説明

メタセシス触媒溶液の調製方法及びこれを用いたノルボルネン系開環重合体の製造方法

【課題】
重合反応時に、重合反応液不溶分を生じない、工業生産に適したノルボルネン系開環重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】
反応器内を窒素ガスにより置換し、脱水処理したトルエンを供給し、ついで六塩化タングステン触媒粉末添加し、ついで反応器内温を40℃に加温維持し、36時間攪拌し、六塩化タングステンをトルエンに溶解してメタセシス触媒溶液を得た。このメタセシス触媒溶液を用いて、ノルボルネン系単量体を開環重合しノルボルネン系開環重合体を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタセシス触媒溶液の調整方法に関する。さらに詳しくは、プラントでの生産性低下を防止するのに好適なメタセシス触媒溶液の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン系単量体を、メタセシス触媒存在下で重合させて得られるノルボルネン系開環重合体は、低吸水性、透明性など種々の特性から、多くの成形体製造に用いられている。
このようなノルボルネン系開環重合体の製造方法としては、例えば、最終的に開環重合反応に供される量の1〜30重量%のノルボルネン系単量体と、メタセシス触媒とを溶媒に溶解し、反応を開始した後、残りの70〜99重量%の単量体を連続的或いは断続的に添加する方法(特開平5−132545号公報)、ノルボルネン系単量体、メタセシス触媒、分子量調節剤及び重合溶媒を、反応液に連続的又は間欠的に供給して反応を進行させる方法(特開平6−73168号公報)、チーグラー触媒存在下にノルボルネン系単量体の重合転化率が60%以上になるまで開環重合反応を進行させた後、メタセシス触媒を添加する方法(特開平3−121122号公報)、重合開始温度をノルボルネン系単量体の凝固点以上30℃以下の範囲、又は70℃以上140℃以下の範囲として、少なくとも30分間保持して重合を開始し、しかる後、重合を完了させる方法(特開2003−171447号公報)などがある。
これらの方法で用いられるメタセシス触媒は、溶媒に溶解させて用いられる。
【0003】
【特許文献1】特開平5−132545号公報
【特許文献2】特開平6−073168号公報
【特許文献3】特開平3−121122号公報
【特許文献4】特開2003−171447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来技術のもと、ノルボルネン系開環重合体を工業生産すると、重合反応時の温度の異常上昇、配管やフィルタの目詰まりなどが生じた。本発明者らの検討した結果、これは、重合反応液中に金属含量の多い不溶分が原因であることが判った。
そこで、本発明者らは、この不溶分の発生を抑制する方法を検討した結果、所定の条件下で溶解したメタセシス触媒溶液を用いることが有効な手法であることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かくして本発明によれば、
(1)メタセシス重合触媒と溶媒とを、20〜60℃で24時間以上攪拌して混合し、触媒濃度が0.3〜5重量%であるメタセシス触媒溶液を調製する方法、
(2)攪拌が不活性ガス雰囲気下で行われる前記(1)記載のメタセシス触媒溶液を調製する方法、
(3)前記溶媒が、炭化水素化合物である前記(1)又は(2)記載のメタセシス触媒溶液を調製する方法、
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により調製されたメタセシス触媒溶液を用いて、ノルボルネン系単量体を開環重合することを特徴とするノルボルネン系開環重合体の製造方法、
(5)メタセシス触媒溶液を、平均空孔20μm以下のフィルタでろ過してから、重合反応液に滴下して、ノルボルネン系単量体を開環重合する前記(4)記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法、
が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いるメタセシス触媒は、重合反応触媒として用いられる金属化合物が挙げられる。メタセシス触媒はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
