説明

メタクリル系樹脂組成物

【課題】本発明は、成形品の加熱溶着に適したメタクリル系樹脂組成物に関する。
【解決手段】メタクリル酸メチル単量体単位80〜99.5wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位0.5〜20wt%を含むメタクリル系樹脂であって、該メタクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜230000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル系樹脂樹脂成分に対し7〜30%含まれたメタクリル系樹脂100重量部[A]に対し、特定の溶着改良剤[B]を0.05〜0.5重量部含有することを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱溶着に適したメタクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、透明樹脂として他のプラスチック透明樹脂よりその高い光透過率、耐候性、剛性に特徴があり、車両用部品、照明器具、建築用材料、看板、絵画や、表示装置の窓や銘板等広い用途で用いられている。メタクリル系樹脂成形体どうしを接着させて成形体にバリエーションをもたせることも良く行われており、その接着方法としては、加熱による熱溶融接着(以下、加熱溶着、熱板溶着などと称する)が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−249528号公報
【特許文献2】特開2009−249529号公報
【特許文献3】特開2009−249530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、メタクリル系樹脂の成形体を加熱溶着するには次のような課題があった。すなわち、メタクリル系樹脂成形体を加熱体に当てた後、該成形体を加熱体から離そうとすると、糸状のポリマーが成形体についた状態になって溶着不良が発生するという、いわゆる糸引きの問題があった。この糸引きを改良する方法としては、脂肪酸誘導体や、脂肪族アルコールを樹脂に添加する方法がある(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの方法は、単に熱板から溶融樹脂を離す際の樹脂の離型性を改良したに過ぎず、糸引き抑制効果が十分とはいえなかった。このため、溶着温度を低くするなどの方法で対処する必要があるが、溶着温度が低いと樹脂の軟化が十分ではないため溶着部分が外れやすくなり、十分な溶着強度が得られなかったり、溶着に要する時間が長くなるという問題を生じる。また近年、溶着装置の改変が進んでおり、従来のように成形体を上下方向に移動させて溶着させるのではなく、図4のように成形体3を水平方向に移動させることにより、加熱固体5の移動距離を小さくした装置が使われることもある。このような装置を使う場合、水平方向に引いた糸が下方向に垂下しやすく、その後の溶着強度や外観に影響を与えることもあり、さらなる糸引きの改善方法が求められていた。
したがって本発明は、加熱溶着において糸引きが生じにくく、作業性や溶着強度を向上しうるメタクリル系樹脂組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するメタクリル系樹脂に特定の溶着改良剤を添加した樹脂組成物であれば、成型加工時の糸引きなどの問題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
メタクリル酸メチル単量体単位80〜99.5wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位0.5〜20wt%を含むメタクリル系樹脂であって、該メタクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜230000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル系樹脂成分に対し7〜30%含まれたメタクリル系樹脂[A]100重量部に対し、
下記溶着改良剤[B]を0.05〜0.5重量部含有することを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
改良剤[B]:炭素数が12〜24の脂肪族炭化水素、炭素数が12〜24の脂肪族アルコール、炭素数が11〜23の脂肪酸とグリセリンのモノエステル化合物のいずれか1種以上。
【発明の効果】
【0006】
本発明のメタクリル系樹脂は、加熱溶着時に糸引きを生じにくく、加熱溶着の作業性を向上させることができ、溶着後に十分な溶着強度が得られるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明におけるメタクリル系樹脂のGPCエリアに関する説明図である。グラフの縦軸はRI(示差屈折)検出強度(mV)、グラフの横軸の下部は溶出時間(min.)、上部はGPCエリア面積全体に対する累積エリア面積(%)を示す。
【図2】累積エリア面積の一例を示した図である。
【図3】GPC溶出曲線測定グラフ上での、累積エリア面積0〜2%と、累積エリア面積98〜100%の位置を示す概略図である。
【図4】本実施例及び比較例で用いた糸引き長さ評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明をさらに詳細に説明する。本発明におけるメタクリル系樹脂[A]は、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体からなる。
