説明

ミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラム

【課題】ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができるミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラムを提供すること。
【解決手段】ミキシングバランス表示装置10は、NR信号のレベルを検出するNRレベル検出部13と、BGM信号のレベルを検出するBGMレベル検出部14と、NR信号とBGM信号とのレベル差を算出するレベル差算出部15と、レベル差に対して所定の重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出部16と、重み付きレベル差の値の平均値を算出する平均レベル差算出部17と、NR信号のレベルの平均値を算出するNR平均値算出部18と、ミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定部19と、表示制御信号を生成する表示制御信号生成部20と、ミキシングバランスの状態を表示する表示部21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテレビやラジオ等の番組制作時にナレーション信号とバックグラウンドミュージック信号とのミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばナレーション(以下「NR」と表す。)信号とバックグラウンドミュージック(以下「BGM」と表す。)信号とのミキシングを行う際に、訓練された音声調整者が実際に音を聞きながら音声調整卓を操作し、NR信号とBGM信号とのミキシングバランスが最適になるよう手動で調整していた。この手法では、熟練した音声調整者が必要となるという課題があり、この課題の解決を図るものとして、例えば特許文献1に示された音声レベルバランス指示装置がある。
【0003】
特許文献1に示されたものは、NR用及びBGM用の聴覚モデルに基づいた聴覚マスキング曲線を求める手段と、NRの聴覚マスキング曲線とBGMの聴覚マスキング曲線とのレベル差を求める手段と、両者のレベル差からミキシングバランスを制御する制御信号を生成する手段とを備え、NR信号とBGM信号とのミキシングバランスの状態を指示することができるようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−308999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された従来のものは、熟練した音声調整者が必要となるという課題を解決できるものではあったが、NR信号の立ち上がり部及び立ち下がり部においてBGM信号がNR信号よりも大き過ぎるという不適切な表示が頻繁に起こるので、ミキシングバランスの状態の表示値と聴感とが一致し難いものであり、その改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、前述のような観点に基づいてなされたものであり、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができるミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、ミキシングバランスの表示に係る実験及び検討を重ねた結果、ミキシングの対象である2つの信号のレベル差に適切な信号処理を施して新しい評価値を算出し、当該評価値を用いてミキシングバランスが適正か否かを判断する手法を見出し、前述の従来の課題を解決した。
【0008】
すなわち、本発明のミキシングバランス表示装置は、第1及び第2の音信号のレベルを所定時間間隔のフレーム毎に検出するレベル検出手段と、前記第1の音信号と前記第2の音信号とのレベル差を算出するレベル差算出手段と、前記レベル差に対して前記第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出手段と、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において前記重み付きレベル差の値の大きいものから順にm個の値の平均値を算出する平均レベル差算出手段と、現フレームから過去の所定数のフレームまでの間における前記第1の音信号のレベル平均値を算出する第1音信号平均値算出手段と、前記平均レベル差算出手段及び前記第1音信号平均値算出手段の算出結果に基づいて前記第1の音信号と前記第2の音信号とのミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定手段と、前記第1の音信号のレベルに基づいて前記表示値決定手段の出力を制御する表示制御信号を生成する表示制御信号生成手段と、前記表示制御信号に基づいて前記ミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示手段とを備えた構成を有している。
