説明

メソポーラスシリカおよびその製造方法

【課題】 界面活性剤会合体構造を鋳型として用い、電解質フリーの条件下において、メソポーラスシリカを製造する方法を提供する。
【解決手段】 下記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするメソポーラスシリカ。
(A)ノニオン界面活性剤
(B)下記一般式(1)で表される水溶性シリケートモノマー
Si−(OR (1)
(式中、Rは多価アルコール残基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリカおよびその製造方法、特に界面活性剤の会合構造をテンプレートとするメソポーラスシリカの製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔体(ポーラス素材)は、通常、その孔径によって、2nm以下のものがマイクロポーラス、2〜50nmのものがメソポーラス、50nm以上のものがマクロポーラスに分類される。界面活性剤ミセルを鋳型に用いたテンプレート法により製造されるメソポーラスシリカは、高い比表面積、均一な細孔径を有し、その構造的特徴から様々な分野に応用されている。現在までに、各種の界面活性剤を用いたメソポーラスシリカの合成法が確立されている(下記特許文献1、及び非特許文献1〜4参照)。また、ノニオン性界面活性剤は、電解質フリーの条件で容易にミセルや液晶などの自己組織化会合体を生成するため、これをテンプレートとするメソポーラスシリカも、原理的には電解質フリーのものとすることが可能である。これによって、電子材料を始めとするイオン性不純物を嫌う用途への応用が期待される。
【0003】
しかしながら、従来のテンプレート法に用いられているシリケートモノマーであるアルコキシシラン(ケイ素アルコキシド)は油溶性の物質であり、中性ではアルコキシ基の加水分解が起こりにくいため、実用的には、酸性あるいは塩基性の条件下で、必要に応じて可溶化剤としての低級アルコールを添加して加水分解を促進し、縮合性官能基であるシラノール基を生成させている。例えば、水ガラス、コロイダルシリカ、煙状シリカ、沈降シリカなどの無機性シリケートモノマーは、中性では自己縮合が進んでしまうため、通常、塩基性で保存し、そのままあるいは酸性の条件下で界面活性剤との反応に用いられている。このため、従来のシリケートモノマーでは、ノニオン界面活性剤の持つ電解質フリーでの会合体生成の利点をメソポーラスシリカ生成に十分に生かすことができないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−261326号公報
【非特許文献1】辰巳ら、マテリアル インテグレーション(Materials Integration)、2000年、第10巻、第13号、p.50
【非特許文献2】Huoら、ケミストリー オブ マテリアルズ(Chem.Mater)、1994年、第6巻、p.1176〜1191
【非特許文献3】國枝博信ら、「界面活性剤・両親媒性高分子の最新機能」、シーエムシー出版、2005年6月、第5章”1.テンプレート法によるメソポーラス材料開発”
【非特許文献4】Terasaki著、「MESOPOROUS AND RELATED NANO−STRUCTUREDMATERIALS」、ELSEVIER、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、界面活性剤会合体構造を鋳型として用い、電解質フリーの条件下において、メソポーラスシリカを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が前項課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ノニオン界面活性剤と、特定構造の水溶性シリケートモノマーとを用い、中性の条件下で反応させることによって、電解質フリーの条件下でメソポーラスシリカを調製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかるメソポーラスシリカは、下記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするものである。
(A)ノニオン界面活性剤
(B)下記一般式(1)で表される水溶性シリケートモノマー
Si−(OR (1)
(式中、Rは多価アルコール残基である。)
【0008】
また、前記メソポーラスシリカにおいて、(B)水溶性シリケートモノマーのRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基、あるいはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンの縮合物の残基のいずれかであることが好適である。
