説明

メタロセン系イオン液体、およびその製造方法

【課題】新規なイオン液体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のメタロセン系イオン液体は下記一般式(1)で表される化合物からなることを特徴とする。


[式中、L1、L2は互いに同一または異なっていてもよく、シクロペンタジエニル環、アレーン環またはこれらの誘導体(L1、L2は少なくとも一方が誘導体であり、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、炭素数1〜12の直鎖アルキルエーテル、炭素数1〜12の直鎖アルキルエステルおよびハロゲン原子よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する。ただし、L1およびL2が誘導体であり、環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換された化合物、L1およびL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である化合物を除く);M1は遷移金属;X-は低対称アニオンを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロセン系イオン液体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、常温でイオン性を有する液体が注目されている。イオン液体の不揮発性、難燃性、イオン伝導性、耐熱性などの特性を活かして、例えば、リチウムイオン2次電池、燃料電池などの電池用の電解質、シンホリテック効果を利用する溶媒、触媒などの分野での利用が期待されている。
【0003】
イオン液体とは、一般に100℃以下で液体であるイオン性物質のことであり、例えば、イミダゾリウム塩誘導体、ピリジニウム塩誘導体、アルキルアンモニウム塩誘導体、ホスホニウム誘導体などが知られている。例えば、非特許文献1,2には、イミダゾール環にフェロセン部分を導入したイオン液体が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ラムジー・バラサブラマニアン(Ramjee Balasubramanian)、外2名、「酸化還元活性なイオン性液体相 フェロセン化イミダゾリウム塩 (Redox Ionic Liquid Phases: Ferrocenated Imidazoliums)」、アメリカ化学会誌(Journal of the American Chemical Society)、(アメリカ合衆国)、アメリカ化学会(American Chemical Society)、 2006年8月9日、Vol.128、 No.31、p.9994-9995
【非特許文献2】イエ・ガオ(Ye Gao)、外2名、「初の(フェロセニルメチル)イミダゾリウムと(フェロセニルメチル)トリアゾリウム室温イオン性液体(The First (Ferrocenylmethyl)imidazolium and (Ferrocenylmethyl)triazolium Room Temperature Ionic Liquids)」、無機化学(Inorganic Chemistry)、(アメリカ合衆国)、アメリカ化学会(American Chemical Society)、2004年5月31日、Vol.43、 No.11、p.3406-3412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン液体の種類およびその特性については、まだ十分知られていない。本発明者らは、新規なメタロセン系イオン液体およびその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のメタロセン系イオン液体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0007】
【化1】


[式中、L1、L2は互いに同一または異なっていてもよく、シクロペンタジエニル環、アレーン環またはこれらの誘導体(L1、L2は少なくとも一方が誘導体であり、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、炭素数1〜12の直鎖アルキルエーテル、炭素数1〜12の直鎖アルキルエステルおよびハロゲン原子よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、ただし、L1およびL2が誘導体であり、環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換される場合、L1およびL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である場合を除く);M1は遷移金属;X-は低対称アニオンを表す。]
【0008】
前記L1、L2は、下記一般式(2)または(3)で表されるものであることが好ましい。
【0009】
【化2】


[式中、R1〜R5は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【0010】
【化3】


[式中、R6〜R11は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【0011】
前記M1は、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、ルテニウム、モリブデン、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属原子が好適である。また、前記X-は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオン、および、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンよりなる群から選択される少なくとも1種の低対称アニオンが好適である。
【0012】
本発明には、下記一般式(4)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法であって、下記一般式(5)で表されるメタロセン誘導体と、下記一般式(6)で表される銀塩とを反応させるメタロセン系イオン液体の製造方法も含まれる。
【0013】
【化4】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R35は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R35の全てが水素原子の場合、R21〜R25、R31〜R35の全てがメチル基の場合、および、R21、R31が水素原子でありR22〜R25、R32〜R35がメチル基の場合を除く);X-は、低対称アニオンを表す。]
【0014】
【化5】


[式中、M1、R21〜R25、R31〜R35は、上記一般式(4)と同義である]
【0015】
【化6】


[式中、X-は上記一般式(4)と同義である]
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規なメタロセン系イオン液体が得られ、電池用の電解質、シンホリテック効果を利用する溶媒、触媒などの分野での利用が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のメタロセン系イオン液体は、下記一般式(1)で表される化合物からなることを特徴とする。
【0018】
【化7】