【0009】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示装置は、重み付きレベル差算出手段は、第1の音信号と第2の音信号とのレベル差に対して第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出し、第1音信号平均値算出手段、表示値決定手段及び表示制御信号生成手段は、重み付きレベル差を示す信号に対して聴感に対応させるための信号処理を施すので、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができる。
【0010】
また、本発明のミキシングバランス表示装置は、前記重み付きレベル差算出手段は、予め定められた第1及び第2の閾値に応じて前記レベル差に対して重み付けを行うものであり、前記第1及び前記第2の音信号のレベルをそれぞれN及びB、前記第1及び前記第2の閾値をそれぞれT及びTとした場合、N<Tのときは所定レベルの信号を出力し、N>TのときはレベルがB−Nの信号を出力し、T≦N≦Tのときは予め定められた単調な関数に基づいて算出したレベルの信号を出力する構成を有している。
【0011】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示装置は、重み付きレベル差算出手段が出力する信号のレベルに基づいて、第1の音信号と第2の音信号とのミキシングバランスが適切か否かを判断することができる。
【0012】
さらに、本発明のミキシングバランス表示装置は、前記表示値決定手段は、前記第1の音信号のレベル平均値を予め定められた閾値Lと比較して前記表示値を決定するものであり、前記第1の音信号のレベル平均値をNAとした場合、NA≧Lのときは前記平均レベル差算出手段が算出した値を前記表示値とし、NA<Lのときは前記平均レベル差算出手段が算出した値を所定値に変換し、前記所定値を前記表示値とする構成を有している。
【0013】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示装置は、第1の信号が存在しない場合において、又は第1の音信号の立ち上がり部及び立ち下がり部において、不適切な表示を防止することができるので、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができる。
【0014】
さらに、本発明のミキシングバランス表示装置は、前記表示制御信号生成手段は、前記第1の音信号のレベルと予め定められた閾値Lとを前記フレーム毎に比較して前記表示制御信号を生成するものであり、前記第1の音信号のレベルをNとした場合、N≧Lとなったフレームのうち現フレームに最も近いフレームから所定個数分のフレームにおける前記表示値決定手段からの出力信号を前記ミキシングバランス表示手段に入力させるよう制御するとともに、前記所定個数を超えたときは前記表示値決定手段の出力信号を遮断するよう制御する表示制御信号を生成する構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示装置は、第1の音信号が長時間に渡り存在せず第2の音信号のみが存在している場合において第2の音信号のレベルは適正であるという不適切な表示を防止することができるので、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができる。
【0016】
さらに、本発明のミキシングバランス表示装置は、前記ミキシングバランス表示手段は、前記表示制御信号に基づき、前記表示値決定手段が決定した前記表示値を所定数の段階に分類して表示する構成を有している。
【0017】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示装置は、表示値を所定数の段階に分類して表示することによって、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて視認性よく表示することができる。
【0018】
本発明のミキシングバランス表示プログラムは、第1の音信号と第2の音信号とのミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示装置としてコンピュータを機能させるためのミキシングバランス表示プログラムであって、前記コンピュータを、前記第1及び前記第2の音信号のレベルを所定時間間隔のフレーム毎に検出するレベル検出手段と、前記第1の音信号と前記第2の音信号とのレベル差を算出するレベル差算出手段と、前記レベル差に対して前記第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出手段と、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において前記重み付きレベル差の値の大きいものから順にm個