説明

ミクロスフィア充填ポリテトラフルオロエチレン組成物

本発明は、粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと複数のミクロスフィアとを含む組成物であって、複数のミクロスフィアが、約0.9グラム/立方センチメートルより小さい平均比重を示す組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は一般に、充填されたフルオロポリマー組成物に関する。特に、本発明はミクロスフィア充填ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)組成物、およびミクロスフィア充填PTFE組成物から物品を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEは、良好な耐薬品性、低摩擦係数、低誘電率、広い使用温度範囲、および良好な引張強さを示すフルオロポリマーである。従って、PTFEは、シーリング材やガスケット材などの様々な工業的用途での使用に適する。PTFEは、高分子量(例えば、約1.0×106グラム/mol〜約1.0×108グラム/mol)を有し、約342℃の最初の結晶融点を上回る高い融解粘度(約1.0×1011ポアズ)を示す。次の融点(最初の融解・冷却後)は約327℃である。これらの特徴により、PTFEは、一般的に非融解処理され、従来の熱可塑性の処理方法は適用できないとされる。従って、一般的に、PTFEのグレードを規定する、PTFEを処理するための代替技術が必要とされる。
【0003】
ガスケット材としての使用に適したPTFE材料は、通常、微粉末グレードPTFEと粒状グレードPTFEの、2つのグレードがある。微粉末グレードPTFEおよびその誘導体化合物は、特定のガスケット形状から、型打ちや切断可能なシート形状にするために、一般的にペースト押し出し成形技術の使用が求められる。ペースト押し出し成形は、微粉末グレードPTFEを処理するために特定の高価な機器と、揮発性溶媒とを必要とする。さらに、微粉末グレードPTFEは、製造されたシートを圧縮するために、典型的には、更なる処理工程に相当するカレンダ成形が行われる。従って、微粉末グレードPTFEからガスケットおよび他のシーリング材を製造するには、一般的に費用がかかる上、時間を要する。
【0004】
粒状グレードPTFEは、ガスケット材としても使用されうる。しかしながら、粒状グレードPTFEの機械的性質は、一般的に微粉末グレードPTFEの機械的性質よりも劣る。それにも関わらず、粒状グレードPTFEは、大きなビレット、または円柱状塊の圧縮成形および切削により処理することができ、ペースト押し出し成形よりも安価である。その一方、微粉末グレードPTFEは、一般的に圧縮成形によっては処理できず、より高価なペースト押し出し成形処理に限定されている。
【0005】
微粉末グレードPTFEと粒状グレードPTFEは、それぞれ、寸法安定性の低さおよび高い圧縮比などのいくつかの制限がある。これらの要因は、通常、低い収率および物品寿命の短縮をもたらす。充填材料は、通常、寸法安定性の向上および圧縮比の低下のために用いられる。しかしながら、充填材料は、一般的に生産されたガスケットの引張強さを低減させ、それに対応して生産されたガスケットの引裂き力または他のせん断力に対する抵抗性を減じる。従って、良好な寸法安定性、低い圧縮比、良好な引張強さを示し、かつその生産が安価なPTFE組成物に対する必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと複数のミクロスフィアとを含む組成物であって、複数のミクロスフィアが、約0.9グラム/立方センチメートルより小さい平均比重を有する、組成物に関する。
【0007】
本発明はさらに、粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと複数のミクロスフィアとを含む組成物であって、複数のミクロスフィアが、少なくとも約100メガパスカル−立方センチメートル/グラムの対密度平均粉砕強度比(average crush strength-to-density ratio)を示す、組成物に関する。
【0008】
本発明はさらに、物品を形成する方法に関する。本方法は、粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと複数のミクロスフィアとを含む組成物であって、複数のミクロスフィアが、約0.9グラム/立方センチメートルより小さい平均比重を有する、組成物を提供することに関する。本方法はさらに、圧縮組成物を成形するために、組成物を圧縮成形すること、および物品を形成するために圧縮組成物を焼結することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(詳細な説明)
