説明

マルチワイヤー配線板の製造方法

【目的】めっきボイドの抑制に優れたマルチワイヤー配線板の製造方法を提供すること。
【構成】内層回路板に布線用接着剤をプレスし、その上に絶縁層で被覆された導電性ワイヤを布線し、プリプレグ及び外層銅箔のプレス後、穴あけ、無電解めっき、表面回路形成により製造されるマルチワイヤー配線板の製造方法において、穴あけ後から無電解めっき完了までの液体処理工程で、少なくともアルカリ過マンガン酸によるホールクリーニング工程中の中和処理液、無電解めっき前処理工程中の脱脂・コンディショナー処理液及び触媒付与処理液、そして無電解めっき液では、被処理基板に振動を連続的あるいは断続的に印加しながら処理すること。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マルチワイヤー配線板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】マルチワイヤー配線板は、特公昭45−21434号公報に示されているように、ポリイミド樹脂等の絶縁材料で被覆された導電性ワイヤーにより、必要箇所がスルーホール等を介して電気的に接合された配線板である。このマルチワイヤー配線板は、配線パターンがワイヤーにより形成される為、設計変更の際フォトマスクを作り直す必要がなく、また斜め布線によるクロストークの低減、良好な電気特性その他多くの優れた点を持っている。そしてマルチワイヤー配線板では、スルーホール間の接続が直径0.10mm程度の導電性ワイヤーのみで行なわれる為に、スルーホールワイヤー部のめっきが接続信頼性上極めて重要である。従来は、銅箔プレス基板の穴あけ後、アルカリ過マンガン酸処理とその中和工程から成るホールクリーニング、パラジウム等の無電解めっき用触媒付与、無電解めっきの工程により、スルーホールワイヤー部のめっきが形成されていた。特開平02−282484号公報には、無電解めっき槽を回転させながらめっきを行い、無電解めっき反応により発生する水素ガスが穴内にトラップされないようにする方法が示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】銅箔プレスした基板を穴あけし、ホールクリーニング及び触媒付与を行った後、特公昭45−21434号公報に示されているめっき浴を用いて無電解銅めっきした場合には、アルカリ過マンガン酸溶液あるいはめっき前処理中のめっき析出抑制溶液がエッチバックされたスルーホールワイヤー部にトラップされること及び、ワイヤー被覆層自身が無電解銅めっき液のアルカリ度により膨潤溶出することで、めっきの析出が抑制される為に、めっきボイドが発生したり、部分的にめっき厚が薄くなるいう課題があった。特開平02−282484号公報に示される方法は、穴内に発生する水素ガスは除去できるものの、スルーホールワイヤー部にトラップされた汚染物や、ワイヤー被覆層の膨潤溶出を抑制する効果はない。本発明は、めっきボイドの抑制に優れたマルチワイヤー配線板の製造方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、内層回路板に布線用接着剤をプレスし、その上に絶縁層で被覆された導電性ワイヤを布線し、プリプレグ及び外層銅箔のプレス後、穴あけ、無電解めっき、表面回路形成により製造されるマルチワイヤー配線板の製造方法において、穴あけ後から無電解めっき完了までの液体処理工程で、少なくともアルカリ過マンガン酸によるホールクリーニング工程中の中和処理液、無電解めっき前処理工程中の脱脂・コンディショナー処理液及び触媒付与処理液、そして無電解めっき液では、被処理基板に振動を連続的あるいは断続的に印加しながら処理することを特徴とするマルチワイヤー配線板の製造方法を提供するものである。
【0005】本発明のマルチワイヤー配線板の製造方法において、穴あけ後から無電解銅めっきまでの液体処理工程以外は、従来マルチワイヤー配線板の製造において用いられていた方法が用いられる。また液体処理工程中の各処理液は、従来マルチワイヤー配線板の製造で用いられているものを用いる。
