説明

メソ多孔体の製造方法及びこれを使用したフィルタ

【課題】 有機溶媒を実質的に含まないメソ多孔体の製造方法及びこれを使用したフィルタを提供する。
【解決手段】 珪酸アルカリと水とを混合した第一溶液を、界面活性剤と水と酸性物質を加えた第二溶液に加えた溶液から沈殿物としてメソ多孔体を得る。この場合、上記第一溶液と第二溶液との混合溶液は、シリカ分が1〜10重量%、界面活性剤が5〜35重量%、水が55〜80重量%の含有率であり、pHが4以下で、有機溶媒を実質的に含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を実質的に含まないメソ多孔体の製造方法及びこれを使用したフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メソ多孔体と呼ばれる六角柱状の規則的な構造を有する多孔質シリカが広く知られている。このメソ多孔体はメソポーラスシリカと呼ばれ、2から50nmの大きさのほぼ均一な直径の細孔を有しており、例えば吸着剤その他多くの用途が期待される物質である。
【0003】
このメソ多孔体(メソポーラスシリカ)は、六角柱状・均一径の細孔が規則的に整列した構造を持つ多孔質体で、モービルオイルコーポレーションが1990年に出願した「合成多孔質結晶性物質、それの合成及び用途(特許第3403402号)」をはじめとして多数の出願がある。この物質はシリカ源となる化合物、有機溶剤、界面活性剤、水、触媒等から合成され、孔の径は界面活性剤の疎水基炭素数に依存するということが知られている。
【0004】
出発原料のうちシリカ源としてはアルコキシシラン、珪酸アルカリ、カネマイト等が使用されるが、アルコキシシランを使用する系では、界面活性剤としてカチオン系、ノニオン系が使用されている。有機溶媒としてはアルコール等のアルコキシシランとも水とも相溶性のあるものが使用されている。水はアルコキシシランの加水分解に使用され、触媒は反応をコントロールするのに使用されている。縮合反応にはオートクレーブ等の圧力容器を使用して温度や圧力を調整するが、常温、常圧で反応させる場合もある。
【0005】
しかし、当該製法では酸またはアルカリ性の高圧蒸気に耐久性を持つオートクレーブが必要であり、そのうえ反応時間が48〜168時間と長いため、設備コスト・製造効率の面で多くの課題を抱えるものであった。近年ではこの点を改善する製法が開発され、例えば下記特許文献1には、常温・常圧条件下でしかも12〜24時間程度の短時間にメソ多孔体を合成可能な製法が発表されている。この方法はアルコキシシラン・カチオン系界面活性剤・水・アルコールの混合系に酸を反応開始剤として加えることにより、六方状に整列した界面活性剤の棒状ミセル(ヘキサゴナル液晶)周囲でゾル−ゲル反応を誘導し、膜状のメソ多孔体を得るものである。
【0006】
また、下記特許文献2〜特許文献6にも、メソ多孔体及びその製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−104744号公報
【特許文献2】特開2004−35368号公報
【特許文献3】特開2001−149735号公報
【特許文献4】特開2003−200016号公報
【特許文献5】特開2001−261326号公報
【特許文献6】特開2000−109312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の技術においては、メソ多孔体を合成する際に溶媒としてアルコール等の有機溶媒を使用するため、有機溶媒を回収し無害化する装置や、防爆の設備を必要とするという問題があった。また、シリカ源としてアルコキシシランなどの有機シラン化合物を使用する場合にも、反応生成物として有機溶媒であるアルコールが生成するという問題があった。また、アルコキシシランは価格が高く、メソ多孔体の製造コストが高くなるという問題もあった。
【0008】
これに対して、上記特許文献6のように、シリカ源として珪酸アルカリ(水ガラス)を使用した場合には、価格が安いため、メソ多孔体の製造コストの上昇を抑制できる。しかし、この方法は硫酸を多量に使用するため、作業上危険であり、また、廃液処理にかかる負荷が大きい。このため、複雑な操作を行わずに、メソ多孔体を簡便に合成するためには、水に溶解しにくいノニオン系界面活性剤を有機溶媒に溶解して使用する必要が生じ、有機溶媒を処理するための専用の装置や設備が必要となる。
【0009】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、有機溶媒を実質的に含まないメソ多孔体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、珪酸アルカリ、ノニオン系界面活性剤、水及び酸性物質からなる溶液から沈殿物として得られるメソ多孔体であって、前記沈殿物に含有された液体中に有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする。
【0011】
また、上記溶液は、シリカ分が1〜10重量%、界面活性剤が5〜35重量%、水が55〜80重量%の含有率であり、pHが4以下で、有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする。
