説明

マルチワイヤ配線板およびその製造法

【目的】マルチワイヤ配線板に加わる熱履歴に対して、剥離およびボイドが起こらず、布線の高密度化および布線層の多層化に優れ、工数を低減できるマルチワイヤ配線板およびその製造法を提供すること。
【構成】導体回路層と、絶縁被覆ワイヤが接着層に固定されたワイヤ回路層と、絶縁層と、接続に必要な箇所に設けた接続穴から成り、かつ、導体回路層が他の回路導体と絶縁されたマルチワイヤ配線板において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあるマルチワイヤ配線板と、絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設けるマルチワイヤ配線板の製造法において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が60℃以内の範囲にあること。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁被覆された金属ワイヤを回路導体に用いたマルチワイヤ配線板並びにその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】基板上に接着層を設け、導体回路形成のための絶縁被覆ワイヤを布線、固定し、スルーホールによって層間を接続するマルチワイヤ配線板は、米国特許第4,097,684 号公報、3,646,572 号公報、3,674,914 号公報、および第3,674,602 号公報により開示され、高密度の配線板ができ、さらには特性インピーダンスの整合やクロストークの低減に有利なプリント配線板として知られている。
【0003】前記各米国特許の記載は、熱硬化性樹脂と硬化剤とゴムから成る接着層を用いたマルチワイヤ配線板の製造工程が、■内層回路形成、■接着剤ラミネート、■布線、■プリプレグラミネート、■穴あけ、■銅めっきである。■のプリプレグを用いる理由は、基板中に絶縁被覆ワイヤを固定することにより、ドリル等による穴あけ時に絶縁被覆ワイヤが剥がれてしまうのを防止したり、その後の穴内に金属層を設けるためのめっき工程において、絶縁被覆ワイヤの被覆層が損傷を受けて信頼性が低下することを防止している。
【0004】また、ゴム成分を用いている理由は、接着剤を支持フィルムに塗布・乾燥して接着シートとして作製し、絶縁基板や内層回路板にプリプレグを積層したものの上に積層接着して用いることから、作業上の取り扱いを容易にするために、接着層の膜形成が可能であること、可撓性を有すること、および布線する時以外は非粘着性であることが必要なためである。さらには、絶縁被覆ワイヤを接着層に布線する時は、スタイラスが超音波で振動しながらその先端部分で絶縁被覆ワイヤを接着層に接触させ、その超音波振動による熱エネルギーによって接着層を活性化し溶融接着させるため、溶融可能な組成であることが必要である。
【0005】従来の技術において、絶縁抵抗は従来の配線密度であれば、許容誤差内に収まり、ワイヤの位置精度についても布線し、プリプレグを積層接着した後に設計値に対して、約0.2mm程度の移動(以下、ワイヤスイミングという。)はあったものの、配線密度が低く穴径が大きかったため実用に供するものであった。しかし、前述のように配線密度が高くなってくると、ゴム成分を用いた接着剤では極端に絶縁抵抗が低下する。また、高密度化に伴い穴径も小さくなり、ワイヤスイミングが大きいとスルーホールとなるべき位置の絶縁被覆ワイヤが移動し、接続されずに接続不良を起こすという問題が発生した。この絶縁抵抗の低下とワイヤスイミングを大きくする原因は、接着剤にゴム成分を用いていることであった。すなわち、ゴム成分そのものの絶縁抵抗が低いこと、および布線した後に、接着剤中のゴム成分の流動性が残ったままプリプレグを積層接着するためワイヤスイミングが発生する。
【0006】そこで、特公平2−12995号公報に開示されているように、接着シートとしてフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤、反応性希釈剤および無電解めっき用触媒を用いる接着剤が開発された。すなわち、上記接着剤のゴム成分に代えて絶縁抵抗の高いポリマー成分を導入することで絶縁抵抗の低下を抑制したものである。
【0007】従来の技術では、絶縁被覆ワイヤを布線した後に、プリプレグプレスを行っていたが、この接着剤を用い布線後にプリプレグプレスを行うと、ワイヤスイミングが大きいため布線工程とプレス工程の間に、加熱工程を追加することで接着層を若干硬化させてワイヤスイミングを抑制している。しかし、この接着剤は残溶剤量が多く、はんだ耐熱性が低い等の問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】近年、マルチワイヤ配線板を含むプリント配線板は、高密度実装に対応するため、高多層・微細化・小径化が進んでいる。この高多層・微細化・小径化をマルチワイヤ配線板で行う場合、布線の高密度化、および布線層の多層化、また小径化により対応している。しかし、特公平2−12995号公報に開示された接着剤を用いたマルチワイヤ配線板は、布線の高密度化に伴い、はんだ耐熱性が低下するという問題が生じた。その破壊箇所は絶縁被覆ワイヤとオーバーレイプリプレグ間、もしくは接着剤に関与していることがわかった。その後、はんだ耐熱性向上の為に絶縁被覆ワイヤを布線後、布線層の上にさらに接着層(以下これをカバーレイ接着層と呼ぶ)を設けることにより実用に供するものとなった。しかし、このカバーレイ接着層を設けることにより、工数が多くなり工完が遅くなっている。
