説明

メタロプロテアーゼ産生抑制剤

【課題】新規なメタロプロテアーゼ産生抑制剤を提供すること
【解決手段】寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むメタロプロテアーゼ産生抑制剤、当該剤を含む医薬組成物、並びに前記剤を含む皮膚及び/又は骨の老化防止用組成物が提供される。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、優れたメタロプロテアーゼ産生抑制作用を示し、かつ副作用を示さないため、生化学分野において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天、アガロース及び/又はアガロオリゴ糖を含むメタロプロテアーゼ産生抑制剤、当該剤を含む医薬組成物、並びに前記剤を含む皮膚及び/又は骨の老化防止用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二価の亜鉛イオンを活性中心に有するメタロプロテアーゼであるマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix Metalloprotease;以下、MMPと称する場合がある)やその近縁ファミリーのディスインテグリンメタロプロテアーゼ(A Disintegrin And Metalloprotease;以下、ADAMと称する場合がある)は、細胞外マトリックスの構成タンパク質の分解や再構築等に関与する。MMPは、その一次構造と基質特異性の違いから、コラゲナーゼ群(MMP−1、MMP−8、MMP−13及びMMP−18)、ゼラチナーゼ群(MMP−2及びMMP−9)、ストロメライシン群(MMP−3及びMMP−10)、マトリリシン群(MMP−7、MMP−11、MMP−26)、膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼ群(MMP−14、MMP−15、MMP−16、MMP−17、MMP−24及びMMP−25)、及びその他の群(MMP−12、MMP−19、MMP−20、MMP−21、MMP−23、MMP−27及びMMP−28)の6つのグループに分類されている。ADAMは、ヘビ毒のメタロプロテアーゼドメインとディスインテグリンドメインを併せ持つプロテアーゼの総称であり、膜型ADAMと分泌型ADAMTS(ADAM with Thrombospondin motifs)とに大別される。ADAMTSは細胞外マトリックスの分解・代謝に関わり、特にアグリカナーゼとも称されるADAMTS−4(アグリカナーゼ−1)やADAMTS−5(アグリカナーゼ−2)は、軟骨の細胞外マトリックスの主要構成成分の1つであるアグリカンの分解に大きな作用を果たしていることが知られている。
【0003】
メタロプロテアーゼによる細胞外マトリックスの分解は、ガン細胞の組織浸潤・転移と密接に関与することが知られており(例えば非特許文献1)、メタロプロテアーゼの産生を抑制する物質はガンの浸潤・転移を抑制する薬剤として有望である。また、メタロプロテアーゼは、皮膚や骨の老化に関与することが知られており(例えば特許文献1)、メタロプロテアーゼの産生を抑制する物質は、皮膚及び/又は骨の老化防止用の組成物として有望である。
【0004】
メタロプロテアーゼの産生を抑制する物質としてはデキサメタゾンが知られているが、この化合物は副作用が強いことから、メタロプロテアーゼ産生抑制剤の新たな候補物質の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−91284号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】アクタニューロパソロジカ(Acta Neuropathol.)、第110巻、第239頁−246頁(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規なメタロプロテアーゼ産生抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、寒天、アガロース及びアガロオリゴ糖にメタロプロテアーゼの産生を抑制する作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第一の発明は、寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むメタロプロテアーゼ産生抑制剤に関する。本発明の第一の発明における寒天としては低分子化された寒天が例示され、アガロオリゴ糖としてはアガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、アガロオクタオース、及びアガロデカオースからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が例示される。また、本発明の第一の発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤としては、マトリックスメタロプロテアーゼ及び/又はADAMTSの産生抑制剤が例示され、更にはマトリックスメタロプロテアーゼ−1、マトリックスメタロプロテアーゼ−3、マトリックスメタロプロテアーゼ−13、ADAMTS−4、及びADAMTS−5からなる群より選択された少なくとも1種のメタロプロテアーゼの産生抑制剤が例示される。
【0010】
本発明の第二の発明は、本発明の第一の発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む、ガンの浸潤及び/又はガンの転移抑制用の医薬組成物に関する。
【0011】
本発明の第三の発明は、本発明の第一の発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む、皮膚及び/又は骨の老化防止用組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、寒天、アガロース及び/又はアガロオリゴ糖を含むメタロプロテアーゼ産生抑制剤が提供される。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、ガンの浸潤、転移の抑制や、皮膚及び骨の老化防止に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】アガロオリゴ糖によるMMP−1産生抑制作用を示す図である。
