説明

マルチリーフコリメータ及び粒子線治療装置

【課題】ブロード照射と高分解能の照射を両立するためのマルチリーフコリメータを得ることを目的とする。
【解決手段】端面1Le、1Reが互いに対向するように配置したリーフ対1を厚みt方向に複数並べたリーフ対群2と、リーフ対群2のリーフ板のそれぞれを、対向するリーフ板に対して接近または離反方向に駆動させるリーフ板駆動機構4と、リーフ対群2を厚みt方向に駆動するリーフ対群駆動機構5と、を備え、複数のリーフ対1のうち少なくとも1つのリーフ対1(w)では、リーフ板どうしを接近方向に駆動させたときに、粒子ビームの照射方向から見てそれぞれのリーフ板の先端が相互に重なるように、それぞれのリーフ板の対向する端面が厚みt方向から見て段差状をなし、かつ、少なくとも一方のリーフ板には、段差状をなす端面のうち、他方のリーフ板に向かって最先端となる端面に切欠き部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療装置において照射野を形成するために用いられるマルチリーフコリメータ、および当該マルチリーフコリメータを用いた粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は、治療対象となる患部に荷電粒子ビームを照射して、患部組織を殺傷することにより治療を行うものであり、周辺組織にダメージを与えず、患部組織に十分な線量を与えるため、照射線量や照射範囲(以降、照射野と称する)の制御が重要である。粒子線治療装置において、照射野を形成する方法は、2つに大別される。スキャニング電磁石等によって小さな照射領域を走査して段階的に照射野を形成するスキャニング照射型とよばれるものと、ワブラ電磁石、散乱体、レンジモジュレータ等により構成される照射ノズルを用いて所定の領域内を一気に照射するブロード照射型とよばれるものとである。
【0003】
スキャニング照射型は、スキャニング電磁石の制御により照射野を直接形成するので、分解能が高く、患部形状を忠実に再現することができる。しかし、加速器から供給される荷電粒子ビームの状況に合わせて、スキャニング電磁石を高度に制御する必要があり、高い照射精度を実現するためには、複雑な制御が必要である。一方、ブロード照射型の場合、照射ノズルは、荷電粒子ビームの照射野を所定範囲に広げておけばよく、照射ノズルの下流に設けたマルチリーフコリメータの各リーフの物理的な位置により形成された透過形状により、容易に照射野を形成することができる(例えば、特許文献1ないし5参照。)。そのため、現状では、取り扱いの容易なブロード照射法を採用している施設が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−73404号公報(段落0011〜0014、図2)
【特許文献2】特開2004−73406号公報(段落0016〜0017、図2)
【特許文献3】特表2005−509500号公報(段落0048〜0056、図5、図6)
【特許文献4】特開2001−29489号公報(段落0029〜0030、図3)
【特許文献5】特開2008−68092号公報(段落0019、図1)
【特許文献6】特開昭60−063500号公報(図2)
【特許文献7】特開昭63−225199号公報(図17)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブロード照射法の場合、照射野を形成するマルチリーフコリメータの各リーフの厚みで分解能が決まってしまう。そのため、既存のブロード照射方式の粒子線治療装置において、スキャニング照射型のような高分解能の照射を実現することは困難であった。一方、粒子線治療の歴史は浅く、照射野の分解能と治療成績との関係については、必ずしも明らかではないが、分解能を向上させることにより、治療成績の向上が期待できる場合がある。しかし、粒子線治療装置は大掛かりなものであり、既存のブロード照射方式の設備をスキャニング照射方式の設備に改造することは困難である。そのため、既存のブロード照射方式を採用している施設において、分解能を高めて粒子線治療をおこなうことは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、既存のブロード照射方式の照射設備を用いて、ブロード照射と高分解能の照射を両立するためのマルチリーフコリメータおよび当該マルチリーフコリメータを用いた粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマルチリーフコリメータは、照射野を拡大するように照射された粒子ビーム中に配置され、照射野を形成するためのマルチリーフコリメータであって、2枚のリーフ板のそれぞれの端面が互いに対向するように配置したリーフ対を、前記リーフ板の厚み方向に複数並べたリーフ対群と、前記リーフ対群のリーフ板のそれぞれを、対向するリーフ板に対して接近または離反方向に駆動させるリーフ板駆動機構と、前記リーフ対群を前記リーフ板の厚み方向に駆動するリーフ対群駆動機構と、を備え、前記複数のリーフ対のうち少なくとも1つのリーフ対では、リーフ板どうしを前記接近方向に駆動させたときに、前記粒子ビームの照射方向から見てそれぞれのリーフ板の先端が相互に重なるように、それぞれのリーフ板の対向する端面が前記厚み方向から見て段差状をなし、かつ、少なくとも一方のリーフ板には、前記段差状をなす端面のうち、他方のリーフ板に向かって最先端となる端面に切欠き部が形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマルチリーフコリメータによれば、接近させたときにそれぞれのリーフ板の先端が相互に重なるように段差状をなし、かつ、少なくとも一方のリーフ板の最先端となる端面に切欠き部を設けるように構成したので、通常のブロード照射に加え、切欠き部を通してリーフ板の板厚みよりも細いスポット状のビームを形成できるので、既存のブロード照射方式の照射設備を用いて、ブロード照射を行うことができるのはもちろんのこと、スポット状のビームによる高分解能の照射を実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータのリーフ板の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータにおいて、スポット状のビームを形成する際のリーフの位置を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータを用いてスポット状のビームにより高分解能の照射を行う様子を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータにおいて、ブロード照射のための照射野を形成する際のリーフの位置を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータを用いてブロード照射を行う様子を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るマルチリーフコリメータを用いてブロード照射を行った際の照射野の輪郭の状態を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係るマルチリーフコリメータのリーフ板の構成を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るマルチリーフコリメータにおいて、スポット状のビームを形成する際のリーフの位置を説明するための図である。
【図9】ブロード照射において従来のマルチリーフコリメータで照射野を形成した際に現れる半影体について説明するための図である。
【図10】2方向の走査電磁石の走査により、照射野を拡大させたときの粒子ビームの形状について説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係るマルチリーフコリメータの基本形状を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態4に係るマルチリーフコリメータの基本形状とブロード照射時のリーフの位置を説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態3および4に係るマルチリーフコリメータのリーフの形状および、スポット状のビームを形成する際のリーフの位置を説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態5に係る粒子線治療装置の構成を説明するための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータの構成について説明する。図1〜図6は本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータの構成について説明するためのもので、図1はマルチリーフコリメータを構成するリーフ板の構成を示す図であり、図1(a)は外観図、図1(b)は図1(a)のP方向からの上面図、図1(c)は図1(a)のS方向からの側面図、図1(d)は図1(b)のA領域の拡大図、図1(e)は図1(a)のB領域の拡大図である。図2はマルチリーフコリメータで、高分解能の照射を実施するときの、リーフ位置を説明するための図であり、図2(a)はマルチリーフコリメータ全体(各リーフの駆動機構や制御機構等は図示せず)の外観図、図2(b)は図2(a)のP方向からの上面図、図2(c)は図2(a)のS方向からの側面図、図2(d)は図2(b)のA領域の拡大図である。図3はマルチリーフコリメータで、高分解能の照射を実施するときの、照射像を説明するための図である。
【0011】
また、図4はマルチリーフコリメータで、通常のブロード照射を実施するときの、リーフ位置を説明するための図であり、図4(a)はマルチリーフコリメータ全体の外観図、図4(b)は図4(a)のP方向からの上面図、図4(c)は図4(a)のS方向からの側面図である。また、図5はマルチリーフコリメータで、ブロード照射を実施するときの、照射像を説明するための図である。さらに、図6は、従来のマルチリーフコリメータで照射野を形成した時の輪郭と本実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータで照射野を形成した時の輪郭を比較するための図である。
【0012】
ここで、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータの特徴的な構成を説明する前に、図3と図4を用いて、従来のマルチリーフコリメータと同様の部分、つまり、ブロード照射法で使用する場合の構成について説明する。
【0013】
ブロード照射法は、簡単に言えば荷電粒子ビームの照射野を一旦広げる方法である。具体的には、散乱体もしくはワブラ電磁石、またはこれらの組合せによってビームの照射野をxy方向に広げるものである。このとき、レンジシフタ―等により、荷電粒子ビームの運動エネルギーの分布も広げている。このようにして、所定の幅の運動エネルギー分布を有し、照射野を拡大されて照射された荷電粒子ビームは、制限器により患部形状に合わせて所定の照射形状に成形される。
【0014】
その制限器のひとつがマルチリーフコリメータ3である。マルチリーフコリメータ3は、所定厚みを有する鉛等の金属板のリーフ1を厚み方向(y方向)に垂直な面内(xz面)に並べて対(1Lと1R)となし、各リーフ対1を厚み方向(y方向)に平行に重ねてリーフ対群2として入射面Asを形成したものである。リーフ対群2のリーフ板1のそれぞれを、対向するリーフ板に対して接近方向または離反方向に駆動させる図示しないリーフ板駆動機構4を備え、各リーフ対1を互いに離間方向や接近方向(x方向)に移動(スライド)させて端部1Le、1Reを所定位置に移動させることにより、マルチリーフコリメータ内に、それぞれ厚み方向に隣接したリーフ端部1Le、1Reの集合形状2Leと2Reで透過形状EFを形成する。これにより、図示しない照射ノズルから拡散状態で照射された荷電粒子ビームは、マルチリーフコリメータ2を透過する際に、透過形状EFに応じた照射野に制限され、患部に対して、ビームに垂直な平面(xy平面)において、透過形状EFに応じた照射形状IIBで照射することができる。
【0015】