本発明は、粒状グレードPTFEと複数の低密度ミクロスフィアを含む組成物を包含する。組成物は、圧縮鋳造および焼結可能であり、種々の物品の製造に用いることができる。後述するように、本発明の組成物から製造される好適な物品の例には、機械加工部品、シール、ガスケット、管類、バルブ部品、およびポンプ部品が含まれる。製造される物品は、良好な寸法安定性、低い圧縮比、高い圧縮強度、低熱膨張率(COTE)、低密度(すなわち、低比重)を示し、製造が安価である。従って、本発明の組成物は、ガスケット物品の原料としての使用に特に適する。
【0010】
粒状グレードPTFEは、製造された物品が良好な耐薬品性、低摩擦係数、低誘電率、広範な使用温度範囲、および良好な引張強さを示すことを可能にする。「粒状グレードPTFE」という語は、本明細書において、懸濁重合によって形成され、かつ圧縮鋳造可能なPTFEを示す。粒状グレードPTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマーであり得るか、TFEのコポリマーであり得、粒状グレードPTFEの総重量を基準にして他のモノマーの約2.0重量%より少ない。コポリマーは、通常「変性PTFE」あるいは「TFM」と称される[例えば、ダイニオン(DYNEON)社(Dyneon,LLC、オークデール、ミネソタ州(Oakdale, MN))から入手可能な、商業上ダイニオン(DYNEON)TFM(DYNEON TFM)と呼ばれるもの]。コポリマー中、TFEとともに用いられる好適なモノマーの例には、パーフルオロプロピルビニルエーテルが含まれる。
【0011】
粒状グレードPTFEは、まず懸濁重合によって形成されて、大きな平均粒子サイズ(例えば、約800マイクロメートル)を有する凝集粒子を得ることができる。次に、凝集粒子を研磨してサイズを小さくし、粒状グレードPTFEの好適な粒子サイズを得ることができる。粒状グレードPTFEの好適な平均粒子サイズの例は、約5マイクロメートル〜約500マイクロメートルの範囲である。粒状グレードPTFEの特に好適な平均粒子サイズの例は、約10マイクロメートル〜約50マイクロメートルの範囲である。
【0012】
好適な粒状グレードPTFEの例は、粒状の流動性(granular free-flow)PTFE、粒状の半流動性PTFE(granular semi-free flow)、粒状の非流動性(granular non-free-flow)(標準流動)PTFE、それらの誘導体、およびそれらの組み合わせを含む。好適な粒状グレードPTFEの商業的に入手可能な例は、商業上、ダイニオン(DYNEON)TF1620PTFE、ダイニオン(DYNEON)TF1641PTFE、ダイニオン(DYNEON)TF1645PTFE、ダイニオン(DYNEON)TF1750PTFE、ダイニオン(DYNEON)TFM1600PTFE、ダイニオン(DYNEON)TFM1700PTFE、ダイニオン(DYNEON)TFM1705PTFE、ダイニオン(DYNEON)TFMX1630PTFE、ダイニオン(DYNEON)TFR1105PTFE、およびダイニオン(DYNEON)TFR1502PTFEと呼ばれるものが含まれ、これらは、すべてダイニオン(DYNEON)社(オークデール、ミネソタ州)から入手可能である。
【0013】
低密度ミクロスフィアは、粒状グレードPTFEと混合され、本発明の組成物を形成する。低密度ミクロスフィアの好適な材料の例は、ガラス、シリカ、セラミック、それらの誘導体、およびそれらの組み合わせから誘導されるミクロスフィアを含む。低密度ミクロスフィアが低密度であることにより、従来のPTFE物品と比較し同様に密度が低い物品を製造することが可能となる。このことは、特に大型シートおよびビレット(すなわち、円柱状塊)などの製造物品の扱いを容易にする。低密度ミクロスフィアの好適な平均比重の例は、約0.9グラム/立方センチメートル(g/cm3)より低い比重を含む。特に好適な低密度ミクロスフィアの平均比重の例は、約0.1g/cm3〜約0.8g/cm3の範囲である。
【0014】
低密度ミクロスフィアの好適な平均粒子サイズの例は、約10マイクロメートル〜約70マイクロメートルの範囲であり、これは、低密度ミクロスフィアが粒状グレードPTFEとともに高い流動性を示すことを可能とする。後述するように、高い流動性は、本発明の組成物を、実質的に同じ方法で、ほとんど、あるいはまったく凝集がないか、あるいは凝塊なしに、鋳型に充填することを可能とする。
