説明

マルチクレードHIVワクチン

多価及びアジュバント化HIVエンベロープ糖タンパク質を含む組成物について記載する。又、HIVの処置及び予防にこれらの組成物を使用する方法も提供する。本発明のHIVエンベロープ組成物は、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含み、このエンベロープポリペプチドの少なくとも2種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来する。また、HIVエンベロープ組成物は、3種類以上(少なくとも3種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含み、このエンベロープポリペプチドの少なくとも3種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来する。更なる一実施形態において、このHIVエンベロープ組成物は、1種類以上のアジュバント(MF59、CpG分子、PLG微粒子等の微粒子、ミョウバン等)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2005年10月17日に出願された米国仮特許出願第60/727,665号およびの2005年12月27日に出願された米国仮特許出願第60/754,466号の利益を請求する。上記出願の教示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明はその全体又は一部が、米国国立アレルギー感染病研究所によるNIAID−NIH HIVRAD助成金番号5P01 AI48225−03の支援を受けて行われたものである。米国政府は、本発明の特定の権利を有する場合がある。
【0003】
(技術分野)
本発明は一般的に、多価HIVエンベロープ(Env)糖タンパク質を含む組成物に関する。本発明は又、前記組成物を使用して免疫応答を誘発する、例えば中和スペクトルの広い抗体応答を誘発する方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
(背景技術)
20世紀後半から最も猛威を振るった疾患の1つに、HIV感染が原因となる後天性免疫不全症候群(AIDS)がある(例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4を参照)。HIV−1(欧州又は米国で分離された数株を意味する総称)及びHIV−2(多くの西アフリカ諸国に固有の株)を含めたHIVの株が幾つか知られている。HIV−1(HTLV−III、LAV又はHTLV−III/LAVとも呼ばれる)は、系統発生学的解析によって3つの群、即ち、M(major)群、O(outlier)群、並びにカメルーンにおけるその発生地と関連付けられてきたHIV−1の変異体、即ち指定されたN群(非特許文献5)に分類される。3つのHIV−1群は、全てAIDSの原因となる。
【0005】
AIDS患者は、通常、長い無症状期間の後に免疫系及び中枢神経系の進行性変性を発現する。組織培養において、ウイルスの複製を高度に調節し、CD4陽性ヘルパーTリンパ球サブセットの潜伏感染や溶解感染が発現する(非特許文献6)。HIV−1の分子研究により、これが、全てのレトロウイルスに共通する3つの構造遺伝子(gag、pol及びenv)を含めた幾つかの遺伝子をコードすることが明らかにされている(非特許文献7;非特許文献8)。又、他のレトロウイルス、特にHIV−2やサル免疫不全ウイルス(SIV(以前の呼称はSTLV−III))のウイルスゲノムのヌクレオチド配列も、これらの構造遺伝子を含む(非特許文献9)。
【0006】
HIV−1、HIV−2及びSIVのエンベロープタンパク質は、約160kd(gp160)の糖タンパク質である。宿主細胞のウイルス感染の際に、gp160は宿主細胞のプロテアーゼにより開裂され、gp120及び必須膜タンパク質(gp41)が形成される。gp41部分はビリオンの膜二重層内に固定されるが、gp120部分は周囲の外部に突出する。gp120及びgp41は更に共有結合し、ビリオンや感染細胞の表面から遊離gp120が放出される可能性がある。
【0007】
CD4及び/又は共受容体にリガンド結合するgp120の結晶学的研究により、特定の発生構造を有する2つの主要ドメインにこのポリペプチドが折りたたまれることが示されている。内側ドメイン(N末端及びC末端に対して内側)は、その末端から近端に小さな5本鎖サンドイッチを有し、V1/V2ステムが発生する遠端に突起を有する2本ヘリックスの2本鎖バンドルを特徴とする。外側ドメインは、外側バレルの軸と内側バンドルの軸が殆ど平行になるように内側ドメインに並んで位置する、領域化された二重バレルである。遠位の内側ドメインと遠位の外側ドメインの間には、内側ドメインと外側のドメインとV1/V2ドメインとに接触するがそれらとは異なる固有のミニドメインを有する4本鎖の架橋シートがある。この架橋シートは、4本のβ鎖構造(β−3、β−2、β−21、β−20)から構成される。架橋領域は主に内側ドメインに包まれるが、Phe382等の外側ドメインの表面残基の一部は、その疎水性コアの部分を形成する架橋シート内に到達する。特許文献1も参照されたい。最近になり非特許文献10に示された通り、エンベロープ糖タンパク質(例えば、SIVエンベロープ)は、リガンド結合しない場合、多種多様の構造を示す。
【0008】
HIVエンベロープポリペプチドの免疫原性も研究されてきたが、中和スペクトルの広い抗体応答は依然として観察されていない。例えば、非特許文献11;非特許文献11;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20を参照されたい。
【特許文献1】国際公開第00/39303号パンフレット
【非特許文献1】Barre−Sinoussi, et al. (1983) Science 220:868−871
【非特許文献2】Gallo, et al. (1984) Science 224:500−503
【非特許文献3】Levy, et al. (1984) Science 225:840−842
【非特許文献4】Siegal, et al. (1981) N. Engl. J. Med. 305:1439−1444
【非特許文献5】Simon, et al. (1998) Nat. Med. 4:1032−1037
【非特許文献6】Zagury, et al. (1986) Science 231:850−853
【非特許文献7】Ratner, et al. (1985) Nature 313:277−284
【非特許文献8】Sanchez−Pescador, et al. (1985) Science 227:484−492
【非特許文献9】Guyader, et al. (1987) Nature 326:662−669
【非特許文献10】Chen, et al., (2005) Nature 433:834−841
【非特許文献11】Javaherian, K., et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6786−6772
【非特許文献12】Matsushita, M., et al. (1988) J. Virol. 62:2107−2144
【非特許文献13】Putney, S., et al. (1986) Science 234:1392−1395
【非特許文献14】Rushe, J.R., et al. (1988) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 85:3198−3202
【非特許文献15】Matthews, T. (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:9709−9713
【非特許文献16】Nara, P. L., et al. (1988) J. Virol. 62:2622−2628
【非特許文献17】Palker, T.J., et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:1932−1936)
【非特許文献18】Stamatatos, et al. (1998) AIDS Res Hum Retroviruses 14(13):1129−1139
【非特許文献19】Wyatt, R., et al. (1995) J. Virol. 69:5723−5733
【非特許文献20】Leu, et al. (1998) AIDS Res. and Human Retroviruses 14:151−155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、被験体の中和スペクトルの広い抗体応答を誘発することができる組成物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、多価HIVエンベロープ(Env)組成物に関する。特定の実施形態において、HIVエンベロープ組成物は、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含むものであって、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来するものである。別の実施形態において、HIVエンベロープ組成物は、3種類以上(少なくとも3種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含むものであって、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも3種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来するものである。更なる一実施形態において、HIVエンベロープ組成物は、1種類以上のアジュバント(MF59、CpG分子、PLG微粒子等の微粒子、ミョウバン等)を含む。特定の実施形態において、HIVエンベロープ組成物は、CpG等の免疫賦活薬分子を含む。従って、特定の実施形態において、本発明は、2種類以上(少なくとも2種類)のアジュバント化HIVエンベロープ糖タンパク質を含む多価組成物に関する。
【0011】
他の実施形態において、多価HIVエンベロープ組成物は、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含むものであって、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類がそれぞれ異なるHIVタイプ(例えば、HIV−1、HIV−2)に由来するものである。更に他の実施形態において、多価HIVエンベロープ組成物は、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドを含むものであって、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類がそれぞれ、同じサブタイプ(例えば、HIV−1SF2、HIV−1SF162、HIV−1CM235等)の異なる株に由来するものである。
【0012】
特定の実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質はgp120を含む。他の実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質はgp140を含む。更に他の実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質はgp160を含む。本明細書に記載の組成物の何れかにおいて、HIVエンベロープ糖タンパク質は、モノマー又はオリゴマーの形態で発現される可能性がある。特定の一実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質はオリゴマーgp140(o−gp140)を含む。別の実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質は、V2ループの一部の欠失を含むオリゴマーgp140を含む。他の実施形態において、HIVエンベロープ糖タンパク質は、V1ループの一部の欠失を含むオリゴマーgp140ポリペプチド、V3ループの一部の欠失を含むオリゴマーgp140ポリペプチド、或いは変異プロテアーゼ開裂部位を有するオリゴマーgp140ポリペプチドを含む。
【0013】
特定の実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、サブタイプA(例えば、A1、A2)、B、C、D、F(例えば、F1、F2)、G、H、J及びKからなる群より選択される2種類以上のサブタイプに由来するHIVエンベロープポリペプチドを含む。他の実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、サブタイプA(例えば、A1、A2)、B、C、D、F(例えば、F1、F2)、G、H、J及びK並びに組換え型流行株(CRF)からなる群より選択される2種類以上のサブタイプに由来するHIVエンベロープポリペプチドも含む。更に他の実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、2種類以上のサブタイプ及び/又はCRFに由来するHIVエンベロープポリペプチドも更に含む。CRFは、本明細書だけでなく当該技術分野においてもサブタイプE又はIと呼ばれてきた。従って、前記多価組成物は、前記サブタイプ又はCRFの2種類以上に由来するHIVエンベロープ糖タンパク質、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10種類のサブタイプ又はCRFに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含んでよい。特定の実施形態において、多価組成物は、サブタイプA及びBに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。他の実施形態において、前記多価組成物は、サブタイプA及びCに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。尚更なる実施形態において、多価組成物は、サブタイプB及びCに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。他の実施形態において、多価組成物は、サブタイプA、B及びCに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。更に他の実施形態において、多価組成物は、サブタイプA、B及びEに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。他の実施形態において、多価組成物は、サブタイプA及びB;A及びC;A及びE;B及びC;B及びE;又はC及びEに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。
【0014】
特定の実施形態において、前記HIVエンベロープ糖タンパク質は、CD4、CD4模倣物(mimetic)、CCR5共受容体又は模倣物、TAT、他のウイルスタンパク質、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、小分子、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される1種類以上の更なる分子(リガンド)と複合体を形成する。
【0015】
特定の実施形態において、本明細書に記載の多価HIVエンベロープ糖タンパク質組成物は、1種類以上のアジュバント(例えば、MF59、CpG分子、PLG微粒子等の微粒子、ミョウバン等)を含む。特定の実施形態において、アジュバントはMF59を含む。他の実施形態において、アジュバントは1つ以上のCpG分子を含む。更に他の実施形態において、アジュバントは、MF59及び1つ以上のCpG分子を含む。更に他の実施形態において、アジュバントは、ミョウバン及び/又は1つ以上の微粒子(例えば、PLG微粒子)を含む。
【0016】
別の態様においては、本明細書に記載のポリペプチドの何れかをコードするポリヌクレオチドが提供される。特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、遺伝子送達ビヒクル、例えば、プラスミド、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アルファウイルスベクター等)又は非ウイルス送達ベクター上に担持される。
【0017】
別の態様においては、本明細書に記載のポリペプチド、ポリヌクレオチド及び/又は遺伝子送達ビヒクルの何れかを含む免疫原性組成物及びワクチン組成物が提供される。
【0018】
更に別の態様において、被験体の免疫応答(例えば、生得的応答、中和抗体応答等の体液性応答、及び/又は細胞免疫応答)を誘導する方法は、被験体の免疫応答を誘導するのに十分な量にて本明細書に記載の組成物、ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの何れかを被験体に投与することを含む。特定の実施形態において、前記方法は、初回抗原刺激手順において本明細書に記載のポリヌクレオチドの何れかを含む第1の組成物を投与すること、及び(b)被験体の免疫応答を誘導するのに十分な量にて本明細書に記載のアジュバント化エンベロープ糖タンパク質の何れかを含む第2の組成物を追加抗原刺激として投与することを含む。これらの方法の何れかにおいて、ポリヌクレオチドは、DNA(例えば、プラスミド)として、若しくはウイルス(例えば、アデノウイルス、ポックスウイルス及び/又はアルファウイルス)ベクター又は非ウイルスベクターを使用して送達される場合がある。特定の好ましい実施形態において、初回抗原刺激手順は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む1個以上のアルファウイルスベクター及び/又はポックスウイルスベクター及び/又はアデノウイルスベクターを投与することを含み、追加抗原刺激手順は、本明細書に記載の1種類以上の多価HIVエンベロープ糖タンパク質含有組成物を投与することを含む。更にこれらの方法の何れかにおいて、前記組成物は、種々の株からのHIV感染を予防する免疫応答を誘発する場合がある。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、前記組成物のHIVエンベロープ糖タンパク質で示されるサブタイプに対する防御免疫応答を誘導する。好ましくは、本明細書に記載の方法は、前記多価エンベロープ糖タンパク質で示されるサブタイプに対する防御免疫応答を誘導し、更に、前記多価組成物で示されない少なくとも1種類のサブタイプ(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種類又は更にそれ以上のサブタイプ)に由来する株に対する防御免疫応答を誘導する。
【0019】
更に別の態様において、本発明は、被験体の免疫応答を誘導するのに十分な量にて本明細書に記載の組成物、ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの何れかを被験体に投与することによって、被験体の免疫応答の能力、耐久性及び/又は幅を上昇させる方法を含む。特定の実施形態において、前記方法は、初回抗原刺激手順で本明細書に記載のポリヌクレオチドの何れかを含む第1の組成物を投与すること、及び(b)被験体の免疫応答を誘導するのに十分な量にて本明細書に記載のアジュバント化エンベロープ糖タンパク質の何れかを含む第2の組成物を追加抗原刺激として投与することを含む。これらの方法の何れかにおいて、ポリヌクレオチドは、配合又は未配合DNA(例えば、担体を有する又は有しないプラスミド)として、若しくはウイルス(例えば、アデノウイルス及び/又はポックスウイルス及び/又はアルファウイルス)ベクター又は非ウイルスベクターを使用して送達される場合がある。特定の好ましい実施形態において、初回抗原刺激手順は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む1個以上のアルファウイルスベクター及び/又はアデノウイルスベクターを投与することを含み、追加抗原刺激手順は、本明細書に記載の1種類以上の多価HIVエンベロープ糖タンパク質含有組成物を投与することを含む。
【0020】
