説明

メタンの酸化除去用触媒およびメタンの酸化除去方法

【課題】メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンの酸化除去において、低い温度でも高いメタン分解能を発揮する触媒、ならびに、この触媒を用いた被処理ガス中のメタンの酸化除去方法を提供する。
【解決手段】メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、酸化チタンまたは酸化スズからなる担体に白金、イリジウムおよびレニウムを担持してなる触媒;ならびに、メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去する方法であって、該被処理ガスを300〜450℃の温度で、前記触媒に接触させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンの酸化除去用触媒および酸化除去方法に関する。
【0002】
本明細書において、「過剰の酸素を含む」とは、本発明の触媒に接触させる被処理ガスが、そこに含まれる炭化水素、一酸化炭素などの還元性成分を完全に酸化するのに必要な量以上に、酸素、窒素酸化物などの酸化性成分を含んでいることを意味する。
【背景技術】
【0003】
炭化水素の酸化除去触媒として、白金、パラジウムなどの白金族金属を担持した触媒が高い性能を示すことが知られている。例えば、アルミナ担体に白金とパラジウムとを担持した排ガス浄化用触媒が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような触媒を用いても、メタン発酵ガスや天然ガスの燃焼排ガスのように、含まれる炭化水素の主成分がメタンである場合には、メタンが高い化学的安定性を有するために、十分なメタン除去が達成されないという問題がある。
【0004】
さらに、被処理ガスが燃焼排ガスである場合には、燃料中に含まれている硫黄化合物に由来する硫黄酸化物(SOx)などの反応阻害物質が必然的に含まれているので、触媒表面に反応阻害物質が析出することにより、触媒活性が経時的に著しく低下することは避けがたい。
【0005】
例えば、ランパートら(Lampert et al.)は、パラジウム触媒を用いてメタン酸化を行った場合に、わずかに0.1ppmの二酸化硫黄が存在するだけで、数時間内にその触媒活性がほとんど失われることを示して、硫黄酸化物の存在が触媒活性に著しい悪影響を与えることを明らかにしている(非特許文献1参照)。
【0006】
過剰量の酸素が存在する排ガスに含まれる低濃度炭化水素の酸化用触媒として、ハニカム基材上にアルミナ担体を介して7g/l以上のパラジウムおよび3〜20g/lの白金を担持した触媒も開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、この触媒を用いても、長期にわたる耐久性は十分ではなく、硫黄酸化物が共存する条件下では、触媒活性の経時的な劣化が避けられない。
【0007】
また、近年では地球温暖化問題が強く認識されるようになり、炭鉱換気ガスのように、希薄(0.1〜1%程度)なメタンを含有するガスが大量に放散されている点が問題視され、その経済的な処理も課題となっている。ここでも、メタンを接触酸化により除去するにあたって、可能な限り低温で処理できる高活性な触媒が求められている。炭鉱換気ガスには、メタン以外にも、石炭の成分に由来する硫黄化合物(硫化水素、メルカプタン、二酸化硫黄)などが含まれる場合があり、硫化水素やメルカプタンなどは触媒上で酸化されて硫黄酸化物に変化するため、燃焼排ガスの場合と同様の被毒による活性低下が起こる。
【0008】
従って、従来技術の大きな問題点は、メタンに対して高い除去率が得られないこと、さらに硫黄化合物が共存する条件下では除去率が大きく低下することである。
【0009】
このような実状に鑑みて、酸化ジルコニウム担体にパラジウムまたはパラジウムと白金とを担持させた触媒が、硫黄酸化物共存下でも高いメタン酸化活性を維持し続けることが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、この触媒は、特に約400℃以下の低温域でのメタン酸化活性が低いため、低温で十分な性能を確保するには多量の触媒を必要とする。
【0010】
また、酸化チタン担体に白金とパラジウムとを担持させてなる排ガス中の未燃炭化水素酸化触媒も提案されている(特許文献4参照)が、この触媒も、特に約400℃以下の低温域ではメタン酸化活性が十分ではない。
【0011】
メタンの酸化には、パラジウムが有効であるというのが定説であった(非特許文献2、非特許文献3参照)のに対し、パラジウムを含まず、白金のみを酸化スズからなる担体に担持した触媒が、燃焼排ガス中のメタンの酸化除去に活性を示すことが示されている文献もある(特許文献5参照)。しかしながら、この触媒でも400℃以下でのメタン除去性能は十分とは言えない上に、高価な白金を多量に必要とする点も実用上の課題となる。
【0012】
