説明

ミリング装置

【課題】ミリング容器の気密性を保持したまま、好適にミリング容器の内部温度を検出する。
【解決手段】ミリング装置は、ミリング容器(110)と、ミリング容器の外部に設けられており、ミリング容器の外部温度を検出する温度検出手段(210)と、ミリング容器の外部温度に基づいて、ミリング容器の内部温度を推定する温度推定手段(240)とを備える。これにより、ミリング容器内部の温度を、ミリング容器の外部から間接的に知ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば固体電解質の合成を行うミリング装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のミリング装置として、例えば合成すべき固体電解質を封入したミリング容器が公転軸周りに公転しながら自転する遊星ボールミル装置が知られている。このような装置の動作時には、固体電解質同士のミリング容器内部における衝突や摩擦等によって、ミリング容器の内部温度が徐々に上昇する。
【0003】
ミリング容器の内部温度は、例えば固体電解質等の化学反応を目的とする場合、比較的高温の方が反応を促進できる。一方で、ミリング容器の内部温度が高温過ぎると、材料に悪影響を与えてしまうおそれがある。よって、ミリング容器の内部温度は、一定の高温状態に保たれることが好ましい。
【0004】
ミリング容器の内部温度を検出する方法としては、ミリング容器の内部に温度測定機構を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、高温となり過ぎてしまったミリング容器を冷却する方法として、水冷による冷却方式が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−110474号公報
【特許文献2】特開平04−040245号公報
【特許文献3】特開2004−305981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているような、ミリング容器の内部に温度測定機構を設ける方法では、ミリング容器の気密性を保つことが難しい。このため、暴露すべきでない硫化物固体電解質等の合成においては、使用が困難であるという技術的問題点を有している。また、ミリング容器の内部に温度測定機構を設ける場合、制限されたスペースに各種部材を配置することが求められる。このため、装置構成が複雑化してしまうという技術的問題点も有している。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、ミリング容器の気密性を保持したまま、好適にミリング容器の内部温度を検出可能なミリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のミリング装置は上記課題を解決するために、ミリング容器と、前記ミリング容器の外部に設けられており、前記ミリング容器の外部温度を検出する温度検出手段と、前記ミリング容器の外部温度に基づいて、前記ミリング容器の内部温度を推定する温度推定手段とを備える。
【0009】
本発明のミリング装置は、固体電解質等の材料を封入する一又は複数のミリング容器を備えている。ミリング容器は、例えば公転及び自転動作によって、封入された材料を粉砕及び合成可能とされている。ミリング容器は、暴露すべきでない材料を使用できるよう気密性を有していることが好ましい。
【0010】
ミリング容器の外部には、ミリング容器の外部温度を検出する温度検出手段が設けられている。温度検出手段は、例えば赤外線を用いる温度センサであり、ミリング容器の外壁の温度を外部温度として検出する。温度検出手段は、ミリング装置の動作時において、定期的に或いは所定のタイミングでミリング容器の外部温度を検出する。
【0011】
本発明では更に、ミリング容器の外部温度に基づいて、ミリング容器の内部温度を推定する温度推定手段が設けられている。温度推定手段は、ミリング容器の外壁の温度と内部温度との関係を予め記憶しており、温度検出手段において検出されたミリング容器の外部温度を用いて、ミリング容器の内部温度を推定する。温度推定手段は、例えばミリング容器の外壁の温度と内部温度との関係を示すマップを記憶しており、検出されたミリング容器の外部温度をマップに当てはめることで、ミリング容器の内部温度を推定する。或いは温度検出手段は、ミリング容器の外壁の温度と内部温度との関係を示す数式を記憶しており、検出されたミリング容器の外部温度に対して所定の演算を行うことで、ミリング容器の内部温度を推定する。
【0012】