[式中、L1、L2は互いに同一または異なっていてもよく、シクロペンタジエニル環、アレーン環またはこれらの誘導体(L1、L2は少なくとも一方が誘導体であり、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、炭素数1〜12の直鎖アルキルエーテル、炭素数1〜12の直鎖アルキルエステルおよびハロゲン原子よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、ただし、L1およびL2が誘導体であり、環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換された化合物、L1およびL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である化合物を除く);M1は遷移金属;X-は低対称アニオンを表す。]
【0019】
前記一般式(1)に示すように、本発明のメタロセン系イオン液体は、カチオンとして下記一般式(7)に示すカチオンを用いたことを特徴とする。このように、カチオンとして置換メタロセニウムカチオンなどを用いることにより、分子中にイミダゾール骨格を導入せずに、イオン液体を実現することができる。なお、本発明において、イオン液体とは、イオン性を有する物質であって、融点が100℃以下のものをいう。
【0020】
【化8】


[式中、L1、L2、およびM1は、上記式(1)と同義である。]
【0021】
前記L1、L2で表されるシクロペンタジエニル環誘導体またはアレーン環誘導体は、シクロペンタジエニル環またはアレーン環が有する水素原子の少なくとも1つが、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、炭素数1〜12の直鎖アルキルエーテル、炭素数1〜12の直鎖アルキルエステルおよびハロゲン原子よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基に置換されたものである。ここで、アレーン環の具体例としては、例えば、ベンゼン、ペンタレン、インデンなどが挙げられる。
【0022】
前記炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基などの直鎖アルキル基;i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、i−アミル基、t−アミル基などの分岐アルキル基が挙げられる。前記炭素数1〜12のエーテル基としては、例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、n−プロピルエーテル基、n−ブチルエーテル基、n−ペンチルエーテル基などの直鎖アルキルエーテル基;などが挙げられる。前記炭素数1〜12のエステル基としては、例えば、メチルエステル基、エチルエステル基、n−プロピルエステル基、n−ブチルエステル基、n−ペンチルエステル基などの直鎖アルキルエステル基;などが挙げられる。
【0023】
なお、L1、L2の組合せは特に限定されないが、少なくとも一方は環構造が有する水素原子の少なくとも1つは置換されている誘導体である必要があり、かつ、L1とL2の両方が環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換された誘導体の態様;および、L1とL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である態様は除かれる。L1とL2の両方が無置換体である場合、L1とL2の両方が環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換された誘導体である場合、および、L1とL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である場合には、得られるメタロセン系イオン性物質の融点が非常に高くなり、イオン液体が得られない。
【0024】
例えば、前記L1およびL2の両方が、シクロペンタジエニル環(無置換メタロセニウムカチオン)の場合、あるいはペンタメチルシクロペンタジエニル環(デカメチルメタロセニウムカチオン)の場合、あるいはテトラメチルシクロペンタジエニル環(オクタメチルメタロセニウムカチオン)の場合では、得られる化合物の融点が100℃を超える。無置換メタロセニウムカチオンを用いた化合物の融点は、例えば、フェロセンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン塩([Cp2Fe][NTf2])の融点は129℃、コバルトセンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン塩([Cp2Co][NTf2])の融点は165.9℃である。デカメチルメタロセニウムカチオンを用いた化合物の融点、例えば、デカメチルフェロセンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン塩([(Me5Cp)2Fe][NTf2])およびデカメチルコバルトセンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン塩([(Me5Cp)2Co][NTf2])の融点は、いずれも200℃以上である。オクタメチルメタロセニウムカチオンを用いた化合物の融点、例えば、オクタメチルフェロセンビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン塩([(MeHCp)2Fe][NTf2])の融点は、223℃である。
【0025】
前記L1、L2は、少なくとも一方が誘導体であり、置換基として炭素数2〜4の直鎖アルキル基を少なくとも一つ有することが好ましい。また、前記L1、L2は、両方が誘導体であって、それぞれが置換基として炭素数2〜4の直鎖アルキル基を少なくとも一つ有することがより好ましい。
【0026】
前記L1、L2としては、下記一般式(2)または(3)で表されるものが好ましい。
【0027】
【化9】