【0015】
低密度ミクロスフィアは、望ましくも良好な破壊抵抗性を示し、本発明の組成物を形成する際の高い残存率を得る。低密度ミクロスフィアの好適な平均粉砕強度の例は、少なくとも約69メガパスカル(MPa)(約10,000ポンド/平方インチ(psi))を含む。低密度ミクロスフィアの特に好適な平均粉砕強度の例は、少なくとも約117MPa(約17,000psi)を含む。本明細書において使用される場合、平均粉砕強度は、低密度ミクロスフィアの試料サイズが10ミリリットルであり、低密度ミクロスフィアがグリセロール20.6グラム中に分散されており、かつデータ整理がコンピュータソフトウェアを用い自動化されている例外があるが、ASTMD3102−72に準拠して測定される。10体積%の低密度ミクロスフィア崩壊時の静水圧の値(すなわち、90%残存)が報告されている。
【0016】
低密度ミクロスフィアは、望ましくも、良好な対密度平均粉砕強度比を示す。このことは、軽量かつ良好な圧縮強度を兼ね備えた製造物品をもたらす。低密度ミクロスフィアの対密度平均粉砕強度比は、低密度ミクロスフィアの平均粉砕強度を低密度ミクロスフィアの平均比重で除することによって計算される:
【数1】

【0017】
前述のとおり、平均比重は、ASTMD792−00に準じて測定され、平均粉砕強度は、先に述べた例外があるが、ASTMD3102−72に準じて測定される。低密度ミクロスフィアの好適な対密度平均粉砕強度比の例は、少なくとも約100MPa−立方センチメートル/グラム(MPa−cm3/g)を含む。低密度ミクロスフィアの好適な対密度平均粉砕強度比の例は、少なくとも約200MPa−cm3/gを含む。ここに列挙される対密度平均粉砕強度比の単位は、明確化を目的として、必要な計算数を減らすために最小のSIユニット単位(SI unit denomination)に変更されない。対密度平均粉砕強度比は、圧/比重の比であるため、実際に使用される単位は、その単位がMPa−cm3/gに類似である限り重要ではない。
【0018】
低密度ミクロスフィアの特に好適な例は、3M株式会社(3M Corporation、セントポール、ミネソタ州(St.Paul, MN))から入手可能な、商業上3Mスコッチライト(SCOTCHLITE)S60ミクロスフィア、および3MスコッチライトS60HSミクロスフィアと呼ばれる、ソーダ石灰−ホウケイ酸塩ガラスミクロスフィアを含む。S60ミクロスフィアは平均比重が約0.6g/cm3、平均粉砕強度が約69MPa(約10,000psi)、および対密度平均粉砕強度比が約115MPa−cm3/gを示す。S60HSミクロスフィアは、平均比重が約0.6g/cm3、平均粉砕強度が約124MPa(約18,000psi)、および対密度平均粉砕強度比が約207MPa−cm3/gを示す。非PTFE材料を伴うS60HSミクロスフィアの使用は、米国特許出願第60/533,320号明細書(代理人整理番号58692US002)、同第60/533,348号明細書(代理人整理番号59490US002)、および同第60/555,215号明細書(代理人整理番号59688US002)に示される。
【0019】
本明細書において示される全ての濃度は、特に言及しない限り重量パーセントとして表される。本発明の組成物中の好適な成分濃度は、本発明の組成物の全成分重量を基準にして、粒状グレードPTFEが約55%〜約99%、低密度ミクロスフィアが約1%〜約45%の範囲である。本発明の組成物中の特に好適な成分濃度は、本発明の組成物の全成分重量を基準にして、粒状グレードPTFEが約70%〜約80%、低密度ミクロスフィアが約20%〜約30%の範囲である。当業者は製造された物品の同等の物性を得るために好適な成分濃度範囲がわかるであろう。
【0020】
本発明の組成物は、個別の必要とされる要求に応じ、更なる材料を、種々の濃度で含むこともできる。例えば、本発明の組成物は、さらに色素、抗酸化剤、UV安定化剤、強化剤、その他の充填物(有機および無機)、およびそれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0021】