【0009】また、布線層を多層化することにより、2層の布線層に比べさらに、はんだ耐熱性が低下することがわかった。例えば、4層の布線層を持つマルチワイヤ配線板において、4層のうち内側2層の接着層に熱履歴による剥離現象やボイドが多く発生し易い。この現象は、マルチワイヤ配線板を貫通するスルーホールや、非貫通のバイアホールが多いほど発生し易く、その破壊箇所は接着層である。また、多層配線板においても同様な現象が見られ、多層配線板中のガラス織布や不織布等の強化材を含まない層に発生することがわかっており、共に問題となっている。
【0010】本発明は、マルチワイヤ配線板に加わる熱履歴に対して、剥離およびボイドが起こらず、布線の高密度化および布線層の多層化に優れ、工数を低減できるマルチワイヤ配線板およびその製造法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明のマルチワイヤ配線板は、導体回路層と、絶縁被覆ワイヤが接着層に固定されたワイヤ回路層と、絶縁層と、接続に必要な箇所に設けた接続穴から成り、かつ、導体回路層が他の回路導体と絶縁されたマルチワイヤ配線板において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあることを特徴とする。
【0012】本発明の、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲である材料を用いることについては、これらの材料のガラス転移点を調査し、その差が60℃以内のものを隣接させて用いることである。また、ガラス転移点の差は小さいほどよく、30℃以内であればさらに好ましい。また、接着層と絶縁層のうち、最もガラス転移点の高いものと、最もガラス転移点の低いもののガラス転移点の差が、30℃以内であることが好ましいが、30℃以内であればさらに好ましい。
【0013】接着層は、絶縁性に優れているものが好ましく、樹脂含浸プリプレグや接着フィルム等がある。さらに好ましくは、接着フィルムを用いることである。樹脂含浸プリプレグとして、例えば、エポキシ樹脂含浸プリプレグ、ポリイミド樹脂含浸プリプレグ、BTレジン系プリプレグ等がある。また、接着フィルムとして、例えば、ポリイミド系接着フィルム、高分子エポキシ系接着フィルム等がある。
【0014】例えば、接着層に、高分子エポキシ系接着フィルムであるAS−3000(日立化成工業株式会社製、商品名)を用いたときには、この絶縁剤のガラス転移点が105〜130℃であることから、隣接する絶縁層として使用できるものとしては、ガラス転移点が70〜165℃のものであり、例えば、高分子エポキシ系接着フィルムであるAS−3000(日立化成工業株式会社製、商品名)、エポキシ樹脂含浸プリプレグであるGEA−67(日立化成工業株式会社製、商品名)、エポキシソルダーレジストであるCCR−506(株式会社アサヒ化学研究所製、商品名)等がある。
【0015】接着層に、ポリイミド系接着フィルムであるAS−2250、2210(日立化成工業株式会社製、商品名)を用いたときは、この絶縁剤のガラス転移点が165〜170℃であることから、隣接する絶縁層として使用できるものとしては、ガラス転移点が110〜225℃のものであり、例えば、ポリイミド系接着フィルムであるAS−2250、2210(日立化成工業株式会社製、商品名)、エポキシ樹脂含浸プリプレグであるGEA−679(日立化成工業株式会社製、商品名)、ポリイミド樹脂含浸プリプレグであるGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)、BTレジン系プリプレグであるGHPL−830(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名)等がある。さらに、本発明における接着層と絶縁層との組合わせは、上記例示に限定されることなく選択することができる。
【0016】上記に述べたように、接着層の剥離やボイドを避けるためには、基本的には接着層に用いる絶縁材料と絶縁層に用いる絶縁材料は、同じ系統の材料を用いることが好ましいが、絶縁被覆ワイヤを布線するためには、接着層はガラス織布あるいは不織布等の強化材を含まない絶縁剤であることが好ましい。また、絶縁層に用いる絶縁剤は、上記強化材を含んでいても含まなくてもよい。
