説明

マルチワイヤ配線板

【目的】布線性を低下させずにワイヤスイミング量を低減可能なマルチワイヤ配線板を提供すること。
【構成】絶縁基板に接着性樹脂層を塗布形成し、絶縁電線を接着性樹脂層上に這わせてゆくと同時に接着してゆき配線パターンとした後、この絶縁基板を加熱・加圧して接着性樹脂層中に埋め込み固定し、絶縁電線を横切るスルーホールをあけ、スルーホール内を金属化することによりなる配線板において、接着剤シートの膜厚を50μm以上100μm以下の範囲とし、且つ100℃での溶融粘度を104Pa・S以上かつ105Pa・S以下の範囲とすること。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、必要な配線パターンに絶縁電線を使用した配線板に関する。
【0002】
【従来の技術】一般の印刷配線板としては、銅張り積層板を用い不要な部分を薬品により溶解除去して配線パターンを形成するサブトラクト法が主流になっている。また、逆に、銅を貼らない積層板を用い必要な部分に無電解めっきを析出させるアディティブ法が普及しつつある。これらは、いづれも平面上に配線を形成するため同一平面上での交差配線ができず、交差配線のためには異なる平面を用いて、その平面層間に貫通孔を設け、貫通孔をめっき等により金属化して層間接続を行っているこの様な欠点を改善した高密度配線板として絶縁基板上に接着性樹脂層を設け、絶縁電線を接着性樹脂層に保持させて配線する配線板(以下、マルチワイヤ配線板と呼ぶ。)がある。
【0003】マルチワイヤ配線板は、絶縁基板に熱硬化性接着剤を積層または塗布したものに、数値制御布線機により絶縁電線を這わせると同時に超音波振動で加熱溶融することにより接着(以下、布線と呼ぶ。)した後、接着性樹脂層の粘度を上昇させるため加熱し(以下、プリキュアと呼ぶ。)、絶縁電線の近傍に発生した気泡を除去し、且つ絶縁電線を接着剤中に埋め込み固定するため、布線後の絶縁基板を加熱・加圧している(以下、フラッシュプレスと呼ぶ。)。その後、熱硬化性樹脂をプレス等により絶縁電線(以下、ワイヤと呼ぶ。)上に圧着固定し、ワイヤを横切る孔をあけ、穴内にめっきにて金属層を形成させて製造している。
【0004】接着性樹脂層としては、従来、特開平1−160089号公報に記載されているように、分子量5000以上のエポキシ樹脂と分子量5000以下のエポキシ樹脂とポリビニルブチラール樹脂と架橋剤とからなるフェノキシ系接着剤シートが使用されており、ワイヤとしては、直径0.06〜0.16mmの銅線にポリイミド樹脂を被覆した後、布線の接着力を高めるため、前記の接着剤を塗布したものを使用している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】電子機器の高密度化に伴い、マルチワイヤ配線板においても、従来より配線密度、穴密度の向上を図る必要が出てきた。即ち、従来のマルチワイヤ配線板では、2.54mmの格子上に直径1.0mmのスルーホールを設けていたが、近年では、1.27mmの格子上に直径0.3mm程度のスルーホールを設けることが必要となってきている。このため、従来の直径1.0mmのスルーホールの場合は、図1に示すように、スルーホールの位置に対して、ワイヤの位置精度には0.45mmの余裕があったが、スルーホールの直径が0.3mmになると、ワイヤ位置精度を0.1mm以下に押さえることが必要となる。
【0006】しかしながら、従来の接着剤シートは、100℃の溶融粘度を104Pa・S以上105Pa・S以下の範囲とすることにより布線性及びワイヤ位置精度を確保してきたが、フラッシュプレスにより0.1mm以上ワイヤが動いていることがあるため、スルーホール径が0.3mmとなるとスルーホールに接続されないワイヤが発生してしまうという課題がある。このワイヤの動き(以下、ワイヤスイミングと呼ぶ。)を低減する方法としては、接着剤の溶融粘度を高くすることが考えられるが、布線時のワイヤとの接着力が低下し、布線が困難になってしまう。
【0007】本発明は、布線性を低下させずにワイヤスイミング量を低減可能なマルチワイヤ配線板を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のマルチワイヤ配線板は、絶縁基板に接着性樹脂層を塗布形成し、絶縁電線を接着性樹脂層上に這わせてゆくと同時に接着してゆき配線パターンとした後、この絶縁基板を加熱・加圧して接着性樹脂層中に埋め込み固定し、絶縁電線を横切るスルーホールをあけ、スルーホール内を金属化することによりなる配線板において、接着剤シートの膜厚を50μm以上100μm以下の範囲とし、且つ100℃での溶融粘度を104Pa・S以上かつ105Pa・S以下の範囲とすることを特徴とするものである。本発明による接着剤は、従来の分子量5000以上のエポキシ樹脂と分子量5000以下のエポキシ樹脂とポリビニルブチラール樹脂と架橋剤とからなるフェノキシ系接着剤シートを使用して、厚みを50μm以上100μm以下の範囲とし、且つ100℃での溶融粘度を104Pa・S以上かつ105Pa・S以下の範囲の接着剤シートを作製したものである。この接着剤シートを絶縁基板上にラミネートした後、ワイヤを布線する。
