説明

ミルタザピンの調製方法

本発明は、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピンおよび四環式類似化合物を調製するための方法に関する。本発明は、さらに、新規中間体およびRもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピンの調製へのこの使用に関する。a:RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式(I)によるカルボン酸化合物を提供する工程、b:化合物Iのカルボン酸基をケトン基に変換して式(II)のケトン化合物を生成する工程、c:任意選択で、ケトン化合物IIを穏やかな還元剤で還元して式(III)の中間体ヒドロキシ化合物を形成する工程およびd:強還元剤を用いるケトン化合物IIもしくはヒドロキシ化合物IIIの還元によって式(IV)のミルタザピンを形成する工程を含む方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰にある、四環式ベンゾアゼピン、特にミルタザピンの調製方法に関する。本発明は、さらに、新規中間体およびRもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピンの調製へのこの使用に関する。本発明は、さらに、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する中間体四環式化合物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミルタザピン(1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチル−ピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3c][2]ベンゾアゼピン)は式IVを有する四環系化合物である。
【0003】
【化1】

【0004】
この化合物はキラルであり、このラセミ混合物にはうつを治療するための医薬としての広範な使用が見出される。ミルタザピンの他の医学的使用は、例えばWO 99/25356にも報告されており、WO 01/58453は睡眠障害および無呼吸の治療におけるこの使用を開示する。ミルタザピンの鏡像異性体の生物学的効果に踏み込む研究(例えばO’Connor and Leonard,Neuro−pharmacology,1986,vol.25,pp.267−270;Kooyman et al.,1994,vol.33,pp.501−507;De Boer et.al.,Neuro−pharmacology,1988,vol.27,pp.399−408;Gower et al.,1988,vol.291,pp 185−201)はこの化合物にこの純粋な鏡像異性体形態で言及する。鏡像異性体、特にS−ミルタザピンを大量に入手可能とする必要性が存在する。本発明は、鏡像異性的に純粋なミルタザピンおよび関連ベンゾアゼピン大量の効率的な生成の改善を提供する。
【0005】
ミルタザピンを調製するための方法の様々が当分野において公知である。US 4062848は、2−置換ニコチニトリルから出発してミルタザピンの合成を達成することができる4段階合成スキームの変形を記載する。続いて、この経路の様々な段階に対するさらなる変更がWO 00/62782、WO 01/23345およびUS 6,376,668に記載されている。
【0006】
US 4062848に記載される方法によると、式(A)の化合物の閉環の結果としてミルタザピンを得ることができる。
【0007】
【化2】

【0008】
このような薬剤の例には、酸、例えば硫酸、濃塩酸、ピクリン酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、ポリリン酸(PPA)、オキシ塩化リン、五酸化リン並びにルイス酸、例えば塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化チタン、三フッ化ホウ素、五塩化アンチモンおよび四塩化ジルコニウムが含まれる。US 4062848においては、ミルタザピンの調製が濃硫酸を用いる閉環によって例示される。WO 00/62782においては、濃硫酸が最も好ましいことが示される。
【0009】
US 4062848においてはラセミミルタザピンの光学分割も取り組まれている。US 4062848に開示される方法により、ラセミミルタザピンを鏡像異性的に純粋なジベンゾイル酒石酸とエタノール中で反応させることによってジアステレオマー塩を形成し、このように形成されたジアステレオマー塩を濾別した後、アンモニア水で処理することによって遊離塩基を再生することにより、鏡像異性的に純粋なミルタザピンが得られる。この方法においては、鏡像異性体の分割は合成経路の最後にミルタザピンのラセミ混合物を製造した後に生じる。従って、得られる鏡像異性的に純粋な各化合物の全体的な收率は比較的低く、50%を上回ることはあり得ないことになる。このような後期段階鏡像異性体分離の他の欠点は、廃棄物相当量が生成されることである。鏡像異性的に純粋なミルタザピンを全体的に改善された收率で調製することができる、より経済的で環境に優しい方法を有することは有益である。
【0010】
US 4062848においては、光学的に活性の前駆体を最後の閉環工程に用いることによってもミルタザピンの純粋な光学異性体が合成的に得られるかもしれないとする所見がなされている。しかしながら、濃硫酸を用いるUS 4062848およびWO 00/62782に記載される方法は光学純度を十分に保持しないことが見出された。明らかに、これらの反応条件は過剰のラセミ化を許容する。
【0011】