【0017】接着層に用いるガラス織布や不織布等の強化材を含まない絶縁剤としては、高分子エポキシフィルムや、ポリイミドフィルム等があり、布線性を良好とするためにはBステージ状のものが好ましい。Bステージ状のフィルムとしては、市販のもので、高分子エポキシ接着フィルムであるAS−3000(日立化成工業株式会社製、商品名)や、ポリイミド接着フィルムであるAS−2250、2210(いずれも、日立化成工業株式会社製、商品名)等がある。
【0018】ポリイミド接着フィルムとしては、一般式化4で表される構造単位を含むポリイミドが40〜70重量%、ビスマレイミドとジアミンとの反応物が15〜45重量%、およびエポキシ樹脂が15〜45重量%の範囲で含有する熱硬化性樹脂を用いることができる。この接着フィルムを用いる場合、布線性を良好とするためには、Bステージの軟化点が20〜70℃の範囲とすることが好ましい。
【0019】
【化1】


(一般式化1中、Arは一般式化2又は化3で表される基であり、一般式化5で表される基が10〜95モル%、一般式化3で表される基が90〜5モル%である。)
【化2】


(一般式化2中、Zは、-C(=O)-、-SO2-、-O-、-S-、-(CH2)m-、-NH-C(=O)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-C(=O)-O-又は結合を示し、n及びmは1以上の整数を示し、複数個のZはそれぞれ同一でも異なってもよく、各ベンゼン環の水素は置換基で適宜置換されていてもよい。)
【化3】


(一般式化3中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、これらのうち少なくとも2個以上はアルキル基またはアルコキシ基であり、Xは、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-、-C(=O)-、-NH-C(=O)-、を示す。)
【0020】次に、本発明によるマルチワイヤ配線板の製造法を、図1および2を用いて説明する。まず、図1(a)は、電源、グランド等の導体回路2を予め設けた状態を示す。この回路は、ガラス布エポキシ樹脂銅張り積層板やガラス布ポリイミド樹脂銅張り積層板等を公知のエッチング法等により形成できる。また、必要に応じてこの内層回路は、多層回路とすることもでき、また全くなくすこともできる。
【0021】図1(b)は、絶縁層3を形成した図である。これは耐電食性を向上させたり、特性インピーダンスを調整したりするために設けられるが、必ずしも必要としない場合がある。この絶縁層3には、通常のガラス布エポキシ樹脂やガラス布ポリイミド樹脂等のBステージのプリプレグ、あるいはガラス織布や不織布等の強化剤を含まないBステージの絶縁剤等が使用できる。これらの絶縁剤は基板にラミネートした後、必要に応じて熱処理あるいはプレスによる硬化等を行う。
【0022】次に、図1(c)に示すように、絶縁被覆ワイヤ5を布線、固定するための接着層4を形成する。接着層4を設ける方法としては、接着剤ワニスをスプレーコーティング、ロールコーティング、スクリーン印刷法等で直接絶縁基板に塗布、乾燥する方法等がある。しかし、これらの方法では、膜厚が不均一となり、マルチワイヤ配線板とした時の特性インピーダンスが不均一になり好ましくない。そこで、均一な膜厚の接着層4を得るには、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート等のキャリアフィルムに、一旦ロールコートして塗工乾燥しドライフィルムとした後、絶縁基板にホットロールラミネートまたはプレスラミネートする方法が好ましい。さらに、ドライフィルム化された塗膜はロール状に巻かれたり、所望の大きさに切断できるような可撓性と、基板にラミネートする際に気泡を抱き込まないような非粘着性が必要である。
【0023】次に、図1(d)に示すように絶縁皮膜ワイヤ5を布線する。この布線は、一般に布線機により超音波振動等を加えながら加熱して行う。これにより接着層4が軟化して接着層4中に絶縁被覆ワイヤ5が埋め込まれる。しかし、この接着層4の軟化点が低すぎると絶縁被覆ワイヤ5の端部で絶縁被覆ワイヤ5が接着層4から剥がれてしまったり、絶縁被覆ワイヤ5を直角に曲げて布線するコーナー部で絶縁被覆ワイヤ5が歪んでしまったりして、充分な精度が得られない場合がある。また、接着層4の軟化点が高すぎると、布線時に絶縁被覆ワイヤ5が充分に埋め込まれず、絶縁被覆ワイヤ5と接着層4の間の接着力が小さいために絶縁被覆ワイヤ5が剥がれてしまったり、絶縁被覆ワイヤ5の交差部において、上側の絶縁被覆ワイヤ5が下側の絶縁被覆ワイヤ5を乗り越える時に下側の絶縁被覆ワイヤ5が押されて位置ずれが発生したりする。このため、布線時には接着層4の軟化点を適性な範囲に制御する必要がある。布線に用いられるワイヤは、同一平面上に交差布線されてもショートしないように絶縁被覆されたものが用いられる。ワイヤ芯材は銅または銅合金で、その上にポリイミド等で被覆したものが用いられる。また、ワイヤ〜ワイヤ間の交差部の密着力を高めるために、絶縁被覆層の外側にさらにワイヤ接着層を設けることができる。このワイヤ接着層には、熱可塑、熱硬化、光硬化タイプの材料が適用できる。