従って、特定の実施形態においては、防御免疫応答を誘導する方法であって、例えば、前記組成物が、多価組成物のHIVエンベロープ糖タンパク質が由来するサブタイプの各々に由来する株から防御する方法が記載される。更に、前記組成物は又、投与された組成物で示されないサブタイプに由来する株からも防御する場合がある。例えば、サブタイプA、B及びCに由来するHIV株に対する被験体の防御免疫応答を誘導する方法は、サブタイプB株及びサブタイプC株に由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含むアジュバント化多価HIVエンベロープ糖タンパク質を使用して達成される場合があり;サブタイプA、B、C及びEに由来するHIV株に対する被験体の防御免疫応答を誘導する方法は、サブタイプB株及びサブタイプC株、或いはサブタイプB株及びサブタイプE株に由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含むアジュバント化多価HIVエンベロープ糖タンパク質を使用して達成される場合がある。
【0021】
本発明のこれら及び他の実施形態は、本明細書の開示内容を鑑みて当業者に容易に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施においては、特に指示がない限り、当該技術分野の技術範囲に含まれるタンパク質化学、ウイルス免疫生物学、分子生物学及び組換えDNA法の従来方法が使用される。このような技法は文献内で詳細に説明される。例えば、T.E. Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W.H. Freeman and Company, 1993);Nelson L.M.及びJerome H.K., HIV Protocols in Methods in Molecular Medicine, vol. 17, 1999;Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001);Ausubel, F.M., et al., (eds.), Short Protocols in Molecular Biology, 5th ed. (Current Protocols, 2002);並びにLipkowitz and Boyd, Reviews in Computational Chemistry, volumes 1−present (Wiley−VCH, New York, New York, 1999)を参照されたい。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、一つの(「a」、「an」)、その(「the」)という単数形の表現は、その内容が明確に示されない限り、複数の指示物を包含するという点に注意が必要である。従って、例えば、「ポリペプチド」に対する言及は、2個以上のポリペプチドの混合物等を包含する。
【0024】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許及び特許出願書は、上記のものであろうと下記のものであろうと、全体が参考として本明細書で援用される。
【0025】
定義
本発明の記載においては、以下の用語が使用され、以下に示す通りに定義される。
【0026】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書で交換可能に使用されて、アミノ酸残基のあらゆるポリマーを意味する。それらの用語は、ペプチド、オリゴペプチド、二量体、多量体等を包含する。このようなポリペプチドは、天然の原料に由来し得るか、若しくは合成又は組換え産生することができる。又、それらの用語は、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等も包含する。
【0027】
本明細書で定義されるポリペプチドは、20の天然アミノ酸、即ちAla(A)、Arg(R)、Asn(N)、Asp(D)、Cys(C)、Gln(Q)、Glu(E)、Gly(G)、His(H)、Ile(I)、Leu(L)、Lys(K)、Met(M)、Phe(F)、Pro(P)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)及びVal(V)で一般的に構成され、例えば、ホモイソロイシン、アサロイシン、2−(メチレンシクロプロピル)グリシン、S−メチルシステイン、S−(プロプ−1−エニル)システイン、ホモセリン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ホモアルギニン、3−(3−カルボキシフェニル)アラニン、シクロヘキシルアラニン、ミモシン、ピペコリン酸、4−メチルグルタミン酸、カナバニン、2,3−ジアミノプロピオン酸等の天然の類似体及び合成類似体の両方の幾つかの既知のアミノ酸類似体の何れかを包含する場合がある。本発明における使用が明らかになるであろうポリペプチド剤の更なる例については後述する。
【0028】
ポリペプチド又はタンパク質の「幾何構造」又は「三次構造」によって、タンパク質の全体的な三次元構造が意味される。本明細書に記載の通り、幾何構造は、例えば、結晶学的研究或いは、一次構造や二次構造を形成するアミノ酸間の相互作用に基づいて幾何構造を予測する各種のプログラム又はアルゴリズムを使用して決定される。
【0029】
「野生型」ポリペプチド、ポリペプチド剤又はポリペプチド薬によって、天然のポリペプチド配列とその対応する二次構造が意味される。「分離された」又は「精製された」タンパク質又はポリペプチドは、タンパク質が自然界で通常結合される有機体全体から離れ、別々になったタンパク質である。この用語が様々な純度のタンパク質を意味することは明らかである。一般的には、精製されたタンパク質を含む組成物は、その組成物のタンパク質全体の少なくとも約35%、好ましくは少なくとも40〜50%(40%、45%、50%)、より好ましくは少なくとも約75〜85%(例えば、75%、80%、85%)、最も好ましくは少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%以上が当該のタンパク質であるものであろう。
【0030】
HIV−1は、系統発生学的解析によって3つの群:M(major)群、O(outlier)群、並びにHIV−1の変異体、即ち指定されたN群に分類される。サブタイプ(クレード)は、HIVの種々のリネージを表し、且つ地理的関連を有する。HIV−1のサブタイプはHIV−1の配列の系統学的に関連した群であって、その配列は、そのゲノム全体にわたる種々のサブタイプに由来する配列に対してよりも相互に類似する何れか1つのサブタイプ又はサブサブタイプの範囲内にあるものである。例えば、ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)のHIV配列データベース(HIV Sequence Database)(http://hiv−web.lanl.gov/content/hiv−db/HelpDocs/subtypes−more.html)(米国ニューメキシコ州ロスアラモス)を参照されたい。
【0031】
HIV−1のM群のサブタイプは、HIV−1の配列の系統学的に関連する群又はクレードであり、サブタイプA(例えば、A1、A2)、B、C、D、F(例えば、F1、F2)、G、H、J及びKを包含する。HIV−1のM群のサブタイプ及びサブサブタイプは、チンパンジーからヒトに伝染した単独の事象の後にヒトにおいて分岐したと考えられる。種々のHIV−1のM群のサブタイプの世界的分布は多様であり、サブタイプBは北米と欧州で最もよく見られ、サブタイプAはアフリカで最もよく見られる。大部分のサブタイプは中央アフリカでよく見られ、他の地域では遺伝子型の分布が限定されている。例えば、サブタイプCはインドと南アフリカでよく見られ、サブタイプFはルーマニア、ブラジル、アルゼンチンでよく見られる。又、HIV−1のM群は組換え型流行株(CRF)も包含し、そのCRFは、完全ゲノムが系統発生学的解析においてあるサブタイプとクラスター形成するある領域と他のサブタイプとクラスター形成する他の領域とからなる組換えゲノム又はモザイクゲノムである、ウイルスである。CRFの例は、ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)のHIV配列データベース(HIV Sequence Database)(http://www.hiv.lanl.gov/content/hiv−db/mainpage.html)(米国ニューメキシコ州ロスアラモス)で検索される。CRFは、本明細書だけでなく当該技術分野でもサブタイプE及びIと呼ばれる。CRF(サブタイプE)はタイで非常によく見られる。
【0032】
HIV−1のO群は、M群株とクラスター形成しない大部分の分岐するウイルスを包含する。O型の感染は、カメルーンや近隣諸国(例えば、赤道ギニアやガボン)の西・中央アフリカ諸国で確認された。O群の感染は欧州、更に最近では米国に広がってきたが、患者の全ては西・中央アフリカと関連していた。HIV−1のO群はチンパンジーからヒトへ伝染した個別の事象の結果であって、各伝染の事象後にヒトの集団に起こる「サブタイプ」クレードへの群内の多様化が伴うものであると考えられる。
【0033】
HIV−1のN群(「新しい」群とも呼ばれる)は、HIV−1のM群及びO群と異なるウイルスを包含する。HIV−1のN群も又、チンパンジーからヒトへ伝染した個別の事象の結果であって、各伝染の事象後にヒトの集団に起こる「サブタイプ」クレードへの群内の多様化が伴うものであると考えられる。
【0034】
HIV−2は、5つのクレード(A、B、C、F、Gクレード)に分類される。
【0035】
「エンベロープポリペプチド」とは、エンベロープタンパク質、好ましくはHIVのエンベロープに由来する分子を意味する。この用語は、エンベロープポリペプチド並びにエンベロープポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含する。HIV−1のエンベロープタンパク質は、約160kd(gp160)の糖タンパク質である。宿主細胞のウイルス感染の間に、gp160は宿主細胞のプロテアーゼにより開裂され、gp120及び必須膜タンパク質(gp41)が形成される。gp41部分はビリオンの膜二重層内に固定される(且つ、膜二重層に又がる)が、gp120部分は周囲の外部に突出する。gp120とgp41の間に共有結合がない場合、遊離gp120は、ビリオンや感染細胞の表面から放出される。エンベロープポリペプチドは又、gp140ポリペプチドも包含する場合がある。エンベロープポリペプチド(gp120、gp140等)は、モノマー、二量体又は多量体(三量体等のオリゴマー)として存在する場合がある。
【0036】
「オリゴマーgp140ポリペプチド」又は「o−gp140」とは、gp140ポリペプチドのあらゆるオリゴマー形態を意味する。gp140のオリゴマー形態としては、V1ループの一部の欠失を含むo−gp140、V2ループの一部の欠失を含むo−gp140ポリペプチド、V3ループの一部の欠失を含むo−gp140ポリペプチド、変異プロテアーゼ開裂部位を有するo−gp140ポリペプチドが含まれる。オリゴマーgp140糖タンパク質は、HIVビリオンの表面に存在する天然で三量体のenvスパイクに類似する構造を使用する場合があり、従って、免疫原性組成物にとって望ましい場合がある。例えば、Yang, et al., (2000) J. Virol. 74(12):5716−5725;Grundner, et al., (2005) Virology 331(1): 33−46;Srivastava, et al., (2003) J. Virol. 77(29): 11244−11259;Barnett, et al., (2001) J. Virol. 75(12): 5526−5540;国際特許第00/39302号;米国特許第6,602,705号;Srivastava, et al., (2002) J. Virol. 76(6):2835−2847を参照されたい。
【0037】
更に、本明細書で定義される「エンベロープポリペプチド」は、本明細書に記載の正確な配列を有するポリペプチドに限定されない。実際、HIVゲノムは、一定のフラックスの状態にあり、且つ、分離株間で比較的高い程度の変異性を示す幾つかの可変ドメインを含む。この用語が新しく同定された分離株だけでなく同定済みのHIV分離株とこれらの分離株のサブタイプの何れかに由来するエンベロープ(例えば、o−gp140)ポリペプチドを包含することは、非常に明らかである。HXB−2に関する構造的特徴については、本明細書に記載されている。本発明の開示内容と当該技術分野との教示内容に鑑みて、当業者は、他のHIV変異体(例えば、分離株HIVIIIb、HIVSF2、HIV−1SF162、HIV−1SF170、HIVLAV、HIVLAI、HIVMN、HIV−1CM235、HIV−1US4、種々のサブタイプに由来する他のHIV−1株、HIV−2株、種々のサブタイプ(例えば、HIV−2UC1及びHIV−2UC2))及びサル免疫不全ウイルス(SIV)(これら及び他の関連ウイルスに関する説明として、例えば、Virology, 3rd Edition (W.K. Joklik ed. 1988);Fundamental Virology, 2nd Edition (B.N. Fields and D.M. Knipe, eds. 1991);Fields, B.N., et al., (eds.), Fields Virology, 4th edition (Lippincott Williams & Wilkins, 2001を参照)における対応領域を、例えば、配列比較プログラム(例えば、本明細書に記載のBLAST等)或いは構造的特徴の同定及びアラインメント(例えば、βシート領域を同定し得る本明細書に記載の「ALB」プログラム等のプログラム)を使用して決定することができる。修飾されたエンベロープポリペプチドの実際のアミノ酸配列は、何れのHIV変異体に基づいてもよい。
【0038】
更に、「エンベロープポリペプチド」という用語は、更なる内部欠失、付加及び置換等の、天然の配列との比較における更なる修飾を含むタンパク質を包含する。これらの修飾は、部位特異的変異誘発のように意図的である場合もあれば、或いは自然に生じる変異性事象等のように偶発的である場合もある。エンベロープの修飾としては、変異及び/又は欠失をその中に有するエンベロープポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの産生が含まれるが、これに限定されない。例えば、幾つかの又は全部の超可変領域V1、V2、V3、V4及び/又はV5、特に領域V1、V2及びV3は、欠失又は修飾されてもよい。V1及びV2領域は、CCR5共受容体結合部位をマスクすることができる(例えば、Moulard, et al., (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 14:9405−9416を参照)。従って、特定の実施形態において、可変ループ領域の幾つか又は全てを欠失して、例えば潜在的に保存される中和エピトープが曝露される。更に、高度なグリコシル化がタンパク質の表面の潜在的中和エピトープを保護する役目をする限り、N連鎖部位の糖鎖除去も修飾の潜在的標的である。単独或いは可変領域の欠失及び/又は糖鎖除去修飾と組み合わせて使用される更なる任意の修飾としては、βシート領域(例えば、国際特許第00/39303号に記載)に対する修飾(例えば、欠失)、リーダー配列の修飾(例えば、コザック配列の付加、及び/又は、天然リーダー配列又は配列修飾tpaリーダー配列による修飾野生型リーダー配列の置換)及び/又はプロテアーゼ開裂部位に対する修飾(例えば、in vitroでの周知のモノクローナル抗体又はCD4への結合、オリゴマー形成、ウイルス中和で定義される天然の立体構造抗原決定基を保持した、gp41の開裂部位と融合ドメイン並びにgp41の7アミノ酸繰り返し1及び2のスペーシングの欠失を含む、gp140 Delta CFIを説明した、Chakrabarti, et al., (2002) J. Virol. 76(11): 5357−5368を参照)。エンベロープポリペプチドがワクチンの組成物で使用される場合、修飾は、免疫学的活性(即ち、ポリペプチドに対する抗体応答を誘発する能力)を喪失しないものである必要がある。同様に、ポリペプチドが診断目的で使用される場合、その能力を保持する必要がある。
【0039】
このようなエンベロープポリペプチドの例としては、以下が含まれるが、これらには限定されない:一部のV1ループの欠失を含むgp140、一部のV2ループの欠失を含むgp140ポリペプチド、一部のV3ループの欠失を含むgp140ポリペプチド、変異プロテアーゼ開裂部位を有するgp140ポリペプチド、一部のV1ループの欠失を含むgp160、一部のV2ループの欠失を含むgp160ポリペプチド、一部のV3ループの欠失を含むgp160ポリペプチド、及び変異プロテアーゼ開裂部位を有するgp160ポリペプチド。
【0040】
エンベロープポリペプチドは宿主細胞内で組換え産生させる場合がある。これらのポリペプチドは、タンパク質を発現する有機体が培養される増殖培地内に分泌する場合がある。或いは、このようなポリペプチドは細胞内に回収される場合もある。増殖培地内への分泌は、例えば国際特許第96/04301号に記載される、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の多くの検出技法、及びウェスタンブロット法や免疫沈降検定等の免疫学的技法を使用して容易に決定される。三量体のo−gp140ポリペプチド等のエンベロープポリペプチドは、例えば、Srivastava, et al., (2002) J. Virol. 76(6):2835−2847及びSrivastava, et al., (2003) J. Virol. 77(29):11244−11259に記載されるように産生及び/又は精製される。
【0041】
「免疫原性」エンベロープ糖タンパク質は、タンパク質が投与される個体において免疫反応を誘発することと、診断の場面において当該のHIVに対して向けられる抗体と反応することとの何れかを可能にするように、少なくとも1つのエピトープを含む(又はコードする)分子(エンベロープポリペプチド又はエンベロープポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)である。
【0042】
「多価」又は「多原子価」によって、同一又は異なるHIVペプチドの少なくとも2個(即ち2個以上)を含む組成物又はワクチンが意味される。特定の一実施形態において、HIVペプチドは、異なるHIVタイプ(例えば、HIV−1、HIV−2等)、異なるHIVサブタイプ(例えば、HIV−1サブタイプA、HIV−1サブタイプB、HIV−1サブタイプC等)又は同一のサブタイプに由来する異なる株(例えば、HIV−1SF2、HIV−1SF162等)に由来する。例えば、本明細書に記載の多価の組成物又はワクチンは、2種類以上の異なるHIVのタイプ、株及び/又はサブタイプに由来するHIVエンベロープ糖タンパク質を含む組成物を含む。「サブタイプ」という用語には、組換え型流行株(CRF)だけでなく現在確認されているサブタイプが包含される。HIVサブタイプ(CRFを包含する)は、特徴の説明が継続的に行われており、ロスアラモス国立研究所による、オンラインで利用可能なHIVデータベースで検索することができる。従って、多価ワクチンは、2種類以上の異なるサブタイプ(A(例えば、A1、A2)、B、C、D、E、F(例えば、F1、F2)、G、H、J及びKや、種々のCRF)、例えば、サブタイプA及びB;A及びC;B及びC;A及びE;B及びE;C及びE;A、B及びC;A、B及びE、等に由来するHIVエンベロープ糖タンパク質に由来するペプチドを含む場合がある。同様に、「2価」という用語は、同一又は異なるエンベロープペプチドの2個を含む組成物又はワクチンを意味する。特定の一実施形態において、本明細書に記載の2価の組成物又はワクチンは、異なるHIVタイプ、異なるHIVサブタイプ又は同一のサブタイプに由来する異なる株に由来する2個のHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。より特定の一実施形態において、本明細書に記載の2価の組成物又はワクチンは、種々のサブタイプ(例えば、サブタイプB及びC、サブタイプB及びE、等)に由来する2個のHIVエンベロープ糖タンパク質を含む。