本発明の組成物は種々の混合技術により製造されうる。粒状グレードPTFEと低密度ミクロスフィアは、常温・常圧では粒子状物質として存在するため、本発明の組成物の好適な製造方法の例には、二工程混合法が含まれる。第一工程は、低密度ミクロスフィアを粒状グレードPTFEとともに混合し、容器中でそれらを数分間見た目に完全に混合されるまで予備混合することを含む。第二工程は、予備混合した組成物を、その組成物が実質的に均質(すなわち、低密度ミクロスフィアが実質的に粒状グレードPTFEの粒子間に分散される)になるまで、強力ミキサーでさらに混合することを含む。好適な強力ミキサーの例は、アボットストーンスタンピング社(Abbottstown Stamping Company, Inc、アボッツタウン、ペンシルバニア州(Abbottstown, PA))から市販の、商業上ASCトルネード インダストリアル アジテーター(ASC TORNADO industrial agitator)と呼ばれるものを含む。
【0022】
組成物の実質的な均質性は、種々の方法によって判断できる。例えば、混合の程度は、光学顕微鏡で視覚的に検査できる。あるいは、組成物の一部を成形して、物品を形成し得、それらの物品の密度を比較し得る。それらの物品の密度が変動するときは、その組成物は実質的に均質ではない。組成物が実質的に均質でないと判断されれば、引き続き混合工程を使用することができる。組成物が実質的に均質になるまで混合されれば、その組成物は物品を形成するのに使用可能となる。
【0023】
混合過程の間、粒状グレードPTFEと低密度ミクロスフィアは、高レベルのストレスにさらされている。それにもかかわらず、上述の混合過程後、視覚顕微鏡法検査により確認できるように、本発明の組成物の実質的に全ての低密度ミクロスフィアは原型を保っている。低密度ミクロスフィアの高い残存率は、低密度ミクロスフィアが示す高い平均粉砕強度によるものと思われる。このことは、実質的な均質性を得るために、強力な混合条件下で本発明の組成物を混合することを可能にする。
【0024】
流動性粒状PTFEを含む本発明の組成物は、溶媒添加、アグロメレーション、緻密化、溶媒除去および造粒分類(すなわち、大きすぎる粒子や微粒子の除去)などの従来の技術を用いさらに処理されうる。
【0025】
本発明は、前述の組成物から物品を形成する方法も包含する。物品を形成する好適な方法の例は、圧縮成形、焼結、および続く機械加工(例えば、切削)などの、粒状グレードPTFE化合物から物品を形成するあらゆる方法を含む。好適な圧縮成形過程の例は、液圧プレスなどの圧縮鋳型で、実施される寸法に組成物を圧縮することを含む。前述のとおり、小さい粒子サイズの粒状グレードPTFEおよび低密度ミクロスフィアは、高い流動性と圧縮成形系への組成物の均一的充填をもたらす。このことは、製造物品の物性を損なう凝集および凝塊の影響を減じる。圧縮成形の好適な圧は、約13.8メガパスカル(MPa)(約2,000ポンド/平方インチ(psi))〜約82.7MPa(約12,000psi)の範囲である。圧縮圧は、一方向(すなわち、自動圧縮成形)あるいは全側面(すなわち、均衡圧縮成形)にかけることができる。圧縮組成物は、組成物を強固にするために加熱することにより圧縮鋳型に保持される間、組成物の結晶融点を越える温度で焼結することもできる。好適な焼結条件の例は、約370oCの温度で圧縮組成物を加熱することを含む。そして続いて冷却工程に送られうる。また、組成物を焼結物品に処理すると、その物品は審美的に満足な明白色を呈する。
【0026】
本発明の組成物は、処理された組成物を、圧縮鋳型から取り出し、圧縮鋳型なしに焼結用オーブンに入れ加熱できる(すなわち、組成物は圧縮鋳型なしに焼結できる)という意味で、自由焼結可能でもある。自由焼結は、種々の鋳型系により製造されるため、本発明の組成物の多様性が増す。
【0027】
圧縮成形に続く焼結は、最終物品の形成、あるいはその後機械加工される中間物品を形成するために使用されうる。本発明の組成物から形成され得る中間物品の例は、ビレット(すなわち、円柱状塊)を含む。ビレットは、切削され(すなわち、スライスや剥離され)フィルムやシートを形成しうる。本発明の組成物は、寸法安定性がある物品も形成する。従って、従来のPTFE物品とは対照的に、組成物から形成されるビレットは、物品の中心部位において低い縮小率を示す(すなわち、低い縮小勾配あるいは「砂時計」効果がある)。このことは、切削時の高い収率をもたらし、続く機械加工工程の必要なく実質的に所望のサイズに物品を圧縮成形することを可能とする。
【0028】
前述のとおり、本発明の組成物は、種々の物品の形成に用いられうる。製造された物品は組成物が低密度のため軽量である。本発明の一実施形態において、製造された物品は約1.0g/cm3より小さい比重を示し得る。低密度、粒状グレードPTFEによりもたらされる耐候性とともに、種々の過酷な環境条件(例えば、熱および化学的暴露)下で使用される浮揚機器(例えば、ブイ)に好適な物品となりうる。本明細書において使用されるPTFE/ミクロスフィア物品の平均比重は、ASTMD792−00に準じて測定される。