文書WO 2005/005410においては、上記式(A)の鏡像異性的に純粋な化合物の閉環によって鏡像異性的に純粋なミルタザピンを合成するため、上述の閉環試薬のうちから特定の選択をなすことによって出発物質における立体化学的一体性を保存できることが記載される。この方法は、溶媒の不在下で適切な酸で処理することにより、もしくは酸および有機溶媒の適切な組み合わせで処理することにより、鏡像異性体過剰率を有する式(A)による化合物を閉環させることを含む、鏡像異性体過剰率を有するミルタザピンの形成を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第99/25356号
【特許文献2】国際公開第01/58453号
【特許文献3】米国特許第4062848号明細書
【特許文献4】国際公開第00/62782号
【特許文献5】国際公開第01/23345号
【特許文献6】米国特許第6,376,668号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/005410号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】O’Connor and Leonard,Neuro−pharmacology,1986,vol.25,pp.267−270
【非特許文献2】Kooyman et al.,1994,vol.33,pp.501−507
【非特許文献3】De Boer et.al.,Neuro− pharmacology,1988,vol.27,pp.399−408
【非特許文献4】Gower et al.,1988,vol.291,pp 185−201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、WO 2005/005410に記載される反応が適切な条件の選択によって実質的なラセミ化なしに進行させることはできるものの、このような条件の下では副生物有意量が形成され、これがエナンチオ純粋(enantiopure)なミルタザピンの精製を複雑なものとし、従って、この方法の全体的な收率を低下させることを見出している。反対に、光学純度の損失を代償にするときにのみ副生物の形成を防止することができる。従って、本発明の目的は、上記欠点を有していない、鏡像異性的に純粋な形態にある、またはRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有するミルタザピン、特にミルタザピンの調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピン(式IV)を調製するための本発明による方法において達成され、前記方法は
a:RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式Iによるカルボン酸化合物を提供する工程、
b:化合物Iのカルボン酸基をケトン基に変換して式IIのケトン化合物を生成する工程、
c:ケトン化合物IIを穏やかな還元剤で場合により還元して式IIIの中間体ヒドロキシ化合物を形成する工程、および
d:強い還元剤を用いるケトン化合物IIもしくはヒドロキシ化合物IIIの還元によって式IVのミルタザピンを形成する工程、
を含む。
【0016】
【化3】

【0017】
この反応は、いかなる実質的なラセミ化もなしに、および副生物のいかなる有意量の形成もなしに、進行することが見出された。反応生成物は、さらなる精製もしくは光学分割の必要性なしに、医薬調製品の調製に用いることができる。本発明の方法は、少なくとも80%のRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有し、副生物を10重量%未満、より好ましくは5重量パーセント未満、および最も好ましくは2重量パーセント未満(重量%は、副生物の総量を得られる反応生成物の総量で除したもの×100%として表される。)の量で含むミルタザピンおよびこれらの配合物の生成を可能にする。好ましくは所望の鏡像異性体の鏡像異性体過剰率は少なくとも90%、より好ましくは95%を上回る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ミルタザピンという用語は、ここでは、塩基としての化合物を参照するのに通常用いられるが、これらの塩および溶媒和物を参照するのにも用いられる、一般的な意味で用いられる。この説明において用いられるミルタザピンという用語は、この用語が用いられる文脈から明瞭であるように、S形態、R形態もしくはラセミ形態を参照することができる。接頭辞(R)もしくは(S)が補足されたミルタザピンという用語はこの化合物の鏡像異性体を特定して参照する。ある特定の形態を示す、本説明に組み込まれる構造式は、他に具体的に指示されない限り、S形態、R形態およびラセミ形態を網羅しようとするものである。
【0019】
式IIIを有する化合物は、炭素原子14bの主キラル中心とは別に、ヒドロキシル基が結合する炭素原子にさらなるキラル中心を含む。従って、2種類のジアステレオマーを含むこの化合物の4種類の立体異性体、即ち、(R,R)、(R,S)、(S,R)もしくは(S,S)が存在し得る。しかしながら、本説明においては、RもしくはS形態という表示は中央の環において窒素に隣接する炭素原子14bに存在するキラル中心での絶対配置のみを参照する。
【0020】
「鏡像異性体過剰率」という用語は、混合物中の化合物の総量に対する、パーセンテージ(×100)で表される、混合物中に存在する鏡像異性体の各々の量の差を指す。別々の実施形態において、「実質的な鏡像異性体過剰率」という用語は、50%を上回り、好ましくは70%を上回り、より好ましくは80%を上回り、さらにより好ましくは90%を上回り、および最も好ましくは95%を上回る鏡像異性体過剰率を指す。「エナンチオ純粋」もしくは「実質的にエナンチオ純粋」という用語は、別々の実施形態において、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは95%を上回る鏡像異性体過剰率を含意する。
【0021】
