説明

メタノール応答性プロモーター、プロモーターと外来遺伝子を発現可能な様式で連結した融合遺伝子、ベクター、形質転換体、およびタンパク質の生産方法

【課題】低濃度のメタノールにより下流遺伝子の発現を誘導する、感度の高いメタノール応答性プロモーターの提供。
【解決手段】 下記(1)の領域および(2)の領域を、5’から3’方向にこの順に含むメタノール応答性プロモーター:(1)下記(a)、(b)および(c)からなる群より選択されるメタノール応答性領域:(a)特定な配列の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(b)上記(a)の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が失欠、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド、(c)上記(a)の塩基配列の全部若しくは一部と相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド;および(2)転写開始のために必要な最小領域であり、RNAポリメラーゼの結合部位を含む、コアプロモーター領域。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール応答性プロモーター、当該プロモーターと外来遺伝子を発現可能な様式で連結した融合遺伝子、当該プロモーターを含むベクター、当該融合遺伝子を含む発現ベクター、当該発現ベクターを含む形質転換体、並びに当該形質転換体を用いたタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞に遺伝子を導入して発現させることによって、バイオ医薬品、機能性食品などに使用される有用物質の生産がおこなわれている。このような有用物質の生産においては、通常、導入される遺伝子は細胞で機能可能な発現誘導型プロモーターの制御下に置かれ、当該プロモーターによって、その発現量や発現時期が調整される。メタノール応答性プロモーターも、有用物質の生産に用いられる発現誘導型プロモーターのひとつであり、最近では、ピキア酵母(Pichia Pastoris)に由来するアルコール酸化酵素遺伝子プロモーター(AOXプロモーター)が使用されている。AOXプロモーターを外来遺伝子と連結した融合遺伝子を細胞に導入し、メタノール処理で外来遺伝子の発現を誘導することによって、所望の有用物質の生産がおこなわれている(非特許文献1〜6)。
【0003】
しかしながら、AOXプロモーターを用いて有用物質の生産をおこなう場合、外来遺伝子の発現を誘導するために、0.5%〜1%の比較的高濃度のメタノールを使用しなければならなかった。メタノールは人体や細胞に有害性を有する化学物質である。このため、AOXプロモーターを用いた有用物質の生産では、メタノールの細胞毒性を回避するために、使用できる細胞の種類が、ピキア酵母のようなメタノール耐性菌に限定されていた。また、生産プロセスに係る人の健康影響への配慮も必要であった。
【特許文献1】米国特許第4,808,537号明細書
【特許文献2】米国特許第4,855,231号明細書
【特許文献3】米国特許第4,882,279号明細書
【特許文献4】米国特許第4,895,800号明細書
【特許文献5】米国特許第5,032,516号明細書
【特許文献6】米国特許第5,166,329号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、低濃度のメタノールにより下流遺伝子の発現を誘導することができる、高感度のメタノール応答性プロモーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の側面によると、下記(1)の領域および(2)の領域を、5’から3’方向にこの順に含むメタノール応答性プロモーターが提供される:
(1)下記(a)、(b)および(c)からなる群より選択されるメタノール応答性領域:
(a) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b) 配列番号1に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が失欠、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド、
(c) 配列番号1に記載の塩基配列の全部若しくは一部と相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド;および
(2)転写開始のために必要な最小領域であり、RNAポリメラーゼの結合部位を含む、コアプロモーター領域。
【0006】
本発明の第二の側面によると、第一の側面に係るメタノール応答性プロモーター、および前記メタノール応答性プロモーターの下流に、発現可能な様式で連結された外来遺伝子を含む、融合遺伝子が提供される。
【0007】
本発明の第三の側面によると、第一の側面に係るメタノール応答性プロモーターを含むベクター、並びに第二の側面に係る融合遺伝子を含む発現ベクターが提供される。
【0008】
本発明の第四の側面によると、第二の側面に係る融合遺伝子または第三の側面に係る発現ベクターが宿主細胞に導入された形質転換体が提供される。
【0009】