【0043】
「エピトープ」によって、免疫応答を誘発することが可能な又は生体試料に存在するHIV抗体と反応することが可能なこのようなエピトープを含む分子が得られる、特定のB細胞及び/又はT細胞が応答する抗原上の部位が意味される。この用語は又、「抗原決定基」又は「抗原決定基部位」と共に交換可能に使用される。エピトープは、エピトープに固有の空間配座に3個以上のアミノ酸を含むことができる。一般的に、エピトープは、少なくとも5個のこのようなアミノ酸からなり、更に通常、少なくとも8〜10個のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の空間配座を決定する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、X線結晶構造解析や二次元核磁気共鳴等を包含する。更に又、所与のタンパク質のエピトープの同定は、当該技術分野で周知の技法を使用して、例えば、疎水性研究や部位特異的血清学を使用すること等によって容易に達成される。Geysen, et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998−4002(急速にペプチドを合成して所与の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、且つ化学的に合成するための手順);及びGeysen, et al. (1986) Molecular Immunology 23:709−715(所与の抗体に対する高親和性を有するペプチドを同定する技法)も参照されたい。同一のエピトープを認識する抗体は、標的抗原に対するある抗体の結合を遮断する別の抗体の能力を示す単純な免疫学的検定にて同定されてもよい。
【0044】
抗原又は組成物に対する「免疫学的応答」又は「免疫応答」とは、被験体において生得的に発達したもの、即ち関連する組成物に存在する抗原に対する体液性免疫反応及び/又は細胞免疫反応である。
【0045】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、以下の:(i)ハイブリッド(キメラ)抗体分子(例えば、Winter, et al. (1991) Nature 349:293−299;及び米国特許第4,816,567号を参照);(ii)F(ab’)及びF(ab)フラグメント;(iii)Fv分子(非共有のヘテロ二量体、例えば、Inbar, et al. (1972) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69:2659−2662;及びEhrlich, et al. (1980) Biochem. 19:4091−4096を参照);(iv)単鎖Fv分子(sFv)(Huston, et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879−5883を参照);(v)二量体及び三量体の抗体フラグメント構成体;(vi)ヒト化抗体分子(Riechmann, et al. (1988) Nature 332:323−327;Verhoeyan, et al. (1988) Science 239:1534−1536;及び英国特許第2,276,169号(1994年9月21日公開)を参照);(vii)ミニ抗体又はミニボディ(minibodies)(即ち、ヒンジ領域によってsFvと分離した、C末端のオリゴマー化ドメインを含むsFvポリペプチド鎖;例えば、Pack, et al. (1992) Biochem. 31:1579−1584;Cumber, et al. (1992) J. Immunol. 149B:120−126を参照);及び(vii)このような分子から得られるあらゆる機能的フラグメント、と共にポリクローナル製剤とモノクローナル製剤の両方から得られた抗体を包含するものであって、このようなフラグメントが親抗体分子の特異的結合特性を保持するものである。
【0046】
従って、「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原結合部位を含むポリペプチド又はポリペプチドの群を意味する。「抗原結合部位」は、内部表面形状と抗原のエピトープの特徴に相補的な荷電分布とを有する3次元結合部位を形成する抗体分子の可変ドメインの折りたたみから形成され、これによって、特異的結合による抗体−抗原複合体の形成が可能になる。抗原結合部位は、抗原結合の一因となる超可変ループを形成する重鎖及び/又は軽鎖ドメイン(それぞれ、VとV)から形成される場合がある。「抗体」という用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、改変抗体、1価抗体、Fabタンパク質及び単一ドメイン抗体が含まれるが、これらに限定されない。多くの場合、抗原に抗体が結合する現象は、他のリガンド/アンチリガンド結合に匹敵する。
【0047】
ポリクローナル抗体が要求される場合、選択哺乳類(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、非ヒト霊長類、ヒト等)は、HIVエピトープを担持する免疫原性ポリペプチドで免疫化される。免疫化された動物からの血清は、既知の手順に従って採集及び処理される。HIVエンベロープ糖タンパク質エピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が他の抗原に対する抗体を含有する場合、ポリクローナル抗体は免疫アフィニティクロマトグラフィーにより精製され得る。ポリクローナル抗血清を産生及び処理する技法は当該技術分野で既知であり、例えば、Mayer and Walker, eds. (1987) Immunochemical Methods In Cell and Molecular Biology (Academic Press, London)を参照されたい。
【0048】
HIVエンベロープ糖タンパク質エピトープに対するモノクローナル抗体も又、当業者により容易に産生することができる。ハイブリドーマによりモノクローナル抗体を作製する一般的な方法は周知である。不朽抗体産生細胞株は、細胞融合により生成してもよければ、腫瘍原性DNAによるBリンパ球の直接形質転換又はEpstein−Barrウイルスによるトランスフェクション等の他の技法によって生成してもよい。例えば、M. Schreier, et al. (1980) Hybridoma Techniques;Hammerling, et al. (1981) Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas;Kennett, et al. (1980) Monoclonal Antibodies;米国特許第4,341,761号;第4,399,121号;第4,427,783号;第4,444,887号;第4,466,917号;第4,472,500号;第4,491,632号;及び第4,493,890号を参照されたい。HIVエピトープに対して産生されたモノクローナル抗体のパネルは、種々の特性(即ち、イソタイプ、エピトープ親和性等)についてスクリーニングすることができる。本明細書で使用される「単一ドメイン抗体」(dAb)は、Hドメインで構成される抗体であって、それは所定の抗原と特異的に結合する。dAbはVドメインを含まないが、抗体に存在することが知られている他の抗原結合ドメイン、例えばκドメインやλドメインを含む場合がある。dAbを調製する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、Ward, et al. (1989) Nature 341:544−546を参照されたい。
【0049】
抗体は又、Vドメイン及びVドメイン、及び他の既知の抗原結合ドメインから構成されてもよい。これらのタイプの抗体及びそれらの調製方法の例は、当該技術分野で既知の(例えば、米国特許第4,816,467号を参照)。例えば、「脊椎動物抗体」とは、テトラマー又はその凝集体である抗体を意味するものであって、通常「Y」立体配置内に凝集され、且つ鎖間の共有結合を有し得るか又は有し得ない、軽鎖及び重鎖を含むものである。脊椎動物抗体において、前記鎖のアミノ酸配列は、in situであろうとin vitroであろうと脊椎動物で産生される抗体内で見られる配列と相同である(例えば、ハイブリドーマ)。脊椎動物抗体としては、例えば、精製されたポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が含まれる。これらの抗体の調製方法は、以下に示す。
【0050】
「ハイブリッド抗体」とは、個々の鎖が哺乳類の抗体鎖に対して相同的な抗体であり、且つその新規の集合体を表すものであり、その結果、2種類の異なる抗原が四量体又は凝集体によって沈殿可能となる。ハイブリッド抗体において、一方の対の重鎖及び軽鎖は、一方の抗原に対する抗体に見られる重鎖及び軽鎖と相同的であるが、他方の対の鎖は、他方の抗原に対する抗体に見られる重鎖及び軽鎖と相同的である。この結果、「2価」の性質、即ち2つの抗原と同時に結合する能力が生じる。このようなハイブリッドは又、後述のように、キメラ鎖を使用して形成されてもよい。
【0051】
「キメラ抗体」とは、重鎖及び/又は軽鎖が融合タンパク質である抗体をいう。一般的には、その鎖のアミノ酸配列の一部は、特定の種及び/又はクラスに由来する抗体の対応配列に相同しているが、その鎖の残りの部分は、別の種及び/又はクラスに由来する配列に相同している。通常、重鎖及び軽鎖の可変領域は、脊椎動物の1つの種に由来する可変領域又は抗体に類似するが、不変部分は、脊椎動物の別の種に由来する抗体における配列に相同する。しかし、この定義はこの特定例に限定されない。又、重鎖又は軽鎖の何れか又は両方が、異なる起源の抗体の配列を模倣する配列の組み合わせによって構成される抗体であれば、その起源が異なるクラスに由来するのか異なる種に由来するのか何れであろうと、そして融合点が可変部/不変部の境界にあろうとなかろうと、何れの抗体も包含される。それゆえ、不変領域又は可変領域の何れも既知の抗体配列を模倣しない抗体を産生することは可能である。そして、例えば、可変領域が特定の抗原に対してより高い特異的親和性を有するか、又は不変領域によって補体結合の程度を大きくすることができる抗体を構成すること、或いは特定の不変領域が有する他の性質を改善することが可能になる。
【0052】
別の例としては「改変抗体」があるが、それは、脊椎動物抗体における天然のアミノ酸配列が変異された抗体をいう。組換えDNA法を使用して、抗体を再設計して所望の特徴を得ることができる。多くの変異が可能であり、そしてその範囲は、1個以上のアミノ酸の変化から、ある領域、例えば不変領域の完全な再設計までが可能である。一般的に不変領域における変化は、所望の細胞プロセス特性を得る変化であり、例えば、補体結合、膜との相互作用、及び他のエフェクター機能における変化がある。可変領域を変化させて抗原結合特性を改変することができる。又、抗体を設計して、分子又は物質を特異的な細胞又は組織部位へ特異的に送達することを促進させ得る。分子生物学における既知の技法、例えば、組換え法や部位特異的変異誘発等によって所望の改変を行うことができる。
【0053】
更に別の例は、「1価抗体」であり、これは、別の重鎖のFc(即ち、幹)領域に結合した重鎖/軽鎖の二量体から構成される凝集体である。このタイプの抗体は、抗原転調を生じない。例えば、Glennie, et al. (1982) Nature 295:712−714.を参照されたい。抗体の定義の範囲には、抗体の「Fab」フラグメントも又包含される。「Fab」領域は、重鎖及び軽鎖の部分を意味し、この部分は、重鎖及び軽鎖の分枝部分を含み且つ特定の抗原への免疫学的結合を示すことが明らかにされているがエフェクターFc部分を欠く配列と、およそ等価であるか、又は類似している。「Fab」は、1本の重鎖及び1本の軽鎖の集合体(通常Fab’として知られる)、及び2本のH鎖及び2本のL鎖を含む四量体(F(ab)と呼ばれる)を含み、選択的に所定の抗原又は抗原ファミリーと反応することができる。「Fab」抗体は、上記に類似のサブセット、即ち、「脊椎動物Fab」、「ハイブリッドFab」、「キメラFab」及び「改変Fab」に分けてもよい。抗体の「Fab」フラグメントを産生する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、プロテオリシス、並びに組換え法による合成を包含する。
【0054】
「抗原抗体複合体」とは、抗原上のエピトープに特異的に結合する抗体によって形成される複合体を意味する。
【0055】
アミノ酸配列の「類似性」を決定する技法は、当該技術分野で周知である。一般的に、「類似性」とは、適切な場所における2つ以上のポリペプチドの正確なアミノ酸対アミノ酸の比較を意味するものであって、アミノ酸が同一であるか、若しくは類似の化学的及び/又は物理的な特性(例えば、電荷又は疎水性)を備えるものである。「パーセント類似性」という用語は、比較されたポリペプチド配列間で決定することができる。核酸とアミノ酸配列の同一性を決定する技法も又、当該技術分野で周知であり、その技法は、遺伝子に対する(通常cDNA中間体を介して)mRNAのヌクレオチド配列を決定すること、それによりコードされるアミノ酸配列を決定すること、並びにこれを別のアミノ酸配列と比較することを含む。一般的に、「同一性」とは、2つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列のそれぞれ正確なヌクレオチド対ヌクレオチド又はアミノ酸対アミノ酸の一致をいう。
【0056】
2つ以上のポリヌクレオチド配列は、その「パーセント同一性」を決定することによって比較され得る。2以上のアミノ酸配列は、その「パーセント同一性」を決定することによって同様に比較され得る。2つの配列のパーセント同一性は、ヌクレオチド配列であるにせよペプチド配列であるにせよ、2つのアラインメントされた配列の間の完全一致の数をより短い配列の長さによって除算し、そしてその結果に100を掛けたものとして概説される。ヌクレオチド配列における近似のアラインメントは、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2:482−489 (1981)の局所的ホモロジーアルゴリズムによって定められる。Dayhoff, Atlas of Protein Sequences and Structure, M.O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353−358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USAにおいて開発されたスコアリングマトリックスを使用するペプチド配列と共に使用するために、このアルゴリズムを拡張することができ、Gribskov (1986) Nucl. Acids Res. 14(6):6745−6763によって正規化することができる。このヌクレオチド配列及びペプチド配列用アルゴリズムのインプリメンテーションは、Genetics Computer Group(米国ウィスコンシン州マディソン)により、そのBestFitユーティリティーアプリケーションにおいて提供される。この方法のデフォルトパラメータは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual, Version 8 (1995)(Genetics Computer Group[米国ウィスコンシン州マディソン]から入手可能)に記載される。配列間のパーセント同一性又は類似性を算出するための他の同程度に適切なプログラムは、一般的に当該技術分野で既知である。
【0057】
例えば、基準配列に対する特定のヌクレオチド配列のパーセント同一性は、デフォルトスコアリング表と6つのヌクレオチド位置のギャップペナルティとを有するSmith及びWatermanのホモロジーアルゴリズムを使用して決定し得る。本発明の文脈でパーセント同一性を確立する別の方法は、University of Edinburghにより著作権保護され、John F. Collins and Shane S. Sturrokにより開発され、そしてIntelliGenetics, Inc.(米国カリフォルニア州マウンテンビュー)により配給されるMPSRCHプログラムパッケージを使用することである。この総合ソフトウェアパッケージから、Smith−Watermanアルゴリズムは、デフォルトパラメータ(例えば、ギャップオープンペナルティが12、ギャップエクステンションペナルティが1、及びギャップが6)がスコアリング表のために使用される場合に利用することができる。生成したデータから、「Match」値は、「配列同一性」を反映する。デフォルトパラメータを使用して使用され得るアラインメントプログラムBLAST等の、配列間のパーセント同一性又は類似性を算出するための他の適切なプログラムは、一般的に当該技術分野で既知である。例えば、BLASTN及びBLASTPは、以下のデフォルトパラメータを使用して使用され得る:genetic code=standard;filter=none;strand=both;cutoff=60;expect=10;Matrix=BLOSUM62;Descriptions=50 sequences;sort by=HIGH SCORE;Databases=non−redundant、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細については、以下のインターネットアドレスに記載されている:http://www.ncbi.nlm.gov/cgi−bin/BLAST。
【0058】
当業者は、上記のプログラムにおける所定の配列に使用するために、適切な検索パラメータを容易に決定することができる。例えば、検索パラメータは、当該の配列のサイズに基づいて変更する場合がある。従って、例えば、本発明の代表的な実施形態は、X隣接ヌクレオチドを有する単離されたポリヌクレオチドを包含するものであって、(i)X隣接ヌクレオチドが本明細書に記載の配列の何れかに由来するY隣接ヌクレオチドに対して少なくとも約50%の同一性を有し、(ii)XがYに等しく、及び(iii)Xが、6つ以上のヌクレオチド且つ最高5000のヌクレオチド、好ましくは8つ以上のヌクレオチド且つ最高5000のヌクレオチド、より好ましくは10〜12のヌクレオチドで最高5000のヌクレオチド、更により好ましくは15〜20のヌクレオチドで、本明細書(例えば、配列表及び請求項を参照)に記載される完全長配列内に存在するヌクレオチドの数までであって、その数が上記の範囲内におさまる全ての整数値を含むものである。
【0059】
本発明の配列を問い合わせ配列として使用する場合、本発明の合成発現カセット(及び精製ポリヌクレオチド)としては、本明細書に開示される合成発現カセット配列(例えば、本発明の請求される配列又は他の配列)に対して約80%〜100%、80%超〜85%(例えば、80%超、81%、82%、83%、84%又は85%)、好ましくは90%超〜92%(例えば、90%超、91%又は92%)、より好ましくは95%超(例えば、95%超、96%又は97%)、最も好ましくは98%超(例えば、98%超、99%、99.5%以上)の配列(これらの記載された範囲内におさまる全ての整数値を含む)の同一性を有する関連したポリヌクレオチド配列が含まれる。
【0060】
コンピュータプログラムも又、βシート等の構造を形成する一定のポリペプチドの可能性を決定するために利用可能である。本明細書に記載のこのようなプログラムは、タンパク質とポリペプチドの2次構造の算定及び叙述のための「ALB」プログラムである。更に、2次タンパク質構造は、1次アミノ酸配列から、例えばタンパク質結晶構造を使用し、そしてその結晶構造に関するタンパク質配列をアラインメントして(例えば、Chemical Computing Group Inc.,Montreal,P.Q.Canada社から入手可能なMolecular Operating Environment(MOE)プログラムを使用して)予測することができる。2次構造を予測する他の方法は、例えば、Garnier, et al. (1996) Methods Enzymol. 266:540−553;Geourjon, et al. (1995) Comput. Applic. Biosci. 11:681−684;Levin (1997) Protein Eng. 10: 771−776;及びRost, et al. (1993) J. Molec. Biol. 232:584−599に記載される。