メタンを含有し酸素を過剰に含む燃焼排ガス中の炭化水素の浄化用触媒であって、酸化ジルコニウムに、白金、パラジウム、ロジウムおよびルテニウムからなる群より選択される少なくとも1種ならびにイリジウムを担持してなり、比表面積が2〜60m2/gである触媒が、硫黄酸化物共存下で、400℃程度という低い温度であっても高いメタン酸化活性を維持し続けることも開示されている(特許文献6参照)。しかしながら、この触媒は、非常に希少な貴金属であるイリジウムを比較的多量に必要とする点が実用上の課題となる。
【0013】
また、酸化スズに白金を担持した触媒に助触媒としてイリジウムを担持させてなる、硫黄酸化物を含む燃焼排ガス中のメタンを低温域で酸化除去する触媒も提案されている(特許文献7参照)が、この触媒も400℃以下でのメタン除去性能は十分とは言えない。
【0014】
メタン、硫黄酸化物および過剰の酸素を含む燃焼排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、酸化チタン担体に白金およびイリジウムを担持してなる触媒(特許文献8参照)も提案されている。この触媒は、低温でも高いメタン酸化活性を示し、硫黄化合物の共存による活性低下も小さいが、さらなる性能向上が求められている。そのため、アンチモンやニオブの添加(特許文献9参照)も提案されているが、アンチモンやニオブの取り扱いには困難な点があり、実用的には課題が残る。
【0015】
また、ガス燃料の燃焼排ガス中に含まれるNOx成分を分解除去させるために、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタンの1種または複数種からなる多孔状の担体に、イリジウム、白金、ロジウムの1種または複数種を担持させたNOx除去用触媒が提案されている(特許文献10参照)。しかしながら、この文献は、NOx除去性能を示すのみで、炭化水素の除去率については、一切教示しておらず、炭化水素の中で最も難分解性のメタンを酸化分解できるかどうかについては、何ら示唆もしていない。
【0016】
また、クエン酸を使用する特定の方法により、活性アルミナなどの無機質担体に白金およびロジウムの少なくとも1種とイリジウムおよびルテニウムの少なくとも1種とを併せて担持させた排気ガス浄化用触媒を製造する方法が開示されている(特許文献11参照)。この文献によれば、イリジウムおよび/またはルテニウムが、白金および/またはロジウムと融点の高い固溶体を形成するので、得られた触媒の耐熱性が向上するとされている。しかしながら、この文献は、得られた触媒のNOx転化率が改善されたことを示すのみで、排気ガスに含まれる炭化水素の中でも特に難分解性のメタンの酸化分解については、一切教示していない。
【0017】
アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの多様な担体にイリジウムを担持してなる、リーンバーンエンジン排気ガスの脱硝触媒が提案されている(特許文献12参照)。しかしながら、この文献も、排気ガス中に存在する種々の炭化水素類中でもメタンが特に難分解性であることについての認識を示していない。従って、メタンをどのようにすれば、効率良く酸化分解できるかなどについては、一切明らかにしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭51-106691号公報
【特許文献2】特開平8-332392号公報
【特許文献3】特開平11-319559号公報
【特許文献4】特開2000-254500号公報
【特許文献5】特開2004-351236号公報
【特許文献6】国際公開公報WO2002/040152
【特許文献7】特開2006-272079号公報
【特許文献8】特開2008-246473号公報
【特許文献9】特開2009-262131号公報
【特許文献10】特開平3-293035号公報
【特許文献11】特開平3-98644号公報
【特許文献12】特開平7-80315号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】アプライド キャタリシス B:エンバイロンメンタル(Applied Catalysis B: Environmental),第14巻,1997年,p.211-223
【非特許文献2】インダストリアル アンド エンジニアリング ケミストリー(Industrial and Engineering Chemistry),第53巻、1961年,p.809-812
【非特許文献3】インダストリアル アンド エンジニアリング ケミストリー プロダクト リサーチ アンド ディベロップメント(Industrial and Engineering Chemistry Product Research and Development),第19巻,1980年,p.293-298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンの酸化除去において、低い温度(特に400℃以下)でも高いメタン分解能を発揮する触媒、ならびに、この触媒を用いた被処理ガス中のメタンの酸化除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、下記に示すとおりの被処理ガス中のメタンを酸化除去するための触媒および被処理ガス中のメタンの酸化除去方法を提供するものである。
