説明

メカノルミネッセンス材料

【課題】広い範囲から選択を可能とし高い発光強度を示すメカノルミネッセンス材料を得る。
【解決手段】一般式
xBaO・yAl23・zSiO2
(Baはその一部がNa、K及びMgの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x、y及びzは1以上の数)
xBaO・yAl23
(Baはその一部がNa、Mg、Zn、Be及びMnの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ)
又は
xBaO・ySiO2
(Baはその一部がMg、Fe、Mn、Zn及びBeの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ)
で表わされる組成をもつバリウムの複合酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の酸化物からなる母体材料に、機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光する希土類金属又は遷移金属の中から選ばれた少なくとも1種の発光中心を添加してなるメカノルミネッセンス材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的な外力を加えることによって発光する、いわゆるメカノルミネッセンス材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物質が外部からの刺激を与えられることによって、室温等の低温度で可視光や可視域付近の光を発する現象は、いわゆる蛍光現象としてよく知られている。このような蛍光現象を生じる物質、すなわち蛍光体は、蛍光ランプなどの照明灯や、CRT(Cathode Ray Tube)いわゆるブラウン管などのディスプレイとして使用されている。
この蛍光現象を生じさせる外部からの刺激は、通常、紫外線、電子線、X線、放射線、電界、化学反応などによって与えられているが、これまで、機械的な外力等の刺激によって発光する材料はあまり知られていない。
【0003】
本発明者らは、先に非化学量論的量組成を有するアルミン酸塩の少なくとも1種からなり、かつ機械的エネルギーによって励起されたキャリアーが基底状態に戻る際に発光する格子欠陥をもつ物質、又はこの母体物質中に希土類金属イオン及び遷移金属イオンの中から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを発光中心の中心イオンとして含む物質からなる高輝度応力発光材料(特許文献1参照)及びY2SiO5、Ba3MgSi28、BaSi25を母体材料とした発光材料(特許文献2参照)を提案したが、これらの発光材料は、実用に供するためには、まだその発光強度が十分ではなく、さらに発光強度の高いものが求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開2001−49251号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2000−313878号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような事情のもとで、広い範囲から選択を可能とし、それによってさらに高い発光強度を示すメカノルミネッセンス材料を得ることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、より高い発光強度を示すメカノルミネッセンス材料を開発するために鋭意研究を重ねた結果、ある種のバリウムの複合酸化物を母体材料として用いると、高い発光強度のメカノルミネッセンス材料が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式
xBaO・yAl23・zSiO2 (I)
(式中のBaはその一部がNa、K及びMgの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x、y及びzは1以上の数である)
xBaO・yAl23 (II)
(式中のBaはその一部がNa、Mg、Zn、Be及びMnの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ意味をもつ)
又は
xBaO・ySiO2 (III)
(式中のBaはその一部がMg、Fe、Mn、Zn及びBeの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる組成をもつバリウムの複合酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の酸化物からなる母体材料に、機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光する希土類金属又は遷移金属の中から選ばれた少なくとも1種の発光中心を添加してなるメカノルミネッセンス材料を提供するものである。
【0008】
本発明のメカノルミネッセンス材料は、母体材料に発光中心を添加した構成を有するが、この母体材料としては、前記の一般式(I)ないし(III)で表わされるバリウムの複合酸化物の中から選ばれた酸化物が用いられる。
【0009】
上記の一般式(I)で表わされるものとしては、例えば
Ba2(Mg,Al)(Al,Si)SiO7
Ba2Al2SiO7
BaAl2Si28
BaNaAlSi27
などを挙げることができる。なお、かっこ内の元素はたがいに置き換えることができるものを示している。
【0010】
次に一般式(II)で表わされるものとしては、例えば
BaAl813
BaMgAl611
などが、また、一般式(III)で表わされるものとしては、例えば
Ba(Zn,Mn,Fe,Mg)Si26
Ba2(Mg,Fe)Si27
Ba2BeSi27
Ba2MgSi27
Ba2MgSiO7
などがある。
【0011】
これらの中で特に発光強度の大きいものは、Ba2Al2SiO7、Ba2MgSi27、BaAl2Si28、BaAl813である。
これらの酸化物は、結晶構造的には点群
【数1】

