メタン発酵方法
【課題】
少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。また、メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。また、メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇と地球温暖化防止問題に直面し、バイオマスを原料とした新エネルギーを創生する研究が活発に行われている。その中でも製造プロセスが短い、サトウキビやトウモロコシを原料としたバイオエタノールを製造するための研究が世界的な潮流となっているが、食糧危機の引き金になる可能性があるなど、混乱の原因となっている。そのため、森林資源を原料とした新エネルギーの開発が重要な課題となっている。
【0003】
ところで、木質原料からメタンガスなどのエネルギー源を取り出すため、アルカリや酸による加水分解により木質原料からセルロース由来のグルコースを抽出し、さらに嫌気性雰囲気でグルコースをメタン発酵することにより、メタンガスを回収する方法が知られている。このメタン発酵は、セルロース由来の成分から酪酸やカプロン酸などの有機酸を生成し、さらに、酢酸からメタンガスへ分解するという逐次的な反応で進行する。しかし、メタン発酵の際に有機酸の生成が顕著であると、メタンガスの生成まで反応が進行しにくく、これまでに開発されたメタン発酵技術では、効率的にメタンガスを回収するには不十分であった。
【0004】
このような中、資源を効率的に利用し、有機物をエネルギーとしてのメタンガスにまで転換することを目的として、セルロース系有機物を含む廃棄物などから嫌気性のセルロース分解細菌によるメタン発酵方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−254168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、セルロース分解菌増殖槽を設けなければならず、多大なエネルギーとコストをかけてメタン発酵させる必要があった。また、セルロース分解菌の増殖が促進される培養条件が必要となり、メタン発酵を効率的に行うには操作が煩雑であった。本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液(セルロース廃液)からメタン発酵させる際に、該糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整しメタン発酵させることで、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
【0008】
また本発明は、メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
【0009】
本発明では、糖液にアルカリ性化合物を添加して中和することで糖液のpHを維持することが好ましい。
【0010】
アルカリ性化合物は、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液を嫌気性微生物によりメタン発酵させる際に、より少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態にかかる木質バイオマスの発酵システムの概念図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかるメタン発酵方法のフロー図である。
【図3】実施例及び比較例にかかるメタン発酵実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の実施の形態では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加して、木質バイオマス中のセルロース、ヘミセルロースを加水分解させ、得られる糖液(グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液)を嫌気的微生物によりメタン発酵させる場合について、説明する。ただし、本発明で用いられる糖液は、グルコース成分を有するものであれば、木質バイオマスからどのようなプロセスを経て抽出されたものであるかに関わらず、適用可能である。木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加する方法としては、木質バイオマスにフェノール誘導体を添加して含浸させた後、酸を添加し、系の粘度が低下したら、後述する疎水性の溶剤を添加し、さらに撹拌を行う方法があげられる。このようにすることで、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分と硫酸からなる層と、リグノフェノール、フェノール誘導体及び疎水性の溶剤からなる層に分離することが可能となる。
【0014】
本発明において使用する木質バイオマスとは、生物由来の再生可能な有機物資源であり、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニン等から構成されるものである。木質バイオマスは、主として木材からなるものを言い、例えば、木粉、木質チップなどをあげることができる。また、用いる木材としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用することが出来る。
【0015】