【0061】
相同性は又、相同領域間に安定した二本鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行い、その後1本鎖特異的ヌクレアーゼで消化し、そして消化されたフラグメントのサイズを決定することにより、決定し得る。2つのDNA又は2つのポリペプチド配列は、上記の方法を使用して決定されるように、その配列が、分子の定義された長さにわたって少なくとも約80%〜85%(例えば、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%又は85%)、好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%〜98%(例えば、少なくとも約95%、96%、97%又は98%)の配列同一性を示す場合、互いに「実質的に相同的」である。本明細書で使用する場合、実質的に相同的は又、特定のDNA又はポリペプチド配列に対する完全な同一性を示す配列を意味する。実質的に相同的であるDNA配列は、例えば、その特定のシステムにおいて定められるように、厳密な条件下でサザンハイブリダイゼーション実験において同定され得る。適切なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当該技術分野の技術範囲内に含まれる。例えば、Sambrook, et al.(前掲);DNA Cloning(前掲);Nucleic Acid Hybridization(前掲)を参照されたい。
【0062】
選択タンパク質を「コード」する「コード配列」又は配列は、適切な調節配列の制御下に置かれた場合、in vitroで又はin vivoでポリペプチドに転写(DNAの場合)及び翻訳(mRNAの場合)されるヌクレオチド配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端での翻訳開始コドン及び3’(カルボキシ)末端での翻訳終止コドンにより決定される。コード配列としては、ウイルスヌクレオチド配列に由来するcDNAや、合成及び半合成のDNA配列並びに塩基類似体を含む配列が含まれるが、これらに限定されない。転写終結配列は3’からコード配列に位置する。
【0063】
「制御要素」とは、集合的に、プロモーター配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流の調節ドメイン、エンハンサー等を意味し、それらにより、集合的に宿主細胞におけるコード配列の転写及び翻訳が行われる。所望の遺伝子の転写及び翻訳が可能である限り、必ずしもこれらの制御要素の全てが存在する必要はない。
【0064】
RNAポリメラーゼがプロモーター配列と結合し、そしてコード配列をmRNAに転写し、その後それがコード配列によりコードされるポリペプチドに翻訳される場合、制御要素は、細胞内のコード配列の「転写を導く」ものである。
【0065】
「操作可能に結合した」とは、そのように記載する成分がそれらの通常の機能を実行するように構成されている、要素の配置を意味する。従って、RNAポリメラーゼが存在する場合、コード配列に操作可能に結合した制御要素は、コード配列の発現を生じさせ得る。制御要素は、コード配列の発現を導く機能を果たす限り、必ずしもコード配列に隣接する必要はない。従って、例えば、介在するまだ非翻訳の転写された配列は例えばプロモーター配列とコード配列との間に存在することができ、プロモーター配列はコード配列に「操作可能に結合している」となお判断することができる。
【0066】
核酸分子を記載するために本明細書で使用される「組換え」とは、ゲノム起源、cDNA起源、半合成起源、合成起源のポリヌクレオチドを意味し、それは、その起源又は操作によって:(1)自然界で会合するポリヌクレオチドの全て又は一部と会合しない;及び/又は(2)自然界で結合するもの以外のポリヌクレオチドと結合する。タンパク質又はポリペプチドに関して使用される「組換え」という用語は、組換えポリヌクレオチドの発現により産生されるポリペプチドを意味する。「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養」、並びに原核微生物或いは単細胞体として培養される真核細胞株を表すような他の用語は、交換可能に使用され、そして組換えベクター又は他のトランスファーDNAに対するレシピエントとして使用され得る、又は使用されてきた細胞を示し、そしてトランスフェクトされた原細胞の後代を包含する。単一の親細胞の後代は、偶発的変異又は意図的変異によって、形態或いはゲノム又は全DNAの補体が原細胞と必ずしも完全に同一である必要はないことが理解される。所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列の存在等の関連特性を特徴とする親細胞に十分類似する親細胞の後代は、この定義が意味する後代に包含され、そして上記の用語に包摂される。
【0067】
「脊椎動物の被験体」によって、脊索動物亜門のあらゆるメンバーが意味され、それらには、チンパンジー、アカゲザル、ヒヒ及び他の類人猿やサル種等の非ヒト霊長類を包含するヒト及び他の霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ等の家畜;イヌやネコ等の家庭の哺乳類;マウス、ラット、ウサギ、モルモット等の齧歯動物を包含する実験動物;鶏、シチメンチョウやその他キジ類の鳥、カモ、ガチョウ等の、家庭の鳥、野生の鳥、猟鳥を包含する鳥が包含されるが、これらに限定されない。この用語は特定の年齢を意味しない。従って、成体と生まれたての個体の両方が包摂されることが意図される。
【0068】
本明細書で使用される「生体試料」とは、個体から分離した組織又は液の試料を指し、例えば、血液、血漿、血清、糞便物、尿、骨髄、胆汁、脊髄液、リンパ液、皮膚の試料、皮膚の外分泌物、気道の外分泌物、腸管の外分泌物、尿生殖器管の外分泌物、胃上皮組織や胃粘膜に由来する試料、涙液、唾液、乳汁、血液細胞、臓器、生検材料、更に、in vitro細胞培養成分の試料(培養培地における細胞や組織の増殖から得られる馴化培地、例えば、組換え細胞や細胞成分を包含するがこれらに限定されない)を包含するが、これらに限定されない。
【0069】
概要
本発明は、少なくとも2種類のHIVエンベロープ糖タンパク質(及び場合により1種類以上のアジュバント)を含む組成物と、これらの組成物の使用(例えば、複数のHIV、株、タイプ又はサブタイプに対して中和抗体応答を誘発するため)とに関する。本明細書に記載の組成物は、複数のHIV株、HIVタイプ、HIVサブタイプ及び/又はHIV分離株に由来するHIVエンベロープポリペプチドを含むという点で多価である。このような多価の組成物は被験体の免疫応答を誘発するものであり、特定の実施形態においては、1価の組成物よりも被験体において誘発される免疫応答の拡大及び/又は強化を行うためにそれを使用される場合がある。前記多価組成物において示される種々の分離株は、種々のウイルス血清型を示してよく、宿主細胞(例えば、共受容体)内への種々の侵入モードを利用してよい。「拡大」又は「強化」とは、大きさがより大きい免疫応答(例えば、相加的又は相乗的)、及び/又はHIV分離株のより多様なアレイに対する中和(抗ウイルス)活性が多価組成物を含む単一成分エンベロープポリペプチドの何れよりも大きくなることを意味する。本明細書に記載の本発明の種々の実施形態の各種形態は、組み合わせてよい。
エンベロープポリペプチド
本明細書に記載の複合体のエンベロープポリペプチド部分は、エンベロープタンパク質、好ましくはHIVエンベロープに由来してよい。上述の通り、HIV−1のエンベロープタンパク質は、約160kd(gp160)の糖タンパク質である。宿主細胞のウイルス感染の間に、gp160は宿主細胞のプロテアーゼにより開裂され、gp120及び必須膜タンパク質(gp41)が形成される。gp41部分はビリオンの膜二重層内に固定される(且つ、膜二重層に又がる)が、gp120部分は周囲の外部に突出する。gp120とgp41との間に共有結合がない場合、遊離gp120は、ビリオンや感染細胞の表面から放出される。又、エンベロープポリペプチドは、gp140ポリペプチド、特にo−gp140を包含する。
【0070】
特定の実施形態において、前記組成物のエンベロープポリペプチド成分はモノマー又は二量体である。好ましい実施形態において、エンベロープポリペプチド成分は、オリゴマー(例えば、三量体)エンベロープポリペプチド(例えば、o−gp140)である。
【0071】
更に又、本明細書に記載のエンベロープ糖タンパク質の何れかは、1個以上の分子とリガンド結合(例えば、複合体を形成すること)をなす場合があり、その分子としては、例えば、CD4及び/又はCD4模倣物(例えば、米国特許第6,689,879号;国際特許第04/037847号;Fouts, et al., (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 99(18):11842−11847を参照)、CCR5共受容体(Mkrtchyan, et al., (2005) J. Virol. 79(17):11161−11169)又はその模倣物、TAT(国際特許第2005/090391号)、ポリヌクレオチド(例えば、例えば、CpGs等のオリゴヌクレオチド等)、ポリペプチド(例えば、他のウイルスタンパク質)、小分子、並びにそれらの組み合わせ及び/又は他のウイルスタンパク質が含まれる。
【0072】
本明細書に記載のエンベロープ糖タンパク質は、新しく同定された分離株だけでなく1つ以上の既知のHIV分離株やこれらの分離株のサブタイプに由来してよい。従って、本発明の開示内容と当該技術分野との教示内容に鑑みて、当業者は、他のHIV変異体(例えば、分離株HIVIIIb、HIV−1SF162、HIV−1SF170、HIVLAV、HIVLAI、HIVMN、HIV−1CM235、HIV−1US4、種々のサブタイプに由来する他のHIV−1株、HIV−2株、種々のサブタイプ(例えば、HIV−2UC1及びHIV−2UC2))及びサル免疫不全ウイルス(SIV)(これら及び他の関連ウイルスに関する説明については、例えば、Virology, 3rd Edition (W.K. Joklik ed. 1988);Fundamental Virology, 2nd Edition (B.N. Fields and D.M. Knipe, eds. 1991);Fields, B.N., et al., (eds.), Fields Virology, 4th edition (Lippincott Williams & Wilkins, 2001を参照)における対応領域を、例えば、配列比較プログラム(例えば、本明細書に記載のBLAST等)或いは構造的特徴の同定及びアラインメント(例えば、βシート領域を同定し得る本明細書に記載の「ALB」プログラム等のプログラム)を使用して決定することができる。修飾されたエンベロープポリペプチドの実際のアミノ酸配列は、何れのHIV変異体に基づいてもよい。
【0073】
本明細書に記載されるエンベロープポリペプチドには、更なる内部欠失、付加及び置換等の、天然の配列への更なる修飾を含むタンパク質が包含される。これらの修飾は、部位特異的変異誘発のように意図的である場合もあれば、或いは自然に生じる変異性事象等のように偶発的である場合もある。従って、例えば、エンベロープポリペプチドがワクチン組成物に使用される場合、免疫学的活性(即ち、ポリペプチドに対する抗体応答を誘発する能力)が喪失されないように修飾が行われる必要がある。同様に、ポリペプチドが診断目的に使用される場合、このような能力は保持される必要がある。本明細書に記載のエンベロープポリペプチドは、モノマー又はオリゴマーであってよい。
【0074】
好ましい実施形態において、少なくとも2種類の異なるHIVサブタイプに由来するエンベロープ糖タンパク質が使用される。HIV−1ヌクレオチド及びアミノ酸配列の系統発生学的解析に基づいて、HIV−1分離株は、3つの群、即ちM(major)群、O(outlier)群及びN(新しい変異体)群に分類されてきた。M群には、少なくとも10種類のサブタイプ(所定のA(例えば、A1、A2)、B、C、D、E、F(例えば、F1、F2)、G、H、J及びK)やCRFが包含される。異なるクレード間のエンベロープアミノ酸配列の変異は30%を超える。更に、かなりの割合のHIV特異的中和抗体とCTLは、タイプ特異的である。従って、前記組成物は複数のエンベロープ糖タンパク質(例えば、サブタイプA及びB;B及びC;A及びC;A及びE;B及びE;C及びE;A、B及びC;A、B及びE;A、C及びE;B、C及びE;A、B、C及びE;A、B、C及びF、等に由来するHIVエンベロープ糖タンパク質が包含される)を含む。
【0075】
他の実施形態においては、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドに由来するエンベロープ糖タンパク質が使用され、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類は、それぞれ異なるHIVタイプ(例えば、HIV−1、HIV−2)に由来する。更に他の実施形態においては、2種類以上(少なくとも2種類)のHIVエンベロープポリペプチドに由来するエンベロープ糖タンパク質が使用され、前記エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類は、それぞれ、同一のサブタイプ(例えば、HIV−1SF2、HIV−1SF162、HIV−1CM235等)に由来する異なる株に由来する。
アジュバント
特定の一実施形態において、本明細書に記載のエンベロープポリペプチドは、アジュバント化、即ち1種類以上のアジュバント又は免疫調節剤と組み合わせて使用される。アジュバントは、抗原に対する免疫応答を特異的に又は非特異的に強化する物質であり、それは、例えば、CpGオリゴ等の免疫増強分子を包含する。
【0076】
本明細書に記載の組成物に使用してよいアジュバントの例としては、以下に記載したものの1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。
【0077】
A.油性乳剤
本発明のアジュバントとしての使用に適切な油性乳剤の組成物及び製剤(ムラミルペプチド又は細菌細胞壁成分等の他の特異的な免疫賦活剤を有する又は有しない)としては、MF59(マイクロフリューダイザーを使用してサブミクロン粒子に調製される5%スクワレン、0.5%Tween 80及び0.5%Span 85)等のスクワレン−水乳剤が含まれる。国際特許第90/14837号を参照されたい。又、Podda (2001) Vaccine 19:2673−2680;Frey, et al., (2003) Vaccine 21:4234−4237も参照されたい。MF59は、FLUADTMインフルエンザウイルス三価サブユニットワクチンにおけるアジュバントとして使用される。
【0078】
前記組成物に使用するのに特に好ましいアジュバントは、サブミクロンの水中油型乳剤である。本明細書で使用するのに好ましいサブミクロン水中油型乳剤は、4〜5%w/vスクワレン、0.25〜1.0%w/vTween 80TM(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)及び/又は0.25〜1.0%Span 85TM(トリオレイン酸ソルビタン)を含有し、並びに場合によりN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)を含有するサブミクロン水中油型乳剤等の、様々な量のMTP−PEを場合により含むスクワレン/水乳剤であって、例えば、「MF59」(国際特許第90/14837号;米国特許第6,299,884号;米国特許第6,451,325号;及びOtt, et al., ”MF59 −− Design and Evaluation of a Safe and Potent Adjuvant for Human Vaccines” in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach (Powell, M.F. and Newman, M.J. eds.) (New York: Plenum Press) 1995, pp. 277−296)として知られるサブミクロン水中油型乳剤である。MF59は、モデル110Y型マイクロフリューダイザー(Microfluidics[米国マサチューセッツ州ニュートン])等のマイクロフリューダイザーを使用してサブミクロン粒子に調製された、4〜5%w/vスクワレン(例えば4.3%)、0.25〜0.5%w/vTween 80TM及び0.5%w/vSpan 85TM並びに場合により様々な量のMTP−PEを含む。例えばMTP−PEは、1投与当たり約0〜500μg、より好ましくは1投与当たり0〜250μg、最も好ましくは1投与当たり0〜100μgの量であってよい。本明細書で使用される「MF59−0」という用語は、MTP−PEを含まない上記サブミクロン水中油型乳剤を指すが、MF59−MTPという用語は、MTP−PEを含む製剤を表わす。例えば、「MF59−100」は1投与当たり100μgのMTP−PEを含む、等である。MF69、即ち本明細書で使用するための別のサブミクロン水中油型乳剤は、4.3%w/vスクワレン、0.25%w/vTween 80TM及び0.75%w/vSpan 85TM並びに場合によりMTP−PEを含有する。更に別のサブミクロン水中油型乳剤は、やはりサブミクロン乳剤にマイクロ流動化された、10%スクワレン、0.4%Tween 80TM、5%プルロニックブロックポリマーL121及びthr−MDPを含む、SAFとしても知られるMF75である。MF75−MTPは、1投与当たり100〜400μgのMTP−PE等の、MTPを含むMF75製剤を表わす。
【0079】
前記組成物に使用するためのサブミクロン水中油型乳剤、その製造方法及びムラミルペプチド等の免疫刺激剤は、国際特許第90/14837号;米国特許第6,299,884号;及び米国特許第6,451,325号に詳述されている。
【0080】
完全フロインドアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IFA)も又、本発明におけるアジュバントとして使用される場合がある。
【0081】
B.無機質含有組成物
本発明のアジュバントとしての使用に適切な無機質含有組成物としては、アルミニウム塩やカルシウム塩等の無機塩が含まれる。本発明は、水酸化物(例えばオキシ水酸化物)、リン酸塩(例えばヒドロキシリン酸塩、オルトリン酸塩)、硫酸塩等の無機塩を含み(例えば、Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach (Powell, M.F.及びNewman, M.J. eds.) (New York: Plenum Press) 1995、の第8及び9章を参照)、或いは種々の無機化合物の混合物(例えば、場合により過剰のリン酸塩を含む、リン酸塩と水酸化物アジュバントとの混合物)を含むものであって、前記化合物は何らかの適切な形態(例えばゲル形態、結晶形態、非晶形態等)をとり、塩に吸着していることが好ましい。無機質含有組成物は又、金属塩の粒子としても調製し得る(国際特許第00/23105号)。
【0082】
アルミニウム塩は、Al3+の投与量が1投与当たり0.2〜1.0mgとなるように本発明のワクチン中に含んでよい。
【0083】
一実施形態において、本発明に使用するためのアルミニウム系アジュバントは、リン酸緩衝液中の抗原をミョウバンと混合し、その後水酸化アンモニウム又は水酸化ナトリウム等の塩基で滴定し、そして析出させることによってin situで形成されるような、ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO))又はミョウバン誘導体である。
【0084】
本発明のワクチン製剤に使用する別のアルミニウム系アジュバントは、約500m/gの表面積を有する優れた吸着剤である、水酸化アルミニウムアジュバント(Al(OH))又は結晶性オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)である。或いは、水酸化アルミニウムアジュバントのヒドロキシル基の一部又は全部の代わりにリン酸基を含む、リン酸アルミニウムアジュバント(AlPO)又はヒドロキシリン酸アルミニウムが提供される。本明細書で提供される好ましいリン酸アルミニウムアジュバントは非晶形であり、そして酸性やアルカリ性や中性の培地に可溶性である。