[式中、R1〜R5は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【0028】
【化10】


[式中、R6〜R11は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【0029】
すなわち、本発明のメタロセン系イオン液体を構成する置換メタロセン系カチオンとしては、下記式(8)で表される置換メタロセニウムカチオン、下記式(9)で表されるモノアレーン置換メタロセン系カチオンおよび下記式(10)で表されるビスアレーン置換メタロセン系カチオンが好適である。
【0030】
【化11】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R35は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R35の全てが水素原子の場合、R21〜R25、R31〜R35の全てがメチル基の場合、および、R21、R31が水素原子でありR22〜R25、R32〜R35がメチル基の場合を除く)を表す。]
【0031】
【化12】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R36は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R36の全てが水素原子およびR21〜R25、R31〜R36の全てがメチル基の場合を除く)を表す。]
【0032】
【化13】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R26、R31〜R36は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R26、R31〜R36の全てが水素原子およびR21〜R26、R31〜R36の全てがメチル基の場合を除く)を表す。]
【0033】
前記一般式(8)で表される置換メタロセニウムカチオンの具体例としては、1,1’−ジメチルフェロセニウムカチオン(以下、「[Me2Fc]+」)、エチルフェロセニウムカチオン(以下、「[EtFc]+」)、1,1’−ジエチルフェロセニウムカチオン(以下、「[Et2Fc]+」)、n−ブチルフェロセニウムカチオン(以下、「[n−BuFc]+」)、1,1’−ジブチルフェロセニウムカチオン(以下、「[n−Bu2Fc]+」)、t−ブチルフェロセニウムカチオン(以下、「[t−BuFc]+」)、t−アミルフェロセニウムカチオン(以下、「[AmFc]+」)、ブチルオクタメチルフェロセニウムカチオン(以下、「[(CpMe449)(CpMe4H)Fe]+」)、ヨードフェロセニウムカチオン(以下、「[IFc]+」)などの置換フェロセニウムイオン;1,1’−ジエチルコバルトセニウムカチオン(以下、「[(EtCp)2Co]+」)などの置換コバルトセニウムイオンが挙げられる。
【0034】
前記一般式(9)で表されるモノアレーン置換メタロセン系カチオンの具体例としては、(エチルベンゼン)(シクロペンタジエニル)鉄(1+)(以下、「[(C65Et)CpFe]+」)、(ベンゼン)(エチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)(以下、「[(C66)(EtCp)Fe]+」)、(エチルベンゼン)(エチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)(以下、[(C65Et)(EtCp)Fe]+」などが挙げられる。
【0035】
前記一般式(10)で表されるビスアレーン置換メタロセン系カチオンの具体例としては、ビス(エチルベンゼン)クロミウム(1+)(以下、[(CEt)2Cr]+」)などが挙げられる。
【0036】
前記M1で表される金属原子は、遷移金属であれば特に限定されない。これらの中でも、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、ルテニウム、モリブデン、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、M1で表される金属原子は、前記L1およびL2の構造によって好ましいものが異なり、例えば、上記一般式(8)で表される置換メタロセニウムカチオンであれば、鉄またはコバルトが好ましい。ここで、置換メタロセニウムカチオンを構成する金属が奇数個の電子を持つ場合、メタロセニウム系イオン液体は磁性を示し、得られるイオン液体は磁性流体となる。そのため、上記一般式(8)で現される置換メタロセニウムカチオンにおいては、前記Mで表される金属としては、鉄が特に好ましい。また、上記一般式(8)で表される置換メタロセニウムカチオンを構成する金属がコバルトである場合、得られるイオン液体は、酸素に対して非常に安定となる。
【0037】
上記一般式(9)で表されるモノアレーン置換メタロセン系カチオンであれば、鉄、ルテニウムまたはオスミウムが好ましい。上記一般式(9)で表されるビスアレーン置換メタロセン系カチオンであれば、クロム、モリブデンまたはレニウムが好ましい。
【0038】
前記X-で表される低対称アニオンは、分子が球対称、直線型、正四面体型、正八面体型以外の形状を持つ対称性の低いアニオンであれば、特に限定されない。低対称アニオンとしては、フッ素原子を有する低対称アニオン、シアノ基を有する低対称アニオンなどが挙げられる。なお、本発明のイオン液体を構成するアニオンとして低対称アニオンを用いる理由は、アニオンとして分子が対称性の高い形状を持つアニオン(例えば、I3-、BF4-、PF6-など)を用いた場合には、得られる化合物が高融点となる傾向があるためである。対称性の高い形状を持つアニオンを用いた化合物の融点は、例えば、1,1’−ジエチルコバルトセニウム6フッ化リン塩([(EtCp)2Co][PF6])の融点は148℃である。
【0039】
前記フッ素原子を有する低対称アニオンとしては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(以下、「[NTf2-」)(下記式(11a))、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオン(以下、「[NHf2-」)(下記式(11b))、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン(以下、「[NNf2-」)(下記式(11c))、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド(下記式(11d))などのイミド系アニオン;トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(下記式(12a))、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン(下記式(12b))などのスルホナート系アニオン;トリフルオロ酢酸アニオン(下記式(13a))、ペンタフルオロプロピオン酸アニオン(下記式(13b))、ヘプタフルオロ酪酸アニオン(下記式(13c))などのカルボキシラート系アニオン;などが挙げられる。
【0040】
【化14】

【0041】
前記X-で表されるシアノ基を有する低対称アニオンとしては、例えば、ジシアノアミンアニオン(下記式(14a))、トリシアノメタンアニオン(下記式(14b))などが挙げられる。
【0042】
【化15】