本発明の第五の側面によると、第四の側面に係る形質転換体を培養液中で培養する工程、前記培養液にメタノールを添加することにより、前記形質転換体にメタノール処理をおこなう工程、および前記メタノール処理後に、前記形質転換体が生産した外来遺伝子産物のタンパク質を回収する工程を含むタンパク質の生産方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のメタノール応答性プロモーターは、低濃度のメタノールに応答して、下流遺伝子の発現を増大させることが可能である。これにより、低濃度のメタノールを用いて、本発明のプロモーター制御下の遺伝子にコードされるタンパク質を効果的に生産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、チロシン水酸化酵素遺伝子の転写制御領域が低濃度のメタノールに対して応答性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
[1.メタノール応答性プロモーター]
本発明のメタノール応答性プロモーターの一つの態様は、
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるメタノール応答性領域;および
(2)転写開始のために必要な最小領域であり、RNAポリメラーゼの結合部位を含む、コアプロモーター領域
を、5’から3’方向にこの順に含む。
【0013】
配列番号1で示されるメタノール応答性領域は、神経伝達物質であるドーパミンの合成酵素であるマウス由来のチロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase)遺伝子(以下TH遺伝子ともいう)の上流領域に由来し、TH遺伝子の発現を制御する領域である。
【0014】
一つの態様において、メタノール応答性領域は、配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0015】
別の態様において、メタノール応答性領域は、メタノール応答性を有する限り、配列番号1に記載の配列の一部の領域であってもよい。一部の領域がメタノール応答性を有するか否かは、レポーター遺伝子を含む発現ベクターに一部の領域を組み込んで、メタノールの添加によりレポーター遺伝子の発現が増大するか否かを調べることにより確認することができる。
【0016】
更に別の態様において、メタノール応答性領域は、以下の(b)または(c)のポリヌクレオチドであってもよい:
(b) 配列番号1に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が失欠、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド;
(c) 配列番号1に記載の塩基配列の全部若しくは一部と相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド。
【0017】
すなわち、メタノール応答性領域は、メタノール応答性を有する限り、配列番号1に記載の塩基配列において、1若しくは複数(たとえば数個)の塩基が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。また、メタノール応答性領域は、メタノール応答性を有する限り、配列番号1に記載の塩基配列(全部若しくは一部)と相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。
【0018】
上記(b)および(c)のポリヌクレオチドは、たとえば配列番号1の配列を基にしたポイントミューテーション法またはハイブリダイゼーション法などにより取得することができる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸同士、すなわち60%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1 x SSC、0.1% SDSを含む緩衝溶液による約42℃での洗浄処理や、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1 x SSC、0.1% SDSを含む緩衝液中による約65℃での洗浄処理で、相補的な配列の核酸と被検核酸とを反応させる条件をいう。
【0019】
更に別の態様において、メタノール応答性領域は、メタノール応答性を有する限り、マウス以外の他の生物種のTH遺伝子の転写制御領域に由来するものであってもよい。すなわち、他の生物種のTH遺伝子の転写制御領域に、配列番号1の塩基配列と類似の塩基配列が見出される場合、当該類似の配列が、メタノール応答性を示す限り、メタノール応答性領域として本発明において使用可能である。
【0020】
上述のとおり、メタノール応答性領域は、配列番号1に記載の塩基配列に限定されるものではなく、メタノール応答性を示す限り、その部分配列であってもよいし、塩基配列の改変を含んでいてもよいし、他の生物種に由来する対応の配列であってもよい。
【0021】
本発明のプロモーターにおいてコアプロモーター領域は、転写開始のために必要な最小領域であり、RNAポリメラーゼの結合部位を含む。言い換えると、コアプロモーター領域は、転写開始点(+1)を含む転写開始点近傍の塩基配列から構成され、転写開始を誘導し、最低限の転写水準を維持する最小領域である。コアプロモーター領域は、必須のエレメントとしてRNAポリメラーゼの結合部位を含み、転写開始反応に重要なエレメントとしてTATAボックスを一般に含む。
【0022】
コアプロモーター領域は、当該技術分野においてコアプロモーターあるいはミニマムプロモーターとして公知の塩基配列を使用することができる。具体的には、構造遺伝子の上流領域に位置する−100〜+35の領域、好ましくは−35〜+35の領域を使用することができ、たとえば、コアプロモーター領域は、配列番号2に示される塩基配列からなるTH遺伝子のコアプロモーター領域を使用することができる。
【0023】