メタクリル酸メチル単位のメタクリル系樹脂における含有量は80〜99.5wt%である。樹脂の熱分解を抑えるためにはメタクリル酸メチル単位は99.5wt%以下が必要である。また、耐熱性の点から80wt%以上が必要である。この範囲とすることにより成形品を高温、多湿、屋外などの環境下においた後でもゆがみを抑制できる。より好ましくは、90wt%以上であり、95wt%以上であることがさらに好適である。この範囲であれば、成形時にシルバーと呼ばれる樹脂が分解して生じたモノマーが発泡してできる気泡の発生が抑えられる。
【0009】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体は、流動性と耐熱性に影響を与える。メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体として、以下が挙げられる。
アルキル基の炭素数が2〜18のメタクリル酸アルキル、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキル;
アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;
スチレン、α−メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;
無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド等;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;
トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;
ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等が挙げられる。
【0010】
これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。これらの中でも、耐光性、耐熱性、流動性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が好ましく用いられる。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが特に好ましく、さらにはアクリル酸メチルが入手しやすく最も好ましい。
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂に対して0.5〜20wt%が必要である。流動性を付与する目的から0.5wt%以上が必要である。また、耐熱性を付与する目的から20wt%以下が必要である。耐熱性を高めるためには10wt%以下が好ましい。流動性と耐熱性をさらに高めるために、より好ましい範囲は0.8〜7wt%である。さらに好ましくは0.8〜5wt%である。
【0011】
本発明におけるメタクリル系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜230000である。機械強度を維持する目的から60000以上が必要である。流動性を維持する目的から230000以下が必要である。この範囲とすることにより成形加工が容易となる。また流動性をより高めるためには70000〜200000以下が好ましい。
本発明で測定される重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される。あらかじめ、単分散の、重量平均分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル樹脂と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。得られた検量線から各試料の分子量を求めることが出来る。
本発明において、ピーク重量平均分子量(Mp)とは、GPC溶出曲線においてピークを示す重量平均分子量を指す。GPC溶出曲線においてピークが複数存在する場合は、存在量が最も多い重量平均分子量が示すピークを指す。
【0012】
本発明におけるメタクリル系樹脂に存在するMpの1/5以下の重量平均分子量成分は、樹脂の機械強度、成形品のゆがみに関して重要である。Mpの1/5以下の重量平均分子量成分は可塑化効果を有する。この成分の存在量が、該メタクリル系樹脂成分に対し7〜30%の範囲にあるときに成形性向上と成形後の成形品のゆがみ抑制の効果が得られる。可塑化効果、流動性の観点から7%以上が必要である。この範囲であれば、成形時の射出圧力を抑えられ、残留ひずみによる成形品のゆがみが防止できる。一方、耐熱性や環境試験におけるクラックや成形品のゆがみの抑制、強度の点から30%以下が必要である。好ましくは、8〜28%であり、より好ましくは10〜27%である。しかしながら、重量平均分子量が500以下のメタクリル系樹脂成分は、成形時にシルバーと呼ばれる発泡様の外観不良を生じさせやすいため、できる限り少ないほうが好ましい。
上記のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体は、得られるメタクリル系樹脂の高分子量成分中の組成比率が低分子量成分中の組成比率に比べて大きいことが好ましい。耐熱性や環境試験でのクラックや成形品のゆがみの低発生率、機械強度を維持しながら流動性をより向上させることができるからである。
【0013】
ここでGPC溶出曲線におけるエリア面積とは図1に示す斜線部分を指す。具体的な定め方は次のように行う。まず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度から得られるGPC溶出曲線に対し、測定機器により自動で引かれるベースラインとGPC溶出曲線が交わる点Aと点Bを定める。点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインとGPC溶出曲線が交わる位置とする。もし重量平均分子量が500以上の範囲で交わらなかった場合は重量平均分子量が500の溶出時間のRI検出強度の値を点Bとする。点A、B間のGPC溶出曲線と線分ABで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。本願では高分子量成分から溶出されるカラムを用いるため、溶出時間初期に高分子量成分が観測され、溶出時間終期に低分子量成分が観測される。