【図2】アガロオリゴ糖によるMMP−3産生抑制作用を示す図である。
【図3】アガロオリゴ糖によるMMP−13産生抑制作用を示す図である。
【図4】アガロオリゴ糖によるADAMTS−4産生抑制作用を示す図である。
【図5】アガロオリゴ糖によるADAMTS−5産生抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、寒天、アガロース、及び/又はアガロオリゴ糖を含有する。
【0015】
寒天は、アガロースとアガロペクチンからなる多糖であり、広く食品素材として使用されている。寒天の原料としては、藻類が好適であり、例えば、テングサ科のマクサ、オニグサ、オオブサ、ヒラクサ、オバクサ、ユイキリ等、オゴノリ科のオゴノリ、オオオゴノリ等、イギス科のイギス、エゴノリ等、その他の紅藻類が例示される。寒天の原料となる藻類は、通常、天日に干して乾燥させたものを用いるが、生の藻類から寒天を調製しても良い。また、藻類を乾燥時に散水しながら漂白した、いわゆるさらし原藻も寒天の原料として使用できる。原料となる藻類を熱水抽出し、得られた抽出物を冷却することによって寒天のゲル、いわゆる「ところてん」が得られる。この「ところてん」から凍結脱水又は圧搾脱水によって水分を除き、乾燥させることによって市販されている形状の寒天が得られる。本発明において、寒天はその起源となる藻類を問わず、また、棒状、帯状、板状、糸状、粉末状等の種々の形態の乾燥物やゲル状の寒天を使用できる。また、寒天はいろいろな強度のゲルを形成できるものが市販されているが、本発明にはそのいずれもが使用できる。
【0016】
アガロースは、[D−ガラクトシル−(β1→4)−3,6−アンヒドロ−α−ガラクトシル−(β1→3)]で表わされる構造を有する多糖類である。寒天は通常、約70%のアガロースと約30%のアガロペクチンを含んでおり、寒天から公知の方法で精製を行うことによりアガロースを調製することができる。
【0017】
寒天又はアガロースは、化学的、物理的及び/又は酵素的方法で部分分解することにより低分子化することができる。本発明においては、低分子化された寒天、低分子化されたアガロースを使用しても良い。寒天又はアガロースの化学的分解方法の例としては酸性領域での加水分解、物理的分解方法の例としては電磁波や超音波の照射による細断・分解、酵素的分解方法の例としてはアガラーゼ等の加水分解酵素による加水分解が挙げられる。低分子化寒天は、例えば伊那食品工業株式会社より「ウルトラ寒天」の名称で市販されている。ウルトラ寒天は、1.5%溶液を調製した場合のゼリー強度が約30〜200g/cmという低いゼリー強度を示す。
【0018】
アガロオリゴ糖は、3,6−アンハイドロガラクトピラノースを還元末端に有する、構成単位であるD−ガラクトシル−(β1→4)−3,6−アンヒドロ−α−ガラクトース(=アガロビオース)がα1、3結合で結合したオリゴ糖である。アガロオリゴ糖としては、アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、アガロオクタオース、及びアガロデカオースが例示される。本発明においては、1種のアガロオリゴ糖を単独で用いても良いし、2種以上のアガロオリゴ糖の混合物を用いても良い。アガロオリゴ糖は、公知の製法により製造されるものを使用することができ、特に限定はないが、例えば、国際公開第00/69285号パンフレットに記載の製法により製造することができる。すなわち、原料寒天を固体酸により酸分解することで得られる、アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、及びアガロオクタオースを含有するアガロオリゴ糖の混合物を本発明に使用することができる。なお、このように原料として寒天を用いて調製されたアガロオリゴ糖は、寒天オリゴ糖と呼ばれることもある。アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、及びアガロオクタオースを含有するアガロオリゴ糖の混合物としては、市販のもの〔製品名:アガオリゴ(登録商標)、タカラバイオ社製〕を使用することもできる。
【0019】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤としては、本発明を特に限定するものではないが、マトリックスメタロプロテアーゼ及び/又はADAMTSの産生抑制剤が例示され、更にはマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、マトリックスメタロプロテアーゼ−13(MMP−13)、ADAMTS−4、及びADAMTS−5からなる群より選択された少なくとも1種のメタロプロテアーゼの産生抑制剤が例示される。
【0020】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤のメタロプロテアーゼ産生抑制作用は、例えば後述の実施例1、実施例2、実施例3又は実施例4の方法に従って確認することができる。ヒト由来インターロイキン−1β(human IL−1β)は、ヒト由来細胞のメタロプロテアーゼの産生を誘導することが知られている。実施例1、4の方法では、培地中に本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を添加して培養したヒト由来細胞にIL−1βを作用させた後、メタロ−プロテアーゼのmRNAの発現量を調べ、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を培地に添加せずにIL−1βを作用させたヒト由来細胞におけるメタロプロテアーゼのmRNAの発現量と比較することにより、メタロプロテアーゼ産生抑制作用を確認している。また、実施例2、3の方法では、培地中に本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を添加して培養したヒト由来細胞にIL−1βを作用させた後、培養上清中のメタロプロテアーゼ量を調べ、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を培地に添加せずにIL−1βを作用させたヒト由来細胞の培養上清中のメタロプロテアーゼ量と比較することにより、メタロプロテアーゼ産生抑制作用を確認している。
