説明

メタンガス生産方法

【課題】バイオマスを爆砕処理により得られた処理物から効率よくメタンを生成する。
【解決手段】広葉樹廃材等の木質バイオマスaからメタンガス3bを生産するメタンガス生産方法であって、バイオマスを爆砕処理する爆砕工程を行った後、爆砕生成物を固液分離する固液分離工程を行い、固液分離された液相をUASB(上向流汚泥床式高速メタン発酵)処理する。爆砕工程を、210℃を超えて225℃以下の温度で行うメタンガス生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスから、簡便且つ効率的に、メタンガスとしてエネルギーを生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築廃材、剪定街路樹、森林伐採木等を初めとして、日本では有効利用されずに焼却若しくは放置されている木質バイオマスが多量に存在する。木質バイオマスからエネルギーを回収する方法として、焼却熱回収、焼却熱による発電、ガス化発電等が知られているが、いずれもエネルギー回収率が低く、有効ではない。一方、木質バイオマスをメタン発酵によりメタンガスに変換できれば、ガスエンジン等により、最終的に熱効率70%程度と高い効率でエネルギー回収できると試算される。
【0003】
木質バイオマスの主成分であるセルロースやヘミセルロース等は、メタン発酵によってエネルギー変換を比較的受け易い有機物であるが、木質バイオマスに10〜35%程度含まれているリグニンはセルロースやヘミセルロースの生物分解を妨げる役目を持つため、単に木質バイオマスをメタン発酵に供しても、高いエネルギー回収率は得られないことが分かっている。
【0004】
そこで、エネルギー回収率を高めるために、木質バイオマスを爆砕処理等に供して、リグニン構造を物理的に破壊した後に、メタン発酵を行う方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献1では、上記爆砕処理に先行して、さらに、バイオマスを白色腐朽菌により腐朽化しておき、爆砕処理を行う際のエネルギー効率を向上させる試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−237164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、爆砕処理により得られた爆砕処理物をそのままメタン発酵すると、メタン発酵処理に約20日程度要するために、反応槽として大型の設備が必要になるとともに、爆砕処理物が固液混合物であるために搬送が困難になり、爆砕処理物の搬送のために付加設備が必要になったり、メンテナンス困難となったりするなど、設備費、運転費の面で改善が求められている。また、メタン発酵処理後の排水には、微細な残渣の浮遊物が高濃度に含まれており、排水する前に固液分離する必要があるが、メタン発酵処理後、微細化し、水中に懸濁した残渣の浮遊物は分離が困難であるため、メタン発酵後の排水処理に手間を要するという問題があった。さらに、メタン発酵処理後の排水はメタン発酵に由来する硫化水素、メルカプタン類、アンモニア、アミン類等を比較的多く含んでいるため、悪臭が問題になる場合もある。
【0008】
また、特許文献1のように腐朽化処理を行ったとしても、結局、爆砕処理に要するエネルギー効率が向上するだけで、メタン発酵処理のプロセスにおける上記問題は改善されたとはいえず、メタンガス生産を行う設備としてコンパクト化、低コスト化、排水の高度処理が求められている。
【0009】
一方、メタンガスの生成プロセスとしてUASB(上向流汚泥床式高速メタン発酵)処理が知られている。UASBとは、反応に関与する細菌を自己造粒させてグラニュール(粒状)にし、これを充填した反応槽の底部から上向きに処理すべき水をゆっくり通して反応させる形式の反応槽である。ここでは、自己造粒させたグラニュールに代わって、特に細菌を微粒の担体表面に生物膜状に固着させた粒状物でもよい。
【0010】
反応槽としてこのUASB形式のものを用いることによって、反応槽内に微生物を高密度に保持することができるので、反応槽単位容積当たりの処理速度を非常に大きくすることができ、反応槽容積を小さくでき、また、温度低下などにより微生物の活性が低下する場合も、処理速度の低下を抑制でき、かつ、メタン発酵処理に比べて排水の高度処理が可能となり、排水の固液分離に関する問題や、悪臭に関する問題は発生しにくくなるという利点がある。