の値の平均値を算出する平均レベル差算出手段と、現フレームから過去の所定数のフレームまでの間における前記第1の音信号のレベル平均値を算出する第1音信号平均値算出手段と、前記平均レベル差算出手段及び前記第1音信号平均値算出手段の算出結果に基づいて前記第1の音信号と前記第2の音信号とのミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定手段と、前記第1の音信号のレベルに基づいて前記表示値決定手段の出力を制御する表示制御信号を生成する表示制御信号生成手段と、前記表示制御信号に基づいて前記ミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示手段として機能させる構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明のミキシングバランス表示プログラムは、重み付きレベル差算出手段、第1音信号平均値算出手段、表示値決定手段及び表示制御信号生成手段としてコンピュータを機能させ、重み付きレベル差算出手段は、第1の音信号と第2の音信号とのレベル差に対して第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出し、第1音信号平均値算出手段、表示値決定手段及び表示制御信号生成手段は、重み付きレベル差を示す信号に対して聴感に対応させるための信号処理を施すので、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができるという効果を有するミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラムを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明のミキシングバランス表示装置を、テレビやラジオ等の番組制作時にNR信号とBGM信号とのミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示装置に適用した例を挙げて説明する。ここで、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置は、番組制作時にNR信号とBGM信号とのミキシングバランスを監視し、例えばBGM信号のレベルが大き過ぎてNRが聞きにくい場合には「BGM信号のレベルが大き過ぎる」、逆に、BGM信号のレベルが小さ過ぎて音響効果が得られない場合には「BGM信号のレベルが小さ過ぎる」というような注意又は警告を音声ミキサに対して行うものである。なお、本実施の形態におけるNR信号及びBGM信号は、特許請求の範囲に記載の第1及び第2の音信号にそれぞれ対応するものである。
【0022】
まず、本発明に係るミキシングバランス表示装置の一実施の形態における構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置10は、NR信号をAD変換するAD変換部11と、BGM信号をAD変換するAD変換部12と、NR信号のレベルを検出するNRレベル検出部13と、BGM信号のレベルを検出するBGMレベル検出部14と、NR信号とBGM信号とのレベル差を算出するレベル差算出部15と、レベル差に対して所定の重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出部16と、重み付きレベル差の値の平均値を算出する平均レベル差算出部17と、NR信号のレベルの平均値を算出するNR平均値算出部18と、ミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定部19と、表示値決定部19の出力を制御するための表示制御信号を生成する表示制御信号生成部20と、例えばVU(Volume Unit)メータのようなレベルメータを有し、ミキシングバランスの状態を表示する表示部21とを備えている。
【0024】
AD変換部11及び12は、それぞれ、NR信号及びBGM信号を入力し、アナログ値からデジタル値に変換するようになっている。例えば、AD変換部11及び12は、それぞれ、サンプリング周波数が48kHz、量子化精度が16ビットのデジタル信号にアナログ信号を変換するようになっている。尤も、入力されるNR信号及びBGM信号がデジタル信号である場合は、AD変換部11及び12は不要である。なお、本実施の形態におけるサンプリング周波数は、48kHzとして以下説明する。
【0025】
NRレベル検出部13は、NR信号のラウドネスレベル(phon)を一定の短時間ΔT毎に検出するようになっている。ここで、一定の短時間ΔTは、サンプリング周波数48kHzで例えば1024サンプルを取得する場合は、約21.3ms(=1024/48000s)となる。なお、NRレベル検出部13は、サンプリング周波数48kHzで1024サンプルを取得するものとし、以下の説明において、1024サンプルの取得単位をフレームという。
【0026】
