説明

マレイン酸系重合体の製造方法および該重合体を含む組成物

【目的】 スケール防止能と腐食抑制能の両方に優れた水処理剤、あるいは洗浄性能や繊維処理能等の機能に優れかつ生分解性の良好な洗剤ビルダーや繊維処理剤を提供し得るマレイン酸重合体またはその塩を製造する方法を見出すことを目的とする。
【構成】 マレイン酸50〜100 重量%と、マレイン酸以外の水溶性不飽和単量体50〜0重量%からなる単量体成分を、該単量体成分に対して鉄イオン、バナジウム原子含有イオン、銅イオンよりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属イオンが前記単量体成分に対して0.5 〜500ppm存在する条件下に、重合触媒として前記単量体成分1モルに対して過酸化水素8〜500gおよび次亜リン酸および/または次亜リン酸塩0.01〜0.3 モルを用い、pH2以下で水溶液重合させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、腐食防止能およびスケール防止能の両性能に優れたマレイン酸系重合体またはその塩を製造し、各種熱交換器等に利用できる水処理剤を提供するものである。また本発明は、洗剤ビルダー、繊維処理剤として有用な生分解性に優れたマレイン酸系重合体またはその塩の製造方法、および該重合体を含む洗浄剤、洗剤組成物、繊維処理剤を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】マレイン酸系重合体は、例えば水処理剤および洗剤、分散剤、各種キレート剤等の分野で用いられている。このようなマレイン酸系重合体の製造方法に関する公知文献としては、例えば特開昭57−168906号(USP4519920,同4555557)、同59−176312号(USP4589995)、同59−210913号、同59−213714号、同60−212410号、同62−218407号、同63−114986号、同63−235313号、同63−236600号、特公昭56-54005号等の公報を挙げることができる。
【0003】しかしながら、上記の公知の方法によって得られるマレイン酸系重合体は分子量が大き過ぎたり分子量分布が広過ぎるために、水処理剤として用いた場合、水中のCaイオン等のカチオンとの錯化作用でゲル化し易いという問題があった。また腐食防止とスケール防止の両性能が共に優れているものは皆無であった。
【0004】一方、特開昭51−19089 号、特公昭57-57482号 (USP3919258)、同62-36042号 (USP4212788)等公報に開示されるように、無水マレイン酸単独あるいは無水マレイン酸と他の重合性単量体をトルエン、キシレン等の有機溶剤中で、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を用いて(共)重合させ、溶剤留去の後、水を用いて加水分解し、酸型マレイン酸系重合体を製造する方法が知られている。
【0005】しかしこれらの製造方法は有機溶剤中で重合を行なうものであるために、工程が繁雑化するだけでなく、防災面、コスト面、省資源の面から有利な方法とは言えなかった。また上記重合方法によって得られるマレイン酸系重合体のポリマー末端基は、重合溶媒に起因する芳香族炭化水素末端基や重合開始剤に起因するt−ブチル基等の極めて疎水性の強い基で構成されるため、水処理剤として使用した場合、被処理水中のCaイオンやMgイオン等のアルカリ土類金属イオンと結合して不溶性塩を生成してしまうので、スケール防止効果や腐食防止効果が不充分になるという問題があった。
【0006】さらに、特公昭57-61309号公報にはホスフィニコ置換脂肪族カルボン酸の製造法が開示されているが、次亜リン酸(塩)の使用量が多いため、得られる生成物はマレイン酸の二量体に近いものとなり1分子当りのカルボキシル基が少なく、Caイオンの捕捉能、スケール防止能、腐食防止能共に不充分であった。
【0007】これらの問題を解決するために、特開平2-209908号公報には、分子量分布の狭い酸型マレイン酸系重合体の製造方法が記載されているが、この重合体はスケール防止能の改善に効果を示すのみで腐食防止能は不充分であった。また特開昭62−207888号公報には、次亜リン酸(塩)を用いて重合させたポリカルボン酸が水系での金属の腐食抑制剤として有効であることが開示されているが、水質条件の厳しい場所ではさらに強力な腐食抑制剤が要望されているのが現状である。
【0008】またマレイン酸系共重合体は、洗浄剤、洗剤組成物、繊維処理剤としても使用可能な水溶性の機能性高分子である。このような水溶性高分子は固体のプラスチックとは異なり、使用後の回収が難しいため、大半は下水や河川に流出すると考えられる。しかしこれらの合成水溶性高分子はその多くが生分解性を有していないことが明らかになっており、次第に蓄積される上記高分子が地球環境に与える影響が懸念されている。
【0009】このため合成水溶性高分子の主鎖中に生分解性基を導入する方法や、易分解性である天然高分子に官能基を導入して機能性を付与する方法等によって生分解性を有する機能性高分子を製造する研究がなされてはいるが、まだ充分な生分解性を有する機能性高分子は見出されていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来技術の問題を解決するためになされたものであって、優れたスケール防止および腐食防止という両性能を具備するマレイン酸系重合体またはその塩を製造し、冷却水系、ボイラー水系等の水処理剤として有効利用することと、さらに生分解性に優れたマレイン酸系重合体(塩)を製造し、洗剤組成物、繊維処理剤等に応用することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、マレイン酸50〜100重量%と、マレイン酸以外の水溶性不飽和単量体50〜0重量%からなる単量体成分を、該単量体成分に対して鉄イオン、バナジウム原子含有イオン、銅イオンよりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属イオンが前記単量体成分に対して0.5〜500ppm存在する条件下に、重合触媒として前記単量体成分1モルに対して過酸化水素8〜500gならびに次亜リン酸および/または次亜リン酸塩0.01〜0.3モルを用い、pH2以下で水溶液重合させる点に要旨を有するものである。また上記の製造方法によって得られたマレイン酸系重合体またはその塩を含有した組成物に関するものである。