一方、荷電粒子ビームの深さ方向(z方向)についての調整は、もう一つの制限器である図示しないボーラスを用いる。ボーラスは、患者毎に患部のディスタル形状に合わせて樹脂を加工して製作し、マルチリーフコリメータの下流(マルチリーフコリメータと患部との間)に設置される。つまり、マルチリーフコリメータを通り、xy平面の形状(照射野)を規定された荷電粒子ビームは、ボーラスを通過することにより、患部のディスタル形状に合わせた強度分布(z方向)をつけられ(エネルギー変調され)、患部に照射される。
【0016】
一方、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータ2では、上記のようにブロード照射における照射野を形成するための従来と同様の構成に加え、以下のような特徴を有する。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータ2では、各リーフ1において、それぞれ厚み方向(y方向)に垂直な面内(zx面)に並び対となるリーフ(1Lと1R)の対向する端部1Le、1Reに、荷電粒子ビームの透過方向(照射方向:z方向)にそって突き抜ける切欠き部1Le、1Reを設けている。さらに、対となるリーフ1L、1Rの先端部1Ls、1Rsは、スライドして近接したときに、ビームの照射方向であるz方向で、少なくとも切欠き部1Le、1Reを塞ぐように、互いにオーバーラップする段差状をなし、対向する端部1Re、1Leが自身の端部1Le、1Reより手前に接近した時に、それぞれのリーフの先端部1Ls、1Rsが照射方向から見て相互に重なるようになっている。さらに、リーフ対群2全体をリーフ板1の厚み方向に駆動する図示しないリーフ対群駆動機構5を備えている。
【0018】
そして、図1(d)に示すように、リーフ1Lにおいて、対向する端部1Reが、切欠き部1Leと端部1Leの間に位置するとき、あるいは、リーフ1Rにおいて、対向する端部1Leが、切欠き部1Reと端部1Reの間に位置するとき、対向する切欠き部1Reと1Le部を輪郭とする荷電粒子ビームの透過孔THが形成される。このとき、形成される透過孔THの径Dは、リーフ1Lと1Rとの距離、厳密には対向する切欠き部1Reと1Le部の距離により自在に調整でき、しかもリーフの厚みtよりも小さくすることができる。
【0019】
このとき、先端部1Ls、1Rsは、段差状をなすようにしたので、対向する端部1Reが、切欠き部1Leよりも手前に位置するようにしたとき、あるいは、リーフ1Rにおいて、対向する端部1Leが、切欠き部1Reよりも手前に位置するようにしたとき、リーフ1Lまたは1Rを通過しようとする荷電粒子ビームの進路(z方向)を他方のリーフ板の先端部分1Lsまたは1Rsのいずれかにより遮ることができるので、荷電粒子ビームは切欠き部から漏れず、遮断することができる。したがって、段差状の先端部1Ls、1Rsの長さ(リーフ駆動方向における噛み合い深さ)は対向するリーフの切欠き部の切欠き深さ以上であればよい。
【0020】
したがって、図2に示すように、n組のリーフ1(1)〜1(n)のうち、1組のリーフ1(w)については、図1に示すように、貫通孔THが形成されるようにリーフ1L(w)と1R(w)の位置を調整する。そして、1組のリーフ1(w)を除いて、他のリーフは閉じるように、つまり、段差状の先端部1Ls、1Rsにより、途中を遮断されて貫通孔THではなく、閉塞孔CHとなるようにする。これにより、マルチリーフコリメータ2を透過した荷電粒子ビームは、図3に示すように、1組のリーフ1(w)の透過孔TH部分のみを透過し、スポット状の照射形状IIPとなって、患部に照射される。
【0021】
ここで、透過孔THの位置をxy平面内で移動するようにマルチリーフコリメータ3を駆動すれば、スポット状の照射形状IIPの位置を照射対象の形状STに応じて移動させ、所望の照射形状を形成する。このとき、x方向はリーフ板駆動機構4により、リーフ1(w)をx方向に移動させて調整し、y方向はリーフ対群駆動機構5により、マルチリーフコリメータ3全体をy方向に移動させて調整する。つまり、透過孔THに応じて形成されたスポット状の照射形状IIPをつなぎ合わせて照射対象の形状STを形成するものであり、スキャニング照射における走査に相当する。しかし、スキャニング照射ではビームのスポット径の下限値が、加速器から供給された荷電粒子ビームのビーム径により制限されるのに対し、本実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータによれば、供給される荷電粒子ビームのビーム径に関わらず、透過孔THの形状により、自在に調整する事ができる。さらに、加速器から供給される荷電粒子ビームの軌道がずれた場合、スキャニング照射では、軌道のずれを補償するようにスキャニング電磁石等の動作を制御する必要があるが、本実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータによれば、供給される荷電粒子ビームの軌道が乱れても、透過孔THの位置さえ患部に合わせて制御できていれば、正確にスポット位置を制御することができる。
【0022】
なお、従来の端部が平坦なマルチリーフコリメータをxy方向の制限器とした場合に形成される照射野の輪郭形状を図6(a)に示すようにIIBとすると、本実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータでブロード照射を行った場合に形成される照射野の輪郭形状は、図6(b)のIIBに示すように、照射野の境界部の形状に切欠き部の形状Sが表れる。しかし、その違いは、元々照射対象の形状STに対する照射野の分解能よりも小さなものであり、問題はない。ただし、照射面積を同一にするために、例えば、切欠き部による透過で面積が広がる分を補償するように、リーフの離間距離を従来のマルチリーフコリメータにおける設定値Deよりも小さな調整値Deに調整するようにしてもよい。
【0023】
なお、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータ3においては、切欠き部からの荷電粒子ビームの漏れを解消するために段差状をなす先端部1Ls、1Rsにより、従来のブロード照射を実施した場合でも、図4、図5に示すように荷電粒子ビームを透過させないように閉じたリーフ対からの漏れ線量を低減できる。したがって、従来のブロード照射を実施する場合も、むしろ、従来のマルチリーフコリメータを用いた時よりも、計画通りの線量で患部に粒子線照射を実施できるようになる。