【0009】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカ複合体は、上記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするものである。また、本発明にかかるメソポーラスシリカ外殻は、上記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカ複合体の製造方法は、上記(A)および(B)の成分を、中性条件下で、水またはこれと相溶性のある有機溶媒と水との混合溶媒中で混合することを特徴とするものである。
【0011】
また、前記メソポーラスシリカ複合体の作成法において、(B)水溶性シリケートモノマーのRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基、あるいはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンの縮合物の残基のいずれかであることが好適である。
【0012】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカ外殻の製造方法は、前記製造方法により得られるメソポーラスシリカ複合体を、酸性水溶液、水、または水と相溶性のある有機溶媒あるいはその水溶液で洗浄し、成分(A)のノニオン界面活性剤を除去することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカの製造方法は、前記製造方法により得られるメソポーラスシリカ複合体または前記製造方法により得られるメソポーラスシリカ外殻を焼成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定構造の水溶性シリケートモノマーを用いることにより、中性条件下において、ノニオン性界面活性剤ミセルによる構造規則性の高いメソポーラスシリカを調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかるメソポーラスシリカは、下記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするものである。
(A)ノニオン界面活性剤
(B)下記一般式(1)で表される水溶性シリケートモノマー
Si−(OR (1)
(式中、Rは多価アルコール残基である。)
【0016】
本発明に用いられる(A)のノニオン界面活性剤は、特に制限されるものではなく、以下に例示する各種のノニオン界面活性剤を使用することができる。代表的なものとしてはポリオキシエチレン型ノニオン界面活性剤、ポリグリセリン型ノニオン界面活性剤、糖エステル型ノニオン界面活性剤等が挙げられ、また、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
より具体的には、例えば、POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、POE・POPアルキルエーテル、POE脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、POEグリセリン脂肪酸エステル、POEヒマシ油又は硬化ヒマシ油誘導体、POE蜜ロウ・ラノリン誘導体、アルカノールアミド、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POEアルキルアミン、POE脂肪酸アミド、糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、「POE」はポリオキシエチレン、「POP」はポリオキシプロピレンを意味し、以下このように記載することがある。
【0018】
POE型ノニオン界面活性剤において、そのアルキル基は、炭素原子数6〜22の飽和又は不飽和脂肪酸のアルキル基であり、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の単一組成の脂肪酸が挙げられ、この他にヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等の天然より得られる混合脂肪酸あるいは合成により得られる脂肪酸(分岐脂肪酸を含む)によるアルキル基であってもよい。また、アルキル基としては水素を任意の割合でフッ素に置換したフルオロアルキル基であってもよい。POE型ノニオン界面活性剤において、そのPOEの縮合数は、1〜50の範囲、より好ましくは5から20の範囲のものが用いられる。
【0019】
本発明に用いられる(B)の水溶性シリケートモノマーは、上記一般式(1)に示されるものである。上記一般式(1)に示される水溶性シリケートモノマーにおいて、Rは多価アルコールの残基であり、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。なお、前記水溶性シリケートモノマーは、通常、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rは、使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは−CH−CH−OHとなる。
【0020】
上記一般式(1)におけるRとしては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ポリプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ポリグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる(B)の水溶性シリケートモノマーとしては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる(B)の水溶性シリケートモノマーは、例えば、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることにより調製することができる。
【0023】
テトラアルコキシシランは、ケイ素原子に4つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いるテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを用いるのが最も好ましい。
【0024】
なお、テトラアルコキシシランの代替化合物として、モノ、ジ、トリハロゲン化アルコキシシラン、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン等、あるいはテトラハロゲン化シラン、例えばテトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。
【0025】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0026】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0027】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0028】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0029】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0030】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0031】
また、水溶性シリケートモノマーの製造において、反応の際の温度条件は特に限定されるものではないが、5〜90℃の温度条件下で行なうことが好ましい。90℃を超える温度条件下で反応を行なう場合、反応装置の耐久性等の実使用上の問題があり、さらに反応溶媒として高沸点溶媒を用いる必要があり、溶媒の完全な分離除去が困難となる。また、本発明の製造方法においては、常温条件下、すなわち5〜35℃の温度条件下で反応を行なうことがより好適である。ここで、常温条件下で反応を行なう場合には、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのいずれかを用いることが好ましい。その他の多価アルコール、例えば、グリセリンを用いた場合には、常温条件下では反応生成物を生じない場合がある。
【0032】
なお、水溶性シリケートモノマーの製造においては、反応時に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0033】
本発明にかかるメソポーラスシリカは、上記成分(A),(B)により誘導されるものである。以下、本発明にかかるメソポーラスシリカの製造方法について説明する。
【0034】
本発明においては、最初に、上記成分(A),(B)を用いてメソポーラスシリカ複合体の製造を行う。メソポーラスシリカ複合体の製造方法としては、通常の成分(A),(B)の溶媒中での混合法を用いることができる。この方法では、通常、成分(A)を溶媒に溶解したものに成分(B)を混合した後、一定時間所定の温度において静置ないし攪拌することによりメソポーラスシリカ複合体が製造される。
【0035】
メソポーラスシリカ複合体の製造に使用される溶媒としては、通常、水またはこれと相溶性のある有機溶媒と水との混合物を含む溶媒を使用することができ、成分(A)のノニオン界面活性剤の自己組織体生成を促進する観点で、好ましくは水単独、又はノニオン界面活性剤の溶解性向上のための各種アルコール類との混合溶媒であり、より好ましくは水単独、水−エタノールまたは水−メタノールの混合溶媒である。
【0036】
メソポーラスシリカ複合体製造の際の温度条件は特に制限されるものではないが、通常、室温から使用する溶媒の沸騰温度の範囲で行われるが、混合及び反応促進の観点から、好ましくは成分(A)のノニオン界面活性剤が会合体を安定に生成する温度範囲で製造される。使用する(A)のノニオン界面活性剤が、その水和物の融点に相当するクラフト温度、あるいはノニオン界面活性剤ミセルの可溶化限界温度である曇点を示す場合は、クラフト温度以上で曇点以下の温度が好ましい。
【0037】
メソポーラスシリカ複合体製造の際の反応時間は、通常、1分〜168時間の範囲で行われ、シリケートモノマーの加水分解、縮重合の観点から、好ましくは5分〜48時間であり、より好ましくは30分〜10時間である。
