説明

マルチシートの押さえ杭

【課題】土壌面からの引き抜き抵抗を大幅に向上させることが可能で、マルチシートに生じる突き刺し孔を必要以上に拡大することなく、土壌面の被覆効果を良好に保つ。
【解決手段】押さえ杭10は、マルチシートを押さえる頭部2の下方に、土壌面に突き刺さる脚部3が設けられる。脚部3は、槍棒状の芯材3Mと、この芯材3Mの先端部の両側位置から付け根部の両側位置まで、芯材3Mの左右側方に架け渡されるバネ板材3S,3Sとを備える。バネ板材3S,3Sは、脚部3に負荷がかからない平常時には、それぞれ左右外側に膨らむように湾曲して連なる展開状態にあり、脚部3の左右内向きに既定値以上の負荷がかかると、それぞれ左右内側に膨らむように湾曲して連なる重畳状態に切り替わる。脚部3から左右内向きの負荷を除いた開放時には、バネ板材3S,3Sがその復元力によって重畳状態から元の展開状態に復帰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチシートの押さえ杭に関し、詳しくは、押さえ杭の抜け止め構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業資材の一種としてマルチシートが知られている。マルチシートは、例えば黒色や白色の樹脂フィルム材からなり、雑草の抑制、地温の調節等のために土壌面に被せて使用される。
【0003】
従来、このようなマルチシートを土壌面に固定するために専用の押さえ杭(「マルチ押さえ」とも言う)が用いられる。押さえ杭の構成は、例えば板状の頭部の下方に槍棒状の脚部を設けてなる。頭部の中央付近から下方に向けて正面から見てT字状になるように脚部が延びる。
【0004】
土壌面にマルチシートを被せて押さえ杭を打ち込むと、押さえ杭の脚部がマルチシートを貫通して土壌面に突き刺さり、頭部がマルチシートを押さえる。適度な間隔を保って押さえ杭を打ち込むことで、マルチシートが土壌面に安定的に保持される。
なお、マルチシートの押さえ杭に関する先行技術としては、下記の特許文献1および2が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−245655号公報
【特許文献2】実開平6−86442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のマルチシートの押さえ杭は、土壌面からの引き抜き抵抗が十分でないことが多い。このため、マルチシートが風に煽られると、押さえ杭が土壌面から抜けやすいといった問題が生じている。一箇所で押さえ杭が抜けると、抜けた部分のシート面にさらに風圧がかかり、他の押さえ杭まで連鎖的に抜けてしまうことも起こる。
【0007】
これに対し、脚部の左右側方に返しを設けて引き抜き抵抗を高めるようにした押さえ杭が知られているが(特許文献1参照)、上記の問題は十分に解決されておらず、より信頼性の高い押さえ杭が求められているのが現状である。
【0008】
引き抜き抵抗を十分に確保するために、返しの数を増やしたりその長さを拡大するといったことも考えられるが、このような対策では、マルチシートに生じる突き刺し孔が必要以上に拡がってしまい、土壌面の被覆効果が損なわれるおそれもある。
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、土壌面からの引き抜き抵抗を大幅に向上させることが可能で、しかも、マルチシートに生じる突き刺し孔を必要以上に拡大することなく、土壌面の被覆効果を良好に保てるようにしたマルチシートの押さえ杭を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[第1発明]
前記課題を解決するための第1発明のマルチシートの押さえ杭は、以下の構成を採用することとした。
すなわち、マルチシートを押さえる頭部と、この頭部の下方に延び前記マルチシートを貫通して土壌面に突き刺さる脚部とを備えた押さえ杭であって、
前記脚部は、
前記頭部の下方に延びる槍棒状の芯材と、
この芯材の先端部の両側位置から付け根部の両側位置まで、前記芯材の左右側方に空間を保って架け渡される一対のバネ板材とを有し、