で表わされる結晶分類に属している。
【0012】
これらの母体材料に、発光中心をドープさせると、発光強度を飛躍的に向上させることができる。この発光中心をドープするには、発光中心となる金属を母体材料とよく混合したのち、還元雰囲気中、600〜1800℃の高温で少なくとも30分間焼成する。この際、ホウ酸のようなフラックスを添加すると、発光特性はさらに向上する。
【0013】
このように、母体材料に発光中心として添加される希土類金属や遷移金属は、発光強度を飛躍的に向上させるためのものであり、このような希土類金属や遷移金属としては、第一イオン化エネルギーが8eV以下、中でも6eV以下のものが好ましい。
【0014】
この希土類金属や遷移金属は、不安定な3d、4d、5d又は4f電子殻を有するものである。希土類金属としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが、遷移金属としては、例えばTi、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wなどがそれぞれ挙げられる。
不安定な3d電子殻を有する遷移金属の中で好ましいのは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどであり、不安定な4d電子殻をもつ遷移金属の中で好ましいのは、Nb、Moであり、不安定な5d電子殻をもつ遷移金属の中で好ましいのは、Ta、Wである。他方、不安定な4f電子殻をもつ希土類金属の中で好ましいのは、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dyなどである。
【0015】
この発光中心となる金属の添加量は、通常0.001〜20質量%の範囲内で選ばれる。この量が0.001質量%未満では、十分な発光強度が得られないし、また20質量%を超えると母体材料の結晶構造が維持できなくなり、発光効率が低下し、利用できなくなる。
【0016】
本発明のメカノルミネッセンス材料の発光強度は、励起源となる機械的な作用力の性質に依存するが、一般的には加えた機械的な作用力が大きいほど高くなる傾向がある。したがって、発光強度を測定することによって、発光材料に加えられている機械的な作用力を知ることができる。これによって、材料にかかる応力状態を無接触で検知できるようになり、応力状態を可視化することも可能であるため、応力検知器その他の広い分野での応用が期待できる。
【0017】
本発明のメカノルミネッセンス材料は、その塗膜を耐熱性基材の表面に設けることにより、積層材料とすることができる。
この塗膜は、所定母体材料を形成しうる化合物、例えば硝酸塩やハロゲン化物やアルコキシ化合物などを溶剤に溶解して調製した塗布液を耐熱性基材の表面に塗布したのち、焼成することにより形成される。
この耐熱性基材については特に限定されないが、その材質として例えば石英、シリコン、グラファイト、石英ガラスやバイコールガラス等の耐熱ガラス、アルミナや窒化ケイ素や炭化ケイ素やケイ化モリブデン等のセラミックス、ステンレス鋼のような耐熱鋼やニッケル、クロム、チタン、モリブデン等の耐熱性金属又は耐熱性合金、サーメット、セメント、コンクリートなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、摩擦力、せん断力、衝撃力、圧力などの機械的な外力によって効果的に発光する新しい応力発光材料を得ることができ、また、上記機械的な外力をそれが作用する材料自体の発光により、直接光に変換することができるため、全く新しい光素子としての利用の可能性など、広い応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
母体材料としてBa2Al2SiO7の粉末を用い、この中に発光中心となるEu230.05質量%と、フラックスとしてのホウ酸10質量%を加えて混合し、水素2.5質量%を含むアルゴン雰囲気中、1300℃において4時間焼成することによりメカノルミネッセンス材料を製造した。
次に、この粉末をエポキシ樹脂〔Struers社製、スペシフィックス−40(商品名)〕100質量部に20質量部の配合割合で埋め込み、ペレット状にして試料とした。このものの発光強度を表1に示す。
【実施例2】
【0021】
実施例1における母体材料のBa2Al2SiO7の代りに、Ba2MgSi27・Euを用いて、実施例1と同様にして、母体材料と発光中心をもつメカノルミネッセンス材料を製造し、その発光強度(cps)を測定した。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【実施例3】
【0023】
実施例1と同様にして、表2に示す母体材料と、発光中心としてユウロピウムを用いたメカノルミネッセンス材料を製造し、発光強度(cps)を測定した。その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のメカノルミネッセンス材料は、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する素子として広い分野での利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
xBaO・yAl23・zSiO2
(式中のBaはその一部がNa、K及びMgの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x、y及びzは1以上の数である)
xBaO・yAl23
(式中のBaはその一部がNa、Mg、Zn、Be及びMnの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ意味をもつ)
又は
xBaO・ySiO2
(式中のBaはその一部がMg、Fe、Mn、Zn及びBeの中の少なくとも1種で置き換えられていてもよく、x及びyは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる組成をもつバリウムの複合酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の酸化物からなる母体材料に、機械的エネルギーによって励起された電子が基底状態に戻る際に発光する希土類金属又は遷移金属の中から選ばれた少なくとも1種の発光中心を添加してなるメカノルミネッセンス材料。

【公開番号】特開2006−124725(P2006−124725A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33598(P2006−33598)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【分割の表示】特願2001−367297(P2001−367297)の分割
【原出願日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】