項1.メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、酸化チタン担体または酸化スズ担体に白金、イリジウムおよびレニウムを担持してなる触媒。
項2.メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去する方法であって、該被処理ガスを300〜450℃の温度で、前記項1に記載の触媒に接触させる方法。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の触媒は、被処理ガス中のメタンの酸化除去用触媒であって、担体としての酸化チタンまたは酸化スズに、触媒活性成分としての白金およびイリジウムとともに、レニウムを担持してなることを特徴とする。
【0024】
担体である酸化チタンまたは酸化スズの表面積は、触媒活性成分をより高分散に保ち、且つ、担体の熱安定性をより十分にして触媒の使用中に担体自体の焼結をより進行させ難くするために適切に調整することが好ましい。
【0025】
酸化チタンの比表面積(本明細書においては、BET法による比表面積を言う)は、通常2〜90m2/g程度であり、好ましくは5〜80m2/g程度である。最も好ましい範囲は30〜50m2/g程度であるが、10〜30m2/g程度に小さくしてもよい。酸化チタンの結晶形はアナターゼ型が好ましいが、質量基準で25%以下のルチル型を含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。このような酸化チタンは、市販の触媒担体用酸化チタンをそのまま用いてもよいし、あるいは空気などの酸化雰囲気下において500℃〜800℃で焼成したものを用いてもよい。
【0026】
酸化スズの比表面積は、通常2〜90m2/g程度であり、好ましくは5〜80m2/g程度である。最も好ましい範囲は10〜50m2/g程度であるが、10〜30m2/g程度にしても一向に構わない。酸化スズの結晶形はルチル型が好ましいが、その他の結晶相を質量基準で10%以下含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。このような酸化スズは、市販の高表面積酸化スズをそのまま用いてもよいし、あるいは空気などの酸化雰囲気下において500℃〜800℃で焼成したものを用いてもよい。
【0027】
触媒担体には、コージェライト等の支持体への付着性や焼結性の改善のため、アルミナ、シリカなどの酸化チタンまたは酸化スズ以外の微量の成分を含んでいても良いが、これらの成分は質量基準で2%を超えないことが望ましい。
【0028】
担体である酸化チタンまたは酸化スズに対する白金、イリジウムおよびレニウムの担持量は、粒径を調整して触媒活性成分をより有効に利用できるようにするとともに、触媒活性をより高くする観点から、適切に調整することが好ましい。
【0029】
白金の担持量は、担体に対する質量比で0.5〜20%程度であるのが好ましく、0.5〜5%程度であるのがより好ましい。イリジウムの担持量は、担体に対する質量比で0.5〜20%程度であるのが好ましく、0.5〜5%程度であるのがより好ましい。白金とイリジウムの担持量の比率は、Ir/Ptの質量比で0.3〜5程度であるのが好ましく、0.3〜2程度であるのがより好ましいが、質量比を1〜2程度としても一向に構わない。レニウムの担持量は、担体に対する質量比で0.1〜10%程度であるのが好ましく、0.2〜2%程度であるのがより好ましい。白金とレニウムの担持量の比率は、Re/Ptの質量比で0.1〜2程度であるのが好ましく、0.2〜0.5程度であるのがより好ましい。
【0030】
本発明の触媒は、例えば、白金化合物、イリジウム化合物およびレニウム化合物の混合水溶液を、前記の酸化チタンまたは酸化スズ担体に含浸させ、乾燥し、焼成することにより得られる。
【0031】
含浸操作は、クロロ錯体、アンミン錯体、硝酸塩などの水溶性化合物を純水に溶解することにより調製した水溶液を用いて行っても良く、あるいはアセチルアセトナト錯体などの有機金属化合物をアセトンなどの有機溶媒に溶解した有機溶媒溶液を用いて行っても良い。
【0032】
水溶性化合物としては、塩化白金酸(ヘキサクロロ白金酸)、テトラアンミン白金硝酸塩、ジニトロジアンミン白金、ヘキサヒドロキソ白金酸、塩化イリジウム酸(ヘキサクロロイリジウム酸)、ヘキサアンミンイリジウム硝酸塩、硝酸イリジウム、塩化レニウム(III)、塩化レニウム(V)、過レニウム酸アンモニウムなどが例示される。なお、溶解度が低く、純水に溶解して所望の濃度が得られない場合は、溶解性を高めるために、希硝酸、希塩酸、アンモニア水などを添加しても良い。
【0033】