上述した温度検出手段及び温度推定手段によれば、ミリング容器の外部からミリング容器の内部温度を知ることができる。即ち、ミリング容器の内部に温度センサ等を設けなくとも、好適にミリング容器の内部温度を検出することができる。
【0013】
ここで仮に、温度センサをミリング容器の内部に設けるとすると、ミリング容器の蓋等の構成に問題が生じ、ミリング容器の気密性を保つことが難しくなる。このため、暴露すべきでない硫化物固体電解質等の合成に使用することが困難となってしまう。また、温度センサをミリング容器の内部に設ける場合、制限されたスペースに各種部材を配置することが求められる。このため、装置構成が複雑化してしまうおそれがある。
【0014】
しかるに本発明では、上述したように、ミリング容器の外部から検出されたミリング容器の外部温度に基づいて、ミリング容器の内部温度を推定することができる。従って、ミリング容器の気密性を保持したまま、好適にミリング容器の内部温度を検出することが可能である。
【0015】
本発明のミリング装置の一態様では、前記ミリング容器を外部から冷却する冷却手段と、前記ミリング容器の内部温度に応じて前記冷却手段を制御する制御手段とを備える。
【0016】
この態様によれば、ミリング容器の外部には、例えばファン等の冷却手段が設けられる。冷却手段は、例えばファンの風量を調節することで冷却効果を調節可能とされている。尚、冷却手段の構成はファンに限定されず、例えば液体窒素やドライアイス等の冷媒を用いて冷却を行うようなものでであってもよい。但し、装置構成の複雑化を防止する観点からすれば、冷却手段はファン等の比較的簡単な構成のものであることが好ましい。
【0017】
上述した冷却手段は、例えばコントローラ等である制御手段によって、その動作が制御されている。具体的には、冷却手段は、ミリング容器の内部温度に応じて動作が制御される。例えば、制御手段はミリング容器の内部温度に対する閾値(即ち、冷却手段による冷却を行うべきか否か判断するための閾値)を記憶しており、ミリング容器の温度が閾値より高い場合には、冷却手段によるミリング容器の冷却を開始する、或いはより高い冷却機能を発揮するよう制御される。一方で、ミリング容器の温度が閾値より低い場合には、冷却手段の動作を停止させる、或いは冷却機能を弱めた状態で動作するよう制御される。
【0018】
このようにミリング容器の冷却を制御すれば、装置の動作(具体的には、ミリング容器内部における材料の衝突や摩擦等)によって上昇し続けるミリング容器の内部温度を、適切な温度へと調節することが可能となる。
【0019】
上述した冷却手段及び制御手段を備える態様では、前記制御手段は、前記ミリング容器の外部温度を記憶する記憶手段と、前記ミリング容器の外部温度の推移に基づいて、前記ミリング容器の発熱量を算出する発熱量算出手段と、前記ミリング容器の発熱量に応じて、前記ミリング容器の内部温度を所定の範囲内に維持するよう前記冷却手段の動作を制御する温度維持手段とを有するように構成されてもよい。
【0020】
このように構成すれば、温度検出手段において検出されたミリング容器の外部温度は、順次記憶手段に記憶されていく。これにより、ミリング容器の外部温度の推移を知ることができる。即ち、単純に現在の温度を検出するだけでなく、今後どのように温度が推移していくかを知ることができる。尚、記憶手段は、常時ミリング容器の温度を記憶する必要はなく、後述する発熱量の算出が行える程度の頻度で温度を記憶すればよい。
【0021】
続いて発熱量算出手段では、記憶手段に記憶されたミリング容器の外部温度の推移に基づいて、ミリング容器の発熱量が算出される。発熱量算出手段は、例えば予め記憶しているミリング容器の温度上昇と発熱量との関係を用いて、ミリング容器の発熱量を算出する。
【0022】
ミリング容器の発熱量が算出されると、温度維持手段によって、ミリング容器の内部温度を所定の範囲内に維持するよう冷却手段の動作が制御される。即ち、冷却手段がミリング容器の発熱量を相殺するように動作させられる。具体的には、ミリング容器の発熱量が比較的小さい場合は、冷却手段は比較的弱い冷却機能を発揮するように制御される。一方で、ミリング容器の発熱量が比較的大きい場合は、冷却手段は比較的強い冷却機能を発揮するように制御される。
【0023】
上述したように冷却手段を制御すれば、ミリング容器の内部温度が所定の範囲内に維持されるため、例えば固体電解質の化学反応を効率的に進めることができる。また、ミリング容器の内部温度が高温になり過ぎることで、容器内の材料に悪影響を与えてしまうことを防止できる。言い換えれば、ここでの「所定の範囲」とは、維持することで上述したような有益な効果が得られる温度範囲として予め設定される。