【0009】
【作用】接着剤シート膜厚は50μm以上500μm以下の範囲で使用されているが、図3に示す様に、接着樹脂層の膜厚100μm以下とすればプリキュア後の100℃の溶融粘度を高くすることができることから、接着性樹脂層の膜厚を50μm以上100μm以下の範囲とすることにより、プリキュア後のワイヤ保持力が高められ、フラッシュプレスにより発生するワイヤスイミングを低減することが可能となる。且つ、接着性樹脂層の100℃での溶融粘度を、接着性の高い溶融粘度である104Pa・S以上105Pa?S以下の範囲としておくことにより、従来の接着性樹脂と同等の布線性が得られる。
【0010】
【実施例】(1)フェノキシ樹脂を主成分とする組成のワニスを乾燥後の膜厚が85μmとなるように転写用基材であるPETフィルム(東セロ科学株式会社、商品名)に塗布し、100℃での粘度が104Pa・Sになるように乾燥して接着剤シートを作製した。
(2)ガラス布エポキシ積層板MCL−E168(日立化成工業株式会社製、商品名)を用いて、エッチドホイル法により内層回路を形成した後、ガラス布エポキシプリプレグGEA−168NU(日立化成工業株式会社製、商品名)を両面に配し、加熱加圧によって絶縁基板を積層成形する。
(3)(1)で作製した接着剤シートの片側のPETフィルム(東セロ科学株式会社、商品名)を剥離し、この面が絶縁基板に接するように絶縁基板の両面に配し、ホットロールラミネーターを使用してラミネートする。
(4)接着剤シート表面のPETフィルム(東セロ科学株式会社、商品名)を剥離し、NC布線機を用いて絶縁基板の両面に、芯線径0.08mmの絶縁電線OHAW−1IMW(日立電線株式会社製、商品名)を布線する。
(5)乾燥機を使用して120℃、60分間加熱してプリキュアを実施する。
(6)110℃、10kgf/cm2 で15分間加熱加圧して、フラッシュプレスを実施する。
(7)乾燥機を使用して170℃、60分間加熱して接着剤を硬化させる。
(8)ガラス布エポキシプリプレグGEA−168NU(日立化成工業株式会社製、商品名)を、(6)の構成物に重ね、加熱加圧して積層成形する。
(9)めっきマスクとして粘着剤付ポリエチレンフィルムのH−5310(日立化成工業株式会社製、商品名)を、(6)の構成物の両面にラミネートし、スルーホールとなるべきところに直径0.3mmのドリルを用いて穴をあけた後、無電解銅めっき液Hid−410(日立化成工業株式会社製、商品名)に浸漬して、穴壁に約40μmの銅層を形成する。
(10)めっきマスクを剥離して、マルチワイヤ配線板を得た。
この実施によってマルチワイヤ配線板を作製した結果、スルーホール中心とのずれ量は0.07mm以下であり、スルーホールとワイヤとの未接続の発生はなかった。
【0011】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明により、布線性を低減させることなくワイヤスイミング量を0.1mm以下に低減することができるため、1.27mmの格子上に直径0.3mmのスルーホールを設けた高密度なマルチワイヤ配線板の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来例のマルチワイヤ配線板のワイヤとスルーホールの位置関係を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施例である高密度なマルチワイヤ配線板のワイヤとスルーホールの位置関係を示す平面図である。
【図3】本発明のの作用を説明するための、接着剤シート膜厚によるプリキュア後の100℃の溶融粘度測定結果を示す線図である。
【符号の説明】
1.スルーホール
2.ワイヤ
3.小径スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】絶縁基板に接着性樹脂層を塗布形成し、絶縁電線を接着性樹脂層上に這わせてゆくと同時に接着してゆき配線パターンとした後、この絶縁基板を加熱・加圧して接着性樹脂層中に埋め込み固定し、絶縁電線を横切るスルーホールをあけ、スルーホール内を金属化することによりなる配線板において、接着性樹脂層の膜厚を50μm以上100μm以下の範囲とし、且つ100℃での溶融粘度を104Pa・S以上かつ105Pa・S以下の範囲とすることを特徴とするマルチワイヤ配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−232534
【公開日】平成6年(1994)8月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−20035
【出願日】平成5年(1993)2月8日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)