【0024】
なお、本発明の実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータ3においては、先端部1Ls、1Rsの段差形状を矩形で形成した例を示したが、これに限られることはない。例えばノコ刃状や、波状で段差をつけてもよい。また、切欠き部は、透過孔を対称形に形成するためには両側のリーフ板に形成することが望ましいが、少なくとも一方のリーフ板に形成していればスポット状のビームを形成することはできる。
【0025】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置によれば、照射野を拡大するように照射された粒子ビーム中に配置され、照射野を形成するためのマルチリーフコリメータ3であって、2枚のリーフ板1L、1Rのそれぞれの端面1Le、1Reが互いに対向するように配置したリーフ対1を、リーフ板の厚みt方向に複数並べたリーフ対群2と、リーフ対群2のリーフ板1L,1Rのそれぞれを、対向するリーフ板に対して接近または離反方向(x方向)に駆動させるリーフ板駆動機構4と、リーフ対群2をリーフ板1L,1Rの厚みt方向(y方向)に駆動するリーフ対群駆動機構5と、を備え、複数のリーフ対1のうち少なくとも1つのリーフ対1(w)では、リーフ板1R(w)、1L(w)どうしを接近方向に駆動させたときに、粒子ビームの照射方向から見てそれぞれのリーフ板の先端1Ls、1Rsが相互に重なるように、それぞれのリーフ板の対向する端面が厚みt方向から見て段差状をなし、かつ、少なくとも一方のリーフ板(例えば1R(w))には、段差状をなす端面のうち、他方のリーフ板に向かって最先端となる端面(例えば1Re)に切欠き部(例えば1Re)が形成されているように構成したので、通常のブロード照射が出来るのはもちろんのこと、リーフ1Rにおいて、対向する端部1Leが、切欠き部1Reと端部1Reの間に位置するとき、対向する切欠き部1Reと1Le部を輪郭とする荷電粒子ビームの透過孔THが形成される。そして他のリーフ対を閉じるようにすれば、透過孔THによってリーフ板の厚みよりも径が小さなスポット状のビームを形成する事が出来る。したがって、リーフ板駆動機構4と、リーフ対群駆動機構5とにより、スポット状のビームを必要な位置に移動させることによって、リーフ板1の板厚みtよりも分解能の高い照射形状で照射ができる。つまり、照射装置を大掛かりに改造することなく、1つの照射装置で、ブロード照射と高分解能な照射を実現することができる。
【0026】
とくに切欠き部(例えば1Le)が、他方のリーフ板(例えば1Le)にも形成されているようにしたので、透過孔THを対称形に形成できる。
【0027】
また、上記スポット状のビーム位置は、各リーフの物理的な位置で決まるので、加速器から供給される荷電粒子ビームの状態が変動したり、ヒステリシス等の影響でワブラ電磁石で走査された荷電粒子ビームの形状が変動したりしても、正確で分解能の高い照射を行える。
【0028】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2にかかるマルチリーフコリメータについて説明する。本実施の形態2にかかるマルチリーフコリメータは、実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータに対して、リーフの最先端の端面に形成した切欠き部の形状を変化させたものである。他の構成については実施の形態1にかかるマルチリーフコリメータと同様であるので説明を省略する。
【0029】
図7と図8は、本発明の実施の形態2にかかるマルチリーフコリメータの構成を説明するためのもので、図7はマルチリーフコリメータを構成する複数のリーフのうち、1枚のリーフの構成を示す図であり、図7(a)は外観図、図7(b)は図7(a)のP方向からの上面図、図7(c)は図7(a)のS方向からの側面図、図7(d)は図7(b)のA領域の拡大図である。そして図8は、リーフ先端どうしを近接させたときに形成される透過孔の形状を説明するためのマルチリーフコリメータを構成する複数のリーフのうち、一対のリーフの構成を示す図であり、図8(a)は外観図、図8(b)は図8(a)のP方向からの上面図、図8(c)は図8(a)のS方向からの側面図、図8(d)は図8(b)のA領域の拡大図であり、リーフ先端の切欠き部の形状とその組合せによる透過孔の形状を示すものである。
【0030】
図において、各リーフ21は、それぞれ厚み方向(y方向)に垂直な面内(zx面)に並び対となるリーフ(21Lと21R)の対向する端部21Le、21Reに、荷電粒子ビームの照射方向(z方向)にそって頂角Avが直角の三角形をなす切欠き部21LeN、21ReNを設けている。そのため、図7(d)に示すように、リーフ21Lにおいて、対向する端部21Reが、切欠き部21LeNと端部21Leの間に位置するとき、あるいは、リーフ21Rにおいて、対向する端部21Leが、切欠き部21ReNと端部21Reの間に位置するとき、対向する切欠き部21ReNと21LeN部を輪郭とする正方形の透過孔THが形成される。この場合でも、形成される透過孔THの径Dは、対向する切欠き部21Reと21Le部の距離により自在に調整できるが、さらに、リーフ厚み方向(y方向)の径DHyとリーフスライド方向(x方向)の径DHxの比が、径D、つまり開口度によらず、常に1で正方形となる。したがって、いわゆる透過孔が開口度によって扁平することがないので、方向性がなく照射形状を形成するのに優れている。
【0031】
なお、上記実施の形態2においては、頂角Avを直角にした例を示したが、直角に限定されることはない。その場合、透過項の形状はいわゆるひし形となり、径DHyと径DHxの比は1ではないが、開口度によらず常に一定となる。また、対となるリーフのうち、一方の先端部には切欠きを設けないようにしてもよく、その場合も相似形の三角形を形成する事ができる。
【0032】
また、上記のように一つのリーフ対により縦横比を変えずに径の異なる透過孔を形成する場合は、切欠き部を頂角から直線で延びるように形成する必要があり、透過項の形状は多角形となる。一方、リーフ毎に予め形成する透過項の径を定めるようにすれば、数種の径の円形のビームを実現する事もできる。例えば、リーフ対1(1)〜1(n)のそれぞれで、異なる径の半円の切欠き部を形成するようにすれば、透過孔を形成するリーフ対を選択する事により、円形で径の異なるビーム形状を実現する事ができる。