【0012】本発明は上記の製造法を採用することにより、低pHでも高重合率にマレイン酸を(共)重合させることに成功したもので、得られるマレイン酸系重合体またはその塩は、400〜5000の数平均分子量およびシャープな分子量分布を有し、分子鎖中に効率的にリン酸基が導入されたものとなる。特に過酸化水素の使用量が8〜50gの場合は、耐熱性に優れ、かつ高度なスケール防止能および腐食防止能を有する水処理剤を提供することができ、特にボイラー用、海水淡水化用、地熱発電用等の高温で使用される場合に優れた性能を発揮する。
【0013】また、過酸化水素の使用量が15〜500gの場合は、生分解性に優れかつ高機能性を有する洗剤ビルダーや繊維処理剤として有用なマレイン酸系重合体(塩)を提供することができる。
【0014】
【作用】本発明において用いられる単量体成分は、マレイン酸(A)50〜100重量%とマレイン酸以外の水溶性不飽和単量体成分(B)50〜0重量%から成り立つものである。マレイン酸が50重量%より少ない場合、分子量分布がブロードなものとなってスケールおよび腐食防止能が悪化してしまうため好ましくない。なお、本発明においてはマレイン酸(A)の代わりに無水マレイン酸も使用できるが、これは無水マレイン酸が水との反応により極めて容易にマレイン酸となることから当然である。
【0015】マレイン酸との共重合成分として用いられるマレイン酸以外の水溶性不飽和単量体(B)とは、水に可溶でマレイン酸との共重合が可能なものであれば限定されないが、100℃の水100gに対する溶解度が5g以上のものが好ましく使用される。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸系単量体およびそれらの塩;フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の不飽和多カルボン酸系単量体およびそれらの塩;酢酸ビニル;一般式(I)
【0016】
【化3】


【0017】[ただし式中、R1,R2 およびR3 は少なくとも1つが水素であって、残りが水素またはメチル基を表わし、R4 は−CH2 −,−(CH2)2 −または−C(CH3)2 −を表わし、かつR1,R2,R3 およびR4 の合計炭素数は3であり、Yは炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、nは0または1〜100の整数である。]で示される不飽和アルコール系単量体、例えば3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)、3−メチル−2−ブテン−1−オール(プレノール)、2−メチル−3−ブテン−2−オール(イソプレンアルコール)、ならびにこれら単量体1モルに対してエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを1〜100モル付加した単量体等;一般式(II)
【0018】
【化4】


【0019】[ただし式中、R5 は水素またはメチル基を表わし、a,b,dおよびfはそれぞれ独立に0または1〜100の整数を表わし、かつa+b+d+f=0〜100であり、−OC24 −単位と−OC36 −単位とはどのような順序に結合してもよく、d+fが0である場合にはZは水酸基、スルホン酸基および(亜)リン酸基を表わし、またd+fが1〜100の整数である場合にはZは水酸基を表わす]で示される不飽和(メタ)アリルエーテル系単量体、例えば3−(メタ)アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
【0020】3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン(亜)リン酸、これら単量体1モルに対してエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを1〜100モル付加した単量体;グリセロールモノ(メタ)アリルエーテルおよびこれら単量体1モルに対してエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを1〜100モル付加した単量体等の不飽和(メタ)アリルエーテル系単量体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシスルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド等の不飽和スルホン酸基含有単量体およびそれらの塩;
【0021】炭素数1〜20のアルキルアルコールにエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを0〜100モル付加したアルコールと(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノエステルまたは、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等とのモノエステルあるいはそれらの塩、またはジエステル等の末端アルキル基含有エステル系不飽和単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸系単量体に対して、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを1〜100モル付加したモノエステル系単量体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等不飽和多カルボン酸系単量体に対してエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを1〜100モル付加したモノエステルあるいはそれらの塩、またはジエステル等のエステル系不飽和単量体;等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0022】本発明では、鉄イオン、バナジウム原子含有イオンおよび銅イオンからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属イオンまたは金属含有イオン(以下単に金属イオンという)の存在下に重合することが重要である。