【0024】
上述した制御手段を備える態様では、前記ミリング容器の回転動作を行う回転手段を備え、前記制御手段は、前記冷却手段に代えて又は加えて、前記回転手段の動作を制御するように構成してもよい。
【0025】
この場合、装置の動作時には、ミリング容器が回転動作を行うことで、内部に封入された材料が粉砕、合成される。より具体的には、例えばミリング容器が公転軸周りに公転しながら自転する遊星ボールミルとして構成され、ミリング容器の公転及び自転動作によって材料が粉砕、合成される。
【0026】
ここで、ミリング容器の温度上昇は、ミリング容器内部の材料の衝突や摩擦による発熱に起因している。よって、上述したようにミリング容器が回転動作を行って材料を粉砕、合成する場合には、ミリング容器の温度上昇は、ミリング容器の回転動作(例えば、回転量や回転速度等)に起因していると言える。
【0027】
従って、制御手段がミリング容器の回転動作を制御するようにすれば、ミリング容器における温度上昇を制御することができる。具体的には、ミリング容器の内部の温度が高過ぎる場合には、回転手段によるミリング容器の回転量を減らすことで、ミリング容器内部における材料の衝突や摩擦が減少し、結果的に温度上昇が抑制される。従って、上述した冷却手段による冷却と同様の効果を得ることができる。
【0028】
尚、このような回転動作の制御は、冷却手段の制御と合わせて行われることが好ましい。但し、冷却手段を制御せず、回転動作のみを制御する場合であっても上述した効果は相応に得られる。
【0029】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態に係るミリング装置の全体構成を示す概略構成図である。
【図2】温度制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係るミリング装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】ミリング容器の内部温度の変化の一例を示すグラフである。
【図5】ミリング容器の外壁温度の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0032】
先ず、本実施形態に係るミリング装置の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、本実施形態に係るミリング装置の全体構成を示す概略構成図である。
【0033】
図1において、本実施形態に係るミリング装置は、装置外装部100内に、2つのミリング容器110を備えて構成されている。尚、ここでのミリング容器110の数は一例であり、1つだけであってもよいし、3つ以上であってもよい。ミリング容器110は、図に示すように、その内部に例えば固体電解質等の試料500を封入可能に構成されている。ミリング容器100内部の試料500は、ミリング容器110の回転動作によって粉砕、合成される。
【0034】
ミリング容器110は、容器押さえアンカ120、アンカ押さえ螺子130、容器押さえアンカ台140によって、自転ターンテーブル150に固定されている。自転ターンテーブル150は、公転ターンテーブル160上で自転可能に構成されている。また、公転ターンテーブル160は、自転ターンテーブル150の自転方向とは逆方向に公転可能とされている。
【0035】
装置の動作時には、上述した自転ターンテーブル150が自転すると共に、公転ターンテーブル160が公転することで、ミリング容器110内部の試料500が粉砕、合成される。即ち、本実施形態に係るミリング装置は、いわゆる遊星ボールミルとして構成されている。但し、遊星ボールミル以外のミリング装置であっても、本実施形態による効果を得ることは可能である。
【0036】
本実施形態に係るミリング装置には更に、ミリング容器110の温度を制御するための温度制御部200及びミリング容器110を冷却する冷却ファン300が、公転ターンテーブル160外に設けられている。
【0037】
温度制御部200は、赤外線温度センサである外壁温度検出部210によって、ミリング容器110の外壁温度を検出可能である。温度制御部200のより具体的な構成については、後に詳述する。
【0038】