【0033】
また、切欠き部は、必ずしも、リーフ厚み方向の中央部になくてもよく、厚み方向に一方に偏って形成したような場合でも同様の効果を発揮する。
【0034】
以上のように、本発明の実施の形態2にかかるマルチリーフコリメータ23によれば、切欠き部21Le、21Reの照射方向から見た形状が三角形であるように構成したので、端部21Le,21Re同士の距離を調整してスポット状のビームのビーム径を変化させても透過孔THの縦横比が変化せず、相似形のビームを形成することができる。
【0035】
とくに、三角形は端面21Leまたは21Reを底辺とする直角2等辺三角形であるように構成したので、端部21Le,21Re同士の距離を調整してスポット状のビームのビーム径を変化させても透過孔THが正方形で、縦横比が1対1のビームを形成することができる。
【0036】
あるいは、切欠き部が複数のリーフ対の互いに対向する端面に形成されているとともに、形成されている切欠き部の大きさがリーフ対によって異なるように構成すれば、スポット状のビームを形成するリーフ対を選択することで任意の形状でしかも所望のビーム径で照射することができる。
【0037】
したがって、ビーム径をどのように絞ってもビームの断面の形状が変化せず、すなわち相似形で正確なビームを照射できる。つまり、スキャニング方式よりも径が小さく、かつ形状の整ったビームを照射することができる。
【0038】
実施の形態3.
上記実施の形態1および2においては、マルチリーフコリメータの形状が直方体のものとして説明を行った。すなわち、実施の形態1及び2で用いた図1〜8においては、マルチリーフコリメータが閉じた状態での形状(以下「全体形状」という。)が直方体となるものとして説明を行った。たしかに、粒子線等の線源が、平行に照射されると仮定した場合にはマルチリーフコリメータの全体形状が直方体でも十分に効果が発揮される。しかし、マルチリーフコリメータの全体形状自体は本発明の技術思想を限定するものではなく、直方体以外の形状でも効果を発揮する。そこで、本実施の形態3においては、全体形状が直方体以外のものについて説明する。
【0039】
全体形状が、直方体以外であるマルチリーフコリメータの先行技術としては、特許文献6と7が挙げられる。特許文献6は、速中性子線による照射治療において照射野の絞り込みによる線量低下の防止と半影部の発生を少なくした速中性子線治療用可変コリメータの発明に関するものである。半影部が発生する課題を解消するため、従来から錐体分割型コリメータが提案されているが、特許文献6ではさらに体積線源を仮定し、錐体である全体形状を決定するための原点の位置を従来のものよりも離れた位置に設定することを提案している(図2)。また、特許文献7は、放射線照射装置特に医療を目的とする装置の照射野を限定するコリメータの構造の発明に関するものである。特許文献7においても、点光源的な線源を仮定しており、錐体状のマルチリーフコリメータを提案している(図17)。
【0040】
いずれの先行技術文献(特許文献6及び7)においても、点光源的な線源を仮定している。ここで、どのような場合に点光源的になるかについて説明する。粒子線治療装置において、照射野を形成する方法は、2つに大別されることを述べた。ビームを電磁石で走査して照射野を形成するスキャニング法と、ビームを一旦広げて照射野を形成するブロード照射法である。ブロード照射法のもっとも簡単な方法は、ビームを散乱体にあててビームを広げる散乱体法である。散乱体を2段に用いる「二重散乱体法」なども提案されている。散乱体法においては、ビームが点光源的に広がるため、特許文献6又は7のコリメータが有効となる。なお、ブロード照射法には、散乱体法の他に、ワブラ電磁石でビームを走査させた後、ワブラ電磁石の下流に設置された散乱体にて走査したビームを広げるワブラ法がある。
【0041】
以上のように、従来から点光源的な線源の場合、全体形状が直方体の場合に生じる半影部の技術的課題に対して、全体形状が錐体のものが提案されている。このような錐体マルチリーフコリメータにおいても、通常のブロード照射とスポット照射との2つのモードを実現するために、本発明の考え方を適用することができる。
【0042】
図13は、本実施の形態3におけるマルチリーフコリメータにおける1対のリーフの構造を示した図である。なお、図13については、後述する実施の形態4における説明では、リーフの軌道とリーフ対群全体の軌道の半径が異なることについて説明している(その詳細については、実施の形態4で説明する。)が、ここでは、その違いは考慮せず、全体形状が錐体状の場合のリーフ形状の説明として図13を使用する。
【0043】
リーフの対向する端部31Le、31Reに、荷電粒子ビームの放射方向(z方向)にそって切欠き部31Le、31Reを設けているのは、実施の形態1又は2と同様である。さらに、対となるリーフの先端部31Ls、31Rsは、スライドして近接したときに、ビームの放射方向であるz方向で、少なくとも相手の切欠き部31Re、31Leを塞ぐように、互いにオーバーラップする段差状をなし、対向する端部が自身の端部より手前に接近した時に、それぞれのリーフの先端部が放射方向から見て相互に重なるようになっているのも、実施の形態1又は2と同様である。さらに、図示しないリーフ対群全体をリーフ板の厚み方向に駆動する図示しないリーフ対群駆動機構5を備えていることも同様である。
【0044】
以上のように、点光源的な広がりをする線源に対して、全体形状が錐体のマルチリーフコリメータを用いる場合においても、本発明のマルチリーフコリメータによれば、接近させたときにそれぞれのリーフ板の先端が相互に重なるように段差状をなし、かつ、少なくとも一方のリーフ板の最先端となる端面に切欠き部を設けるように構成したので、通常のブロード照射に加え、切欠き部を通してリーフ板の板厚みよりも細いスポット状のビームを形成できるので、既存のブロード照射方式の照射設備を用いて、ブロード照射を行うことができるのはもちろんのこと、スポット状のビームによる高分解能の照射を実現することもできる。
【0045】
実施の形態4.