「副生物」という用語は、(SもしくはR形態にある)ミルタザピンもしくはこの未反応中間体以外の、得られる反応生成物中の生成物を指す。副生物の存在は、鏡像異性体過剰率が本発明の化合物の鏡像異性体の量だけで算出されるため、本発明の化合物の鏡像異性体の鏡像異性体過剰率には影響を及ぼさない。しかしながら、副生物の量は、得られるミルタザピンの生物学的に活性の化合物としての利用に関係する。望ましくない副生物の実質的な量を除去することは経費がかさみ、時間がかかることであるため、副生物の量は可能な限り少なくあるべきである。
【0022】
本発明の方法の詳細な説明
工程a
本発明の方法は、実質的な鏡像異性体過剰形態、または好ましくは実質的にエナンチオ純粋形態の、式Iを有するカルボン酸で開始する。このような化合物は、例えばUS 4062848(これは、参照することにより本明細書に組み入れられる。)に記載されるように、ラセミ混合物のジアステレオマー結晶化によって得ることができる。
【0023】
工程b
この工程においては、化合物Iのカルボン酸基をケトン基に変換し、式IIのケトン化合物を生成する。好ましくはまずカルボン酸基を活性化剤で活性化した後、ルイス酸と反応させる。活性化剤は、好ましくは塩素化剤、好ましくは塩化チオニル、塩化オキザリルもしくはオキシ塩化リンである。この活性化は中間体酸塩化物化合物を導く。次に、この化合物をルイス酸と反応させる。ルイス酸は、好ましくはハロゲン化金属、好ましくは塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化鉄もしくは塩化亜鉛である。この反応工程は実質的なラセミ化なしに進行し、カルボン酸化合物の鏡像異性体過剰率を維持しながら、特に実質的にエナンチオ純粋でさえある形態で、式IIのケトン中間体化合物を得ることができることが見出された。
【0024】
工程cおよびd
一実施形態においては、まず式IIを有するケトンを弱還元剤で別の工程(c)において式IIIを有するアルコールに還元することができ、次にこのアルコールを、次工程において、式IVを有するミルタザピンに還元する。代わりの好ましい実施形態においては、式IIを有するケトンを1工程反応において強還元剤で式IVのミルタザピンに直接還元することができる。1工程反応における式IIを有するケトンの式IVを有するミルタザピンへの還元は式IIIの中間体アルコールを介して進行するものと信じられる。この場合、アルコールは別個の中間体生成物として得られることはないが、還元の反応混合物中には存在するものと信じられる。
【0025】
任意の工程cにおいては、式IIのケトン化合物を単離することができる式IIIを有する中間体ヒドロキシル化合物に還元する。この還元は穏やかな還元である。この穏やかな還元工程(c)に適する還元剤は水素化物、例えば金属水素化物もしくは水素化ホウ素である。好ましい金属水素化物はアルカリ金属水素化物、好ましくは水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等である。好ましい水素化ホウ素は水素化アルカリホウ素、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリ−sec−ブチルホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム等である。
【0026】
上述のように、工程(c)において形成されるヒドロキシル化合物は、この式IIIを有する化合物が2つのキラル中心を有するジアステレオマー化合物であるため、ジアステレオマーの混合物であるものと予想される。しかしながら、第2キラル中心での(ヒドロキシル基の)絶対配置は最終生成物の調製には関係しない。
【0027】
最終工程(d)においては、工程(b)のケトン化合物IIもしくは工程(c)のヒドロキシ化合物IIIを強還元剤を用いて還元する。好ましくは強還元剤は、還元剤単独(アルミニウムトリハイドライド)がその場で生成して還元剤として有効に作用するように、工程(c)において上述される金属水素化物還元剤およびハロゲン化金属の混合物、好ましくは水素化アルミニウムおよびハロゲン化アルミニウムの、好ましくは2.5から3.5のモル比の、混合物を含む。好ましい水素化金属は水素化アルカリ金属、好ましくは水素化アルミニウムリチウムもしくは水素化ジイソブチルアルミニウムである。代わりの強還元剤は、好ましくは酸をモル過剰に有する、水素化ホウ素および強酸の混合物、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムおよびメタンスルホン酸もしくは硫酸の混合物である。
【0028】
本発明の方法のプロセス工程のいずれの最中であっても、塊形成を防止するため、ジカライト(dicalite)を反応混合物に添加することができる。反応は溶媒中で行う。溶媒の種類は選択された反応体および反応条件を考慮して選択する。水素化金属還元剤の場合、溶媒は、溶媒との反応を防止するため、非プロトン性、例えばテトラヒドロフランである。水素化ホウ素の場合、プロトン性溶媒、例えば硫酸/水を選択することができる。一般には、反応温度は−30℃から用いられる溶媒の還流温度の間で変化させることができる。反応温度は、好ましくは許容される反応速度を得るため、40℃を上回る。他方、副生物形成を防止するには、高すぎない反応温度、典型的に約100℃未満が選択される。
【0029】
最後に、生成物ミルタザピンを、当分野において公知のように、遊離塩基として、もしくは生物学的に許容される対イオンとの塩として結晶化することができる。その後、得られた生成物を、さらなる光学分割工程もしくは精製工程なしに、医薬調製品の調製において用いることができる。
【0030】