木質バイオマスに添加する酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることが可能である。酸は、セルロース及びヘミセルロースを加水分解するための触媒としてだけでなく、木質バイオマスを構成するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの結合を解く役割も果たす。無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸などの何れかを使用することができる。酸の濃度は、60〜90%が望ましい。酸の濃度が60%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行せず、酸の濃度が90%より高いとリグニンおよび添加剤であるp−クレゾールのベンゼン骨格がスルフォン化されやすくなり、不具合が生じる傾向にある。酸の中では、60%以上の硫酸が好ましい。同様に、硫酸の濃度が60%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行せず、また、硫酸の濃度が90%より高いと、リグニンおよび添加剤であるp−クレゾールのベンゼン骨格のスルフォン化が進行する傾向にある。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができるが、酸を回収する方法において、イオン交換樹脂及びイオン交換膜を膨潤させることがあるので注意しなければならない。中でも、セルロース及びヘミセルロースを効率良く加水分解できる点で、濃度60質量%以上、より好ましくは70質量%以上の硫酸を用いることが好ましい。木質バイオマスに添加する酸の使用量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200〜3000質量部、より好ましくは1000〜2000質量部である。酸の使用量が少ないと、木質原料は膨潤するだけで液状にならず、撹拌が困難になり、新しいタイプの押出混練機が必要となる。また、酸の使用量が多すぎると、酸の回収系への負担が増え、経済性が損なわれる。
【0016】
リグニンを構成するp−クマリルアルコール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール中のフェニルプロパン単位のα炭素は化学的に不安定であるが、フェノール誘導体を添加することで、成形体などの種々の用途に活用できるリグノフェノールを得ることが出来る。ここで、リグノフェノールとは、リグニン中のフェニルプロパン単位のα炭素にフェノール誘導体が結合したジフェニルプロパン単位を含む重合体をいう。
【0017】
フェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などが挙げられる。1価のフェノール誘導体としては、フェノール、ナフトール、アントロール、アントロキオールなどがあげられる。これらの1価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していても良い。2価のフェノール誘導体としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどがあげられる。これらの2価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していても良い。3価のフェノール誘導体としては、ピロガロールなどがあげられる。ピロガロールはさらに1以上の置換基を有していても良い。これらの1価から3価のフェノール誘導体が有する置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)、アリール基(フェニル基など)、水酸基などが挙げられる。また、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα炭素との反応性の点から、フェノール誘導体上のフェノール性水酸基の2つあるオルト位のうちの少なくとも片方は無置換であることが好ましい。
【0018】
フェノール誘導体の好ましい例としては、p−クレゾール、2,6−キシレノール、2,4−キシレノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられ、中でもp−クレゾールが好ましい。フェノール誘導体の量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200〜3000質量部、より好ましくは500〜2000質量部である。フェノール誘導体の量は、リグニンのα−炭素をマスキングするのに必要な化学量論的な量以上を添加しなければならないこと、また相分離に必要な抽出剤としての量も加味して添加しなければならない。
【0019】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加することで、主に酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖液とから構成される水層と、リグノフェノールとフェノール誘導体とから構成される油層に分離させるが、より短時間で二層に分離させるために疎水性の溶剤をさらに添加することが好ましい。また、疎水性の溶剤を用いない場合、油層に微量の酸が混入し、また、水層にもフェノール誘導体が混入する場合があるが、疎水性の溶剤を添加することで、これを防止することが出来る。疎水性の溶剤として、n−ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカリンおよびそれらの混合物などがあげられる。中でも、n−ヘキサンが好ましい。疎水性溶剤はp−クレゾールの溶解量以上を添加すると三層に分離してしまうため、p−クレゾールの溶解量に応じて適宜調整することが好ましい。n−ヘキサンを添加する場合は、p−クレゾール100質量部に対して30〜40質量部を添加することが好ましい。疎水性の溶剤を添加するタイミングとしては、リグニンとセルロースを解きほぐす解緩反応時に同時に添加することが望ましいが、解緩反応後にあらかじめ粗雑に二層分離させたあと、上層(軽層)と下層(重層)にそれぞれ疎水性の溶剤を添加し、上層からは硫酸水溶液を分離除去し、下層からは微量に溶解しているp−クレゾールを抽出除去することができる。