【0024】布線を終了した後、加熱プレスを行う。ここで布線した基板表面の凹凸を低減し、接着層4内に残存しているボイドを除去する。接着層4中のボイドは布線時に絶縁被覆ワイヤ5を超音波加熱しながら布線する際に発生したり、あるいは絶縁被覆ワイヤ5と絶縁被覆ワイヤ5の交差部付近に生じる空間に起因するものであるため、加熱プレスによる布線した基板面の平滑化および接着層4中のボイド除去が不可欠となる。この加熱プレス後、必要に応じてはさらに熱処理を行い、接着層5をほぼ完全に硬化させることができる。
【0025】次に、図1(e)に示すように、絶縁被覆ワイヤ5を保護するために、絶縁被覆ワイヤ5の上に絶縁層6を設ける。この絶縁層6には、通常の樹脂含浸プリプレグ、あるいはガラス織布や不織布を含まない絶縁剤等のBステージ状のものが適用され、最終的に硬化させる。これらの絶縁剤は、基板にラミネートした後、必要に応じて熱処理あるいはプレスによる硬化等を行う。
【0026】次に、図1(f)に示すように、必要な箇所に穴あけを行った後、無電解銅めっき等によりスルーホール7を形成し、マルチワイヤ配線板を作製できる。
【0027】また、表面回路8を持つマルチワイヤ配線板とするには、絶縁層6形成時にプリプレグ等を介して表面に銅箔等を貼り付け、公知のエッチング法やはんだめっき法により導体回路8を形成し、表面回路付きのマルチワイヤ配線板を作製することもできる。
【0028】さらに布線層を多層化させる製造法としては、図1(d’)に示すように、絶縁被覆ワイヤ5を布線した接着層4を、加熱プレスさらには熱処理等により、硬化させ絶縁被覆ワイヤ5を固定した後(図1(d)に示す。)、さらにその上に接着層9を接着層4と同様の方法で形成する。次に、図1(f’)に示すように、絶縁層6、スルーホール7、必要に応じて表面回路8を上述した方法で形成し、マルチワイヤ配線板を作製することができる。
【0029】また、平坦な基板に布線する方が布線性が良好であることから、図1(d'')に示すように、接着層9を設ける前に絶縁層11を設けて平坦にできる。絶縁層11は絶縁層6と同様の方法で形成でき、最終的に硬化させる。接着層と隣接する絶縁層のガラス転移点の差が60℃を超えると、加熱により膨張した後冷却する時に、温度の低下に伴って、ガラス転移点の高い絶縁層が完全に固化しているにもかかわらず、ガラス転移点の低い接着層は流動性を失っておらず、収縮しようとするので大きなストレスを生じ、スルーホールやバイアホールの密集している箇所等では、そのストレスによって接着層が破壊されることがある。さらに詳しく説明すると、マルチワイヤ配線板は、図3に示すように、(1)スルーホールやバイアホールによって、基板のX方向の動きが拘束されている。(図3(a)に示す。)。
(2)加熱すると、絶縁層や接着層が拘束されていない基板のZ方向に膨張し、スルーホールやバイアホールを両端として太鼓状に膨らむ(図3(b)に示す。)。
(3)この太鼓状の形状は、冷却されると、ガラス転移点の高い絶縁層が個化する形状までしか戻らない。
(4)しかし、ガラス転移点のも低い接着層は、ガラス転移点の高い絶縁層が個化していても、形状を元に戻そうとするが、ガラス転移点の高い絶縁層は個化しているため、その材料間に大きなストレスを生じる。
(5)この大きなストレスにより、剥離およびボイドが発生する(図3(c)に示す。)。
本発明は、この知見を得た結果成し得たものであって、接着層と隣接する絶縁層のガラス転移点の差が60℃以内であれば、剥離やボイドを発生するような大きなストレスを生じないものである。このガラス転移点の差は小さいほど好ましく、30℃以内の範囲であればより好ましい。また、接着層と隣接する絶縁層のガラス軟化点の差だけではなく、マルチワイヤ配線板に使用される接着層と絶縁層のガラス転移点の差も小さい方が好ましく、これも60℃以内の範囲、さらには30℃以内の範囲であることが好ましい。
【0030】接着層と隣接する絶縁層のガラス転移点の差を60℃以内とすることで、熱履歴に対する剥離およびボイドを抑制でき、マルチワイヤ配線板の耐熱性が向上し、より高密度なマルチワイヤ配線板を製造することが可能となる。
【0031】
【実施例】
実施例1(絶縁基板)ガラス転移点が約120℃のエポキシ樹脂含浸ガラス布銅張り積層板であるMCL−E−67(日立化成工業株式会社製、商品名)を、通常のエッチング法により回路を形成した。次いで、ガラス転移点が約120℃のエポキシ樹脂プリプレグであるGEA−679(日立化成工業株式会社製、商品名)を基板の両面に加熱プレスにより、硬化させてアンダーレイ層を形成した。
(接着層形成)次に、ガラス転移点が約120℃の高分子量エポキシ接着フィルムであるAS−3000を、絶縁基板の両面に加熱プレスによりラミネートした。
(布線)次に、接着層上に絶縁被覆ワイヤであるHVE−IMW(日立電線株式会社製、商品名)を布線機により、超音波加熱を行いながら布線した。