US 4,062,848はケトン化合物をミルタザピン調製の前駆体として記載し、光学的に活性の化合物は光学的に活性の(エナンチオ純粋な)前駆体から製造することができるとする広範な一般な記載をなしている。この文書は実施的にエナンチオ純粋な前駆体を得る方法を記載しておらず、本発明において特定されるような特定の還元工程において、高い鏡像異性体過剰率および低い不純物レベルを維持しながら、このような実質的にエナンチオ純粋な前駆体をミルタザピンに変換できることを開示していない。エナンチオ純粋なミルタザピンの調製のすべての例は最終生成物の還元を含む。さらに、本発明者らは、この従来技術文献に記載される還元方法がかなりのラセミ化を生じ、従って、この広範な記載が単に根拠のない切望に過ぎないことを見出している。従って、この従来技術文献において開示される方法は実質的にエナンチオ純粋な形態にある特定のミルタザピン前駆体ヒドロキシル化合物IIIもしくはミルタザピンにつながることはない。従って、一般的な記載はエナンチオ純粋な式IIの中間体化合物への特定の指針を提供するものではない。ラセミもしくは他の形態にある式IIIによるヒドロキシル化合物は記述されていない。従って、本発明は、RもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有する混合物の状態またはエナンチオ純粋なRもしくはS形態にある式IIによるケトン化合物((14bSもしくはR)−1,3,4,14b−テトラヒドロ−2−メチル−ピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10(2H)−オン)およびラセミ形態、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する混合物の状態またはエナンチオ純粋形態にある式IIIによるヒドロキシル化合物(1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチルピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10−オール)にも関する。特に少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%のRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有し、副生物を10重量%未満、好ましくは2重量%未満の量で含む、このような化合物に関する。本発明は、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピン(式IV)の調製への前記化合物の使用にも関する。
【0031】
例えば抗うつ剤としての使用における望ましくない副作用を回避する観点から、ミルタザピンは可能な限り純粋であり、即ち、高いエナンチオ純粋性および低い副生物含有率を有することが重要である。本発明による方法によって得られるミルタザピンはこの要求を満たし、従って、医薬配合物における使用に最も適する。従って、本発明は、塩基の形態もしくはこれらの医薬的に許容される塩の形態にある、少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%のRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有し、これらの副生物を10重量%未満、好ましくは2重量%未満の量で含むミルタザピンを含む医薬配合物にも関する。
【0032】
工程(c)において得られる中間体アルコール化合物III、1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチルピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10−オールは、ミルタザピンの調製に有利に用いることができる新規化合物である。この化合物は、上述ものとは異なる方法に従って場合により調製することができる。本発明は、化合物IIIを上述のように強還元剤で還元することによってミルタザピンを調製するための、特にRもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピンを調製するための方法にも関する。本発明は、好ましくはRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有する、ミルタザピンの調製への、好ましくはRもしくはS形態にある、式IIIを有する化合物の使用をも指向する。
【0033】
本発明による方法はミルタザピンの調製に向けて特に開発されているが、他の四環式化合物の調製に等しく適用可能であることが見出されている。従って、本発明は、SもしくはR形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式VIによる四環式化合物の調製方法であって、式Iのカルボン酸化合物の代わりに、SもしくはR形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式Vによるカルボン酸化合物を上記本発明の方法の工程a−dにおいて用い、YおよびXおよびZが5から8環構成原子を含む環構造を表し、環構造Yが好ましくはヘテロ原子を場合により含む芳香族環、好ましくはピリジンもしくはベンジルを表す、式IVの化合物を形成する方法をも指向する。
【0034】
【化4】

【0035】
環構造Xも、好ましくはヘテロ原子を場合により含む、芳香族環構造、好ましくはピリジンもしくはベンジルを表す。環構造Zは、5から8環構成原子を含み、好ましくは環内に第2の窒素原子を含む、部分的に不飽和もしくは飽和環である。環構造X、Yおよび/もしくはZは、1以上の不飽和結合または1以上のヘテロ原子またはハロゲン、ヒドロキシもしくはイオウ含有基を場合により含む、アルキル、アリール、アルキル−アリールもしくはアルコキシから各々独立して選択される1以上の置換基を含むことができる。
【0036】
従って、ミルタザピンをRもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率で調製するための本発明の方法の工程aからdについて上述されるすべての試薬および他の条件は、SもしくはR形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式VIによる四環式化合物を調製するための本発明の方法に適用される。
【0037】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例1】