コアプロモーター領域は、コアプロモーター領域が同定されていない公知のプロモーターの配列を使用することもできる。この場合、選択されたプロモーターの配列は、コアプロモーターを超える配列を含んでいるが、それをメタノール応答性領域と連結した際にコアプロモーター領域として機能する限り、コアプロモーターを超える配列を含んでいてもよい。このようなコアプロモーター領域として、たとえば、シミアンウイルス40(SV40)の初期プロモーター(配列番号3)、SV40の後期プロモーター(配列番号4)、またはヒトヘルペスウイルス1のチミジンキナーゼ遺伝子のプロモーター(配列番号5)を使用することができる。
【0024】
本発明のメタノール応答性プロモーターの具体例として、配列番号6に記載の塩基配列からなるプロモーターを挙げることができる。これは、マウスTH遺伝子のメタノール応答性領域(配列番号1)とマウスTH遺伝子のコアプロモーター領域(配列番号2)を、5’から3’方向にこの順に含むプロモーターである(図2A参照)。配列番号6において、1〜143番目の塩基配列はメタノール応答性領域に相当し、171〜260番目の塩基配列はコアプロモーター領域に相当する。また、具体例として、配列番号7に記載の塩基配列からなるプロモーターを挙げることができる。これは、マウスTH遺伝子のメタノール応答性領域(配列番号1)とSV40の初期プロモーター(配列番号3)を、5’から3’方向にこの順に含むプロモーターである(図2B参照)。配列番号7において、1〜143番目の塩基配列はメタノール応答性領域に相当し、281〜373番目の塩基配列はコアプロモーター領域に相当する。更に、具体例として、配列番号8に記載の塩基配列からなるプロモーターを挙げることができる。これは、マウスTH遺伝子のメタノール応答性領域(配列番号1)の3コピーとマウスTH遺伝子のコアプロモーター領域(配列番号2)を、5’から3’方向にこの順に含むプロモーターである(実施例5参照)。配列番号8において、1〜143番目の塩基配列、156〜298番目の塩基配列および311〜453番目の塩基配列は、メタノール応答性領域の3コピーに相当し、471〜570番目の塩基配列はコアプロモーター領域に相当する。
【0025】
上記具体例に示されるとおり、メタノール応答性領域とコアプロモーター領域は、メタノール応答性領域がコアプロモーターの転写開始反応の効率を調節することができるように近くに配置されることが好ましい。一般に、メタノール応答性プロモーターは、両領域を遺伝子工学的に連結(ligate)することにより作成されるため、両領域の間には、たとえば4 bp〜8 bpの連結配列を有していてもよい。
【0026】
上記具体例に示されるとおり、メタノール応答性プロモーターは、メタノール応答性領域を一つ含んでいてもよいし、あるいは、好ましい態様において、複数のメタノール応答性領域をタンデムに(直列的に)含んでいてもよい。すなわち、複数のメタノール応答性領域を、同一の配列上に連続して配置することができる。メタノール応答性領域は、一般に2〜10個、好ましくは2〜5個連結させることができる。複数のメタノール応答性領域は、その塩基配列において同一であっても異なっていてもよい。このように、複数のメタノール応答性領域をタンデムに連続して並べることにより、メタノール応答性の感度を高めることができる(実施例5参照)。
【0027】
本発明のメタノール応答性プロモーターは、当該技術分野で公知のとおり、メタノール応答性領域を所望の生物のゲノムDNAからPCRにより増幅し、コアプロモーター領域を所望の生物のゲノムDNAからPCRにより増幅し、それぞれを連結(ligate)することにより作成することができる。
【0028】
また、本発明のメタノール応答性プロモーターは、化学合成によって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって所望の生物のゲノムDNAライブラリーから得ることもできる。さらに、部位特定変異誘発等によって、配列番号1に記載の塩基配列に1若しくは複数の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を合成してもよい。
【0029】
メタノール応答性プロモーターが機能するか否かは、以下の手法で確認することができる。例えば、レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子(LUC)、緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)など)を、プロモーターの下流に連結したベクターを作製し、当該ベクターを宿主細胞に導入した後、メタノール添加によりメタノール処理をおこない、当該レポーター遺伝子の発現を測定することにより、プロモーターの機能を確認することができる。
【0030】
以上述べたとおり、本発明のメタノール応答性プロモーターは、低濃度のメタノールに応答してプロモーター活性が誘導される、発現誘導型プロモーターとして利用することができる。本発明のメタノール応答性プロモーターは、後述の実施例6で示されるとおり、低濃度のメタノール、たとえば0.001〜0.1重量%のメタノールに応答して、下流遺伝子の発現を増強することができる。このため、本発明では、低濃度のメタノールを用いて、本発明のメタノール応答性プロモーターの制御下の遺伝子にコードされる有用タンパク質を効果的に生産することが可能である。
【0031】
また、本発明のメタノール応答性プロモーターは、低濃度のメタノールに応答可能であるため、遺伝子発現のために用いる宿主細胞が、メタノール耐性菌などの特殊な細胞に限定されないという利点を有する。加えて、有用タンパク質の生産に携わる人に対するメタノールの影響を低減することができるという利点を有する。
【0032】
また、本発明では、任意の宿主細胞でメタノール応答性の遺伝子発現を行うことが可能である。すなわち、所望の宿主細胞において機能することが可能なコアプロモーター領域を選択し、それを上述のマウスTH遺伝子由来のメタノール応答性領域と連結して、キメラプロモーターを作成することにより、任意の宿主細胞でメタノール応答性の遺伝子発現を行うことが可能である。このようなキメラプロモーターがメタノール応答性プロモーターとして機能し得ることは、後述の実施例4で実証されるとおりである。