【0038】
本発明におけるメソポーラスシリカ複合体の製造は、中性条件下、具体的にはpH4〜10、特に好ましくはpH6〜8の範囲内で行われる。また、電解質を副生せずにシリケートモノマーの加水分解、縮重合を進行促進させる観点から、成分(A),(B)を水ないし水―アルコール混合溶媒中に溶解して行なわれる。なお、成分(A)と(B)の反応を加速する目的で、通常のテンプレート法によるメソポーラスシリカの製造と同様に、酸ないし塩基を添加する事は可能であるが、この場合には生成するメソポーラスシリカの使用目的に応じて、洗浄による電解質の除去を要する。
【0039】
本発明におけるメソポーラスシリカ複合体の製造において、成分(A)のノニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよく、3次元ミセル構造を形成する限り、特にその濃度は限定されるものではないが、溶液中の濃度は、通常0.01〜80重量%であり、好ましくは0.2〜30重量%、更に好ましくは1.0〜20.0重量%である。
【0040】
本発明におけるメソポーラスシリカ複合体の製造において、成分(B)の水溶性シリケートモノマーの成分(A),(B)合計に対する割合は、通常0.1〜98モル%、好ましくは1〜95モル%、さらに好ましくは10〜90モル%である。
【0041】
以上のようにして製造されるメソポーラスシリカ複合体の生成確認は、走査型ないし透過型電子顕微鏡観察、粉末X線回折などにより行うことができる。また、以上のようにして得られるメソポーラスシリカ複合体は、酸性水溶液、水、又は水と相溶性のある有機溶媒あるいはその水溶液で洗浄してメソポーラスシリカ外殻としたり、焼成してメソポーラスシリカとする他、水分および溶媒保持体として化粧品成分や塗料、建築材料その他各種複合材料に使用することが期待される。また、フィルムや薄膜に使用することが期待される。
【0042】
以上のようにして得られるメソポーラスシリカ複合体を、更に酸性水溶液、水、又は水と相溶性のある有機溶媒もしくはその水溶液で洗浄することにより、メソポーラスシリカ外殻を製造することができる。
【0043】
メソポーラスシリカ外殻の製造において使用される処理溶媒としては、特に限定されるものではなく、各種溶媒を使用することができるが、メソポーラスシリカ外殻の構造保持の観点で、好ましくは極性溶媒であり、より好ましくは水やアルコールである。
【0044】
メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理温度は、通常、室温から使用する溶媒の沸騰温度の範囲で行われるが、メソポーラスシリカ外殻の構造保持、メソポーラスシリカ外殻の収率、及び処理溶媒の沸点の観点で、好ましくは室温〜100℃であり、より好ましくは室温〜80℃である。
【0045】
メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理時間は、通常1〜72時間の範囲で行われるが、メソポーラスシリカ外殻の構造保持及びメソポーラスシリカ外殻の収率の観点から、好ましくは8〜48時間であり、より好ましくは24〜48時間である。
【0046】
メソポーラスシリカ外殻製造においては酸水溶液を使用してもよい。酸としては、特に限定されるものではなく、通常に存在する各種の酸を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸,シュウ酸及びリン酸であり、メソポーラスシリカ外殻の収率の観点から、好ましくは塩酸、酢酸、硝酸及び硫酸であり、より好ましくは塩酸及び酢酸である。
【0047】
以上のようにして製造されるメソポーラスシリカ外殻生成の確認は、粉末X線回折、窒素吸着・脱着測定、電子顕微鏡観察などにより行うことができる。また、以上のようにして得られるメソポーラスシリカ外殻は、ノニオン界面活性剤の自己組織化構造をテンプレートとして得られたメソポーラス空間との相互作用を利用して、混合物からの特定分子の吸着分離材料、あるいは特定物質を吸着した複合体としての使用が期待される。また、フィルムや薄膜に形態を変化させて使用することも期待される。
【0048】
そして、以上のようにして得られたメソポーラスシリカ複合体またはメソポーラスシリカ外殻を焼成することによって、本発明にかかるメソポーラスシリカを製造することができる。
【0049】
メソポーラスシリカ製造の際の焼成温度は、通常、300〜900℃の範囲で行われるが、メソポーラスシリカの構造保持及び界面活性剤の完全除去の観点で、好ましくは400〜650℃であり、より好ましくは500〜600℃である
【0050】
メソポーラスシリカ製造の際の焼成時間は、通常、2〜24時間の範囲で行われるが、界面活性剤の完全除去の観点で、好ましくは4〜12時間であり、より好ましくは6〜10時間である。
【0051】