【0012】
ここで、実質的に含まないとは、意図的に有機溶媒を添加しないという意味であって、例えば界面活性剤を溶解させるため、あるいは珪酸アルカリや界面活性剤を均質に分散させるため等のように希釈剤として有機溶媒を添加しないという意味である。また、アルコキシドのように、反応生成物として有機溶媒が生成することが明らかな場合も有機溶媒を添加すると見なす。従って、界面活性剤等に安定化剤等として含まれる不純物等などを指すものではない。
【0013】
上記構成によれば、前記メソ多孔体を焼成する際,あるいは無機繊維質ペーパーなどの基材に塗布し、焼成する際に、有機溶媒の揮発や燃焼をなくすことができる。また、メソ多孔体の製造時に有機溶媒処理装置や防爆設備を不要とすることができる。さらに、アルコキシシランを使用しないのでメソ多孔体の製造コストを安価にすることができる。
【0014】
また、上記界面活性剤はノニオン系界面活性剤であるのが好適であり、特にポリエチレングリコール型界面活性剤であるのが好適である。
【0015】
これにより、カチオン系界面活性剤を使用した場合に比較して、焼成時の異臭発生量が低減し、合成時の残液の処理が容易で、安価なメソ多孔体を得ることができる。
【0016】
また、上記界面活性剤の疎水基の炭素数は、10〜18であるのが好適であり、これに応じてメソ多孔体の細孔径は1.6〜2.8nm(BJH法)に変化する。ここで、上記界面活性剤は、疎水基として直鎖または分岐アルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤であるのが好適である。さらに小さい径の細孔に調節する場合は、疎水基として直鎖または分岐アルキルフェニル基を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤を使用するのがよい。これにより、界面活性剤の疎水基がさらに短くなるからである。
【0017】
また、本発明は、上記メソ多孔質体及びこれを焼成して得られる焼成体を担持したフィルタであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、メソ多孔質体の製造方法であって、珪酸アルカリと水とを混合した第一溶液を、界面活性剤と水と酸性物質を加えた第二溶液に加えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、フィルタであって、上記メソ多孔体または上記メソ多孔体を焼成した焼成体を担持したことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0021】
本発明は、珪酸アルカリ、界面活性剤、水及び酸性物質からなる溶液から沈殿物として得られるメソ多孔体であることを特徴としている。このメソ多孔体は、珪酸アルカリと水とを混合した第一溶液を、界面活性剤と水と酸性物質とを加えた第二溶液に加えることにより製造することができる。
【0022】
上記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好適である。ノニオン系の界面活性剤を使用すると、カチオン系界面活性剤を使用する場合に比較して焼成時に発生する異臭が少ない。また、生分解性であるため、反応後の残液の処理も容易である。更に、価格が安いため、メソ多孔体の製造コストが低くなり、工業生産に適している。
【0023】
本発明にかかるメソ多孔体の生成機構としては以下のように説明することができる。ノニオン系界面活性剤と水と酸とからなる第二溶液中では酸由来の水素イオンがノニオン系界面活性剤の親水基部分に水素結合しており、ノニオン系界面活性剤によって形成される棒状ミセルの外周は正の電荷を有している。また、第一溶液に含まれるケイ素源(珪酸アルカリ)は負の電荷を持つシリケートアニオンである。このため、両液を混合すると電気的相互作用によりシリケートアニオンが棒状ミセルの外周を取り囲みながら高分子化し、メソ多孔体を形成する。このメソ多孔体は、上記混合液中で沈殿物として得ることができる。
【0024】
また、以上の生成機構によれば、ノニオン系界面活性剤と水との親和性が向上するため、有機溶媒を使用しなくてもノニオン系界面活性剤を水に均質に分散することができる。このため、有機溶媒を回収し無害化する装置や、防爆の設備を不要とすることができる。
【0025】
これに対して、例えば珪酸アルカリである水ガラスと水とノニオン系界面活性剤を混合した溶液に酸を加えてシリカの高分子化を行った場合、シリケートアニオンが効率良くノニオン系界面活性剤のミセルを取り囲むことができないため、後述する比較例2に示されるように、メソ多孔体の細孔径の均一性が低下する。また、第一溶液と第二溶液の混合は迅速に行うことが重要であるが、pHがゆっくり変化するような混合方法(たとえば第二溶液に第一溶液を滴下)を採った場合、後述する比較例3に示されるように、混合開始時と終了時の反応速度が異なるため細孔径の均一性が低下する。
【0026】