BGMレベル検出部14は、NRレベル検出部13と同様に、BGM信号のラウドネスレベルをフレーム毎に検出するようになっている。
【0027】
なお、NRレベル検出部13及びBGMレベル検出部14は、本発明のレベル検出手段に対応している。また、NRレベル検出部13及びBGMレベル検出部14が各信号のラウドネスレベルを検出する方法としては、例えばISO562に規格化されたものがある。また、ラウドネスレベルに代えて各信号の平均エネルギレベル(dB)を算出する構成としてもよく、この場合は、例えばサンプル値の2乗平均値を算出し、dB変換すればよい。
【0028】
以下の説明においては、適正なレベルでミキシングされたNR信号のラウドネスレベル(phon)を0で正規化した相対レベルを用いて表すことにする。また、BGM信号のレベルもNR信号と同一のレベルで正規化した相対レベルを用いて表すことにする。一例を挙げれば、適正なレベルでミキシングされたNR信号のラウドネスレベルが70(phon)の場合では、NR信号又はBGM信号のラウドネスレベルが、70(phon)のときは当該信号の相対レベルは0であり、75(phon)のときは当該信号の相対レベルは+5である。
【0029】
また、正規化後の相対レベルが例えば−50程度以下の場合は、NR信号及びBGM信号のラウドネスレベルは聴感的に非常に小さいものであるので、−50以下の値を全て−50で置き換えても実用上は十分である。なお、0で正規化しないで後述する処理を行うこともできるが、その場合には各閾値の値が相対的に変わってくる。以下、正規化されたNR信号の相対レベルを「N」、正規化されたBGM信号の相対レベルを「B」と表す。
【0030】
レベル差算出部15は、NRレベル検出部13及びBGMレベル検出部14から、それぞれ、NR信号の相対レベルN及びBGM信号の相対レベルBの情報をフレーム毎に入力し、両者の相対レベルの差(以下「相対レベル差」という。)B−Nを算出するようになっている。なお、レベル差算出部15は、本発明のレベル差算出手段に対応している。
重み付きレベル差算出部16は、レベル差算出部15が算出した相対レベル差B−Nに対し、NR信号の相対レベルNの大きさに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出するようになっている。なお、重み付きレベル差算出部16は、図示しないメモリを備えており、このメモリは、算出された重み付きレベル差の各値を逐次記憶するようになっている。
【0031】
具体的には、重み付きレベル差算出部16は、例えば図2に示すようなレベル重み付け関数によって相対レベル差B−Nに対する重み付けを行う。図2において、重み付きレベル差算出部16は、N<−30のときは相対レベルが−50の信号を出力し、N>−15のときは相対レベルがB−Nである信号を出力し、−30≦N≦−15のときは相対レベルがN(B−N+50)/15+2(B−N)+50である信号を出力するようになっている。
【0032】
なお、図2においては、座標(−30,−50)と(−15,B−N)との2点を直線で結んだ例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、この2点を単調な関数で結んだものであれば実用上は十分である。また、重み付きレベル差算出部16は、本発明の重み付きレベル差算出手段に対応している。また、図2において、N=−30及びN=−15は、特許請求の範囲に記載の第1の閾値T及び第2の閾値Tにそれぞれ対応するものである。
【0033】
次に、レベル差算出部15及び重み付きレベル差算出部16が出力する信号について図3の模式図を用いて説明する。レベル差算出部15に入力されるNR信号及びBGM信号の各相対レベルが図3(a)に示すような関係にある場合、レベル差算出部15は、まず、図3(b)に示すような相対レベル差B−Nを算出する。次に、重み付きレベル差算出部16は、算出した相対レベル差B−Nの値に、図2に例示した重み付け関数で重み付けすることにより、図3(b)に示すような重み付き相対レベル差B−Nを算出する。
【0034】
図3(b)に示すように、相対レベル差B−Nは、BGM信号の相対レベルBが大きいほど、又はNR信号の相対レベルNが小さいほど大きくなる。NR信号の相対レベルNが小さい場合、すなわち、NR信号がほとんど存在しない場合には、「BGM信号が大き過ぎる」という表示を行う必要はないので、図2に例示したような重み関数で重み付けして、図3(c)に示すように、NR信号の相対レベルNが小さい場合には重み付き相対レベル差B−Nの値を小さくしている。すなわち、重み付けを行う前の相対レベル差B−Nの値(図3(b))の大小では「BGM信号が大き過ぎる」か否かの判断を行うことはできないが、重み付き相対レベル差B−Nの値(図3(c))の大小を用いれば「BGM信号が大き過ぎる」か否かの判断を行うことができることになる。
【0035】