以上のようにして製造されるメソポーラスシリカは、従来公知の製造法により得られるものと同様に、触媒、吸着剤等として使用することができる。触媒や吸着剤等として使用する場合には、本発明のメソポーラスシリカ複合体、メソポーラスシリカ外殻、およびメソポーラスシリカは、差支えがなければ、これらの2種または3種を組み合わせて同時に使用することもできる。
【実施例1】
【0052】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
まず最初に、本発明に用いた水溶性シリケートモノマーの製造方法について説明する。
合成例1
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)と、エチレングリコール24.9g(0.4モル)とをアセトニトリル150ml中に添加し、さらに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.8gを添加した後、室温で混合攪拌した。当初、二層に分離していた反応液は約一時間後に均一に溶解した。その後、5日間攪拌を続けた後、固体触媒をろ過分離し、アセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体39gを得た。NMR分析の結果、生成物が目的とする(テトラ(2−ヒドロキシエトキシ)シラン)であることを確認した(収率:72.5%)。
【0054】
メソポーラスシリカの製造
本発明者らは、上記合成例に準じて水溶性シリケートモノマーを調製し、ノニオン界面活性剤と当該水溶性シリケートモノマーを用いて、メソポーラスシリカの調製を試みた。
実施例1
界面活性剤POE(20モル)オレイルエーテル(0.4g)をイオン交換水(3.6g)に加え、均一な溶液になるまで撹拌した後、テトラ(ヒドロキシエトキシ)シラン(1.0g)を加えてさらに1時間撹拌した。溶液は透明で均一な外観を呈した。溶液を25℃で8時間静置したところ、水溶液全体に薄い濁りが生じ、さらに16時間静置したところ、全体が白濁してゲル化した。このゲルを凍結乾燥して水分を除いた後、エタノールを加えて37℃で一夜静置し、界面活性剤を含んだエタノール溶液を除去した。残った白色粉末をエバポレータにより乾燥し、シリカ粉末を得た。
【0055】
上記実施例1により得られたシリカ粉末を透過型電子顕微鏡で観察した。写真図を図1に示す。図1より、中央部に波状の模様が見られ,10〜20nmの細孔が存在することが確認された。
【0056】
比較例1
界面活性剤POE(20モル)オレイルエーテル(0.4g)をイオン交換水(3.6g)に加え、テトラエトキシシラン(1.0g)を加えて攪拌した。攪拌直後、混合物は白濁した油相と透明な水相とに分離した外観を呈した。この混合物を25℃で24時間静置したところ、油相が白濁したままゲル化した。このゲル部分を凍結乾燥して水分を除いたあと、エタノールを加えて37℃で一夜静置し、界面活性剤を含んだエタノール溶液を除去した。残った白色粉末をエバポレータにより乾燥し、シリカ粉末を得た。
【0057】
上記比較例1により得られたシリカ粉末を電子顕微鏡観察したところ、不定形のシリカ粉末であることが確認された。
【0058】
使用するノニオン性界面活性剤の種類を各種変化させ、上記実施例1と同様の手順により、メソポーラスシリカの調製を試みた。結果を下記表1に示す(表中の数字は配合量(単位:g)を表す)。また、シリケートモノマーとして従来より汎用されているテトラエトキシシランを用いた結果を、比較例として併せて示す。
【0059】
【表1】

【0060】
シリケートモノマーとして水溶性であるテトラ(ヒドロキシエトキシ)シランを用いた場合(実施例2〜4)、各種界面活性剤水溶液と混合した際、速やかに透明均一となり、少なくとも24時間後には、シリカ生成による系全体のゲル化或いはシリカ粉末の沈降が見られた。また、得られたシリカは、電子顕微鏡観察によりメソポーラス構造を有していることが判った。
これに対して、シリケートモノマーとしてテトラエトキシシランを用いた場合には、水溶液と均一に混ざり合わないためにシリカの生成が非常に遅く、比較例2及び4についてはシリカ生成が全く起こらず、またシリカ生成の起こった比較例3の場合でも、部分的にシリカ生成が起こっただけであった。そして、このような水溶液と均一に混合できないシリケートモノマーを用いてメソポーラスシリカを得るためには、水溶液を酸性ないしは塩基性とした上に、可溶化剤として低級アルコールを加える既知の方法を採用しなくてはならない。
【0061】
つづいて、ノニオン界面活性剤の濃度を各種変化させ、上記実施例1と同様の手順により、メソポーラスシリカの調製を試みた。結果を下記表2に示す(表中の数字は配合量(単位:g)を表す)。また、テトラエトキシシランを用いた結果を比較例として併せて示す。
【0062】
【表2】

【0063】
水溶性のシリケートモノマーを用いた実施例6〜8については、24時間以内にシリカの生成またはシリカ生成による溶液の透明ゲル化が起こった。実施例6〜8においては、界面活性剤水溶液が、それぞれ、ミセル相、キュービック相、ヘキサゴナル相をとるが、いずれの相状態においてもシリケートモノマーと相溶し、速やかにシリカの生成が起こった。これに対して、水不溶性であるシリケートモノマーを用いた比較例5〜7の場合は、シリケートモノマーと界面活性剤水溶液がほとんど溶け合わず、混合後1週間経過してもシリカ生成は観察されなかった。