【0033】
[2.プロモーターと外来遺伝子の融合遺伝子]
上述のメタノール応答性プロモーターは、当該技術分野で公知の方法に従って、その下流に、外来遺伝子を発現可能な様式で連結し、これによりプロモーターと外来遺伝子の融合遺伝子を作成することができる。ここで外来遺伝子は、メタノール応答性プロモーターの制御下で遺伝子発現が増強される。本明細書において「発現可能な様式」とは、外来遺伝子が、プロモーターの制御下で発現するように、プロモーターに連結されていることをいう。たとえば、外来遺伝子が、プロモーターの下流の遺伝子挿入部位(たとえばマルチクローニングサイト)を介してプロモーターに連結されていることをいう。
【0034】
外来遺伝子は、任意の公知の遺伝子であり得るが、例えば、タンパク質をコードする核酸、またはそのアンチセンス核酸などが含まれ、とりわけ、所望の有用タンパク質をコードする核酸が含まれる。有用タンパク質をコードする核酸としては、例えば、変異型コレラ毒素タンパク質などのワクチンとなるタンパク質をコードする遺伝子(Yamamoto, S.et al., J. Exp. Med., 185:1203, 1997;Douce, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 92:1644, 1995; Di Tommaso, A. Infect. Immun., 64:974, 1996; Dickinson, B.L. et al., Infct. Immun., 63:1617, 1995)、抗ヘルペスシンプレックスウイルスIgG遺伝子などの抗体となるタンパク質をコードする遺伝子(Zeitlin L. et al., Nat Biotechnol., 16:1361, 1998)、コラーゲン遺伝子(特開2004-016144)やラクトフェリン遺伝子(特開2001−346577)などの医薬品となるタンパク質をコードする遺伝子などが挙げられる。
【0035】
[3.メタノール応答性プロモーターを含むベクター、およびプロモーターと外来遺伝子の融合遺伝子を含む発現ベクター]
以下、上述のメタノール応答性プロモーターを含むベクター(以下、本発明のベクターともいう)、および上述のプロモーターと外来遺伝子との融合遺伝子を含む発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターともいう)について説明する。
【0036】
本発明のベクターおよび発現ベクターを作成するためには、市販のベクターを利用することができる。すなわち、本発明のプロモーターを挿入するための元のベクターは、プラスミド型ベクター、又は宿主生物中のゲノムに組み込み可能な染色体導入型ベクターであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ウイルスDNAなどが挙げられる。プラスミドDNAとしては、例えば、大腸菌−酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミドなどが挙げられ、ウイルスDNAとしてはレトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターなどが挙げられる。
【0037】
本発明のベクターは、公知の方法に従って、適切なベクターに、上述のメタノール応答性プロモーターを挿入することにより得ることができ、本発明の発現ベクターは、適切なベクターに、上述のプロモーターと外来遺伝子との融合遺伝子を挿入することにより得ることができる。具体的には、本発明のベクターおよび発現ベクターは、挿入すべきDNAを精製し、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、得られたDNAをベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入することにより、得ることができる。
【0038】
本発明のベクターは、好ましくは、メタノール応答性プロモーターの下流に、外来遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトを有する。
【0039】
本発明のベクターおよび発現ベクターには、メタノール応答性プロモーター、外来遺伝子、ターミネーターの他、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー等を組み込むことができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0040】
後述の実施例では、市販のベクター、PGV-B2またはPGV-P2(TOYO B-NET社)を利用し、発現ベクター「pTH100E32/LUC」および「pSV40E32/LUC」が作成され(実施例2)、また、3コピーのメタノール応答性領域を含有する発現ベクター「pTH100E32×3/LUC」が作成されている(実施例5)。pTH100E32/LUC発現ベクターおよびpSV40E32/LUC発現ベクターの作成の仕方は、図2AおよびBにそれぞれ模式的に示される。
【0041】
[4.プロモーターと外来遺伝子の融合遺伝子または本発明の発現ベクターが宿主細胞に導入された形質転換体]
本発明の形質転換体は、公知の方法に従って、適切な宿主細胞に、本発明のプロモーターと外来遺伝子の融合遺伝子を導入することにより、あるいは本発明の発現ベクターを導入することにより得ることができる。
【0042】