平均レベル差算出部17は、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において、重み付きレベル差B−Nの値の大きいものから順にm個の値の平均値(以下「パーセント時間率平均レベル差」という。)を算出するようになっている。ここで、n及びmは正の整数であり、n≧mの関係がある。なお、平均レベル差算出部17は、本発明の平均レベル差算出手段に対応している。
【0036】
nを大きくするほど、長時間の無音区間を除くことができるので、表示部21が有するレベルメータの指示値の変化を緩やかにすることができるが、nが大き過ぎると無音区間が長時間続いても0でない指示値を長時間指示するので、適当な長さに設定する必要がある。また、mを大きくするほど、レベルメータの指示値の変化を緩やかにすることができるが、指示値の立ち上がり時間が遅くなるので、mをある程度小さくして、指示値の立ち上がり時間を短くする必要がある。実用上は、例えばn=100、m=4として、4%に相当するパーセント時間率平均レベル差を求める構成とするのが好ましい。
【0037】
n及びmを適切に設定して算出したパーセント時間率平均レベル差を用いることにより、NR信号とBGM信号とのラウドネスの差に関し、聴感とよく合った判断ができるようになる。なお、パーセント時間率平均レベル差に関しては、特許第3462390号公報に詳述されている。
【0038】
なお、発明者の検討結果によれば、ステレオ信号の場合には音素材の種類に関わらず、NR信号とBGM信号とのミキシングバランスが適正であれば、平均レベル差算出部17の出力信号の相対レベルは概ね0となる。
【0039】
次に、NR信号が存在するフレームのみにおいて、パーセント時間率平均レベル差が大きいほど「BGM信号が大き過ぎる」、逆に、小さいほど「BGM信号が小さ過ぎる(BGMの効果がない)」という表示を行おうとする場合、NR信号が存在しないフレームでは「BGM信号が大き過ぎる」あるいは、「BGM信号が小さ過ぎる」と表示されるよりも「BGM信号のレベルが適正である」と表示される方が聴感的に好ましい。そこで、本実施の形態におけるNR平均値算出部18及び表示値決定部19は以下のように構成されている。
【0040】
すなわち、NR平均値算出部18は、現フレームから過去の所定数(例えば数個〜数十個)のフレームまでの間におけるNR信号のレベル平均値NAを算出するようになっている。なお、NR平均値算出部18は、本発明の第1音信号平均値算出手段に対応している。
【0041】
また、表示値決定部19は、NR信号のレベル平均値NAを予め定められた閾値Lと比較してミキシングバランスの状態を示す表示値を決定するようになっている。具体的には、表示値決定部19は、NR信号のレベル平均値NAが、NA≧Lのときは平均レベル差算出部17の出力値を表示値とし、NA<Lのときは平均レベル差算出部17の出力値をミキシングバランスが適正な場合の値に変換して表示値とするようになっている。なお、表示値決定部19は、本発明の表示値決定手段に対応している。
【0042】
ここで、NR信号の相対レベルNではなく平均値NAを用いることにより、パーセント時間率平均レベル差の立ち上がり部及び立ち下がり部における不適切な判定を防ぐことができる。なお、不適切な判定をより確実に防ぐためには、NR平均値算出部18が平均する個数を平均レベル差算出部17における個数mより大きくした方がよい。なお、ミキシングバランスが適正な場合のパーセント時間率平均レベル差の値は心理実験を行って測定する必要があるが、ステレオ信号の場合には、当該値の相対レベルとしては概ね0程度である。
【0043】
実用的には、NR平均値算出部18は、平均値NAを算出するためのフレーム個数を例えば14個(21.3ms×14=298ms)としてNR信号の相対レベルの平均値を算出するものであればよい。その結果、平均値NAの値は、VUメータの立ち上がり時間(約300ms)とほぼ等しい立ち上がり時間で変動することとなる。また、閾値Lとしては相対レベルで−15程度の値にすればよい。この場合、表示値決定部19は、平均値NAが約−15以上の場合には平均レベル差算出部17の出力値をそのまま出力し、平均値NAが約−15未満の場合には平均レベル差算出部17の出力値をミキシングバランスが適正な場合の値(例えば相対レベル=0)に変換することとなる。したがって、平均値NAが約−15未満の場合、すなわち、NR信号が存在しないとみなせるフレームでは、「BGM信号のレベルは適正である」と表示され、聴感と対応がとれた表示が得られることとなる。
【0044】
ここで、表示値決定部19が決定した出力値を表示部21で常時表示したのでは、NR信号が長時間(例えば5s)に渡り存在しない場合においても、表示部21は「BGM信号のレベルは適正である」と表示することになる。そこで、NR信号が長時間に渡って存在しない場合には表示そのものを消した方が聴感的によく合うので、本実施の形態における表示制御信号生成部20は、以下のように構成されている。
【0045】