本発明者等は、マレイン酸を重合する際に、過酸化水素の量と重合時のpHを後述の様に特定するだけでなく上記の金属イオンを特定量存在させることによって、マレイン酸の(共)重合率が向上し、かつ分子量分布をシャープにする効果を有することを明らかにした。
【0023】金属イオンの使用量は上記において選定された単量体成分に対して、0.5〜500ppm 、好ましくは5〜100ppm である。使用量が0.5ppm より少ないと、(共)重合率が向上せず生分解性も向上しないため好ましくなく、また金属イオンの使用量が500ppm を超える場合は、製品の汚染、着色等の問題を引き起こすだけでなく、得られるマレイン酸系重合体の分子量分布がブロードとなり生分解性も低下し、水処理剤、洗剤ビルダーや繊維処理剤としての性能が悪化するため好ましくない。
【0024】上記金属イオンとしては、Fe3+、Fe2+、V2+、V3+、VO2+、VO3-、Cu+ 、Cu2+が好ましく使用できる。これらの中でも特にバナジウムイオン(VO2+) 、第2鉄イオン(Fe3+) 、第2銅イオン(Cu2+) が好ましく、これらの金属イオンは1種または2種以上を使用することができる。
【0025】金属イオンの供給形態については特に制限はなく、重合反応系内でイオン化するものであれば使用できる。この様な金属化合物としては、例えば、オキシ三塩化バナジウム、三塩化バナジウム、シュウ酸バナジウム、硫酸バナジウム、無水バナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムハイポバナダス[(NH4)2 SO4 ・VSO4 ・6H2 O]、硫酸アンモニウムバナダス[(NH4 )V(SO4)2 ・12H2 O]、酢酸銅(II)、臭化銅(II)、銅(II)アセチルアセテート、塩化第二銅塩化銅アンモニウム、炭酸銅、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、ギ酸銅(II)、水酸化銅(II)、硝酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅、マレイン酸銅、リン酸銅、硫酸銅(II)、塩化第1銅、シアン化銅(I)、ヨウ化銅、酸化銅(I)、チオシアン酸銅、鉄アセチルアセトナート、クエン酸鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、硫酸第一鉄アンモニウム、硫酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、フマル酸鉄、マレイン酸鉄、乳酸第一鉄、硝酸第二鉄、鉄ペンタカルボニル、リン酸第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の水溶性金属塩;五酸化バナジウム、酸化銅(II)、酸化第一鉄、酸化第二鉄などの金属酸化物;硫化銅(II)、硫化鉄などの金属硫化物;その他銅粉末、鉄粉末などを挙げることができる。
【0026】さらに金属イオンの濃度調整を行なうために、例えば、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸などの縮合リン酸系;エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などのアミノカルボン酸系;1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのホスホン酸系;フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、イタコン酸、シュウ酸、クロトン酸などの有機酸系;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸系等の錯形成剤を上記金属イオンと併用することも可能である。
【0027】本発明においては、重合触媒である過酸化水素の供給によって重合反応が進行するが、その際反応系内のマレイン酸系重合体からの脱離によると見られる炭酸ガスの発生が認められる。この炭酸ガスの発生は過酸化水素の投入量に比例するため、過酸化水素の投入量を制御することによって脱炭酸量を制御することが可能となり、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基の量を任意にコントロールすることができる。カルボキシル基の量は重合体の生分解性や物性および性能を大きく変化させるものであり、この制御によって本発明のマレイン酸系重合体またはその塩は多種の用途に適応できるという大きな利点を有する。
【0028】本発明における過酸化水素の使用量は単量体成分(マレイン酸とマレイン酸以外の水溶性不飽和単量体との合計量)1モルに対して8〜500g とする必要がある。ただし、水処理剤に適用する場合には、過酸化水素の使用量は8〜30g、より好ましくは11〜30gが適しており、生分解性が重要視される洗剤ビルダーや繊維処理剤等に適用する場合は、過酸化水素の使用量を15〜500g、より好ましくは30〜500gにするとよい。
【0029】過酸化水素が8g(対単量体成分1モル)より少ない場合は残存単量体が多くなり好ましくない。また、過酸化水素の使用量の多い方が生分解性は向上するが、使用量が500gを超えても増量に見合った効果は得られない。