宿主細胞は、導入されるプロモーターのコアプロモーター領域のタイプとの関係で選択され得る。すなわち、プロモーターの下流に位置する外来遺伝子を発現させることができる宿主細胞が選択され得る。
【0043】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌、バチルス、シュードモナス等の細菌、あるいはサッカロミセス、シゾサッカロミセス、ピキア等の酵母、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf9等の昆虫細胞が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0044】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、ベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。細菌へのベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0045】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス、シゾサッカロミセス、ピキアなどが用いられる。酵母へのベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0046】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7細胞、チャイニーズハムスター CHO細胞、マウスL細胞、マウスNeuro2a細胞、ラットPC12細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。動物細胞へのベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0047】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞へのベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
後述の実施例では、マウス由来の神経芽細胞腫に、リポフェクタミン法により、発現ベクター「pTH100E32/LUC」、「pSV40E32/LUC」および「pTH100E32×3/LUC」をそれぞれ導入することにより形質転換体が作成されている(実施例3および5)。
【0048】
[5.メタノール応答性プロモーターの制御下の遺伝子を発現させることによりタンパク質を生産する方法]
本発明のタンパク質の生産方法の一態様は、上述の形質転換体を培養液中で培養する工程;前記培養液にメタノールを添加することにより、前記形質転換体にメタノール処理をおこなう工程;および前記メタノール処理後に、前記形質転換体が生産した外来遺伝子産物のタンパク質を回収する工程を含む。
【0049】
形質転換体は、導入された遺伝子からタンパク質を生産するために、適切な培養液中で培養される。タンパク質の生産のために用いる宿主細胞としては、培養の簡便性から、大腸菌、酵母、昆虫細胞が好ましくは使用される。培養液としては、形質転換体が大腸菌である場合、LB培地、2xYT培地、Super broth培地を、酵母細胞である場合、YPD培地、BMMY培地を、昆虫細胞である場合、Sf900培地、TC100培地を使用することができる。形質転換体の培養条件(培養温度、培養時間など)については、慣用的な培養条件を使用することができる。
【0050】
メタノールは、プロモーター活性を増強する濃度で添加され、一般に0.001〜0.5重量%の濃度、好ましくは0.001〜0.1重量%の濃度で培養液に添加される。メタノールの添加により遺伝子の発現が増強され、タンパク質が生産される。なお、本明細書において、添加されたメタノールの濃度は、細胞培養液中の最終濃度を示すものである。
【0051】
メタノールの添加からたとえば24〜72時間後に、外来遺伝子産物のタンパク質を回収することができる。生産されたタンパク質は、公知のタンパク質精製の手法に従って、たとえばカラムクロマトグラフィー、塩析、電気泳動、ゲル濾過等の手法により回収することができる。
【実施例】
【0052】
[実施例1] チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の「メタノール応答性プロモーター領域」の同定
制限酵素KpnIで消化したマウスのゲノム(クロンテック)を鋳型に、チロシン水酸化酵素(TH)の転写制御領域、約500 bpをPCRで増幅した。プライマーには、PCR産物のベクターへの組み込みを容易にするため、5'末端に制限酵素KpnIの認識配列を付加した配列番号9に記載のプライマー(フォワードプライマー)、ならびにNheIの認識配列を付加した配列番号10に記載のプライマー(リバースプライマー)を使用した。
【0053】
5’-CGTGGTACCA CATACACTGG GGCAGTGAGT AGAT-3’(配列番号9)
5’-GCAGCTAGCA AGCTGGTGGT CCCGAGTTCT GTCT-3’(配列番号10)
さらに、この増幅したTHの転写制御領域500 bpを鋳型としたPCRにより、400〜100 bpまで約100 bpずつ段階的に短くした4種類のTH転写制御領域断片を得た。PCRには、フォワードプライマーとして、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14に記載のプライマーの何れか一つを使用し、リバースプライマーとして、配列番号10に記載のプライマーを使用した。
【0054】
400 bp用:5’-CGGGGTACCA GATTTATTTG TCTCCAAGGG CTAT-3’(配列番号11)
300 bp用:5’-CGGGGTACCA TTAGAGAGCT CTAGATGTCT CCTG-3’(配列番号12)