(ワイヤ埋め込み)次に、シリコンゴムをクッション材として、130℃、16kgf/cm2、30分の条件で加熱プレスした。
(熱処理)次に、恒温槽中で180℃、60分の熱処理を行い、接着層を完全に硬化し、絶縁被覆ワイヤを固定した。
(表面回路層形成)次に、ガラス転移点が約120℃のエポキシ樹脂プリプレグであるGEA−67(日立化成工業株式会社製、商品名)を両面に、さらにその上に18μm銅箔を加熱プレスにより硬化させ、表面回路層を形成した。
(穴あけ/スルーホール形成)次に、基板の必要な箇所に穴をあけた。その後、ホールクリーニング等の前処理を行い、さらに無電解銅めっき液に浸漬し、約30μmの銅めっきをしてスルーホールを形成した。次いで、エッチング法により表面回路を形成し、マルチワイヤ配線板とした。
【0032】実施例2(絶縁基板)ガラス転移点が約220℃のポリイミド樹脂含浸ガラス布銅張り積層板であるMCL−I−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を、通常のエッチング法により回路を形成した。次いで、ガラス転移点が約220℃のエポキシ樹脂プリプレグであるGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を基板の両面に加熱プレスにより硬化させてアンダーレイ層を形成した。
(接着層形成)次に、ガラス転移点が約170℃のポリイミド接着フィルムであるAS−2250を、絶縁基板の両面に加熱プレスによりラミネートした。
(布線)次に、接着層上に絶縁被覆ワイヤであるHVE−IMW(日立電線株式会社製、商品名)を布線機により、超音波加熱を行いながら布線した。
(ワイヤ埋め込み)次に、シリコンゴムをクッション材として、160℃、16kgf/cm2、30分の条件で加熱プレスした。
(熱処理)次に、恒温槽中で180℃、60分の熱処理を行い、接着層を完全に硬化し、絶縁被覆ワイヤを固定した。
(表面回路層形成)次に、ポリイミド樹脂プリプレグであるGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を両面に、さらにその上に18μm銅箔を加熱プレスにより硬化させ、表面回路層を形成した。
(穴あけ/スルーホール形成)次に、基板の必要な箇所に穴をあけた。その後、ホールクリーニング等の前処理を行い、さらに無電解銅めっき液に浸漬し、約30μmの銅めっきをしてスルーホールを形成した。次いで、エッチング法により表面回路を形成し、マルチワイヤ配線板とした。
【0033】実施例3実施例2により製造したマルチワイヤ配線板を、ガラス転移点が約220℃のポリイミド樹脂プリプレグであるGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)の両面に加熱プレスにより接着させ、その後穴あけ、スルーホールめっきを行って、4層布線のバイアホール付きマルチワイヤ配線板を製造した。
【0034】実施例4実施例1の熱処理工程を省いた以外は、実施例1と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0035】実施例5実施例2の熱処理工程を省いた以外は、実施例2と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0036】実施例6実施例2において、ポリイミド樹脂含浸銅張り積層板を、ガラス転移点が約170銅箔のBTレジン系片面銅張り積層板であるCCH−HL830(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名)に変えた以外は、実施例2と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0037】実施例1〜6で作製したマルチワイヤ配線板は、初期状態では、剥離、ボイド共に無く、良好であった。また、260℃、2分間のはんだフロート試験を行っても、剥離、ボイドは発生せず良好であった。
【0038】比較例1実施例2において、接着層をガラス転移点が約95℃のエポキシ/フェノキシ樹脂接着フィルムであるAS−102(日立化成工業株式会社製、商品名)に、また絶縁被覆ワイヤをHAW−216C(日立電線株式会社製、商品名)に変えた以外は、実施例2と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0039】比較例2実施例2において、ワイヤ埋め込みおよび熱処理工程を省いた以外は、実施例2と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0040】比較例3実施例2において、オーバーレイ層をガラス転移点が100〜115℃のエポキシソルダーレジストインクであるCCR−506(株式会社アサヒ化学研究所製、商品名)に変えた以外は、実施例2と同様にマルチワイヤ配線板を製造した。
