説明

メソラクチド流からの乳酸等価体の回収

出発ラクチド流中のラクチドの一部を180℃以下の温度で触媒作用によりラセミ化することにより、乳酸等価体を出発ラクチド流から回収する。これにより、第3の種を犠牲にしてラクチドの2つの種(すなわち、S,S−、R,R−又はメソラクチドの少なくとも2つ)の割合が増加する。そのようにして得られるラセミ化混合物を溶融結晶化又は蒸留などの方法により分離して、1つ又は複数のラクチド種の一部又はすべてを残存ラクチド種から回収することができる。出発ラクチド流中の不純物は通常、残存メソラクチド中に大部分保持されており、したがって、高度に精製されたS,S−及び/又はR,R−ラクチド流をこのようにして製造することができる。そのような精製S,S−及びR,R−ラクチド流は、ポリラクチドを生成する重合に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月13日に出願した米国仮特許出願第61/159,929号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、ラクチド及びポリ(乳酸)(ポリラクチド)樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ラクチドは、ポリラクチド樹脂を製造するために重合させるモノマーである。乳酸からのポリマーグレードのラクチドの大規模製造に適する方法は、例えば、米国特許第5,247,058号、第5,258,488号、第5,357,035号、第5,338,822号、第6,005,067号、第6,277,951号及び第6,326,458号に記載されている。これらの特許に記載されている方法は、一般的に、乳酸を重合させて低分子量ポリマーを生成し、次に低分子量ポリマーを解重合することを含む。解重合ステップで、ラクチドが生成する。次にラクチドを精製して、それを例えば、水、残留乳酸、線状乳酸オリゴマー及び他の不純物を含む可能性がある不純物から分離する。
【0004】
乳酸は、1つのキラル中心を有する分子であり、したがって、いわゆるR−(又はD)及びS−(又はL)鏡像異性体の2つの光学異性体として存在する。ラクチドを製造する原料として用いられる乳酸は、通常、非常に高い光学純度を有する。乳酸は、ラクチドを生成するステップを通るので、高温にさらされ、乳酸単位の一部が1つの光学異性体からもう1つのものに変換して、R−及びS−鏡像異性体の混合物を形成する。有機化合物の1つの光学異性体をもう1つのものに変換する工程は、「ラセミ化」として公知である。
【0005】
ラクチドは、3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオンを形成する乳酸の2つの分子の縮合生成物に相当する。したがって、ラクチドは、それぞれが式Cを有する2つの「乳酸単位」で構成されているとみなすことができる。ラクチド分子における各乳酸単位は、1つのキラル中心を含み、R体又はS体として存在する。ラクチド分子は、次の3つの形のうちの1つの形をとり得る:3S,6S−3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン(S,S−ラクチド)、3R,6R−3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン(R,R−ラクチド)又は3R,6S−3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン(R,S−ラクチド又はメソラクチド)。これらは、以下の構造
【0006】
【化1】

を有する。S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドは、鏡像異性体の対であるが、メソラクチドは、ジアステレオマーである。
【0007】
商業的に製造されている大部分の乳酸がS−鏡像異性体である。したがって、S−乳酸がラクチドに変換されるとき、主生成物はS,S−ラクチドである。しかし、S−乳酸の一部がR−乳酸にラセミ化するので、若干のR,R−ラクチドと若干のメソラクチドも生成する。低分子量ポリマーが解重合するときに生成するS,S−ラクチド、メソラクチド及びR,R−ラクチドの比率は、以下のように推定することができる:
S,S−ラクチドモル分率≒(F
R,R−ラクチドモル分率≒(F
メソラクチドモル分率≒2F
ここで、Fは、R−乳酸鏡像異性体のモル分率であり、Fは、解重合してラクチドを形成する低分子量ポリマー中のS−乳酸鏡像異性体のモル分率である。S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドの製造への小さい速度論的偏りが存在し、したがって、前記の推定は、生成するメソラクチドの量をわずかに過大評価するものである可能性がある。通常のようにFがFより小さい場合、メソラクチドの分率は、R,R−ラクチドの分率より大きい。R,R−ラクチドの分率は、しばしばかなり小さい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メソラクチドをラクチド流の残りから分離することが通常必要である。これについては2つの理由がある。1つは、重合ステップに供されるラクチド流中のR−乳酸単位の割合を制御することに関連する。S−乳酸単位とR−乳酸単位との比率が、ラクチド流を重合することにより製造されるポリラクチドの結晶特性に著しい影響を及ぼし得るので、ラクチド流中のS−乳酸単位とR−乳酸単位との比率を制御することは重要である。ラクチド流からメソラクチドを除去することは、結晶度のより高いポリラクチドの製造につながる、R−乳酸単位の割合を低下させる効果を持つ。
【0009】
第2の理由は、ラクチドから特定の不純物を除去することに関連する。蒸留及び溶融結晶化などの特定の一般的な分離方法は、メソラクチド流中に不純物を濃縮し、それにより、S,S−及びR,R−ラクチド流をさらに精製する傾向がある。
【0010】
分離されたメソラクチド流は、回収することができるならば価値のある乳酸等価体を含む。しかし、不純物が当流れ中に濃縮された状態になる傾向があるため、かなりの量の浄化が必要である。この流れから特定の不純物を経済的に除去することは困難であった。不純物の少なくとも一部はメソラクチドの揮発度と非常に近い揮発度を有するため、蒸留法は、商業規模では効果的ではない。他の問題は、メソラクチド流は、高い割合のS−及びR−乳酸単位を含むため、非常に光学的に不純である。メソラクチド流は、半結晶性ポリラクチドを製造するために小さい割合(約15重量%未満のメソラクチド)でS,S−ラクチド流と混合することができるが、それ自体で又はより高い割合で重合させる場合には非晶性ポリラクチドグレードのみを生成する。これらの問題の結果として、メソラクチドの大部分又はすべてが、通常、廃棄されるか、又はより価値が低い他のポリマー以外の用途に用いられる。これらの問題は、総合的な収率を低下させ、工程の総合的なコストを増加させる。
【0011】
今しがた述べたような場合、ポリラクチドを製造するのに用いることができる形でメソラクチド流から乳酸等価体を回収することによって、これらの収率の損失を少なくすることが望ましいことになる。乳酸又は線状乳酸オリゴマーの形よりもむしろ、主としてラクチドの形でそれらの乳酸等価体を回収することがさらに望ましい。
【0012】
問題をより一般的に述べると、利用可能なラクチド流が、特定の用途に必要なものと異なるジアステレオマー及び/又は鏡像異性体組成を含む状況が時折存在する。最も通常の場合は、メソラクチド流が利用可能であり、S,S−ラクチド及び/又はR,R−ラクチドが必要とするものである、今しがた述べた場合である。しかし、他の場合が存在し得る。例えば、メソラクチドに富む流れが必要である場合、利用可能なラクチド流は、主としてS,S−又はR,R−ラクチドを含んでいてよい。他の可能なシナリオにおいて、R,R−ラクチドが必要であるが、主としてS,S−流が利用可能であり得、又は逆もまた同様である。これらの状況のそれぞれにおいて、利用可能なラクチド流から必要とするラクチド生成物をできる限り多く抽出し、そのようにして収率損失を減らすことが望ましい。
【0013】
他の所望の結果は、所望のラクチド生成物を多少精製された状態で得ることであろう。下でより十分に述べるように、メソラクチドをS,S−ラクチド及び/又はR,R−ラクチドから分離する特定の製造工程において、不純物の多くは、メソラクチド流中に濃縮された状態になる傾向がある。例えば、メソラクチドを他の形から除去するための蒸留及び溶融結晶化法は、不純物をメソラクチドとともに優先的に残し、比較的に清浄であるS,S−ラクチド及び/又はR,R−ラクチドの流れを生成する。メソラクチドとともに残存する不純物は、それから分離することがしばしば困難である。これらの不純物で汚染されているメソラクチド流からラクチド値を回収することができ、回収されたラクチド値がそれらの不純物を比較的含まない、方法を提供することが望ましい。
【0014】
