説明

メタリック色調成形樹脂組成物

【課題】塗装系着色樹脂組成物の問題点を解決するために開発中のメタリック色調成形樹脂組成物について問題となる光沢の低下を効果的に抑制する。
【解決手段】光輝材を配合したブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対して、NH型ピペリジン環構造を含むヒンダードアミン化合物0.25〜1.0重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝材を含むメタリック色調成形樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車業界における内外装品において、美観の改善のために着色塗装が広く行われている。また着色塗装の一種として、アルミニウム粉あるいはパール顔料等の光輝材を含むメタリック色調塗装を好むユーザも多い。しかし、このような着色塗装に用いられる塗料には多く揮発性有機化合物(VOC)が含まれ、環境に対する悪影響、作業工数の増加等の問題が指摘されている。そこで、近年は、予め着色剤や光輝材を混練した着色樹脂組成物の成形体を直接内外装部品として用いることも提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−106201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、樹脂着色によるメタリック色調の表現には幾つかの問題点が見出された。その一つは、白、赤、黒などの通常の着色顔料の配合による樹脂着色の場合に比べて、暴露試験(JIS K7350−2)後において、光沢ないし光輝感の低下が著しく、予定した光沢が得られない、ということである。この傾向は、塗料等の主要ビヒクルでもある耐候性の優れるアクリル樹脂に加えて、内外装品に要求される耐衝撃性改善のために、ブタジエンゴムを配合した成形樹脂材料に顕著に認められる。そして、本発明者らの研究によれば、上記したメタリック色調着色樹脂成形体の暴露試験による光沢率の低下は、成形体の表面スキン層下に存在する光輝材により入射光が反射され、再びスキン層を通過するため、ブタジエンゴムを含むスキン層の劣化が促進されるため、光輝材を添加しない着色樹脂成形体に比べて光沢の低下が著しくなるものと解される。
【0005】
従って、本発明の主要な目的は、光輝材を配合したブタジエンゴム含有アクリル樹脂においても暴露試験による光沢の低下を効果的に抑制したメタリック色調成形樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの研究によれば、数ある耐候性安定剤のなかでも、NH型ピペリジン環を有するヒンダードアミン化合物の添加が、上述の目的の達成のために極めて有効であることが見出された。NR型あるいはNOR型ピペリジン環を有するヒンダードアミン化合物の添加は効果的でなく、またヒンダードフェノール化合物の添加はそれ自体で効果的でないばかりでなく、上記NH型ヒンダードアミン化合物の添加効果を却って減殺することも見出された(後記実施例および比較例参照)。おそらくは、NH型ヒンダードアミン化合物はその本来の光安定剤効果に加えて、その適度の塩基性がアルミニウム粉、パール顔料等の光輝材と良好な相互作用を示して、優れた耐露光安定化効果を発揮しているものと理解される。
【0007】
本発明のメタリック色調成形樹脂組成物は、上述の知見に基づくものであり、光輝材を配合したブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対して、NH型ピペリジン環構造を含むヒンダードアミン化合物0.25〜1.0重量部を配合したことを特徴とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、その好ましい態様について、より具体的に説明する。
【0009】
(ブタジエンゴム含有アクリル樹脂)
本発明のメタリック色調成形樹脂組成物の主成分(マトリクス成分)としては、透明性、耐候性および耐衝撃性の調和したブタジエンゴム含有アクリル樹脂が用いられる。MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂も用いられないではないが、ブタジエンおよびアクリル樹脂成分以外の成分を含まないブタジエン−(メタ)アクリレート共重合体単独またはこれと(メタ)アクリレート(共)重合体との混合物が、より良好な透明性、耐候性および耐衝撃性の調和を示すので、より好ましい。
【0010】
(光輝材)
上記ブタジエンゴム含有アクリル樹脂に対して、光輝材を配合して、メタリック色調の樹脂組成物を形成する。光輝材としては、アルミニウム粉、マイカ粉等が用いられ、特に金属調のシルバー色を表現する場合にはアルミニウム粉が好ましく用いられる。光輝性付与効果、分散性、得られる組成物の成形性の観点から、ブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対し、0.05〜10重量部、特に0.1〜4重量部の割合で配合することが好ましい。同様な理由により、光輝材は、顕微鏡観察による平均粒子径が5〜120μm、特に5〜20μmの粉粒体であることが好ましい。
【0011】
(光安定剤)
本発明に従い、上記ブタジエンゴム含有アクリル樹脂および光輝材に加えて、光安定剤としてNH型ピペリジン環を有するヒンダードアミン化合物を配合する。ここでNH型ピペリジン環構造とは、ピペリジンCNHの特性基=NHがそのまま維持された環構造を意味する。後記実施例に示すように、このNH型ヒンダードアミン化合物は、アルキル置換のNR型あるいはアルコキシ置換のNOR型ヒンダードアミン化合物に比べて優れた露光後の光沢維持効果を示す。低分子量型と高分子量型のいずれも用いられるが、光安定剤効果に関しては低分子量型がより優れ、他方、高分子量型はブタジエンゴム含有アクリル樹脂に対する相溶性がより優れる。光安定剤効果と相溶性の調和のために両者を併用することも好ましい。市販品の例としては、低分子量型としてTINUVIN770DF(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン))、高分子量型としてCHIMASSORB 2020FDL(ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン)とN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物)(いずれもチバガイギー社製)がある。光安定剤効果と相溶性の調和のために、ブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対して、NH型ヒンダードアミン化合物の少なくとも一種を0.25〜1.0重量部、好ましくは0.25〜0.6重量部の範囲で添加する。但し、低分子量型ヒンダードアミン化合物を単独で0.6重量部を超えて添加することは、ブリーディング、フォギング等の問題が発生しがちであり、避けるべきである。低分子量型と高分子量型を併用する場合も合計量で0.6重量部までに抑えることが好ましい。
【0012】
なお、NH型ヒンダードアミン化合物に加えて、NR型またはNOR型のヒンダードアミン化合物を添加することは光安定剤効果の改善に効果的でなく、特にヒンダードフェノール化合物の添加は、NH型ヒンダードアミン化合物の光安定剤効果を減殺する傾向にあるので、むしろ避けるべきである。
【0013】
(組成物)
本発明のメタリック色調成形樹脂組成物は、上記各成分を乾式混合あるいは溶融混合することにより得られ、例えば230〜270℃での射出成形、押出成形等により各種内外装品の成形に用いられる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例、比較例により、本発明を更に具体的に説明する。
【0015】
(実施例、比較例)
三菱レイヨン(株)製ブタジエンゴム含有アクリル樹脂「アクリペットVRL40」(メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体とブタジエン−アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合体との混合物;全光線透過率(JIS K7361):92%,アイゾット衝撃強さ(JIS K7110):9.2KJ/m)100重量部に対し、光輝材としてアルミニウム粉(平均粒子径:5μm;東洋アルミ社製「アルミペーストPAタイプ」を1.5重量部を添加し、更に後記表1に示す各種耐候性安定剤を表記の量でそれぞれ配合した組成物について、250℃で射出成形して、79mm×87mm×3mm(厚さ)に成形して、これから60×70mmに切り出した試験片を用いて、下記の促進耐光性試験を行った。
【0016】
<促進耐光性試験>
試験機としてATLAS社製「Ci4000キセノンウェザオメータ」を用いて、JIS K7350−2に準拠し、上記試験片に対し、30cm離間した光源キセノンアークランプから照射して、370時間後(露光量:100MJ/m)および740時間後(露光量:200MJ/m)に取り出した各試験片について、露光前後の60°鏡面光沢度(入射角60°、反射角60°における反射光の強さ)をJIS Z8741−1997に従い測定し、露光後の光沢残存率を以下の式により求めた:
光沢残存率(%)=(露光後光沢度/露光前光沢度)×100
経験的に上記促進耐光性試験による露光量200MJ/mでの光沢残存率が80%以上であれば合格と判定される。
【0017】
<相溶性判定>
上記で得た試験片の成形後、80℃で24時間放置後の状態を目視観察し、ブリーディング、フォギングの有無により安定剤とブタジエンゴム含有アクリル樹脂との相溶性を判定した。
【0018】
結果をまとめて次表1に示す。
【表1】

