル内面のみが親水化され、プレート上面の平面部は疎水性が保たれているのに対し、比較例1はプレート全体が親水化されていることが確認された。
また、図2,3より、実施例1においてはウェル内に充填した液体が撹拌によってプレート平面上に流れ出していないことが観察された。一方、比較例では、プレート上面への溶液野流れ出しが観察され、本発明の効果が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によると、生化学分析用のマルチウェルプレートを得ることができる。液体流延防止処理により、ウェル間の液体の混入を防ぐことが可能となり、ウェルをプレートシール等でふさぐ必要なく撹拌可能となった。
【符号の説明】
【0036】
1 ウェル内面
2 プレート上面平面部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のウェルを有する生物学的分析用のマルチウェルプレートであって、
プレート上面に平面部を有し、
隣接するウェル開口部間に液体流延防止部を有する
ことを特徴とするマルチウェルプレート。
【請求項2】
ウェル内面が、親水性処理がなされた請求項1記載のマルチウェルプレート。
【請求項3】
液体流延防止部が、隣接するウェル開口部間に設けられた疎水部である請求項1または2記載のマルチウェルプレート。
【請求項4】
前記疎水部が、疎水性樹脂基材である、または疎水性処理である請求項1ないし3いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項5】
疎水性処理が、プレート上面で平面部に施されている請求項1ないし4いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項6】
疎水性樹脂基材による疎水性処理が、以下の工程で作製される請求項1ないし5いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
ウェル上面部にマスキング剤を塗布。
マルチウェルプレートを表面酸化処理。
マスキング剤を除去。
【請求項7】
前記疎水性処理が、疎水性物質を塗布する請求項1ないし5いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項8】
塗布する疎水性物質が、シリコン化合物、フッ素化合物である請求項7記載のマルチウェルプレート。
【請求項9】
ウェル内の親水性が、水の前進接触角で45度以下である請求項1ないし8いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項10】
疎水性処理部の水の前進接触角が70度以上である請求項1ないし9いずれか1項に記載のマルチウェルプレート
【請求項11】
前記マルチウェルプレートが、96ウェルプレートである請求項1ないし10いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項12】
前記マルチウェルプレートが、プラスチック樹脂製である請求項1ないし11いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項13】
前記プラスチック樹脂が、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートである請求項12項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項14】
前記マルチウェルプレートが、射出成型で製造される請求項12または13に記載のマルチウェルプレート。
【請求項15】
ウェル開口部が、円形または楕円形である請求項1ないし14いずれか1項に記載のマルチウェルプレート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66393(P2013−66393A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205418(P2011−205418)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】