200 bp用:5’-CCCGGTACCC TAATGGGACG GAGGCCTCTC TCGT-3’(配列番号13)
100 bp用:5’-CGGGGTACCG TGGGGGACCC AGAGGGGCTT TGAC-3’(配列番号14)
次に、これらの長さが異なる5種類のTH遺伝子の転写制御領域(500 bp、400 bp、300 bp、200 bpおよび100 bp)をKpnIとNheIで切断して、0.8% アガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルからDNA断片を切り出して、QIA quick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。精製したDNA断片を、KpnIとNheIと消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込み、ルシフェラーゼ発現ベクターを作製した。
【0055】
このように作製したベクターを、リポフェクタミン法で、マウス神経芽細胞腫Neuro2aに導入して、TH遺伝子の「メタノール応答性プロモーター領域」の同定をおこなった。すなわち、0.4μgの上記ルシフェラーゼ発現ベクターと0.4μgのβ-ガラクトシダーゼ発現ベクター(pcDNA4/V5-His/LacZ, Invitrogen)を、50μlのOpti-MEM培地に懸濁し、これに2μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を含むOpti-MEM培地を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。その後、この複合体を10% 牛胎児血清を含むダルベッコ・ハム等比混合培地(DF1:1培地)中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8 x 105細胞で播種)に添加した。
【0056】
24時間後、1% メタノールに細胞を暴露後、レポーター遺伝子の発現変動により、TH遺伝子の転写制御領域のメタノール応答性を調べた。
【0057】
その結果を図1に示す。図1に示したように、500 bp、400 bp、300bpのTH転写制御領域を組み込んだルシフェラーゼ発現ベクターでは、メタノール応答が確認されたが、200 bp、100 bpを組み込んだルシフェラーゼ発現ベクターでは、レポーター遺伝子のメタノール応答が確認されなかった。したがって、TH遺伝子のメタノール応答には、TH遺伝子の上流約300〜200 bpにわたる領域が関与することが示された。すなわち、TH遺伝子の上流約300〜200 bpにわたる領域が、本発明のプロモーター活性を維持するために必須な領域であることが示された。
【0058】
[実施例2] メタノール応答性プロモーターの作製、及びメタノール応答性プロモーターを含むルシフェラーゼ発現ベクターの構築
マウスから抽出したゲノムDNAをKpnIで消化した後、これを鋳型として、配列番号15に記載の塩基配列と配列番号10に記載の塩基配列をプライマーとするPCRによって、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の上流約500塩基対の領域を増幅した。増幅したDNA断片は、0.8% アガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルから当該DNA断片を切り出し、QIA quick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。
【0059】
5’-CGGCTCGAGG TGGGGGACCC AGAGGGGCTT TGAC-3’(配列番号15)
次に、上記の方法で得たTH遺伝子の上流約500 bpの領域を鋳型として、配列番号12に記載の塩基配列と配列番号16に記載の塩基配列をプライマーとするPCRによって、TH遺伝子の上流約100bpの領域(配列番号2)を増幅し、増幅されたDNA断片をXhoIとHindIIIで完全消化した。
【0060】
5’-GCCGCTAGCA CGAGAGAGGC CTCCGTCCCA TTAG-3’(配列番号16)
完全消化したDNA断片は、0.8% アガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルから当該DNA断片を切り出し、QIA quick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。精製したDNA断片(コアプロモーター領域)と、XhoIとHindIIIで完全消化したベクターPGV-B2(TOYO B-Net)を、ライゲーションキット(東洋紡)を用いて連結した後、これを大腸菌TOP10株(Invitrogen)に導入した。このようにして調製された大腸菌TOP10株の中からアンピシリン耐性株を選抜した。選抜したアンピシリン耐性株からプラスミドDNAを回収することにより、「pTH100/LUC発現ベクター(配列番号2に記載の塩基配列をPGV-B2ベクターに組み込んだベクター)」を得た(図2A参照)。
【0061】
さらに、TH遺伝子の上流約500 bpの領域を鋳型として、配列番号17に記載の塩基配列と配列番号18に記載の塩基配列をプライマーとするPCRによって、配列番号1に記載の領域を増幅した。増幅されたDNA(メタノール応答性領域)をKpnIとNheIで完全消化し、0.8% アガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルから当該DNA断片を切り出し、QIA quick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。