【0030】過酸化水素以外の重合触媒、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩;4,4'−アゾビス−4−シアノバレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4 −ジメチルバレロニトリル等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸、ジ第3級ブチルパーオキサイド、第3級ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物を使用した場合は、本発明の目的とする分子量分布が狭くかつ分子量の比較的低いマレイン酸系重合体が得られず、また残存単量体が極めて多くなり好ましくない。ただし、上記開始剤を本発明の効果を損なわない範囲で過酸化水素と共に使用することは可能である。
【0031】過酸化水素を重合系内に供給する方法としては特に制限はなく、例えば反応の初期に反応系内へ全量を一括仕込みする方法、反応進行中に少量ずつ連続投入を行なう方法、全量を幾つかに分割して間欠的に一括投入する方法などが示されるが、重合反応をより円滑に進行させるためには、少量ずつの連続投入によるのが好ましい。
【0032】本発明において用いられる次亜リン酸(塩)としては、次亜リン酸あるいはそのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アミン塩等を挙げることができ、1種または2種以上を用いることができる。使用量としては単量体成分1モル(マレイン酸とマレイン酸以外の水溶性不飽和単量体との合計量)に対して0.01〜0.3モルが適している。次亜リン酸(塩)の量が0.01モルより少ない場合には、得られる重合体の腐食防止能や生分解性が不充分となり、0.3モルを超える場合には未反応の次亜リン酸(塩)が残存し易く好ましくない。
【0033】次亜リン酸(塩)の添加方法には特に制限はない。例えば重合溶媒である水に次亜リン酸(塩)を溶かしておき所定の温度に昇温した後、単量体成分と重合触媒を滴下してもよく、単量体成分、重合触媒と共に水中に滴下してもよく、あるいは単量体成分中に溶解させておくことも可能である。
【0034】本発明の重合はpH2以下の低pH域で行なうことが重要である。さらに好ましいのはpH1.5以下である[なお、本発明におけるpHは原液(80℃)での値である]。pHが2を超えた場合、重合体の分子量分布が広がると共に生分解性が低下するうえに、重合率が低くなり未反応マレイン酸量および未反応次亜リン酸量が増加して水処理剤や洗剤ビルダー、繊維処理剤としての特性が悪化するため好ましくない。
【0035】本発明においては、酸型で重合することが好ましいが、重合時pH2以下という条件が満足されるならば、マレイン酸およびマレイン酸以外の水溶性不飽和単量体はこれらの塩として併用することも可能である。重合後中和用塩基性化合物を加え、任意に中和することもできる。中和用塩基性化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩;アンモニア;モノメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、第2級ブタノールアミン等のアルカノールアミン類;ピリジン等を挙げることができる。
【0036】ちなみに、従来技術の多くは塩型マレイン酸を単量体原料として重合を行なっているが、これは低いpH域ではマレイン酸の水溶液重合が進行しにくく、重合率を上げることが困難であったためである。しかし本発明においては、特定の金属イオンの存在と過酸化水素の量を規定することによって、pH2以下においてもマレイン酸を高収率で重合させることができるため、単量体を塩型に限定する必要はない。しかも、塩型マレイン酸重合体よりも、酸型で重合したものの方が■スケール防止能及び腐食防止能がともに勝っている、■水処理剤として使用する際にスライムコントロール剤や脱酸素剤等の有機物を配合し易い、■ノニオン界面活性剤との相溶性が良好なのでノニオン界面活性剤と組み合わせて液体洗剤組成物とした時の安定性に優れている、という種々の利点を有しているため、本発明においてpH2以下で重合できるということは非常に有意義である。
【0037】本発明においては重合溶媒として水を単独で用いることが特徴的要件として挙げられる。重合溶媒として水単独ではなく、アルコールやケトン類等の親水性溶媒、あるいは水とこれら親水性溶媒との混合物を用いると、未反応単量体の残存量が著しく増大して製品純度が低下することと、残存次亜リン酸(塩)量も大きく増加してリン酸基を重合体中へ効率的に導入できないため、水処理剤としての性能や生分解性が劣ったものとなる等の理由で好ましくない。
【0038】重合温度は特に制限がなく広い範囲で実施可能であるが、85〜160℃の範囲が重合時間を短縮する上で好ましい。85℃未満では重合反応の進行が阻害されることがある。なお、重合時の固型分濃度は広い範囲で実施可能であるが、25〜95重量%、より好ましくは30〜90重量%の範囲で反応させれば残存単量体をさらに低減できる。
【0039】本発明の製造方法によれば、得られるマレイン酸系重合体またはその塩の数平均分子量は、通常400〜5000となる。分子量および分子量分布の測定はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による。また分子量分布を表わすD値(MW/MN)[MWは重量平均分子量、MNは数平均分子量である]が2.5以下、好ましくは2.0以下の特性を備えるものが得られる。