本実施の形態4にかかるマルチリーフコリメータは、照射野を拡大するように照射されたビームの形状に応じて、リーフのスライド軌跡やリーフ対群の移動軌跡を調整したものである。具体的には、照射野を拡大するために使用する走査方向が異なる2つの電磁石の位置に対応して、リーフのスライドの回転半径とリーフ対群の移動軌跡の回転半径を定めたものである。
【0046】
本実施の形態4にかかるマルチリーフコリメータの構成の説明に先立ち、マルチリーフコリメータを通過する荷電粒子ビームの形状について説明する。
粒子線治療装置においてその照射法は、背景技術にて説明したように、ブロード照射法とスキャニング照射法に大別されるが、いずれの場合においても、荷電粒子ビームは偏向方向の異なる2つの電磁石(例えば、x方向用とy方向用の2つ)を用いて照射エリアを広げている。例えば、ブロード照射法で用いるワブラ法では、荷電粒子ビームを円軌道に走査し、散乱体を用いてビームを広げている。このとき、理想的には、x方向用とy方向用の電磁石は、患部から等距離の同じ位置に配置したい。しかし、現実的には、2つの電磁石を患部から等距離に配置することはできない。
【0047】
この状況に由来する問題について、図を用いて説明する。
図9と図10は、2つの電磁石によって照射エリアを広げる場合にマルチリーフコリメータを通ったときの荷電粒子ビームの形状(線束としての形状)およびビーム形状に影響される照射野の状況を説明するためのもので、図9(a1)は2つの電磁石6と7の配置と荷電粒子ビームのxz平面での広がり形状、図9(a2)は、2つの電磁石6と7の配置と荷電粒子ビームのyz平面での広がり形状、図9(b)は各リーフが直線的にスライドする従来のマルチリーフコリメータの外観、図9(c)はマルチリーフコリメータを通過した照射野の状態を示す図である。また、図10は2つの電磁石により拡大される荷電粒子ビームの形状をそれぞれの電磁石との関係で示したもので、図10(a)は線束の全体を示す斜視図、図10(b)は線束のxz面内での形状を示す図、図10(c)は線束のyz面内での形状を示す図である。
【0048】
図9に示すように、例えば2つの電磁石6、7を患部Tgから無限遠に配置すれば、荷電粒子ビームの線束Frは、電磁石6、7により拡大されたとしても、ほぼ平行ビームの状態で患部に到達する。しかし、実際には、電磁石6、7と患部Tgとの距離は、たかだが数mなので、ビーム(線束)形状は、扇型に広がる拡散ビームとなる。この場合でも、患部のうち、アイソセンタIC近傍の線束Frの中央部に位置する部分では問題ないが、周縁部では、リーフの一部の影となる半影帯ZPが生じる。
【0049】
また、x方向用の電磁石6とy方向用の電磁石7の位置が異なるため、x方向、y方向ともに、同じ大きさの領域に拡大したとしても、図10に示すように、線束の形状は、xz面内とyz面内では異なったものとなる。そのため、照射された荷電粒子ビームが、同じ距離進んだ場合に到達可能なエリアは異なったものとなる。さらに詳しく説明すると、xz面内、つまりx方向の広がりは、電磁石6の走査軸Saを中心として広がり、yz面内、つまりy方向の広がりは、電磁石7の走査軸Saを中心として広がっている。別の言い方をすれば、線束の形状は、x方向とy方向で極率半径が異なる扇型となっている。
【0050】
上記のような線束の形状を考慮し、半影の影響を受けずに、照射野を正確に形成するために本実施の形態4にかかるマルチリーフコリメータを製作した。図11〜図13は本発明の実施の形態4にかかるマルチリーフコリメータの構成について説明するためのもので、図11はマルチリーフコリメータ全体の半影の影響を解消するための基本的な構成を説明するための図であり、図11(a)は斜視透視図、図11(b)は図11(a)のP方向からの上面透視図、図11(c)は図11(a)のS方向からの側面透視図、図11(d)は図11(a)のF方向からの正面透視図である。図12も図11と同様に半影の影響を解消するための基本構成を説明するためのもので、ブロード照射で照射野を形成する際のリーフ位置を説明するための図であり、図12(a)は斜視透視図、図12(b)は図12(a)のP方向からの上面透視図、図12(c)は図12(a)のS方向からの側面透視図、図12(d)は図12(a)のF方向からの正面透視図である。また、図13は、マルチリーフコリメータを構成する複数のリーフのうち、一対のリーフの具体的な構成を示す図であり、図13(a)は外観図、図13(b)は図13(a)のP方向からの上面図、図13(c)は図13(a)のS方向からの側面図、図13(d)は図13(a)のF方向からの正面図である。
【0051】
図11、12に示すように、マルチリーフコリメータ32の基本的な形状FB32として、各リーフのスライド(x方向)をx方向にビームを拡大する電磁石6からの距離に対応する半径RSa6の円周軌道とし、各リーフの厚み方向の形状をy方向にビームを拡大する電磁石7からの距離に対応する半径RSa7の扇型を分割した形状(上流側から下流側へいくほど厚くなる)とした。これにより、図12に示すように透過形状を形成すると、半影帯ZPを形成することなく、患部に所望の照射野を形成することができる。