前記脚部に負荷がかからない平常時には、前記一対のバネ板材がそれぞれ左右外側に膨らむように湾曲して連なる展開状態にあり、
前記脚部の左右内向きに既定値以上の負荷がかかる加圧時には、前記一対のバネ板材が展開状態からそれぞれ左右内側に膨らむように湾曲して連なる重畳状態に切り替わり、
前記脚部から左右内向きの負荷を除いた開放時には、前記一対のバネ板材がその復元力によって重畳状態から元の展開状態に復帰するように構成した。
【0011】
押さえ杭の使用時、まず、芯材の先端がマルチシートに突き刺さり、次いで左右のバネ板材が突き刺し孔を通過して地中に入る。このとき、バネ板材は、平常時の展開状態にあり、突き刺し孔の縁部から左右内向きの負荷を受ける。
芯材がさらに深く入り込むと、バネ板材の湾曲形状のうち芯材から最も離れた部位に近づくにつれて突き刺し孔の縁部からバネ板材が受ける負荷が次第に大きくなり、既定値以上になると、バネ板材が展開状態から重畳状態に瞬時に切り替わる。
バネ板材の芯材から最も離れた部位が突き刺し孔を通過すると、その後は突き刺し孔の縁部からバネ板材が受ける負荷が小さくなり、既定値を下回ると、バネ板材が重畳状態から元の展開状態に戻る。
【0012】
本発明の構成によれば、マルチシートを貫通したバネ板材が土壌中で展開状態に保たれる。このため、芯材とバネ板材との間の空間に土が入り込んで周辺の土に馴染んで固まる。これにより、バネ板材が芯材の周囲の土壌にしっかりとくい込んで、土壌面からの引き抜き抵抗を大幅に向上させる。
【0013】
また、マルチシートに押さえ杭を打ち込む時、バネ板材が平常時の展開状態から加圧時の重畳状態に切り替わり、重畳状態で突き刺し孔に通されるため、バネ板材の湾曲形状のうち芯材から最も離れた部位は、平常時よりも左右内側に寄って脚部全体の横幅を小さく保つ。
この結果、バネ板材がマルチシートの突き刺し孔を必要以上に拡大することがなく、マルチシートの被覆効果を良好に保つことができる。
【0014】
[第2発明]
第2発明のマルチシートの押さえ杭は、前記第1発明の構成を備えるものであって、前記一対のバネ板材の側面にそれぞれ左右外側に突出する返しを設ける構成とした。
【0015】
このような構成によれば、バネ板材に加えて左右外向きの返しが土壌中で抵抗として作用する。これにより、押さえ杭の土壌面からの引き抜き抵抗をさらに高めることができる。
また、バネ板材の側面に返しが設けられるため、バネ板材の展開状態と重畳状態に追随して返しも同様に芯材との距離を変化させる。これにより、展開状態では突き刺し孔から返しが抜けにくくになり、重畳状態では突き刺し孔に返しが入りやすくなるといった効果を両方享受することができる。
【0016】
[第1発明および第2発明]
本発明の押さえ杭は、野菜畑や果樹畑の土壌で使用するのが望ましいが、マルチシートの固定に使用するものであれば土壌の用途は問わない。
マルチシートとしては、例えばポリ塩化ビニルを材料とするフィルムからなるものが望ましく、黒色、白色の他、銀色や透明のマルチシートにも適用することができる。
使用後の環境を考慮してマルチシートおよび押さえ杭の材料に生分解性プラスチックを採用することも可能である。
その他、第1発明および第2発明に明細書に記載の他の発明を適用することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のマルチシートの押さえ杭を示す斜視図である。
【図2】同押さえ杭を示すもので(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図3】同押さえ杭を示すもので(A)は平面図、(B)は底面図である。
【図4】図2に示すIV−IV線端面図である。
【図5】図2に示すV−V線端面図である。
【図6】同押さえ杭のバネ板材の展開状態および重畳状態を説明するための模式図である。
【図7】マルチシートを通して土壌面に同押さえ杭を突き刺す途中の状態を示す作用説明図である。
【図8】マルチシートを通して土壌面に同押さえ杭を突き刺した後の状態を示す作用説明図である。
【図9】第2実施形態のマルチシートの押さえ杭を示すもので、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図10】第3実施形態のマルチシートの押さえ杭を示すもので、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