【0040】本発明で得られるマレイン酸系重合体またはその塩は、単独でもスケール防止、腐食防止に有用な水処理剤であるが、さらにこれらの防止効果を向上させるために、亜鉛、モリブデン、クロム、アルミニウム、マンガン等の多価イオンを遊離させ得る化合物を配合しても良い。特に亜鉛イオンを遊離させる化合物は好ましく使用される。また、ポリリン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸塩等のリン含有化合物および/またはホウ酸、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、五ホウ酸塩等のホウ酸(塩)化合物を配合することもできる。
【0041】本発明のマレイン酸系重合体(塩)を水処理剤に適用する場合、この水処理剤の使用量は特に限定はされないが、一般的に水系に対して0.5〜500ppm 程度であり、より好ましくは1〜200ppm である。水系のpHは7〜10、カルシウム硬度は5〜1000mg/l(CaCO3 換算)、より好ましくは10〜300mg/l(CaCO3 換算)が適している。
【0042】本発明の水処理剤は耐熱性に優れているので、200〜300℃付近の使用にも耐えることができる。従って、冷却水系はもちろん、高温下の使用となるボイラー水系、地熱発電、海水淡水化プラント、ゴミ焼却炉での廃水濃縮器、パルプ蒸解釜、各種濃縮缶等の幅広い用途において、スケールの発生および腐食を防止する水処理剤として非常に有用なものである。
【0043】本発明において重合時に過酸化水素を15〜500g使用した時に得られるマレイン酸系重合体またはその塩は良好な生分解性を示す。この重合体はそのままで洗浄剤、繊維処理剤として使用することができ、また界面活性剤と酵素を配合して、洗剤組成物として使用することもできる。
【0044】洗剤組成物中の上記マレイン酸系重合体(塩)の使用量は、1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%である。また界面活性剤は5〜70重量%配合するのが好適であり、10〜30重量%の配合がより好ましい。
【0045】界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性およびカチオン界面活性剤を好ましく使用することができる。アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和または不飽和脂肪酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルまたはアルケニルリン酸エステルまたはその塩等が例示される。
【0046】ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が例示される。
【0047】両性界面活性剤としては、カルボキシ型またはスルホベタイン型両性界面活性剤が例示され、カチオン界面活性剤としては第4アンモニウム塩等が例示される。
【0048】酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を使用することができ、特にアルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼ、アルカリセルラーゼ等が好ましい。
【0049】この洗剤組成物には、公知のアルカリビルダー、キレートビルダー、再付着防止剤、蛍光剤、漂白剤、香料等の常用成分を添加しても良い。またゼオライトを配合してもよい。アルカリビルダーとしては、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩等を用いることができる。キレートビルダーとしては、ジグリコール酸、オキシカルボン酸塩、EDTA、DTPA、クエン酸等を必要に応じて使用することができる。
【0050】本発明の繊維処理剤は、繊維処理における精練、染色、漂白、ソーピング等の工程で使用することができる。適用できる繊維は特に限定されないが、例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維、ナイロン、ポリエステル等の化学繊維、羊毛、絹糸等の動物性繊維、人絹等の半合成繊維およびこれらの織物または混紡品が挙げられる。精練工程に適用する場合は、本発明のマレイン酸系重合体(塩)とアルカリ剤および界面活性剤を配合することが好ましく、漂白工程では、アルカリ剤漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤等を配合するとよい。
【0051】本発明のマレイン酸系重合体またはその塩は、特定の重合方法を採用することにより良好な生分解性を有し、洗剤ビルダー、繊維処理剤として非常に好適に使用され、環境への影響を大幅に削減するものである。
【0052】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「%」および「部」は、それぞれ「重量%」緒よび「重量部」を示す。
実施例1温度計、撹拌機および還流冷却器を備えた容量1リットルの四ツ口フラスコに無水マレイン酸 196部(マレイン酸として 232部)、脱イオン水 140部、硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物0.0412部(Fe3+として20ppm /仕込単量体成分全重量)を仕込んだ後、撹拌しながら該水溶液を常圧下で沸騰温度まで昇温した。次に撹拌下で35%過酸化水素水 110部(19.24 g/仕込単量体成分1モル)および次亜リン酸ソーダ14%水溶液 136.4g(0.09モル%/仕込単量体成分1モル)を3時間にわたって連続的に滴下し、重合反応を完了した。
【0053】得られたマレイン酸重合体(1) の分子量および分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。結果は表1に示す通りであった。なお、カラムは、東ソー社製G−3000PW(XL)+G−2500PW(XL)を用い、溶離液には、リン酸塩緩衝液(pH7)を用いた。分子量標準サンプルとしてはポリエチレングリコール(ゼネラルサイエンス社製)を用いた。