【0020】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加した後に得られる、酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖成分とから構成される溶液から、酸を回収する。酸を回収する方法としては、一般的な方法を用いることができ、例えば、イオン交換クロマトグラフィー法、電気透析法などが挙げられる。回収された酸の濃度は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上、さらには50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
酸を回収した後に得られる糖液中の酸の濃度は3質量%以下であることが好ましい。糖液中の酸の濃度が3質量%より高くなると、糖液中に残存する酸の量が多くなるため、糖液を発酵させる際に発酵を阻害する原因となる。
【0022】
本発明では、硫酸を回収した後の糖液を水で希釈することにより、糖液の炭素濃度を調整する。希釈した糖液の炭素濃度は、0.3mol/L以下であり、0.15〜0.3mol/Lであることが好ましい。炭素濃度が0.3mol/Lを超えると、有機酸の蓄積を引き起こし、メタン発酵が阻害される傾向にある。糖液の炭素濃度を0.3mol/L以下とするためには、糖液に水を添加することが好ましい。
【0023】
また本発明では、糖液にアルカリ性化合物を添加することで、糖液のpHを中性付近に維持する。発酵が進行すると、通常、酪酸、カプロン酸、酢酸、吉草酸、プロピオン酸、及び乳酸が発生し、系のpHが低くなりメタン発酵が抑制されるが、アルカリ性化合物を添加して、pHが所定の値の範囲内となるように調整することで、メタン発酵の抑制を防ぐことができる。糖液のpHは、メタン発酵前は通常6程度であり、6.4〜7.0の範囲に維持されることが好ましい。pHが6より低いと、糖液に蓄積される有機酸が十分に中和されず、メタン発酵が阻害されてしまう。
【0024】
糖液に添加するアルカリ性化合物としては、糖液のpHを6.4〜7.0の範囲に維持できる、アルカリ性を示すものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムなどが挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが、メタン発酵の効率の点から好ましい。これらのアルカリ性化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
次に、木質バイオマス原料である木粉50質量部、フェノール誘導体であるp−クレゾール61質量部、60%硫酸100質量部、n−ヘキサン29質量部を用いて、解緩から発酵までの一連の処理をする場合について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる木質バイオマスの発酵システムの概念図である。木質バイオマスの発酵システムは、原料である木質バイオマスから糖成分及びリグノフェノールを生成するための解緩槽1、解緩槽1にて生成された糖成分とリグノフェノールを、それぞれ水層と油層に分離する分離槽2、分離槽2で分離された油層の溶剤を濾過することでリグノフェノールと溶剤を固液分離する濾過機3、濾過機3で濾過されたリグノフェノールを乾燥する乾燥機4、分離槽2で分離された水層(糖液)から酸を回収する樹脂クロマト塔5、樹脂クロマト塔5にて得られた糖液からさらに酸を回収する電気透析槽6、電気透析槽6にて得られた糖液を発酵させる発酵槽7から構成される。
【0026】
まず、木粉、p−クレゾール、硫酸、n−ヘキサンが解緩槽1に添加され、撹拌される。木粉中のリグニンはα炭素の反応性が高く化学的に不安定であるが、p−クレゾールにより安定化され、リグノフェノールを形成する。また、木粉中のセルロース、ヘミセルロースは硫酸を触媒として加水分解される。解緩槽1における糖化処理は、60〜95℃の温度にて、30〜60分間の処理時間をかけることにより行なわれる。糖化処理の温度が60℃より低くなると加水分解の効率が下がり、また、温度が95℃を超えると、生成した単糖が過分解する傾向にある。なお、加水分解されたセルロース、ヘミセルロース由来の糖成分には、グルコース等の単糖、そのダイマー、オリゴマー、ポリマー等が混合した状態で存在している。
【0027】
解緩槽1にて木質バイオマス中のリグニンとセルロース・ヘミセルロースの分解が進行し、また、セルロースとヘミセルロースの加水分解が終了すると、得られた混合液は、分離槽2に送液される。送液された混合液は、分離槽2にて、p−クレゾール、n−ヘキサン、リグノフェノールから構成される油層(上層)と、セルロース、ヘミセルロース由来の糖成分と硫酸から構成される水層(下層)に分離される。油層はスラリー状であり、p−クレゾール59質量部、n−ヘキサン29質量部、リグノフェノール17質量部が存在する。また、水層には、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分20質量部、硫酸115質量部が含まれる。
【0028】
分離槽2にて分離された油層は、濾過機3にて固液分離され、固体のリグノフェノールと、液体のp−クレゾールとn−ヘキサンに分離される。固液分離はフィルタープレス等を用いて行うことができ、リグノフェノールはケーク状で得られる。得られたリグノフェノールは、乾燥機4にて乾燥され、成形体等の各種用途の原材料として活用される。また、濾液に含まれるp−クレゾールとn−ヘキサンは回収され、再利用される。n−ヘキサンは蒸留塔で塔頂から回収され、p−クレゾールは塔底から回収される。
【0029】
