説明

マルチ栽培用の補助器具

【課題】 マルチシートに開けられた孔から風が入り込んで畝床の温度が低下するのを防止でき、給水が容易で、しかも雨水等を捕集して給水に利用でき、またマルチシートの孔を押し拡げて畝床に水を浸透し易くでき、更にはマルチシートを押さえることにも役立つマルチ栽培用の補助器具を提供する。
【解決手段】 マルチシート1に開けた孔1aを底面2aで閉塞する上面開口状の容器形の本体部2と、この本体部2をマルチシート1を介して畝床3に止めるための杭状部材4とで形成する。本体部2の底面2aのほぼ中心に苗5を通すための孔2bを開ける。この孔2bの位置で本体部2を二つ割り状に形成する。またマルチシート1を介して畝床3に押し込む押し込み部6を、上記の底面2aの下側に、上記の孔2bを中心にしてこの孔2bの周りに高台状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ栽培用の補助器具に関し、更に詳しくはマルチシートを使用して野菜や果樹等を栽培(マルチ栽培)する際に、マルチシートに開けられた苗の植え付けや種蒔き用の孔を閉塞するのに使用するマルチ栽培用の補助器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチ栽培時に野菜などの根元を覆う器具としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
この従来品は、板状の被覆部材に、茎を通すための貫通孔が開けられ、この貫通孔に茎を導くための切り込みが周辺から貫通孔に渡って形成されている。
【0003】
ところで、越冬させる野菜類としては、例えばソラマメ、タマネギ、エンドウ、ブロッコリー等がある。この種の作物を栽培する上で、気温がマイナスになる地域では、保温効果のあるマルチシートを使用して根の発育を促進させることが多い。
【0004】
而して、この種の栽培法は、風が吹くと、マルチシートの苗の植え付けや種蒔き用の孔からマルチシート内に寒風が入り込み、マルチシートを押し上げて土壌の熱を奪うため、風に弱い、という問題点がある。
そのため従来は、この種の対策として、マルチシートの上に鉄パイプや角材等を載せ、この種の重しでマルチシートを押さえて寒風が入り込むのを防止することが多かった。
しかしながら、この種の手法は、マルチシートの孔を、直接、閉塞するものではなかったから、孔から入り込む寒風による土壌の温度低下を防止するには不充分であった。
【0005】
また、この種の栽培法において、苗の移植時や芽の出る時期に給水する場合は、マルチシートの孔と、苗との間の狭い隙間から行なうのが通例である。
そのため、従来は、この種の水遣り作業が不便で行ないにくく、畝床に水がしみ込みにくかった。また降雨があっても雨水が、マルチシートの表面を伝わって流れ落ちてしまい、雨水を苗の給水に、有効に利用することができなかった。
その結果、従来は、苗が根付くまで、度々給水しなければならず、水遣り作業に手間暇がかかるのを避けられなかった。
【0006】
而して、特許文献1に記載の従来品は、上記の通り、苗の根元を覆う機能を持つだけであり、このようなマルチ栽培における問題点を解消できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−325041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、提案されたものである。
従って本発明の解決しようとする技術的課題は、マルチシートに開けられた孔から風が入り込んで畝床の温度が低下するのを防止でき、給水が容易で、しかも雨水等を捕集して給水に利用でき、またマルチシートの孔を押し拡げて畝床に水を浸透し易くでき、更にはマルチシートを押さえることにも役立つよう形成したマルチ栽培用の補助器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、次のような技術的手段を採る。
即ち本発明は、図1等に示されるように、マルチシート1に開けられた孔1aを底面2aで閉塞する上面開口状の容器形の本体部2と、この本体部2をマルチシート1を介して畝床3に止めるための杭状部材4とで形成され、上記の本体部2の底面2aのほぼ中心に苗5を通すための孔2bが開けられ、この孔2bの位置で本体部2が二つ割り状に形成され、またマルチシート1を介して畝床3に押し込まれる押し込み部6が、上記の底面2aの下側に、上記の孔2bを中心にしてこの孔2bの周りに高台状に形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
本発明の場合、本体部2は、通常、浅底の皿状や椀状等の容器形に形成されるが、その深さや形状、形成材料は自由である。また杭状部材4は、本体部2を固定できる形状、構造であれば良く、通常、例えば平頭くぎ形状(図1参照)、折れくぎ形状(図8参照)、鉤くぎ形状等に形成される。但し、本発明の場合、この杭状部材4の形状や長さ、太さ、形成材料等は、自由である。また本体部2の底面2aの孔2bは、円形でも方形でも良い。この孔2bの位置は、苗5の根元を二つ割り状の分割片2c(図3等参照)で挟んでセットし易くなるよう、通常、底面2aの真中が好ましいが、セットに支障が出ない範囲であれば多少中心からずれているのでも良い。
【0011】