【0019】
上記表1を見れば、本発明に従い、アルミニウム粉を含むブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対し、NH型ヒンダードアミン化合物を0.25〜1.0重量部配合した組成物は露光量200MJ/mと強度の促進耐光性試験を行った際にも80%以上の光沢残存率を示し、実用上充分なメタリック色調成形樹脂組成物が得られていることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0020】
上述したように本発明によれば、有機溶剤を使用する塗装系の問題点を解決すべく、開発中の樹脂着色組成物、特に光輝材を配合したメタリック色調成形樹脂組成物において、耐衝撃性および耐候性を調和させるためにブタジエンゴム含有アクリル樹脂を用いる場合において、問題であった光沢の低下を効果的に抑制したメタリック色調成形樹脂組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝材を配合したブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部に対して、NH型ピペリジン環構造を含むヒンダードアミン化合物0.25〜1.0重量部を配合したことを特徴とするメタリック色調成形樹脂組成物。
【請求項2】
前記NH型ヒンダードアミン化合物が低分子量型ヒンダードアミン化合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記NH型ヒンダードアミン化合物が高分子量型化合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記NH型ヒンダードアミン化合物が高分子量型化合物と低分子量型化合物の併用系である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
低分子量型ヒンダードアミン化合物がビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン)である請求項1,2および4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
高分子量型ヒンダードアミン化合物が、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン)とN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物である請求項1,3および4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ブタジエンゴム含有アクリル樹脂100重量部当り、0.25〜0.6重量部のNH型ヒンダードアミン化合物が配合される請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−256346(P2011−256346A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134156(P2010−134156)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】