【0006】被処理基板を振動させる装置は、被処理基板のラック、ラックを運搬するキャリアバー、あるいはキャリアバーを各処理槽で受ける治具等に取りつけることが好ましい。また振動装置としては、被処理基板をセットした状態で、1Hz〜50Hzの振動を発生するものが好ましい。
【0007】振動装置は、ホールクリーニング工程、無電解めっき前処理工程、無電解めっき工程のすべての処理槽、水洗槽に設置すれば、めっき析出性改善効果は最も大きいが、少なくともアルカリ過マンガン酸によるホールクリーニング工程中の中和処理槽、無電解めっき前処理工程中の脱脂・コンディショナー処理槽及び触媒付与処理槽、そして無電解めっき槽に振動装置を設置して、振動印加での処理を行なえば十分なめっき析出性改善効果を示す。
【0008】
【作用】マルチワイヤー配線板の製造工程中で穴あけ後の処理工程は、表面研磨後のアルカリ過マンガン酸処理及びその中和処理からなるホールクリーニング工程、無電解銅めっき前の触媒付与(脱脂・コンディショナー処理、ソフトエッチング処理、希硫酸処理、プリディップ処理、触媒付与処理、密着促進剤処理)工程、及び無電解銅めっき工程である。ホールクリーニングでは、スルーホール内の洗浄と共に、ワイヤー露出部の被覆層をエックバックしてめっきグリップを作製しているが、エッチバックされた部分には、過マンガン酸処理液を始めとして、その後の処理液がトラップされやすい状況にあり、過マンガン酸その他のめっき析出抑制液が無電解銅めっき液中まで持ち込まれた場合には、ワイヤー被覆層でのめっき析出性が低下し、めっきボイドあるいはめっき厚の薄くなる現象となってしまう。この場合に、各処理槽、水洗槽で被処理基板に振動を印加して処理を行なえば、ワイヤーエッチバック部の洗浄が確実に行なえる為、めっきの析出が遅れることなく開始される。特に、少なくともホールクリーニング工程中の中和処理、無電解銅めっき前処理工程中の脱脂・コンディショナー処理及び触媒付与処理において、被処理基板に振動を印加すればワイヤーエッチバック部の汚染物トラップが防止できる。また、無電解銅めっきはホルマリンの還元作用がアルカリ性に限定される為、pH12.3程度のアルカリ性となっているが、ワイヤー被覆層の材料であるナイロンやポリイミドが、そのアルカリ度で膨潤溶出する為にめっき反応が抑制されることも、ワイヤー被覆層でのめっき析出性低下の原因となっている。そのような場合でも、被めっき基板に振動を印加しながら無電解銅めっきを行なうことにより、前記の膨潤溶出したものを拡散させ、銅イオン他のめっき成分がワイヤー被覆層近傍に近づきやすくなる為に、めっき析出性は良好なものとなる。
【0009】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。無電解銅めっき反応触媒を含有したエポキシ積層板MCL−E−168(日立化成工業株式会社製、商品名)の両面に、触媒を含有したエポキシ系の布線用接着剤GEA−05N AS102(日立化成工業株式会社製、商品名)をプレスし、φ0.10mm絶縁被覆層付銅ワイヤーHAW(日立電線株式会社製、商品名)を両面に布線し、その上にプリプレグGEA−168N(日立化成工業株式会社製、商品名)と銅箔をプレスし、得られた基板に穴あけし、表面研磨した基板を用いて、穴あけ後から無電解銅めっきまでの工程での振動印加処理検討を行なった。ホールクリーニングの工程は、湯洗→アルカリ過マンガン酸処理→水洗→中和処理→水洗という工程を2回繰り返すものであり、アルカリ過マンガン酸は、KMnO4=60g/l、pH=13.5、微量の界面活性剤で構成されていて、中和はメルテックス社製のエンプレートMLB−498を用いた。無電解銅めっき前処理液としては、脱脂・コンディショナー処理液のCLC−201(日立化成工業株式会社製、商品名)、触媒付与前処理液PD−201(日立化成工業株式会社製、商品名)、パラジウム・スズ触媒付与液HS−201(日立化成工業株式会社製、商品名)、密着促進剤処理液ADP−201(日立化成工業株式会社製、商品名)を推奨条件で用いた。無電解銅めっき液は10g/dm3の硫酸銅、30g/dm3のEDTA・2Na、ホルマリン4cm3/dm3、pH=12.30とポリエチレングリコール、α,α′−ジピリジル及びその他の添加剤微量により構成されためっき浴を用いた。