すなわち、表示制御信号生成部20は、NR信号の相対レベルNと予め定められた閾値Lとをフレーム毎に比較し、NR信号の相対レベルNが、N≧Lとなったフレームのうち現フレームに最も近いフレームから所定個数分のフレームにおける表示値決定部19からの出力信号を表示部21に入力させるよう制御するとともに、所定個数を超えたときは表示値決定部19からの出力信号を遮断して表示を行わないよう制御する表示制御信号を生成するようになっている。なお、表示制御信号生成部20は、本発明の表示制御信号生成手段に対応している。
【0046】
実用的には、閾値Lとしては相対レベルで−15程度であればよい。また、NR信号の相対レベルが瞬間的に低下した場合、例えば数100ms程度低下した場合の影響を除くためには、前述の所定個数としては50〜100個程度が適当である。なお、所定個数を100個とした場合の時間は、21.3ms×100=2.13sである。
【0047】
表示部21は、例えばレベルメータを備え、表示制御信号生成部20が生成した表示制御信号に基づいて、表示値決定部19の出力値を表示するようになっている。この表示部21は、本発明のミキシングバランス表示手段に対応している。
【0048】
なお、表示部21は、表示値決定部19の出力値を例えば数〜十数段階に分類して表示するものであってもよい。具体的には、BGM信号のレベルを例えば7段階に分類して表示部21に表示させる場合は、表示値決定部19の出力の値を大きい方から順に7段階に分類し、BGM信号のレベルが「非常に大き過ぎる」、「大き過ぎる」、「やや大きい」、「適正」、「やや小さい」、「小さ過ぎる」、「非常に小さ過ぎる」等と表示させればよい。BGM信号のレベルを前述のように7段階に分類するための6つの境界値は心理実験を行って求める必要があるが、6つの境界値の相対レベルとしては、概ね、6、4、2、−3、−6、−9程度が好ましい。この構成により、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて視認性よく表示することができる。
【0049】
次に、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置10の動作について図4を用いて説明する。
【0050】
まず、AD変換部11によって、NR信号が入力されてAD変換され(ステップS11)、AD変換部12によって、BGM信号が入力されてAD変換される(ステップS12)。なお、ステップS11と12とを前述の順序とは逆に処理してもよく、また、同時に処理するものとしてもよい。
【0051】
次いで、NRレベル検出部13によって、NR信号のレベルがフレーム毎に検出され(ステップS13)、BGMレベル検出部14によって、BGM信号のレベルがフレーム毎に検出される(ステップS14)。なお、ステップS13と14とを前述の順序とは逆に処理してもよく、また、同時に処理するものとしてもよい。
【0052】
さらに、レベル差算出部15によって、NR信号とBGM信号とのレベル差が算出された後、重み付きレベル差算出部16によって、レベル差算出部15が算出したレベル差に対して、例えば図2に示す重み付け関数に基づいて重み付けが行われることにより重み付きレベル差が算出される(ステップS15)。
【0053】
続いて、平均レベル差算出部17によって、パーセント時間率平均レベル差の算出、すなわち、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において、重み付きレベル差B−Nの値の大きいものから順にm個の値の平均値が算出される(ステップS16)。
【0054】
次いで、NR平均値算出部18によって、現フレームから過去の所定数(例えば数個〜数十個)のフレームまでの間におけるNR信号のレベル平均値NAが算出される(ステップS17)。
【0055】
さらに、表示値決定部19によって、NR信号のレベル平均値NAが、NA≧Lのときは平均レベル差算出部17の出力値が表示値とされ、NA<Lのときは平均レベル差算出部17の出力値が、ミキシングバランスが適正な場合の値に変換されて表示値とされる(ステップS18)。
【0056】
引き続き、表示制御信号生成部20によって、NR信号の相対レベルNと予め定められた閾値Lとがフレーム毎に比較され、表示値決定部19の出力を制御するための表示制御信号が生成される(ステップS19)。具体的には、表示制御信号生成部20は、NR信号の相対レベルNが、N≧Lとなったフレームのうち現フレームに最も近いフレームから所定個数分のフレームにおける表示値決定部19からの出力信号を表示部21に入力させるよう制御するとともに、所定個数を超えたときは表示値決定部19からの出力信号を遮断して表示を行わないよう制御する表示制御信号を生成する。
【0057】
そして、表示部21によって、表示制御信号生成部20が生成した表示制御信号に基づいて、NR信号とBGM信号とのミキシングバランスの状態が表示される(ステップS20)。
【0058】