上記のような生成機構によりメソ多孔体が生成するため、界面活性剤、珪酸アルカリの濃度と溶液のpHは細孔の形成状態を決定する重要な因子となる。本発明者らは、種々検討の結果、上記第一溶液と第二溶液の混合液を、シリカ分が1〜10重量%、界面活性剤が5〜35重量%、水が55〜80重量%の含有率であり、混合液のpHが4以下となるよう配合したときに、最もシャープな細孔分布曲線を有するメソ多孔体が得られる事を見出した。
【0027】
ケイ素源である上記珪酸アルカリとしては、珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム、珪酸リチウム及びこれらの混合物が使用できる。
【0028】
本実施形態では、上記珪酸アルカリを水と混合し、十分に攪拌する。この溶液を、界面活性剤、水、酸からなる溶液と混合、撹拌した混合液に加える。この際、界面活性剤は水に均一に分散しているので、上記溶液は当初無色透明の液体であり、時間の経過と共に白色沈殿を生じる。この白色沈殿がメソ多孔体である。
【0029】
また、上記界面活性剤としては、上述したように、ノニオン系界面活性剤が好適であり、特にBrij型(ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、一般式R(−OCHCH−)OH)あるいはTriton型(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型、一般式R−φ(−OCHCH−)OH、φはベンゼン環)が好適である。これは、均一かつ規則的に整列したメソ孔を生成するためには、ヘキサゴナル液晶を形成できる界面活性剤をテンプレートとして使用する必要があるからである。
【0030】
このような界面活性剤としては、ポリオキシエチレンデシルエーテル(構造式:C1021−[−O−CH−CH−]−OH;略号C10EO)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(構造式:C1225−[−O−CH−CH−]−OH;略号C12EO)、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル(構造式:C1429−[−O−CH−CH−]−OH;略号C14EO)、ポリオキシエチレンセチルエーテル(構造式:C1633−[−O−CH−CH−]−OH;略号C16EO)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(構造式:C1837−[−O−CH−CH−]−OH;略号C18EO)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(構造式:C17−φ−[−O−CH−CH−]−OH;φはベンゼン環、略号CPhEO)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(構造式:C19−φ−[−O−CH−CH−]−OH;φはベンゼン環、略号CPhEO)等を使用できる。
【0031】
これらの物質におけるm値、すなわち親水基であるポリオキシエチレン基の重合数は5〜20であることが好ましく、より好ましくは5〜15である。ポリオキシエチレン基の重合数が5より小さいと水に対する溶解性が低下するとともにヘキサゴナル液晶の形成が困難となり、また反対に20より大きくなるとメソポーラスシリカの細孔隔壁が著しく厚みを増して細孔容積と吸着容量が低下するためである。
【0032】
また、上記界面活性剤の疎水基の炭素数は10〜18であるのが好適であり、これに応じてメソポーラスシリカの細孔径は1.6〜2.8nm(BJH法)に変化する。さらに小さい径の細孔に調節する場合は、疎水基として直鎖または分岐アルキルフェニル基を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤を使用するのが良い。これにより、界面活性剤の疎水基がさらに短くなるからである。直鎖アルキル基炭素数が10よりも短い疎水基を有する界面活性剤としては、例えば下記構造を有する分岐型ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等がある。
【0033】
【化1】

【0034】
また、上記酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、硫酸チタン、硫酸アルミニウム等の金属鉱酸塩、またはこれらの混合物等を使用できる。これらの酸は、珪酸アルカリ、水、界面活性剤、酸の混合溶液のpHが4以下好ましくは3.5以下になるように添加する。
【0035】
次に、本実施形態にかかるメソ多孔体を得るための溶液の製造方法について説明する。まず、珪酸アルカリと水とを混合した溶液(第一溶液)と、水と界面活性剤と酸性物質との混合液(第二溶液)の液温を所定の温度の恒温槽等で調整する。次に、第一溶液を第二溶液に加えて攪拌する。第一溶液と第二溶液の混合液は、当初透明均質であるが、反応が進むにつれて白色沈殿を生じる。
【0036】
本発明では、酸性物質によって珪酸アニオンの縮重合が進むため、溶液のpHを調整することで反応を均質かつ十分に進行させることができる。この結果、均質な構造のメソ多孔体を得ることができる。
【0037】