【0011】
しかし、このようなUASB処理を行うには、処理液自体を可溶化しなければ反応槽内に流動させることができず、メタン発酵させることができない。実際に爆砕処理では、得られる処理物は固形成分が多く含まれる固液混合物となるため、UASB処理を行うことができる処理液を得るには、やはり、高温高圧による爆砕処理を要する。高温高圧による爆砕処理は、エネルギー効率を優先する所期の目的に合致せず、現実的ではないので、上述のように、腐朽化工程を経た処理液は、通常の嫌気性メタン発酵処理に供さざるを得ないと考えられていた。
【0012】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、コンパクトな反応槽を用いて、低コストで合理的にメタンガスを生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記実情に鑑み、バイオマスを爆砕処理により得られた処理物から効率よくメタンを生成することを目的として、鋭意研究した結果、爆砕処理により得られた固液混合物のうち、メタン生成に寄与する成分は主に液相に含有されているという新知見を得た。本発明は、この新知見に基づきなされたものである。
【0014】
〔構成〕
上記知見に基づく本発明のメタンガス生産方法の特徴構成は、
バイオマスからメタンガスを生産するメタンガス生産するにあたって、
前記バイオマスを爆砕処理する爆砕工程を行った後、
爆砕生成物を固液分離する固液分離工程を行い、
固液分離された液相をUASB(上向流汚泥床式高速メタン発酵)処理することにある。
【0015】
尚、上記メタンガス生産方法は、
前記爆砕工程を、210℃を超えて225℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0016】
〔作用効果〕
つまり、上記知見に基づけば、前記爆砕工程を経たバイオマスは、メタン生成に寄与する液相成分と、メタン生成にあまり寄与しない固相成分とが混合した処理物となる。この処理物を固液分離すると、メタン発酵により効率よくメタンを発生させられる液相成分のみを得ることができる。バイオマス原料を基準にして、効率よくメタン発酵させられる条件が整うことになる。そして、この液相成分はUASB処理によりメタン発酵させてメタンを生成させられるから、前記液相成分を基準にしても、効率良くメタン発酵させられる条件を得ることができる。つまり、バイオマスのうちメタン発酵に有用な液相部分を爆砕工程および固液分離工程により選択的に取り出し、UASB処理によりメタン発酵させるから、バイオマス中のメタン発酵させやすい部分のみを有効に利用してメタンを生成させることができるようになる。そのため、メタン発酵させにくい固相部分に不必要なエネルギーを投入することなく、低コストでメタン発酵処理を行うことができるようになった。
【0017】
また、UASB処理を行う反応槽と、通常のメタン発酵処理を行う反応槽と比べると、
反応時間が、メタン発酵で20時間程度要するのに対して、UASB処理では6時間程度で済む。そのため、反応槽自体もコンパクトにすることができるとともに、低コスト化が図れる。また、固液分離した液相のみを用いるので、反応槽に用いる配管等も簡易に構成できる、メンテナンス容易になるなど、運転費の観点からも、低コスト化が図れる。また、爆砕処理では、メルカプタン、硫化水素等の悪臭成分の発生していない状態であるので、固相、液相ともに悪臭を発しておらず、固液分離工程や、後続のUASB処理の工程に爆砕処理物を搬送する場合にも、容易に処理が行える。また、UASB処理の処理排水は、比較的清浄で固形成分の含有率が低く悪臭成分も少ないので、メタン発酵を行った後の処理についても簡素化できる。
【0018】
尚、爆砕処理を行うに当たっては、高温で行う方が、原料のバイオマスに対して得られる液相成分の量が多いため、その液相成分の有機物含有量が多く、メタン発酵効率も高いといえるので好ましい。しかし、約230℃以上で爆砕処理を行うと、嫌気発酵を阻害する物質が発生して後続のUASB処理が進行しにくくなることが知られており、この温度を超えない範囲で爆砕処理を行うことが好ましい。そのため、210℃を超えて225℃以下の温度で爆砕処理を行うことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】メタンガス生産設備を示す図である。