乳酸は容易にラセミ化することがあり得、乳酸オリゴマー内のラクチド単位は異性化し得るが、ラクチド自体がどのような妥当な条件下でもラセミ化することは公知ではない。Tsukegiらは「Racemization behavior of L,L-lactide during heating」、Polym. Degradation and Stability、92巻(2007年)、552〜559頁においてL,L−ラクチドからD,D−ラクチド及びメソラクチドへのラセミ化が起こり得ることを報告している。しかし、ラセミ化は270℃未満の温度では非常にゆっくり進行し、それらの温度では大量のオリゴマーが生成する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、一態様において、a)出発ラクチド組成物中のラクチドの少なくとも一部をラセミ化して出発ラクチド組成物中と異なる相対的割合のメソラクチド、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを含むラセミ化ラクチド混合物を生成するのに十分な時間にわたりラセミ化触媒の存在下で出発ラクチド組成物を180℃までの温度にさらすステップを含む、出発ラクチド組成物から乳酸値を回収する方法である。
【0016】
接触ラセミ化は、乳酸又は乳酸オリゴマーなどの大量の開環種を生成せずに商業的に妥当なラセミ化速度を達成することを可能にする。本方法は、メソラクチドからS,S−及びR,R−ラクチドを製造するのに特に有用であるが、所望の場合、S,S−及び/又はR,R−ラクチドからメソラクチドを、R,R−ラクチドからS,S−ラクチドを、又はS,S−ラクチドからR,R−ラクチドを製造するのにも有用である。
【0017】
好ましい方法は、ラセミ化ラクチド混合物と比べてS,S−ラクチド、R,R−ラクチド若しくはメソラクチド、又はそれらのいずれか2つが多く含まれる少なくとも1つのラクチド生成物を得るためのラセミ化ラクチド混合物を分離するさらなるステップb)を含む。
【0018】
有用なラセミ化触媒としては、金属カルボン酸塩、金属スルホン酸、スルフィン酸、ホスホン酸若しくはホスフィン酸塩、又は非求核性鎖状若しくは環状第三級アミン化合物などがある。
【0019】
本発明の目的のために、「ラセミ化する」又は「ラセミ化」という用語は、ラクチドの1つのジアステレオマー又は鏡像異性体形、すなわち、S,S−ラクチド、R,R−ラクチド又はメソラクチドがラクチドの他のジアステレオマー又は鏡像異性体形に変換された状態になる工程を単に意味する。これは、特にメソラクチドがラセミラクチドを生成する過程を含む、メソラクチドが等しい速度でS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドに異性化する場合を含む。これはさらに、S,S−ラクチド又はR,R−ラクチドのメソラクチドへの変換を含む。それらの用語は、特定の実施形態においてこの出来事が起こる可能性はあるが、すべてのラクチド形の間の化学平衡に達するまで異性化が継続することを意味するものではない。
【0020】
「ラセミ化ラクチド混合物」は、本方法のステップa)で、すなわち、出発ラクチド流のラセミ化により生成するS,S−、R,R−及びメソラクチドの混合物を意味する省略表現として本明細書で用いる。同様に、「ラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチド」という用語は、本方法のステップa)で、すなわち、出発ラクチド組成物のラセミ化により生成するS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを意味する省略表現として用いる。この文脈における「ラセミ化」という用語は、その供給源以外に指定の材料の任意の特定の特性又は組成を指定することを意図するものでない。
【0021】
「ラセミラクチド」は、約127℃の融解温度を有するS,S−乳酸及びR,R−ラクチックの約50/50混合物を意味する。
【0022】
本方法は、少なくとも3つの主要な利点を有する。第1に、出発ラクチド流からの乳酸等価体は、乳酸又は乳酸オリゴマーとしてより、主としてラクチド(すなわち、S,S−、R,R−及び/又はメソラクチド)の形で回収可能である。わずかな出発ラクチドは、反応して乳酸又は線状乳酸オリゴマーなどの加水分解種を生成する。それよりむしろ、出発ラクチドは、開環中間体を経ることなく、直接ラセミ化すると考えられている。得られるラクチド生成物は、ある場合には重合に直接送ることができ、他の場合には必要な場合にそれをさらに精製するためにラクチド製造工程内の様々な箇所にリサイクルすることができる。いずれの場合にも、出発ラクチドから乳酸等価体がラクチド分子の形で回収され、工程損失が減少する。
【0023】
第2の利点は、不要なラクチドの量がそれに応じて減少することである。したがって、より少量のラクチドは、廃棄するか、又はより低い価値の用途に用いなければならない。下で述べるように、分離ステップの後に残存するラクチドは、1つ又は複数の上流工程に戻してリサイクルすることができる。
【0024】
第3の主要な利点は、不純物が、ラセミ化及び分離ステップの後に残存するラクチド中に濃縮された状態になる傾向があることである。これは、特に、残りのラクチドがメソラクチド中に富む場合に当てはまる。結果として、ラセミ化ラクチド混合物と比べてS,S−及び/又はR,R−ラクチドが多く含まれ、メソラクチドが減少しているステップb)において得られるラクチド生成物は、本方法の結果としてしばしば精製されている。このことは、当ラクチド生成物中の不純物の濃度が出発ラクチド組成物中より低いことを単に意味する。ラセミ化ラクチド混合物と比べてS,S−及び/又はR,R−ラクチドが多く含まれるが、メソラクチドが減少している本方法のステップb)から得られるラクチド生成物は、しばしば、ほとんど又は全くさらなる精製なしに重合させてポリラクチド樹脂を製造することができる。
【0025】
特定の実施形態において、出発ラクチド組成物は、ラクチド混合物を分離してメソラクチドが多く含まれる流れ並びにメソラクチド流と比べてメソラクチドが減少しているS,S−及びR,R−ラクチド流を生成することにより製造する。これらの流れのいずれも、出発ラクチド組成物として本方法において用いることができるが、メソラクチドが多く含まれる流れが好ましい出発ラクチド組成物である。より具体的には、特定の実施形態において、出発ラクチド組成物は、
1)低分子量ポリ乳酸を生成し、
2)低分子量ポリ乳酸を解重合して、粗ラクチドを生成し、次に、
3)A)メソラクチド流が生成し、
B)メソラクチド流と比べてメソラクチドが減少しているS,S−及びR,R−ラクチド流が生成するように
1つ又は複数のステップで粗ラクチドからメソラクチドを除去すること
により製造する。これらの実施形態において、ステップ3)において生成するメソラクチド流を本発明のラセミ化工程に供する。
【0026】
ステップ3)における粗ラクチドからメソラクチドを除去するステップは、粗ラクチドについて分別蒸留を実施することにより行うことが好ましい。他のアプローチにおいて、ステップ3)を溶融結晶化により行い、メソラクチド流を溶融結晶化における残留流として生成させる。溶媒結晶化などの他の分離方法も用いることができる。粗ラクチドからメソラクチドを除去するステップは、好ましくは粗ラクチド中の不純物がメソラクチド中に濃縮された状態になるように実施する。
【0027】
前述の態様及び特定の実施形態のそれぞれにおいて、本方法のステップa)において生成した又は本方法のステップb)において回収されたラセミ化ラクチド生成物のすべて又は一部は、さらなる精製を加え又は加えずに、場合によって、上のステップ3)においてメソラクチドを粗メソラクチド流から分離するときに得られるS,S−及びR,R−ラクチド流などの他の源のラクチドとの混合物として重合させて、ポリラクチドを生成することができる。
【0028】
最も重要な出発ラクチド組成物はメソラクチド組成物であると考えられるので、本発明は、その観点からより詳細に述べることとする。出発ラクチド組成物が主としてS,S−ラクチド、主としてR,R−ラクチド、又は主としてS,S−ラクチドとR,R−ラクチドとの混合物を含む場合、本方法は、下でより詳細に述べるのと完全に同様な態様で機能する。
【0029】
ラクチドを製造する様々な方法が公知であり、メソラクチドとS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドの少なくとも1つとの混合物を製造するならば、本発明は、それらの方法のいずれかとともに用いることができる。一般的に、これらの方法は、乳酸又は乳酸塩若しくは乳酸エステルなどの乳酸誘導体から始まる。ラクチドを製造する特に有用な方法において、乳酸又は誘導体を重合させて低分子量ポリ乳酸を生成し、それを解重合させてラクチドを生成する。これらのような方法は、USP5,536,807、6,310,218及びWO95/09879に記載されている。これらの方法は、S,S−ラクチド、R,R−ラクチド及びメソラクチドの混合物を生成する。
【0030】
低分子量ポリ乳酸は、水中、又はさほど好ましくはないが、他の溶媒中60〜95重量%の乳酸又は乳酸誘導体を含む濃縮乳酸又は乳酸誘導体流を生成することによって適切に調製される。この流れは、濃縮流が生成するときに生成するいくつかのオリゴマー種を含んでいてよい。次にこの出発物質を、蒸発器中で水(又は乳酸エステルの場合には低級アルコール)及び溶媒(もしあるとすれば)を除去することによりさらに濃縮する。これにより、乳酸又は乳酸誘導体が縮合し、水又は低級アルコールが縮合副生成物として除去される。これは平衡反応であるので、縮合副生成物の除去が、乳酸又は乳酸誘導体のさらなる縮合に有利に働く。このようにして生成した低分子量ポリ乳酸は、約5000まで、好ましくは400〜3000の分子量を有する。