【0014】
GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、図1に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。累積エリア面積の具体例を図2に示す。この図2において、ある溶出時間におけるベースライン上の点を点X,GPC溶出曲線上の点を点Yとする。曲線AYと、線分AX、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間での累積エリア面積(%)の値とする。
累積エリア面積0〜2%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率をMh(wt%)とする。一方、累積エリア面積98〜100%、すなわち低分子量を有するメタクリル系樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成率をMl(wt%)とする。累積エリア面積0〜2%、98〜100%の測定グラフ上での位置の概略図を図3に示す。
【0015】
MhやMlの値はGPCから得られた溶出時間をもとにカラムのサイズに応じ数回もしくは数十回連続分取して、求めることが可能である。分取したサンプルの組成を既知の熱分解ガスクロ法により分析すればよい。
上述のMh(wt%)とMl(wt%)には下記の式[1]の関係が成り立つことが好ましい。
(Mh−0.8)≧Ml≧0・・・・・・・・・・・・・[1]
これは、低分子量成分より高分子量成分のほうが、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成が0.8wt%以上多いことを示す。低分子量成分には他のビニル単量体が必ずしも共重合していなくても良いことを示す。Mh(wt%)とMl(wt%)の差は流動性向上の効果のために0.8wt%以上が好ましい。より好ましくは1.0wt%以上である。
【0016】
本発明におけるメタクリル系樹脂組成物に用いる溶着改良剤[B]は、炭素数が12〜24の脂肪族炭化水素、炭素数が12〜24の脂肪族アルコール、炭素数が11〜23の脂肪酸とグリセリンのモノエステル化合物のうちいずれか1種以上である。溶着改良剤[B]が含まれていることにより、二次加工時に糸引き等による加熱溶着時不良が抑制される。
この溶着改良剤[B]はメタクリル系樹脂[A]100重量部に対し、0.05重量部以上0.5重量部以下含まれている必要がある。0.05重量部以下であると添加による効果が期待できず、0.5重量部以上であると、耐熱性が低下したり、成形時にシルバー等が発生するため良くない。好ましくは0.08重量部以上0.45重量部以下であり、より好ましくは0.1重量部以上0.4重量部以下である。
【0017】
炭化水素としてはCの数が12より短いと、成形時にシルバーになりやすい。Cの数が24より長いと糸引き改良の効果が低い。また、不飽和脂肪族炭化水素より飽和脂肪族炭化水素のほうが好ましい。具体的には、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ドコサンであり、さらに好ましくはヘキサデカン、オクタデカン、ドコサンであり、これらは単独でも良いし、複数種が混合していても良い。
脂肪族アルコールとしては、Cの数が12より短いと、成形時にシルバーになりやすい。Cの数が24より長いと糸引き改良の効果が低い。また、不飽和脂肪族アルコールより飽和脂肪族アルコールのほうが好ましい。具体的には、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、ドコサノールであり、さらに好ましくはヘキサデカノール、オクタデカノール、ドコサノールであり、これらは単独でも良いし、複数種が混合していても良い。
【0018】
Cが11〜23の脂肪酸とグリセリンのエステルについては、モノエステルが好ましい。ただし、モノエステル以外に製造時に含まれてくるジエステル、トリエステルが含まれていてもよい。モノエステル純度が80%以上であれば、モノエステルとしての性能を示す。グリセリンとエステル反応を行う脂肪酸としては、C11〜C23の脂肪酸がよい。Cが11より短いと、成形時にシルバーになりやすい。Cの数が24より長いと糸引き改良の効果が低い。また、モノエステルとなる脂肪酸としては、不飽和脂肪酸より飽和脂肪酸のほうが好ましい。具体的には、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸であり、さらに好ましくはヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸であり、これらは単独でも良いし、複数種が混合していても良い。これらすべての中でも特に好ましいのは、入手しやすく、糸引きの改善効果が高いの点からCの数が12〜22の炭化水素であり、さらに具体的にはドコサンである。
【0019】
上記のようにメタクリル系樹脂[A]のMpの1/5以下の低分子量成分と前記溶着改良剤[B]成分とが相溶して接着界面にブリードアウトして接着界面に偏在することにより、溶着時に糸引きを生じることなく、なおかつ、低温度で溶着しても接着強度が保たれていると推測される。