【0038】
(S)−2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸(化合物I)の調製
下記スキームにおいて示されるように、(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンおよび2−クロロ−3−シアノピリジンから出発してエナンチオ純粋なカルボン酸、2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸(化合物I)を調製することができる。(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンの(S)−ミルタザピンの合成における使用に意味のある量を得るため、(S)−(+)−アニシホス(anicyphos)を用いる古典的な分割を利用した(図1を参照)。分割剤の系列から、この化合物が最も有効であると思われた。まず、(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンの(S)−(+)−アニシホスとの塩を水から結晶化した。水酸化ナトリウムでの処理によって(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンの遊離塩基を遊離させ、酢酸エチルで抽出した。このようにして(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンを35から40%の全体的な收率およびee>98%で得た。その代わりに、WO 2007/144409に従い、ラセミ混合物の酵素的分割により(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンを得ることもできる。最後に、(S)−フェニルグリシンから出発する(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジンの立体収束合成(stereoconvergent synthesis)を、WO 2003/024918、2003およびJP2007/284358においてラセミ化合物について記載される方法によって達成することができる。
【0039】
【化5】

【0040】
(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン.(+)アニシホス塩
(R,S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン(1)100g(567mmole)および(+)−アニシホス154.5g(571mmole)を、混合物を還流温度に加熱することにより、水250mlに溶解した。室温に冷却した後、種晶を添加した。2時間後、形成された白色結晶を濾過によって集め、真空オーブンにおいて40℃で21時間乾燥させた。これで121g(48%)が85.5%のeeで得られた。これらの結晶を還流温度で水(119ml)に溶解した。冷却後、結晶化が開始された。1時間後、結晶を濾過によって集め、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン.アニシホス塩の結晶の收率は105.8g(42%、ee 99.0%)であった。
【0041】
eeはHPLC分析によって決定した。Chiralcel OD 2504.6mmID(Daicel)、ヘキサン中5%イソ−プロピルアルコール、流速1.0ml分−1、UV−検出器、カラム温度40℃、保持時間5.6分、6.3分。
【0042】
(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン
(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン(+)アニシホス塩(100g)をジクロロメタン(378ml)に懸濁させた。この攪拌懸濁液に水(315ml)で希釈した25%水酸化アンモニウム(63.2ml)を添加した。層を分離した。ジクロロメタン層を塩化ナトリウムの飽和水溶液で3回洗浄した。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥するまで蒸発させた。これで(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン30.3g(75%、ee 99.0%)が無色油として得られ、静置することで結晶化した。
【0043】
H−NMRデータ(CDCl):δ(ppm):1.90(s,1H,NH)、2.0(t,1H,CHax)、2.16(dt,1H,CHax)、2,32(3H,s,CH)、2.85(m,1H,CHeq)、2.89(m,1H,CHeq)、3.12(dt,1H,CHax)、3.15(m,1H,CHeq)、3.88(dd,1H,CHベンジル)、7.23−7.41(m,5H,Ar−H)。
【0044】
eeはHPLC分析によって決定した。Chiralcel OD 2504.6mmID、10μm(Daicel)、ヘキサン中5%イソ−プロピルアルコール、流速1.0ml分−1、カラム温度40℃、UV−検出器(210nm)、保持時間5.8分および6.7分。
【0045】
2−[(2S)−4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル]−3−ピリジンカルボニトリル
(S)−1−メチル−3−フェニルピペラジン(21.7g、123mmole)、2−クロロニコチニトリル(21.7g、157mmole)、KF(21.7g、373mmole)およびDMF(65ml)の混合物を還流温度に23.5時間加熱した。DMFを蒸発させ、この粗製生成物に60℃の酢酸エチル(45ml)および水(64ml)を添加した。この混合物を10分間還流させた。水層を有機層から分離し、酢酸エチル(45ml)で抽出した。集めた酢酸エチル層を乾燥するまで蒸発させた。これで2−[(2S)−4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル]−3−ピリジンカルボニトリル(53.5g、>100%、ee 97.6%)が褐色油として得られ、これを次工程において直接用いた。