【0029】
粒状グレードPTFEは、低誘電率を示す製造物品とすることもできる。このことは、電線およびケーブルの絶縁層として機能する本発明の組成物から形成される物品とすることもできる。ワイヤーおよびケーブルは、過酷な環境条件にさらされる場合があり、そのような物品は、粒状グレードPTFEの性質の恩恵を受けるであろう。
【0030】
本発明の組成物から形成される物品は、良好な圧縮強度も示す。このことにより本発明の組成物から形成される物品は、高いレベルの圧縮力に耐えうる。このことは、一般的に隣接する対の部品の間に配置され、高い圧縮レベルにさらされうるガスケット材などの物品として、特に好適なものとなる。ASTMD695−02に準ずる好適な圧縮強度の例は、少なくとも約19.3MPA(約2,800psi)を含み、ASTMD695−02に準ずる好適な圧縮係数の例は、少なくとも約300MPA(約44,000psi)を含む。
【0031】
本発明の組成物から形成される物品は、良好な引張強さをも示し、そのような物品は使用における引裂き力や破壊に耐える物品となりうる。ASTMD4745−01に準ずる好適な引張強さの例は、少なくとも約4.1MPa(約600psi)を含む。良好な引張強さは、特に薄膜物品に有用である。例えば、約1.3ミリメートルの厚さに機械加工された本発明の組成物から形成される物品は、少なくとも約2.4MPa(約350psi)の引張強さを示す。このように本発明の組成物は、耐久性がある薄膜物品として利用でき、種々の工業的用途に利用できる。
【0032】
(特性分析および特性決定法)
本発明の組成物の製造および特性決定に種々の技術が利用できる。それらの技術のうちのいくつかはここに使用される。これらの技術の説明を以下に示す。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例中でさらに具体的に記載するが、本発明の範囲内の多くの改良および変形は当業者に明白であるので、それらはあくまでも例示であることを意味する。特に断りのない限り、下記実施例において記載される全ての部、パーセンテージ、および比は、重量あたりであり、実施例中で用いられる全ての試薬は、以下に示される化学物品供給業者から得たか、入手可能であり、あるいは、従来技術により合成できる。
【0034】
下記実施例において以下の組成物の略語が用いられる。
「TF1750」:商業上ダイニオン(DYNEON)TF1750PTFEと呼ばれる、ダイニオン(DYNEON)社(オークデール、ミネソタ州)から市販の粒状グレードPTFE。
「TF1620」:商業上ダイニオン(DYNEON)TF1620PTFEと呼ばれる、ダイニオン(DYNEON)社(オークデール、ミネソタ州)から市販の粒状グレードPTFE。
「TFM1700」:商業上ダイニオン(DYNEON)TFM1700PTFEと呼ばれる、ダイニオン(DYNEON)社(オークデール、ミネソタ州)から市販の粒状グレードPTFE。
「S60ミクロスフィア」:商業上3MスコッチライトS60ミクロスフィアと呼ばれる、3Mカンパニー(3M Company、セントポール、ミネソタ州)から市販のソーダ石灰−ホウケイ酸塩ガラスミクロスフィア。
「S60HSミクロスフィア」:商業的に3MスコッチライトS60HSミクロスフィアと呼ばれる、3Mカンパニー(セントポール、ミネソタ州)から市販のソーダ石灰−ホウケイ酸塩ガラスミクロスフィア。
「トップケム2000(Top−Chem−2000)」:商業上クリンガー(KLINGER)トップケム2000ガスケット材と呼ばれる、サーモシール社(Thermoseal, Inc.、シドニー、オハイオ州(Sydney, OH))から市販のPTFEガスケット材。
「シグマ500(Sigma 500)」:商業上シグマ500ガスケット材と呼ばれる、フレキシタリックグループ社(Flexitallic Group Inc.、ヒューストン、テキサス州(Houston, TX))から市販のPTFEガスケット材。
「ダーロン9000(Durlon9000)」:商業上ダーロン9000ガスケット材と呼ばれる、ガスケットリソース社(Gasket Resources, Inc.、エクストン、ペンシルバニア州(Exton, PA))から市販のPTFEガスケット材。
「シーロン(Sealon)」:商業上シーロンガスケット材と呼ばれる、アメラフレックス ルバー&ガスケット社(Ameraflex Rubber & Gasket Co.,Inc、ディアパーク、テキサス(Deer Park, TX))から市販のPTFEガスケット材。