上述のメタクリル系樹脂組成物には、さらに必要に応じて染料、顔料、ヒンダードフェノール系やリン酸塩等の熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸フェニルエステル系などの紫外線吸収剤、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系などの可塑剤、ポリオレフィン系などの滑剤、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩などの帯電防止剤、リン系、リン/塩素系、リン/臭素系などの難燃剤、反射光のぎらつきを防止するためにメタクリル酸メチル/スチレン重合体ビーズなどの有機系光拡散剤、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルクなどの無機系光拡散剤、補強剤として多段重合で得られるアクリル系ゴム等を使用しても良い。これらの添加剤を配合するときには、公知の方法で実施しうる。例えば、単量体混合物にあらかじめ添加剤を溶解しておき重合する方法が用いられる。
【0020】
本発明におけるメタクリル系樹脂の組成物の製造方法としては、特に制限は無く、具体的には、以下の方法が挙げられる。
まず、メタクリル系樹脂[A]の製造方法について説明する。
1.あらかじめ重合体(A)を製造したのち、重合体(A)と異なる分子量を持つ重合体(B)の原料組成混合物に重合体(A)を混合する。その混合液を重合させて製造する方法。
2.あらかじめ重合体(A)及び重合体(A)と異なる分子量を持つ重合体(B)を個別に製造しておき、ブレンドする方法。
【0021】
これらの方法は2種類の分子量成分が異なる成分を用いて製造する方法に関してであるが、方法1及び2に関しては、更に分子量組成の異なる重合体(C)、重合体(D)等を同様の手順で製造し、分子量組成の異なる重合体(C)、重合体(D)等を更にブレンドし、押出し機で溶融混練しても良い。
好ましくは、重合体(A)を製造しておき、その重合体(A)が重合体(B)の原料組成混合物中に存在している状態で重合体(B)を製造する方法である。重合体(A)と重合体(B)のそれぞれの組成を制御しやすく、重合時の重合発熱による温度上昇を押さえられ、系内の粘度も安定に得られるためである。この場合、重合体(B)の原料組成混合物は(A)を添加した時点で一部重合が開始されている状態であっても良い。
メタクリル系樹脂[A]の重合方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合法もしくは乳化重合法のいずれかが好ましい。より好ましくは塊状重合、溶液重合及び懸濁重合法である。
【0022】
本発明における重合体(A)と重合体(B)の分子量はどちらかが高分子量であり、どちらかが低分子量であってもよい。重合体(A)と重合体(B)の組成は異なっていることが好ましい。
例えばメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体の含有量が、メタクリル系樹脂に対して0.8〜20wt%であれば、重合体(A)と重合体(B)でその含有量が異なっていることが好ましい。
【0023】
ここで、重合体(A)として低分子量である重合体(1)を製造し、重合体(B)として高分子量である重合体(2)を製造する方法を説明する。
まず、メタクリル酸メチル単量体80〜100wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で 構成される単量体0〜20wt%からなる重合体(1)が得られるよう1段目の原料を仕込む。このとき、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体は少ないほうが好ましく、使用しなくても良い。重合体(1)はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が5000〜50000となるようにする。5000以上とすることにより、成形に不具合を生じさせる重量平均分子量が500以下のメタクリル系樹脂[A]中の成分が少なくなり、重合体(1)の存在下で重合体(2)を製造する際に重合体(2)の分子量が連続生産時に安定するため好ましい。また、得られた樹脂組成物の流動性がよくなることから50000以下とするとよい。より好ましくは5000〜40000であり、さらに好ましくは、8000〜38000であり、10000〜36000であり、さらに好ましくは19000〜38000となるように製造する。
【0024】
次に重合体(1)を製造した後、重合体(2)を製造する。このとき、重合体(1)の存在下で重合体(2)を製造する方法が好ましい。さらに、重合体(1)と重合体(2)の重合の間に一定時間保持時間をおくとよい。
重合体(2)はメタクリル酸メチル単量体80〜99.5wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体0.5〜20wt%からなる共重合体であって、その分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が70000〜250000となるようにする。機械強度が好ましいことから70000以上であり、流動性の点から250000以下である。より好ましくは70000〜280000であり、さらに好ましくは、75000〜180000である。
また、重合体(1)の比率が5〜40wt%となるように製造すると、流動性向上の効果を得ることができるので好ましい。また、40wt%以下であると樹脂の機械強度がより好ましい範囲となる。より好ましくは5〜35wt%であり、さらに好ましくは10〜30wt%である。
【0025】
重合体(2)の比率は95〜60wt%が好ましい。流動性向上の効果を得るためには95wt%以下が好ましい。樹脂の機械強度の点から60wt%以上が好ましい。
上記の重合体(1)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mal(wt%)と重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mah(wt%)には式(3)の関係が成り立つことが好ましい。
(Mah−0.8)≧Mal≧0・・・・・・・・・・・・・・(3)
