説明

メタンの製造方法

【課題】温室効果ガスの一つである二酸化炭素を利用し、一つの工程で、燃料ガスとして有用なメタンを生成できるメタンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属水素化物と二酸化炭素とを反応させることで、メタンを発生させる。金属水素化物と二酸化炭素とを反応させることにより、一つの工程でメタンを製造することができる。燃料ガスとして有用なメタンを製造できるとともに、二酸化炭素を原料としており、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の削減をも実現している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属水素化物及び二酸化炭素を用いたメタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は温室効果ガスの一つとして、地球温暖化の主要因と考えられている。このため、地球規模で二酸化炭素の排出量の削減や、排出された二酸化炭素の固定化が推進されている。更に、二酸化炭素の固定化においては、二酸化炭素をできるだけ有用な物質へと転換して、有効利用することが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1では、フェライト系鉄酸化物結晶中の酸素を取り除いて得られる活性化フェライト系鉄酸化物を用いて二酸化炭素を分解する工程と、二酸化炭素を分解する工程で利用した活性化フェライト系鉄酸化物に水素を接触させてメタンを生成する工程とによる方法により、二酸化炭素からメタンを製造する技術が開示されている。活性化フェライト系鉄酸化物の酸素不足部位に二酸化炭素を構成する炭素が吸着され、これに水素を接触させることでメタンを生成させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−110731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、二酸化炭素を分解する工程と、メタンを生成する工程の二つの工程を必要としており、これらの工程を交互に繰り返し行うため、簡便にメタンを生成することができない。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、温室効果ガスの一つである二酸化炭素から、一つの工程で、燃料ガスとして有用なメタンを生成できるメタンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメタンの製造方法は、金属水素化物と二酸化炭素とを反応させてメタンを生成することを特徴とする。
【0008】
また、前記金属水素化物として、水素化リチウム、水素化ナトリウム、及び、水素化カリウムから選択される1種以上を用いることが望ましい。
【0009】
また、前記金属水素化物の表面を活性化させながら行うことが望ましい。
【0010】
また、メカノケミカル処理により前記金属水素化物の表面を活性化させてもよい。
【0011】
また、加熱により前記金属水素化物の表面を活性化させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るメタンの製造方法によると、金属水素化物と二酸化炭素とを反応させることにより、一つの工程でメタンが生成する。この製造方法により得られたメタンは、種々の有機化合物合成の出発原料として用いることができる。更に、燃料ガスとして有用なメタンを製造でき、これは、二酸化炭素を原料としていることから、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の削減をも実現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例に用いた装置の概略構成図である。
【図2】実施例1におけるFT−IRスペクトルである。
【図3】実施例1における生成ガスの分圧比である。
【図4】実施例2におけるFT−IRスペクトルである。
【図5】実施例3において生成したメタンと水素の分圧比である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本実施の形態に係るメタンの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
金属水素化物と二酸化炭素とを反応させる。下記反応式(A)に示すように、メタンと対応する金属酸化物が生成する。
4MH+CO→2MO+CH …(A)
なお、式中のMは一価の軽金属元素を示す。具体的な軽金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が挙げられる。
【0016】
このように、一つの工程で、容易に種々の有機化合物合成の出発原料となるメタンを生成することができるとともに、二酸化炭素を原料としているので、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の削減をも実現できる。
【0017】
金属水素化物として、種々の金属水素化物を使用できるが、特に、一価の軽金属元素の水素化物である水素化リチウム(LiH)、水素化ナトリウム(NaH)、水素化カリウム(KH)を好適に用いることができる。
【0018】
金属水素化物と二酸化炭素との反応は、固体−気体反応なので、金属水素化物表面で起こり、金属水素化物内部では反応が起こらない。このため、金属水素化物を微粉砕等し、出来るだけ粒径を小さくして用いるとよい。相対的に金属水素化物の表面積が大きくなるので、反応効率が高まる。
【0019】
また、金属水素化物の表面は、反応によって生成した酸化物によって覆われることになり、それ以上反応が進行しなくなってしまう。このため、金属水素化物の表面を活性化させながら、二酸化炭素と反応させるとよい。
【0020】
金属水素化物の表面を活性化する手法については特に限定されないが、例えば、メカノケミカル処理を利用することで、金属水素化物の表面に常時活性な部分を露出させることができる。用いるミルとして、遊星式、転動式、振動式のボールミルや、ロッキングミル、ビーズミル、タワーミル等、種々のミルを用いることができる。
【0021】
上記のようなミルを用いて金属水素化物と二酸化炭素とを反応させることで、衝撃力や剪断力等の外部応力が金属水素化物に供給され、逐次金属水素化物の表面が削られる。そして、金属水素化物内部の活性な部分が逐次表面に露出するので、二酸化炭素との反応効率が高まる。
【0022】
或いは、金属水素化物を加熱しながら行ってもよい。加熱により、金属水素化物の表面を活性化させることができ、二酸化炭素との反応が速やかに進行する。金属水素化物を活性化させるための加熱温度は200℃以上にすることが好ましい。また、加熱温度は500℃以下にすることが好ましい。500℃以上だと、生成したメタンが分解するためである。
【0023】
二酸化炭素の圧力は、少なくとも0.1MPa以上にして行うとよい。これよりも二酸化炭素の圧力が低い場合、金属水素化物に接触する二酸化炭素の分子数が少なく、反応速度が低下してしまうからである。また、二酸化炭素の圧力の上限について制限はなく、高いほどよいが、用いる反応容器等の耐圧による。
【0024】
また、金属水素化物と二酸化炭素との反応では、副反応として、下記反応式(B)に示す反応が生じてしまい、メタンの生成率が低下する恐れがある。
2MH+2CO→MCO+H+CO …(B)
なお、式中のMは一価の軽金属元素であり、具体的には、Li、Na、Kのいずれかを示している。
【0025】
このような場合、二酸化炭素の圧力を高めて行うと、上記副反応が起こる割合を低下させることができ、メタンの生成率を高めることができる。
【実施例1】
【0026】
図1に示す装置を用い、水素化リチウムと二酸化炭素とを反応させ、メタンを製造した。まず、グローブボックス内で、反応容器11(30ml)に水素化リチウム(Aldrich社製:純度99.95%)を300mg入れて密閉した。その後、グローブボックスから反応容器11を取り出し、図1に示すように配置した後、バルブ13、15を開放して反応容器11内を真空引きした。
【0027】
バルブ13を閉じた後、バルブ14、15を開放し、リザーブタンク12に充填しておいた二酸化炭素を反応容器11内に導入してバルブ14、15を閉じ、反応容器11内を閉鎖系にした。なお、二酸化炭素の導入は、圧力計17で監視しながら行い、反応容器11内の圧力(導入した二酸化炭素の圧力)が1MPaになるように行った。
【0028】
反応容器11に振動型ミリング装置(セイワ技研社製、型番:RM−10)をセットし、常温で所定時間メカノケミカル処理しながら、反応容器11内の水素化リチウムと二酸化炭素とを反応させた。
【0029】
なお、同様の3つのサンプルについて、処理時間を15分間、1時間、8時間と変えて反応を行った。それぞれの条件については表1に示す通りである。
【表1】