第1実施形態の押さえ杭の斜視図を図1に示した。図1に示すように、押さえ杭10は、マルチシートを押さえる頭部2と、マルチシートに突き刺さる脚部3とを備えている。帯板状の頭部2の中央から下方に向けて脚部3が延びている。
頭部2の板幅は例えば2〜3cm程度、長さは10〜12cm程度である。脚部3の横幅は例えば2〜4cm程度、長さは10〜15cm程度である。押さえ杭10を正面から見ると、頭部2と脚部3とがT字状をなすように形成される。
【0019】
頭部2は、上から見ると長円形で、左右方向に一定幅で延びている(図3(A)参照)。頭部2の板面は、中央から外側に僅かに下方に傾斜している(図2(A)参照)。頭部2の下側には、脚部3の両側付け根部分に連なる補強用のリブ7が設けられる。
【0020】
脚部3は、槍棒状の芯材3Mとその左右両側のバネ板材3S,3Sとから構成される。芯材3Mの先端部3aの両側位置から付け根部3bの両側位置まで空間Hを保って架け渡される。
側方から見ると、芯材3Mよりもバネ板材3S,3Sの方が板幅が大きく、芯材3Mがバネ板に隠れる(図2(B)参照)。バネ板材3S,3Sの先端部は、先細り形状になって芯材3Mの先端部に連なっている。
【0021】
バネ板材3S,3Sの側面には、左右外側に向けて複数の返し5が突出している。各返し5は、左右にそれぞれ4個ずつバネ板材3S,3Sの長さ方向に均等な間隔を保って左右対称に配置される(図2(A)参照)。
返し5は、横板5aと縦板5bを有する(図2(B)参照)。横板5aは、若干上向きに傾斜しており、引き抜き時の抵抗となる。縦板5bは、横板5aの中央からほぼ垂直下向きに延び、横板5aを補強する役割を果たす。
【0022】
図6に押さえ杭を正面から見た模式図を示した。
脚部3に負荷がかからない平常時には、バネ板材3S,3Sが実線で示すように左右外側に膨らむように湾曲した展開状態に保たれる。つまり、バネ板材3S,3Sが先端から付け根側にいくに従って芯材3Mから一旦離れてその後近づくように連なる。
【0023】
脚部3の左右両側に、図6矢印に示すような内向きの負荷がかかると、バネ板材3S,3Sが二点鎖線に示すように、左右内側に膨らむように湾曲した重畳状態に切り替わる。この切り替えは、左右の負荷が既定値になるまでは起こらず、既定値に達すると瞬時に起こる。既定値以上の負荷になると、バネ板材3S,3Sの中央部分が芯材3Mに当接し、このままほぼ静止した状態に保たれる。
【0024】
なお、この既定値については、マルチシートの材質や厚み等を考慮して適度な値に設定するとよい。マルチシートが比較的柔軟な突き刺しやすいものであるときは、既定値を小さく設定する。また、土壌が比較的硬いときは、既定値を大きく設定する。いずれにしても、マルチシートに押さえ杭10を打ち込む際に、バネ板材3S,3Sの湾曲形状のうち芯材3Mから最も離れた部位3Stが突き刺し孔に至る前の段階で展開状態から重畳状態への切換が起こるように設定することが必要である。
【0025】
図7および図8に、マルチシートを通して土壌面に押さえ杭10を打ち込む様子を模式図で示した。
押さえ杭10の使用時、まず、芯材3Mの先端がマルチシート15に突き刺さり、次いで、左右の芯材3Mが突き刺し孔を通過して地中に入る。このとき、バネ板材3S,3Sは、平常時の展開状態にあり、突き刺し孔15pの縁部から左右内向きの負荷を受ける。
【0026】
芯材3Mがさらに深く入り込むと、バネ板材3S,3Sの湾曲形状のうち芯材3Mから最も離れた部位3Stに近づくにつれて、バネ板材3S,3Sが突き刺し孔15pの縁部から受ける負荷が次第に大きくなり、既定値以上になると、図7に示すように、展開状態から重畳状態に瞬時に切り替わる。
【0027】
バネ板材3S,3Sの芯材3Mから最も離れた部位3Stが突き刺し孔15pを通過すると、その後は突き刺し孔15pの縁部からバネ板材3S,3Sが受ける負荷が小さくなり、既定値を下回ると、バネ板材3S,3Sが重畳状態から元の展開状態に戻る(図8参照)。
【0028】