【0041】比較例1〜3で作製したマルチワイヤ配線板は、初期状態では剥離およびボイド共に無く良好であった。しかし、260℃、2分間のはんだフロート試験を行った状態で、剥離およびボイドが発生した。
【0042】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明によって、マルチワイヤ配線板に加わる熱履歴に対する剥離やボイドの抑制に優れ、高密度・高多層が可能なマルチワイヤ配線板とその製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(f)、(d’)、(f’)、(d'')、(f'')は、本発明の一実施例を示す各製造工程の断面図である。
【図2】本発明の一実施例を示す製造工程の断面図である。
【図3】従来の課題を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施例を示す製造工程のフローチャートである。
【符号の説明】
1 絶縁板 2 内層銅回路
3 アンダーレイ層 4 接着層
5 絶縁被覆ワイヤ 6 オーバーレイ層
7 スルーホール 8 表面銅回路
9 接着層 10 絶縁被覆ワイヤ
11 層間絶縁層 12 層間絶縁層
13 スルーホール 14 バイアホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】導体回路層と、絶縁被覆ワイヤが接着層に固定されたワイヤ回路層と、絶縁層と、接続に必要な箇所に設けた接続穴から成り、かつ、導体回路層が他の回路導体と絶縁されたマルチワイヤ配線板において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が60℃以内の範囲にあることを特徴とするマルチワイヤ配線板。
【請求項2】接着層が、ガラス織布あるいは不織布等の強化材を含まない絶縁剤であることを特徴とする請求項1に記載のマルチワイヤ配線板。
【請求項3】接着層が、一般式化1で表される構造単位を含むポリイミドが40〜70重量%、ビスマレイミドとジアミンとの反応物が15〜45重量%、エポキシ樹脂が15〜45重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1または2に記載のマルチワイヤ配線板。
【化1】


(一般式化1中、Arは一般式化2又は化3で表される基であり、一般式化2で表される基が10〜95モル%、一般式化3で表される基が90〜5モル%である。)
【化2】


(一般式化2中、Zは、-C(=O)-、-SO2-、-O-、-S-、-(CH2)m-、-NH-C(=O)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-C(=O)-O-又は結合を示し、n及びmは1以上の整数を示し、複数個のZはそれぞれ同一でも異なってもよく、各ベンゼン環の水素は置換基で適宜置換されていてもよい。)
【化3】


(一般式化3中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、これらのうち少なくとも2個以上はアルキル基又はアルコキシ基であり、Xは、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-、-C(=O)-、-NH-C(=O)-、を示す。)
【請求項4】接着層のBステージでの軟化点が20〜70℃の範囲であることを特徴とする請求項3に記載のマルチワイヤ配線板。
【請求項5】絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設けるマルチワイヤ配線板の製造法において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が60℃以内の範囲にあることを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項6】絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、さらにその上に絶縁層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設けるマルチワイヤ配線板の製造法において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が60℃以内の範囲にあることを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項7】絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、さらにその上に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設けるマルチワイヤ配線板の製造法において、接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあることを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項8】表面の絶縁層を設ける際に、さらに導体層を絶縁層の表面に同時に形成し、その導体層を加工して必要な箇所に導体回路を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項9】絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設け、その接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあるマルチワイヤ配線板の製造法と、絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、さらにその上に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設け、その接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあるマルチワイヤ配線板の製造法と、絶縁層で絶縁された導体回路層、もしくは絶縁層の少なくとも一方の面に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後その表面に絶縁層を設け、さらにその上に接着層を設け、絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、その表面に絶縁層を設け、接続に必要な箇所に接続穴を設け、その接着層と隣接する絶縁層とのガラス転移点の差が、60℃以内の範囲にあるマルチワイヤ配線板の製造法と、あるいは、これらの製造法において、表面の絶縁層を設ける際に、さらに導体層を絶縁層の表面に同時に形成し、その導体層を加工して必要な箇所に導体回路を形成するマルチワイヤ配線板の製造法のいずれかの方法によって作製した2枚以上のマルチワイヤ配線板を、絶縁層を介して積層接着し、接続に必要な箇所に接続穴を設けることを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項10】接着層が、ガラス織布あるいはり不織布等の強化材を含まない絶縁剤であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項11】接着層が、一般式化1で表される構造単位を含むポリイミドが40〜70重量%、ビスマレイミドとジアミンとの反応物が15〜45重量%、エポキシ樹脂が15〜45重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項10に記載のマルチワイヤ配線板の製造法。
【化4】


(一般式化4中、Arは一般式化5又は化6で表される基であり、一般式化2で表される基が10〜95モル%、一般式化6で表される基が90〜5モル%である。)
【化5】


(一般式化5中、Zは、-C(=O)-、-SO2-、-O-、-S-、-(CH2)m-、-NH-C(=O)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-C(=O)-O-又は結合を示し、n及びmは1以上の整数を示し、複数個のZはそれぞれ同一でも異なってもよく、各ベンゼン環の水素は置換基で適宜置換されていてもよい。)
【化6】


(一般式化6中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、これらのうち少なくとも2個以上はアルキル基又はアルコキシ基であり、Xは、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-、-C(=O)-、-NH-C(=O)-、を示す。)
【請求項12】接着層のBステージでの軟化点が20〜70℃の範囲にあることを特徴とする請求項11に記載のマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項13】接着層上に絶縁被覆ワイヤを布線した基板を加熱プレスし、接着層を硬化させて絶縁被覆ワイヤを固定することを特徴とする請求項5〜12のいずれかに記載のマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項14】接着層上に絶縁被覆ワイヤを布線した基板を加熱プレス、さらに熱処理を行い接着層を完全に硬化させ、絶縁被覆ワイヤを固定することを特徴とする請求項5〜12のいずれかに記載のマルチワイヤ配線板の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−321681
【公開日】平成8年(1996)12月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−128102
【出願日】平成7年(1995)5月26日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)