【図2】UASB槽を示す図である。
【図3】爆砕処理温度の違いによるバイオマスのメタン転化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明のメタンガス生産方法を行うためのメタンガス生産設備の一例を示す。尚、以下に示すメタンガス生産設備は、本発明を具体的に説明するための例示であって、本発明は、構成の記載に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成の変更、追加が可能であることは言うまでも無い。
【0021】
図1に示すように、本発明のメタンガス生産方法は、バイオマスを爆砕処理する爆砕工程(#1)を行い、爆砕処理された爆砕生成物を固液分離する固液分離工程(#2)を行い、液相をUASB処理する(#3)とともに、固相を別途メタン発酵処理(#4)する。前記UASB処理(#3)およびメタン発酵処理(#4)では、メタンガスを生成し、バイオマス資源を、可用性の高いエネルギーとして回収することができ、UASB処理(#3)およびメタン発酵処理(#4)で得られた処理水をさらに好気分解処理(#5)して、環境負荷の少ない排水として外部に放流可能な構成を採用することができる。
【0022】
前記爆砕工程(#1)を行う爆砕装置1は、図1に示すように、バガス等の木質バイオマスを搬送投入するためのホッパ11を備え、耐圧容器からなる爆砕器10に、前記ホッパ11からバイオマスaを投入し、充填、密閉した後、その爆砕器中に高温高圧の水蒸気sを注入し、短時間蒸煮した後、容器の密閉を瞬時に大気開放する構成の爆砕装置により行う。前記爆砕器は、水蒸気の導入部12および加熱部13を備え、爆砕器内を所定の温度圧力条件に制御するための制御機構14を備える。
【0023】
ここでは、高圧水蒸気発生装置で発生した約215℃の高温高圧水蒸気で加圧、数十秒〜数分という短時間蒸煮されて水熱反応により変性させた後、瞬時に圧力を大気圧まで戻すことにより、軟化・粉砕する。
【0024】
軟化粉砕されたバイオマスはリグニンとヘミセルロース、セルロースとの結合が切断された固液混合物となり、結合の切断されたヘミセルロース、セルロースは微生物により分解されやすくなるとともに、小分子化し、液相に移行しやすくなっている。
【0025】
爆砕処理されたバイオマスは、爆砕器10の排出部15より取り出され、固液分離装置2に供給される(#2)。固液分離装置2は固液分離槽20を備え、爆砕された爆砕生成物を沈澱処理する。他に固液分離はろ過処理、膜処理等の種々公知の方法によって行うことができる。沈澱処理を行う場合には、爆砕されたバイオマスを、固液分離槽20に供給し、重力による固液分離が行われる。固液分離された液相を後続のUASB処理に供する。
【0026】
UASB処理(#3)を行うUASB装置3は、図2に示すように、下部に嫌気性菌(UASB菌)を主体とする汚泥のグラニュール30aを充填されるスラッジベッド31を備えるとともに、前記液相を分散供給する液供給部32を備える反応槽30からなる。これにより、導入される液の上向流が形成されるとともに、内部の液の循環を促し、浮動するグラニュールにより有機物のメタン発酵が行われる。前記スラッジベッド31の上部には、グラニュール30aの流失を防止するとともに処理済みの上澄液および生成したメタンガスを上方に移流させる分離板33を設けてある。分離板33上方に移流した処理済みの有機廃液3aは、オーバーフロー部34より反応槽30外へ取出されるとともに、生成したメタンガス3bは、ガス回収部35より反応槽30外へ取出される構成となっている。また、オーバーフロー部34には処理液循環路36を設けて、必要な滞留時間を維持しながら、塔内の液線速度を適切な値に設定できる構成としている。塔内の液線速度は、速すぎるとグラニュールが磨耗し、遅すぎるとグラニュール以外の懸濁物質が蓄積されやすくなるため、3m/h程度とすることが好ましい。
【0027】
前記固液分離装置2で固液分離された固相は、嫌気性菌によるメタン発酵装置4に供され(#4)、さらにエネルギー回収が図られるとともに、廃棄物を減容化することができる。
【0028】
前記UASB装置から取り出されたメタンガスは、ガスタンクに貯留され、さらに精製された後、燃料ガスとして供給される。
【0029】
前記UASB装置から排出される処理済液や3a、前記メタン発酵装置4から排出される処理液は、そのまま廃棄してもよいが、好気処理槽5により好気分解処理して(#5)さらに清浄な排水として外部に放流する。