また、有機金属化合物としては、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム、ビス(アセチルアセトナト)白金などが例示される。
【0034】
白金、イリジウムおよびレニウムの担持は、必要に応じて逐次的に行っても良く、その場合において、それぞれの担持の間に、必要に応じて蒸発乾固または乾燥、焼成などの工程をはさんでも良い。この場合は、まずレニウムを酸化チタンまたは酸化スズ担体に担持した後に乾燥又は焼成を施し、その後さらに白金およびイリジウムを担持させることが好ましい。このように、白金、イリジウムおよびレニウムの担持を逐次的に行うことにより、低温(特に350℃以下)における触媒活性をより高くすることができる。
【0035】
含浸時間は、所定の担持量が確保される限り、特に制限されないが、通常1〜50時間程度、好ましくは3〜20時間程度である。
【0036】
次いで、所定の金属成分を担持させた酸化チタンまたは酸化スズを、必要に応じて蒸発乾固または乾燥させた後に、焼成することが好ましい。
【0037】
焼成は、空気の流通下に行えばよい。あるいは、空気または酸素と窒素などの不活性ガスとを適宜混合したガスなどの酸化性ガスの流通下において行っても良い。
【0038】
焼成温度は、担持された金属の粒成長を進ませずに活性をより高くするとともに、焼成を十分に行うことで触媒の使用中に担持された金属粒子が肥大化するのを防ぐことでより安定した活性を得られる観点から、適切に調整することが好ましい。従って、安定して高い触媒活性を得るためには、焼成温度は、450〜650℃程度とするのが好ましく、500〜600℃程度とするのがより好ましい。
【0039】
焼成時間は、特に制限されないが、通常1〜50時間程度であり、好ましくは3〜20時間程度である。
【0040】
本発明の触媒は、ペレット状、ハニカム状などの任意の形状に成形して用いても良く、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いてもよい。好ましくは、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いる。
【0041】
耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製した触媒をスラリー状にしてウオッシュコートしても良く、あるいは、あらかじめ酸化チタンまたは酸化スズを耐火性ハニカム上にウオッシュコートした後に、上記の含浸手法に従って活性成分を担持してもよい。いずれの場合にも、必要に応じて、バインダーを添加することができる。好ましい一例として、酸化チタンまたは酸化スズ担体にバインダー(例えば酸化チタンゾルまたは酸化スズゾル)と適量の水および必要に応じて増粘剤を添加してスラリーを調製し、これを耐火性ハニカム上にコートして、乾燥した後650〜750℃で焼成することで、耐火性ハニカム上に担体層を形成し、これに白金、イリジウムおよびレニウムを含浸担持する方法が挙げられる。
【0042】
本発明の触媒の比表面積は、通常2〜90m2/g程度であり、好ましくは10〜50m2/g程度である。比表面積は、10〜30m2/g程度としてもよい。触媒の比表面積をこの範囲とすることで、使用中に担体の焼結が進行を防いで触媒の耐久性をより維持するとともに、活性金属の分散を十分にしてより活性を高くすることができる。
【0043】
本発明のメタンの酸化除去方法が処理対象とするのは、メタンおよび過剰の酸素を含むガスであり、例えば、燃焼排ガス、炭鉱換気ガスや各種化学プロセスから放出されるガスである。被処理ガス中には、メタンの他に、エタン、プロパンなどの低級炭化水素や一酸化炭素、含酸素化合物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。これらは、メタンに比して易分解性なので、本発明の方法により、メタンと同時に容易に酸化除去できる。
【0044】
被処理ガス中の可燃性成分の濃度は、特に制限されないが、高すぎる場合には触媒層で極端な温度上昇が生じ、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、メタン換算で1体積%以下とするのが好ましく、体積比で5,000ppm以下であればさらに好ましい。
【0045】
本発明のメタンの酸化除去方法は、上記のようにして得られた触媒を用いることを特徴とする。
【0046】
触媒の使用量が少なすぎる場合には、有効な除去率が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で500,000h-1以下となる量を使用するのが好ましい。一方、ガス時間当たり空間速度(GHSV)を低くするほど触媒量が多くなるので、浄化率は向上するが、GHSVが低すぎる場合には、経済的に不利であり、また触媒層での圧力損失が大きくなる。従って、GHSVの下限は、1,000h-1程度とするのが好ましく、5,000h-1程度とするのがより好ましい。
【0047】