【0085】
別の実施形態において、本発明のアジュバントは、リン酸アルミニウムと水酸化アルミニウムの両方を含む。そのより特定の実施形態において、アジュバントは、水酸化アルミニウムに対するリン酸アルミニウムの重量比が2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1又は9:1超であるように、水酸化アルミニウムよりも量の大きいリン酸アルミニウムを有する。更により詳細には、ワクチン中のアルミニウム塩は、ワクチン1回投与当たり0.4〜1.0mg、又はワクチン1回投与当たり0.4〜0.8mg、又はワクチン1回投与当たり0.5〜0.7mg、又はワクチン1回投与当たり約0.6mgで存在する。
【0086】
一般的に、好ましいアルミニウム系アジュバント、或いは水酸化アルミニウムに対するリン酸アルミニウム等の複数のアルミニウム系アジュバントの比率は、抗原が所望のpHでアジュバントとして反対の電荷を担持するように、分子間の静電引力の最適化によって選択される。例えば、リン酸アルミニウムアジュバント(iep=4)は、pH7.4でリゾチームを吸着するが、アルブミンは吸着しない。アルブミンを標的とする場合は、水酸化アルミニウムアジュバントが選択される(iep=11.4)。或いは、リン酸塩による水酸化アルミニウムの前処理により、その等電点が低下し、よりアルカリ性の抗原に対して好ましいアジュバントとなる。
【0087】
C.サポニン製剤
サポニン製剤も又、本発明におけるアジュバントとしての使用に適している。サポニンは、広範囲の植物種の樹皮、葉、幹、根、更には花において認められるステロール配糖体及びトリテルペノイド配糖体の異種群である。キナヤ(Quillaia saponaria Molina)の木の樹皮から分離されるサポニンは、アジュバントとして広く研究されてきた。サポニンは又、Smilax ornata(サルサパリラ)、シュッコンカスミソウ(Gypsophilla paniculata(brides veil))及びサボンソウ(Saponaria officianalis(soap root))から商業的に入手できる。サポニンアジュバント製剤は、QS21等の精製製剤、並びにISCOM等の脂質製剤を含む。サポニンアジュバント製剤としては、STIMULON(登録商標)アジュバント(Antigenics, Inc.[米国マサチューセッツ州レキシントン])が含まれる。
【0088】
サポニン組成物は、高速薄層クロマトグラフィー(HP−TLC)及び逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を使用して精製されてきた。これらの技法を使用して、QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−B及びQH−Cを含む、特異的精製画分が同定されている。好ましくは、サポニンはQS21である。QS21の産生方法は、米国特許第5,057,540号に開示されている。サポニン製剤は又、コレステロール等のステロールを含んでよい(国際特許第96/33739号を参照)。
【0089】
サポニンとコレステロールとの組み合わせを使用して免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれる独特の粒子を形成するために使用できる。ISCOMは、一般的にはホスファチジルエタノールアミン又はホスファチジルコリン等のリン脂質をも含む。如何なる既知のサポニンもISCOMにおいて使用できる。好ましくは、ISCOMは、Quil A、QHA及びQHCの1つ以上を含む。ISCOMは更に、欧州特許第0109942号、国際特許第96/11711号及び同第96/33739号に記載されている。場合により、ISCOMは、更なる界面活性剤を含まなくてもよい。国際特許第00/07621号を参照。
【0090】
サポニン系アジュバントの開発の概要は、Barr, et al. (1998) Adv. Drug Del. Rev. 32:247−271.に見られる。又、Sjolander, et al. (1998) Adv. Drug Del. Rev. 32:321−338も参照されたい。
D.ビロゾーム及びウイルス様粒子(VLP)
ビロゾーム及びウイルス様粒子(VLP)も本発明におけるアジュバントとして使用できる。これらの構造は一般的に、場合によりリン脂質と組み合わせた又はリン脂質と共に調製された、ウイルスに由来する1つ以上のタンパク質を含む。それらは一般的に非病原性、非複製性であり、一般的に如何なる天然なウイルスゲノムも含まない。ウイルスタンパク質は、組換え産生されるか又は全ウイルスから分離することができる。ビロゾーム又はVLPにおいて使用するのに好適なこれらのウイルスタンパク質としては、インフルエンザウイルス(HA又はNA等)、B型肝炎ウイルス(コアタンパク質又はキャプシドタンパク質等)、E型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、シンドビスウイルス、ロタウイルス、口蹄疫ウイルス、レトロウイルス、ノーウォークウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、HIV、RNAファージ、Qβファージ(コートタンパク質等)、GAファージ、frファージ、AP205ファージ、及びTy(レトロトランスポゾンTyタンパク質p1等)に由来するタンパク質が含まれる。VLPについては、国際特許第03/024480号;国際特許第03/024481号;Niikura, et al., (2002) Virology 293:273−280;Lenz, et al., (2001) J. Immunol. 166(9):5346−5355;Pinto, et al., (2003) J. Infect. Dis. 188:327−338;及びGerber, et al., (2001) J. Virol.75(10):4752−4760で詳細に考察されている。ビロゾームについては、例えばGluck, et al., (2002) Vaccine 20:B10−B16で詳細に考察されている。鼻内三価INFLEXALTM製品(Mischler and Metcalfe (2002) Vaccine 20 Suppl 5:B17−B23)及びINFLUVAC PLUSTM製品では、免疫増強再構成インフルエンザビロゾーム(IRIV)がサブユニット抗原送達システムとして使用される。
【0091】
E.細菌誘導体又は微生物誘導体
本発明において使用するのに好適なアジュバントとしては、以下のような細菌誘導体又は微生物誘導体が含まれる:
(1)腸内細菌の腸内細菌性リポポリサッカライド(LPS)の非毒性誘導体:このような誘導体としては、モノホスホリル脂質A(MPL)や3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)が含まれる。3dMPLは、4、5又は6本のアシル化された鎖と3De−O−アシル化モノホスホリル脂質Aの混合物である。3De−O−アシル化モノホスホリル脂質Aの好ましい「小粒子」形態は、欧州特許第0689454号に開示されている。3dMPLのこのような「小粒子」とは、0.22ミクロンの膜で滅菌濾過されるのに十分な程度に小さい(欧州特許第0689454号を参照)。他の非毒性LPS誘導体としては、リン酸アミノアルキルグルコサミニド誘導体、例えばRC−529等のモノホスホリル脂質A模倣体が含まれる。Johnson, et al. (1999) Bioorg. Med. Chem. Lett. 9:2273−2278を参照されたい。
【0092】
(2)脂質A誘導体:脂質A誘導体としては、OM−174等の大腸菌に由来する脂質Aの誘導体が含まれる。OM−174は、例えばMeraldi, et al., (2003) Vaccine 21:2485−2491;及びPajak, et al., (2003) Vaccine 21:836−842に記載されている。
【0093】
(3)免疫刺激オリゴヌクレオチド:本発明においてアジュバントして使用するのに好適な免疫刺激オリゴヌクレオチド又はポリマー分子は、CpGモチーフを含むヌクレオチド配列(非メチル化シトシンとそれに続くグアノシンを含み、リン酸結合によって結合した配列)を含む。パリンドローム配列又はポリ(dG)配列を含む細菌二本鎖RNA又はオリゴヌクレオチドも、免疫刺激性であることが示されている。CpGは、ホスホロチオエート修飾等のヌクレオチド修飾/類似体を含み得、そして二本鎖又は一本鎖であってよい。場合により、グアノシンは、2’−デオキシ−7−デアザグアノシン等の類似体で置換されてもよい。可能な類似体置換の例に関しては、Kandimalla, et al., (2003) Nucl. Acids Res. 31(9):2393−2400;国際特許第02/26757号;及び国際特許第99/62923号を参照されたい。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果は更に、Krieg (2003) Nat. Med. 9(7):831−835;McCluskie, et al., (2002) FEMS Immunol. Med. Microbiol. 32:179−185;国際特許第98/40100号;米国特許第6,207,646号;米国特許第6,239,116号;及び米国特許第6,429,199号において考察されている。
【0094】
CpG配列は、モチーフGTCGTT又はTTCGTT等のTLR9を対象とし得る。Kandimalla, et al., (2003) Biochem. Soc. Trans. 31 (part 3):654−658を参照されたい。CpG配列は、CpG−A ODN等のTh1免疫応答の誘導に特異的であり得るか、若しくはCpG−B ODN等のB細胞応答の誘導に特異的である場合がある。CpG−A ODN及びCpG−B ODNは、Blackwell, et al., (2003) J. Immunol. 170(8):4061−4068;Krieg (2002) TRENDS Immunol. 23(2):64−65;及び国際特許第01/95935号で考察されている。好ましくは、CpGはCpG−A ODNである。
【0095】
好ましくは、CpGオリゴヌクレオチドは、受容体認識のために5’末端がアクセス可能であるように構成される。場合により、2個のCpGオリゴヌクレオチドがそれらの3’末端で結合して、「イムノマー(immunomer)」を形成し得る。例えば、Kandimalla, et al., (2003) BBRC 306:948−953;Kandimalla, et al., (2003) Biochem. Soc. Trans. 31(part 3):664−658;Bhagat, et al., (2003) BBRC 300:853−861;及び国際特許第03/035836号を参照されたい。
【0096】
免疫刺激オリゴヌクレオチド及びポリマー分子は又、例えばポリビニル主鎖(Pitha, et al. (1970) Biochem. Biophys. Acta 204(1):39−48;Pitha, et al. (1970) Biopolymers 9(8):965−977)やモルホリノ主鎖(米国特許第5,142,047号;米国特許第5,185,444号)等の他のポリマー主鎖構造を含む。種々の他の荷電性及び非荷電性のポリヌクレオチド類似体は、当該技術分野で既知である。多くの主鎖修飾が当該技術分野で既知であり、それらとしては、非荷電性結合(例えば、メチルホスホネート、リン酸トリエステル、ホスホアミデート及びカルバミン酸塩)や荷電性結合(例えば、ホスホロチオエート及びホスホロジチオエート)が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
(4)ADP−リボシル化毒素及びその無毒化誘導体:細菌ADP−リボシル化毒素及びその無毒化誘導体は、本発明におけるアジュバントとして使用される場合がある。好ましくは、タンパク質は、大腸菌(即ち、大腸菌易熱性エンテロトキシン「LT」)、コレラトキシン(「CT」)又は百日咳トキシン(「PT」)に由来する。粘膜アジュバントとしての無毒化ADP−リボシル化毒素の使用については、国際特許第95/17211号に、非経口アジュバントとしての使用については、国際特許第98/42375号に記載されている。好ましくは、アジュバントは、LT−K63やLT−R72やLTR192G等の無毒化LT変異体である。ADP−リボシル化毒素及びその無毒化誘導体、特にLT−K63及びLT−R72をアジュバントとして使用することは、以下の参考文献に記載されている:Beignon, et al., (2002) Infect. Immun. 70(6):3012−3019;Pizza, et al., (2001) Vaccine 19:2534−2541;Pizza, et al., (2000) Int. J. Med. Microbiol. 290(4−5):455−461;Scharton−Kersten, et al., (2000) Infect. Immun. 68(9):5306−5313;Ryan, et al. (1999) Infect. Immun. 67(12):6270−6280;Partidos, et al. (1999) Immunol. Lett. 67(3):209−216;Peppoloni, et al., (2003) Vaccines 2(2):285−293;及びPine, et al., (2002) J. Control Release 85(1−3):263−270。アミノ酸置換についての数値の記載は、好ましくは、Domenighini, et al. (1995) Mol. Microbiol. 15(6):1165−1167に記載されるADP−リボシル化毒素のAサブユニット及びBサブユニットのアラインメントに基づく。
【0098】
F.生体接着剤及び粘膜接着剤
生体接着剤及び粘膜接着剤も又、本発明におけるアジュバントとして使用される場合がある。適切な生体接着剤としては、エステル化ヒアルロン酸マイクロスフェア(Singh, et al., (2001) J. Cont. Release 70:267−276)或いはポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖類及びカルボキシメチルセルロースの架橋誘導体等の粘膜接着剤が含まれる。キトサン及びその誘導体も本発明におけるアジュバントとして使用される場合がある(国際特許第99/27960号を参照)。
【0099】
G.微粒子
微粒子も又、本発明におけるアジュバントとして使用される場合がある。生分解性且つ非毒性の材料(例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトン等)とポリ(ラクチド−コ−グリコリド)から形成される微粒子(即ち、直径約100nm〜約150μm、より好ましくは直径約200nm〜約30μm、最も好ましくは直径約500nm〜約10μmの粒子)が好ましく、場合により、負に荷電した表面(例えばSDSで)又は正に荷電した表面(例えばCTAB等の陽イオン界面活性剤で)を有するように処理される。
【0100】
H.リポソーム
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なリポソーム製剤の例については、米国特許第6,090,406号;米国特許第5,916,588号;及び欧州特許第0626169号に記載されている。
【0101】
I.ポリオキシエチレンエーテル製剤及びポリオキシエチレンエステル製剤
本発明において使用するのに好適なアジュバントとしては、ポリオキシエチレンエーテル及びポリオキシエチレンエステルが含まれる(国際特許第99/52549号を参照)。このような製剤としては更に、オクトキシノールと組み合わせたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(国際特許第01/21207号)並びにオクトキシノール等の少なくとも1つの更なる非イオン性界面活性剤と組み合わせたポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤又はポリオキシエチレンアルキルエステル界面活性剤(国際特許第01/21152号)が含まれる。
【0102】
好ましいポリオキシエチレンエーテルは、以下の群:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル及びポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテルから選択される。
【0103】
J.ポリホスファゼン(PCPP)
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なPCPP製剤については、例えばAndrianov, et al. (1998) Biomaterials 19(1−3):109−115;及びPayne, et al. (1998) Adv. Drug Del. Rev. 31(3):185−196に記載されている。
【0104】
K.ムラミルペプチド
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なムラミルペプチドの例としては、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−1−アラニル−d−イソグルタミン(nor−MDP)及びN−アセチルムラミル−1−アラニル−d−イソグルタミニル−1−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)等が含まれる。
【0105】
L.イミダゾキノリン化合物
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なイミダゾキノリン化合物の例としては、イミキモッド(Imiquimod)及びその類似体が含まれ、それらについては、Stanley (2002) Clin. Exp. Dermatol. 27(7):571−577;Jones (2003) Curr. Opin. Investig. Drugs 4(2):214−218;並びに米国特許第4,689,338号;同第5,389,640号;同第5,268,376号;同第4,929,624号;同第5,266,575号;同第5,352,784号;同第5,494,916号;同第5,482,936号;同第5,346,905号;同第5,395,937号;同第5,238,944号;及び同第5,525,612号で詳述されている。
【0106】
M.チオセミカルバゾン化合物
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なチオセミカルバゾン化合物の例、並びにこのような化合物の配合、製造及びスクリーニングの方法としては、国際特許第04/60308号に記載されるものが含まれる。チオセミカルバゾンは、TNF−α等のサイトカインの産生のためのヒト末梢血単核細胞の刺激において特に有効である。
N.トリプタントリン化合物
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なトリプタントリン化合物の例、並びにこのような化合物の調整、製造及びスクリーニングの方法としては、国際特許第04/64759号に記載されるものが含まれる。トリプタントリン化合物は、TNF−α等のサイトカインの産生のためのヒト末梢血単核細胞の刺激において特に有効である。
【0107】
本発明は又、上記で同定されたアジュバントの1つ以上の態様の組み合わせを含む場合がある。例えば、本発明において以下のアジュバント組成物が使用される場合がある:
(1)サポニンと水中油型乳剤(国際特許第99/11241号);
(2)サポニン(例えば、QS21)+非毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)(国際特許第94/00153号を参照);
(3)サポニン(例えば、QS21)+非毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)+コレステロール;
(4)サポニン(例えば、QS21)+3dMPL+IL−12(場合により、+ステロール)(国際特許第98/57659号);