冷却ファン300は、本発明の「冷却手段」の一例であり、冷却風をミリング容器110に供給することでミリング容器110の温度を低下させる。冷却ファン300は、風量(言い換えれば、冷却効果)を調整可能とされている。尚、冷却ファン300に加えて又は代えて、例えば液体窒素やドライアイス等を封入した冷媒による冷却手段が備えられていてもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係るミリング装置における温度制御部200の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、温度制御部の構成を示すブロック図である。
【0040】
図2において、温度制御部200は、外壁温度検出部210、外壁温度記憶部220、発熱量算出部230及び温度維持制御部240を備えて構成されている。
【0041】
外壁温度検出部210は、本発明の「温度検出手段」の一例であり、上述したように例えば赤外線温度センサとして構成されている。但し、ミリング容器110の外壁温度を検出できるものであれば、赤外線温度センサ以外のものを利用することもできる。
【0042】
外壁温度記憶部220は、本発明の「記憶手段」の一例であり、外壁温度検出部210において検出されたミリング容器110の外壁温度を定期的に或いは所定のタイミングで記憶する。
【0043】
発熱量算出部230は、本発明の「発熱量算出手段」の一例であり、外壁温度記憶部220に記憶されたミリング容器110の外壁温度の推移から、ミリング容器110における発熱量を算出する。例えば、発熱量算出部230は、ミリング容器110における温度上昇と発熱量の関係を記録したデータを有しており、ミリング容器110の外壁温度の推移と記録したデータを照らし合わせることで、ミリング容器110における発熱量を算出する。
【0044】
温度維持制御部240は、本発明の「温度維持手段」の一例であり、発熱量算出部230において算出された発熱量を相殺するように冷却ファン300の動作を制御することで、ミリング容器110の内部温度を所定の範囲内に維持する。また、温度維持制御部240は、冷却ファン300の冷却機能だけではミリング容器110の内部温度を低下させることができない場合に備えて、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転数を制御可能に構成されている。
【0045】
尚、温度維持制御部240は、ミリング容器110の内部温度を対象として温度維持制御を行うため、外壁温度検出部210において検出されたミリング容器110の外壁温度、或いは発熱量算出部230において算出されたミリング容器110における発熱量等から、ミリング容器110の内部温度を推定可能に構成されている。即ち、ここでの温度維持制御部240は、本発明の「温度推定手段」の一例としても機能する。但し、ミリング容器110の内部温度を推定する処理は、温度維持制御部240以外で行われるようにしてもよい。
【0046】
次に、本実施形態に係るミリング装置の動作について、図3を参照して説明する。ここに図3は、本実施形態に係るミリング装置の動作を示すフローチャートである。
【0047】
図3において、本実施形態に係るミリング装置の動作時には、まず利用者によって自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転数が入力されたか否かが判定される(ステップS101)。利用者は、粉砕、合成する試料500に適した回転数を、装置に接続された入力端末等を用いて入力する。
【0048】
回転数が入力されると(ステップS101:YES)、利用者によってミリング容器110の内部温度として維持すべき温度範囲が入力されたか否かが判定される(ステップS102)。利用者は、例えば粉砕、合成する試料500の反応が起きやすい温度範囲を設定する。
【0049】
温度範囲が設定されると(ステップS102:YES)、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160が設定された回転数で回転動作が開始される(ステップS103)。即ち、ミリング容器110内部の試料500の粉砕、合成が開始される。
【0050】
自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転動作が開始されると、外壁温度検出部210によって、ミリング容器110の外壁温度が検出される(ステップS104)。尚、ミリング容器110が複数ある場合には、全てのミリング容器110について外壁温度が検出されてもよいし、いずれか1つ或いはいくつかのミリング容器110が選択されて、選択されたミリング容器110についてのみ外壁温度が検出されてもよい。複数のミリング容器110について外壁温度が検出する場合には、各ミリング容器110について夫々別個に温度を検出してもよいし、複数のミリング容器110の平均値等として1つの温度を検出してもよい。