【0031】
次に低分子量ポリ乳酸を、通常、解重合触媒の存在下で高温及び減圧にさらすことにより解重合する。条件は、(1)滞留時間を最小限にし、そうすることで解重合の前に起こり得るラセミ化の量が減少し、(2)生成するラクチドを蒸発させるように一般的に選択する。解重合反応は、通常、スズ又は他の金属触媒と触媒する。重合反応と同様に、解重合は平衡反応であり、生成するときのラクチドの除去が、さらなるラクチドの生成に有利に働く。したがって、粗ラクチドを続けて除去することが好ましい。粗ラクチドは、好ましくは蒸気として除去する。WO95/09879に記載されているように、このステップ中に1つ又は複数の安定化剤が存在してよい。
【0032】
前述の方法に用いる出発物質は、通常非常に高い光学純度を有するものである。すなわち、1つの鏡像異性体が高度に優勢である。乳酸又は誘導体はラクチドを生成するステップを経るので、乳酸又はオリゴマー化乳酸における乳酸単位の一部がラセミ化し、S−及びR−鏡像異性体の混合物が生成する。
【0033】
既に述べたように、低分子量ポリ乳酸が解重合するときに生成する粗ラクチドは、低分子量ポリ乳酸中のS−及びR−鏡像異性体の割合に従って全面的ではないが、概して統計的に決まる比率のS,S−ラクチド、R,R−ラクチド及びメソラクチドを含む。本発明の最も重要なものは、約0.5〜約30重量%、特に2〜30重量%のメソラクチド(混合物におけるラクチドの合算した重量に基づいて)を含む粗ラクチド混合物である。それらの混合物中の残りのラクチドは、主としてS,S−ラクチド又は主としてR,R−ラクチドである。通常の場合、S,S−ラクチドが優勢種であり、R,R−ラクチドが非優勢である。以下の議論を簡略化するために、S,S−ラクチドが粗ラクチド中の優勢ラクチド種であると仮定する。しかし、本発明は、主としてS,S−ラクチド又は主としてR,R−ラクチドである粗ラクチドを用いて同等に十分に実施することができる。
【0034】
解重合ステップにおいて生成する粗ラクチドは、通常、ラクチドに加えて、残留水、若干の乳酸(又は出発物質として用いる場合、乳酸塩若しくはエステル)、若干の乳酸の線状オリゴマー及び他の反応副生成物などの不純物を含む。メソラクチドをS,S−及びR,R−ラクチドから分離する。粗ラクチド流は、この分離の前に又はそれと同時に1つ又は複数の精製ステップを受けてもよい。例えば、粗ラクチドを部分的に凝縮させて、より揮発性の高い不純物からそれを分離してもよい。或いは、米国特許第6,310,218号に記載されているような溶融結晶化法により粗ラクチドを精製することができる。第3のアプローチは、水、残留乳酸又は乳酸エステル出発物質及び他の小有機化合物などのメソラクチドより著しく揮発性の高い不純物の一部又はすべてを蒸留により除去することである。そのような蒸留ステップは、メソラクチドをS,S−及びR,R−ラクチドから分離する分別蒸留ステップの前に又はそれと同時に実施することができる。
【0035】
メソラクチドは、蒸留、溶融結晶化又は他の適切な方法によりS,S−及びR,R−ラクチドから分離することができる。経済的な理由から、蒸留法は好ましくは大規模である。分離は、メソラクチド流とS,S−及びR,R−ラクチド流を生じさせる。
【0036】
メソラクチドを粗ラクチド流から分離することによって得られるS,S−及びR,R−ラクチド流は、粗ラクチド流中に存在していたS,S−及びR,R−ラクチドの本質的にすべてを含み、若干のメソラクチドを含むことがある。メソラクチド組成物は、主としてメソラクチドを含む。本発明の目的のために、メソラクチド組成物は、少なくとも60重量%のメソラクチドを含むとみなされ、組成物中のラクチドの総重量に基づいて少なくとも80重量%又は少なくとも90重量%のメソラクチドを含んでいてよい。メソラクチド組成物は、少量のS,S−又はR,R−ラクチドを含んでいてよいが、これらは、一緒に一般的にメソラクチド組成物のラクチド含量の約40重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下を構成する。したがって、メソラクチド組成物は、S,S−及びR,R−ラクチド流と比較して、また粗ラクチドと比較して、メソラクチドが多く含まれている。
【0037】
不純物の一部は、メソラクチド及びS,S−又はR,R−ラクチドと非常に類似した揮発度を有するため、蒸留法でラクチドから分離することが困難である。プロセス経済性は、必要な装置の費用、操業率に対する影響又は両方の何らかの組合せのため、このさらなる分離を蒸留塔で行うことを不可とするものである。これらの全部でないが、大部分が分別蒸留ステップの後にメソラクチド流又はS,S−及びR,R−ラクチド流に残存する。メソラクチドをS,S−及びR,R−ラクチドから分離する場合、特に分離を分別蒸留により実施する場合、不純物は、メソラクチド流中でより濃縮された状態になる傾向がある。したがって、一般的に、メソラクチド流は、粗ラクチド流並びにS,S−及びR,R−ラクチド流と比べて不純物が多く含まれる。S,S−及びR,R−ラクチド流は、粗ラクチド流及びメソラクチド流と比べて不純物が著しく減少している。
【0038】
ラセミ化に供される出発ラクチド組成物(上述のようなメソラクチド組成物など)は、約20重量%まで、より一般的には約5重量%までの不純物(すなわち、ラクチドの種以外の物質)を含んでいてよい。しかし、出発ラクチド組成物は、50ミリ当量/グラム以下のヒドロキシル含有種、好ましくは20ミリ当量/グラム未満のヒドロキシル含有種を含むべきである。
【0039】
上述の方法で(又は他の適切な方法により)生成したメソラクチド流などの出発ラクチド組成物は、本発明の方法のステップa)に取り入れられる出発物質を形成する。組成物中のS,S−、R,R−及びメソラクチドの割合が変化した状態になるように、出発ラクチド組成物を、ラセミ化触媒の存在下で出発ラクチドの一部をラセミ化するのに十分な時間にわたり180℃までの温度でラセミ化する。出発ラクチド組成物がメソラクチド組成物である場合、ラセミ化の正味の効果は、メソラクチドをラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドに変換することである。したがって、S−乳酸単位がR−乳酸単位に変換され、又は逆もまた同様である。メソラクチド分子のS−乳酸単位がラセミ化するとき、メソラクチド分子はR,R−ラクチドに変換される。同様に、メソラクチド分子のR−乳酸単位がラセミ化するとき、S,S−ラクチドの分子が形成される。
【0040】
メソラクチド、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドはすべて、ラセミ化反応条件下でラセミ化し得る。メソラクチドの分子は、S,S−ラクチド又はR,R−ラクチドへのラセミ化の統計的に同等の可能性を有する。S,S−ラクチド及びR,R−ラクチド分子が形成されるとき、これらは、もとのメソラクチドへもラセミ化し得る(これがS,S−又はR,R−ラクチドに再びラセミ化し得る)。同様に、出発混合物中の任意のS,S−又はR,R−ラクチドは、メソラクチドにラセミ化し得る。ラセミ化反応はランダムである(1つ又は複数のラクチド形が選択的に除去されない限り、温度依存的化学平衡状態に向かう傾向がある)ので、生成物の除去がないと仮定すると、ある所定の時点におけるラセミ化混合物中に存在するメソラクチド、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドの割合は、(1)出発混合物中のメソ、S,S−及びR,R−ラクチドの割合、(2)ラセミ化温度、(3)触媒の種類と量及び(4)混合物がラセミ化条件に曝露される時間の長さに依存する。時間の経過とともに、S,S−、メソ及びR,R−ラクチドのそれぞれの割合は、温度依存性である平衡状態に向かって変化する。
【0041】
ラセミ反応の温度は、3つの主要な効果を有する。ラセミ化速度は温度の増加とともに増加し、したがって、より速い反応速度が必要又は望まれる場合には、より高い温度が有利である。他方で、ラセミ化温度がより高くなるにつれて、より多くの反応副生成物、特に線状乳酸オリゴマーが生成する。さらに、ラセミ化温度は、生成するS,S−、メソ及びR,R−ラクチドの平衡割合に影響を及ぼし、平衡は、より高い温度で、より多くのメソラクチドの生成側に移動する。例えば、160℃では、ラセミ化ラクチド混合物は、時がたてばS,S−及びR,R−ラクチドのそれぞれ約36%並びにメソラクチドの約28%の平衡比率に到達する。140℃では、この平衡比率は、S,S−及びR,R−ラクチドのそれぞれ約38%並びにメソラクチドの24%である。105〜120℃では、平衡比率は、S,S−及びR,R−ラクチドのそれぞれの約40〜42%並びにメソラクチドの約15〜20%である。もちろん、ラセミ化反応が進行するときにS,S−及びR,R−ラクチドを除去することにより平衡を移動させることによって、より多くのS,S−及びR,R−ラクチドを生成させることができる。
【0042】