(5)例えば、QS21及び/又は水中油型乳剤と3dMPLとの組み合わせ(欧州特許第0835318号;欧州特許第0735898号;及び欧州特許第0761231号を参照);
(6)サブミクロン乳剤へのマイクロ流動化、又はより大きな粒径の乳剤を生成するためのボルテックスの何れかが行われた、10%スクワレン、0.4%Tween 80、5%プルロニックブロックポリマーL121及びthr−MDPを含むSAF;
(7)2%スクワレン、0.2%Tween 80、並びにモノホスホリル脂質A(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)及び細胞壁骨格(CWS)からなる群からの1つ以上の細菌細胞壁成分、好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含むRibiTMアジュバント系(RAS)、(Ribi Immunochem[米国モンタナ州ハミルトン]);
(8)1つ以上の無機塩(アルミニウム塩等)+LPSの非毒性誘導体(3dMPL等);
(9)1つ以上の無機塩(アルミニウム塩等)+免疫刺激オリゴヌクレオチド(CpGモチーフを含むヌクレオチド配列等)。
【0108】
O.ヒト免疫調節剤
本発明においてアジュバントして使用するのに好適なヒト免疫調節剤としては、インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12等)やインターフェロン(例えば、インターフェロン−γ)やマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)や腫瘍壊死因子(TNF)等のサイトカインが含まれる。
【0109】
特定の実施形態において、前記組成物は経粘膜投与される場合があり、そして更に粘膜アジュバントを含むことが好ましいであろう。適切な粘膜アジュバントとしては:オリゴ含有CpG、生体付着性ポリマー(国際特許第99/62546号及び同第00/50078号を参照);大腸菌易熱性エンテロトキシン(「LT」)又はその無毒化変異体又はコレラトキシン(「CT」)又はその無毒化変異体又は生分解性且つ非毒性の物質から形成される微粒子が含まれる。好ましいLT変異体としては、K63又はR72が含まれる。例えば、国際特許第93/13202号、欧州特許第0620850(B1)号、国際特許第97/02348号及び国際特許第97/29771号を参照されたい。
【0110】
特に好ましい一実施形態において、エンベロープ糖タンパク質は、MF59、CpGオリゴ(例えば、CpG−7909)或いはMF59とCpGオリゴの両方によってアジュバント化される。CpG−7909及びMF−59におけるアジュバント作用の正確な機序は、依然として徹底した研究が行われているが、十分な証拠により、CpG−7909/2006はB細胞を活性化し、そして形質細胞様樹状細胞の共刺激分子の産生を増大させるが(Kerkmann, et al., (2003) J. Immunol. 170(9):4465−4474)、MF59は抗原提示細胞と相互作用し、そして筋肉内注入部位の樹状細胞によって内在化される(Dupois (1998) Cell. Immunol. 186(1):18−27)ことが示唆される。CpG−7909及びMF59はヒトにおける使用が認可されており、そして臨床試験における忍容性は良好なものとなってきており(Kahn, et al. (1994) J. Infect. Dis. 70(5):1288−1291;Ott, et al. (1995) Pharm. Biotechnol. 6:277−296;Cooper, et al., (2004) Vaccine 22(23−24):3136−3143)、その臨床試験としては、HIVを抱える人々に対して行われるB型肝炎ワクチン試験及びインフルエンザワクチン試験が含まれる(Cooper, et al., (2005) AIDS 19(14):1473−1479;Gabutti, et al., (2005) J. Int. Med. Res. 33(4):406−416)。本明細書に記載の実験によって、多価HIVo−gp140により誘発される免疫応答の質と幅とを増大させるMF59及びCpG−7909の能力が示される。
ポリペプチド産生
本発明のエンベロープポリペプチドは、当該技術分野で既知の何れかの方法で産生することができる。
【0111】
一実施形態において、前記ポリペプチドは、当該技術分野で周知の組換え技法を使用して産生される。この点に関して、オリゴヌクレオチドプローブは、エンベロープ(例えば、gp140)ポリペプチドのゲノムの既知の配列に基づいて考案され、エンベロープ遺伝子のゲノムライブラリ又はcDNAライブラリをプローブするために使用することができる。遺伝子は、例えば完全長配列の所望の部分で遺伝子を開裂するために使用される制限酵素等の標準的技法を使用して更に分離することができる。同様に、フェノール抽出やあらゆる所望のトランケーションを得るために更に操作された配列等の既知の技法を使用して、エンベロープ遺伝子は、それを含む細胞及び組織から直接分離することができる。DNAを得るため及び分離するために使用する技法の説明については、Sambrook, et al.(前掲)を参照されたい。
【0112】
エンベロープ糖タンパク質をコードする遺伝子は、既知の配列に基づいて合成的に産生することができる。ヌクレオチド配列は、所望の特定のアミノ酸配列における適切なコドンにより設計され得る。完全配列は、標準法により調製される重複するオリゴヌクレオチドから一般的に構成され、完全コード配列に構成される。例えば、Edge, et al. (1981) Nature 292:756−762;Nambair, et al. (1984) Science 223:1299−1301;Jay, et al. (1984) J. Biol. Chem. 259:6311−6317;Stemmer, et al. (1995) Gene 164:49−53を参照されたい。
【0113】
適切な塩基対を置換して所望のアミノ酸におけるコドンとすることによってin vitroで突然変異を誘発し得るエンベロープポリペプチド遺伝子をコードする遺伝子のクローンを形成するために、組換え技法が容易に使用される。このような変化には、単一アミノ酸に変化を起こすわずか1個の塩基対、或いは幾つかの塩基対の変化が包含される。或いは、変異は、ミスマッチ二本鎖の融解温度未満の温度で親ヌクレオチド配列(一般的にRNA配列に対応するcDNA)とハイブリッド形成するミスマッチプライマーを使用して起こる。プライマーは、プライマー長及び塩基組成を比較的狭い範囲内で維持すること、及び変異体塩基を中央に位置するように維持することによって特異的にすることができる。例えば、Innis, et al. (1990) PCR Applications: Protocols for Functional Genomics;Zoller and Smith (1983) Methods Enzymol. 100:468−500を参照されたい。プライマー伸長は、DNAポリメラーゼ、クローニングされる産物、並びにプライマー伸長鎖の分離によって得られ、選択される変異DNAを含むクローンを使用してもたらされる。選択は、変異体プライマーをハイブリダイゼーションプローブとして使用して達成され得る。この技法は又、多重点変異の生成にも適用可能である。例えば、Dalbie−McFarland, et al. (1982) Proc. Natl. Acad. Sci USA 79:6409−6413を参照されたい。
【0114】
ひとたび所望のエンベロープ糖タンパク質に対するコード配列が分離又は合成されると、それを発現のための任意の適切なベクター又はレプリコンにクローン化し得る。多くのクローニングベクターが当業者に既知であり、適当なクローニングベクターの選択は好みの問題である。クローニングのための組換えDNAベクター及びそれらが形質転換可能な宿主細胞の例としては、バクテリオファージλ(大腸菌)、pBR322(大腸菌)、pACYC177(大腸菌)、pKT230(グラム陰性菌)、pGV1106(グラム陰性菌)、pLAFR1(グラム陰性菌)、pME290(非大腸菌グラム陰性菌)、pHV14(大腸菌及び枯草菌)、pBD9(バシラス)、pIJ61(ストレプトマイセス)、pUC6(ストレプトマイセス)、YIp5(サッカロマイセス)、YCp19(サッカロマイセス)及びウシ乳頭腫ウイルス(哺乳類細胞)等が含まれる。一般的には、DNA Cloning: Vols. I & II(前掲);Sambrook, et al.(前掲);B. Perbal(前掲)を参照されたい。
【0115】
バキュロウイルス系のような昆虫細胞発現系も使用してよく、当業者に既知であり、例えば、Summers and Smith, (1987) Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555に記載されている。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系の材料及び方法は、キット形態、とりわけInvitrogen(米国カリフォルニア州サンディエゴ;「MaxBac」キット)より商業的に入手することができる。
【0116】
植物発現系も又、修飾エンベロープタンパク質を産生させるために使用してもよい。一般的に、このような系は、ウイルス系ベクターを使用して植物細胞を異種遺伝子でトランスフェクトする。このような系の説明については、Porta, et al. (1996) Mol. Biotech. 5:209−221;及びHackland, et al. (1994) Arch. Virol. 139:1−22を参照されたい。
【0117】
Tomei, et al. (1993) J.Virol. 67:4017−4026及びSelby, et al. (1993) J.Gen.Virol. 74:1103−1113に記載されるワクシニア系の感染/トランスフェクション系等のウイルス系も又、本発明に関して用途が見出されるであろう。この系においては、まず、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードする組換えワクシニアウイルスを使用して、細胞をin vitroでトランスフェクトする。このポリメラーゼは、T7プロモーターを有するテンプレートのみを転写する卓越した特異性を示す。感染の後、T7プロモーターによって駆動された目的のDNAで細胞をトランスフェクトする。組換えワクシニアウイルスから細胞質中で発現されたポリメラーゼは、トランスフェクトされたDNAをRNAに転写し、次いでこのRNAは宿主の翻訳機構によりタンパク質に翻訳される。この方法により、多量のRNA及びその翻訳産物の高レベルの一過性細胞質産生が得られる。
【0118】
遺伝子をプロモーター、リボソーム結合部位(細菌性発現のために)及び、場合によりオペレーター(本明細書において集合的に「制御」要素と呼ばれる)の制御下に置くことができ、その結果、この発現構成物を含有するベクターで形質転換された宿主細胞において、所望のポリペプチドをコードするDNA配列がRNAに転写される。コード配列は、シグナルペプチド又はリーダー配列を含む場合もあれば含まない場合もある。本発明に関しては、天然のシグナルペプチド又は異種配列の両方を使用してよい。リーダー配列は、翻訳後プロセシングにおいて、宿主により除去されてもよい。例えば、米国特許第4,431,739号;同第4,425,437号;同第4,338,397号を参照されたい。このような配列としては、TPAリーダー並びにミツバチメリチンシグナル配列等が含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
宿主細胞の増殖に比較して、タンパク質配列の発現の調節を可能にする他の調節配列も望ましい場合がある。このような調節配列は当業者に既知であり、その例としては、調節化合物の存在を含む化学的刺激又は物理的刺激に応答して遺伝子の発現の開始又は停止を引き起こす調節配列が含まれる。他のタイプの調節要素、例えばエンハンサー配列もベクター内に存在する場合がある。
【0120】
制御配列及び他の調節配列は、ベクターに挿入する前にコード配列に連結される場合がある。或いは、既に制御配列及び適切な制限部位を含有する発現ベクターに、コード配列を直接クローン化することができる。
【0121】
場合によっては、コード配列を、それが適切な配向を有する制御配列に結合され得るように、即ち、適切な読み枠を維持するために、修飾することが必要な場合がある。変異体又は類似体は、タンパク質をコードする配列の一部を欠失させることにより、配列の挿入により、及び/又は配列内の1つ以上のヌクレオチドの置換により調製される場合がある。部位特異的変異誘発等のヌクレオチド配列を修飾する技法は、当業者に周知である。例えば、Sambrook, et al.,(前掲);DNA Cloning, Vols. I and II(前掲);Nucleic Acid Hybridization(前掲)を参照されたい。
【0122】
次に、発現ベクターを使用して適切な宿主細胞をトランスフェクトする。多くの哺乳動物細胞株が当該技術分野で既知であり、そしてこれには、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、Vero293細胞並びにその他等の米国菌培養収集所(ATCC)から入手可能な不死化細胞株が包含される。好ましい一実施形態においては、o−gp140(三量体)が、CHO細胞から産生及び/又は精製される。Srivastava, et al., (2002) J. Virol. 76(6):2835−2847;Srivastava, et al., (2003) J. Virol. 77(29):11244−11259を参照されたい。
【0123】
大腸菌、枯草菌及びStreptococcus spp.等の細菌宿主に、本発明の発現構成要素に関して用途が見出される。本発明において有用な酵母宿主としては、とりわけ、サッカロミセスセレビシエ、カンジダアルビカンス、カンジダマルトサ、ハンセヌラポリモルファ、クリュイベロミセスフラギリス、クリュイベロミセスラクチス、ピチアギレリモンディ、ピチアパストリス、シゾサッカロミセスポンベ及びセロウィアリポリティカが含まれる。バキュロウイルス発現ベクターと共に使用する昆虫細胞としては、とりわけ、ネッタイシマカ、オートグラファカリフォルニカ、カイコ、キイロショウジョウバエ、スポドプテラフルギペルタ及びイラクサギンウワバが含まれる。
【0124】
選択される発現系及び宿主により、上記の発現ベクターで形質転換された宿主細胞を、目的のタンパク質が発現する条件下で増殖させることにより本発明のタンパク質が産生される。適切な増殖条件の選択は、当該技術分野の技術範囲内に含まれる。
【0125】
一実施形態において、形質転換細胞は、周囲の培地にポリペプチド生成物を分泌する。特定の調節配列は、例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)リーダー配列、インターフェロン(β又はγ)シグナル配列又は分泌タンパク質に由来する他のシグナルペプチド配列を使用してタンパク質生成物の分泌を高めるベクターに含まれてよい。次いで、分泌されたポリペプチド生成物は、例えば、ヒドロキシアパタイト樹脂、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動法、HPLC、免疫吸着法、アフィニティクロマトグラフィー、免疫沈降等があるがこれらに限定されない標準的な精製法を使用する等、本明細書に記載の種々の技法により分離される。
【0126】
或いは、形質転換細胞は、細胞を崩壊させるがエンベロープポリペプチドは実質的に無傷に維持する化学的、物理的又は機械的な手段を使用して崩壊される。細胞内タンパク質は又、エンベロープポリペプチドの漏出が起こるように、例えば界面活性剤又は有機溶媒を使用して細胞壁又は細胞膜から成分を除去することにより得ることができる。このような方法は、当業者に既知であり、そして、例えばProtein Purification Applications: A Practical Approach (E.L.V. Harris and S. Angal (eds.)) 1990に記載されている。
【0127】
例えば、本発明と共に使用する細胞を崩壊させる方法としては、音波処理又は超音波処理;撹拌;液体又は固体の押出し;熱処理;凍結融解;乾燥;爆発的減圧;浸透圧衝撃;トリプシンやノイラミニダーゼやリゾチーム等のプロテアーゼが包含される溶菌酵素による処理;アルカリ処理;並びに胆汁酸塩やドデシル硫酸ナトリウムやトリトンやNP40やCHAPS等の界面活性剤及び溶媒の使用、が含まれるが、これらに限定されない。細胞を崩壊させるために使用する特定の技法は、殆ど好みの問題であり、そして、ポリペプチドが発現する細胞型、培養条件及び使用される何れかの前処理によって決まるであろう。
【0128】
細胞の崩壊後、細胞細片は一般的に遠心分離により取り除かれ、そして細胞内に産生したエンベロープポリペプチドは、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動法、HPLC、免疫吸着法、アフィニティクロマトグラフィー、免疫沈降等があるがこれらに限定されない標準的な精製法を使用して更に精製される。
【0129】
例えば、本発明の細胞内エンベロープポリペプチドを得るためのある方法は、抗エンベロープ特異的抗体を使用する免疫アフィニティクロマトグラフィーによる、又はレクチンアフィニティクロマトグラフィーによる等のアフィニティ精製を伴う。特に好ましいレクチン樹脂は、ガランタスニバリスアグルチニン(GNA)、レンズマメアグルチニン(LCA又はレンズマメレクチン)、エンドウマメアグルチニン(PSA又はエンドウレクチン)、ラッパスイセンアグルチニン(NPA)及びアリウムウルシヌムアグルチニン(AUA)に由来する樹脂等があるがこれらに限定されない、マンノース部分を認識するものである。適切なアフィニティ樹脂の選択は、当該技術分野の技術範囲内に含まれる。アフィニティ精製の後、ポリペプチドは、上記の技法の何れかによる等、当該技術分野で周知の従来技法を使用して更に精製してよい。
【0130】
相対的に小さなポリペプチド、即ち、長さ約50個までのアミノ酸は、例えばペプチド技術の当業者に既知の幾つかの技法の何れかにより、化学的に都合よく合成され得る。一般的に、これらの方法は、成長するペプチド鎖への1個以上のアミノ酸の連続的な付加を使用する。通常、第1のアミノ酸のアミノ基又はカルボキシル基の何れかは、適切な保護基によって保護される。次いで、保護又は誘導体化されたアミノ酸は、アミド連鎖の形成を可能にする条件下で、適切に保護された相補的(アミノ又はカルボキシル)基を有する配列において隣のアミノ酸に逐次的に付加することにより、不活性固体支持体に結合され得るか、又は溶液中で利用され得る。次いで、保護基は、新たに付加されたアミノ酸残基から除去され、そして次に、隣の(適切に保護された)アミノ酸が付加され、後も同様である。所望のアミノ酸が正しい配列で結合された後、任意の残りの保護基(及び固相合成法が使用される場合は、任意の固体支持体)は逐次的又は同時に除去され、最終的なポリペプチドを生じる。この一般的手順の簡単な変更によって、例えば、保護トリペプチドを適切に保護されたジペプチドに結合して(キラル中心をラセミ化しない条件下)脱保護化後にペンタペプチドを形成することにより、成長する鎖に2個以上のアミノ酸を一度に付加することができる。例えば、固相ペプチド合成法については、J.M. Stewart and J.D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Co., Rockford, IL 1984);並びにG. Barany and R. B. Merrifield, The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, editors E. Gross and J. Meienhofer, Vol. 2, (Academic Press, New York, 1980), pp. 3−254を参照されたい。古典的な溶液合成については、M. Bodansky, Principles of Peptide Synthesis, (Springer−Verlag, Berlin 1984);並びにE. Gross and J. Meienhofer (eds.), The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Vol. 1を参照されたい。