「ティーロン1580(Tealon1580)」:商業上ティーロン1580ガスケット材と呼ばれる、テディット ノースアメリカ社(Teadit North America,Inc.、ヒューストン、テキサス州)から市販のPTFEガスケット材。
「ティーロン1590」:商業上ティーロン1590ガスケット材と呼ばれる、テディット ノースアメリカ インク(ヒューストン、テキサス州)から市販のPTFEガスケット材。
「ヴァーグPTFE(Virg.PTFE)」:商業上ヴァーグPTFE材と呼ばれる、ケムプラストUSA(Chemplast USA、フォートウェイン、インディアナ州(Fort Wayne, IN))から市販のPTFEガスケット材。
【0035】
(実施例1〜6)
実施例1〜6は、表1に示される粒状グレードPTFE(例えば、TF1750およびTFM1700)および低密度ミクロスフィア(例えば、S60HSミクロスフィア)の組成濃度(重量%)を有する本発明の組成物である。物品を、種々の圧縮圧以外は後述の特定のASTMに準じ組成物を圧縮成形および焼結することによって形成した。表1は、実施例1〜6の組成物を圧縮鋳型に使用するための圧縮圧も示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1〜6の組成物から形成された物品の引張強さ、張力係数、および/または引張り伸びを定量的に測定した。表2は、実施例1、2、および4〜6の組成物から形成された物品のASTMD4745−01に準じ試験した引張強さを示す。表3は、実施例3〜6の組成物から形成された物品のASTMD4745−01に準じて試験した張力係数を示す。表4は実施例1〜6の組成物から形成された物品について、ASTMD4745−01に準じて試験した引張り伸びを示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2〜4において示されるデータは、本発明の組成物から形成された物品が、良好な引張強さ、張力係数、および引張り伸びを有することを明らかにする。良好な引張強さと良好な引張り伸びの組み合わせは、本物品が丈夫で種々の工業的用途に利用できることを示す。特に、実施例6の組成物により形成された物品は、引張強さが6.89MPa、張力係数が228MPa、かつ100%の引張り伸びを示した。これは、部分的には、良好な物性を示すTFM1700を用いたことによるものと思われる。
【0040】
実施例1〜6の組成物から形成された物品の比重、硬度、および縮小率を定量的に測定した。表5は、実施例1〜6の組成物から形成された物品の比重(D792−00に準じて試験)、初期および15秒硬度(D2240−04に準じて試験)、および縮小率(D4894−04に準じて試験)を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表5のデータは本発明の組成物の密度が低いことを示す。示されるように、物品の密度はその圧縮圧に比例し、それは部分的には物品の圧縮成形時に生じる圧縮のレベルにより生じるものである(すなわち、圧縮圧が高ければ、一般的によりコンパクトな物品になる)。密度も低密度ミクロスフィアの濃度に反比例する。高濃度の低密度ミクロスフィアは、対応する物品も同様に低密度となる。
【0043】
表5のデータは本物品が良好な硬度と低い縮小率を有することを示す。低い縮小率は、本発明の組成物から形成された物品が圧縮成形時に所望の寸法を実質的に保持することを可能にする。
【0044】
実施例4および6の組成物から形成された物品の圧縮係数および圧縮強度を定量的に測定した。表6は、実施例4および6の組成物から形成された物品について、ASTM D695−02に準じて試験した圧縮係数および圧縮強度を示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表6のデータは、実施例4および6の組成物から形成された物品の良好な圧縮係数と圧縮強度を示す。従って、本発明の組成物は、シーリング材およびガスケット材などの種々の用途に好適である。実施例6の組成物により形成された物品は、前述の良好な張力的性質に加え、高い圧縮係数と圧縮強度も示す。
【0047】