分離槽2にて分離された硫酸を含む溶液は、樹脂クロマト塔5へ送液され、イオン交換クロマトグラフィー法により硫酸が回収される。樹脂クロマト塔5では、イオン交換樹脂により硫酸が吸着され、溶液中に含まれる硫酸のうち、約92〜97%程度、好ましくは約95%が回収される。この場合、樹脂クロマト塔5にて、硫酸109質量部が回収される。
【0030】
回収された糖液には、まだ硫酸が含まれているが、電気透析槽6によりさらに硫酸が回収される。電気透析は、糖液中の硫酸の濃度が0.5質量%より低い値とならないように行なわれる。硫酸の濃度が0.5質量%より低くなると、電流効率が悪くなる傾向にある。電気透析には陽イオン交換膜であるカチオン膜と、陰イオン交換膜であるアニオン膜が隔壁として用いられる。図1の電気透析槽6では、陽極側にカチオン膜が存在し、陰極側にアニオン膜が存在する。電極間に電圧をかけると、硫酸イオンは陽極側へ移動し、水素イオンは陰極側へ移動するが、陰イオンである硫酸イオンはカチオン膜を通過することができず、陽イオンである水素イオンはアニオン膜を通過することができないため、結果として、カチオン膜とアニオン膜の間に陽イオン及び陰イオンが濃縮された液体が得られる。また、カチオン膜とアニオン膜の外側には、陽イオン、陰イオンが除去された液体が得られる。濃縮された液体は硫酸を主成分とするもので、回収され再利用される。この場合、硫酸6質量部が回収される。したがって、樹脂クロマト塔5と電気透析槽6にて合計115質量部の硫酸が回収される。なお、図1の電気透析槽6では、単純化するため、カチオン膜とアニオン膜がそれぞれ1つ設置された図としたが、実際には、複数のカチオン膜とアニオン膜が交互に設置される。
【0031】
また、陽イオン、陰イオンが除去された液体、すなわち硫酸が除去された液体は糖液として回収される。この場合、電気透析槽6にて硫酸を回収することで、20質量部の糖液が得られる。得られた糖液中には硫酸が0.5質量%程度しか含まれておらず、この糖液は、発酵槽7へ送液される。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態にかかるメタン発酵方法のフロー図である。嫌気性微生物によりセルロース廃液のメタン発酵が開始されると、まず、酪酸9が生成される。さらに、酪酸9からカプロン酸10が、カプロン酸10から酢酸11が生成され、その後、酢酸11からメタン12が生成される。これらの反応は、逐次的に進行する。発酵槽7へ送液された糖液は、メタン発酵により、中間体として酪酸やカプロン酸などの有機酸が生成し、これがメタン発酵を阻害することが予測されるため、嫌気性微生物によるメタン発酵を行う前に、水が添加され、糖液の濃度が0.15〜0.3mol/Lとなるように希釈される。希釈後の糖液の炭素濃度は、0.15〜0.3mol/Lとなる。また、メタン発酵の進行中には、糖液にアルカリ性化合物が適宜添加され、糖液のpHが6.4〜7.0の範囲になるように維持される。糖液を中和する際には、緩衝液にしておくことが好ましい。このようにすることで、メタン発酵の収率を向上させることが可能となる。得られるメタンは16質量部であり、4質量部の残渣が残る。なお、メタン発酵を行う前に、アルカリ性化合物を添加して、糖液中に残った硫酸を中和することが必要である。また、メタン発酵は、25〜50℃で行なうことが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
(メタン発酵実験)
酵母エキス、塩化アンモニウムおよびリン酸水素二カリウムをそれぞれ1.0mg/ml、レサズリンナトリウム(酸化還元指示薬)を1.0mg/lに調整した後、オートクレーブにより滅菌することで、栄養塩水溶液を調整した。70ml容バイアル瓶に10mlの中海底質(湿重13g、含水率78%)を取り、グルコース溶液(1.5M)に水を添加し、サンプルの濃度が0.15Mとなるように希釈したものに栄養塩水溶液(pH7.0)40mlを添加した。
【0035】
サンプルをブチルゴムで密栓してアルミキャップでシールした後、25℃の暗所で静置培養した。サンプルは1週間毎に注射器を射して、内圧を大気圧に戻し、増加した体積を測定してから、ヘッドスペースの20μlをガスクロマトグラフによるメタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。メタンはFID(カラム:Porapak Q、キャリアガス:ヘリウム20ml/min、カラム温度:70℃、注入口の検出温度:150℃)、二酸化炭素はTCD(カラム:シリカゲルカラム、キャリアガス:ヘリウム80ml/min、カラム温度:70℃、注入口の検出温度:100℃)で検出し、それぞれの標準ガスを用いて同定・定量した。
【0036】
(メタン生成割合)
サンプルについて、発酵後のメタン濃度を測定し、下記の式を用いて、メタン生成割合を算出した。
【数1】
【0037】
(実施例2)
調整したサンプルについて、メタン発酵中の糖液のpHが6.4〜7.0の範囲になるように、0.5M水酸化ナトリウム溶液を糖液の発酵が終了するまで適宜滴下した以外は、実施例1と同様にしてサンプルの静置培養を行った。
【0038】
(比較例1)
サンプルについて、水による希釈を行わないこと以外は、実施例1と同様にしてサンプル(濃度1.5M)の静置培養を行い、メタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。
【0039】
(比較例2)
サンプルについて、水による希釈を行わないこと以外は、実施例2と同様にしてサンプル(濃度1.5M)の静置培養を行い、メタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。
【0040】