なお、図4に示された各ステップの処理をプログラミングし、当該プログラムによってコンピュータを動作させることにより、当該プログラムは、コンピュータをミキシングバランス表示装置10として機能させることができる。この場合、コンピュータは、図1に示された構成を有することとなる。
【0059】
以上のように、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置10によれば、重み付きレベル差算出部16は、NR信号とBGM信号とのレベル差に対して所定の重み付けを行って重み付きレベル差を算出し、平均レベル差算出部17は、パーセント時間率平均レベル差を算出し、NR平均値算出部18は、現フレームから過去の所定数のフレームまでの間におけるNR信号のレベル平均値NAを算出し、表示値決定部19は、NR信号のレベル平均値NAを閾値Lと比較してミキシングバランスの状態を示す表示値を決定し、表示制御信号生成部20は、表示値決定部19の出力を制御するための表示制御信号を生成し、表示部21は、表示制御信号に基づいてミキシングバランスの状態を表示する構成としたので、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができる。
【0060】
したがって、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置10は、例えばBGM信号のレベルがNR信号のレベルよりも大き過ぎる場合はBGM信号のレベルを下げるよう音声ミキサに促すことができ、BGM信号のレベルが大き過ぎてNRが聴き取りにくいといった現象を未然に防ぐことができるので、番組の音響効果の向上を支援することができる。また、本実施の形態におけるミキシングバランス表示装置10は、例えばBGM信号のレベルがNR信号のレベルよりも小さ過ぎて音響効果が得られない場合はBGM信号のレベルを上げるよう音声ミキサに促すことができるので、番組の音響効果の向上を支援することができる。
【0061】
なお、前述の実施の形態において、第1の音信号及び第2の音信号をそれぞれNR信号及びBGM信号とし、NR信号とBGM信号とをミキシングする際のミキシングバランスを表示する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、複数の音楽信号のミキシングを対象とするものや、台詞の音声信号と効果音の信号とのミキシングを対象とするもの等に適用しても同様な効果が得られる。
【0062】
また、前述の実施の形態において示した各閾値の値や、各閾値に対する大小の判断手法は一例であり、前述のものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明に係るミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラムは、ミキシングバランスの状態を聴感に対応させて表示することができるという効果を有し、テレビやラジオ等の番組制作時にナレーション信号とバックグラウンドミュージック信号とのミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示装置及びミキシングバランス表示プログラム等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るミキシングバランス表示装置の一実施の形態における構成を示すブロック図
【図2】本発明に係るミキシングバランス表示装置の一実施の形態における重み付け関数の一例を示す図
【図3】本発明に係るミキシングバランス表示装置の一実施の形態において、NR信号及びBGM信号の相対レベル差を説明するための模式図 (a)入力されるNR信号及びBGM信号の相対レベルの一例を示す図 (b)相対レベル差B−Nの一例を示す図 (c)重み付き相対レベル差B−Nの一例を示す図
【図4】本発明に係るミキシングバランス表示装置の一実施の形態における動作を示すフロー図
【符号の説明】
【0065】
10 ミキシングバランス表示装置
11、12 AD変換部
13 NRレベル検出部(レベル検出手段)
14 BGMレベル検出部(レベル検出手段)
15 レベル差算出部(レベル差算出手段)
16 重み付きレベル差算出部(重み付きレベル差算出手段)
17 平均レベル差算出部(平均レベル差算出手段)
18 NR平均値算出部(第1音信号平均値算出手段)
19 表示値決定部(表示値決定手段)
20 表示制御信号生成部(表示制御信号生成手段)