【0064】
実施例9
界面活性剤POE(10モル)フィトステロールエーテル(0.8g)をイオン交換水(3.2g)に加え、均一になるまで撹拌した。顕微鏡観察等によりこの界面活性剤溶液はネマチックキラル液晶相であることを確認した。この液晶にテトラ(ヒドロキシエトキシ)シラン(1.0g)を加えて10分撹拌した。溶液は透明で均一な外観を呈した。溶液を25℃で3時間静置したところ溶液全体が白濁し、さらに17時間静置したところ溶液全体が白濁したままゲル化した。このゲルを凍結乾燥して水分を除いた後、エタノールを加えて37℃で一夜静置し、界面活性剤を含んだエタノール溶液を除去した。残った白色粉末をエバポレータにより乾燥し、シリカ粉末を得た。
【0065】
上記実施例9により得られたシリカ粉末を透過型電子顕微鏡で観察したところ、10〜20nmの規則性のある波状細孔が確認された。
【0066】
実施例10
イオン交換水(270g)と界面活性剤POE(10モル)コレステロールエーテル(15g)を混合し、均一になるまで攪拌した。この溶液にテトラ(ヒドロキシエトキシ)シラン(15g)を加えて60℃で24時間静置したところ、溶液からシリカが生成して沈降した。ろ別して得られたシリカを90℃で24時間静置して乾燥させた後、エタノールを加えて常温で一夜攪拌した。界面活性剤を含んだエタノール溶液を除去した後、80℃で5時間静置し、エタノールを除去してシリカ粉末(3.0g)を得た。
【0067】
上記実施例10により得られたシリカ粉末を透過型電子顕微鏡で観察した。写真図を図2に示す。図2に示すように、実施例10により規則性のある線状かつ板状のシートが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明にかかる実施例1のメソポーラスシリカ粉末を透過型電子顕微鏡を用いて撮影した写真図である。
【図2】本発明にかかる実施例10のメソポーラスシリカ粉末を透過型電子顕微鏡を用いて撮影した写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするメソポーラスシリカ。
(A)ノニオン界面活性剤
(B)下記一般式(1)で表される水溶性シリケートモノマー
Si−(OR (1)
(式中、Rは多価アルコール残基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のメソポーラスシリカにおいて、(B)水溶性シリケートモノマーのRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基、あるいはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンの縮合物の残基のいずれかであることを特徴とするメソポーラスシリカ。
【請求項3】
上記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするメソポーラスシリカ複合体。
【請求項4】
上記(A)および(B)の成分から誘導されることを特徴とするメソポーラスシリカ外殻。
【請求項5】
上記(A)および(B)の成分を、中性条件下で、水またはこれと相溶性のある有機溶媒と水との混合溶媒中で混合することを特徴とするメソポーラスシリカ複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のメソポーラスシリカ複合体の製造方法において、(B)水溶性シリケートモノマーのRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基、あるいはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンの縮合物の残基のいずれかであることを特徴とするメソポーラスシリカ複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法により得られるメソポーラスシリカ複合体を、酸性水溶液、水、または水と相溶性のある有機溶媒あるいはその水溶液で洗浄し、成分(A)のノニオン界面活性剤を除去することを特徴とするメソポーラスシリカ外殻の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の製造方法により得られるメソポーラスシリカ複合体または請求項7に記載の製造方法により得られるメソポーラスシリカ外殻を焼成することを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−45692(P2007−45692A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234777(P2005−234777)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】