組成比率MalとMahは、重合体(1)及び重合体(2)それぞれを熱分解ガスクロマトグラフィー法により測定し、決定することが可能である。それぞれの値は、仕込みで用いた組成比率とほぼ同等の値を示ため、仕込みで用いた組成比率を用いても良い。
Mah(wt%)とMal(wt%)との差は、流動性の点から0.8wt%以上が好ましい。高分子量である重合体(1)にメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体が組成比率として多く含まれているほうが耐熱性や機械強度を維持しながら流動性の向上が図れるため好ましい。
【0026】
本発明の高流動性メタクリル系樹脂を製造するための重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、下記の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができる。
ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキサイド系;
アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ系;等が挙げられる。
これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。これらの開始剤は、単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いるのが一般的である。
【0027】
メタクリル系樹脂の製造方法として、ラジカル重合法で製造する場合には、重合体(A)及び重合体(B)の分子量を調整するために、一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、例えばn−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。一般に単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いられる。重合体(A)と重合体(B)に用いられる連鎖移動剤は同じでも良いし異なっていても良い。重合体(A)と重合体(B)の連鎖移動剤の量は望む分子量に依存して決定される。
なお、溶着改良剤[B]をメタクリル系樹脂[A]に添加する方法は特に制限はなく、メタクリル系樹脂[A]とあらかじめドライブレンドでブレンドした後押出し機を用いて混練する方法でも良いし、メタクリル系樹脂[A]が溶融している途中で、押出機にこれらの物質を投入し、途中より混練する方法でも良いし、メタクリル系樹脂[A]重合する際の原料に投入して添加しても良い。
【0028】
メタクリル系樹脂は、単独又は、さらに他の樹脂と混合して用いても良い。混合する場合には、ブレンドして、押出し機、射出成形機等で、加熱溶融混合しても良いし、押出し機で、加熱溶融混合したペレットを用いても良い。先に挙げた添化剤をこのときにブレンドして混合しても良い。
メタクリル系樹脂は組成の異なる本発明のメタクリル系樹脂組成物を複数種組み合わせても良いし、その他の公知のメタクリル系樹脂と組み合わせても良い。組み合わせ方法としては、ブレンドして用いても良いし、一度押出し機でコンパウンドしてペレタイズをしても良い。
【実施例】
【0029】
以下に実施例、比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
[原料]
用いた原料は下記のものである。
メタクリル酸メチル:旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノールを2.5ppm添加されているもの)
アクリル酸メチル:三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4−メトキシフェノールが14ppm添加されているもの)
n−オクチルメルカプタン:アルケマ製
2−エチルヘキシルヘキサエノエート:日本油脂製
第3リン酸カルシウム:日本化学工業製、懸濁剤として使用
炭酸カルシウム:白石工業製、懸濁剤として使用
ラウリル硫酸ナトリウム:和光純薬製、懸濁助剤として使用
脂肪族炭化水素: すべて和光純薬製
(1)デカン(C10)
(2)ドコサン(C22)
(3)ヘキサコサン(C26)
脂肪族アルコール
(4)1−デカノール(C10):アルドリッチ製
(5)ステアリルアルコール(C18):花王製
(6)ヘキサコサノール(C26):アルドリッチ製
脂肪酸とグリセリンのモノエステル: すべてアルドリッチ製
(7)1−デカン酸モノグリセリド(モノ純度83%)
(8)ステアリン酸モノグリセリド(モノ純度95%)
(9)ヘキサコサン酸モノグリセリド(モノ純度82%)
【0030】
[測定法]
[I.樹脂の組成、分子量の測定]
1.メタクリル系樹脂の組成分析
メタクリル系樹脂の組成分析は、熱分解ガスクロマトグラフィー及び質量分析方法で行った。
熱分解装置:FRONTIER LAB製Py−2020D
カラム:DB−1(長さ30m、内径0.25mm、液相厚0.25μm)
カラム温度プログラム:40℃で5min保持後、50℃/minの速度で320℃まで昇温し、320℃を4.4分保持
熱分解炉温度:550℃
カラム注入口温度:320℃
ガスクロマトグラフィー:Agilent製GC6890
キャリアー:純窒素、流速1.0ml/min
注入法:スプリット法(スプリット比1/200)
検出器:日本電子製質量分析装置Automass Sun
検出方法:電子衝撃イオン化法(イオン源温度:240℃、インターフェース温度:320℃)
サンプル:メタクリル系樹脂0.1gのクロロホルム10cc溶液10μl