図3は、実施例及び比較例にかかるメタン発酵実験の結果を示すグラフである。図3に示すように、実施例1では、養時間が35日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が24%に到達した。また、実施例2では、培養時間が21日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が31%に到達した。一方、比較例1では、培養時間が35日経過してもメタン生成割合は0%であり、メタンの生成は確認されなかった。また、比較例2では、35日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が8%に到達した。
【符号の説明】
【0041】
1 解緩槽
2 分離槽
3 濾過機
4 乾燥機
5 樹脂クロマト塔
6 電気透析槽
7 発酵槽
8 セルロース廃液(高濃度グルコース)
9 酪酸
10 カプロン酸
11 酢酸
12 メタン
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇と地球温暖化防止問題に直面し、バイオマスを原料とした新エネルギーを創生する研究が活発に行われている。その中でも製造プロセスが短い、サトウキビやトウモロコシを原料としたバイオエタノールを製造するための研究が世界的な潮流となっているが、食糧危機の引き金になる可能性があるなど、混乱の原因となっている。そのため、森林資源を原料とした新エネルギーの開発が重要な課題となっている。
【0003】
ところで、木質原料からメタンガスなどのエネルギー源を取り出すため、アルカリや酸による加水分解により木質原料からセルロース由来のグルコースを抽出し、さらに嫌気性雰囲気でグルコースをメタン発酵することにより、メタンガスを回収する方法が知られている。このメタン発酵は、セルロース由来の成分から酪酸やカプロン酸などの有機酸を生成し、さらに、酢酸からメタンガスへ分解するという逐次的な反応で進行する。しかし、メタン発酵の際に有機酸の生成が顕著であると、メタンガスの生成まで反応が進行しにくく、これまでに開発されたメタン発酵技術では、効率的にメタンガスを回収するには不十分であった。
【0004】
このような中、資源を効率的に利用し、有機物をエネルギーとしてのメタンガスにまで転換することを目的として、セルロース系有機物を含む廃棄物などから嫌気性のセルロース分解細菌によるメタン発酵方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−254168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、セルロース分解菌増殖槽を設けなければならず、多大なエネルギーとコストをかけてメタン発酵させる必要があった。また、セルロース分解菌の増殖が促進される培養条件が必要となり、メタン発酵を効率的に行うには操作が煩雑であった。本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させるメタン発酵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液(セルロース廃液)からメタン発酵させる際に、該糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整しメタン発酵させることで、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
【0008】
また本発明は、メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法に関する。
【0009】
本発明では、糖液にアルカリ性化合物を添加して中和することで糖液のpHを維持することが好ましい。
【0010】
アルカリ性化合物は、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液を嫌気性微生物によりメタン発酵させる際に、より少ないエネルギーとコストでメタン発酵を行うことが可能となり、且つ、高効率で糖液を発酵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態にかかる木質バイオマスの発酵システムの概念図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかるメタン発酵方法のフロー図である。
【図3】実施例及び比較例にかかるメタン発酵実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の実施の形態では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加して、木質バイオマス中のセルロース、ヘミセルロースを加水分解させ、得られる糖液(グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液)を嫌気的微生物によりメタン発酵させる場合について、説明する。ただし、本発明で用いられる糖液は、グルコース成分を有するものであれば、木質バイオマスからどのようなプロセスを経て抽出されたものであるかに関わらず、適用可能である。木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加する方法としては、木質バイオマスにフェノール誘導体を添加して含浸させた後、酸を添加し、系の粘度が低下したら、後述する疎水性の溶剤を添加し、さらに撹拌を行う方法があげられる。このようにすることで、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分と硫酸からなる層と、リグノフェノール、フェノール誘導体及び疎水性の溶剤からなる層に分離することが可能となる。
【0014】