【0021】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、薬学的に許容できる液状又は固体状の担体と配合することにより製造でき、所望により溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤とすることができる。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品とすることもできる。
【0022】
担体は、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤の投与形態及び剤型に応じて選択することができる。固体組成物とする場合は、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等とすることができ、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが担体として利用される。また経口摂取用の個体組成物の調製に当っては、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合することもできる。例えば、錠剤又は丸剤とする場合は、所望によりショ糖、ゼラチン、ハイドロキシプロピルセルロースなどの糖衣又は胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆しても良い。液体組成物からなる経口剤とする場合は、薬理学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などとすることができ、例えば、精製水、エタノールなどが担体として利用される。また、更に所望により湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤などを添加しても良い。
【0023】
以上の各種組成物は、それぞれ公知の医薬/食品/化粧品用担体などを利用して、適宜、常法により製造することができる。また、かかる製剤における寒天、アガロース及び/又はアガロオリゴ糖の含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、好ましくは後述の投与量範囲で寒天、アガロース及び/又はアガロオリゴ糖を投与できるような量であれば特に限定されるものではない。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤中の寒天、アガロース及び/又はアガロオリゴ糖の含有量としては、乾燥重量で0.1〜100重量%程度である。
【0024】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤の摂取量・使用量は、その製剤形態、投与方法、使用目的及びこれに適用される患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され、一定ではないが、一般には製剤中に含有される有効成分の量が成人1日当り10μg〜200mg/kgである。もちろん、投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤はそのまま経口摂取するほか、任意の飲食品又は化粧品に添加して日常的に摂取・使用することもできる。すなわち、本願発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む飲食品、化粧品は、本発明の一態様である。
【0025】
本発明に使用する寒天、アガロース及びアガロオリゴ糖は、1g/kgの投与量でマウスに経口投与しても急性毒性は認められない。
【0026】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、その優れたメタロプロテアーゼ産生抑制作用により、ガンの浸潤やガンの転移を抑制する。すなわち、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含むガンの浸潤及び/又はガンの転移抑制用の医薬組成物は、本発明の好適な態様の一つである。
【0027】
本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、その優れたメタロプロテアーゼ産生抑制作用により、皮膚や骨の老化を防止することができる。
【0028】
細胞外マトリックスの損傷、特に皮膚基底膜等の損傷は、皮膚の老化の原因となることが知られている。MMPのうち、コラゲナーゼ群に属するMMP−1やMMP−13は、皮膚真皮マトリックスの主な構成成分であるタイプI、IIIコラーゲンを分解する酵素として知られている。また、ストロメライシン群に属するMMP−3は、皮膚基底膜成分であるプロテオグリカン、タイプIVコラーゲン、ラミニン等を分解する酵素として知られている。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、これらのメタロプロテアーゼの産生を抑制することができるため、皮膚の老化の原因となる細胞外マトリックスの損傷を抑制することができる。すなわち、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む皮膚の老化防止用組成物は、本発明の好適な態様の一つである。
【0029】