具体的には、WBr、WBr、WBr、WCl、WCl、WCl、WCl、WF、WF、WF、WI、WI、WI、WOBr、WOCl、WOF、WO、HWO、NaWO、KWO、(NHWO、CaWO、CuWO、MgWO(CO)WC(OCH)(CH)、(CO)WC(OC)(CH)、(CO)WC(OC)(C)などのタングステン触媒;W(N−2,6−CPr)(CHBu)(OCMeCF、W(N−2,6−CPr)(CHBu)(OCMeCF)、W(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OBu、W(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OCMeCF、W(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OCMeCF)、(式中のPrはi−プロピル基、Buはt−ブチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のタングステン系アルキリデン触媒;Mo(N−2,6−CPr)(CHBu)(OBu、Mo(N−2,6−CPr)(CHBu)(OCMeCF、Mo(N−2,6−CPr)(CHBu)(OCMeCF)、Mo(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OBu、Mo(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OCMeCF、Mo(N−2,6−CPr)(CHCMePh)(OCMeCF)、(式中のPrはi−プロピル基、Buはt−ブチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のモリブデン系アルキリデン触媒、Re(CBu)(CHBu)(2,6−ジイソプロピルフェノキシド)、Re(CBu)(CHBu)(オルト−t−ブチルフェノキシド)、Re(CBu)(CHBu)(トリフルオロ−t−ブトキシド)、Re(CBu)(CHBu)(ヘキサフルオロ−t−ブトキシド)、Re(CBu)(CHBu)(2,6−ジメチルフェノキシド)、(式中のBuはt−ブチル基を表す。)等のレニウム系アルキリデン触媒、Ta[C(Me)C(Me)CHCMe](2,6−ジイソプロピルフェノキシド)(ピリジン)、Ta[C(Ph)C(Ph)CHCMe](2,6−ジイソプロピルフェノキシド)(ピリジン)、Ta[C(Me)C(Me)C(CMeCHCCMe)CH](2,6−ジイソプロピルフェノキシド)、(式中のMeはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のタンタル系アルキリデン触媒、Ru(CHCHCPh)(PPh)Cl、(式中のPhはフェニル基を表す。)等のルテニウム系アルキリデン触媒やチタナシクロブタン類が挙げられる。
これらの中でも、特に本発明においては、触媒あたりの反応率が高く少量で重合反応が可能であり、環境への負荷も少ないことから、タングステン触媒が好ましい。
【0007】
メタセシス触媒の使用割合は、ノルボルネン系単量体1モルに対して0.005〜0.25ミリモル当量である。中でも、タングステン系メタセシス触媒
の使用割合が、ノルボルネン系単量体に対して0.01〜0.20ミリモル当量の範囲であると好ましく、0.01〜0.15ミリモル当量の範囲であるとより好ましい。
メタセシス触媒の使用割合が0.20ミリモル当量より大きいと、コスト的に劣り、また、ノルボルネン系開環重合体水素化物の水素化率が低下し、分子量分布が広がる。メタセシス触媒の使用割合が0.01ミリモル当量より小さいと、ノルボルネン系開環重合体の重合転化率が低く、得られる成形体のアウトガス量が増大する。
【0008】
また、上記メタセシス触媒とともに、助触媒を用いることが一般的である。
タングステン化合物を触媒とした場合、助触媒としては、例えば、有機アルミニウム化合物や有機スズ化合物等が好適な例として挙げられ、好ましくは有機アルミニウム化合物である。有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムや、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド等のアルキルハライドアルミニウム等が挙げられる。なかでも、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライドが好ましい。
これらの助触媒はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。助触媒の使用量は、メタセシス触媒1モル当たり、通常0.01〜30モル、好ましくは0.1〜20モル、さらに好ましくは1〜10モルである。助触媒の使用量がこれらの範囲であるときにゲルや高分子量成分の発生が少なく、かつ、重合活性が高く分子量の制御が行いやすくなり好ましい。
【0009】
これらの触媒を溶解するための溶媒は、触媒が溶解するものであれば格別な制限はないが、重合反応によって得られるノルボルネン系開環重合体が溶解する溶媒を採用するのが好ましく、更にノルボルネン系単量体も溶解する溶媒を採用するのがより好ましい。特に、重合触媒溶液の溶媒と同じ溶媒を、触媒溶液用の全溶媒量の50重量%以上、好ましくは70重量%以上用いるのが、重合反応液中に金属含量の高い不溶分の発生を抑制する観点から好ましい。
例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;n−ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂肪族炭化水素;等の炭化水素化合物が挙げられ、好ましくは、芳香族炭化水素である。これらの溶剤はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体組成物100重量部当たり、通常10〜1000重量部、好ましくは50〜700重量部、より好ましくは100〜500重量部の範囲である。