【0030】
それぞれのサンプルについて、処理終了後、バルブ16を開放して、反応容器11内のガスをガスクロマトグラフ分析及びFT−IR分析を行った。
【0031】
図2は、サンプル3の反応後における反応容器11内のガスのFT−IRスペクトルである。なお、FT−IRスペクトルは、Perkin−Elmer Spectrum Oneを用いて得た。3000cm−1、及び、1300cm−1付近にCH(メタン)を表すピークが確認できる。これにより、水素化リチウムと二酸化炭素とを反応させることで、メタンが生成することを確認した。
【0032】
また、図3に、ガスクロマトグラフ分析によって得られた、反応容器11内のガス成分であるメタン、水素、二酸化炭素のそれぞれの分圧と全圧との比を示す。横軸が処理時間、縦軸が反応容器11内の全圧に対するそれぞれのガスの分圧の比(%)を示している。
【0033】
いずれのサンプルにおいても、メタンが生成していることがわかる。反応容器11内では、上記の反応式(A)及び(B)に示した反応のみが生じているものとすれば、反応前と反応後の全圧は変わらないので、サンプル1〜3におけるメタンの収率は、12〜17%程度であり、処理時間を長くすることにより、若干メタンの収率が高まっていることがわかる。
【実施例2】
【0034】
水素化ナトリウムと二酸化炭素とを反応させ、メタンを製造した。実験条件を表2に示す。実験手法等については、実施例1と同様であるので省略する。
【表2】