したがって、ラセミ化温度は、ある特定の場合にこれらの効果を均衡させるように選択すべきである。ラセミ化温度は、約56℃であるメソラクチドの融解温度を超えるべきである。より好ましくは、ラセミ化温度は、少なくとも97℃である。有意な量の線状乳酸オリゴマーの生成を避けるために、ラセミ化温度は、180℃以下、好ましくは170℃以下である。あまりにも多くの線状乳酸オリゴマーが生成する場合、収率の損失、精製費用の増加又は両方をもたらし得る、それらをS,S−及びR,R−ラクチドを重合反応に用いることができる前に除去しなければならない。
【0043】
いくつかの実施形態において、ラセミ化温度は、S,S−及びR,R−ラクチドの50/50混合物である、いわゆるラセミラクチドの融解温度(127℃)を超える。それらの実施形態において、特に好ましいラセミ化温度範囲は、約135〜170℃、特に約140〜160℃である。
【0044】
他の実施形態において、ラセミ化温度は、ラセミラクチドの融解温度以下である。それらの場合、好ましいラセミ化温度は、90〜125℃、特に90〜115℃、好ましくは90〜100℃である。これらの条件下では、化学平衡の状態にあるR,R−及びS,S−ラクチドの濃度が選択される温度における溶解度限を超える状況に混合物を導くことができる。したがって、メソラクチドがR,R−及びS,S−ラクチドに変換されるとき、R,R−及びS,S−ラクチドは、それらがしばしばラセミラクチドの形で溶液から結晶化する濃度に達し得る。このように、メソラクチドは、化学平衡限界に達することなく、R,R−及びS,S−ラクチドの結晶化混合物に直接的に変換させることができる。
【0045】
他の実施形態において、ラセミ化ステップの一部は、より速いラセミ化速度を活用するために135〜170℃又は140〜160℃などの127℃を超える温度で行うことができる。この温度は、例えば、ラセミ化混合物中のメソラクチド含量が、ラセミ化温度を90〜125℃、好ましくは90〜115℃又は90〜100℃に低下させることができる値である例えば、40%又は30%未満に低下するまで、用いることができる。第2のステップにおけるより低い温度は、メソラクチドから離れる側に平衡を移動させ、R,R−及びS,S−ラクチドの同時のラセミ化及び溶融結晶化にも場合によって適している。
【0046】
ラセミ化は、ラクチドと反応して乳酸、線状乳酸オリゴマー又は他の副生成物を生成することができる水及び他の化合物の実質的な不存在下で行わせるべきである。出発ラクチド組成物は、50ミリ当量/グラム以下、好ましくは20ミリ当量/グラム以下の水又は乳酸及び乳酸のオリゴマーなどの他のヒドロキシル含有種を含むべきである。これらは、ラセミ化ステップを行う前に必要な場合に、様々な方法を用いて出発ラクチド組成物から除去することができる。
【0047】
上述の温度で、多くて低レベルの上述のようなヒドロキシル含有種の存在下でラセミ化反応を行うことにより、ラセミ化反応が進行し、わずかなラクチドが乳酸又は乳酸オリゴマーなどの開環種に変換される。一般的に、出発ラクチドの20%以下がラセミ化ステップ中に開環し、出発ラクチドの10%以下、5%以下、2%以下又は1%以下が開環していることが時として事実である。
【0048】
反応速度が増加するようにラセミ化ステップに触媒を用いる。効率的な触媒としては、主属及び遷移金属の金属カルボン酸塩などのカルボン酸の共役塩基などがある。カルボン酸は、非常に広く異なり得るので、その選択は、塩基度、溶解度及び熱安定性のような属性に基づいている。他の有用な触媒としては、各場合におけるRがヒドロカルビル、好ましくはアルキルである、スルホネート(RSO−)、スルフィネート(RSO−)、ホスホネート[(RO)P(O)O−]及びホスフィネート[(RO)PO−]の金属塩を含む、5A及び6A族酸の金属塩などがある。特に好ましい触媒は、反応温度において反応混合物中で均一であるか、又は固体担体上に固定化されている。
【0049】
他の適切な触媒としては、それぞれトリエチルアミン及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどの鎖状及び環状第三級アミンなどの非求核性塩基などがある。他の有用な触媒としては、ピリジン及びルチジンなどの非求核性複素環化合物、並びに1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどの非求核性アミジンなどがある。ルイス酸と組み合わせた非求核性塩基も有用である。これらの例は、組合せビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド及びピリジンなどがある。
【0050】
触媒は、ラクチドの開環反応において促進又は関与する反応性基(ヒドロキシル、第一級若しくは第二級アミノ又はチオールのような活性水素を含む基など)を含むべきでない。100重量部のラクチド当たり0.01〜約5重量部の触媒が一般的に有用である。より好ましい量は、0.1〜2.5重量部の触媒である。
【0051】
触媒は、ラセミ化ラクチド混合物からの触媒の分離を容易にするために担体に付着させることができる。
【0052】
ラセミ化の結果として、ラクチド中のS,S−、R,R−及びメソラクチドの割合が変化した状態になる。出発ラクチド中の優勢ラクチド種がS,S−ラクチドであり、ラセミ化反応中に物質の除去が一切ない場合、時間の経過とともにS,S−ラクチドの割合が減少し、R,R−及びメソラクチドの割合が増加する。出発ラクチド中の優勢ラクチド種がR,R−ラクチドであり、ラセミ化反応中に物質の除去が一切ない場合、時間の経過とともにR,R−ラクチドの割合が減少し、S,S−及びメソラクチドの割合が増加する。好ましい場合、出発ラクチド中の優勢ラクチド種がメソラクチドであり、これは、S,S−及びR,R−ラクチドの割合が増加するので、時間の経過とともに優勢でなくなる。すべての場合に、これらのラクチド種の比率は、1つ又は複数のラクチド形が優先的に除去されない限り、上述のように、時間の経過とともに温度依存性の平衡状態に向かう傾向がある。
【0053】
本方法は、ラクチド種の少なくとも1つがラセミ化混合物中の他の2つの種から分離される、分離ステップを含むことが好ましい。出発物質がメソラクチド流である、好ましい場合、分離は、一般的に、残りのメソラクチドからのS,S−ラクチド、R,R−ラクチド又はS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドの両方の分離を含む。
【0054】
ラクチド種を分離する方法は重大でないが、分離方法は、残りのメソラクチド中の不純物を好ましくは濃縮する。そのように、出発ラクチド組成物及び残りのメソラクチドと比べて不純物が減少しているラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドを生成物混合物から除去することができる。
【0055】
この場合の「減少」は、出発ラクチド組成物を基準とするものであり、分離された流れの不純物とラクチド含量との重量比が出発ラクチド組成物の不純物とラクチド含量との重量比より低い。減少は、不純物の完全な除去を必要としない。この関係は、以下の不等式
【0056】
【数1】

により表すことができ、ここで、ISS−RRは、反応混合物から分離されたラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチド流中の不純物の重量を表し、LSS−RRは、反応混合物から分離されたラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチド流中のラクチドの重量を表し、Istartingは、出発ラクチド組成物中の不純物の重量を表し、Lstartingは、出発ラクチド組成物中のラクチドの重量を表す。好ましくは、式1における比は、0.1未満、より好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満である。本発明の利点は、非常に低いレベルの不純物を有する、出発ラクチド流から分離されたラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドを生成することができ、したがって、ほとんど又は全くさらなる精製なしに重合させることができる。
【0057】
対象の1つの分離方法は、少なくとも一部は、不純物が結晶化ステップで形成される結晶から排除される傾向があるという理由のため、溶融結晶化法である。したがって、溶融結晶化法は、出発ラクチド流から乳酸値を同時に回収する(S,S−及び/又はR,R−ラクチドの形で)並びに回収された乳酸値から不純物を除去する手段を提供する。
【0058】
溶融結晶化法は、ラクチドを精製する方法として以前に記載された。米国特許第6,310,218号は、S,S−ラクチドに富む流れを濃縮し、精製ラセミラクチドを製造する方法としての溶融結晶化を記載している。一般的に、溶融結晶化は、ラセミ化ラクチド流において、融液相中にメソラクチドの大部分が残ると同時にラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドが結晶化するようにラクチド混合物を溶融し、次に混合物を冷却することにより実施する。
【0059】
溶融結晶化は、回分式又は連続式で行うことができる。米国特許第6,310,218号に記載されているような溶融結晶化を実施するための回分法及び帯域法が適切である。工業的溶融結晶化を実施するための適切な装置は、例えば、米国特許第5,700,435号、第5,338,519号、第6,204,793号及び第6,145,340号に記載されているものなどである。溶融結晶化法において、溶融液体の形でメソラクチドを残すと同時にラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドの結晶を形成させる。次に固体結晶を溶融メソラクチドから分離する。