本発明において使用する木質バイオマスとは、生物由来の再生可能な有機物資源であり、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニン等から構成されるものである。木質バイオマスは、主として木材からなるものを言い、例えば、木粉、木質チップなどをあげることができる。また、用いる木材としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用することが出来る。
【0015】
木質バイオマスに添加する酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることが可能である。酸は、セルロース及びヘミセルロースを加水分解するための触媒としてだけでなく、木質バイオマスを構成するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの結合を解く役割も果たす。無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸などの何れかを使用することができる。酸の濃度は、60〜90%が望ましい。酸の濃度が60%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行せず、酸の濃度が90%より高いとリグニンおよび添加剤であるp−クレゾールのベンゼン骨格がスルフォン化されやすくなり、不具合が生じる傾向にある。酸の中では、60%以上の硫酸が好ましい。同様に、硫酸の濃度が60%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行せず、また、硫酸の濃度が90%より高いと、リグニンおよび添加剤であるp−クレゾールのベンゼン骨格のスルフォン化が進行する傾向にある。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができるが、酸を回収する方法において、イオン交換樹脂及びイオン交換膜を膨潤させることがあるので注意しなければならない。中でも、セルロース及びヘミセルロースを効率良く加水分解できる点で、濃度60質量%以上、より好ましくは70質量%以上の硫酸を用いることが好ましい。木質バイオマスに添加する酸の使用量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200〜3000質量部、より好ましくは1000〜2000質量部である。酸の使用量が少ないと、木質原料は膨潤するだけで液状にならず、撹拌が困難になり、新しいタイプの押出混練機が必要となる。また、酸の使用量が多すぎると、酸の回収系への負担が増え、経済性が損なわれる。
【0016】
リグニンを構成するp−クマリルアルコール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール中のフェニルプロパン単位のα炭素は化学的に不安定であるが、フェノール誘導体を添加することで、成形体などの種々の用途に活用できるリグノフェノールを得ることが出来る。ここで、リグノフェノールとは、リグニン中のフェニルプロパン単位のα炭素にフェノール誘導体が結合したジフェニルプロパン単位を含む重合体をいう。
【0017】
フェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などが挙げられる。1価のフェノール誘導体としては、フェノール、ナフトール、アントロール、アントロキオールなどがあげられる。これらの1価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していても良い。2価のフェノール誘導体としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどがあげられる。これらの2価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していても良い。3価のフェノール誘導体としては、ピロガロールなどがあげられる。ピロガロールはさらに1以上の置換基を有していても良い。これらの1価から3価のフェノール誘導体が有する置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)、アリール基(フェニル基など)、水酸基などが挙げられる。また、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα炭素との反応性の点から、フェノール誘導体上のフェノール性水酸基の2つあるオルト位のうちの少なくとも片方は無置換であることが好ましい。
【0018】
フェノール誘導体の好ましい例としては、p−クレゾール、2,6−キシレノール、2,4−キシレノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられ、中でもp−クレゾールが好ましい。フェノール誘導体の量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200〜3000質量部、より好ましくは500〜2000質量部である。フェノール誘導体の量は、リグニンのα−炭素をマスキングするのに必要な化学量論的な量以上を添加しなければならないこと、また相分離に必要な抽出剤としての量も加味して添加しなければならない。