【0035】
図4は、サンプル4の反応後における反応容器11内のガスのFT−IRスペクトルである。3000cm−1、及び、1300cm−1付近に小さいながらもCH(メタン)を現すピークを確認できる。これにより、水素化ナトリウムと二酸化炭素を反応させることでも、メタンを製造できることを確認した。
【実施例3】
【0036】
続いて、反応容器11内に充填する二酸化炭素の圧力を変えて、水素化ナトリウムと二酸化炭素とを反応させてメタンを製造した。実験条件を表3に示す。実験手法等については、実施例1と同様であるので省略する。
【表3】

【0037】
処理終了後、それぞれのサンプルにおける反応容器11内のガスについてガスクロマトグラフ分析を行い、その分析結果から、反応容器11内に生成したメタンと水素の分圧比を算出した。その結果を図5に示す。
【0038】
反応容器11内に充填した二酸化炭素の圧力が増加するにしたがって、メタンの生成比率が顕著に高くなっていることがわかる。サンプル5、及び、サンプル6では、メタンの分圧は水素の分圧よりも小さいものの、二酸化炭素の圧力を5MPaとしたサンプル7では、メタンの分圧が水素の分圧の凡そ8倍となっており、水素が発生する副反応(上述の反応式(B)に示した反応)が抑えられていることがわかる。したがって、二酸化炭素の圧力を高めて処理を行うことにより、メタンの収率を高めることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
燃料ガスと有用なメタンを製造することができるので、燃料製造技術として利用可能であるとともに、二酸化炭素を原料としていることから、地球温暖化の要因である二酸化炭素の固定化技術としても利用可能である。
【0040】
そして、製造したメタンは、燃料等として使用することができ、メタンの使用により排出される二酸化炭素を再度金属水素化物と反応させて、メタンを製造することができる。また、反応に用いた金属水素化物は酸化金属となるが、酸化金属を再度金属水素化物に再生させて再利用することができる。メタンは容易に液化できるので、例えば、A国でメタンを製造してB国にメタンを運搬し、B国で燃料として使用し、ここで排出された二酸化炭素を所望の方法で固定化してA国に運搬した後、再度A国でメタンを製造するといったことも可能である。このように循環させることで、エネルギー循環型社会の推進にも寄与することとなる。
【符号の説明】
【0041】
11 反応容器
12 リザーブタンク
13 バルブ
14 バルブ
15 バルブ
16 バルブ
17 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水素化物と二酸化炭素とを反応させてメタンを生成することを特徴とするメタンの製造方法。
【請求項2】
前記金属水素化物として、水素化リチウム、水素化ナトリウム、及び、水素化カリウムから選択される1種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のメタンの製造方法。
【請求項3】
前記金属水素化物の表面を活性化させながら行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のメタンの製造方法。
【請求項4】
メカノケミカル処理により前記金属水素化物の表面を活性化させることを特徴とする請求項3に記載のメタンの製造方法。
【請求項5】
加熱により前記金属水素化物の表面を活性化させることを特徴とする請求項3に記載のメタンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280574(P2010−280574A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132997(P2009−132997)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】