【0046】
H−NMRデータ(CDCl):δ(ppm):2.38(s,3H,CH)、2.57(m,1H,CH)、2.78(m,2H)、2.95(dd,1H,CH)、3.6(m,1H,CH)、5.43(t,1H,CHベンジル)、6.79(dd,1H,Ar−H)、7.18(m,1H,Ar−H)、7.26(m,2H,Ar−H)、7.37(m,1H,Ar−H)、7.78(dd,1H,Ar−H)、8.26(dd,1H,Ar−H)。
【0047】
eeはHPLC分析によって決定した。Chiralcel OD−H 2504.6mmID、10μm(Daicel)、ヘキサン中3%イソ−プロピルアルコール+0.1%ジエチルアミン、流速1.0ml分−1、カラム温度40℃、UV−検出器(295nm)、保持時間6.6分および7.7分。
【0048】
2−[(2S)−4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル]−3−ピリジンカルボン酸
2−[(2S)−4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル]−3−ピリジンカルボニトリル(53.5g)をメタノール(86.8ml)に溶解し、この溶液を50℃に加熱した。33%水酸化ナトリウム溶液(127.4ml)を添加し、反応混合物を3日間還流させた。この混合物を水(22ml)で希釈し、メタノールを蒸発させた。このようにして形成された油を塩性水相から分離し、温度を80℃まで高めることによって水(96ml)に溶解した。硫酸を添加することによってpHを5.5±0.5に調整し、この溶液を15分間攪拌した。トルエン(320ml)との共蒸発によって水を除去した。この溶液を濾過して塩を除去した。濾液を乾燥するまで蒸発させ、この粗製生成物をメタノール(87ml)および水(2ml)の混合液と共に2回共蒸発させた。残滓を50℃でアセトン(109ml)に溶解した後、この溶液を周囲温度に冷却し、この温度で一晩攪拌した。この混合物を−10℃でさらに1時間攪拌した後、2−[(2S)−4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル]−3−ピリジンカルボン酸の結晶を濾過によって集め、真空オーブン内で乾燥させた。結晶の收率は20.9g(57%、ee>99%)であった。
【0049】
H−NMRデータ(CDCl):δ(ppm):2.43(s,3H,CH)、2.61(t,2H,CH)、3.12(m,3H,CH+CH)、3.42(dt,1H,CH)、4.79(dd,1H,CHベンジル)、7.11−7.28(m,4H,Ar−H)、8.25(dd,1H,Ar−H)、8.54(dd,1H,Ar−H)。
【0050】
eeはHPLC分析によって決定した。Chiralcel OD−H 2504.6mmID、10μm(Daicel)、ヘプタン中10%イソ−プロピルアルコール、流速1.0ml分−1、UV−検出器、カラム温度40℃。
【0051】
A.(14bS)−1,3,4,14b−テトラヒドロ−2−メチル−ピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10(2H)−オン(ケトン化合物II)の調製
塩化チオニル(4.91ml、67.3mmol)をジクロロメタン(100ml)中の(10.0g、33.6mmol)2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸(化合物I)およびN,N−ジメチルホルムアミド(5ml)の溶液に約0℃、窒素雰囲気下で滴下により添加した。この反応混合物を室温で1時間攪拌した。次に、塩化アルミニウム(24.2g、181mmol)を反応混合物に約0℃で少しずつ添加した。この反応混合物を反応が完了するまで室温で攪拌した。
【0052】
反応混合物に水(500ml)、ジクロロメタン(500ml)および水(100ml)中の水酸化ナトリウム(36.53g、913mmol)の溶液を添加した。この反応混合物をジカライトで濾過した。有機層を水層から分離した。水層をジクロロメタン(250ml)で2回抽出した。3つの有機層を合わせ、水(250ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過し、溶媒を真空下で蒸発させた。この褐色油をエタノール(170ml)に溶解し、エタノール146mlを真空下で蒸発させた。この固体をエタノールから室温で約1時間および約0℃で1時間結晶化した。固体を単離して40℃で真空下で乾燥させることで、標題の化合物が黄色固体として生じた(6.54g、出発化合物に対するモル%として定義される收率69.9%)。HPLCによる純度は100%(HPLC純度は主ピーク面積を全ピーク面積で除したもの×100%と定義される。)であり、HPLC−キラルによる鏡像異性体純度は100%であり、DSCによる融点は150.6℃であった。得られた生成物はH−NMR(CDCl,600MHz)によって以下のように特徴付けられる。δ=2.35(dt,1H)、2.44(s,3H)、2.55(dd,1H)、3.02(m,1H)、3.20(dt,1H)、3.38(d,1H)、4.42(d,1H)、4.90(m,1H)、6.85(dd,1H)、7.35(dt,1H)、7.56(dt,1H)、7.62(dd,1H)、8.02(d,1H)、8.36(dd,1H)、8.51(dd,1H)。
【0053】
B.S−ミルタザピンの調製
テトラヒドロフラン(21ml)中の塩化アルミニウム(1.43、10.7mmol)および水素化アルミニウムリチウム(32.3ml、32.3mmol)の溶液をテトラヒドロフラン(18ml)中の工程Aの生成物(6.00g、21.5mmol)の溶液に約0℃、窒素雰囲気下で滴下により添加した。この反応混合物を50℃で20時間攪拌した。
【0054】