【0131】
一般的な保護基としては、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)ベンジルオキシカルボニル(Cbz);p−トルエンスルホニル(Tx);2,4−ジニトロフェニル;ベンジル(Bzl);ビフェニルイソプロピルオキシカルボキシ−カルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、シクロヘキシル、イソプロピル、アセチル、o−ニトロフェニルスルホニル等が含まれる。
【0132】
一般的な固体支持体は、架橋ポリマー支持体である。これには、ジビニルベンゼン架橋スチレン系ポリマー、例えば、ジビニルベンゼンヒドロキシメチルスチレン共重合体、ジビニルベンゼン−クロロメチルスチレン共重合体及びジビニルベンゼン−ベンズヒドリルアミノポリスチレン共重合体が含まれてもよい。
【0133】
本発明のポリペプチド類似体は又、多様ペプチド並行合成の方法による等の他の方法によって化学的に調製されてもよい。例えば、Houghten (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:5131−5135;米国特許第4,631,211号を参照されたい。
抗体
本明細書に記載のアジュバント化HIV糖タンパク質に対する抗体は、モノクローナル及びポリクローナルとも、診断及び治療用途で使用してよく、例えば、中和抗体は受動免疫療法に有用である。モノクローナル抗体は、特に、抗イディオタイプ抗体を増大させるために使用される場合がある。
【0134】
抗イディオタイプ抗体は、防御が望まれる感染因子の抗原の「内部イメージ」を有する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を増大させる方法は、当該技術分野で既知である。例えば、Grzych, et al. (1985) Nature 316:74−76;MacNamara, et al. (1984) Science 226:1325−1326, Uytdehaag, et al. (1985) J. Immunol. 134:1225−1229を参照されたい。この抗イディオタイプ抗体は又、HIVの治療及び/又は診断に有用である場合がある。
【0135】
ウイルス抗原のための免疫学的検定は、例えば、ウィルスエピトープに対するモノクローナル抗体、1つのウイルスポリペプチドのエピトープに対するモノクローナル抗体の組み合わせ、種々のウイルスポリペプチドのエピトープに対するモノクローナル抗体、同じウイルス抗原に対するポリクローナル抗体、種々のウイルス抗原に対するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との組み合わせを使用される場合がある。
【0136】
免疫学的検定プロトコルは又、例えば、競合検定、直接反応検定又はサンドウィッチ型検定に基づいてよい。プロトコルは又、例えば固体支持体を使用し得るか、又は免疫沈降によるものであってよい。殆どの検定は、標識抗体又は標識ポリペプチドの使用を伴う。この標識は、例えば、蛍光分子、化学ルミネッセンス分子、放射性分子又は染料分子であってよい。プローブからのシグナルを増幅する検定も又既知である。その検定の例としては、ビオチンとアビジンとを使用する検定、並びに酵素標識及び酵素媒介免疫学的検定(例えば、ELISA検定)がある。
【0137】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して抗原濃度又は抗体濃度の何れかを測定することができる。この方法は、抗原又は抗体に対する酵素の複合体化に依存し、定量標識として結合した酵素活性を使用する。抗体を測定するためには、既知の抗原を固相(例えば、マイクロプレート又はプラスチックカップ)に固定し、それを試験用血清希釈液とインキュベートし、洗浄し、酵素で標識した抗免疫グロブリンとインキュベートし、再び洗浄する。標識に適切な酵素は、当該技術分野で既知であり、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼが含まれる。特異的な基質を加え、生成物の形成又は基質の利用を比色定量的に測定することにより、固相に結合した酵素活性が測定される。結合した酵素活性は、結合した抗体の量の一次関数である。
【0138】
抗原を測定するためには、既知の特異的な抗体を固相に固定し、抗原を含有する試験物質を加え、インキュベーション後に固相を洗浄し、更に別の酵素標識抗体を加える。洗浄後、基質を加え、酵素活性を比色定量的に評価し、抗原濃度に関連付ける。
【0139】
ポリクローナル抗体は、融合タンパク質をマウス、ウサギ、ヤギ又はウマ等の哺乳類に投与することによって産生することができる。免疫化された動物からの血清を採取し、例えば硫酸アンモニウムでの析出により抗体を血漿から精製し、その後クロマトグラフィー、好ましくはアフィニティクロマトグラフィーを行う。ポリクローナル抗血清を産生及び処理する技法は、当該技術分野で既知である。
【0140】
モノクローナル抗体も又、産生することができる。例えば変異体NS3ポリペプチド又はNSコア融合タンパク質で免疫化されたマウス等の哺乳類からの正常B細胞は、例えば、ハイブリドーマを産生するHAT感受性マウス骨髄腫細胞と融合することができる。ハイブリドーマは、RIA又はELISAを使用して同定し、半固体アガー内でのクローンニング又は限界希釈によって分離することができる。所望の特異的抗体を産生するクローンは、別のスクリ−ニングラウンドにより分離される。
【0141】
エピトープに対する抗体(モノクローナル及びポリクローナル)は、HIVに感染したヒト由来の血清試料等の試料内の抗原の存在を検出するのに特に有用である。HIV抗原の免疫学的検定は、1つの抗体又は幾つかの抗体を利用してよい。HIV抗原の免疫学的検定は、例えば、HIVエピトープに対するモノクローナル抗体、1つのエンベロープのエピトープに対するモノクローナル抗体の組み合わせ、種々のポリペプチドのエピトープに対するモノクローナル抗体、同じHIV抗原に対するポリクローナル抗体、種々のHIV抗原に対するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との組み合わせを使用される場合がある。免疫学的検定プロトコルは、例えば標識抗体等を使用する競合検定、直接反応検定又はサンドウィッチ型検定に基づいてよい。標識は、例えば、蛍光性、化学ルミネッセンス又は放射性であってよい。
【0142】
イムノアフィニティカラムでエンベロープを分離するために、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を更に使用される場合がある。抗体がその免疫選択的活性を保持するように、抗体は、例えば吸着又は共有結合によって固体支持体に付着させ得る。場合により、抗体の抗原結合部位がアクセス可能なままであるように、スペーサ基を含んでよい。更に、固定化抗体は、血液又は血漿等の生体試料に由来する標的に結合するために使用される場合がある。結合されたタンパク質又は複合体は、例えばpHを変化させることによって、カラムマトリックスから回収される。
診断用途、ワクチン用途及び治療的用途
本発明の組成物又はそれをコードするためのポリヌクレオチドは、多くの診断目的及び治療的目的のために使用することができる。例えば、その組成物に対して生成されるタンパク質及びポリヌクレオチド又は抗体は、HIV感染又は疾患状態の診断に効果があるか、若しくは免疫化に対する応答の基準としての生体試料内における反応性抗体及び/又はエンベロープタンパク質の存在を判定するために、種々の検定に使用することができる。
【0143】
上述の通り、エンベロープ(例えば、o−gp140)ポリペプチドと反応する抗体の存在、反対に、それに生成する抗体と反応する抗原の存在は、競合検定、直接反応検定又はサンドウィッチ型検定等の免疫学的検定等の、標準的な電気泳動法及び免疫診断法を使用して検出され得る。このような検定としては、ウェスタンブロット法;凝集検査;ELISA等の酵素標識及び酵素媒介免疫学的検定;ビオチン/アビジン型検定;放射免疫学的検定;免疫電気泳動;免疫沈降等が含まれるが、これらに限定されない。その反応には一般的に、蛍光分子、化学ルミネッセンス分子、放射性分子又は酵素標識又は染料分子等の伝達的な標識、或いは抗原とそれと反応する1つの抗体又は複数の抗体との間の複合体の形成を検出する他の方法が包含される。
【0144】
検定に使用することができる固体支持体の例には、膜状又はマイクロタイターウェル状のニトロセルロース;シート状又はマイクロタイターウェル状のポリ塩化ビニル;ビーズ状又はマイクロタイタープレート状のポリスチレンラテックス;ポリフッ化ビニリジン;ジアゾ紙;ナイロン膜;活性化ビーズ等がある。
【0145】
上記の免疫学的検定を行うために、本明細書に記載のアジュバント化エンベロープ糖タンパク質組成物或いは組成物に対する抗体は、適切な説明書及び他の必要な試薬と共にキットで提供することができる。使用する特定の免疫学的検定によって、キットは又、適切なラベル並びに他の包装された試薬及び材料(即ち、洗浄用緩衝剤等)を含んでもよい。上記したもの等の標準的な免疫学的検定は、これらのキットを使用して実施することができる。
【0146】
前記組成物は又、被験体における予防的(即ち、感染及び/又は疾患進行の予防)及び/又は治療的(感染後のHIVの治療)な免疫応答を誘導するために、ワクチンとして使用される場合もある。ワクチンの組成物は、複数のウイルス分離株及び/又はサブタイプに由来するエンベロープ糖タンパク質(又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列)の混合物を含んでよい。特定の実施形態において、前記組成物は、少なくとも2種類の異なるサブタイプ(例えば、サブタイプB及びC)に由来するエンベロープ糖タンパク質(又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列)の混合物を含む場合がある。他の実施形態において、前記組成物は、少なくとも3種類の異なるサブタイプ(例えば、サブタイプA、B及びC)に由来するエンベロープ糖タンパク質(又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列)の混合物を含んでもよい。更なる実施形態において、前記組成物は、少なくとも2種類の異なるHIVのタイプ(例えば、HIV−1、HIV−2)に由来するエンベロープ糖タンパク質(又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列)の混合物を含んでもよい。更に他の実施形態において、前記組成物は、同じサブタイプ(例えば、HIV−1SF2、HIV−1SF162、HIV−1CM235、等)に由来する少なくとも2種類の異なる株に由来するエンベロープ糖タンパク質(又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列)の混合物を含んでもよい。
【0147】
特定の実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、複数のHIVタイプ、株及び/又はサブタイプに由来する感染症を防ぐ及び/又は治療する免疫応答を誘導するために使用することができる。他の実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、複数のHIVサブタイプに由来するHIV株に対する予防的及び/又は治療的な免疫応答を誘導するために使用することができる。例えば、本明細書に記載の多価組成物は、前記組成物のHIVエンベロープ糖タンパク質が由来する株を包含するHIVサブタイプに対して予防的及び/又は治療的な免疫応答を誘導するために使用することができる。特定の一実施形態において、本明細書に記載の多価組成物は、前記組成物のHIVエンベロープ糖タンパク質が由来する株を包含するHIVサブタイプと、前記多価組成物においては示されないHIVサブタイプとに対して予防的及び/又は治療的な免疫応答を誘導するために使用することができる。
【0148】
本明細書に記載の組成物及びワクチンは、免疫化組成物の一部を形成しないサブタイプを含めた種々のサブタイプに対する広い中和活性を生じる場合がある。例えば、実施例1において、本出願人等らは、サブタイプB及びCのエンベロープ糖タンパク質を含む多価組成物での免疫化によりサブタイプB、C及びAの種々のHIV株に対する中和抗体が誘発されたことを示した。
【0149】
本明細書に記載の組成物は又、他の抗原及び免疫調節剤、例えば、IL−2、修飾IL−2(cys125−ser125)、GM−CSF、IL−12、γ−インターフェロン、IP−10、MIP1及びRANTESを含むがこれらに限定されない免疫グロブリン、サイトカイン、リンホカイン及びケモカインと共に投与される場合がある。
【0150】
前記組成物は、ポリペプチドとして、或いはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして投与される場合がある。ポリヌクレオチドは、裸の核酸のワクチン(例えばDNA)として、或いはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アルファウイルスベクター(例えば、米国特許第6,465,634号;同第6,458,560号;同第6,451,592号;同第6,426,196号;同第6,376,236号;同第6,015,694号;同第6,342,372号;同第6,015,686号;同第5,843,723号;及び同第5,789,245号を参照)及びアデノ関連ウイルスベクター等のウイルスベクターを使用して送達される場合がある。ポリヌクレオチドは又、非ウイルスベクター(例えば、核酸又はタンパク質で被覆したリポソーム、粒子)を使用して送達される場合がある。これら及び他のポリヌクレオチド送達系は、当業者に既知であり、例えば、米国特許第6,943,153号;同第6,602,705号;並びに米国特許公開第20050214256号;同第20030194800号;同第20030170614号;同第20030223964号;同第20030143248号;及び同第20020198621号に記載されている。
【0151】
前記組成物は又、タンパク質及び核酸の混合物を含む場合があり、これは同一又は異なるビヒクルを使用して順番に送達される場合がある。
【0152】
前記組成物及びワクチンは、単一又は複数の様式(例えば、DNA又はウイルスの初回抗原刺激並びにタンパク質の追加抗原刺激)で投与される場合があり、そしてその個別の様式は、逐次的に又は併用して施してよい。例えば、特定の実施形態において、本明細書に記載の組成物は、哺乳類の被験体を初回抗原刺激するために投与される場合がある。初回抗原刺激とは、本明細書に使用される場合、本明細書に記載の組成物による第1の免疫化によって本明細書に記載の第2の組成物による第2の免疫化に応じて1つの標的抗原又は複数の抗原に対する免疫応答が起こるようにする任意の方法を意味するものであって、第2の免疫応答が、第1の免疫化が得られない場合、若しくは施される第1の免疫化に1つの抗原又は複数の抗原を発現しない組成物が含まれる場合に達成されるものよりも大きいものである。初回抗原刺激は、単回投与或いは1時間毎、1日毎、1週毎、1月毎又は1年毎に投与される反復投与を含む投与計画を包含する。特定の一実施形態において、初回抗原刺激(又は、初回抗原刺激免疫化)は、少なくとも2回の投与(1つ以上の用量又は投与量を含む)を含む。例えば、特定の一実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の組成物の投与による初回抗原刺激は、組成物の少なくとも1回(例えば、1、2、3、4、5、6、7回以上)の投与(1回以上の用量又は投与量)を伴う。投与の間の時間間隔は、時間、日、週、月又は年であってよい。他の実施形態において、本明細書に記載の組成物は、哺乳類の被験体の初回抗原刺激後に達成される免疫応答を追加抗原刺激する追加抗原刺激として投与される場合がある。追加抗原刺激として投与される組成物は、初回抗原刺激の後にしばらくして投与される。特定の一実施形態において、追加抗原刺激(又は追加抗原刺激免疫化)は、初回抗原刺激(又は初回抗原刺激免疫化)の2〜27週間後に行ってよい。追加抗原刺激は、単回投与或いは1時間毎、1日毎、1週毎、1月毎又は1年毎に投与される反復投与を含む投与計画を包含する。特定の実施形態において、追加抗原刺激(又は追加抗原刺激免疫化)は少なくとも1回の投与を含む。他の実施形態において、追加抗原刺激(又は追加抗原刺激免疫化)は、少なくとも2回の投与(1回以上の用量又は投与量を含む)を含む。例えば、このような例において、特定の一実施形態においては、本明細書に記載の1つ以上の組成物の投与による追加抗原刺激は、組成物の少なくとも1回(例えば、1、2、3、4、5、6、7回以上)の投与(1回以上の用量又は投与量を含む)を伴う。投与の間の時間間隔は、時間、日、週、月又は年であってよい。
【0153】
特定の実施形態においては、初回抗原刺激及び追加抗原刺激として同じ組成物を投与することができる。他の実施形態においては、初回抗原刺激及び追加抗原刺激に異なる組成物を使用することができる。例えば、特定の実施形態において、ポリペプチド組成物の複数の免疫化は、初回抗原刺激及び/又は追加抗原刺激として施される。他の実施形態においては、1回以上のポリヌクレオチド(例えばプラスミド、アルファウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はそれらの組み合わせ)初回抗原刺激免疫化を施し、その後1回以上のポリペプチド追加抗原刺激を行う。
【0154】
本明細書に記載のワクチンは一般的に、1種類以上の「薬学的に許容される賦形剤又はビヒクル」(水、生理食塩水、グリセロール、エタノール等)を含む。更に、助剤物質(湿潤剤又は乳化剤等)、pH緩衝物質等が、このようなビヒクルに存在してよい。
【0155】
それ自身は前記組成物を投与される個体に有害な抗体の産生を誘導しない分子である担体は、場合により存在する。適切な担体は、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体(油滴又はリポソーム等)及び不活性ウイルス粒子等の、一般的には大きく、新陳代謝が遅い巨大分子である。このような担体は、当業者に周知である。更に、エンベロープポリペプチドは、細菌トキソイド(例えば、ジフテリア、破傷風、コレラ等に由来するトキソイド)に複合化してよい。
【0156】
一般的に、ワクチンの組成物は、液体溶液又は懸濁液の何れかとしての注入剤として調製され;注入前の液状ビヒクル内の溶液又は懸濁液に適した固形も又、調製される場合がある。製剤は又、上記のようなアジュバント効果の向上ためにリポソーム内に乳状にするか若しくはカプセル化することもできる。
【0157】
本明細書に記載のワクチンは、治療有効量のアジュバント化HIVエンベロープ糖タンパク質組成物、或いは、場合により、それをコードするヌクレオチド配列、これらの複合体に対する抗体及び上述の任意の他の成分を含む。「治療有効量」は、ワクチンが投与される、非感染、感染又は非曝露の個体における予防的免疫応答を誘導する量を意味する。このような応答は、一般的に、被験体における、ワクチンに対する分泌性の細胞媒介性免疫応答及び/又は抗体媒介性免疫応答の発現をもたらす。細胞媒介性免疫応答としては、CD4+Tヘルパー細胞応答、細胞傷害性Tリンパ球、CD8+細胞抗ウイルス応答及び抗ウイルス性ケモカイン応答が含まれる。抗体媒介性免疫応答としては、血清学的検定(ウイルス中和検定、ADCC検定、ELISA、免疫ブロット検定)で測定されるものが含まれる。従って、予防的免疫応答は、以下の効果の1つ以上を含むが、これに限定されない:免疫グロブリンA、D、E、G又はM等の任意の免疫学的クラスに由来する抗体の産生;B及びTリンパ球の増殖;免疫学的細胞に対する活性化シグナル、増殖シグナル及び分化シグナルの供給;ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞及び/又は細胞障害性T細胞の拡大。
【0158】
好ましくは、有効量は、疾患症状の治療又は予防をもたらすのに十分な量である。必要とされる正確な量は、治療される被験体によって変化する;治療される個体の年齢及び一般的症状;抗体を合成する個体の免疫系の能力;所望の防御の程度;治療される症状の重症度;他の要素における、選択される特定の多価組成物、及びその投与様式。適切な有効量は当業者により容易に決定することができる。「治療有効量」は、ルーチン試験により決定することができる比較的広い範囲内にある。