【0010】
メタセシス触媒溶液は、上述したメタセシス触媒と溶媒とを攪拌することにより得られる。攪拌は攪拌機を用いて行えば良く、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で攪拌するのが好ましい。
本発明のメタセシス触媒溶液の調製においては、常圧で、20〜60℃、好ましくは30〜55℃、より好ましくは35〜50℃で攪拌する。温度が低すぎるとメタセシス触媒が十分に溶媒に溶解しないし、逆に温度が高すぎると溶媒が揮発するため触媒溶液の濃度調整が困難になる上、触媒活性が低下して重合反応しにくくなる。
また、攪拌時間は、24時間以上、好ましくは24〜48時間、より好ましくは24〜36時間である。攪拌時間が長すぎると生産効率が低下し、逆に短すぎるとメタセシス触媒が十分に溶媒に溶解しない。
上述した温度と攪拌時間を採用すれば、触媒が溶媒に十分に溶解する(未溶解分が10重量%以下、好ましくは5重量%以下)ため、重合反応液に金属含量の高い不溶分の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明に係るメタセシス触媒溶液の、メタセシス触媒濃度は、0.3〜5重量%であり、好ましくは、0.4〜2重量%であり、より好ましくは0.5〜1重量%であり、特に好ましくは0.5〜0.8重量%である。濃度が低すぎると、重合反応液中の不溶分は少ないが重合反応が十分に進行せず生産性に劣り、逆に濃度が高いと、重合反応液中の不溶分の増加を誘発する。
【0012】
このようにして得られるメタセシス触媒溶液は、調製直後に重合反応に私用しても良いし、攪拌終了後、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で20〜60℃環境を保ったまま保存することもできる。保存する場合、攪拌を終了した日から30日以内、好ましくは15日以内、より好ましくは7日以内、特に好ましくは1日以内に重合反応に供する。
【0013】
本発明の方法により調製されたメタセシス触媒溶液を、重合反応に用いる際、フィルタろ過をするのが好ましい。用いるフィルタは、ポリテトラフルオロエチレンなど触媒と反応しない材質のものを採用すればよい。また、フィルタの孔径は、通常20μm以下、好ましくは5〜15μmである。フィルタろ過をすることで、反応液に入る触媒溶液中の未溶解触媒量が、より低減され、結果的に重合反応液中の不溶分、特に金属含量の高い不溶分の発生を高度に抑制することができる。
【0014】
本発明の方法により調製されたメタセシス触媒溶液は、ノルボルネン系単量体を開環重合するのに好適であるほか、塊状重合に採用することもできる。
ノルボルネン系単量体は、ノルボルネン骨格を有する単量体である。
ノルボルネン系単量体とともに、これと開環共重合可能なその他の単量体を用いて開環重合することもできる。また、得られた開環重合体を水素化することもできる。
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系単量体は、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0015】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0016】
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。
分子量調節剤としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の鎖状α−オレフィンを挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、目的とする開環重合体の分子量により、通常、ノルボルネン系単量体1モルに対して0.1〜10ミリモル当量の範囲で任意に選択することができる。
【0017】
重合温度は、通常0〜150℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは30〜60℃の範囲であり、この範囲であるときに低分子量成分の生成の防止とゲルや高分子量成分の生成の防止をバランス良く行うことができる。重合時間は、通常30分〜10時間、好ましくは1〜7時間、より好ましくは2〜5時間の範囲である。
【0018】
重合反応においては、重合転化率は、90モル%以上であると好ましく、99モル%以上であるとより好ましく、100モル%であると特に好ましい。
重合転化率がこの範囲にあると、得られる成形体のアウトガス量が少ないので好ましい。
重合反応は、水、もしくはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類などの重合停止剤を重合反応液に添加して、30分以上攪拌することにより重合反応を停止させる。
【0019】