一方、骨では、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とが絶えず繰り返されているが、加齢やホルモンバランスの変化等により骨代謝のバランスが崩れて破骨細胞による骨吸収が優位となって骨量の減少、すなわち骨の老化を招くことが知られている。骨基質の大部分はコラーゲンからなるため、コラーゲン分解は骨吸収の際の重要な要素である。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、各種コラーゲンを分解するMMPの産生を抑制することができる。また、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、軟骨の細胞外マトリックスの主要成分の1つであるアグリカンを分解するADAMTS−4やADAMTS−5の産生を抑制することができる。このため、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、骨の老化を抑制することができる。すなわち、本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む骨の老化防止用組成物は、本発明の好適な態様の一つである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例をもって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1 アガロオリゴ糖によるMMPのmRNA発現の抑制
正常ヒト膝関節軟骨細胞(Lonza社製)を軟骨細胞専用培地(Lonza社製)に1×10個/mLになるように懸濁し、得られた懸濁液を96穴プレートの各ウェルに0.2mLずつ加えて5% 炭酸ガス存在下、37℃で4日間培養した。次に、10% ウシ胎児血清、1% Penicillin−Streptomycin含有、ダルベッコ改良イーグル培地(シグマ社製、D5796)、及び当該培地に濃度が25、50、あるいは100μg/mLとなるようにアガロオリゴ糖〔アガオリゴ(登録商標)、タカラバイオ社製〕を溶解させた培地を調製し、前記培養物の培地と交換した。アガロオリゴ糖濃度がそれぞれ異なる培地に培地交換された細胞について、5% 炭酸ガス存在下、37℃で24時間培養した。続いて、各ウェルに0.1μg/mL human IL−1β(genzyme社製)を10μLずつ添加し、更に5% 炭酸ガス存在下、37℃で4時間培養した。なお、陰性対照として、IL−1βを添加しない区分を設定した。培養終了後、各ウェルの細胞より、CellAmp(登録商標) Direct RNA Prep Kit for RT−PCR(Real Time)(タカラバイオ社製)及びPrimeScript(登録商標) RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いてcDNA溶液を調製した。
【0032】
リアルタイムPCRは、SYBR(登録商標) RT−PCR Kit(タカラバイオ社製)を用いて行った。リアルタイムPCRは、human MMP−1、MMP−3、MMP−13遺伝子に特異的なプライマー対と、対照としてhuman GAPDH遺伝子に特異的なプライマー対を用いた。human MMP−1遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:3及び配列番号:4に、human MMP−3遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:5及び配列番号:6に、human MMP−13遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:7及び配列番号:8に、human GAPDH遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:1及び配列番号:2に示す。測定は、Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System(タカラバイオ社製)を用いて行った。測定は、全て3連で行った。なお、各mRNAの発現量は、陰性対照区分のmRNA発現量に対する相対量として下記の式により算出した。
【0033】
【数1】

【0034】
この結果を以下の表1及び図1〜3に示す。すなわち、表1及び図1〜3はアガロオリゴ糖を添加した細胞におけるMMPのmRNA発現の量比を示すものであり、アガロオリゴ糖に顕著なMMPのmRNA発現の抑制活性が認められた。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例2 アガロオリゴ糖によるMMP−3の産生抑制
正常ヒト膝関節軟骨細胞を軟骨細胞専用培地に8×10個/mLになるように懸濁し、12穴プレートの各ウェルに2mLずつ加えて5% 炭酸ガス存在下、37℃で2日間培養した。次に、10%ウシ胎児血清、1% Penicillin−Streptomycin含有、ダルベッコ改良イーグル培地、及び当該培地に濃度が25、50、あるいは100μg/mLとなるようにアガロオリゴ糖〔アガオリゴ(登録商標)、タカラバイオ社製〕を溶解させた培地を調製し、当該培地を1ウェルあたり1mL用いて前記培養物の培地交換を行った。アガロオリゴ糖濃度がそれぞれ異なる培地に培地交換された細胞について、5% 炭酸ガス存在下、37℃で4時間培養した。続いて、各ウェルに1μg/mL human IL−1βを5μLずつ添加し、更に5% 炭酸ガス存在下、37℃で12時間培養した。なお、陰性対照として、IL−1βを添加しない区分を設定した。培養終了後、培養上清を回収し、培養上清中のMMP−3量をQuantikine(登録商標)Human MMP−3 Immunoassay(R&D system社製)を用いて測定した。
【0037】
この結果を以下の表2に示す。すなわち、表2はアガロオリゴ糖を添加した細胞におけるMMP−3産生量を示すものであり、アガロオリゴ糖に顕著なMMP−3産生抑制活性が認められた。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例3 アガロオリゴ糖によるMMP−1、MMP−13の産生抑制