実施例4および6の組成物について、25℃、大気圧でのねじり変形に対する抵抗性も試験した。表7に示された厚みと原寸法を有するガスケットサンプルを、実施例4および6ならびに比較例A〜Gの組成物について形成した。ガスケットは、1−1/2 ANSI クラス150フランジ中に導入され、4段階でトルクをかけた。1番目、2番目、および3番目の段階は、それぞれ25フットポンド、52フットポンド、および76フットポンドのねじり圧をかけた。つぎにガスケットを3時間フランジに残し、76フットポンドに再度達するまで4番目の段階のねじり圧をかけた。このガスケットを1時間フリンジ中に置いたあと、フランジから取り出し、ねじり寸法を測定した。表7は、実施例4〜6および比較例A〜Gの組成物から形成されたガスケットのサンプル厚、原寸法(内径×外径)、ねじり寸法(内径×外径)、および原寸法とねじり寸法間の変化の割合を示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表8のデータは、本発明の組成物から形成された物品が、ねじり負荷に対する良好な抵抗性を有することを示す。実施例4および6の組成物のガスケットは、それぞれ、内径の変化の割合がわずか4.2%および外径の変化の割合がわずか3.4%であったことを示した。比較例Aのガスケットのみ、ねじりに対しより良い結果を示した。しかしながら、比較例Aは、微粉末グレードPTFEを用いるトップケム2000である。前述のとおり、微粉末グレードPTFEは、物品を形成するために高価な押し出し成形処理系が必要である。一方、本発明の組成物の粒状グレードPTFEは、より安価な圧縮成形および焼結を用いることができる。
【0050】
実施例4および6の組成物から形成された物品の熱膨張率(COTE)を定量的に測定した。表8は、実施例4および6ならびに比較例AおよびC〜Fの組成物から形成された物品について、ASTME831−03に準じて試験したCOTEを示す。
【0051】
【表6】

【0052】
表8のデータは、本発明の組成物から形成される物品が、低いCOTEを有することを示す。このことは、高温条件においても目立った変形が生じることなく物品を使用できることを可能とする。これは、同様に使用時中の物品の製品寿命も向上させる。比較例Aのガスケットのみ、より良いCOTEの結果を示した。しかしながら、前述のとおり、比較例Aは、製品の製造に高価な押し出し成形処理系を必要とする微粉末グレードPTFEを使用するトップケム2000である。一方、本発明の組成物の粒状グレードPTFEは、より安価な圧縮成形および焼結を用いることができる。
【0053】
(実施例7〜10)
実施例7〜10は、表9に示される粒状グレードPTFE(例えば、TF 1620)および低密度ミクロスフィア(例えば、S60HSおよびS60ミクロスフィア)の組成濃度(重量パーセント)を有する本発明の組成物である。圧縮圧が10MPa(1450psi)であった以外は、後述の特定のASTMに準じて、組成物を圧縮成形および焼結することにより物品を形成した。
【0054】
【表7】

【0055】
実施例7〜10の組成物から形成された物品の比重、縮小率、引張強さ、引張り伸び、および硬度を定量的に測定した。表10は、実施例7〜10の組成物から形成された物品の比重(D792−00に準じて試験)、縮小率(D4894−04に準じて試験)、引張強さおよび伸び率(ASTM D4745−01に準じて試験)、ならびに硬度(D2240−04に準じて試験)を示す。
【0056】
【表8】

【0057】
表10のデータは、さらに本発明の組成物から形成された物品の良好な物性を示す。特に、実施例7および8(90%TF1620)の組成物から形成された物品は、高い引張強さと引張り伸びを示した。
【0058】
好ましい実施形態を示すことにより本発明の詳細を説明したが、当業者は本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、形態および詳細を変更しうることを認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと、
複数のミクロスフィアと、を含む組成物であって、
前記複数のミクロスフィアが、約0.9グラム/立方センチメートルより小さい平均比重を有する、組成物。
【請求項2】
前記粒状グレードポリテトラフルオロエチレンが、約5マイクロメートル〜約500マイクロメートルの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記粒状グレードポリテトラフルオロエチレンが、約10マイクロメートル〜約50マイクロメートルの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記複数のミクロスフィアが、前記組成物の総重量を基準にして該組成物の約1重量%〜約45重量%を構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記複数のミクロスフィアが、前記組成物の総重量を基準にして該組成物の約20重量%〜約30重量%を構成する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