サンプルを熱分解装置用白金試料カップに採取し、150℃で2時間真空乾燥後、試料カップを熱分解炉に入れ、上記条件でサンプルの組成分析をで行った。メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルのトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)上のピーク面積と以下の標準サンプルの検量線を元にメタクリル系樹脂の組成比を求めた。
検量線用標準サンプルの作成:メタクリル酸メチル、アクリル酸メチルの割合が(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)=(100%/0%)、(98%/2%)、(94%/6%)、(90%/10%)(80%/20%)の合計5種の溶液、各50gにラウロイルパーオキサイド0.25%、n−オクチルメルカプタン0.25%を添加した。この各混合溶液を100ccのガラスアンプル瓶にいれて、空気を窒素に置換して封じた。そのガラスアンプル瓶を80℃の水槽に3時間、その後150℃のオーブンに2時間入れた。室温まで冷却後、ガラスを砕いて中のメタクリル系樹脂を取り出し、組成分析を行った。検量線用標準サンプルの測定によって得られた(アクリル酸メチルの面積値)/(メタクリル酸メチルの面積値+アクリル酸メチルの面積値)及びアクリル酸メチルの仕込み比率とのグラフを検量線として用いた。
【0031】
2.メタクリル系樹脂の重量平均分子量の測定
測定装置:日本分析工業製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−908)
カラム:JAIGEL−4H 1本及びJAIGEL−2H 2本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:2.4μV/sec
サンプル:0.450gのメタクリル系樹脂のクロロホルム15ml溶液
注入量:3ml
展開溶媒:クロロホルム、流速3.3ml/min
上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。GPC溶出曲線におけるエリア面積と、検量線を基にメタクリル系樹脂の平均分子量を求めた。
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量平均分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のメタクリル樹脂(EasiCal PM−1 Polymer Laboratories製)を用いた。
【0032】
重量平均分子量
標準試料1 1,900,000
標準試料2 790,000
標準試料3 281,700
標準試料4 144,000
標準試料5 59,800
標準試料6 28,900
標準試料7 13,300
標準試料8 5,720
標準試料9 1,936
標準試料10 1,020
【0033】
重合体(1)と重合体(2)が混合している場合には、あらかじめ重合体(1)単独のGPC溶出曲線を測定し重量平均分子量を求めておき、重合体(1)が存在している比率(本願では仕込み比率を用いた)を重合体(1)のGPC溶出曲線に乗じ、その溶出時間における検出強度を重合体(1)と重合体(2)が混合しているGPC溶出曲線から引くことで、重合体(2)単独のGPC溶出曲線が得られる。これから重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
また、GPC溶出曲線でのピーク重量平均分子量(Mp)をGPC溶出曲線と検量線から求める。
【0034】
Mpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量は次のように求めた。
まず、メタクリル系樹脂のGPC溶出曲線におけるエリア面積を求める。GPC溶出曲線におけるエリア面積とは図1に示す斜線部分を指す。具体的な定め方は次のように行った。
まず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度から得られるGPC溶出曲線に対し、測定機器で得られる自動で引かれるベースラインを引いてGPC溶出曲線と交わる点Aと点Bを定めた。点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインと溶出曲線が交わる位置とする。もし交わらなかった場合は重量平均分子量が500の溶出時間のRI検出強度の値を点Bとする。点A、B間のGPC溶出曲線とベースラインで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。本願では高分子量成分から溶出されるカラムを用いたため、溶出時間初期(点A側)に高分子量成分が観測され、溶出時間終期(点B側)に低分子量成分が観測された。
GPC溶出曲線におけるエリア面積を、Mpの1/5の重量平均分子量に対応する溶出時間で分割し、Mpの1/5以下の重量平均分子量成分に対応するGPC溶出曲線におけるエリア面積を求めた。その面積と、GPC溶出曲線におけるエリア面積の比から、Mpの1/5以下の重量平均分子量の比率を求めた。
【0035】
3.メタクリル系樹脂の高分子量成分及び低分子量成分におけるメタクリル酸メチルに共重合可能なビニル共重合体の組成比率の測定
本測定では累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分の組成分析を行った。GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、図1に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。累積エリア面積の具体例を図3に示す。この図3において、ある溶出時間におけるベースライン上の点を点X,GPC溶出曲線上の点を点Yとする。曲線AYと、線分AX、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間での累積エリア面積(%)の値とする。このようにして処理を行うことによる、累積エリア面積0〜2%、98〜100%の測定グラフ上での位置の概略図を図3に示す。