【0060】
ラセミ化混合物がほぼ等しい量のS,S−ラクチドとR,R−ラクチドを含む場合、ラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドは、約127℃の凍結温度を有するラセミラクチドとして公知の結晶形に結晶化し得る。その状況において、溶融結晶化は、56℃(すなわち、メソラクチドの融解温度)を上回り、127℃を下回る温度で行うことができる。その場合の結晶化温度は、結晶が徐々に生ずる傾向があるように、また、それらの発達しつつある結晶構造からメソラクチド及び不純物をより完全に排除するように好ましくは約100℃〜125℃である。
【0061】
ラセミ化混合物がR,R−ラクチドより著しく多いS,S−ラクチドを含むか、又は逆もまた同様である場合、ラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドは、高融点混合物を構成しない。ラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドは、それよりもむしろS,S−及びR,R−ラクチドの融解温度、すなわち、約97℃以下で結晶化する。その場合、結晶化温度は、56℃から97℃までの間であるはずである。その場合の好ましい結晶化温度は、結晶が徐々に生成し、それらの発達しつつある結晶構造からメソラクチド及び不純物をそのようにより完全に排除することを可能にするために80〜95℃である。
【0062】
ラセミ化及び溶融結晶化ステップは、同時に且つ/又は連続的に実施することができる。同時ラセミ化及び溶融結晶化は、ラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドが約127℃で凍結する混合物を形成する場合により実際的である。そのような混合物が生じない場合、溶融結晶化温度は、ラセミ化速度が遅くなる97℃未満でなければならない。同時ラセミ化及び溶融結晶化は、高融点混合物が生ずる場合、127℃未満の温度でラセミ化を行うことにより行うことができる。好ましい温度は、90〜125℃であり、より好ましい温度は、90〜115℃である。このアプローチを用いて、生成するラセミ化R,R−ラクチド及びS,S−ラクチドは、ラセミ化反応が進行するときラセミラクチド(すなわち、高融点混合物)として結晶化する。このアプローチは、連続操作に容易に適応されるという利点を有する。出発ラクチドがメソラクチド流である場合、このアプローチは、システムからR,R−及びS,S−ラクチドを連続的に除去し、それにより、ラクチド形の間の化学平衡に決して達しないので、より多くのR,R−及びS,S−ラクチドの生成に有利に働くという付加的利点を有する。
【0063】
連続操作において、出発ラクチド組成物を最初にラセミ化し、その後にラクチド種の少なくとも1つの一部又はすべてを残存種から除去する分離ステップが続く。
【0064】
出発ラクチド組成物をより高い温度で部分的にラセミ化し、続いて、得られた混合物を、ラセミ化がラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドの結晶化と同時に続き得る第2のより低い温度に冷却する、ハイブリッド法が可能である。このアプローチは、より高いラセミ化速度と同時のラセミ化及び分離の利点を兼ね備えている。そのようなハイブリッド法において、第2のより低い温度は、好ましくは100〜125℃、より好ましくは105〜110℃である。
【0065】
前述の溶融結晶化法のいずれかにおいて、ラセミラクチド結晶又はS,S−及びR,R−ラクチド結晶を、場合によって、ろ過、傾斜、遠心分離、固体表面上への結晶の沈着などの従来の任意の固液分離法を用いて溶融メソラクチドから除去する。
【0066】
S,S−及び/又はR,R−ラクチドをメソラクチドから分離する他の方法は、蒸留である。蒸留は、大気圧又は大気圧より低い圧力で行うことができる。ラセミ化触媒は、さらなるラセミ化及び線状オリゴマーの生成が最小限になるように、蒸留ステップの前にラセミ化混合物から除去すべきである。蒸留は、ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドが濃縮されている流れとメソラクチドが濃縮されている流れを発生させる。前述のように、不純物は、メソラクチド流中に濃縮された状態になる傾向がある。したがって、ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドは、前述のように、不純物が減少している流れとして得られる。
【0067】
S,S−及びR,R−ラクチドをメソラクチドから分離するさらに他の方法は、溶媒結晶化法によるものである。適切な溶媒としては、例えば、クロロホルム又は1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル又はテトラヒドロフランなどの脂肪族又は脂環式エーテル、トルエンなどの芳香族炭化水素、2−プロパノールなどの立体的に込み合ったアルコールなどがある。
【0068】
本発明の特定の実施形態において、出発ラクチド組成物は、ラクチド混合物をメソラクチド濃縮流とS,S−及びR,R−ラクチド流に分離する上流ステップにおいて生成するメソラクチド流である。そのような場合、ステップa)からのラセミ化生成物を当上流分離ステップに(又はさらに上流である他のステップに)リサイクルすることによって本発明の方法のステップb)を実施することが可能である。そのような場合、分離が当上流分離ステップにおいて起こるので、リサイクルステップを行う前にラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドを残存メソラクチドから分離することは不必要になる。
【0069】
ラセミ化ラクチド混合物からS,S−又はR,R−ラクチドを優先的に分離することも可能である。これを行う1つの方法は、種S,S−又はR,R−ラクチド結晶の存在下で溶融物又は溶媒から混合物を結晶化することによる。種S,S−ラクチド結晶が存在する場合、ラセミ化ラクチド混合物からS,S−ラクチドを優先的に結晶化し、R,R−及びメソラクチドをあとに残すことが可能である。逆に、R,R−ラクチド種結晶の存在下での結晶化により、R,R−ラクチドを優先的に分離することができる。いずれか1つの場合における結晶は、ラセミ化ラクチド混合物の組成と比べて、場合によってS,S−又はR,R−ラクチドが多く含まれ、他のラクチド種が減少している。ここでの結晶化条件は、不要なラクチド種が所望の種とともに速やかに結晶化しないように、ゆっくりした結晶の形成及び成長を促進するように選択する。
【0070】
前述のようにラセミ化ラクチド混合物から分離されるS,S−及び/又はR,R−ラクチドは、所望の場合、さらに精製することができる。ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチド流は、該物質に同伴された状態になる一定量のメソラクチド、少量の線状乳酸オリゴマー、ラセミ化ステップ中に再生成する少量の乳酸、ある残留量の他の不純物、残留ラセミ化触媒等などの様々な種類の不純物を含む可能性がある。かなりの量のこれらの種類のいずれかの不純物が存在する場合、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドを重合に供する前にそれらを除去することが必要又は望ましい可能性がある。さらに、残留ラセミ化触媒は、特に、重合に送り且つ/又はラクチド製造システムに戻してリサイクルすべき場合には、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドから除去することが好ましい。蒸留、溶融結晶化、溶媒結晶化、吸収、抽出又は同様な方法を含む様々な精製アプローチを選択することができる。
【0071】
1つのアプローチにおいて、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドを結晶化する(蒸留により残存メソラクチドから分離する場合)か、又は1回若しくは複数回再結晶化する(溶融結晶化により残存メソラクチドから分離する場合)。関連するアプローチにおいて、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドを残存メソラクチドから分離し、次に結晶化し、続いて、結晶構造から同伴不純物を選択的に除くために融点直下の温度にそれらを加熱することによって結晶を「完全にする」ことができる。
【0072】
第3のアプローチにおいて、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドの結晶を適切な溶媒で洗浄又は抽出して、同伴不純物を除去する。特にラセミ化触媒は、水又は他の不活性化剤で洗浄することにより、この方法で除去又は不活性化することができる。
【0073】