【0030】
上述のメタン発酵槽4や、好気処理槽5や、取り出されたメタンガスを利用する形態については、種々公知の構成を適用することができる。
【0031】
以下に、爆砕処理温度の違いによるバイオマスのメタン転化率を、液相、固相を別途検討した実験例を示す。
【0032】
〔実験例〕
木質バイオマスとして、まいたけの菌床として用いられたナラ、ブナなどの広葉樹廃材を用い、爆砕処理を、180℃〜230℃の処理条件で行い、得られた爆砕生成物の固相と液相とを嫌気処理し、メタンを生成させた。液相の嫌気処理はUASB装置により行い、固相の嫌気処理はメタン発酵槽により行った。各爆砕生成物から発生するメタン量を調べたところ図3に示すようになった。尚、固相のメタン発酵に際しては、廃材が元来保有していたメタンガスが、メタン発酵により生成するメタンガスに混入するため、実際のメタンガス量測定値から、あらかじめ求めた廃材保有のメタンガス量を差し引いてメタンガス生成量とした。(そのため、本来生成すべきメタンガスの生成が阻害されている場合、マイナスになる場合がある。)図3においては、爆砕処理したバイオマス重量から、理論的に得られるメタンガス量を100%として、生成メタンガス量をメタン化率に換算して表記してある。
【0033】
図3より、爆砕処理を230℃で行うと、バイオマスのメタン発酵が阻害されて、メタン転化率が低下していることがわかる。
【0034】
また、爆砕処理が低温である場合、メタンガスの収量が多いが、液相からのメタン転化率が60%を超えるのに対して、固相からのメタン転化率が10%程度(液相から発生するメタンガス量に対し、約1/6程度)であることから、バイオマスの成分の内、メタン発酵によりメタンに転換される成分は、大部分(全体をメタン発酵させた場合の6/7程度)が爆砕処理により得られる生成物の液相に含まれることが読み取れる。
【0035】
したがって、バイオマスからメタンガスを生成させるためには、爆砕処理後固液分離して液相のみをUASB処理に供してメタンガスを得ることがメタンガス収集効率の面で好適であることがわかった。また、爆砕処理温度については、爆砕処理により液相部分が十分量発生し、かつ、効率よくUASB処理できることから、210℃程度以上、また、メタン発酵の阻害を起こさない上限として、225℃程度以下が好適であることがわかった。
【0036】
先の実験例にて、バイオマスの爆砕処理によって、バイオマスをメタン発酵する際の阻害物質が生成していることが明らかとなったが、この阻害物質を、イオン交換樹脂により除去したり、活性炭により吸着除去したり、薬剤により沈殿除去したりすることによって、高温で爆砕した爆砕処理物であってもUASB処理によって効率よくメタンガスを生成することができる。尚、薬剤による沈澱処理としては、アルカリの添加があるが、この場合、アルカリ添加後の処理液はUASBに向かないので、生成した沈澱物をろ過等により除去した後、中和してからUASB装置に導入すればよい。
【符号の説明】
【0037】
a バイオマス
s 水蒸気
1 爆砕装置
10 爆砕器
11 ホッパ
12 導入部
13 加熱部
14 制御機構
15 排出部
2 固液分離装置
20 固液分離槽
3 UASB装置
3a 処理済液
3b メタンガス
30 反応槽
30a グラニュール
31 スラッジベッド
32 液供給部
33 分離板
34 オーバーフロー部
35 ガス回収部
4 メタン発酵装置
5 好気処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスからメタンガスを生産するメタンガス生産方法であって、前記バイオマスを爆砕処理する爆砕工程を行った後、爆砕生成物を固液分離する固液分離工程を行い、固液分離された液相をUASB(上向流汚泥床式高速メタン発酵)処理するメタンガス生産方法。
【請求項2】
前記爆砕工程を、210℃を超えて225℃以下の温度で行う請求項1に記載のメタンガス生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206021(P2011−206021A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79598(P2010−79598)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】