【0054】実施例2実施例1と同じ原料を仕込んだ後、撹拌しながらpH調整用の48%水酸化ナトリウム水溶液を16.7部(5モル%/単量体成分全酸基)を加えた以外は実施例1と同様に重合しマレイン酸重合体塩(2) を得た。実施例1と同様にGPC分析を行ない結果を表1に示した。
実施例3〜11金属イオンの種類、使用量、過酸化水素水および次亜リン酸ソーダの使用量を表1および2に示した様に変化させたほかは実施例1と同様にしてマレイン酸重合体(3) 〜(11)を製造し、実施例1と同様に分析した結果を表1および2に併記した。
【0055】実施例12温度計、撹拌機および還流冷却器を備えた容量1リットルの四ツ口フラスコに無水マレイン酸 196部(マレイン酸として 232部)、脱イオン水 140部、硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物0.0412部(Fe3+として20ppm /仕込単量体成分全重量)を仕込んだ後、撹拌しながら該水溶液を常圧下で沸騰温度まで昇温した。次に撹拌下で35%過酸化水素水 110部(19.24g/仕込単量体成分1モル)、次亜リン酸ソーダ14%水溶液 170.5g(0.09モル%/仕込単量体成分1モル)および水溶性不飽和単量体としてアクリル酸36.1部を3時間にわたって連続的に滴下し、重合反応を完了した。得られたマレイン酸共重合体(12)を実施例1と同様に分析し、結果を表2に示した。
【0056】実施例13〜17実施例13のアクリル酸の代わりに、表1に示した水溶性不飽和単量体を用いたほかは実施例13と同様にしてマレイン酸共重合体(13)〜(17)を製造し、分析結果を表2に併記した。
【0057】比較例1実施例1における金属イオン:硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物を使用せず、そのほかは実施例1と同様にして比較マレイン酸重合体(1) を製造し、実施例1と同様に分析して結果を表3に示した。
比較例2〜3実施例1における金属イオンを表3に示す様に変えたほかは実施例1と同様にして比較マレイン酸重合体 (2)〜(3) を製造し、実施例1と同様に分析して結果を表3に併記した。
【0058】比較例4〜7実施例1における過酸化水素および次亜リン酸ソーダの使用量を表3に示した通りに変えたほかは実施例1と同様にして比較マレイン酸重合体 (4)〜(7) を製造し、実施例1と同様に分析して結果を表3に併記した。
比較例8実施例2において、仕込み時に48%水酸化ナトリウム水溶液 167部(50モル%/単量体成分全酸基)を投入したほかは実施例2と同様にして比較マレイン酸重合体(8) を製造し、実施例1と同様に分析して結果を表3に示した。
【0059】比較例9実施例13において、アクリル酸の使用量を表2に示す様に変えた以外は実施例13と同様にして比較マレイン酸重合体(9) を製造し、実施例1と同様に分析して結果を表3に示した。
比較例10温度計、撹拌機および還流冷却器を備えた容量1リットルの四ツ口フラスコに無水マレイン酸 196部(マレイン酸として 232部)、脱イオン水 140部、硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物0.0412部(Fe3+として20ppm /仕込単量体成分全重量)、イソプロピルアルコール 100部を仕込んだ後、撹拌しながら該水溶液を常圧下で沸騰温度まで昇温した。次に撹拌下で35%過酸化水素水 110部(19.24 g/仕込単量体成分1モル)および次亜リン酸ソーダ14%水溶液 136.4g(0.09モル%/仕込単量体成分1モル)を3時間にわたって連続的に滴下し、重合反応を完了した。得られた比較マレイン酸共重合体(10)を実施例1と同様に分析し、結果を表3に示した。
【0060】
【表1】


【0061】
【表2】


【0062】
【表3】


【0063】《性能評価試験1》
(1)スケール抑制剤としての評価(1-1)スケール抑制率容量 225mlのガラスビンに水を 170g入れ、1.56%塩化カルシウム2水塩水溶液10g、および各々のマレイン酸重合体試料の0.02%水溶液3g(得られる過飽和水溶液に対して3ppm)を混合し、さらに重炭酸ナトリウム水溶液10gおよび水7gを加え全量を 200gとした。得られた炭酸カルシウム530ppmの過飽和水溶液を密栓して70℃で8時間の加熱処理を行なった。冷却した後沈殿物を 0.1μmのメンブランフィルターで濾過し、濾液を JIS K0101に従って分析した。
【0064】下式により炭酸カルシウムスケール抑制率(%)を求め、表4および表5に結果を示した。
スケール抑制率(%)=(C−B)/(A−B)
ただし A:試験前の液中に溶解していたカルシウム濃度B:スケール防止剤無添加濾液中でのカルシウム濃度C:試験後濾液中のカルシウム濃度
【0065】(1-2)腐食抑制度容量 500ccのSUS316製セパラブルフラスコに、下記に示した性状の合成水(姫路市水4倍濃縮に相当)445mlを入れた。
pH 8.3 カルシウム硬度(CaCO3換算) 220 ppm全硬度 (CaCO3換算) 310 ppm硫酸イオン 50 ppm塩素イオン 120 ppm溶解性シリカ 65 ppmこの中に実施例および比較例の各々のマレイン酸重合体を合成水に対して固形分換算で50ppm 添加し、水酸化ナトリウムを用いてpHを8.5 に調整した後、脱イオン水を加えて全量を 450mlとし試験液を調整した。得られた試験液中に25mm×40mm× 1mmの SS-41製テストピース2枚を吊るし、試験液上に25ml/分の空気を流しながら、60℃で60時間熱処理した。熱処理後テストピース上の腐食生成物を除いてテストピースの減量を測定し、2枚のテストピースの減量の平均値をMDD(mg /dm2/day) 換算して表4に併記した。
【0066】
【表4】


【0067】実施例18実施例1において35%化酸化水素水の量を194.3 部(34g/仕込単量体成分1モル)とした他は実施例1と同様に重合した。得られたマレイン酸重合体(18)の分子量および分子量分布を実施例1と同様にGPCを用いて測定した。また生分解試験は JIS K0102に準じて行ない、5日間での生分解率を次式から求め、表5に示した。