【0051】
ミリング容器110の外壁温度が検出されると、検出された外壁温度が外壁温度記憶部220に記憶される(ステップS105)。外壁温度記憶部220は、検出されたミリング容器110の外壁温度を定期的に或いは所定のタイミングで記憶し続ける。これにより、ミリング容器110の外壁温度の推移を知ることが可能となる。
【0052】
続いて発熱量算出部230では、外壁温度記憶部220において記憶されたミリング容器110の外壁温度の推移を用いて、ミリング容器110における発熱量が算出(言い換えれば、推定)される(ステップS106)。
【0053】
ミリング容器110における発熱量が算出されると、温度維持制御部240によって、ミリング容器110における発熱量を相殺するよう冷却ファン300の動作が制御される(ステップS107)。具体的には、ミリング容器110の発熱量が比較的小さい場合は、冷却ファン300は比較的弱い風量を供給するよう制御される。一方で、ミリング容器110の発熱量が比較的大きい場合は、冷却ファン300は比較的強い風量を供給するように制御される。
【0054】
温度維持制御部240は、上述した冷却ファン300の制御を行うと共に、ミリング容器110の内部温度を監視している。具体的には、温度維持制御部240は、外壁温度検出部210において検出されたミリング容器110の外壁温度、或いは発熱量算出部230において算出されたミリング容器110における発熱量等から内部温度を推定し、推定された内部温度が設定された温度範囲内であるか否かを判定している(ステップS108)。
【0055】
ミリング容器110の内部温度が設定された温度範囲内ではないと判定されると(ステップS108:NO)、温度維持制御部240によって、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の少なくとも一方の回転動作が制御される(ステップS109)。一方で、ミリング容器100の内部温度が設定された温度範囲内である場合には(ステップS108:YES)、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転動作は制御されない。
【0056】
例えば、冷却ファン300による冷却機能を超えた発熱がミリング容器110内部で起こっている場合には、冷却ファン300を最大出力で動作するよう制御しても、ミリング容器110の内部温度は上昇し続けることになる。よって、ミリング容器110の内部温度は、設定された温度範囲をいずれ上回ってしまう。このような場合、温度維持制御部240は、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転を減速或いは停止させる。このようにすれば、ミリング容器110内部の試料500の衝突や摩擦に起因する発熱量が減少し、確実にミリング容器110の内部温度を低下させることができる。よって、ミリング容器110の内部温度は、利用者が設定した温度範囲で維持されることになる。従って、ミリング容器110の内部温度は、試料500の粉砕、合成を行う上で適切な値に維持される。
【0057】
ここで、ミリング容器110の外壁温度と内部温度との関係について、図4及び図5を参照して説明する。ここに図4は、ミリング容器の内部温度の変化の一例を示すグラフである。また図5は、ミリング容器の外壁温度の変化の一例を示すグラフである。
【0058】
尚、図4及び図5のグラフは、試料にミリング容器110にサーモラベルを貼付けると共に、ミリング容器110内部の試料500にサーモペイントを施し、装置運転時のそれぞれの変色を観察することで作成されている。このため、温度の値には一定の幅が生じている。
【0059】
図4及び図5において、本願発明者の研究によれば、ミリング容器110の外壁温度と内部温度とには相関があることが判明している。具体的には、図4に示すように、ミリング容器110の内部温度は、装置の運転開始後、約1時間程度かけて60℃〜80℃付近まで上昇する。即ち、ミリング容器110の回転動作によってミリング容器110内部の試料500が互いに衝突或いは摩擦し、発熱による温度上昇が起こる。一方、図5に示すように、ミリング容器110の外壁温度は、ミリング容器110の内部温度の上昇に対応して、50℃〜60℃付近へと上昇する。これは、ミリング容器110の内部で発生した熱が、ミリング容器110を介して外壁部分にまで伝達されたことに起因すると考えられる。
【0060】
以上のように、ミリング容器110の外壁温度と内部温度とには相関がある。よって、このような相関を予め知ることができれば、ミリング容器110の外壁温度から内部温度を推定することが可能となる。
【0061】
ここで仮に、ミリング容器110の内部温度を検出するための温度センサを、ミリング容器110の内部に設けるとすると、ミリング容器110の蓋等の構成に問題が生じ、ミリング容器110の気密性を保つことが難しくなる。ミリング容器110の気密性が保たれない場合、暴露すべきでない硫化物固体電解質等の合成に装置を使用することが困難となってしまう。また、温度センサをミリング容器110の内部に設ける場合、制限されたスペースに各種部材を配置することが求められる。このため、装置構成が複雑化してしまうおそれがある。
【0062】
これに対し、本実施形態に係るミリング装置は、ミリング容器110の外部に設けられた外壁温度検出部210によって検出された外壁温度から、ミリング容器110の内部温度を推定することができる。従って、上述した不都合を回避しつつ、好適にミリング容器の内部温度を知ることができる。
【0063】
図3に戻り、本実施形態に係るミリング装置では、例えば運転時間や総回転数等によって、試料500の合成終了が判定される(ステップS110)。そして、合成が終了したと判定されると(ステップS110:YES)、自転ターンテーブル150及び公転ターンテーブル160の回転の回転が停止され(ステップS111)、装置の運転が終了する。一方で、合成がまだ終了していないと判定されると(ステップS110:NO)、再びステップS104以降の処理が繰り返される。これにより、運転中のミリング容器110の内部温度は、設定された温度範囲に維持され続ける。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係るミリング装置によれば、ミリング容器110の外部において検出した外部温度から内部温度を推定できる。よって、極めて好適にミリング容器110の内部温度を検出でき、ミリング容器110の温度制御等に利用することができる。この結果、試料500の粉砕及び合成を適切な条件の下で行うことが可能となる。
【0065】
尚、ミリング装置は、試料500の粉砕及び合成以外の目的で使用されるものであってもよい。即ち、試料500の粉砕及び合成以外の動作を行う場合であっても、上述した本実施形態に係る効果は得られる。
【0066】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うミリング装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
100…装置外装部、110…ミリング容器角、120…容器押さえアンカ、130…アンカ押さえ螺子、140…容器押さえアンカ台、150…自転ターンテーブル、160…公転ターンテーブル、200…温度制御部、210…外壁温度検出部、220…外壁温度記憶部、230…発熱量算出部、240…温度維持制御部、300…冷却ファン、500…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリング容器と、
前記ミリング容器の外部に設けられており、前記ミリング容器の外部温度を検出する温度検出手段と、
前記ミリング容器の外部温度に基づいて、前記ミリング容器の内部温度を推定する温度推定手段と
を備えることを特徴とするミリング装置。
【請求項2】
前記ミリング容器を外部から冷却する冷却手段と、
前記ミリング容器の内部温度に応じて前記冷却手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のミリング装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記ミリング容器の外部温度を記憶する記憶手段と、
前記ミリング容器の外部温度の推移に基づいて、前記ミリング容器の発熱量を算出する発熱量算出手段と、
前記ミリング容器の発熱量に応じて、前記ミリング容器の内部温度を所定の範囲内に維持するよう前記冷却手段の動作を制御する温度維持手段と
を有することを特徴とする請求項2に記載のミリング装置。
【請求項4】
前記ミリング容器の回転動作を行う回転手段を備え、
前記制御手段は、前記冷却手段に代えて又は加えて、前記回転手段の動作を制御する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のミリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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