第4のアプローチにおいて、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドを蒸留して、それをさらに精製する。そのようなアプローチを採用する場合、製造工程は通常、様々な種類の不純物を除去するように計画されている1つ又は複数の単位操作を既に含んでいるので、ラセミ化S,S−及び/又はR,R−ラクチドをラクチド製造工程の適切な段階に戻してリサイクルすることがしばしば都合がよい。本発明のこの実施形態を図の参照によりさらに説明する。図は、本発明の方法の実施形態を説明する概略図である。図に説明されている実施形態は、様々な好ましい又は任意選択の特徴を示している。図は、図示の様々な構成要素の設計を含む、特定の工学的特徴又は詳細を示すことを意図するものではない。さらに、種々の弁、ポンプ、加熱及び冷却装置、分析機器、制御機器並びに同等なものなどの補助装置は、示さないが、もちろん必要に応じて又は望ましいとき用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の方法の実施形態を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図において、水又はさほど好ましくないが、他の溶媒を含む乳酸又は乳酸エステル流5をプレポリマー反応器1に供給する。流れ5中の乳酸又は乳酸エステルの濃度は、好ましくは少なくとも60重量%であり、95重量%と同等の高さ、好ましくは90重量%と同等の高さであってよい。図に示されていない上流工程ステップにおいて前述の範囲内に好ましくは濃縮されている乳酸を発酵ブロスから得ることができる。出発物質をプレポリマー反応器1中で加熱して乳酸又は乳酸エステルを縮合させて、前述のプレポリマーを生成する。水、溶媒(もしあるとすれば)及び縮合副生成物の大部分をプレポリマーから分離してプレポリマー反応器1から除去する。
【0076】
プレポリマー流6をプレポリマー反応器1から除去し、ラクチド反応器2に移し、そこで、それが解重合されてラクチドを生成する。ラクチド反応器2は、本質的に蒸発器であり、WO95/09879に記載されているような多くの種類のものであり得る。適切なラクチド反応器の例としては、例えば、強制循環型、短経路又は短管、垂直長管型、水平長管型、下降膜型、撹拌薄膜型及びディスク型蒸発器などがある。膜発生型蒸発器、特にWO95/9879に記載されているような下降膜型及び撹拌下降膜型蒸発器が特に好ましい。様々な種類の多段反応器も適している。ラクチド反応器2は、約1〜約100mmHg、好ましくは約2〜約60mmHgの圧力で操作することが好ましい。好ましくは約180〜300℃、より好ましくは180〜250℃の高温を用いる。
【0077】
ラクチド反応器2中の解重合反応は、通常触媒される。示すように、触媒は、ラクチド反応器2の上流のプレポリマー流6に触媒流18により導入する。触媒流18をラクチド反応器2に直接導入することも可能である。
【0078】
粗ラクチド及びボトム混合物がラクチド反応器2中で生成する。ボトムは、高沸点物質及び乳酸の高次オリゴマーを主として含む。ボトムは、ボトム流(図示せず)(図示せず)として抜き出される。
【0079】
ラクチド反応器2中で生成する粗ラクチドは、流れ8として抜き出され、蒸留塔3に移される。示す実施形態において、粗ラクチドは、それぞれ第1の蒸留塔3、第2の蒸留塔4及び第3の蒸留塔20において3段階で蒸留される。少なくとも原理上は全蒸留を1つの搭又は2つの蒸留塔のみで行うことが可能である。
【0080】
示す実施形態において、粗ラクチド流8が第1の蒸留塔3に導入され、それが部分的に精製されたラクチド流10とオーバーヘッド流(図示せず)に分離される。ボトム流(図示せず)も第1の蒸留塔3から抜き出すことができる。オーバーヘッド流は、若干のラクチド並びに水及び乳酸の大部分を含む。部分的に精製されたラクチド流10は、ラクチド並びにラクチドマトリックスから蒸留するときにS、S−又はR,R−ラクチドと比べて1.001〜1.5の相対揮発度を有する不純物(「中沸点不純物」)の大部分を含む。それは、若干は残り得るが、通常実質的に水及び低沸点不純物が減少している。
【0081】
示す実施形態において、部分的に精製されたラクチド流10は、第2の蒸留塔4に移され、そこで、ラクチドが線状乳酸オリゴマーなどの高沸点不純物から分離される。これが、精製ラクチド流25及びボトム流(図示せず)を生じさせる。精製ラクチド流25は、前述のような中沸点不純物を含む。いくつかの揮発物(主として水及び乳酸)が第2の蒸留塔4からさらに除去される可能性がある(上部出口を経て、示さず)。
【0082】
図に示す実施形態において、精製ラクチド流25は、第3の蒸留塔20に移され、そこで、メソラクチドがS,S−及びR,R−ラクチドから分離される。示すように、これが、第3の蒸留塔20の底部近くから抜き出される、精製S,S−ラクチド/R,R−ラクチド流13、及び第3の蒸留塔20の上部近くから抜き出される、メソラクチド流14を生じさせる。メソラクチド流14は、水、乳酸及び乳酸オリゴマーなどのヒドロキシルを含む種1グラム当たり50ミリ当量以下、好ましくは20ミリ当量以下を含むべきである。ボトム流(図示せず)も第3の蒸留塔20から除去することができる。
【0083】
精製S,S−ラクチド/R,R−ラクチド流13は、重合ユニット23に移され、そこで、重合して、ポリラクチドを生成する。
【0084】
メソラクチド流14は、ラセミ化ユニット17に送られ、そこで、流れ14中のメソラクチドの少なくとも一部がラセミ化されて、ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドを生成する。ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドは、管路15を経てラセミ化ユニット17から除去される。次いで、管路15及び管路16を経て除去されたS,S−及びR,R−ラクチドは、任意選択の精製ユニット19で場合によってさらに精製された後に管路16A、16B、16C又は16Dのすべてのうちのいずれかを経てリサイクルすることができる。精製ユニット19は、不純物をラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドから除去する上述のような任意の1つ又は複数の単位操作であり得る。
【0085】
ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流15又は16が十分に純粋である場合、それをそれ自体で重合させて非晶性グレードのポリラクチドを生成することができる、管路16Aを経てそれを直接重合ユニット23にリサイクルすることができる。「Stereoselective ring-opening polymerization of a racemic lactide by using achiral salen- and homosalen-aluminum complexes」、Chem. Eur. J.、2007年、13巻、4433〜4451頁にNomuraらにより記載されているように特定のサレン及びホモサレンアルミニウム錯体を用いて、ラセミラクチド流などのS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドの両方を含む流れを重合させて、約145℃から210℃以上の範囲の結晶融解温度を有する半結晶性ポリマーを製造することも可能である。
【0086】
より一般的には、S,S−ラクチド及び/又はR,R−ラクチドは、管路13を経て重合ユニット23に入るS,S−ラクチド/R,R−ラクチド流などのS,S−ラクチド/R,R−ラクチド流との混合物として重合する。通常の方法において、流れ13中のS,S−ラクチド/R,R−ラクチドとラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドリサイクル流16Aとの比率は、得られる混合物が少なくとも90重量%、好ましくは92〜99.5重量%のS,S−ラクチド又はR,R−ラクチドの1つと、10重量%以下、好ましくは0.5〜8重量%の他のものとを含むように選択される。そのようにして生成したラクチド混合物を次に重合させて、半結晶性ポリラクチド樹脂を製造することができる。
【0087】
ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流15又は16が依然としてかなりの量のメソラクチドを含むが、重合させるのに十分に別の方法で精製する場合、その代わりにそれを、管路25から入る粗ラクチドがメソラクチド流14とS,S−及びR,R−ラクチド流13に分離される第3の蒸留塔20に管路16Dを経て戻してリサイクルすることができる。ラセミ化触媒は、この場合、リサイクルする前に除去又は不活性化すべきである。リサイクルされたラセミ化S,S−及びR,R−ラクチドが次に管路13を経て第3の蒸留塔を出、メソラクチドのすべてでないにしても大部分が管路14を経てラセミ化のために再び送り出される。
【0088】
ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流15又は16がかなりの量の他の揮発性不純物を含む場合、ラクチド反応器2中で生成する粗ラクチドとともに精製されるように、管路16B及び/又は16Cを経て第1の蒸留塔3及び第2の蒸留塔4のいずれか又は両方にリサイクルすることができる。再び、この場合、ラセミ化触媒を除去又は不活性化すべきである。
【0089】