以上に述べた本発明にかかるメソ多孔体を紙等の基材やこの基材を加工した成形体に塗布または含浸し、焼成したり、メソ多孔体を焼成した後紙等の基材やこの基材を加工した成形体に塗布または含浸すると、メソ多孔体を担持したフィルタを得ることができる。
【0038】
上記基材としては、繊維基紙、金属箔等が挙げられる。繊維基紙を構成する繊維としては、特に制限されず、Eガラス繊維、NCRガラス繊維、ARG繊維、ECG繊維、Sガラス繊維、Aガラス繊維などのガラス繊維やそのチョップドストランド、セラミック繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカ繊維、ロックウール繊維、炭素繊維等の無機繊維及び有機繊維が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等を用いることができる。
【0039】
また、該無機繊維は、生体溶解性無機繊維であってもよい。本発明において生体溶解性無機繊維とは、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上である無機繊維を指す。更に詳細に説明すると、該生体溶解性無機繊維としては、例えば、特開2000−220037号公報、特開2002−68777号公報、特開2003−73926号公報、あるいは特開2003−212596号公報に記載されている無機繊維、すなわち、SiO及びCaOの合計含有量が85質量%以上であり、0.5〜3.0質量%のMgO及び2.0〜8.0質量%のPを含有し、かつドイツ危険物質規制による発癌性指数(KI値)が40以上である無機繊維、SiO、MgO及びTiOを必須成分とする無機繊維、SiO、MgO及び酸化マンガンを必須成分とする無機繊維、SiOを52〜72質量%、Al 3質量%未満、MgO 0〜7質量%、CaO 7.5〜9.5質量%、Bを0〜12質量%、BaOを0〜4質量%、SrOを0〜3.5質量%、NaOを10〜20.5質量%、KOを0.5〜4.0質量%及びPを0〜5質量%を含む無機繊維が挙げられる。また、該生体溶解性無機繊維は、1種又は2種以上の組合わせのいずれでもよい。
【0040】
上記生体溶解性無機繊維は、表面に被覆層が形成されていてもよい。そして、表面に被覆層が形成されている生体溶解性無機繊維は、該被覆層が形成されている状態での、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上である。
【0041】
このような無機繊維の40℃における生理食塩水溶解率が1%以上であることにより、該無機繊維が肺に吸収されても生体内で溶解され易い。一方、該無機繊維の40℃における生理食塩水溶解率が1%未満だと、該無機繊維が肺に吸収されても生体内で溶解し難いので、該無機繊維が肺に蓄積し、各種の呼吸器疾患を発生させる原因となることが懸念される。
【0042】
次に、無機繊維の生理食塩水溶解率の測定方法について説明する。先ず、無機繊維を200メッシュ以下に粉砕した試料1g及び生理食塩水150mlを三角フラスコ(300ml)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、該三角フラスコに、毎分120回転の水平振盪を50時間継続して与える。振盪後、ろ過し、得られたろ液中に含有されているケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムについて、各元素の濃度(mg/L)を、ICP発光分析にて測定する。そして、各元素の濃度及び溶解前の無機繊維中の各元素の含有量(質量%)から、下記式(1)により、生理食塩水溶解率C(%)を算出する。なお、ICP発光分析により得られる各元素の濃度を、ケイ素元素の濃度:a1(mg/L)、マグネシウム元素の濃度:a2(mg/L)、カルシウム元素の濃度:a3(mg/L)及びアルミニウム元素の濃度a4(mg/L)とし、溶解前の無機繊維中の各元素の含有量を、ケイ素元素の含有量:b1(質量%)、マグネシウム元素の含有量:b2(質量%)、カルシウム元素の含有量:b3(質量%)及びアルミニウム元素の含有量:b4(質量%)とする。
C(%)={ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100}/{溶解前の無機繊維の量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100} (1)
【0043】
また、上記繊維基紙は、該繊維基紙中の繊維間に、多数の空隙を有している多孔質体である。該繊維基紙の繊維間空隙率は、通常80〜95%であり、該繊維基紙の厚さは、通常0.1〜1mmである。繊維間空隙率とは、繊維基紙基紙の見かけの体積から、該繊維基紙中の繊維の体積を引いた部分(以下、繊維間空隙とも記載する。)が、該繊維基紙の見かけ体積中に占める割合をいう。
【実施例】
【0044】
以下に、上記本発明の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に
限定されるものではない。なお、以下に示す各実施例及び各比較例は、いずれも25℃の実験室内にて実施したものである。
【0045】
実施例1.