記複数のミクロスフィアが、約10マイクロメートル〜約70マイクロメートルの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約69メガパスカルの平均粉砕強度を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約117メガパスカルの平均粉砕強度を示す、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約100メガパスカル−立方センチメートル/グラムの対密度平均粉砕強度比を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約200メガパスカル−立方センチメートル/グラムの対密度平均粉砕強度比を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、圧縮鋳造可能であるか、焼結可能であるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
複数のミクロスフィアが、ガラスミクロスフィアを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと、
複数のミクロスフィアと、を含む組成物であって、
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約100メガパスカル−立方センチメートル/グラムの対密度平均粉砕強度比を示す、組成物。
【請求項14】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約200メガパスカル−立方センチメートル/グラムの対密度平均粉砕強度比を示す、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記複数のミクロスフィアが、前記組成物の総重量を基準にして該組成物の約1重量%〜約45重量%を構成する、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記複数のミクロスフィアが、前記組成物の総重量を基準にして該組成物の約20重量%〜約30重量%を構成する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、圧縮鋳造可能であるか、焼結可能であるか、またはそれらの組み合わせである、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
前記複数のミクロスフィアが、ガラスミクロスフィアを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
粒状グレードポリテトラフルオロエチレンと複数のミクロスフィアとを含む組成物であって、前記複数のミクロスフィアが、約0.9グラム/立方センチメートルより小さい平均比重を有する、前記組成物を調製することと、
前記組成物を圧縮成形して、圧縮組成物を形成することと、
前記圧縮組成物を焼結して、物品を形成することと、
を含む、物品の形成方法。
【請求項20】
前記複数のミクロスフィアが、少なくとも約69メガパスカルの平均粉砕強度を示す、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記焼結が、自由焼結を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記物品が、約1.0グラム/立方センチメートルより小さい比重を示す、請求項19に記載の方法により形成される物品。
【請求項23】
前記物品をASTMD695−02に準じて試験したとき、前記物品が、少なくとも約19.3メガパスカルの圧縮強度を示す、請求項19に記載の方法により形成された物品。
【請求項24】
前記物品をASTMD4745−01に準じて試験したとき、前記物品が、少なくとも約4.1メガパスカルの引張強さを示す、請求項19に記載の方法により形成された物品。

【公表番号】特表2008−525622(P2008−525622A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549455(P2007−549455)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045861
【国際公開番号】WO2006/071599
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】