【0043】
これらの中でもX-で表されるアニオンとしては、フッ素原子を有する低対称アニオンが好ましく、特に、[NTf2-、[NHf2-、[NNf2-が好適である。
【0044】
本発明のメタロセン系イオン液体としては、例えば、下記式(4)、(15)および(16)で表されるものが挙げられる。
【0045】
【化16】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R35は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R35の全てが水素原子の場合、R21〜R25、R31〜R35の全てがメチル基の場合、および、R21、R31が水素原子でありR22〜R25、R32〜R35がメチル基の場合を除く);X-は、低対称アニオンを表す。]
【0046】
【化17】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R36は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R36の全てが水素原子およびR21〜R25、R31〜R36の全てがメチル基の場合を除く);X-は、低対称アニオンを表す。]
【0047】
【化18】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R26、R31〜R36は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R26、R31〜R36の全てが水素原子およびR21〜R26、R31〜R36の全てがメチル基の場合を除く);X-は、低対称アニオンを表す。]
【0048】
前記一般式(4)、(15)および(16)において、環構造が有する置換基(式(4)ではR21〜R25、R31〜R35、式(15)ではR21〜R25、R31〜R36、式(16)ではR21〜R26、R31〜R36)は、少なくとも一つが炭素数2〜4の直鎖アルキル基であることが好ましい。また、前記一般式(4)、(15)および(16)において、R21〜R25あるいはR21〜R26の少なくとも一つが炭素数2〜4の直鎖アルキル基であり、かつ、前記R31〜R35あるいはR31〜R36の少なくとも一つが炭素数2〜4の直鎖アルキル基であることが特に好ましい。
【0049】
なお、上記一般式(4)におけるM1が鉄原子の場合、得られる化合物が若干酸素に対して不安定となるため、酸素に対して安定にするためにはR21〜R25、R31〜R35は複数のアルキル基であることが好ましく、例えば、ブチルオクタメチル体(R21=n−ブチル基、R31=水素原子、R22〜R25,R32〜R35=メチル基)などが好適である。
【0050】
前記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、1,1’−ジメチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[Me2Fc][NTf2]」)、エチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[EtFc][NTf2]」)、1,1’−ジエチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[Et2Fc][NTf2]」)、n−ブチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[n−BuFc][NTf2]」)、1,1’−ジ−n−ブチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[n−Bu2Fc][NTf2]」)、t−ブチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[t−BuFc][NTf2]」)、t−アミルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[AmFc][NTf2]」)、ブチルオクタメチルフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[(CpMe449)(CpMe4H)Fe][NTf2]」)、ヨードフェロセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[IFc][NTf2]」)、1,1’−ジエチルコバルトセニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[(EtCp)2Co][NTf2]」)、1,1’−ジエチルコバルトセニウムビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド塩(以下、「[(EtCp)2Co][NHf2]」)、1,1’−ジエチルコバルトセニウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド塩(以下、「[(EtCp)2Co][NNf2]」)などが挙げられる。
【0051】
前記一般式(15)で表される化合物の具体例としては、(エチルベンゼン)(シクロペンタジエニル)鉄(1+)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[(C65Et)CpFe][NTf2]」)、(ベンゼン)(エチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「[(C66)(EtCp)Fe][NTf2]」)、(エチルベンゼン)(エチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、[(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2]」などが挙げられる。
【0052】
前記一般式(16)で表される化合物の具体例としては、ビス(エチルベンゼン)クロミウム(1+)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、[(CEt)2Cr][NTf2]」)などが挙げられる。
【0053】
以下、本発明のメタロセン系イオン液体の製造方法について説明する。
【0054】
まず、上記一般式(4)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法について説明する。
【0055】
本製造方法は、下記一般式(5)で表されるメタロセン誘導体と、下記一般式(6)で表される銀塩とを反応させることを特徴とする。
【0056】
【化19】


[式中、M1、R21〜R25、R31〜R35は、上記一般式(4)と同義である]
【0057】
【化20】


[式中、X-は上記一般式(4)と同義である]
【0058】
この反応では、メタロセン誘導体を構成する金属原子が、銀塩によって酸化されることにより、本発明のメタロセン系イオン液体が得られる。下記にフェロセン系イオン液体の合成スキームの一例を示す。
【0059】
【化21】