被処理ガス中の酸素濃度は、酸素を過剰に含む限り特に制限されないが、体積基準として約2%以上(より好ましくは約5%以上、さらに好ましくは15%以上)であって且つ炭化水素などからなる還元性成分の酸化当量の約5倍以上(より好ましくは約10倍以上)の酸素が存在するのが好ましい。
【0048】
被処理ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するおそれがあるので、予め所要の量の空気、酸素過剰の排ガスなどを混ぜてもよい。
【0049】
本発明のメタンの酸化除去用触媒は、高い活性を有するが、より活性を高くして所望のメタン除去率を得るとともに、触媒の耐久性をより向上させるために、適切に調整することが好ましい。
【0050】
触媒層の温度は、通常300〜600℃程度であり、好ましくは300〜450℃程度、より好ましくは350〜400℃程度である。本発明において、酸化チタン担体を用いた場合には、特に350℃付近における触媒活性を顕著に向上させることができる。また、酸化スズ担体を用いた場合には、特に400℃付近における触媒活性を顕著に向上させることができる。
【0051】
また、被処理ガス中の炭化水素の濃度が著しく高いときには、触媒層で急激な反応が起こって、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、触媒層での温度上昇が、通常約200℃以下、好ましくは約100℃以下となる条件で用いるのが好ましい。
【0052】
炭鉱換気ガスの場合は1〜3体積%程度、燃焼排ガス中には5〜15体積%程度の水蒸気が含まれているが、本発明によれば、このように水蒸気を含む排ガスに対しても、有効なメタン酸化除去が達成される。
【0053】
また、燃焼排ガス中には、触媒活性を著しく低下させる硫黄酸化物が通常含まれるが、本発明の触媒は、硫黄酸化物による活性低下に対して特に高い抵抗性を示すので、体積基準で0.1〜30ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。
【0054】
本発明によれば、被処理ガス中のメタンの酸化除去を安定して行うことが可能となるので、メタン発酵ガスや天然ガス系都市ガスなどの燃焼排ガスや、炭鉱換気ガス、各種プロセスガスなどのメタンおよび硫黄化合物を含有するガスを本発明の方法で処理することにより、ガス中に含まれるメタンを酸化除去して、その反応熱を回収してエネルギーとして有効利用できるほか、地球環境の改善にも寄与する。
【発明の効果】
【0055】
本発明の触媒は、水蒸気や硫黄化合物による活性阻害に対して非常に優れた抵抗性を示すので、燃焼排ガスのように水蒸気を大量に含み、かつ硫黄酸化物を含む排ガスにおいても、高いメタン酸化活性を発揮する。
【0056】
また、本発明の触媒は、低温(特に400℃以下)でも高い活性を示すので、高価な貴金属の使用量を低減でき、経済性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1(2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化チタン触媒の調製)
酸化チタン(石原産業社製「MC-50」、比表面積62m2/g)を空気中で700℃で6時間焼成して、焼成酸化チタン(比表面積32m2/g)を得た。
【0059】
35%塩酸1.5gを純水(10ml)で希釈し、これに塩化レニウム(ReCl5, Reとして51質量%含有)1.0gを溶解して、塩化レニウム酸溶液(Re 4.1質量%)を得た。この塩化レニウム酸溶液(7.3g)、Ptとして16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)水溶液(3.7g)およびIrとして8.7質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)の希塩酸溶液(10.5g)を混合し、純水(20ml)で希釈した。この溶液を前記の焼成酸化チタン30gに含浸させた。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化チタン触媒を得た。この触媒の比表面積は32m2/gであった。
【0060】
実施例2(2%Pt-3%Ir-0.5%Re/酸化チタン触媒の調製)
35%塩酸5gに塩化レニウム(ReCl3)1.0gを溶解して純水(4ml)で希釈し、塩化レニウム塩酸溶液(Re 6.4質量%)を得た。この塩化レニウム溶液(2.35g)、Ptとして16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)水溶液(3.7g)およびIrとして8.7質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)の希塩酸溶液(10.5g)を混合し、純水(15ml)で希釈した。この溶液を前記の焼成酸化チタン30gに含浸させた。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して2%Pt-3%Ir-0.5%Re/酸化チタン触媒を得た。この触媒の比表面積は32m2/gであった。