ラセミ化混合物からの残存する濃縮メソラクチド流(図における流れ21など)は、様々な方法で取り扱うことができる。それは、廃棄するか、又は低い価値の用途に用いることができ、この場合の本発明の利点は、この流れの質量が従来の方法と比べて少なく、したがって、廃棄される乳酸等価体がより少なく、廃棄処理経費がより低いことである。或いは、中沸点不純物をこの流れから除去することができ、次いでメソラクチドをラクチド製造工程に戻してリサイクルすることができる。このアプローチは、より多くの乳酸等価体が回収されることを可能にするものである。それをラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流15又は16とともにリサイクルすることも可能である。
【0090】
メソラクチドから中沸点不純物を除去する1つの方法は、抽出及び/又は化学処理法によるものである。一般的に、この種の方法は、(a)メソラクチド又は中沸点不純物(若しくはそのいくつかのサブセット)(両方ではない)が良好な溶解性を有する溶媒による抽出、(b)メソラクチド及び/又は中沸点不純物(若しくはそのいくつかのサブセット)をより容易に分離される異なる化学種に変換し、次に場合によって、不純物若しくはそれらの反応生成物をメソラクチド若しくはその反応生成物から分離することを含む。後者の場合、分離は、もちろん所定の場合に生成する個々の化学種によって、さらなる蒸留、抽出法、ろ過法(固体化学種が生成する場合)又は他の分離技術により行うことができる。
【0091】
無水コハク酸は、しばしば中沸点不純物の大きい成分である。無水コハク酸は、メソラクチド流を弱塩基性水相で洗浄することにより、メソラクチドから分離することができる。洗浄溶液の適切なpHは、約7.2〜約11の範囲である。これは、無水コハク酸を加水分解してコハク酸を生成し、コハク酸を中和すると考えられている。ラクチドの一部も加水分解されて、主として線状オリゴマー及びおそらく若干の乳酸を生成することがある。加水分解され、中和されたコハク酸は、ラクチド相中より水相中にはるかに溶けやすく、水相に分配する。次に、水相と有機相を分離して、低いレベルの中沸点不純物を有する洗浄済みメソラクチド流を生成する。洗浄済みメソラクチド流は、プレポリマー生成ステップ又は工程におけるさらに上流にリサイクルすることができる。
【0092】
メソラクチドを加水分解して線状オリゴマー又は乳酸を生成することなく、中沸点不純物をメソラクチドから除去する場合、メソラクチドは、例えば、前重合ステップ(すなわち、図における前重合反応器1内に)、解重合ステップ(すなわち、図におけるラクチド反応器2内に)或いはラクチド蒸留ステップ(すなわち、図における第1の蒸留塔3及び/又は第2の蒸留塔4内に)などの工程のいずれか都合のよい部分にリサイクルすることができる。必要な場合、メソラクチドをリサイクルする前にラセミ化触媒を除去又は不活性化することができる。
【0093】
本方法から得られるS,S−及び/又はR,R−ラクチドは、必要な場合には今しがた述べたようなさらなる精製の後に、重合させることができる。
【0094】
以下の実施例は、本発明を例示するために示すが、その範囲を限定するものではない。すべての部及び百分率は、特に示さない限り、重量単位である。
[実施例1〜3]
【0095】
S−乳酸を重合してプレポリマーを生成し、次にプレポリマーを解重合して粗ラクチド蒸気流を生成することにより、粗ラクチドを調製する。次に粗ラクチドを複数のステップで蒸留して揮発物を除去し、S,S−ラクチド流(少量のR,R−ラクチドを含む)及びメソラクチド流を生成する。メソラクチド流は、メソラクチド約6.8モル/キログラム及びS,S−ラクチド約0.2モル/キログラムを含み、中沸点不純物も含む。それは、50ミリ当量/グラム未満のヒドロキシル含有不純物を含む。メソラクチド流を収集し、冷却する。
【0096】
約500mLのメソラクチド流を油浴中で溶融する。エチルヘキサン酸Na触媒を0.05%のレベルで加える。混合物を撹拌式Parr反応器中、160℃で15時間加熱する。試料を定期的に採取して、混合物中のS,S−ラクチド、R,R−ラクチド及びメソラクチドの濃度を測定する。
【0097】
反応が進行するにつれて、メソラクチドの濃度が間断なく低下し、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドが本質的に等しい速度で生成する。約15時間の反応時間の後に平衡が成立する。平衡混合物は、それぞれ約36モルパーセントのS,S−及びR,R−ラクチド並びに約28モルパーセントのメソラクチドを含む。反応混合物は、0.5重量%未満の乳酸の線状オリゴマーを含む。
【0098】
次に反応混合物を約115〜125℃の温度に冷却する。この温度でラセミラクチド結晶が徐々に生成して、本質的にすべてのS,S−及びR,R−ラクチドを含む固相、並びにメソラクチド、若干のS,S−及びR,R−ラクチド並びに本質的にすべての中沸点不純物を含む液相を生じさせる。ラセミラクチド結晶は、0.6%未満の乳酸の線状オリゴマーを含む。
【0099】
この実施例を140℃のラセミ化温度で繰り返すとき、メソラクチドが平衡混合物に達するのにより長い時間を要し、平衡混合物はS,S−及びR,R−ラクチドの方にわずかに偏る。線状オリゴマー含量は、ラセミ化生成物中でわずかに低くなる。
【0100】
実験を180℃で繰り返すとき、ラセミ化速度がかなり速くなるが、平衡がメソラクチドの方にわずかに偏り、線状オリゴマーが生成物の約5%を生成する。
[実施例4]
【0101】
56重量部のメソラクチド流を溶融し、0.14部の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンと混合する。出発メソラクチド流は、98モルパーセントのメソラクチド、2モルパーセントのS,S−ラクチド及び50ミリ当量/グラム未満のヒドロキシル含有不純物を含む。ラクチド/触媒混合物をSulzer静的晶析装置に入れ、該装置内でそれを95℃で15.5時間維持する。この時間中、メソラクチドがラセミ化してS,S−、R,R−及びメソラクチドの混合物を生成し、ラセミ化ラクチドの一部が結晶性固体を形成する。15.5時間後に、残存液体(18重量部)を晶析装置から除去し、分析する。ほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチド並びに24.8モルパーセントのメソラクチドを含むことが見いだされる。
【0102】
静的晶析装置内に残存する結晶化物質を次に2〜3時間の期間にわたって徐々に加熱する。この時間中、結晶は、「発汗する」、すなわち、同伴物質を放出する。この同伴物質を捕捉し、秤量し、分析する。6.5重量部の物質がこの「発汗」ステップ中に放出される。当物質は、ほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチド並びに約25モルパーセントのメソラクチドを含む。
【0103】
残存結晶(30.1重量部)は、それぞれ約43.3重量部のR,R−及びS,S−ラクチド並びに約13.5重量部のメソラクチドを含む。これらの結晶を溶融し、下降膜型晶析装置の管内に移す。次にラクチドを含む管を冷却してラクチドを結晶化する。冷却を継続するにつれ、ラクチド結晶が管の内面に沈着する。ラクチド結晶は、熱を不十分に伝導し、最終的に熱移動は結晶形成が停止するのに十分に遅くなる。その時点で残存液体を排出する。6.8重量部の液体が除去される。当液体は、45.5モルパーセントのメソラクチド並びにほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含む。1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン触媒は、残存液体中で濃縮された状態になる。
【0104】
ラクチド中に残存するラクチド結晶は、前述のように「発汗し」、38.5モルパーセントのメソラクチド並びにほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含む1.6部のラクチドを放出する。
【0105】
約21.6部の結晶が残存する。これらは、約5.0モルパーセントのメソラクチド並びにほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含み、重合工程に用いるのに十分に精製されている。これらの結晶は、約0.02重量パーセントの1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン触媒を含む。
【0106】
結晶をさらに精製するために、結晶を溶融し、前述のような下降膜型晶析装置により再び処理する。不十分な熱移動のために結晶化が止まった後、5.7部の液体残留物が残存する。これを排出する。それは、約17.9モルパーセントのメソラクチド並びに再びほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含む。結晶は、再び「発汗し」、3.2部の液体を放出する。この第2の再結晶化の後に残存する結晶を溶融し、回収する。収量は、0.5モルパーセントのメソラクチド、49.8モルパーセントのR,R−ラクチド及び49.7モルパーセントのS,S−ラクチドを含む12.4部のラクチド混合物である。
[実施例5]
【0107】