【0060】
本製造方法に用いられるメタロセン誘導体としては、前述の一般式(8)で表される置換メタロセニウムカチオンを形成し得るものであれば、特に限定されない。メタロセン誘導体としては、例えば、1,1’−ジメチルフェロセン、エチルフェロセン、1,1’−ジエチルフェロセン、n−ブチルフェロセン、1,1’−ジブチルフェロセン、t−ブチルフェロセン、t−アミルフェロセン、ブチルオクタメチルフェロセン、ヨードフェロセンなどのフェロセン誘導体;などが挙げられる。
【0061】
本製造方法に用いられる上記一般式(6)で表される銀塩(以下、単に銀塩と称することがある)としては、前述のアニオンと銀とからなる塩であれば、特に限定されない。前記銀塩としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンの銀塩(以下、「AgNTf2」)、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオンの銀塩(以下、「AgNHf2」)、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンの銀塩(以下、「AgNNf2」)などが挙げられる。
【0062】
本製造方法では、メタロセン誘導体と銀塩との仕込み比(モル比)は、メタロセン誘導体1モルに対して、銀塩を1.01モル以上1.05モル以下とすることが好ましい。仕込み比を上記範囲とすることにより、高純度のイオン液体が得られる。反応は室温で行えばよい。なお、メタロセン誘導体と銀塩との反応操作は全て不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0063】
メタロセン誘導体と銀塩とを反応させる態様としては、無溶媒反応または液相反応が挙げられるが、より簡便、迅速に行えることから無溶媒反応が好ましい。なお、得られるイオン液体が、室温で固体の塩である場合には、液相反応を採用することが好ましい。
【0064】
無溶媒反応の場合は、固体状態もしくは液体状態のメタロセン誘導体と銀塩とを単に混合すればよい。混合方法は、特に限定されないが、例えば、メノウ乳鉢を用いて混合すればよい。そして、無溶媒反応の場合は、反応後、生成したイオン液体をろ過し、副生成物である銀と、未反応の銀塩を除去することでイオン液体が得られる。
【0065】
液相反応の場合は、メタロセン誘導体および銀塩をそれぞれ溶媒に溶解させた後、これらを混合、撹拌すればよい。前記溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、エタノールなどを用いればよい。なお、溶媒は使用前に窒素バブリングすることが好ましい。
【0066】
液相反応を採用した場合、反応後の反応液から、副生成物である銀、未反応の銀塩および溶媒を除去する必要がある。副生成物である銀は、反応液をろ過することで除去できる。未反応の銀塩は、イオン液体を溶解せずに銀塩のみを溶解する洗浄液で、反応液を洗浄することで除去できる。前記洗浄液としては、ヘキサン、ペンタンなどを用いればよい。なお、反応液の洗浄を容易にするために、洗浄前に反応液を減圧濃縮することが好ましい。そして、溶媒は、反応液を減圧することで除去できる。
【0067】
また、液相反応を採用した場合には、得られたイオン液体に分解物などの不純物が残留することがあるため、再結晶により精製することが好ましい。再結晶に用いる溶媒および貧溶媒は、特に限定されず、イオン液体に応じて適宜選択すればよい。再結晶に用いる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル・アセトン混合溶媒が挙げられ、貧溶媒としては、例えば、ペンタンが挙げられる。
【0068】
次に、メタロセニウム塩のアニオン交換反応について説明する。本製造方法では、メタロセニウム塩と、前記アニオンの塩とを接触させ、アニオン交換を行うことで本発明のイオン液体が得られる。下記にコバルトセン系イオン液体の合成スキームの一例を示す。
【0069】
【化22】