またここで、高台状とは、茶碗等の脚部のように、押し込み部6が本体部2の下面から下方に突き出されている、ということを意味する。この押し込み部6は、通常、マルチシート1を破くことなく押し込むことができるよう、連続した円環形等の形状に形成されているのが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、断続的に形成されたり、多角形状に形成されているのでも良い。
【0012】
また押し込み部6は、通常、突き出し長さ(高さ)が長く(高く)、厚みが厚いほど、押し込み時にマルチシート1を畝床3に押し込み、マルチシート1に開けられた孔1a(円形や十字形等)を外方に引っ張って拡げることができるが、この押し込み部6の突き出し長さや径は、孔1aの大きさや形状等に鑑み、適宜選定されるので良い。
【0013】
而して、本発明は、図2、図3等に示されるように、本体部2の底面2aの孔2bが円形に形成され、この孔2bの直径線上において本体部2が分割され、各分割片2cの接合側の両端部に、上下に重ね合わされる連結箇所2eが本体部2の外側に突き出されて形成され、この連結箇所2eに杭状部材4が上から差し通されて各分割片2cが連結され、畝床3に本体部2が止め付け可能に形成されているのが好ましい(請求項2)。
なぜならこれによると、各分割片2cに半円状の切り欠き2dが同じ状態に形成されるため、苗5の根元に両側からセットし易くなり、使い勝手が良くなるからである。
【0014】
また本発明は、図3、図4等に示されるように、本体部2の外周壁が底面2aの下側に延ばされて押し込み部6の外周壁に形作られ、本体部2と押し込み部6の径が同一に形成されているのが好ましい(請求項3)。
なぜならこれによると、本体部2と押し込み部6の径が同一の筒状に形成されるため、マルチシート1の孔1aに被せて孔1aを閉塞するとき、押し込み部6の押し込み位置を決定し易くなるからである。またこれによると、本発明品の構造を単純化でき、製造を容易化できるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、このように押し込み部をマルチシートに押し込んで、本体部の底面でマルチシートに開けられた孔を閉塞し、杭状部材で本体部を畝床に固定するものである。
従って本発明品を使用すれば、マルチシートの孔から風が入り込んで畝床の温度が低下するのを防止できる。
【0016】
また本発明は、本体部が容器形に形成されているから、本体部に水を入れることで徐々に孔から土壌に給水でき、また雨水等を本体部で捕集して給水に利用できる。
従ってこれによれば、マルチシートを剥がしたりすることなく、マルチシートで覆われた畝床に、雨水等を利用して簡単、容易に給水でき、その結果、水遣り作業の回数を減らすことができる。
【0017】
また本発明は、本体部を畝床に押し込むと、押し込み部がマルチシートを畝床に引き込み、マルチシートの孔を外側に引っ張って押し拡げる。
従って、本発明によれば、本体部の底面の孔から流れる水が畝床にしみ込み易くなる、という利点がある。
【0018】
またこの場合、本発明では、押し込み部が水止めの矢板として働く。
従って、本発明によれば、本体部の底面の孔から畝床に流れ込む水が押し込み部の外側に漏れ出すことを防止でき、畝床に水を確実に導くことができる。
【0019】
また本発明は、押し込み部をマルチシートに押し込んで本体部を杭状部材で畝床に固定できる。
従って、本発明によれば、マルチシートを畝床に固定することにも役立つ、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明補助器具の使用状態時の好適な一実施形態を示し、苗を省略した図2のI−I線における要部縦断面図である。
【図2】同上補助器具の使用状態時の平面図である。
【図3】同上補助器具の斜視図である。
【図4】同上補助器具の下方から見た斜視図である。
【図5】同上補助器具の分解時の斜視図である。
【図6】同上補助器具の本体部の平面図である。
【図7】図6のVII−VII線における断面図である。
【図8】同上補助器具の他の実施形態を示す使用状態時の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施形態を、添付図面に従って説明する。
本発明は、図1等に示されるように、マルチシート1に開けられた孔1aを底面2aで閉塞する上面開口状の容器形の本体部2と、この本体部2をマルチシート1を介して畝床3に止めるための杭状部材4とで形成されている。この実施形態の場合、孔1aは、図2に示されるように、十字形に形成されている。
【0022】
上記の本体部2は、この実施形態では底の浅い円形の皿状に形成されている。また本体部2は、底面2aのほぼ中心に苗5を通すための孔2bが開けられ、この孔2bの位置で二つ割り状に形成されている。孔2bは、この実施形態では円形に形成され、この孔2bの直径線上において本体部2が二分割可能に形成されている。従って、図3に示されるように、各分割片2cの切り欠き2dは、半円形に形成されている。
【0023】
また本発明品は、マルチシート1を介して畝床3に押し込まれる押し込み部6が、本体部2の底面2aの下側に、底面2aの孔2bを中心にしてこの孔2bの周りに高台状に形成されている。押し込み部6は、この実施形態では円環形の枠状に形成され、この押し込み部6の外周壁は、本体部2の外周壁が底面2aの下側に延ばされて本体部2と径が同一に形作られている。