このように第1実施形態の押さえ杭によれば、マルチシート15を貫通したバネ板材3S,3Sが土壌中で展開状態に保たれる。このため、芯材3Mとバネ板材3S,3Sとの間の空間Hに土が入り込んで周辺の土に馴染んで固まる。これにより、バネ板材3S,3Sが芯材3Mの周囲の土壌にしっかりとくい込んで、土壌面からの引き抜き抵抗を大幅に向上させることができる。
【0029】
また、押さえ杭10の打ち込み時、バネ板材3S,3Sが平常時の展開状態から加圧時の重畳状態に切り替わり、重畳状態でマルチシート15の突き刺し孔15pに通されるため、バネ板材3S,3Sの湾曲形状のうち芯材3Mから最も離れた部位3Stは、平常時よりも左右内側に寄って脚部3全体の横幅を小さく保つ。
この結果、バネ板材3S,3Sが突き刺し孔15pを必要以上に拡大することがなく、マルチシート15の被覆効果を良好に保つことができる。
【0030】
以上、第1実施形態の押さえ杭を説明したが、本発明の実施形態は、これらに限定されることなく、種々の変形を伴ってもよい。
例えば図9の第2実施形態(押さえ杭20)に示すように、バネ板材3S,3Sの側面から返し5を取り除いた構成としてもよい。この場合、脚部3の横幅が小さくなるため、マルチシートの突き刺し孔をさらに小さくすることができ、その被覆効果をさらに向上させることができる。
【0031】
また、図10の第3実施形態(押さえ杭30)に示すように、バネ板材3S,3Sの芯材3Mから最も離れた部位に返し5Fを設けるようにしてもよい。この返し5Fは、その縦板5bの側端面がバネ板材3S,3Sの先細りの傾斜面に連なる。正面から見ると、脚部3の先端部分が矢印形状に見える。
このような構成によれば、返し5Fによって引き抜き抵抗をさらに高めることができる。また、突き刺し孔の縁部に返し5Fが引っ掛かりやすくなるため、マルチシートから押さえ杭30が抜ける心配もなくなる。
【0032】
第1〜第3実施形態では、頭部2の形状が上から見て長円形になるように形成しているが、その他、円形、楕円形、矩形、多角形等の形状に変更してもよい。頭部2に立体的な形状にしてマルチシートを押さえるようにしてもよい。
芯材3M、バネ板材3S,3S、返し5の形状についても、本発明の作用・効果を損なわない範囲で自在に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
2 頭部
3 脚部
3a 先端部
3b 付け根部
3M 芯材
3S,3S バネ板材
5 返し
5F 返し
7 リブ
10 押さえ杭(第1実施形態)
15 マルチシート
15p 突き刺し孔
20 押さえ杭(第2実施形態)
30 押さえ杭(第3実施形態)
H 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチシートを押さえる頭部と、この頭部の下方に延び前記マルチシートを貫通して土壌面に突き刺さる脚部とを備えた押さえ杭であって、
前記脚部は、
前記頭部の下方に延びる槍棒状の芯材と、
この芯材の先端部の両側位置から付け根部の両側位置まで、前記芯材の左右側方に空間を保って架け渡される一対のバネ板材とを有し、
前記脚部に負荷がかからない平常時には、前記一対のバネ板材がそれぞれ左右外側に膨らむように湾曲して連なる展開状態にあり、
前記脚部の左右内向きに既定値以上の負荷がかかる加圧時には、前記一対のバネ板材が展開状態からそれぞれ左右内側に膨らむように湾曲して連なる重畳状態に切り替わり、
前記脚部から左右内向きの負荷を除いた開放時には、前記一対のバネ板材がその復元力によって重畳状態から元の展開状態に復帰するように構成したことを特徴とするマルチシートの押さえ杭。
【請求項2】
前記一対のバネ板材の側面にそれぞれ左右外側に突出する返しを設ける、請求項1記載のマルチシートの押さえ杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−97899(P2011−97899A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256283(P2009−256283)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(593146659)明和株式会社 (4)
【Fターム(参考)】