【0070】
本製造方法に用いられるメタロセニウム塩としては、前述の置換メタロセニウムカチオンの塩であれば、特に限定されない。メタロセニウム塩としては、例えば、1,1’−ジエチルコバルトセン6フッ化リン酸塩などのコバルトセニウム塩;などが挙げられる。
【0071】
前記アニオンの塩としては、特に限定されず、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(以下、「LiNTf2」)、リチウムビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド塩(以下、「LiNHf2」)、リチウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド塩(以下、「LiNNf2」)などが挙げられる。
【0072】
本製造方法では、メタロセニウム塩とアニオンの塩との仕込み比(モル比)は、メタロセニウム塩1モルに対して、アニオンの塩を1.5モル以上2モル以下とすることが好ましい。反応は20℃〜100℃で行えばよい。
【0073】
なお、アニオン交換反応の方法は、特に限定されず、例えば、メタロセニウム塩およびアニオンの塩をそれぞれ溶媒に溶解させた後、両者を混合、撹拌すればよい。
【0074】
次に、上記一般式(15)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法について説明する。上記一般式(15)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法は、特に限定されず、所望とするイオン液体に応じて適宜選択すればよい。例えば、メタロセンが有するシクロペンタジエニル環の一方をアレーン環で置換し、モノアレーン錯体の塩を得た後、アニオン交換を行うことにより得られる。
【0075】
次に、上記一般式(16)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法について説明する。上記一般式(16)で表されるメタロセン系イオン液体は、中性のビスアレーン錯体(構成金属としては、例えば、クロム、マンガンなど)をハロゲン酸化してアニオン交換を行う方法や、銀塩などで酸化する方法が挙げられる。本発明のメタロセン系イオン液体と類似する化合物の合成例は、例えば、F. Grepioni, G. Cojazzi, S. M. Draper, N. Scully, D. Braga, Organometallics, 17, 296 (1998)などに記載されており、これらを参考にすればよい。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0077】
評価方法
1.融点およびガラス転移温度
製造例2,3,4,5,9,10,11,12,13,14,15で得られたイオン液体の融点およびガラス転移温度は、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント社製、「Q100型」)を用いて測定した。測定条件は、測定温度範囲−160℃〜60℃、昇温速度10Kmin-1とした。
製造例1,6,7,8で得られたイオン液体の融点は、融点測定器(Electrothermal社製、MEL−TEMP、「FU8E型」)を用いて測定した。測定条件は、大気下、室温より徐々に昇温し、水銀温度計を用いて目視により温度を読みとった。
【0078】
2.粘度
イオン液体の粘度は、粘度計(東機産業社製、TV−22L)を用いて、25℃における粘度を測定した。測定条件は、ローターNo.7(3′×R7.7)を使用し、回転速度は100rpmとした。
【0079】
3.モル磁化率
イオン液体のモル磁化率は、物理物性測定装置(カンタムデザイン社製、PPMS)を用いて測定した。測定条件は、温度範囲300K〜2K、0.1T〜5Tの磁場下、128mg〜172mgの試料を使用した。
【0080】
4.元素分析
元素分析値は、CHNコーダー(ヤナコ分析工業製、MT−5)を用いて測定した。
【0081】
5.1HNMR
重クロロホルム(CDCl3)を用いて、核磁気共鳴装置(JEOL社製、JNM−ECL−400)により測定した。化学シフトは、テトラメチルシラン(SiMe4)から低磁場側での100万分の1(ppm;δスケール)として記録し、テトラメチルシラン(δ=0)を参照とした。
【0082】
メタロセン系イオン液体の製造
製造例1([Me2Fc][NTf2])
溶媒は全て窒素バブリングしたものを使用し、実験はすべて窒素雰囲気下で行った。1,1’−ジメチルフェロセン260mg(1.21mmol)のアセトン溶液(10mL)に対し、撹拌下、AgNTf2467mg(1.20mmol)のアセトン溶液を滴下した。この溶液を室温で1時間撹拌した。析出した銀をシリンジフィルターで除いた後、溶液を減圧濃縮した。この溶液をヘキサンで色がつかなくなるまで数回洗浄した後、溶液を減圧乾固することにより、目的物質が得られた。この塩のジエチルエーテル・アセトン混合溶媒に対して貧溶媒(ペンタン)を拡散させることにより、再結晶を行い[Me2Fc][NTf2]を得た。得られた[Me2Fc][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0083】
製造例2([EtFc][NTf2])
操作は全て窒素雰囲気下で行った。エチルフェロセン425mg(1.99mmol)に、AgNTf2788mg(2.03mmol)を加え、メノウ乳鉢中で10分程度混合した。生成した濃青色液体をシリンジフィルターでろ過し、銀と未反応のAgNTf2を除去した。この操作により、[EtFc][NTf2]がほぼ定量的に得られた。得られた[EtFc][NTf2]の融点、粘度、モル磁化率を測定した。結果を表1に示した。
【0084】
製造例3([Et2Fc][NTf2])
エチルフェロセンを、1,1’−ジエチルフェロセン374mg(1.54mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を615mg(1.59mmol)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして[Et2Fc][NTf2]を製造した。得られた[Et2Fc][NTf2]の元素分析値は、C36.73質量%,H3.52質量%,N2.67質量%(計算値C36.79質量%,H3.47質量%,N2.68質量%)であった。得られた[Et2Fc][NTf2]の融点、粘度、モル磁化率を測定した。結果を表1に示した。
【0085】
製造例4([n−BuFc][NTf2])
エチルフェロセンを、n−ブチルフェロセン256mg(1.05mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を414mg(1.07mmol)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、濃青色液体の[n−BuFc][NTf2]を製造した。得られた[n−BuFc][NTf2]の元素分析値は、C36.72質量%,H3.69質量%,N2.82質量%(計算値C36.79質量%,H3.47質量%,N2.68質量%)であった。得られた[n−BuFc][NTf2]のガラス転移温度、粘度、モル磁化率を測定した。結果を表1に示した。
【0086】
製造例5([n−Bu2Fc][NTf2])
エチルフェロセンを、1,1’−ジ−n−ブチルフェロセン314mg(1.05mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を439mg(1.13mmol)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして[n−Bu2Fc][NTf2]を製造した。得られた[n−Bu2Fc][NTf2]の元素分析値は、C38.90質量%,H4.50質量%,N2.52質量%(計算値C39.14質量%,H4.38質量%,N2.54質量%)であった。得られた[n−Bu2Fc][NTf2]の融点、ガラス転移温度、粘度、モル磁化率を測定した。結果を表1に示した。
【0087】
製造例6([t−BuFc][NTf2])
1,1’−ジメチルフェロセンを、t−ブチルフェロセン166mg(0.686mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を264mg(0.679mmol)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして[t−BuFc][NTf2]を製造した。得られた[t−BuFc][NTf2]の元素分析値は、C36.72質量%,H3.69質量%,N2.82質量%(計算値C36.79質量%,H3.47質量%,N2.68質量%)であった。得られた[t−BuFc][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0088】