【0062】
5’-CGGGGTACCA TTAGAGAGCT CTAGATGTCT CCTG-3’(配列番号17)
5’-GCCGCTAGCA CGAGAGAGGC CTCCGTCCCA TTAG-3’(配列番号18)
精製した配列番号1に記載の塩基配列は、同様にKpnIとNheIで完全消化したpTH100/LUC発現ベクターとライゲーションキット(東洋紡)を用いて連結した後、これを大腸菌TOP10株(Invitrogen)に導入した。このようにして調製された大腸菌TOP10株の中からアンピシリン耐性株を選抜した。選抜したアンピシリン耐性株からプラスミドDNAを回収することにより、「pTH100E32/LUC発現ベクター(配列番号1に記載の塩基配列をpTH100/LUC発現ベクターに組み込んだベクター)」を得た(図2A参照)。
【0063】
一方、精製した配列番号1に記載の塩基配列は、同様にKpnIとNheIで完全消化したベクターPGV-P2(TOYO B-NET)とライゲーションキット(東洋紡)を用いて連結した後、これを大腸菌TOP10株(Invitrogen)に導入した。ここで用いたベクターPGV-P2は、コアプロモーター領域として、SV40初期プロモーターを予め含む。このようにして調製された大腸菌TOP10株の中からアンピシリン耐性株を選抜した。選抜したアンピシリン耐性株からプラスミドDNAを回収することにより、「pSV40E32/LUC発現ベクター(配列番号1に記載の塩基配列をPGV-P2に組み込んだベクター)」を得た(図2B参照)。
【0064】
[実施例3] pTH100E32/LUC発現ベクターの哺乳類細胞への導入、ならびにpSV40E32/LUC発現ベクターの哺乳類細胞への導入
実施例2に記載したpTH100E32/LUC発現ベクター、ならびにpSV40E32/LUC発現ベクターを、それぞれマウス由来の神経芽細胞腫であるNeuro2a株に導入した。導入は、リポフェクタミン法でおこなった。Opti-MEM培地50μl に懸濁した計0.8μgのベクターと、Opti-MEM培地50μl に懸濁した2μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。その後、この複合体を10% 牛胎児血清を含むダルベッコ・ハム等比混合培地(DF1:1培地)中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8 x 105細胞で播種)に添加した。これによりベクターを細胞内に導入した。
【0065】
この際、細胞には2種の発現ベクター、すなわちルシフェラーゼ発現ベクター(pTH100E32/LUCあるいはpSV40E32/LUCの何れか一方)と、pcDNA4/V5-His/LacZ(Invitrogen)を導入した。pcDNA4/V5-His/LacZを導入したのは、ベクター導入効率を標準化することが目的である。発現ベクターを導入した細胞は、導入操作後、ベクターからタンパク質を生成させるため、さらに24時間培養を続けた。
【0066】
[実施例4] pTH100E32/LUC発現ベクターおよびpSV40E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性
実施例3に記載の方法で、発現ベクター(pTH100E32/LUCあるいはpSV40E32/LUCの何れか一方、及びpcDNA4/V5-His/LacZ)を導入した細胞を、0.001重量% メタノールを含むDF1:1培地で24時間培養した。24時間後、培地を取り除き、細胞をリン酸緩衝液で2回洗浄した。次に、タンパク質抽出用溶液(TOYO B-Net)をウェルあたり100μlずつ加え、室温で15分間穏やかに攪拌したのち、-80℃で溶液を凍結させた。凍結した溶液は室温で解凍させた後、1.5mlチューブに回収し、ルシフェラーゼ活性及びβ-ガラクトシダーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、β-ガラクトシダーゼ ng 当たりの相対発光強度(RLU/sec/ng β-galactosidase)に換算した。
【0067】
結果を図3AおよびBに示す。図3AおよびBに示されるとおり、0.001重量%のメタノール処理で、pTH100E32/LUCとpSV40E32/LUCのいずれの発現ベクターにおいても、ルシフェラーゼ活性の増加が観察された。
【0068】
[実施例5] pTH100E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性の向上
pTH100E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性を更に向上させるため、TH遺伝子のメタノール応答性領域を3個組み込んだルシフェラーゼ発現ベクターを構築した。
【0069】
TH遺伝子のメタノール応答性領域である配列番号1に記載のDNA断片を、配列番号17に記載の塩基配列と配列番号18に記載の塩基配列をプライマーとしたPCRで増幅した。その後、増幅されたDNA断片の5'末端をポリヌクレオチドキナーゼによる酵素反応でリン酸化した。リン酸化したDNA断片を、Ligation High(TOYOBO)をもちいて連結してタンデム・リピートを作製後、Kpn IとNhe Iによる部分消化をおこない、0.8 % アガロースゲル電気泳動で分子量による分画をおこなった。ゲルから、配列番号1に記載の塩基配列が3個繋がった断片を、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)で精製してKpnIとNheIで消化し、同様にKpnIとNheIで消化したpTH100/LUC発現ベクター(図2A参照)に組み込んだ。このようにして、配列番号1に記載の塩基配列が3個組み込まれたベクター「pTH100E32x3/LUC発現ベクター」を得た。