約900mLのメソラクチド流を油浴中で溶融する。1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン触媒を0.5%のレベルで加える。混合物を密閉容器中で無撹拌で120℃で4時間加熱する。試料を定期的に採取して、混合物中のS,S−ラクチド、R,R−ラクチド及びメソラクチドの濃度を測定する。
【0108】
反応が進行するにつれて、メソラクチドの濃度が間断なく低下し、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドが本質的に等しい速度で生成する。1時間の反応時間の後に平衡が成立する。平衡混合物は、それぞれ約42モルパーセントのS,S−及びR,R−ラクチド並びに約16モルパーセントのメソラクチドを含む。反応混合物は、15重量%の乳酸の線状オリゴマーを含む。
【0109】
ラセミ化混合物を固化するまで冷却する。固化したラクチドを2頚3Lフラスコ中で75℃に加熱することにより1.2Lのトルエン(1mL当たり約1g)に溶解する。溶液を熱源から除去し、一夜冷却して結晶を沈着させる。結晶化ラクチドを、600mLガラスフリットを用いたろ過により単離する。回収されたラクチド618.3gを2頚3Lフラスコ中で75℃に加熱することにより1.2Lのイソプロパノールに溶解する。溶液を熱源から除去し、5時間冷却して結晶を沈着させる。結晶化ラクチドを、600mLガラスフリットを用いたろ過により単離する。回収されたラクチドを真空オーブン中、40℃で一夜乾燥する。ラセミラクチドの総回収率は、出発ラクチドに基づいて60.3パーセントである。ラクチド結晶は、0.2モルパーセントのメソラクチド並びにほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含む。
[実施例6]
【0110】
実施例5を0.05%の触媒を用いて繰り返すとき、系は10時間以内に平衡混合物に達しない。この時点で、試料は、44モルパーセントのメソラクチド、30モルパーセントのS,S−ラクチド及び24モルパーセントのR,R−ラクチドを含む。反応混合物は、5重量%の乳酸の線状オリゴマーを含む。ラセミラクチドの総回収率は、出発ラクチドに基づいて56.7パーセントである。ラクチド結晶は、0.2モルパーセントのメソラクチド並びにほぼ等量のR,R−及びS,S−ラクチドを含む。
【符号の説明】
【0111】
1 プレポリマー反応器
2 ラクチド反応器
3 第1の蒸留塔
4 第2の蒸留塔
5 乳酸又は乳酸エステル流
6 プレポリマー流
8 粗ラクチド流
10 (部分的に精製された)ラクチド流
13 精製S,S−ラクチド/R,R−ラクチド流
14 メソラクチド流
15 ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流
16(A〜D) 精製ラセミ化S,S−及びR,R−ラクチド流
17 ラセミ化ユニット
18 触媒流
19 精製ユニット
20 第3の蒸留塔
21 濃縮メソラクチド流
23 重合ユニット
25 精製ラクチド流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)出発ラクチド組成物中のラクチドの少なくとも一部をラセミ化して出発ラクチド組成物中と異なる相対的割合のメソラクチド、S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを含むラセミ化ラクチド混合物を生成するのに十分な時間にわたりラセミ化触媒の存在下で出発ラクチド組成物を180℃までの温度にさらすステップ
を含む、出発ラクチド組成物から乳酸値を回収する方法。
【請求項2】
出発ラクチド組成物が50ミリ当量/グラム以下のヒドロキシル含有化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)を90℃〜180℃の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)を135〜170℃の温度で行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)を90〜125℃の温度で行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
出発ラクチド組成物が少なくとも60重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
メソラクチド流が粗ラクチド混合物の溶融結晶化における残留流として生成される、請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
メソラクチド流が、粗ラクチド混合物を分別蒸留して出発メソラクチド流とS,S−及びR,R−ラクチド流を生成することにより生成される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
粗ラクチド混合物が
1)低分子量ポリ乳酸を生成するステップ、及び
2)低分子量ポリ乳酸を解重合して粗ラクチド混合物を生成するステップ
を含む方法により調製される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
分別蒸留ステップの前又はそれと同時に粗ラクチド混合物から不純物を除去するステップステップ3)をさらに含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
b)ラセミ化ラクチド混合物と比べてS,S−ラクチド、R,R−ラクチド若しくはメソラクチド、又はそれらのいずれか2つが多く含まれる少なくとも1つのラクチド生成物を得るためにラセミ化ラクチド混合物を分離するステップをさらに含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ステップb)において、ラセミ化ラクチド混合物と比べてS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドが多く含まれる生成物が、ラセミ化ラクチド混合物から分離される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドが多く含まれる生成物において出発ラクチド組成物と比べて不純物が減少している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)の少なくとも一部をステップb)と同時に実施する、請求項10から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ステップb)が溶融結晶化ステップを含む、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
溶融結晶化ステップを90〜125℃の温度で行い、溶融結晶化ステップ中にラセミラクチド結晶が生成する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップb)で得られるラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを重合するステップをさらに含む、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ステップb)で得られるラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドをアキラルサレン又はホモサレンアルミニウム錯体の存在下で重合させる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
c)ステップb)からのラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを、ラクチド混合物の分別蒸留で生成するS,S−及びR,R−ラクチド流からのS,S−ラクチド及びR,R−ラクチドと混合するステップ、並びにd)混合物を重合するステップをさらに含む、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
ステップb)から得られるラセミ化S,S−ラクチド及びR,R−ラクチドを、分別蒸留ステップ、ステップ1)、ステップ2)又はステップ3)の少なくとも1つにリサイクルする、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
ステップa)の後に、ラセミ化ラクチド混合物が10重量%以下の乳酸及び乳酸オリゴマーを含む、請求項1から20のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−520322(P2012−520322A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554229(P2011−554229)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/027117
【国際公開番号】WO2010/105142
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511221976)ネーチャーワークス エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】