ノルボルネン系開環重合体を水素化することにより、ノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることができる。水素化反応は、開環重合反応終了後に、ノルボルネン系開環重合体を一旦単離した後に行うこともできるし、開環重合反応で得られた反応溶液に水素化触媒を添加して連続的に行うこともできる。
用いる水素化触媒としては特に限定されず、オレフィン化合物の水素化反応に一般的に使用されているものを適宜使用すればよい。水素化触媒としては、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の担持型不均一系触媒が、水素化反応後に反応溶液を濾別することで水素化触媒を容易に除去できるので好ましい。
【0020】
水素化触媒の使用量は、ノルボルネン系開環重合体100重量部あたり、通常0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.3〜10重量部、特に好ましくは0.5〜2.0重量部の範囲である。
【0021】
このようにして得られるノルボルネン系開環重合体やその水素化物には、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、滑剤、溶剤などの添加剤が適宜配合され、成形材料となる。
この成形材料を、射出成形、押出成形、圧縮成形など公知の加工方法に賦すことによって、所望の成形体を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<触媒溶液中の未溶解成分量測定>
容器内を窒素ガスで十分置換した、80mlの容器に、重合触媒溶液を50g採取し、密封した。この容器を、窒素ガスにより置換したグローブボックス内にて開封し、1gを20mlサンプル瓶に採取保管し、サンプルAを得た。
その後、残りの49gの触媒溶液を、孔径0.2μmポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルタでろ過し、ろ液1gを20ccサンプル瓶に保管し、サンプルBを得た。
得られたサンプルAとサンプルBを、脱水処理したトルエンにて、それぞれ10倍希釈した。
希釈したサンプルA2gとサンプルB2gを、別々の石英るつぼに秤量し、ホットプレート、バーナー、及び電気炉で順次灰化した。灰化物を4フッ化エチレン樹脂製ビーカーに移し、硝酸及びふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で定容した。得られた定容液中の触媒金属の定量分析を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法にて行い、触媒金属濃度を算出し、希釈倍率、分子量からサンプルA、サンプルBの濃度を算出し、
{触媒総量に対する未溶解成分量}(%)
={サンプルA濃度−サンプルB濃度}/サンプルA濃度×100
として求めた。
【0023】
<重合反応率>
反応停止剤を入れてから60分間攪拌した時の重合反応溶液1gを採取し、そこに4gのイソプロピルアルコールを添加し、重合体を凝固・沈降させた。その後、上澄み液の定量・定性分析をガスクロマトグラフで測定し、重合反応液中のモノマー濃度(x)%を求めた。製造レシピから反応率0%の場合の、重合反応液中のモノマー濃度を(y)%とした時、
{重合反応率}(%)=(y−x)/y×100
として求めた。
【0024】
<重合反応液不溶分濃度の定量>
反応停止剤を入れてから60分間分間攪拌した時の重合反応液1000kgを、重合反応液の溶媒と同じ組成の溶媒で10倍に希釈したのち、その希釈溶液を孔径0.2μmポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルタを通してろ過を行った。ろ過後、希釈溶媒1000kgで洗浄ろ過を行い、可溶な重合体を十分取り除いたのち、フィルタに補足された成分を採取し、真空乾燥機で160℃、ゲージ圧−100kPa、48時間、真空乾燥させ、不溶物の重量(a)gを計測した。
また、反応停止後の重合反応液1gを、同様に真空乾燥機で乾燥させ、重合反応液中の固形分総濃度(b)%を計測した。
これより、不溶成分の濃度(ppm)=a/(b×10000)×10000000式で求めた。
【0025】
<重合反応液不溶分中の触媒金属濃度測定>
上記で得られた不溶成分を、石英るつぼに秤量し、ホットプレート、バーナー、及び電気炉で順次灰化した。灰化物をポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに移し、硝酸及びふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で定容した。得られた定容液中のタングステンの定量分析を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法にて行い、タングステン濃度を算出し、不溶成分中の触媒金属であるタングステンの濃度を算出した。
【0026】
実施例1
<触媒調製>