【0052】
上記のように、x方向用電磁石6、y方向用電磁石7からの距離に応じた曲率で基本構成FB32を備えた上で、さらに、図13に示すように各リーフ31L、31Rの端部31Le、31Reに切欠き部31Le、31Reを設けたので、リーフの幅より径の小さなビームを形成できるとともに、半影の影響がなく、周囲とのコントラストの高い良好なビームが得られる。さらに、閉じた時にオーバーラップできる段差状の先端部31Ls、31Rsを設けたので、ビームの漏えいも防止できる。
【0053】
以上のように、本実施の形態4にかかるマルチリーフコリメータ33によれば、リーフ板駆動機構34は、粒子ビームの中心軸上で当該中心軸に垂直な第1の軸を中心とする第1の円周軌道に沿ってリーフ板31を駆動し、リーフ対群駆動機構35は、粒子ビームの中心軸上で当該中心軸に垂直な第2の軸を中心とする第2の円周軌道に沿ってリーフ対群32を駆動するように構成したので、半影体の影響を受けずにコントラストの高い良好なビームが得られる。
【0054】
とくに、リーフ板31の第1の円周軌道に垂直な断面の形状が、第2の軸を中心とする扇型になっているので、リーフ板の厚み方向に隣接するリーフ板間での粒子線ビームの漏れがなく、良好なビームを形成できる。
【0055】
実施の形態5.
本実施の形態5にかかる粒子線治療装置は、上記各実施の形態にかかるマルチリーフコリメータを備えたものである。図14は本実施の形態5にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。図において、照射計画部109は、粒子線治療装置100と独立した装置であり、患部への適切な治療計画を生成する治療計画装置109aと、各種データを保持し、生成した治療計画に従って、具体的な照射角度や照射形状等のデータを出力するサーバ109bとを備えている。そして、本実施の形態5にかかる粒子線治療装置の照射制御部108では、照射計画指示部109から出力された照射角度(ビーム軌道)や照射形状に基づいて生成された照射データに従い、統括制御部108aを中心に照射制御を行う。そして、本実施の形態5においては、通常のブロード照射と、リーフに設けた切欠き部により形成した透過孔THによるスポット照射の2つのモードのうち、選択したモードに従い、マルチリーフコリメータ3や照射ノズル106、加速器107等の制御方法を切替えるモード制御部108bを備えている。
【0056】
そして、通常のブロード照射が選択されたときは、モード制御部108bは統括制御部108aから出力された制御信号をそのままリーフ制御部108cおよび粒子線制御部108dに出力する。この場合、マルチリーフコリメータ3は、複数のリーフ板1を用いて、照射野EFを形成するように各リーフ板1の位置が制御される。そして、照射ノズル106は散乱体のほか、上述したワブラ電磁石6、7を備えており、電磁石6、7の動作を制御して、加速器107から供給された荷電粒子ビームの線束Frを拡大し、マルチリーフコリメータ3の入射面As、または照射野をカバーできるようにする。
【0057】
一方、スポット照射が選択されたときは、モード制御部108bは統括制御部108aから制御信号を受けると、受けた制御信号をスポット照射に適したデータに変換してから、リーフ制御部108cおよび粒子線制御部108dに出力する。これにより、実施の形態1で説明したように、n組のリーフ1(1)〜1(n)のうち、1組のリーフ1(w)については、貫通孔THが形成されるようにリーフ1L(w)と1R(w)の位置が調整されるとともに、他のリーフは閉じられるので、リーフ1(w)の透過孔TH部分のみを透過したスポット状の照射形状IIPが患部に照射される。そして、照射対象の形状STに応じて、スポット状の照射形状IIPの位置を移動することにより、リーフの厚みよりも分解能が高く、所望の照射形状で患部を照射することができる。
【0058】
このとき、貫通孔を形成するリーフの位置は特に高精度に制御する必要があるので、貫通孔の大きさを正確に計測できるセンサーを別途設けた場合は、モード制御部108bは、別途設けたセンサーの出力に従って貫通孔THを形成するリーフ(上記例では1L(w)と1R(w))の位置を制御するようにしてもよい。あるいは、切欠き部の形状をリーフによって異なるようにした例では、貫通孔を形成するリーフを必要とするビーム系に応じて切替えるように制御してもよい。
【0059】
以上のように、本実施の形態5にかかる粒子線治療装置100によれば、加速器から供給された粒子ビームを、照射野を拡大するように照射する照射ノズル106(例えば、ワブラ電磁石6、7および散乱体、レンジシフタ等)と、照射ノズル106から照射された粒子ビーム中に配置された上記各実施の形態にかかるマルチリーフコリメータ3と、マルチリーフコリメータ3の動作を制御するマルチリーフコリメータ動作制御部108cと、を備えるようにしたので、ブロード照射またはスポット照射の両方を実現することができる。