【0019】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加することで、主に酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖液とから構成される水層と、リグノフェノールとフェノール誘導体とから構成される油層に分離させるが、より短時間で二層に分離させるために疎水性の溶剤をさらに添加することが好ましい。また、疎水性の溶剤を用いない場合、油層に微量の酸が混入し、また、水層にもフェノール誘導体が混入する場合があるが、疎水性の溶剤を添加することで、これを防止することが出来る。疎水性の溶剤として、n−ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカリンおよびそれらの混合物などがあげられる。中でも、n−ヘキサンが好ましい。疎水性溶剤はp−クレゾールの溶解量以上を添加すると三層に分離してしまうため、p−クレゾールの溶解量に応じて適宜調整することが好ましい。n−ヘキサンを添加する場合は、p−クレゾール100質量部に対して30〜40質量部を添加することが好ましい。疎水性の溶剤を添加するタイミングとしては、リグニンとセルロースを解きほぐす解緩反応時に同時に添加することが望ましいが、解緩反応後にあらかじめ粗雑に二層分離させたあと、上層(軽層)と下層(重層)にそれぞれ疎水性の溶剤を添加し、上層からは硫酸水溶液を分離除去し、下層からは微量に溶解しているp−クレゾールを抽出除去することができる。
【0020】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加した後に得られる、酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖成分とから構成される溶液から、酸を回収する。酸を回収する方法としては、一般的な方法を用いることができ、例えば、イオン交換クロマトグラフィー法、電気透析法などが挙げられる。回収された酸の濃度は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上、さらには50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
酸を回収した後に得られる糖液中の酸の濃度は3質量%以下であることが好ましい。糖液中の酸の濃度が3質量%より高くなると、糖液中に残存する酸の量が多くなるため、糖液を発酵させる際に発酵を阻害する原因となる。
【0022】
本発明では、硫酸を回収した後の糖液を水で希釈することにより、糖液の炭素濃度を調整する。希釈した糖液の炭素濃度は、0.3mol/L以下であり、0.15〜0.3mol/Lであることが好ましい。炭素濃度が0.3mol/Lを超えると、有機酸の蓄積を引き起こし、メタン発酵が阻害される傾向にある。糖液の炭素濃度を0.3mol/L以下とするためには、糖液に水を添加することが好ましい。
【0023】
また本発明では、糖液にアルカリ性化合物を添加することで、糖液のpHを中性付近に維持する。発酵が進行すると、通常、酪酸、カプロン酸、酢酸、吉草酸、プロピオン酸、及び乳酸が発生し、系のpHが低くなりメタン発酵が抑制されるが、アルカリ性化合物を添加して、pHが所定の値の範囲内となるように調整することで、メタン発酵の抑制を防ぐことができる。糖液のpHは、メタン発酵前は通常6程度であり、6.4〜7.0の範囲に維持されることが好ましい。pHが6より低いと、糖液に蓄積される有機酸が十分に中和されず、メタン発酵が阻害されてしまう。
【0024】
糖液に添加するアルカリ性化合物としては、糖液のpHを6.4〜7.0の範囲に維持できる、アルカリ性を示すものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムなどが挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが、メタン発酵の効率の点から好ましい。これらのアルカリ性化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
次に、木質バイオマス原料である木粉50質量部、フェノール誘導体であるp−クレゾール61質量部、60%硫酸100質量部、n−ヘキサン29質量部を用いて、解緩から発酵までの一連の処理をする場合について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる木質バイオマスの発酵システムの概念図である。木質バイオマスの発酵システムは、原料である木質バイオマスから糖成分及びリグノフェノールを生成するための解緩槽1、解緩槽1にて生成された糖成分とリグノフェノールを、それぞれ水層と油層に分離する分離槽2、分離槽2で分離された油層の溶剤を濾過することでリグノフェノールと溶剤を固液分離する濾過機3、濾過機3で濾過されたリグノフェノールを乾燥する乾燥機4、分離槽2で分離された水層(糖液)から酸を回収する樹脂クロマト塔5、樹脂クロマト塔5にて得られた糖液からさらに酸を回収する電気透析槽6、電気透析槽6にて得られた糖液を発酵させる発酵槽7から構成される。
【0026】
まず、木粉、p−クレゾール、硫酸、n−ヘキサンが解緩槽1に添加され、撹拌される。木粉中のリグニンはα炭素の反応性が高く化学的に不安定であるが、p−クレゾールにより安定化され、リグノフェノールを形成する。また、木粉中のセルロース、ヘミセルロースは硫酸を触媒として加水分解される。解緩槽1における糖化処理は、60〜95℃の温度にて、30〜60分間の処理時間をかけることにより行なわれる。糖化処理の温度が60℃より低くなると加水分解の効率が下がり、また、温度が95℃を超えると、生成した単糖が過分解する傾向にある。なお、加水分解されたセルロース、ヘミセルロース由来の糖成分には、グルコース等の単糖、そのダイマー、オリゴマー、ポリマー等が混合した状態で存在している。
【0027】
解緩槽1にて木質バイオマス中のリグニンとセルロース・ヘミセルロースの分解が進行し、また、セルロースとヘミセルロースの加水分解が終了すると、得られた混合液は、分離槽2に送液される。送液された混合液は、分離槽2にて、p−クレゾール、n−ヘキサン、リグノフェノールから構成される油層(上層)と、セルロース、ヘミセルロース由来の糖成分と硫酸から構成される水層(下層)に分離される。油層はスラリー状であり、p−クレゾール59質量部、n−ヘキサン29質量部、リグノフェノール17質量部が存在する。また、水層には、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分20質量部、硫酸115質量部が含まれる。