【0061】
比較例1(2%Pt-3%Ir/酸化チタン触媒の調製)
ヘキサクロロ白金酸水溶液(8.6g)およびヘキサクロロイリジウム酸溶液(24.4g)を混合し、純水(150ml)で希釈して、前記の焼成酸化チタン70gに含浸したほかは、実施例1と同様にして、2%Pt-3%Ir/酸化チタン触媒を得た。この触媒の比表面積は32m2/gであった。
【0062】
[活性評価試験1]
実施例1、2および比較例1において調製した触媒をそれぞれ打錠成形した後、破砕して粒径を1〜2mmに揃えた。各触媒1.45g(約2.3ml)を石英製反応管(内径14mm)に充填した。次いで、メタン1,000ppm、酸素10%、水蒸気10%(いずれも体積基準)および残部窒素からなる組成を有するガスを、2リットル/分(標準状態における体積)の流量で反応管に流通し、触媒層温度350℃, 400℃および450℃におけるメタン転化率を測定した。反応層前後のガス組成は、水素炎イオン化検知器および熱伝導度検出器を有するガスクロマトグラフにより測定した。
【0063】
メタン転化率(%)の測定結果を表1に示す。ここで、メタン転化率とは、以下の式によって求められる値である。
CH4転化率(%)=100×(1-CH4-OUT/CH4-in)
式中、「CH4-OUT」とは触媒層出口のメタン濃度を示し、「CH4-in」とは触媒層入口のメタン濃度を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1および2の触媒は、反応初期350℃において79〜87%のメタン転化率を示した。これは、比較例1の触媒の66%と比較して遙かに高く、白金およびイリジウムに加えてレニウムを担持することにより低温活性が大きく向上することが明らかである。
【0066】
上記の活性評価に引き続いて、触媒層温度を450℃に保ったまま、反応ガスに二酸化硫黄3ppmを添加して反応を継続し、20、60時間後のそれぞれの時点で、触媒層温度350℃、400℃および450℃におけるメタン転化率を同様に測定した。いずれの触媒・反応条件でも、メタン濃度の減少に対応する二酸化炭素の生成が確認され、メタンは触媒上で完全酸化されていた。
【0067】
実施例1および2の触媒は、20時間時点では350℃で57〜58%、400℃で93〜96%のメタン転化率を示した。また、60時間時点では350℃で52〜53%、400℃で92〜95%のメタン転化率を示した。最初の20時間においては、硫黄分による被毒による活性低下が見られるものの、その後の活性低下は小さい。これに対して、比較例1の触媒は、20時間時点では350℃で53%、400℃で92%のメタン転化率を示し、60時間時点では350℃で48%、400℃で90%のメタン転化率にとどまり、いずれの時点および温度でも、実施例1および2の触媒には及ばない。
【0068】
実施例3(2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化スズ触媒の調製)
酸化スズ(関東化学社製「Nanotek」、比表面積47m2/g)を空気中で700℃で6時間焼成して、焼成酸化スズ(比表面積18m2/g)を得た。塩化レニウム塩酸溶液(Re 6.4質量%)4.7g、Ptとして16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)水溶液3.7gおよびIrとして8.7質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)の希塩酸溶液10.5gを混合し、純水(20ml)で希釈した。この溶液を前記の焼成酸化スズ30gに含浸させた。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化スズ触媒を得た。この触媒の比表面積は18m2/gであった。
【0069】
比較例2(2%Pt-3%Ir/酸化スズ触媒の調製)
ヘキサクロロ白金酸水溶液(3.7g)およびヘキサクロロイリジウム酸溶液(10.5g)を混合し、純水(20ml)で希釈して、前記の焼成酸化スズ30gに含浸したほかは、実施例3と同様にして、2%Pt-3%Ir/酸化スズ触媒を得た。この触媒の比表面積は18m2/gであった。
【0070】
実施例4(2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化スズ触媒の調製)