21 表示部(ミキシングバランス表示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の音信号のレベルを所定時間間隔のフレーム毎に検出するレベル検出手段と、前記第1の音信号と前記第2の音信号とのレベル差を算出するレベル差算出手段と、前記レベル差に対して前記第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出手段と、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において前記重み付きレベル差の値の大きいものから順にm個の値の平均値を算出する平均レベル差算出手段と、現フレームから過去の所定数のフレームまでの間における前記第1の音信号のレベル平均値を算出する第1音信号平均値算出手段と、前記平均レベル差算出手段及び前記第1音信号平均値算出手段の算出結果に基づいて前記第1の音信号と前記第2の音信号とのミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定手段と、前記第1の音信号のレベルに基づいて前記表示値決定手段の出力を制御する表示制御信号を生成する表示制御信号生成手段と、前記表示制御信号に基づいて前記ミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示手段とを備えたことを特徴とするミキシングバランス表示装置。
【請求項2】
前記重み付きレベル差算出手段は、予め定められた第1及び第2の閾値に応じて前記レベル差に対して重み付けを行うものであり、前記第1及び前記第2の音信号のレベルをそれぞれN及びB、前記第1及び前記第2の閾値をそれぞれT及びTとした場合、N<Tのときは所定レベルの信号を出力し、N>TのときはレベルがB−Nの信号を出力し、T≦N≦Tのときは予め定められた単調な関数に基づいて算出したレベルの信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のミキシングバランス表示装置。
【請求項3】
前記表示値決定手段は、前記第1の音信号のレベル平均値を予め定められた閾値Lと比較して前記表示値を決定するものであり、前記第1の音信号のレベル平均値をNAとした場合、NA≧Lのときは前記平均レベル差算出手段が算出した値を前記表示値とし、NA<Lのときは前記平均レベル差算出手段が算出した値を所定値に変換し、前記所定値を前記表示値とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のミキシングバランス表示装置。
【請求項4】
前記表示制御信号生成手段は、前記第1の音信号のレベルと予め定められた閾値Lとを前記フレーム毎に比較して前記表示制御信号を生成するものであり、前記第1の音信号のレベルをNとした場合、N≧Lとなったフレームのうち現フレームに最も近いフレームから所定個数分のフレームにおける前記表示値決定手段からの出力信号を前記ミキシングバランス表示手段に入力させるよう制御するとともに、前記所定個数を超えたときは前記表示値決定手段の出力信号を遮断するよう制御する表示制御信号を生成することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のミキシングバランス表示装置。
【請求項5】
前記ミキシングバランス表示手段は、前記表示制御信号に基づき、前記表示値決定手段が決定した前記表示値を所定数の段階に分類して表示することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のミキシングバランス表示装置。
【請求項6】
第1の音信号と第2の音信号とのミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示装置としてコンピュータを機能させるためのミキシングバランス表示プログラムであって、
前記コンピュータを、前記第1及び前記第2の音信号のレベルを所定時間間隔のフレーム毎に検出するレベル検出手段と、前記第1の音信号と前記第2の音信号とのレベル差を算出するレベル差算出手段と、前記レベル差に対して前記第1の音信号のレベルに応じた重み付けを行って重み付きレベル差を算出する重み付きレベル差算出手段と、現フレームから過去のn個のフレームまでの間において前記重み付きレベル差の値の大きいものから順にm個の値の平均値を算出する平均レベル差算出手段と、現フレームから過去の所定数のフレームまでの間における前記第1の音信号のレベル平均値を算出する第1音信号平均値算出手段と、前記平均レベル差算出手段及び前記第1音信号平均値算出手段の算出結果に基づいて前記第1の音信号と前記第2の音信号とのミキシングバランスの状態を示す表示値を決定する表示値決定手段と、前記第1の音信号のレベルに基づいて前記表示値決定手段の出力を制御する表示制御信号を生成する表示制御信号生成手段と、前記表示制御信号に基づいて前記ミキシングバランスの状態を表示するミキシングバランス表示手段として機能させることを特徴とするミキシングバランス表示プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−124892(P2008−124892A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307960(P2006−307960)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(000114765)ヤマキ電気株式会社 (4)
【Fターム(参考)】