累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分を、対応する溶出時間を基にカラムから分取して、その組成分析を行った。測定と、各成分の分取は、2.と同様の装置、条件で行った。
分取を2回行い、分取したサンプルのうち10μlを1.で用いた熱分解ガスクロ分析及び質量分析方法の熱分解装置用白金試料カップに採取し、100℃の真空乾燥機に40分乾燥した。1.と同様の条件で分取した累積エリア面積に対応するメタクリル系樹脂の組成を求めた。
【0036】
4.炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪酸とグリセリンモノエステルの添加量の測定
樹脂0.2gをアセトン20gに溶解し、溶解液を2μlをGCでステアリルアルコールの定量分析を行った。GCは島津製ガスクロマトグラフィーGC−1700で、カラムはTC−1、カラム温度は50℃、inj温度は250℃、FID方式で測定した。キャリアは市販ボンベの窒素ガスで行った。
【0037】
[II.実用物性の測定]
1.スパイラル長さの測定
断面積一定の、スパイラル状のキャビティを樹脂が流れた距離によって、相対的流動性を判定する試験である。
射出成形機:東芝機械製IS−100EN
測定用金型:金型の表面に、深さ2mm、幅12.7mmの溝を、表面の中心部からアルキメデススパイラル状に掘り込んだ金型
射出条件
樹脂温度:250℃
金型温度:55℃、
射出圧力:98MPa、
射出時間:20sec
金型表面の中心部に樹脂を上記条件で射出した。射出終了40sec後にスパイラル状の成形品を取り出し、スパイラル部分の長さを測定した。これを流動性評価の指標とした。
先端にシルバーが出た場合は、不良であり、シルバー発生とした。
【0038】
2.溶着温度および糸引き長さの評価
あらかじめ、名機製ダイナメルターM−70Bを用いて金型温度60℃、成形温度20℃にて射出速度70MPa、保圧を120MPaで20sec保持し、長さ250mm、幅13.5mm厚み3.2mmの短冊試験片を成形し、デシケーターで保存しておく。
図4に評価装置の概念図を示す。
まず、2つの可動冶具4に各々短冊状の試験片3を固定し、これをレール6に固定する。この際、13.5mm×3.2mmの部分が対面できっちりと重なるように3mレール及びレールを走る100cmの可動冶具4をセットした。その後、可動冶具4を両サイドに移動させた。
【0039】
可動冶具4間のレール6上に、電圧を可変させて温度を調整できるタングステンヒーターを鋳込んだ1辺が10cm×10cm×3cmの直方体表面を鏡面研磨したアルミ製の加熱固体5を投入し、可動冶具4を両サイドから移動させて0.1MPaの圧力で10秒間アルミ固体5に押し当て、短冊状の試験片3の両方の先端を溶融させた。溶融温度は、タングステンヒーターを温度調設し、アルミ固体の表面の温度を測定することにより決定した。溶融温度は、通常成形する温度と、糸引きを抑えるために低い温度で成形する場合の糸引き長さと曲げ強さが評価できるように、前記温度よりも10℃低い温度の2点で評価した。
その後成形品を加熱したアルミ固体5から引き離し、アルミ製の加熱固体5を取り除き、1秒後に溶融した成形品先端同士を0.2MPaの押し付け圧力で押し付けて熱溶着を行なった。これを後述の溶着品の強度測定に用いた。
【0040】
次に、短冊状の試験片3をSUS製の加熱固体5に同様に接触した後、試験片3を加熱固体5から引き離した後、成形品を取り出し、SUS製の加熱固体5と試験片3が引っ付いて離れる際に発生する一番長い糸状の樹脂の長さ(糸引き長さ)を測定した。10mm以上糸引き長さがあると、加熱溶着した成形品表面にこの糸状の樹脂が出てくることとなりこれは不良となる。
3.加熱溶着品の強度測定
2.で得られた加熱溶着した試験片をJIS−K7171に基づき曲げ強度を測定した。成形品は、溶着した部分が真ん中にくるように設置して評価を行った。
【0041】
[IV.樹脂の重合]
以下に樹脂1〜7のメタクリル系樹脂の製造方法を示す。
原料の配合量を表1に、単量体の仕込み組成と重合体の比率、各重合体の重量平均分子量の測定結果を表2に示す。
【0042】
[樹脂1]
60Lの反応器に重合体(1)の原料として表1に示す配合量を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で90分懸濁重合した。この重合体(1)をサンプリングし、GPCで重合平均分子量を測定した。結果を表2に示す。
その後、60分間、80℃を維持し、次に重合体(2)の原料を、表1に示す配合量反応器に投入し、引き続き80℃で90分懸濁重合し、続いて92℃に1/minの速度で昇温し、60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、ポリマーを洗浄、脱水した後、乾燥処理し、ビーズ状ポリマーを得た。このビーズ状ポリマーの重合平均分子量をGPCで測定し、重合体(1)のGPC溶出曲線を元にして、重合体(1)が含まれている比率をかけて、ビーズ上ポリマーのGPC溶出曲線から、重合体(1)のGPC部分を除去し、重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
このようにして得られたビーズ状ポリマーを2軸押し出し機で240℃で押し出し、ペレタイズを行った。熱分解ガスクロ分析及びゲルパーミエーションクロマトグラフィーでこのペレットの組成、分子量を測定した。
【0043】
[樹脂2〜樹脂4]
表1に示す配合に変えた以外は樹脂1と同様にして重合、測定、ペレタイズを行った。
[樹脂5〜樹脂7]