【0024】
また本体部2の各分割片2cは、接合側の両端部に、上下に重ね合わされる連結箇所2eが本体部2の外側に突き出されて形成されている。連結箇所2eは、この実施形態では、図5に示されるように、一方の分割片2cは両側とも外周壁の上側に、他方の分割片2cは両側とも外周壁の下側に形成されている。
またこの実施形態の場合は、連結箇所2eに、重合時に上下方向に連通する縦孔2fが形成され、この縦孔2fに杭状部材4が上から差し通されて各分割片2cが連結されると共に、畝床3に本体部2が止め付け可能に形成されている。
【0025】
杭状部材4は、この実施形態では平頭くぎ形状に形成されている。なお、本体部2、押し込み部6、杭状部材4とも、この実施形態ではプラスチックで耐食性を有するよう形成されている。
【0026】
次に本発明の使用例及び作用を説明する。
先ず作業者は、苗5(図1参照)の根元に、各分割片2c(図5等参照)の半円形の切り欠き2dを両側からあてがい、切り欠き2dが円形を形作るよう分割片2cを接合する。
【0027】
次に作業者は、マルチシート1の孔1aを覆うよう、押し込み部6を位置決めし、本体部2を押して押し込み部6を畝床3に押し込む。この実施形態の場合、押し込み部6は孔2bを中心にして円環状に形成されている。従って、マルチシート1の孔1aは、押し込み部6が畝床3に押し込まれると、その長さ分(押し込み部6の高さの2倍と、押し込み部6の厚みを足した長さ分)だけ、この実施形態では360度にわたって均等に外側に引っ張られて押し拡げられる。
【0028】
而して、この実施形態の場合、分割片2cが接合されると、図3、図4等に示されるように、各分割片2cの連結箇所2eが上下に重ね合わされる。そこで作業者は、連結箇所2eの縦孔2fに杭状部材4を上から通し、図1に示されるように、畝床3に差し込み、本体部2を畝床3に固定する。
【0029】
また本発明の場合、本体部2は、上記の通り、容器形に形成されている。従って、本体部2内にじょうろ等で注水すると、本体部2内に水が溜まり、底面2aの孔2bを介して畝床3に水が徐々にしみ込む。
また降水時は、本体部2が雨水を捕集して溜めるから、本発明品によると、本体部2に溜まった雨水を底面2aの孔2bから、苗5の給水に利用できる。
【0030】
また本発明品は、マルチシート1の孔1aが、押し込み部6で押し拡げられ、押し込み部6が水止めの矢板として機能し、本体部2の底面2aは、マルチシート1に密着する。
従って、本発明品によると、本体部2の底面2aの孔2bからマルチシート1の孔1aを介して畝床3に流れ込む水は、外側に流れ出すことなく、畝床3に確実にしみ込む。
なお、本発明品は、本体部2に、例えば固形肥料を入れ、雨水等で溶かして追肥するのに使用しても良い。
【0031】
以上の処において、本発明は、図8に示されるように、杭状部材4を、例えば折れくぎ状に形成し、本体部2の外周壁の上端縁に係合させて畝床3に固定するのでも良く、上例のような構造に限定されるものではない。
また押し込み部6は、同図に示されるように、本体部2の径より短く形成されているのでも良い。
【符号の説明】
【0032】
1 マルチシート
1a 孔
2 本体部
2a 底面
2b 孔
3 畝床
4 杭状部材
5 苗
6 押し込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチシートに開けられた孔を底面で閉塞する上面開口状の容器形の本体部と、この本体部をマルチシートを介して畝床に止めるための杭状部材とで形成され、上記の本体部の底面のほぼ中心に苗を通すための孔が開けられ、この孔の位置で本体部が二つ割り状に形成され、またマルチシートを介して畝床に押し込まれる押し込み部が、上記の底面の下側に、上記の孔を中心にしてこの孔の周りに高台状に形成されていることを特徴とするマルチ栽培用の補助器具。
【請求項2】
請求項1記載のマルチ栽培用の補助器具であって、本体部の底面の孔が円形に形成され、この孔の直径線上において本体部が分割され、各分割片の接合側の両端部に、上下に重ね合わされる連結箇所が本体部の外側に突き出されて形成され、この連結箇所に杭状部材が上から差し通されて各分割片が連結され、畝床に本体部が止め付け可能に形成されていることを特徴とするマルチ栽培用の補助器具。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマルチ栽培用の補助器具であって、本体部の外周壁が底面の下側に延ばされて押し込み部の外周壁に形作られ、本体部と押し込み部の径が同一に形成されていることを特徴とするマルチ栽培用の補助器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−42692(P2013−42692A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182090(P2011−182090)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【特許番号】特許第4838909号(P4838909)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(510204769)ヒノックス商事株式会社 (7)
【Fターム(参考)】