JIS 3号水ガラス(SiO:29wt%, NaO:9.5wt%, HO:61.5wt%)と精製水をよく混合し、第一溶液とした。また、ポリオキシエチレン(7)デシルエーテル40wt%水溶液と硫酸をよく混合し、第二溶液とした。第二溶液を攪拌しながら第一溶液を一気に加えると透明であった液が白濁した。そのまま24時間攪拌した後pHを測定すると2.41であった。液中に生じた沈殿物をろ過・水洗した後25℃の室内で一晩乾燥し、その後600℃で5時間焼成して界面活性剤を除去し白色粉末を得た。反応液中の主要成分の組成は表1に示されるとおりである。なお、表1におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2.
JIS 3号水ガラスと精製水をよく混合し、第一溶液とした。また、ポリオキシエチレン(7)デシルエーテル29.6wt%水溶液と硫酸をよく混合し、第二溶液とした。実施例1と同様に両液を混合し24時間攪拌後にpHを測定すると2.02であった。液中に生じた沈殿物をろ過・水洗したのち25℃の室内で一晩乾燥し、その後600℃で5時間焼成して白色粉末を得た。反応液中の主要成分の組成は表2に示されるとおりである。なお、表2におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0048】
【表2】

【0049】
ここで、本発明におけるメソ多孔体の合成においては二液混合後のpHを4以下、好ましくは3.5以下になるよう酸の添加量を調整する。アルカリ領域ではシリカの高分子化が起こり難いため収率が低くなるためである。また、中性領域付近ではこれと反対にシリカの高分子化速度がきわめて高く、シリカ溶存種が界面活性剤のミセルを取り囲む前にゲル化するので均一な細孔が得られなくなるからである。
【0050】
比較例1.
JIS 3号水ガラスと精製水をよく混合し、第一溶液とした。また、ポリオキシエチレン(7)デシルエーテル40.1wt%水溶液と硫酸をよく混合し、第二溶液とした。実施例1と同様に両液を混合したところ、溶液は瞬時にゲル化し、攪拌不能の状態になった。pHを測定したところ、6.37であった。硫酸の添加量が実施例1と比較して少なく、シリカの高分子化速度が最も大きい中性付近にpHが調整されたため、瞬時にゲル化が起こったからである。他の主要成分の組成は表3のとおりであり、実施例1とほぼ同一である。なお、表3におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0051】
【表3】

【0052】
また、本発明におけるメソ多孔質体の合成では液の混合方法が重要であり、例えば実施例1と同一の液組成であっても、異なる混合方法(原料の添加順序)によっては細孔径の均一性が低下する。これを比較例2、3として以下に示す。
【0053】
比較例2.
JIS 3号水ガラスとポリオキシエチレン(7)デシルエーテル32.7wt%水溶液をよく混合し、第一溶液とした。この第一溶液のpHは11.70であった。第一溶液を攪拌しながら第二溶液としての硫酸をゆっくり滴下してゆくと白色の沈殿物が生成した。pHが3.05に達したところで硫酸の滴下を中止し、そのまま24時間攪拌した。沈殿物をろ過・水洗したのち25℃で一晩風乾し、その後600℃で5時間焼成した。反応液中の主要成分の組成は表4のとおりである。なお、表4におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0054】
【表4】

【0055】
比較例3.