60Lの反応器に表1に示す配合量で、重合体(1)の原料を投入し、反応温度80℃で150分懸濁重合し、92℃に1℃/minの速度で昇温して60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状ポリマーを得た。このビーズ状ポリマーを2軸押し出し機で240℃で押し出し、ペレタイズを行なった。熱分解ガスクロ分析及びゲルパーミエーションクロマトグラフィーでこのペレットの組成、分子量を測定した。
上記で得られた樹脂1〜7のメタクリル系樹脂の組成、分子量、ピーク分子量などを分析し、その結果を表3に示した。
【0044】
[実施例1〜6、比較例1〜14]
表4のとおりの配合でメタクリル系樹脂[A]に溶着改良剤[B]を添加して、250℃で30mmφの2軸押出し機で押出してペレタイズを行った。得られたペレットについてスパイラルフロー長さと糸引き長さを評価した。溶着温度及び糸引き長さを評価する際の溶融温度は250℃及び240℃とした。
表4に示したように、実施例1〜6は比較例1と比べ、溶着改良剤[B]を添加したほうが糸引き長さが短いという結果となった。また、Cの数が小さい炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪酸とグリセリンのモノエステル化合物を溶着改良剤[B]を用いた比較例2,5,8は、いずれもスパイラルフロー長さを評価した際に、先端にシルバーが発生するという悪い結果となった。また、逆にCの数が長い場合である比較例3、4、6,7,9,10いずれも糸引き長さ評価においてその効果が出ないという結果となった。比較例11、12のように、低分子量の比率が低いメタクリル系樹脂[A]を用いた場合、比較例11では糸引き長さが非常に長く、比較例12ではスパイラルフロー長さが短い上に、糸引き長さも長いという悪い結果となった。また、加熱溶着の温度を250℃から240℃に下げて溶着試験を行ったが、実施例1〜6では糸引き長さ、曲げ強さともに満足な結果であったのに比べ、比較例1〜12では糸引き長さが若干短くなっても実施例ほどの効果はなく、さらに溶着部の強度にも問題が生じる結果となった。また、比較例13、14は溶着改良剤[B]の量が適切でない場合であり、0.05重量部より少ない比較例13では、糸引き長さが長く及び溶着強度がよくなかった。また、0.5重量部より多い比較例14では、スパイラルフロー長さを評価した際に、先端にシルバーが発生するという悪い結果となった。
【0045】
[実施例7、比較例15〜17]
表4に記載のとおりの組成を用いて実施例1と同様の方法で組成物を得、評価を行った。
溶着改良剤[B]としてドコサンを0.1%添加した実施例7の場合、添加しない比較例15と比べ、溶着温度280℃において糸引き長さが大幅に改善できた。さらに、比較例16、および比較例17では低分子量の比率が低い樹脂を用い、溶着改良剤[B]としてステアリルアルコールを添加したため、スパイラルフロー長さ、糸引き長さ共に思わしくない結果となった。また、加熱溶着の温度を下げて270℃で溶着させたが、実施例7に比べ比較例15〜17は溶着部の強度が不十分という結果となった。
【0046】
[実施例8、9、比較例18、19]
表4に記載のとおりの組成を用いて実施例1と同様の方法で組成物を得、評価を行った。
実施例8,9では溶着改良剤[B]を複数種併用しても良い結果が得られたが、溶着改良剤[B]を添加していない比較例18,19では糸引き長さが長く、また、溶着温度を下げた場合においても溶着部の強度が不十分という結果となった。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のメタクリル系樹脂は、外観品質が非常に重要な携帯電話、液晶モニター、液晶テレビ等の表示(装置)窓や、液晶表示で用いられる導光板、表示装置の前面板、絵画等の額、外光を取り入れる窓、表示用看板、カーポートの屋根等のエクステリア、展示品の棚等のシート、照明器具のカバーやグローブ等、圧空成形、真空成形、ブロー成形等の2次加工を必要とする成形品に有用である。また、テールランプやヘッドランプ等車両用光学部品等、外観品質、成形時の流動特性、二次加工における成形性が求められる成形品を製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0052】
1.GPC溶出曲線(各溶出時間におけるRI検出強度を結んだ曲線である)
2.ベースライン
3.試験片
4.稼働冶具
5.可変電圧式タングステンヒーターを鋳込んだアルミ固体
6.レール
7.成形体先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単量体単位80〜99.5wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位0.5〜20wt%を含むメタクリル系樹脂であって、該メタクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜230000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル系樹脂成分に対し7〜30%含まれたメタクリル系樹脂[A]100重量部に対し、
下記溶着改良剤[B]を0.05〜0.5重量部含有することを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
改良剤[B]:炭素数が12〜24の脂肪族炭化水素、炭素数が12〜24の脂肪族アルコール、炭素数が11〜23の脂肪酸とグリセリンのモノエステル化合物のいずれか1種以上。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168647(P2011−168647A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31517(P2010−31517)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】