【0060】
とくに、加速器から供給された粒子ビームを走査方向が異なる2つの電磁石6、7で走査し、照射野を拡大するように照射するワブラ電磁石と、ワブラ電磁石から照射された粒子ビーム中に配置された実施の形態4に記載のマルチリーフコリメータ33と、を備え、マルチリーフコリメータ33は、第1の軸が2つの電磁石のうちの一方の電磁石の走査軸Saに一致するとともに、第2の軸が他方の電磁石の走査軸Saに一致するように配置されたので、ブロード照射またはスポット照射の両方を実現することができるとともに、半影体の影響を受けず、コントラストが高いビームで照射ができる。
【符号の説明】
【0061】
1 リーフ対、 1Ls,1Rs:先端、 1Le,1Re 最先端の端面、 1Le,1Re 切欠き部、 2 リーフ対群、 3 マルチリーフコリメータ、 4 リーフ板駆動部、 5 リーフ対群駆動部、 6、7 ワブラ電磁石、
100 粒子線治療装置、 106 照射ノズル、 107 加速器、 108c リーフ動作制御部、
As 入射面、 Fr 線束、 Sa 走査軸(第1の軸)、 Sa 走査軸(第2の軸)
十位の数字は実施形態による変形例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射野を拡大するように照射された粒子ビーム中に配置され、照射野を形成するためのマルチリーフコリメータであって、
2枚のリーフ板のそれぞれの端面が互いに対向するように配置したリーフ対を、前記リーフ板の厚み方向に複数並べたリーフ対群と、
前記リーフ対群のリーフ板のそれぞれを、対向するリーフ板に対して接近または離反方向に駆動させるリーフ板駆動機構と、
前記リーフ対群を前記リーフ板の厚み方向に駆動するリーフ対群駆動機構と、を備え、
前記複数のリーフ対のうち少なくとも1つのリーフ対では、
リーフ板どうしを前記接近方向に駆動させたときに、前記粒子ビームの照射方向から見てそれぞれのリーフ板の先端が相互に重なるように、それぞれのリーフ板の対向する端面が前記厚み方向から見て段差状をなし、
かつ、少なくとも一方のリーフ板には、前記段差状をなす端面のうち、他方のリーフ板に向かって最先端となる端面に切欠き部が形成されている、
ことを特徴とするマルチリーフコリメータ。
【請求項2】
前記切欠き部が、他方のリーフ板にも形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項3】
前記切欠き部の前記照射方向から見た形状が三角形であることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項4】
前記三角形は前記端面を底辺とする直角2等辺三角形であることを特徴とする請求項3に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項5】
前記切欠き部が前記複数のリーフ対のうち、2つ以上のリーフ対のリーフ板に形成されているとともに、形成されている切欠き部の大きさがリーフ対によって異なっていることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項6】
前記リーフ板駆動機構は、前記粒子ビームの中心軸上で、当該中心軸に垂直な第1の軸を中心とする第1の円周軌道に沿って前記リーフ板を駆動し、
前記リーフ対群駆動機構は、前記中心軸上で、当該中心軸に垂直な第2の軸を中心とする第2の円周軌道に沿って前記リーフ対群を駆動する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項7】
前記リーフ板の前記第1の円周軌道に垂直な断面の形状が、前記第2の軸を中心とする扇型になっていることを特徴とする請求項6に記載のマルチリーフコリメータ。
【請求項8】
加速器から供給された粒子ビームを、照射野を拡大するように照射する照射ノズルと、
前記照射ノズルから照射された粒子ビーム中に配置された請求項1ないし7のいずれか1項に記載のマルチリーフコリメータと、
前記マルチリーフコリメータの動作を制御するマルチリーフコリメータ動作制御部と、
を備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項9】
加速器から供給された粒子ビームを走査方向が異なる2つの電磁石で走査し、照射野を拡大するように照射するワブラ電磁石と、
前記ワブラ電磁石から照射された粒子ビーム中に配置された請求項6または7に記載のマルチリーフコリメータと、を備え、
前記マルチリーフコリメータは、前記第1の軸が前記2つの電磁石のうちの一方の電磁石の走査軸に一致するとともに、前記第2の軸が他方の電磁石の走査軸に一致するように配置されている、
ことを特徴とする粒子線治療装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate