説明

ミシンの上糸交換装置

【課題】糸交換時間を短縮して生産性を高めることができるミシンの上糸交換装置を提供する。
【解決手段】本上糸交換装置4は、複数の上糸7a,10aが挿通され該複数の上糸の張力を調節可能な上糸調節器2と、前記上糸調節器と針穴17との間の上糸経路に配置され、前記複数の上糸のうちの少なくとも1本の上糸を選択的に解放し且つ他の上糸をロックする上糸選択機構3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの上糸交換装置に関し、さらに詳しくは、糸交換時間を短縮して生産性を高めることができるミシンの上糸交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンとして、例えば、図11及び図12に示すように、1本の上糸107aが挿通されこの上糸107aの張力を調節する上糸調節器102を備えるものが一般に知られている。このミシン101では、芯巻き部107から繰り出される上糸107a(例えば、ブラウン色の上糸)が上糸調整器102、天秤115、糸ガイド116及び針穴117の順に通されており、芯巻き部110から繰り出される交換用の上糸110a(例えば、ブラック色の上糸)の端部が上糸調節器102の手前で磁石112等により仮止めされている。
【0003】
上記従来のミシンの上糸交換方法として、例えば、上糸調節器102の手前(上流側)で上糸調節器102に挿通される旧糸107aを切断し、次に、その旧糸107aの切断部と新糸110aの端部とを結び、次いで、結んだ糸を上糸調節器102、天秤115及び糸ガイド116に通し、その後、針穴117の手前で結び目を切断し、次に、その新糸110aの切断部を針穴117に通して糸交換を終了することが知られている。なお、特許文献1には、旧糸と新糸とを結ぶ際に、作業者の手によらず糸つなぎ装置により自動的に結ぶ方法が開示されている。
【0004】
しかし、上記従来のミシンの上糸交換方法では、上糸調節器102の手前で旧糸107aと新糸110aとを結び、その結んだ糸を上糸調節器102に通し、針穴117の手前で結んだ糸を切断する作業が必要となるため糸交換に時間がかかり生産性が低いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−230477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、糸交換時間を短縮して生産性を高めることができるミシンの上糸交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
1.複数の上糸が挿通され該複数の上糸の張力を調節可能な上糸調節器と、
前記上糸調節器と針穴との間の上糸経路に配置され、前記複数の上糸のうちの少なくとも1本の上糸を選択的に解放し且つ他の上糸をロックする上糸選択機構と、を備えることを特徴とするミシンの上糸交換装置。
2.前記上糸選択機構は、前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第1糸通過孔が形成された第1部材と、該第1部材と相対移動可能であり且つ前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第2糸通過孔が形成された第2部材と、を有し、該第1部材及び該第2部材の相対移動によって、前記複数の第1糸通過孔及び第2糸通過孔のうちの少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重なり、且つ、他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重ならず、該他の対となる第1上糸通過孔及び第2上糸通過孔を通る上糸を該第1部材及び該第2部材の間でロックする上記1.記載のミシンの上糸交換装置。
3.前記第1部材は外側パイプであり、前記第2部材は、該外側パイプ内を軸方向にスライド可能な内側ロッドであり、該外側パイプには軸方向に沿って前記複数の第1糸通過孔が形成されており、該内側ロッドには軸方向に沿って前記複数の第2糸通過孔が形成されている上記2.記載のミシンの上糸交換装置。
4.前記内側ロッドは、前記外側パイプの内周面との間で前記上糸を挟持する外周面を有する大径部と、該大径部の軸方向の両端側に連なり前記第2糸通過孔が形成された小径部と、を有する上記3.記載のミシンの上糸交換装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のミシンの上糸交換装置によると、複数の上糸が上糸調節器に挿通され、上糸選択機構によって、複数の上糸のうちの少なくとも1本の上糸が選択的に解放され且つ他の上糸がロックされる。このように、上糸調節器の下流側で、上糸調節器から繰り出される複数の上糸のうちの所望の上糸を選択的に解放し、且つ、他の選択されない上糸をロックすることができるため、従来のように新糸を上糸調節器に通すために旧糸に結んだり、上糸調節器を通したり、針穴の手前で結び目を切断したりする必要がない。そのため、糸交換時間を短縮して生産性を高めることができる。
また、前記上糸選択機構が、前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第1糸通過孔が形成された第1部材と、該第1部材と相対移動可能であり且つ前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第2糸通過孔が形成された第2部材と、を有し、該第1部材及び該第2部材の相対移動によって、前記複数の第1糸通過孔及び第2糸通過孔のうちの少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重なり、且つ、他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重ならず、該他の対となる第1上糸通過孔及び第2上糸通過孔を通る上糸を該第1部材及び該第2部材の間でロックする場合は、互いに重ねられる少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔を通る上糸が解放され、且つ、互いに重ねられない他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔を通る上糸が第1部材及び第2部材の間でロックされる。これにより、上糸交換装置を簡易且つ安価な構造とすることができる。
また、前記第1部材が外側パイプであり、前記第2部材が、該外側パイプ内を軸方向にスライド可能な内側ロッドであり、該外側パイプには軸方向に沿って前記複数の第1糸通過孔が形成されており、該内側ロッドには軸方向に沿って前記複数の第2糸通過孔が形成されている場合は、外側パイプ及び内側ロッドの相対的なスライド移動によって、互いに重ねられた少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔を通る上糸が解放され、且つ、互いに重ねられない他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔を通る上糸が外側パイプ及び内側ロッドの間でロックされる。このロックされた上糸は、外側パイプ内で折返し状に収容されるため、その切断端が針穴から十分に遠ざけられ、解放された上糸を用いる縫製作業の妨げになることを防止できる。
さらに、前記内側ロッドが、前記外側パイプの内周面との間で前記上糸を挟持する外周面を有する大径部と、該大径部の軸方向の両端側に連なり前記第2糸通過孔が形成された小径部と、を有する場合は、外側パイプ及び内側ロッドによる上糸の挟持部位を必要最小限の長さとすることができ、上糸の挟持による損傷等を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】実施例に係るミシンの全体を示す正面図である。
【図2】実施例に係る上糸調節器の正面図である。
【図3】上記上糸調節器の組付状態を示す斜視図である。
【図4】上記上糸調節器の分解状態を示す斜視図である。
【図5】実施例に係る上糸選択機構の第1糸解放状態を示す縦断面図である。
【図6】上記上糸選択機構の第2糸開放状態を示す縦断面図である。
【図7】上記上糸選択機構の組付状態を示す斜視図である。
【図8】上記上糸選択機構の分解状態を示す斜視図である。
【図9】その他の形態の上糸選択機構を説明するための説明図である。
【図10】更にその他の形態の上糸選択機構を説明するための説明図である。
【図11】従来のミシンの糸交換方法を説明するための説明図である。
【図12】図11の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
1.ミシンの上糸交換装置
本実施形態1.に係るミシンの上糸交換装置は、以下に述べる上糸調節器及び上糸選択機構を備える。
【0012】
上記「上糸調節器」は、複数の上糸が挿通されこれら複数の上糸の張力を調節可能である限り、その構成、張力調節形態、設置形態等は特に問わない。この上糸調節器の下流側には、例えば、上糸調節器から繰り出される上糸が通される天秤及び糸ガイドが順次設けられていることができる。
【0013】
上記「上糸選択機構」は、上糸調節器と針穴との間の上糸経路に配置され、複数の上糸のうちの少なくとも1本の上糸を選択的に解放し且つ他の上糸をロックする限り、その構成、選択形態、設置形態等は特に問わない。この上糸選択機構は、例えば、上記糸ガイドと針穴との間の上糸経路に配置されていることができる。これにより、上糸調節器に加えて天秤及び糸ガイドにも上糸を通す作業を必要とせず上糸交換することができ、さらなる時間短縮を図ることができる。なお、上記「選択的」とは、複数の上糸から任意の1又は2以上の上糸を選択することを意図する。また、上記「他の上糸」とは、複数の上糸のうちの選択的に解放された上糸以外の上糸を意図する。
【0014】
本実施形態1.に係るミシンの上糸交換装置としては、例えば、上記上糸選択機構は、複数の上糸のそれぞれを通す複数の第1糸通過孔が形成された第1部材と、この第1部材と相対移動可能であり且つ複数の上糸のそれぞれを通す複数の第2糸通過孔が形成された第2部材と、を有し、これら第1部材及び第2部材の相対移動によって、複数の第1糸通過孔及び第2糸通過孔のうちの少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重なり、且つ、他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重ならず、この他の対となる第1上糸通過孔及び第2上糸通過孔を通る上糸を第1部材及び第2部材の間でロックする形態を挙げることができる。これら複数の第1糸通過孔及び第2糸通過孔は、通常、それぞれの1本ずつが対となるように同数設けられている。また、これら第1及び第2部材の移動形態としては例えば、スライド移動、回転移動、旋回移動等のうちの1種又は2種以上の組み合わせを挙げることができる。なお、上記「対となる」とは、同じ上糸を通す第1糸通過孔及び第2糸通過孔を意図する。
【0015】
上述の形態の場合、例えば、上記第1部材は外側パイプであり、上記第2部材は、外側パイプ内を軸方向にスライド可能な内側ロッドであり、外側パイプには軸方向に沿って複数の第1糸通過孔が形成されており、内側ロッドには軸方向に沿って複数の第2糸通過孔が形成されていることができる。これら第1糸通過孔は、通常、外側パイプの上下面側に貫通して設けられている。また、上記複数の第1糸通過孔のうちの隣接する2つの第1糸通過孔の軸方向の離間間隔(L1)は、例えば、上記複数の第2糸通過孔のうちの隣接する2つの第2糸通過孔の軸方向の離間間隔(L2)より小さい値とされていることができる(例えば、図5参照)。これにより、外側パイプ内で折返し状に収容される上糸をより長くすることができ、縫製作業の妨げになることをより確実に防止できる。上記離間間隔(L1)は、例えば、15〜25mm(好ましくは18〜20mm)であることができる。また、上記離間間隔(L2)は、例えば、65〜75mmであることができる。さらに、上記離間間隔(L1)と離間間隔(L2)との比(L1/L2)は、例えば0.23〜0.33であることができる。
【0016】
上記内側ロッドは、例えば、外側パイプの内周面との間で上糸を挟持する外周面を有する大径部と、この大径部の軸方向の両端側に連なり第2糸通過孔が形成された小径部とを有することができる。この大径部は、例えば、外側パイプの第1糸通過孔を塞ぎ得る大きさに形成されていることができる。
【実施例】
【0017】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0018】
(1)上糸交換装置の構成
本実施例に係るミシン1は、図1に示すように、上糸調節器2及び上糸選択機構3を有する糸交換装置4を備えている。また、ミシン1の縫製テーブル6の下方側には、所定の上糸7a,8a(例えば、ブラウン色の上糸)を芯巻きしてなる一対の芯巻き部7,8と、他の所定(例えば、ブラック色の上糸)の上糸10a,11aを芯巻きしてなる一対の芯巻き部10,11とが隣接するようにミシン1の左右方向に沿って並設されている。一対の芯巻き部7,8のうちの一方の芯巻き部7から繰り出される上糸7aは、糸通しパイプ13、上糸調節器2、天秤15、糸ガイド16、上糸選択機構3及び針穴17の順に通されている。この一方の芯巻き部7の上糸7aの糸終わりは他方の芯巻き部8の上糸8aの糸始まりに結ばれている。また、一対の芯巻き部10,11のうちの一方の芯巻き部10から繰り出される上糸10aは、糸通しパイプ14、上糸調節器3、天秤15、糸ガイド16及び上糸選択機構3の順に通されている。この一方の芯巻き部10の上糸10aの糸終わりは他方の芯巻き部11の上糸11aの糸始まりに結ばれている。
【0019】
上記上糸調節器2は、取付板20によりミシンアーム1aの前面側に取り付けられている(図1参照)。この上糸調節器2は、図2〜図4に示すように、上糸7aが挿通され上糸7aの張力を調節するための調節部21aと、上糸10aが挿通され上糸10aの張力を調節するための調節部21bとを有している。これら各調節部21a,21bは、糸切り後の上糸7a,10aの残りの長さを調節するプリテンショナ22a,22bと、縫目形成に必要な張力を付与したり、上糸繰出し量を調節したりする上糸保持器23a,23bと、上糸繰り出し量を調節する糸取りバネ24と、糸取りバネ24を支持する支持板25a,25bと、を有している。
【0020】
上記上糸選択機構3は、糸ガイド16と針穴17との間の上糸経路に配置されている(図1参照)。この上糸選択機構3は、図5〜図8に示すように、ミシンアーム1aの前面側に取り付けられる外径約14mmで且つ内径約8mmの円筒状の外側パイプ27と、この外側パイプ27内を軸方向にスライド可能な内側ロッド28とを有している。この内側ロッド28は、外側パイプ27の内周面との間で上糸7a,10aを挟持する外周面を有する大径部29と、この大径部29の軸方向の両端側に連なり後述の第2糸通過孔が形成された小径部30a,30bとを有している。この大径部29は、その外径が約7.5mmとされ、その軸方向長さが約11mmとされており、この大径部29によって後述の第1糸通過孔が塞がれるようになっている。また、各小径部30a,30bの外径は約6.5mmとされている。また、一方の小径部30bの一端側には操作レバー33を取り付けるための大径部31が設けられている。この操作レバー33は、外側パイプ27の外周側に形成された軸方向に延びる長孔32を介して内側ロッド28の大径31部に取り付けられる(図7及び図8参照)。
【0021】
また、上記外側パイプ27には軸方向に離間して2つの第1糸通過孔34,35が形成されている。これら第1糸通過孔34,35は、外側パイプ27の上下面側に貫通して設けられている。一方の第1糸通過孔34には上糸7aが通され、他方の第1糸通過孔35には上糸10aが通される。これら各第1糸通過孔34,35の軸方向の離間間隔L1は約20mmとされている(図5参照)。また、上記内側ロッド28には軸方向に離間して2つの第2糸通過孔37,38が形成されている。一方の第2糸通過孔37には上糸7aが通され、他方の第2糸通過孔38には上糸10aが通される。これら各第2糸通過孔37,38の軸方向の離間間隔L2は約65mmとされている(図5参照)。したがって、第1糸通過孔34,35の離間間隔L1と第2糸通過孔37,38の離間間隔L2との比(L1/L2)は約0.31とされている。また、各第1糸通過孔34,35の孔径は約7mmとされ、各第2糸通過孔37,38の孔径は約6mmとされている。そして、この上糸選択機構3では、操作レバー33を操作して外側パイプ27に対して内側ロッド28をスライド移動させることによって、上糸7aを解放し且つ上糸10aをロックする第1糸解放状態P(図5参照)と、上糸7aをロックし且つ上糸10aを解放する第2糸解放状態Q(図6参照)とを選択できるようになっている。
【0022】
(2)上糸交換装置の作用
次に、上記構成の上糸交換装置4の作用について説明する。上記操作レバー33の操作により外側パイプ27に対して内側ロッド28をスライド移動させて上糸選択機構3を第1糸解放状態Pとすると、図5に示すように、一対の第1糸通過孔34及び第2糸通過孔37が重なり、これら第1及び第2糸通過孔34,37を通る上糸7aは上下方向に移動可能とされ解放される。また、一対の第1糸通過孔35及び第2糸通過孔38が重ならず、第1糸通過孔35が内側ロッド28の大径部29により閉鎖される。また、これら第1及び第2糸通孔35,38を通る上糸10aは、外側パイプ27の内周面と内側ロッド28の大径部29の外周面との間で折返し状に挟持されロックされる。さらに、この上糸10aのロックにより外側パイプ27に対する内側ロッド28のスライド移動が規制される。
【0023】
一方、上記操作レバー33の操作により外側パイプ27に対して内側ロッド28をスライド移動させて上糸選択機構3を第2糸解放状態Qとすると、図6に示すように、一対の第1糸通過孔35及び第2糸通過孔38が重なり、これら第1及び第2糸通過孔35,38を通る上糸10aは上下方向に移動可能とされ解放される。また、一対の第1糸通過孔34及び第2糸通過孔37が重ならず、第1糸通過孔34が内側ロッド28の大径部29により閉鎖される。また、これら第1及び第2糸通孔34,37を通る上糸7aは、外側パイプ27の内周面と内側ロッド28の大径部29の外周面との間で折返し状に挟持されロックされる。さらに、この上糸7aのロックにより外側パイプ27に対する内側ロッド28のスライド移動が規制される。
【0024】
次に、上記上糸交換装置4を用いて、使用中の上糸7a(旧糸)を使用予定の上糸10a(新糸)に交換する作業について説明する。先ず、公知の自動糸切断装置(図示省略)により上糸7aを針穴17近辺で切断する。次に、操作レバー33の操作により外側パイプ27に対して内側ロッド28をスライド移動させて上糸選択機構3を第1糸解放状態Pから第2糸解放状態Qに変更する。すると、切断された上糸7aは外側パイプ27内に収納されるとともにロックされる。一方、上糸10aはロックが解除されて上下移動可能となるとともに、外側パイプ27内に収納されていた部分が引き出され、上糸10aの先端部が針穴17近辺に位置する。その後、上糸10aの先端を針穴17に通して一連の上糸交換作業が終了する。
【0025】
(3)実施例の効果
以上より、本実施例の上糸交換装置4によると、2本の上糸が上糸調節器2に挿通され、上糸選択機構3によって、一方の上糸7aが解放され且つ他方の上糸10aがロックされる第1糸解放状態Pと、一方の上糸7aがロックされ且つ他方の上糸10aが解放される第2糸解放状態Qとを選択できるようにしたので、従来のように新糸を上糸調節器に通すために旧糸に結んだり、上糸調節器を通したり、針穴の手前で結び目を切断したりする必要がない。そのため、糸交換時間を短縮して生産性を高めることができる。特に、本実施例では、上糸選択機構3を糸ガイド16と針穴17との間の上糸経路に配置したので、上糸調節器2に加えて天秤15及び糸ガイド16にも上糸7a,10aを通す作業を必要とせず上糸交換することができ、さらなる時間短縮を図ることができる。
【0026】
また、本実施例では、上糸選択機構3を、その軸方向に離間して2つの第1糸通過孔34,35が形成された外側パイプ27と、この外側パイプ27内を軸方向にスライド可能であり且つその軸方向に離間して2つの第2糸通過孔37,38が形成された内側ロッド28とを有して構成したので、上糸交換装置4を簡易且つ安価な構造とすることができる。また、第1糸解放状態P及び第2糸解放状態Qのそれぞれにおいて、外側パイプ27と内側ロッド28の大径部29との間でロックされる上糸7a,10aは、外側パイプ27内で折返し状に収納されるので、その切断端が針穴17から十分に遠ざけられ、解放された上糸を用いる縫製作業の妨げになることを防止できる。特に、本実施例では、第1糸通過孔34,35の離間間隔L1を約20mmとし、第2糸通過孔37,38の離間間隔L2を約65mmとし、両者の比(L1/L2)を0.31としたので、外側パイプ27内に折返し状に収容される上糸7a,10aをより長くすることができ、縫製作業の妨げになることをより確実に防止できる。
【0027】
さらに、本実施例では、内側ロッド28を、外側パイプ27の内周面との間で上糸を挟持する外周面を有する大径部29と、この大径部29の軸方向の両端側に連なり第2糸通過孔37,38が形成された小径部30a,30bと、を有して構成したので、外側パイプ27及び内側ロッド28による上糸7a,10aの挟持部位を必要最小限の長さとすることができ、上糸7a,10aの挟持による損傷等を抑制することができる。
【0028】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、外側パイプ27に対する内側ロッド28のスライド移動によって、外側パイプ27と内側ロッド28との間で上糸7a,10aを解放及びロックするようにしたが、これに限定されず、例えば、駆動源(例えば、モータ、シリンダ等)で駆動されるクランプ装置により上糸7a,10aの解放及びロックするようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施例では、外側パイプ27内に内側ロッド28をスライド自在に支持して上糸選択機構3を構成したが、これに限定されず、例えば、図9に示すように、第1糸通過孔34,35が形成されたベース部材40と、このベース部材40の表面側にスライド自在に支持され且つ第2糸通過孔37,38が形成されたスライド部材41と、を有する上糸選択機構3’としたり、例えば、図10に示すように、第1糸通過孔34,35が形成されたベース部材43と、このベース部材43に垂直軸回りに回転自在に支持され且つ第2糸通過孔37,38が形成された回転部材44と、を有する上糸選択機構3"としたりしてもよい。
【0030】
また、上記実施例では、外側パイプ27をミシンアーム1aの前面側に固定し、外側パイプ27に対して内側ロッド28をスライド移動させるようにしたが、これに限定されず、例えば、内側ロッド28をミシンアーム1aの前面側に固定し、内側ロード28に対して外側パイプ27をスライド移動させるようにしてもよい。
【0031】
さらに、上記実施例では、2本の上糸7a,10aが挿通される上糸調節器2を例示したが、これに限定されず、例えば、3本以上の上糸が挿通される上糸調節器としてもよい。この場合、上糸選択機構としては、3本以上の上糸のうちの1本の上糸を解放し且つ他の2本以上の上糸をロックするものを採用したり、3本以上の上糸のうちの2本以上の上糸を解放し且つ他の1本又は2本以上の上糸をロックするものを採用したりすることができる。
【0032】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0033】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
ミシンの上糸を交換する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0035】
1;ミシン、2;上糸調節器、3,3’,3";上糸選択機構、4;上糸交換装置、7a,10a;上糸、17;針穴、27;外側パイプ、28;内側ロッド、29;大径部、30a,30b;小径部、34,35;第1糸通過孔、37,38;第2糸通過孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の上糸が挿通され該複数の上糸の張力を調節可能な上糸調節器と、
前記上糸調節器と針穴との間の上糸経路に配置され、前記複数の上糸のうちの少なくとも1本の上糸を選択的に解放し且つ他の上糸をロックする上糸選択機構と、を備えることを特徴とするミシンの上糸交換装置。
【請求項2】
前記上糸選択機構は、前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第1糸通過孔が形成された第1部材と、該第1部材と相対移動可能であり且つ前記複数の上糸のそれぞれを通す複数の第2糸通過孔が形成された第2部材と、を有し、該第1部材及び該第2部材の相対移動によって、前記複数の第1糸通過孔及び第2糸通過孔のうちの少なくとも1つの対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重なり、且つ、他の対となる第1糸通過孔及び第2糸通過孔が重ならず、該他の対となる第1上糸通過孔及び第2上糸通過孔を通る上糸を該第1部材及び該第2部材の間でロックする請求項1記載のミシンの上糸交換装置。
【請求項3】
前記第1部材は外側パイプであり、前記第2部材は、該外側パイプ内を軸方向にスライド可能な内側ロッドであり、該外側パイプには軸方向に沿って前記複数の第1糸通過孔が形成されており、該内側ロッドには軸方向に沿って前記複数の第2糸通過孔が形成されている請求項2記載のミシンの上糸交換装置。
【請求項4】
前記内側ロッドは、前記外側パイプの内周面との間で前記上糸を挟持する外周面を有する大径部と、該大径部の軸方向の両端側に連なり前記第2糸通過孔が形成された小径部と、を有する請求項3記載のミシンの上糸交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−259726(P2010−259726A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115012(P2009−115012)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(509131557)トヨタボウショク アジア カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA BOSHOKU ASIA CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】3rd, 4th Floor, Bangna Towers A, 2/3 Moo 14, Bangna−Trad Rd., K.m.6.5, Bangkaew, Bangplee, Samutprakarn 10540, Thailand
【出願人】(509131546)トヨタボウショク ゲートウェイ(タイランド) カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA BOSHOKU GATEWAY(THAILAND) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Gateway Industrial Estate, 182 Moo 7, Tambol Hua−Samrong, Amphur Plangyao, Chachoengsao 24190, Thailand
【Fターム(参考)】