攪拌機、加熱及び冷却のためのジャケット、及び窒素ガスにより陽圧状態にある粉末投入口、及び配管ジョイント付きのサンプリング用底バルブを備えた、内容積300リットルの反応器内を窒素ガスにより置換し、脱水処理したトルエン200kgを外気に触れないように密封容器から加圧移送によりサンプリング用バルブ経由で供給し、ついで六塩化タングステン触媒粉末(稀産金属社製)を、重合触媒溶液濃度0.6重量%になるよう粉末投入口より外気に触れぬよう供給し、投入口を塞ぎ反応器内を密封状態にした。
そして、攪拌機を稼動し、反応器内温を40℃に加温維持し、36時間六塩化タングステンの溶解を行った。その後、攪拌を停止し、反応器内温を40℃維持したまま24時間保管した。
なお、触媒溶液の未溶解成分の測定は、重合反応使用直前にサンプリングしたもので行った。
【0027】
<重合反応>
攪拌機、加熱及び冷却のためのジャケットを備えた、内容量2000リットルの反応器内を窒素ガスにより置換し、重合溶媒としてトルエン:シクロヘキサン=1:3の混合溶媒859kgを投入した。モノマーとして1,4―メタノー1,4,4a,9a―テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと言う)3kgを加え、トリ−i−ブチルアルミニウム0.718kgとイソブチルアルコール0.293kg、反応調整剤としてジイソプロピルエーテル0.370kg、及び分子量調節剤として1−ヘキセン0.87kgを添加した。ここに、上記で調整した後、保管期間1日以内の重合触媒溶液を、触媒固体分に換算して0.196kg分を添加して、45℃で10分間攪拌した。次いで、反応系を45℃に保持しながら、MTF297kgと触媒固体分に換算して0.294kg分の触媒溶液とをそれぞれ系内に180分かけて連続的に滴下した。その後、60分間攪拌を継続したのち、重合停止剤としてイソプロピルアルコールを0.891kg添加し重合反応を終了した。その後、重合反応液中の不溶分を定量した。
表に、触媒溶液中の未溶解分と、重合反応液中の不溶分との定量結果と、重合反応液不溶分中の金属濃度の測定結果を示す。
【0028】
実施例2〜8、比較例1〜5
触媒調製時の、六塩化タングステンの溶解温度、溶解時間、得られた触媒の濃度、及び重合反応に用いた溶媒を表の通りに変更した以外は、実施例と同様にして触媒溶液を調製し、重合反応を行った。尚、実施例5のみ、重合反応時に触媒溶液をフィルタ(孔径10μmポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルタ)濾過した。
これらについても、触媒溶液中の未溶解分と、重合反応液中の不溶分との定量結果と、重合反応液不溶分中の金属濃度を測定した。結果を表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この結果から、実施例1〜6のごとく、請求項に示した範囲内でメタセシス重合触媒を調整した場合は、高いモノマー転化率を維持しながらも、重合反応中に発生する不溶解成分量を抑制することが可能である。一方、比較例1、3、5のように温度が低い場合、時間が短い場合、濃度が濃い場合は、重合触媒の不溶成分が多くなり、重合反応中に発生する不溶成分も多くなる。さらに比較例2、4のごとく温度が高い場合、濃度が薄い場合は、重合反応中に発生する不溶成分は少なくなるものの、重合触媒そのものの温度劣化や、溶媒・不活性ガス中の、極微量の劣化成分の影響が大きく、十分なモノマー転化率が得られないことが判かる。また、実施例2〜7のごとく、重合触媒溶液の溶媒成分と、重合溶液の溶媒成分が50%以上同一であると、触媒溶液が重合溶液中に添加されたとき、溶液同士の相溶性に優れるため、重合触媒が瞬間的に拡散することにより、より効果的に重合反応中の不溶成分の発生を抑えることが可能であることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタセシス重合触媒と溶媒とを、20〜60℃で24時間以上攪拌して混合し、触媒濃度が0.3〜5重量%であるメタセシス触媒溶液を調製する方法。
【請求項2】
攪拌が不活性ガス雰囲気下で行われる請求項1記載のメタセシス触媒溶液を調製する方法。
【請求項3】
前記溶媒が、炭化水素化合物である請求項1又は2記載のメタセシス触媒溶液を調製する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により調製されたメタセシス触媒溶液を用いて、ノルボルネン系単量体を開環重合することを特徴とするノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項5】
メタセシス触媒溶液を、平均孔径20μm以下のフィルタでろ過してから、重合反応液に滴下して、ノルボルネン系単量体を開環重合する請求項4記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。


【公開番号】特開2007−231046(P2007−231046A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51084(P2006−51084)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】