製造例7([AmFc][NTf2])
1,1’−ジメチルフェロセンを、t−アミルフェロセン208mg(0.812mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を318mg(8.20mmol)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして[AmFc][NTf2]を製造した。得られた[AmFc][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0089】
製造例8([(CpMe449)(CpMe4H)Fe][NTf2])
1,1’−ジメチルフェロセンを、ブチルオクタメチルフェロセン60.4mg(0.18mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を76.0mg(0.20mmol)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして[(CpMe449)(CpMe4H)Fe][NTf2]を製造した。得られた[(CpMe449)(CpMe4H)Fe][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0090】
製造例9([IFc][NTf2])
エチルフェロセンを、ヨードフェロセン116mg(0.371mmol)に変更し、AgNTf2の添加量を146mg(0.376mmol)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして[IFc][NTf2]を製造した。得られた[IFc][NTf2]の融点が室温以下であることを確認した。
【0091】
製造例10([(EtCp)2Co][NTf2])
操作は全て空気中で行った。1,1’−ジエチルコバルトセン六フッ化リン酸塩([(EtCp)2Co][PF6]326mg(0.837mmol)を少量の水に沸騰状態で溶解した。撹拌下、この溶液に対して過剰量のLiNTf2510mg(1.78mmol)水溶液を滴下した。そのまま30分間加熱撹拌を行った。溶液を室温に戻し、遠心分離を行った。水相を除去した後、溶媒としてエーテルを加え、オイル状の生成物を溶解させた。このエーテル溶液を水で数回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、溶媒を減圧除去した後、90℃で1日真空加熱乾燥を行った。以上の操作で、橙色液体として、[(EtCp)2Co][NTf2]をほぼ定量的に得た。得られた[(EtCp)2Co][NTf2]の元素分析値は、C36.60質量%,H3.48質量%,N2.72質量%(計算値C36.58質量%,H3.45質量%,N2.67質量%)であった。得られた[(EtCp)2Co][NTf2]の融点、粘度を測定した。結果を表1に示した。
【0092】
製造例11([(EtCp)2Co][NHf2])
LiNTf2を、LiNHf2712mg(1.46mmol)に変更したこと以外は、製造例10と同様にして[(EtCp)2Co][NHf2]を得た。得られた[(EtCp)2Co][NHf2]の元素分析値は、C33.33質量%,H2.75質量%,N2.09質量%(計算値C33.12質量%,H2.50質量%,N1.93質量%)であった。得られた[(EtCp)2Co][NHf2]の融点、ガラス転移温度を測定した。結果を表1に示した。
【0093】
製造例12([(EtCp)2Co][NNf2])
LiNTf2を、LiNNf2885mg(1.51mmol)に変更したこと以外は、製造例10と同様にして[(EtCp)2Co][NNf2]を得た。得られた[(EtCp)2Co][NNf2]の融点が室温以下であることを確認した。
【0094】
製造例13([(C65Et)CpFe][NTf2])
以下の操作は全て遮光下で行った。フェロセン(300.8mg、1.613mmol)を三口フラスコにとりN2置換した。そこに無水エチルベンゼン(10mL)を加えてフェロセンを溶解させた。ここにAlCl3(430.2mg、3.226mmol)を加えて室温で30分撹拌し、続いて100℃で1時間撹拌し、アルミニウム粉末(40.0mg、1.481mmol)を加えた。その後140℃で10時間還流した。系内に水を加え、さらに1時間撹拌を続けた。反応混合物をろ過し、ろ液を酢酸エチルで3回、ヘキサンで1回洗浄した。得られた水層にLiNTf2(483.6mg、1.684mmol)の水溶液を加え1時間撹拌した。
【0095】
系内にジクロロメタンを加え水層と有機層に分け、有機層をエマルジョンが生成しなくなるまで水で洗浄した後、ジクロロメタン層をMgSO4で乾燥した。乾燥剤をろ別後、溶媒を除去した。粗成生物を、溶媒にジクロロメタンを用いてアルミナカラムで精製した。溶媒を除去した後、エタノール/メタノール(体積比2:1)から−50℃のフリーザー内で再結晶した。吸引ろ過で結晶を集め、真空乾燥した。得られた[(C65Et)CpFe][NTf2]は、黄色微結晶300.3mgであり、収率36.7%であった。
【0096】
得られた[(C65Et)CpFe][NTf2]の元素分析値は、C35.42質量%,H3.04質量%,N3.00質量%(計算値C35.52質量%,H2.98質量%,N2.76質量%)であった。また、1HNMRデータは(400MHz,CDCl3,TMS):δ=1.33(t,3H,J=7.5),2.77(q,2H,J=7.5),5.01(s,5H),6.23(m,5H)であった。得られた[(C65Et)CpFe][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0097】
製造例14([(C66)(EtCp)Fe][NTf2])
フェロセンを1,1’−ジエチルフェロセン(243.7mg、1.006mmol)に、無水エチルベンゼンを無水ベンゼン(10mL)に変更し、それに伴いそれぞれの試薬の添加量を、AlCl3(268.3mg、2.012mmol)、アルミニウム粉末(24.6mg、0.913mmol)、LiNTf2(316.4mg、1.102mmol)に変更した。この変更点以外は製造例13と同様にして[(C66)(EtCp)Fe][NTf2]を製造した。得られた[(C66)(EtCp)Fe][NTf2]の元素分析値はC35.27質量%,H3.00質量%,N3.13質量%(計算値C35.52質量%,H2.98質量%,N2.76質量%)であった。また、1HNMRデータは(400MHz,CDCl3,TMS):δ=1.19(t,3H,J=7.5),2.42(q,2H,J=7.5),5.03(s,4H),6.24(s,6H)であった。得られた[(C66)(EtCp)Fe][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0098】
製造例15([(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2])
フェロセンを1,1’−ジエチルフェロセン(305.2mg、1.260mmol)に変更し、それに伴いそれぞれの試薬の添加量を、無水エチルベンゼン(15mL)、AlCl3(386.6mg、2.899mmol)、アルミニウム粉末(33.5mg、1.243mmol)、LiNTf2(468.6mg、1.632mmol)に変更した。この変更点以外は製造例13と同様にして[(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2]を製造した。なお、得られた[(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2]は室温で液体であるため、アルミナカラム(CH2Cl2)で精製した後、再結晶は行わず、真空加熱乾燥(80℃,12時間)を行った。
【0099】
得られた[(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2]の元素分析値はC38.52質量%,H3.88質量%,N2.88質量%(計算値C38.14質量%,H3.53質量%,N2.62質量%)であった。得られた[(C65Et)(EtCp)Fe][NTf2]の融点を測定した。結果を表1に示した。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のメタロセン系イオン液体は、従来のイオン液体と同様に溶媒、電解液に用いることができる。本発明のメタロセン系イオン液体は、メタロセニウム系カチオンを構成する金属原子として鉄原子などを用いた場合、酸化反応試薬として用いることができる。また、本発明のメタロセン系イオン液体は、メタロセニウム系カチオンを構成する金属原子として鉄原子などを用いた場合、得られる化合物が磁性を示すため、磁性流体、MR流体、磁気記録媒体などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするメタロセン系イオン液体。
【化1】