過レニウム酸アンモニウム(NH4ReO4)0.54gを純水80gに溶解した。この溶液を酸化スズ(関東化学社製「Nanotek」、比表面積47m2/g)37.5gに含浸させた。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で700℃で6時間焼成して1%Re/酸化スズ(比表面積16m2/g)を得た。Ptとして16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)水溶液(2.76g)およびIrとして8.7質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)の希塩酸溶液(7.9g)を混合し、純水(8ml)で希釈した。この溶液を前記の1%Re/酸化スズ22.5gに含浸させた。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して2%Pt-3%Ir-1%Re/酸化スズ触媒を得た。この触媒の比表面積は15m2/gであった。この実施例は、酸化スズ担体に、まずReを担持し、次いでIrおよびPtを担持する逐次担持法により触媒を調製した例である。
【0071】
実施例5(2%Pt-1%Ir-1%Re/酸化スズ触媒の調製)
Irの担持量を酸化スズに対する質量比で1%としたほかは実施例4と同様にして、2%Pt-1%Ir-1%Re/酸化スズ触媒を得た。この触媒の比表面積は16m2/gであった。
【0072】
比較例3(2%Pt-1%Re/酸化スズ触媒の調製)
Irを担持しなかったほかは実施例4と同様にして、2%Pt-1%Re/酸化スズ触媒を得た。この触媒の比表面積は16m2/gであった。
【0073】
[活性評価試験2]
実施例3〜5および比較例2〜3において調製した触媒をそれぞれ打錠成形した後、破砕して粒径を1〜2mmに揃えた。各触媒1.45g(約1.1ml)を石英製反応管(内径14mm)に充填し、活性評価試験1と同様にしてメタン酸化活性を評価した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例3の触媒は、反応初期400℃において65%のメタン転化率を示した。これは、比較例2の触媒の45%と比較して明らかに高く、白金およびイリジウムに加えてレニウムを担持することにより低温活性が大きく向上することが明らかである。実施例3の触媒は、硫黄酸化物共存下で経時的な活性低下はあるものの、60時間後の活性を比較すると、いずれの温度でも比較例2の触媒に比べて高いメタン転化率を示しており、レニウムの添加による活性の向上は明らかである。
【0076】
また、酸化スズ担体に、まずReを担持し、次いでIrおよびPtを担持する逐次担持法により触媒を調製した実施例4の触媒は特に低温での活性に優れるとともに、実施例3の触媒と同様に経時的な活性の安定性も優れている。
【0077】
実施例5および比較例3の結果は、Irの担持量を酸化スズ担体に対して1質量%まで低減してもメタン酸化活性は大きく損なわれることはないが、Irを担持しない場合には十分な活性を得ることはできないことを示している。この結果から、低温での活性と経時的な活性の安定性を得るには、触媒がPt、IrおよびReの3成分をともに担持してなることが必要であることが明らかである。
【0078】
[活性評価試験3]
比較例2および実施例4の触媒をそれぞれ打錠成形した後、破砕して粒径を1〜2mmに揃えた。各触媒1.45g(1.5ml)を石英製反応管(内径14mm)に充填した。次いで、炭鉱換気ガスを模擬したメタン1,000ppm、酸素20%、水蒸気3%(いずれも体積基準)および残部窒素からなる組成を有するガスを、2リットル/分(標準状態における体積)の流量で反応管に流通し、触媒層温度300℃, 350℃および400℃におけるメタン転化率を測定した(初期転化率)。反応層前後のガス組成は、水素炎イオン化検知器および熱伝導度検出器を有するガスクロマトグラフにより測定した。引き続いて、触媒層温度を400℃として、反応ガスに二酸化硫黄3ppmを添加して反応を継続し、20、60時間後のそれぞれの時点で、触媒層温度300℃、350℃および400℃におけるメタン転化率を同様に測定した。
【0079】
メタン転化率(%)の測定結果を表3に示す。比較例2の触媒では、400℃におけるメタン転化率は初期でも60%にとどまり、20時間後の時点では68%まで上昇したが、60時間後では66%まで低下した。これに対し、実施例4の触媒では、初期から20時間後までの間にやや大きな活性低下が見られたが、その後は僅かながら活性が上昇する傾向が見られ、60時間後の400℃におけるメタン転化率は80%と高かった。また、400℃より低い温度では、比較例2の触媒との差はより顕著であった。
【0080】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、酸化チタン担体または酸化スズ担体に白金、イリジウムおよびレニウムを担持してなる触媒。
【請求項2】
メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去する方法であって、該被処理ガスを300〜450℃の温度で、請求項1に記載の触媒に接触させる方法。

【公開番号】特開2012−196664(P2012−196664A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26138(P2012−26138)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】