水(49ml)中の酒石酸ナトリウム二水和物(5.96g、25.9mmol)の溶液約0℃の反応混合物に添加したところ水層中に懸濁が生じた。この溶液のpHを水酸化ナトリウム溶液(4M)で14に設定した。有機層を水層から分離した。水層をトルエン(60ml)で2回抽出した。3つの有機層を合わせ、水(60ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過し、溶媒を真空下で蒸発させたところ、標題の生成物がほぼ定量的な收率で生じた。生成物はNMRにより純粋であった。HPLC−キラルによる鏡像異性体純度は100%であった。
【0055】
この粗製生成物をエタノール(15.8ml)に溶解した。この溶液にエタノール(7.9ml)中のマレイン酸(2.75g、23.7mmol)の溶液を添加した。この溶液を夜の間室温で攪拌した。固体を単離して40℃、真空下で乾燥させ、白色固体を得た(5.28g、收率70%)。HPLCによる純度は96%であり、HPLC−キラルによる鏡像異性体純度は100%であった。H−NMR(CDCl,400MHz):δ=2.98(s,3H)、3.30(dt,1H)、3.46(t,1H)、3.53(d,1H)、3.55(m,1H)、3.56(dt,1H)、3.68(m,1H)、3.98(m,1H)、4.47(dd,1H)、4.59(d,1H)、6.26(s,2H)、6.92(dd,1H)、7.14(m,1H)、7.22(m,1H)、7.22(m,1H)、7.29(m,1H)、7.53(dd,1H)、8.13(dd,1H)。
【実施例2】
【0056】
A.(14bS)−1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチルピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10−オール(ヒドロキシル化合物III)の調製
水素化アルミニウムリチウム(3.51ml、3.51mmol)をテトラヒドロフラン(10ml)中の実施例1Aの生成物(0.98g、3.51mmol)の溶液に約0℃、窒素雰囲気下で滴下により添加した。この反応混合物を室温で1時間攪拌した。
【0057】
この反応混合物に水(10ml)、酢酸エチル(10ml)および水酸化ナトリウム溶液(8.3M、6ml)を添加した。水層のpHは14であった。有機層を水層から分離した。水層を酢酸エチル(10ml)で2回抽出した。3つの有機層を合わせ、水(10ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過し、溶媒を真空下で蒸発させたところ、標題の生成物が明黄色固体として生じた(0.987g、100%)。HPLCによる純度は95%であった。ジアステレオマー比は約85/15である。H−NMR(MeOD,400MHz):δ=2.38(s,3H)、2.46(dt,1H)、2.62(dd,1H)、2.96−3.03(2×m,2H,−1)、3.53(dt,1H)、3.70(dt,1H)、4.42(d,1H)、5.53(ブロードs,1H)、6.89(dd,1H)、7.20−7.41(4H,−7−8−9−10)、7.59(dd,1H)、8.12(dd,1H)。
【0058】
B.S−ミルタザピンの調製
水素化アルミニウムリチウム(3.3ml、THF中1M)をテトラヒドロフラン(15ml)中の塩化アルミニウム(143mg、1.07mmol)の溶液に0℃で滴下により添加した。15分後、テトラヒドロフラン(10ml)中の実施例2Aにおいて得られた化合物IIIの溶液を添加した。この反応混合物を50℃に18時間加熱した。反応が完了したとき、水(10ml)中の酒石酸ナトリウム二水和物(1g、4.3mmol)の溶液を約0℃で反応混合物に添加したところ、水層中に懸濁が生じた。この溶液のpHを水酸化ナトリウム溶液(4M)で14に設定した。有機層を水層から分離した。水層をトルエン(10ml)で2回抽出した。3つの有機層を合わせ、水(10ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過し、溶媒を真空下で蒸発させたところ、標題の生成物が生じた(0.24g、定量的)。生成物はNMRおよびHPLCにより純粋であった。HPLC−キラルによる鏡像異性体純度は100%であった。
【実施例3】
【0059】
A.(14bS)−1,3,4,14b−テトラヒドロ−2−メチル−ピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10(2H)−オン(化合物II)の調製
塩化チオニル(22ml、301mmol)をジクロロメタン(440ml)中の2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸(化合物I、44g、148mmol)およびN,N−ジメチルホルムアミド(22ml)の溶液に約0℃、窒素雰囲気下で滴下により添加した。この反応混合物を室温で75分間攪拌した。次に、塩化アルミニウム(39.5g、296mmol)を約0℃で反応混合物に添加した。8時間の過程にわたって、塩化アルミニウムをさらに3回(各々19.7g、148mmol)添加した。この反応混合物を反応が完了するまで室温で攪拌した。
【0060】
この反応混合物に水(2200ml)、ジクロロメタン(1320ml)および水(440ml)中の水酸化ナトリウム(147g、3.7mol)の溶液を添加した。反応混合物をジカライトで濾過した。有機層を水層から分離した。水層をジクロロメタン(500ml)で2回抽出した。3つの有機層を合わせ、水(600ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過し、溶媒を真空下で蒸発させた。標題の化合物が油(39.7g、收率96%)として得られ、この粗製生成物は次工程において用いるのに十分純粋であった。HPLC−キラルによる鏡像異性体純度は100%であった。実施例1とは反対に、実施例3においては、化合物IIを単離する中間体結晶化工程は存在しない。このようにして得られた粗製化合物IIは、NMRにより、次工程において直接用いて実施例1工程Bに記載される手順に従ってS−ミルタザピンに変換するのに十分に純粋であった。