[式中、L1、L2は互いに同一または異なっていてもよく、シクロペンタジエニル環、アレーン環またはこれらの誘導体(L1、L2は少なくとも一方が誘導体であり、炭素数1〜12の直鎖アルキル基、炭素数1〜12の直鎖アルキルエーテル、炭素数1〜12の直鎖アルキルエステルおよびハロゲン原子よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する。ただし、L1およびL2が誘導体であり、環構造が有する全ての水素原子がメチル基で置換される場合、L1およびL2の両方がテトラメチルシクロペンタジエニル環である場合を除く);M1は遷移金属;X-は低対称アニオンを表す。]
【請求項2】
前記L1、L2が、下記一般式(2)または(3)で表されるものである請求項1に記載のメタロセン系イオン液体。
【化2】


[式中、R1〜R5は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【化3】


[式中、R6〜R11は互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基を表す。]
【請求項3】
前記M1が、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、ルテニウム、モリブデン、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属原子である請求項1または2に記載のメタロセン系イオン液体。
【請求項4】
前記X-が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオン、および、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタロセン系イオン液体。
【請求項5】
下記一般式(4)で表されるメタロセン系イオン液体の製造方法であって、
下記一般式(5)で表されるメタロセン誘導体と、下記一般式(6)で表される銀塩とを反応させることを特徴とするメタロセン系イオン液体の製造方法。
【化4】


[式中、M1は遷移金属;R21〜R25、R31〜R35は、互いに同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のエーテル基または炭素数1〜12のエステル基(ただし、R21〜R25、R31〜R35の全てが水素原子の場合、R21〜R25、R31〜R35の全てがメチル基の場合、および、R21、R31が水素原子でありR22〜R25、R32〜R35がメチル基の場合を除く);X-は、低対称アニオンを表す。]
【化5】


[式中、M1、R21〜R25、R31〜R35は、上記一般式(4)と同義である]
【化6】


[式中、X-は上記一般式(4)と同義である]
【請求項6】
前記反応が、無溶媒反応である請求項5に記載のメタロセン系イオン液体の製造方法。

【公開番号】特開2010−37336(P2010−37336A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161175(P2009−161175)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集Iおよび日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集II」 発行日:平成21年3月13日 発行所:社団法人 日本化学会 2.「日本化学会第89春季年会(2009) プログラム」 開催日:平成21年3月27日 主催者名:社団法人 日本化学会
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】