【0070】
次に、作製したルシフェラーゼ発現ベクターを、実施例3に記載の方法で、マウス神経芽細胞腫Neuro2aに導入して、ルシフェラーゼアッセイにより、そのメタノール応答性を調べた。
【0071】
結果を図4に示す。図4に示したように、pTH100E32x3/LUC発現ベクターでは、配列番号1に記載の塩基配列を1個組み込んだpTH100E32/LUC発現ベクターに比べて、高いメタノール応答性を示した。
【0072】
[実施例6] pTH100E32x3/LUC発現ベクターの濃度依存的なメタノール応答性
pTH100E32x3/LUC発現ベクターを実施例3に記載の方法で、マウス神経芽細胞腫Neuro2aに導入して、異なる濃度のメタノールに暴露した後、ルシフェラーゼアッセイにより、メタノール応答性の濃度依存性を調べた。
【0073】
結果を図5に示す。図5に示したように、pTH100E32x3/LUC発現ベクターを導入した細胞では、0.001重量%以上のメタノール暴露により、ルシフェラーゼ遺伝子の発現誘導が観察された。しかしながら、メタノール濃度が0.001〜0.1重量%の範囲で、レポーター遺伝子の発現誘導率に大きな差は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】チロシン水酸化酵素遺伝子の種々の長さの転写制御領域のメタノール応答性を示すグラフ図。
【図2A】本発明の一実施例に従ったpTH100E32/LUC発現ベクターの作成の仕方を示す模式図。
【図2B】本発明の一実施例に従ったpSV40E32/LUC発現ベクターの作成の仕方を示す模式図。
【図3A】本発明の一実施例に従ったTH100E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性を示すグラフ図。
【図3B】本発明の一実施例に従ったpSV40E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性を示すグラフ図。
【図4】本発明の一実施例に従ったpSV40E32/LUC発現ベクターのメタノール応答性を示すグラフ図。
【図5】本発明の一実施例に従ったpTH100E32x3/LUC発現ベクターの濃度依存的なメタノール応答性を示すグラフ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)の領域および(2)の領域を、5’から3’方向にこの順に含むメタノール応答性プロモーター:
(1)下記(a)、(b)および(c)からなる群より選択されるメタノール応答性領域:
(a) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b) 配列番号1に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が失欠、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド、
(c) 配列番号1に記載の塩基配列の全部若しくは一部と相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつメタノール応答性を有するポリヌクレオチド;および
(2)転写開始のために必要な最小領域であり、RNAポリメラーゼの結合部位を含む、コアプロモーター領域。
【請求項2】
前記コアプロモーター領域が、構造遺伝子の上流領域に位置する−100〜+35の領域である、請求項1に記載のメタノール応答性プロモーター。
【請求項3】
前記コアプロモーター領域が、配列番号2〜5の何れかに記載の塩基配列からなる、請求項1に記載のメタノール応答性プロモーター。
【請求項4】
複数の前記メタノール応答性領域をタンデムに含む、請求項1に記載のメタノール応答性プロモーター。
【請求項5】
配列番号6〜8の何れかに記載の塩基配列からなる、メタノール応答性プロモーター。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のメタノール応答性プロモーター、および前記メタノール応答性プロモーターの下流に発現可能な様式で連結された外来遺伝子を含む、融合遺伝子。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載のメタノール応答性プロモーターを含むベクター。
【請求項8】
前記メタノール応答性プロモーターの下流にマルチクローニングサイトを含む、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項6に記載の融合遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項10】
請求項6に記載の融合遺伝子または請求項9に記載の発現ベクターが宿主細胞に導入された形質転換体。
【請求項11】
前記宿主細胞が、微生物細胞、昆虫細胞または哺乳類細胞である請求項10に記載の形質転換体。
【請求項12】
請求項10に記載の形質転換体を培養液中で培養する工程、
前記培養液にメタノールを添加することにより、前記形質転換体にメタノール処理をおこなう工程、および
前記メタノール処理後に、前記形質転換体が生産した外来遺伝子産物のタンパク質を回収する工程
を含むタンパク質の生産方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−86237(P2008−86237A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269518(P2006−269518)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】