被処理基板を振動させる装置は、ラックを運搬するキャリアバーを各処理槽で受ける治具に取りつけた。取りつけた振動設備は、ホールクリーニング工程各処理槽には、KEE−1−2B(村上精機株式会社製、商品名)、無電解銅めっき前処理工程各処理槽には、KEE−2−2B(村上精機株式会社製、商品名)、無電解銅めっき槽にはKEE−3−4B(村上精機株式会社製、商品名)であり、印加振動数は32Hzで連続印加とした。図1は、本発明により得られたマルチワイヤー配線板のスルーホール部の断面図であり、1は導電性ワイヤー、2は導電性ワイヤーの絶縁層、3は布線用接着剤、4はプリプレグ、5は外層銅箔、6は無電解めっき銅である。図2は振動を印加しないで作製した従来のマルチワイヤー配線板のスルーホールワイヤー部の断面図である。7はめっきボイド部、8はめっきの薄い部分である。図3は、銅上への析出めっき厚とワイヤー部めっき被覆率(下式により算出)との関係を示すグラフである。
【式1】めっき被覆率(断面観察)={(ワイヤーの両側がめっきで被覆されている箇所×2+片側が被覆されている箇所)/(各サンプルのワイヤー接続部数×2)}×100
【0010】実施例1は、穴あけ後から無電解めっきまでのすべての処理槽で振動印加での処理の場合、また実施例2は、ホールクリーニング工程中和処理、無電解銅めっき前処理工程の脱脂・コンディショナー処理及び触媒付与処理、無電解銅めっき工程で振動印加処理の場合、そして比較例は、振動を印加しないで処理した場合、それぞれのめっき被覆率変化を示す。
【0011】また、無電解銅めっき槽での振動印加は、連続的に振動を印加した場合には、銅上析出めっき厚が5μm程度で100%の被覆率となっているが、断線的(実験では1分印加1分停止)に印加した場合には、4μm程度で100%の被覆率となった。
【0012】
【発明の効果】本発明では、マルチワイヤー配線板の製造において、穴あけ後のホールクリーニング工程、無電解めっき前処理工程、無電解めっき工程中の各処理液による処理を振動を印加しながら行なうことにより、スルーホールワイヤー部に発生しやすいめっきボイドやめっきの薄い部分をなくし、優れたワイヤー接続部を有したマルチワイヤー配線板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスルーホールワイヤー部の断面図である。
【図2】従来のマルチワイヤー配線板のスルーホールワイヤー部の断面図である。
【図3】銅上への析出めっき厚と、スルーホールワイヤー部めっき被覆率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1.導電性ワイヤー 2.絶縁層
3.布線用接着剤 4.プリプレグ
5.外層銅箔 6.無電解めっき銅
7.めっきボイド 8.めっきの薄い部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】内層回路板に布線用接着剤をプレスし、その上に絶縁層で被覆された導電性ワイヤーを布線し、プリプレグ及び外層銅箔のプレス後、穴あけ、無電解めっき、表面回路形成により製造されるマルチワイヤー配線板の製造方法において、穴あけ後から無電解めっき完了までの液体処理工程のすべてあるいは少なくとも、アルカリ過マンガン酸によるホールクリーニング工程中の中和処理液、無電解めっき前処理工程中の脱脂・コンディショナー処理液及び触媒付与液、そして無電解めっき液では、被処理基板に振動を連続的あるいは断続的に印加しながら処理することを特徴とするマルチワイヤー配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−120666
【公開日】平成6年(1994)4月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−268535
【出願日】平成4年(1992)10月7日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)