【実施例4】
【0061】
A.ミルタザピンの調製
ラセミ1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチルピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンゾアゼピン−10−オール(100mg、0.36mmol)を硫酸(10ml)に溶解した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(135mg、3.6mmol)を添加した。この反応混合物を周囲温度で攪拌した。2時間後、反応が完了した。この反応混合物に水(10ml)、酢酸エチル(10ml)および33%水酸化ナトリウム水溶液(42ml)を添加した。層を分離した後、水層を酢酸エチル(10ml)で抽出した。合わせた酢酸エチル層を水(10ml)で3回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空下で蒸発させた。これで標題の化合物が75mg(80%)の収量で得られた。生成物はNMRによって同定され、96%のHPLC純度を有していた。この実施例は硫酸中の水素化ホウ素ナトリウムがヒドロキシル化合物IIをミルタザピンに還元するための良好な還元剤であることを示す。
【実施例5】
【0062】
A.ミルタザピンの調製
ラセミヒドロキシル化合物III(100mg、0.36mmol)をメタンスルホン酸(10ml)に溶解した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(135mg、3.6mmol)を添加した。反応混合物を完了まで周囲温度で攪拌した。この反応混合物に水(10ml)、酢酸エチル(10ml)および33%水酸化ナトリウム水溶液(42ml)を添加した。層を分離した後、水層を酢酸エチル(10ml)で抽出した。合わせた酢酸エチル層を水(10ml)で3回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空下で蒸発させた。これで標題の化合物が80mg(85%)の収量で得られた。生成物はNMRによって同定され、99%のHPLC純度を有していた。この実施例はメタンスルホン酸中の水素化ホウ素ナトリウムがヒドロキシル化合物IIをミルタザピンに還元するための良好な還元剤であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピン(式IV)を調製するため方法であって、
a:RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する式Iによるカルボン酸化合物を提供する工程、
b:化合物Iのカルボン酸基をケトン基に変換して式IIのケトン化合物を生成する工程、
c:任意選択で、ケトン化合物IIを還元して式IIIの中間体ヒドロキシ化合物を形成する工程、
d:ケトン化合物IIもしくはヒドロキシ化合物IIIの還元によって式IVのミルタザピンを形成する工程、
【化1】

を含む前記方法。
【請求項2】
形成されたミルタザピンが少なくとも80%のRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有し、並びに得られたミルタザピン生成物が副生物を10重量%(副生物の総重量を得られた反応生成物の総重量で除したもの×100%として表される重量%)未満の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鏡像異性体過剰率が少なくとも95%であり、並びに副生物の量が2重量%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
還元工程(c)を還元剤としての水素化物で行う、請求項1から3に記載の方法。
【請求項5】
還元工程を金属水素化物還元剤および還元剤としてのハロゲン化金属の混合物で行う、請求項1から3に記載の方法。
【請求項6】
水素化物が金属水素化物である、請求項4もしくは5に記載の方法。
【請求項7】
強還元剤が水素化ホウ素および強酸の混合物である、請求項1から3に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)において、まずカルボン酸基を活性化剤で活性化した後、ルイス酸と反応させる、請求項1から7に記載の方法。
【請求項9】
活性化剤が塩素化剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
RもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有する混合物の状態またはエナンチオ純粋なRもしくはS形態にある、式IIによる化合物。
【請求項11】
ラセミ形態、RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有する混合物の状態またはエナンチオ純粋なRもしくはS形態にある、式IIIによる化合物。
【請求項12】
少なくとも80%のRもしくはS形態の鏡像異性体過剰率を有し、並びに副生物を10重量%未満の量で含む、請求項10もしくは11に記載の化合物。
【請求項13】
RもしくはS形態の実質的な鏡像異性体過剰率を有するミルタザピン(式IV)の調製への、請求項10から12に記載の化合物のいずれかの使用。

【公表番号】特表2010−523620(P2010−523620A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502504(P2010−502504)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054316
【国際公開番号】WO2008/125578
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】