X= 100(A−B)/(C−D)
X:5日間の生分解率(%)
A:マレイン酸系重合体(塩)の5日間の生物学的酸素要求量B:残存単量体(上記GPCで定量)の5日間の生物学的酸素要求量C:マレイン酸系重合体(塩)の理論的酸素要求量(元素分析値から完全酸化に必要な酸素量を計算した)
D:残存単量体の理論的酸素要求量
【0068】実施例19実施例18と同じ原料を仕込んだ後、撹拌しながらpH調整用の48%水酸化ナトリウム水溶液を16.7部(5モル%/単量体成分全酸基)を加えた以外は実施例18と同様に重合しマレイン酸重合体塩(19)を得た。実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表5に示した。
実施例20〜30金属イオンの種類、使用量、過酸化水素水および次亜リン酸ソーダの使用量を表5および6に示した様に変化させた他は実施例18と同様にしてマレイン酸重合体(20)〜(30)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表5および表6に示した。
【0069】実施例31実施例12において35%化酸化水素水の量を194.3 部(34g/仕込単量体成分1モル)とした他は実施例1と同様に重合した。得られたマレイン酸重合体(31)を実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表6に示した。
実施例32〜36実施例31のアクリル酸の代わりに、表1に示した水溶性不飽和単量体を用いたほかは実施例31と同様にしてマレイン酸共重合体(32)〜(36)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表6に示した。
【0070】比較例11実施例18における金属イオン:硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物を使用せず、その他は実施例18と同様にして比較マレイン酸重合体(11)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
比較例12〜13実施例18における金属イオンを表7に示す様に変えた他は実施例18と同様にして比較マレイン酸重合体(12)〜(13)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
【0071】比較例14〜17実施例18における過酸化水素および次亜リン酸ソーダの使用量を表7に示した通りに変えた他は実施例18と同様にして比較マレイン酸重合体(14)〜(17)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
比較例18実施例19において、仕込み時に48%水酸化ナトリウム水溶液 167部(50モル%/単量体成分全酸基)を投入した他は実施例19と同様にして比較マレイン酸重合体(18)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
比較例19実施例31において、アクリル酸の使用量を表7に示す様に変えた以外は実施例31と同様にして比較マレイン酸重合体(19)を製造し、実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
【0072】比較例20温度計、撹拌機および還流冷却器を備えた容量1リットルの四ツ口フラスコに無水マレイン酸 196部(マレイン酸として 232部)、脱イオン水 140部、硫酸鉄(III) アンモニウム12水和物0.0412部(Fe3+として20ppm /仕込単量体成分全重量)、イソプロピルアルコール 100部を仕込んだ後、撹拌しながら該水溶液を常圧下で沸騰温度まで昇温した。次に撹拌下で35%過酸化水素水194.3 部(34g/仕込単量体成分1モル)および次亜リン酸ソーダ14%水溶液 136.4g(0.09モル%/仕込単量体成分1モル)を3時間にわたって連続的に滴下し、重合反応を完了した。得られた比較マレイン酸共重合体(20)を実施例18と同様にGPC分析と生分解性の評価を行ない、結果を表7に示した。
【0073】
【表5】


【0074】
【表6】


【0075】
【表7】


【0076】《性能評価試験2》実施例18〜36および比較例11〜20で得られた各々のマレイン酸重合体において、洗剤としての性能および繊維処理剤としての性能を評価するため、以下の試験を行なった。
(2)洗剤組成物としての評価(2-1)洗浄率下記の組成の人工汚垢を四塩化炭素中に分散して作った液を、綿の白布に通して乾燥させ10cm×10cmの汚染布を作成した。
〈人工汚垢組成〉粘土 49.75 %カーボンブラック 0.5 %ミリスチン酸 8.3 %オレイン酸 8.3 %トリステアリン酸 8.3 %トリオレイン 8.3 %コレステリン 4.38 %コレステリンステアレート 1.09 %パラフィンロウ 0.552%スクワレン 0.552%
【0077】上記汚染布を下記の洗剤組成物中、20℃の水道水中、浴比 1:60、洗剤濃度 0.5%の条件で10分間洗濯を行なった。
〈洗剤組成物組成〉LAS 20 %(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩:C11.5
ポリオキシエチレン 15 %アルキルエーテル(C12:エチレンオキサイド部=8)
ゼオライト 20 %酵素(プロテアーゼ) 0.5%マレイン酸系重合体 20 %炭酸ナトリウム 15 %珪酸ナトリウム(1号) 9.5%洗濯後、布を乾燥させ、反射率を測定した。下式から洗浄率を求め、表8に結果を示した。
洗浄率=(洗浄後の反射率−洗浄前の反射率)/(白布の反射率−洗浄前の反射率)
【0078】《性能評価試験3》
(3) 繊維処理剤としての評価(3-1) 染色性向上能と染料分散性(染色助剤としての評価)