ポリオキシエチレン(7)デシルエーテル32.7wt%と硫酸をよく混合し、第一溶液とした。この第一溶液を攪拌しながら第二溶液としてのJIS 3号水ガラスをゆっくり滴下すると白色の沈殿物が生成した。pHが3.22に達したところで水ガラスの滴下を中止し、そのまま24時間攪拌した。沈殿物をろ過・水洗したのち25℃で一晩風乾し、その後600℃で5時間焼成した。反応液中の主要成分の組成は表5のとおりである。なお、表5におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0056】
【表5】

【0057】
以上に述べた実施例1、2および比較例1〜3で合成したメソ多孔体の細孔径分布を窒素吸着法により測定した。その測定結果が図1に示される。なお、図1において、横軸は細孔径、縦軸は細孔径の頻度分布を表す微分細孔容積である。
【0058】
図1に示されるように、実施例1、実施例2と比較して、反応液のpHを中性付近に調整した比較例1の細孔直径は大きくなっており、目的とする細孔径が得られていない。また、細孔径分布はよりブロードになっており、均一な細孔が得られていない。一方、実施例1と原料の添加順序を異ならせた比較例2及び比較例3では、実施例1、実施例2と比較して、細孔直径は同じであるが、細孔容積が小さくなっており、吸着容量としては好ましくない。
【0059】
また、本発明によるメソ多孔質体の合成法では、使用する界面活性剤の疎水基長さを変えることによりメソ多孔体の細孔径の制御が可能である。これを、以下の実施例3、4示す。
【0060】
実施例3.
JIS 3号水ガラスと精製水をよく混合し、第一溶液とした。また、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル29.9wt%水溶液と硫酸をよく混合し、第二溶液とした。実施例1と同様に両液を混合し24時間攪拌後にpHを測定すると2.17であった。液中に生じた沈殿物をろ過・水洗したのち25℃の室内で一晩乾燥し、その後600℃で5時間焼成して白色粉末を得た。反応液中の主要成分の組成は表6のとおりである。なお、表6におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0061】
【表6】

【0062】
実施例4.
JIS 3号水ガラスと精製水をよく混合し、第一溶液とした。また、ポリオキシエチレン(13)セチルエーテル24.9wt%水溶液と硫酸をよく混合し、第二溶液とした。実施例1と同様に両液を混合し24時間攪拌後にpHを測定すると1.96であった。液中に生じた沈殿物をろ過・水洗したのち25℃の室内で一晩乾燥し、その後600℃で5時間焼成して白色粉末を得た。反応液中の主要成分の組成は表7のとおりである。なお、表7におけるHOは、原料に由来する分を含んでいる。
【0063】
【表7】

【0064】
以上に述べた実施例1〜4で合成したメソ多孔体の細孔分布曲線を図2〜4に示す。また、図5は細孔分布曲線のピークトップ位置を、合成時に用いた界面活性剤の直鎖疎水基炭素数に対してプロットしたものである。図1〜5に示されるように、界面活性剤の直鎖疎水基炭素数の増加に応じてメソ多孔体の細孔径が大きくなっている。これにより、使用する界面活性剤の疎水基炭素数を変えることにより、メソ多孔体の細孔径の制御が可能であることがわかる。
【0065】
なお、本発明にかかるメソ多孔体の合成法においては、第二溶液に金属酸を添加することで他種金属を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】メソ多孔体の細孔分布曲線を示す図である。
【図2】メソ多孔体の細孔分布曲線を示す図である。
【図3】メソ多孔体の細孔分布曲線を示す図である。
【図4】メソ多孔体の細孔分布曲線を示す図である。
【図5】細孔分布曲線のピークトップ位置を、合成時に用いた界面活性剤の直鎖疎水基炭素数に対してプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸アルカリ、ノニオン系界面活性剤、水及び酸性物質からなる溶液から沈殿物として得られるメソ多孔体であって、前記沈殿物に含有された液体中に有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とするメソ多孔体。
【請求項2】
前記珪酸アルカリ、ノニオン系界面活性剤、水及び酸性物質からなる溶液は、シリカ分が1〜10重量%、界面活性剤が5〜35重量%、水が55〜80重量%の含有率であり、pHが4以下で、有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載のメソ多孔体。
【請求項3】
前記界面活性剤の疎水基の炭素数が10〜18であることを特徴とする請求項1または2に記載のメソ多孔体。
【請求項4】
前記界面活性剤が、疎水基として直鎖または分岐アルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のメソ多孔体。
【請求項5】
前記界面活性剤が、疎水基として直鎖または分岐アルキルフェニル基を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のメソ多孔体。
【請求項6】
前記酸性物質が鉱酸または金属鉱酸塩であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のメソ多孔体。
【請求項7】
珪酸アルカリと水とを混合した第一溶液を、界面活性剤と水と酸性物質を加えた第二溶液に加えることを特徴とするメソ多孔体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のメソ多孔体または前記メソ多孔体を焼成した焼成体を担持したことを特徴とするフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−269586(P2007−269586A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98203(P2006−98203)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】