正常ヒト膝関節軟骨細胞を軟骨細胞専用培地に1×10個/mLになるように懸濁し、48穴プレートの各ウェルに0.5mLずつ加えて5% 炭酸ガス存在下、37℃で3日間培養した。次に、10%ウシ胎児血清、1% Penicillin−Streptomycin含有、ダルベッコ改良イーグル培地、及び当該培地に濃度が12.5、25、50、100あるいは150μg/mlとなるようにアガロオリゴ糖〔アガオリゴ(登録商標)、タカラバイオ社製〕を溶解させた培地を調製し、当該培地1ウェルあたり0.5mLを前記培養物の培地交換に使用した。アガロオリゴ糖濃度がそれぞれ異なる培地に交換された懸濁液について、5% 炭酸ガス存在下、37℃で24時間培養した。続いて、各ウェルに0.1μg/ml human IL−1βを25μLずつ添加し、更に5% 炭酸ガス存在下、37℃で8時間培養した。なお、陰性対照として、IL−1βを添加しない区分を設定した。培養終了後、培養上清を回収し、培養上清中のpro−MMP−1量をQuantikine(登録商標)Human pro−MMP−1 Immunoassay(R&D system社製)を用いて測定し、MMP−13量をHuman MMP−13 ELISA Kit(Ray Biotech社製)を用いて測定した。
【0040】
この結果を以下の表3に示す。すなわち、表3はアガロオリゴ糖を添加した細胞におけるMMP−1及びMMP−13の産生量を示すものであり、アガロオリゴ糖に顕著なMMP−1及びMMP−13の産生抑制活性が認められた。
【0041】
【表3】

【0042】
実施例4 アガロオリゴ糖によるアグリカナーゼのmRNA発現の抑制
human MMP−1、MMP−3、MMP−13遺伝子に特異的なプライマー対の代わりにhuman ADAMTS−4及びADAMTS−5遺伝子に特異的なプライマー対を用いた以外は実施例1と同様の方法で、正常ヒト膝関節軟骨細胞におけるアガロオリゴ糖のIL−β誘導性ADAMTS mRNA発現抑制活性を調べた。human ADAMTS−4に特異的なプライマー対の配列を配列番号:9及び配列番号10に、human ADAMTS−5特異的なプライマー対の配列を配列番号:11及び配列番号12に示す。測定は、全て3連で行った。なお、各mRNA発現量は、陰性対照区分のmRNA発現量に対する相対量として以下の式により算出した。
【0043】
【数2】

【0044】
この結果を以下の表4及び図4〜5に示す。すなわち、表4及び図4〜5はアガロオリゴ糖を添加した細胞におけるADAMTSのmRNA発現の量比を示すものであり、アガロオリゴ糖に顕著なADAMTSのmRNA発現の抑制活性が認められた。
【0045】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、メタロプロテアーゼ産生抑制剤、当該剤を含む医薬組成物、並びに前記剤を含む皮膚及び/又は骨の老化防止用組成物が提供される。本発明のメタロプロテアーゼ産生抑制剤は、優れたメタロプロテアーゼ産生抑制作用を示すため、医薬分野において特に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0047】
SEQ ID NO:1 ; A PCR primer specific to GAPDH gene.
SEQ ID NO:2 ; A PCR primer specific to GAPDH gene.
SEQ ID NO:3 ; A PCR primer specific to MMP-1 gene.
SEQ ID NO:4 ; A PCR primer specific to MMP-1 gene.
SEQ ID NO:5 ; A PCR primer specific to MMP-3 gene.
SEQ ID NO:6 ; A PCR primer specific to MMP-3 gene.
SEQ ID NO:7 ; A PCR primer specific to MMP-13 gene.
SEQ ID NO:8 ; A PCR primer specific to MMP-13 gene.
SEQ ID NO:9 ; A PCR primer specific to ADAMTS-4 gene.
SEQ ID NO:10 ; A PCR primer specific to ADAMTS-4 gene.
SEQ ID NO:11 ; A PCR primer specific to ADAMTS-5 gene.
SEQ ID NO:12 ; A PCR primer specific to ADAMTS-5 gene.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、アガロース、及びアガロオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むメタロプロテアーゼ産生抑制剤。
【請求項2】
寒天が低分子化された寒天である請求項1に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤。
【請求項3】
アガロオリゴ糖が、アガロビオース、アガロテトラオース、アガロヘキサオース、アガロオクタオース、及びアガロデカオースからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤。
【請求項4】
マトリックスメタロプロテアーゼ及び/又はADAMTSの産生抑制剤である請求項1に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤。
【請求項5】
マトリックスメタロプロテアーゼ−1、マトリックスメタロプロテアーゼ−3、マトリックスメタロプロテアーゼ−13、ADAMTS−4、及びADAMTS−5からなる群より選択された少なくとも1種のメタロプロテアーゼの産生抑制剤である請求項4に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む、ガンの浸潤及び/又はガンの転移抑制用の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタロプロテアーゼ産生抑制剤を含む、皮膚及び/又は骨の老化防止用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213707(P2011−213707A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224569(P2010−224569)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】