木綿ツイル織物を次の条件で染色した。染色向上剤として各マレイン酸系重合体を水1リットルに1gの割合で用いた。
〈染色条件〉使用水の硬度 30°DH(ドイツ硬度)
染料(Kayaras Supra Blue 4BL) 1 重量%(日本化薬社製の金属含有型直接染料)
硫酸ナトリウム 10 重量%浴比 1:30温度 95℃時間 30分
【0079】染色後の布をスガ試験機社製SMカラーコンピューター SM-3 型により側色し、Hue値(マンセル色相環上の値)を求めた。Hue値のPBとはPurpleとBlueの間の青紫の意味で、値の小さい方が青に近い青紫であり染色性が優れていることを示している。また部分的な色むらを肉眼で目視観察した。さらに、上記使用した水、染料(0.1%)、マレイン酸系重合体(0.1%)の混合液を300g作成し、24時間放置後に東洋ろ紙社製5Cろ紙を用いてろ過し、ろ過残渣なしを○、ろ過残渣若干ありを△、ろ過残渣の多いものを×として染料分散性を評価した。結果を表8に併記した。
【0080】(3-2) 漂白性能と縫製性能(漂白助剤としての評価)
精練した綿天竺編ニットを次の条件で漂白した。漂白助剤としてマレイン酸系重合体を水1リットルに1gの割合で用いた。
〈染色条件〉使用水の硬度 35°DH(ドイツ硬度)
浴比 1:25温度 85℃時間 30分使用薬剤過酸化水素 10g/l水酸化ナトリウム 2g/l珪酸ナトリウム(3号) 5g/l
【0081】漂白後の布の風合いは官能検査法により決定し、ソフトな風合いのものを○、ややハードな風合いのものを△、かなりハードなものを×とした。また、白色度はスガ試験機社製SMカラーコンピューター SM-3 型により側色し、Lab系の白色度式によって白色度Wを求めた。
W=100−[(100−L)2 +a2 +b21/2ただし、L=測定された明度a=測定されたクロマチックネス指数b=測定されたクロマチックネス指数さらに、漂白後の布を4枚重ねとし本縫ミシンで針#11Sを用いて30cm空縫いした場合の地糸切れ箇所の数を調べた。結果を表8に併記した。
【0082】
【表8】


【0083】
【発明の効果】本発明は以上のような製造方法を採用することにより、低pHでも高重合率にマレイン酸を(共)重合させることに成功したもので、得られるマレイン酸系重合体またはその塩は、400〜5000の数平均分子量およびシャープな分子量分布を有し、分子鎖中に効率的にリン酸基が導入されたものとなる。このため水処理剤に適用する場合には、耐熱性に優れ、かつ高度なスケールおよび腐食防止能を有するので、特にボイラー用、海水淡水化用、地熱発電用等の高温で使用される場合に優れた性能を発揮するものである。また、触媒の過酸化水素を多く使用することによって、上記に挙げた特徴に加え、高酸化度なマレイン酸系重合体(塩)が得られた。このため生分解性に優れ、かつ各性能に優れた洗浄剤、洗剤組成物や繊維処理剤を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 マレイン酸50〜100重量%と、マレイン酸以外の水溶性不飽和単量体50〜0重量%からなる単量体成分を、該単量体成分に対して鉄イオン、バナジウム原子含有イオン、銅イオンよりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属イオンが前記単量体成分に対して0.5〜500ppm存在する条件下に、重合触媒として前記単量体成分1モルに対して過酸化水素8〜500gならびに次亜リン酸および/または次亜リン酸塩0.01〜0.3モルを用い、pH2以下で水溶液重合させることを特徴とするマレイン酸系重合体の製造方法。
【請求項2】 マレイン酸以外の水溶性不飽和単量体が、不飽和モノカルボン酸系単量体、不飽和多カルボン酸系単量体、一般式(I)
【化1】


[ただし式中、R1,R2 およびR3 は少なくとも1つが水素であって、残りが水素またはメチル基を表わし、R4 は−CH2 −,−(CH2)2 −または−C(CH3)2 −を表わし、かつR1,R2,R3 およびR4 の合計炭素数は3であり、Yは炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、nは0または1〜100の整数である。]で示される不飽和アルコール系単量体、一般式(II)
【化2】


[ただし式中、R5 は水素またはメチル基を表わし、a,b,dおよびfはそれぞれ独立に0または1〜100の整数を表わし、かつa+b+d+f=0〜100であり、−OC24 −単位と−OC36 −単位とはどのような順序に結合してもよく、d+fが0である場合にはZは水酸基、スルホン酸基および(亜)リン酸基を表わし、またd+fが1〜100の整数である場合にはZは水酸基を表わす。]で示される不飽和(メタ)アリルエーテル系単量体からなる群から選択される1種または2種以上のものである請求項1に記載のマレイン酸系重合体の製造方法。
【請求項3】 請求項1〜2のいずれかに記載の方法によって、マレイン酸系重合体の数平均分子量を400〜5000、D値(重量平均分子量/数平均分子量)を2.5以下とするマレイン酸系重合体の製造方法。
【請求項4】 過酸化水素を8〜30g使用する請求項1〜3に記載のマレイン酸系重合体の製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載の方法によって得られるマレイン酸系重合体を含有する水処理剤。
【請求項6】 過酸化水素を15〜500g使用する請求項1〜3に記載の方法によって、マレイン酸系重合体の28日間の生分解率を30%以上とする生分解性の改良されたマレイン酸系重合体の製造方法。
【請求項7】 請求項6に記載の方法によって得られるマレイン酸系重合体を含有する洗浄剤。
【請求項8】 請求項6に記載の方法によって得られるマレイン酸系重合体と界面活性剤および酵素を含有する洗剤組成物。
【請求項9】 請求項6に記載の方法によって得られるマレイン酸系重合体またはその塩を含有する繊維処理剤。