【0159】
核酸及び/又はポリペプチドは、両方とも、皮下、上皮、皮内、粘膜内(例えば、経鼻、直腸、膣等)、腹腔内、静脈内、経口又は筋肉内注入することができる。他の投与様式としては、経口及び肺動脈投与、坐薬、無針注入、経皮性及び経皮的使用が含まれる。投薬治療は、単回投与スケジュール又は反復投与スケジュールである場合がある。核酸の投与は、ペプチド又は他の物質の投与と組み合わせる場合がある。
【0160】
以上において本発明の好ましい特定の実施形態に関連して本発明を説明してきたが、前述の明細書並びにそれに続く実施例は例示を目的としたものであり、本発明の適用範囲を限定することを目的としたものではないことを理解されたい。本発明の適用範囲内に含まれる他の態様、利点及び改変は、本発明が関係する当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0161】
以下は、本発明を実施するための特定の実施形態の例である。これらの実施例は、単に例示を目的として提供されるものであり、如何なる方法によっても本発明の適用範囲を制限することを目的としたものではない。
【0162】
使用される数(例えば、量、温度等)について正確さを保証するように試行されたが、幾らかの実験的誤差及び偏差は、もちろん許容されるべきである。
実施例:多価o−gp140ポリペプチドによる免疫化
HIVエンベロープの免疫原性を高めようと、本発明者等及びその他は、HIVビリオンの表面に存在する天然で三量体のエンベロープスパイクに類似する場合があるHIVエンベロープ抗原の設計に基づいて、オリゴマーHIVエンベロープ糖タンパク質(o−gp140)サブユニットワクチンの手法を追求してきた。例えば、Yang, et al., (2000) J. Virol. 74(12):5716−5725;Grundner, et al., (2005) Virology 331(1): 33−46;Srivastava, et al., (2003) J. Virol. 77(29):11244−11259;Barnett, et al., (2001) J. Virol. 75(12):5526−5540を参照されたい。故に、本発明者等は、第2の超可変ループ(ΔV2)で修飾され、北米人のクレードBのHIV株SF162に、及びより最近では南アフリカ人のクレードCのHIV株TV1に由来する可溶性HIV o−gp140を開発してきた(Lian, et al., (2005) J. Virol. 79(21):13338−13349)。
【0163】
DNA又はアデノウイルス初回抗原刺激免疫化の後、MF59アジュバントにおけるオリゴマータンパク質免疫化を行う初回抗原刺激/追加抗原刺激ワクチン投与計画を使用して、本発明者等は、これらのΔV2o−gp140が、ウサギ(Barnett, et al., (2001) J. Virol. 75(12):5526−5540)、アカゲザル(Otten, et al., (2005) J. Virol. 79(13):8189−8200)及びチンパンジー(Peng, et al., (2005) J. Virol. 79(16): 10200−10209)において免疫原性であることを示した。複製アデノウイルス−HIV組換え体でチンパンジーを初回抗原刺激し、その後SF162 ΔV2 o−gp140で追加抗原刺激する場合、中和スペクトルの広い抗体の活性の徴候の望みはあるが(Peng, et al., (2005) J. Virol. 79(16):10200−10209)、ウサギ及びアカゲザルにおいてDNA初回抗原刺激/o−gp140追加抗原刺激のワクチン投与計画を使用する場合、異種のHIV株に対する体液性応答の幅が限定された(Lian, et al., (2005) J. Virol. 79(21): 13338−13349)。それでもなお、DNA初回抗原刺激/タンパク質追加抗原刺激の投与計画に一体化する場合、ΔV2 TV1及びSF162 gp140免疫原は、幾つかの研究で中和―感受性SF162株に対して最も高い力価の中和抗体を絶えず産生し(Lian, et al., (2005) J. Virol. 79(21):13338−13349)、これにより、単一の2価ワクチン内へのこれらのgp140抗原の組み合わせが少なくとも力価に関して有望であり得ることが示唆された。
【0164】
多価及びマルチクレードのHIVワクチンにより誘発されるアカゲザル(Seaman, et al., (2005) J. Virol. 79(5):2956−2963;Pal, et al., (2005) J. Med. Primatol. 34(5−6):226−236)及びモルモット(Chakrabarty, et al., (2005) Vaccine. 23(26):3434−3445)における中和抗体応答の幅の徴候が改善されることを示す最近の証拠に従って、以下のタンパク質のみの2価のΔV2 o−gp140の実験を実施し、急性/早期のHIV感染症に由来する、特性がはっきりしているHIV偽型株のパネルに対する中和抗体応答の幅を評価した。早期の分離株が、伝えられるHIV株をよりよく表現し、そしてしかるにHIVワクチンの設定においてより関連があるという理由で、選択される分離株は、HIV感染の経過において早期に得られたものであった(Moore, et al., (2004) Nat. Med. 10(8):769−771)。更に、HIV中和抗体の総合評価についての最近の推奨に基づき(Li, et al., (2005) J.Virol. 79(16):10108−10125;Mascola, et al., (2005) J. Virol. 79(16):10103−10107;Esparza (2005) Int. Microbiol. 8(2):93−101)、ワクチン免疫検出均一性を維持するためにサブタイプBパネルを選択した。
【0165】
A.ウサギ
動物、ワクチン及びアジュバント
既にSrivastava, et al., (2003) J. Virol. 77(20):11244−11259及びLian, et al., (2005) J. Virol. 79(21):13338−13349に記載された通りにリサーチグレードSF162 ΔV2 env o−gp140及びTV1 ΔV2 env o−gp140を調製した。各免疫化群につき10匹のニュージランドホワイト種ウサギを使用した。ウサギに対して、0、4、12及び24週目に殿筋における筋肉内免疫化を合計4回施した。ワクチンの投与量は、動物1匹当たりの指示されたo−gp140ワクチンの25μgであった。2価ワクチン群(第5群及び第6群)の動物は、12.5μgのSF162 o−gp140と12.5μgのTV1 o−gp140とを同じ注射器内に組み合わせて投与を受けた。第1群、第3群及び第5群の動物には、250μLのMF59アジュバントと併用したタンパク質免疫が投与された;第2群、第4群及び第6群の動物には、250μLのMF59アジュバント及び500μgのCpG−7909と併用したタンパク質免疫が投与された。
【0166】
ウサギは、以下の表で示すように、免疫賦活薬CpG−7909の有無にかかわらず、MF59アジュバントにおける1価又は2価のΔV2 o−gp140ワクチンで免疫化された。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】

TZM−blスクリーニング検定
Li, et al., (2005) J. Virol. 79(16):10108−10255;及びMontefiori (2004) (John Wiley & Sons, New York, NY)に記載された通りに得られた、TZM−bl細胞のウイルス感染の単一の段階後のルシフェラーゼ遺伝子発現の減少として中和抗体活性を測定した。採血前、3回目の免疫化から2週間後(2wp3)及び4回目の免疫化から2週間後(2wp4)に、血清試料に対して、1:10の希釈度での複製と同時に中和活性についてスクリーニングを行った。採血前血清の存在下におけるRLUを基準にして、相対発光強度(RLU)の減少率を算出した。同様に、1:15〜1:32805の範囲にわたって、逐次的に希釈された血清の活性を検出することにより、中和力価を測定した。
【0169】
特にCpG−7909を有するMF59アジュバントにおける配合の場合、及び動物が3回又は4回免疫化される場合、クレードB SF162に対する力価に関して、本明細書に記載された2価o−gp140ワクチンはその単価ワクチンの対応物よりも優れていることが示された。
【0170】
TV1に加えて(又はその代わりに)ThaiサブタイプE株HIV−1CM235に由来するHIVエンベロープポリペプチドを使用した実験を更に実施してよい。その実験の結果は、同様に単価ワクチン組成物よりも免疫応答が高まることを示すものであることは合理的に予想される。
【0171】
B.アカゲザル
基本的には後述するように、MF−59及びCpG−7909について上記した、アジュバント化した多価o―gp140ワクチンで、非ヒト霊長類(アカゲザル)も又免疫化した。
【0172】
【表3】

1回目の免疫化(0週目)は、以下の通りである:第1群:1mLのMF59+CpG内に混合されたgp140エンベロープタンパク質抗原(サブタイプA、B、C)各3×50μgを筋肉内投与(左上腕部);第4群:1mLのMF59+CpG(左上腕部)。2回目の免疫化(6週目)は、以下の通りである:第1群:1mLのMF59+CpG内のタンパク質抗原各3×50μg(左上腕部);第4群:1mLのMF59+CpG(左上腕部)。3回目の免疫化(16週目)は、以下の通りである:第1群:1mLのMF59+CpG内のタンパク質抗原3×50μg(左上腕部);第4群:1mLのMF59+CpG(左上腕部)。4回目(任意)の免疫化(28週目)は、以下の通りである:第1群:1mLのMF59+CpG内のタンパク質抗原3×50μg(左上腕部);第4群:1mLのMF59+CpG(左上腕部)。
【0173】
この結果により、MF59及びCpG−7909を有する2価HIVエンベロープ糖タンパク質ワクチンのアジュバント化は、単独であっても組み合わせても、中和抗体応答の力価を高めたことが示される。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1A】図1Aは、3回目の免疫化から2週間後及び4回目の免疫化から2週間後にアジュバント化HIVエンベロープ糖タンパク質組成物で免疫化されたウサギから得られた血清によるHIVサブタイプBの中和を表す表を示す。網掛け又は囲み網掛け部分は、それぞれ試験株における50%超又は80%超のウイルス中和を示す。
【図1B】図1Bは、3回目の免疫化から2週間後及び4回目の免疫化から2週間後にアジュバント化HIVエンベロープ糖タンパク質組成物で免疫化されたウサギから得られた血清によるHIVサブタイプBの中和を表す表を示す。網掛け又は囲み網掛け部分は、それぞれ試験株における50%超又は80%超のウイルス中和を示す。
【図2】図2は、棒の下に示した各種アジュバント化gp140含有組成物による免疫化したウサギから得られたHIV SF162株に対する中和抗体力価を表すグラフである。組成物毎に、採血前(淡色、左の棒)、3回目の免疫化から2週間後(灰色、中央の棒)、4回目の免疫化から2週間後(暗色、右の棒)の力価を示す。
【図3】図3は、棒の下に示した各種アジュバント化gp140含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の80%幾何平均中和力価(GMT)を表すグラフである。組成物毎に、採血前、2回目の免疫化から2週間後、3回目の免疫化から2週間後、4回目の免疫化から2週間後、4回目の免疫化から6ヶ月後の抗体力価を示す。これらの結果では、全ての群においてSF162に対する高い中和抗体力価が誘発されたことが示されている。
【図4】図4は、記載した各種アジュバント化エンベロープ糖タンパク質含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の80%幾何平均中和力価(GMT)を表すグラフである。2回目の免疫化から2週間後、3回目の免疫化から2週間後、及び4回目の免疫化から2週間後の結果を示す。これらの結果では、MF59及びCpGの両方によるアジュバント化によって、SF162に対する中和抗体応答が上昇したことが示されている。
【図5】図5は、横軸に示した各種アジュバントエンベロープ糖タンパク質含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の80%中和抗体力価を表すグラフである。4回目の免疫化から2週間後の結果を示す。この結果では、CpG免疫化群に中和抗体応答の有意な上昇が誘発されたことが示されている。
【図6】図6は、横軸に示した各種アジュバントエンベロープ糖タンパク質含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の80%中和抗体力価を表すグラフである。4回目の免疫化から2週間後の結果を示す。この結果では、MF59の2価免疫化によってSF162に対する中和抗体力価が上昇したことが示されている。
【図7】図7は、横軸に示した各種アジュバントエンベロープ糖タンパク質含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の80%中和抗体力価を表すグラフである。4回目の免疫化から2週間後の結果を示す。この結果では、MF59及びCpGの2価免疫化によって、TV1単独よりもSF162に対する中和抗体力価が有意に上昇したことが示されている。
【図8】図8は、残り時間で示す免疫化群におけるSF162に対する幾何平均中和力価の比較におけるP値を表す表である。P値は図5の通りに算出した。網掛け部分は群間の有意差を示す。2回目の免疫化から2週間後、3回目の免疫化から2週間後、4回目の免疫化から2週間後、及び4回目の免疫化から6ヶ月後の結果を示す。これらの結果では、HIV SF162株に対する幾何平均力価(GMT)の有意差が早くも2回目の免疫化から2週間後に認められたことが示されている。
【図9】図9は、横軸に示した各種アジュバントエンベロープ糖タンパク質含有組成物により免疫化したウサギから得られた血清によるHIV SF162株の50%中和抗体力価を表すグラフである。採血前、2回目の免疫化から2週間後、3回目の免疫化から2週間後、及び4回目の免疫化から2週間後の結果を示す。バックグランド力価濃度は、3回目の免疫化から2週間後の血清の場合は25、その他の血清試料の場合は20である。これらの結果では、CpG含有群においてのみTV1.21中和抗体応答が誘発されることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のHIVエンベロープポリペプチド及び第2のHIVエンベロープポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、該第1及び第2のエンベロープポリペプチドが異なるHIVサブタイプに由来する、免疫原性組成物。
【請求項2】
1種類以上のアジュバントも更に含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記1種類以上のアジュバントが、MF59、CpG分子、微粒子、ミョウバン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記HIVエンベロープポリペプチドが、gp120、gp140及びgp160ポリペプチドからなる群より選択されるポリペプチドを含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
少なくとも1種類のHIV Envポリペプチドが、gp140ポリペプチドを含み、該gp140ポリペプチドがオリゴマーgp140(o−gp140)である、請求項4に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
2種類以上のHIVエンベロープポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、該エンベロープポリペプチドの少なくとも2種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来する、免疫原性組成物。
【請求項7】
3種類以上のHIVエンベロープタンパク質を含み、該エンベロープポリペプチドの少なくとも3種類がそれぞれ異なるHIVサブタイプに由来する、請求項6に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
1種類以上のアジュバントも更に含む、請求項6又は請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記1種類以上のアジュバントが、MF59、CpG分子、微粒子、ミョウバン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記微粒子がPLG微粒子を含む、請求項9に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
前記HIVエンベロープポリペプチドが、gp120、gp140及びgp160からなる群より選択されるポリペプチドを含む、請求項6〜10の何れか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
少なくとも1種類のHIVエンベロープポリペプチドがgp140ポリペプチドを含み、該gp140ポリペプチドがオリゴマーgp140(o−gp140)である、請求項11に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
前記o−gp140がプロテアーゼ開裂部位における変異を含む、請求項12に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
前記HIVエンベロープポリペプチドの1種類以上が、V2ループの欠失、V1ループの欠失、V3ループの欠失又はそれらの組み合わせを含む、請求項1〜13の何れか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
前記HIVエンベロープポリペプチドが、サブタイプA、B、C、D、E、F、G、H、J、K及び組換え型流行株(CRF)からなる群より選択される2種類以上のサブタイプに由来する、請求項1〜14の何れか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
前記2種類以上のサブタイプがサブタイプA及びBを含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
前記2種類以上のサブタイプがサブタイプA及びCを含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記2種類以上のサブタイプがサブタイプB及びCを含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
前記2種類以上のサブタイプがサブタイプB及びEを含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記HIV Envポリペプチドの1種類以上が、CD4、CD4模倣物、CCR5共受容体又は模倣物、TAT、他のウイルスタンパク質、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、小分子及びそれらの組み合わせからなる群より選択される1種類以上の更なる分子と複合体を形成する、請求項1〜19の何れか1項に記載の免疫原性組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−511640(P2009−511640A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536823(P2008−536823)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/041023
【国際公開番号】WO2007/047916
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】