【0028】
分離槽2にて分離された油層は、濾過機3にて固液分離され、固体のリグノフェノールと、液体のp−クレゾールとn−ヘキサンに分離される。固液分離はフィルタープレス等を用いて行うことができ、リグノフェノールはケーク状で得られる。得られたリグノフェノールは、乾燥機4にて乾燥され、成形体等の各種用途の原材料として活用される。また、濾液に含まれるp−クレゾールとn−ヘキサンは回収され、再利用される。n−ヘキサンは蒸留塔で塔頂から回収され、p−クレゾールは塔底から回収される。
【0029】
分離槽2にて分離された硫酸を含む溶液は、樹脂クロマト塔5へ送液され、イオン交換クロマトグラフィー法により硫酸が回収される。樹脂クロマト塔5では、イオン交換樹脂により硫酸が吸着され、溶液中に含まれる硫酸のうち、約92〜97%程度、好ましくは約95%が回収される。この場合、樹脂クロマト塔5にて、硫酸109質量部が回収される。
【0030】
回収された糖液には、まだ硫酸が含まれているが、電気透析槽6によりさらに硫酸が回収される。電気透析は、糖液中の硫酸の濃度が0.5質量%より低い値とならないように行なわれる。硫酸の濃度が0.5質量%より低くなると、電流効率が悪くなる傾向にある。電気透析には陽イオン交換膜であるカチオン膜と、陰イオン交換膜であるアニオン膜が隔壁として用いられる。図1の電気透析槽6では、陽極側にカチオン膜が存在し、陰極側にアニオン膜が存在する。電極間に電圧をかけると、硫酸イオンは陽極側へ移動し、水素イオンは陰極側へ移動するが、陰イオンである硫酸イオンはカチオン膜を通過することができず、陽イオンである水素イオンはアニオン膜を通過することができないため、結果として、カチオン膜とアニオン膜の間に陽イオン及び陰イオンが濃縮された液体が得られる。また、カチオン膜とアニオン膜の外側には、陽イオン、陰イオンが除去された液体が得られる。濃縮された液体は硫酸を主成分とするもので、回収され再利用される。この場合、硫酸6質量部が回収される。したがって、樹脂クロマト塔5と電気透析槽6にて合計115質量部の硫酸が回収される。なお、図1の電気透析槽6では、単純化するため、カチオン膜とアニオン膜がそれぞれ1つ設置された図としたが、実際には、複数のカチオン膜とアニオン膜が交互に設置される。
【0031】
また、陽イオン、陰イオンが除去された液体、すなわち硫酸が除去された液体は糖液として回収される。この場合、電気透析槽6にて硫酸を回収することで、20質量部の糖液が得られる。得られた糖液中には硫酸が0.5質量%程度しか含まれておらず、この糖液は、発酵槽7へ送液される。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態にかかるメタン発酵方法のフロー図である。嫌気性微生物によりセルロース廃液のメタン発酵が開始されると、まず、酪酸9が生成される。さらに、酪酸9からカプロン酸10が、カプロン酸10から酢酸11が生成され、その後、酢酸11からメタン12が生成される。これらの反応は、逐次的に進行する。発酵槽7へ送液された糖液は、メタン発酵により、中間体として酪酸やカプロン酸などの有機酸が生成し、これがメタン発酵を阻害することが予測されるため、嫌気性微生物によるメタン発酵を行う前に、水が添加され、糖液の濃度が0.15〜0.3mol/Lとなるように希釈される。希釈後の糖液の炭素濃度は、0.15〜0.3mol/Lとなる。また、メタン発酵の進行中には、糖液にアルカリ性化合物が適宜添加され、糖液のpHが6.4〜7.0の範囲になるように維持される。糖液を中和する際には、緩衝液にしておくことが好ましい。このようにすることで、メタン発酵の収率を向上させることが可能となる。得られるメタンは16質量部であり、4質量部の残渣が残る。なお、メタン発酵を行う前に、アルカリ性化合物を添加して、糖液中に残った硫酸を中和することが必要である。また、メタン発酵は、25〜50℃で行なうことが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
(メタン発酵実験)
酵母エキス、塩化アンモニウムおよびリン酸水素二カリウムをそれぞれ1.0mg/ml、レサズリンナトリウム(酸化還元指示薬)を1.0mg/lに調整した後、オートクレーブにより滅菌することで、栄養塩水溶液を調整した。70ml容バイアル瓶に10mlの中海底質(湿重13g、含水率78%)を取り、グルコース溶液(1.5M)に水を添加し、サンプルの濃度が0.15Mとなるように希釈したものに栄養塩水溶液(pH7.0)40mlを添加した。
【0035】
サンプルをブチルゴムで密栓してアルミキャップでシールした後、25℃の暗所で静置培養した。サンプルは1週間毎に注射器を射して、内圧を大気圧に戻し、増加した体積を測定してから、ヘッドスペースの20μlをガスクロマトグラフによるメタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。メタンはFID(カラム:Porapak Q、キャリアガス:ヘリウム20ml/min、カラム温度:70℃、注入口の検出温度:150℃)、二酸化炭素はTCD(カラム:シリカゲルカラム、キャリアガス:ヘリウム80ml/min、カラム温度:70℃、注入口の検出温度:100℃)で検出し、それぞれの標準ガスを用いて同定・定量した。
【0036】
(メタン生成割合)
サンプルについて、発酵後のメタン濃度を測定し、下記の式を用いて、メタン生成割合を算出した。
【数1】
【0037】
(実施例2)
調整したサンプルについて、メタン発酵中の糖液のpHが6.4〜7.0の範囲になるように、0.5M水酸化ナトリウム溶液を糖液の発酵が終了するまで適宜滴下した以外は、実施例1と同様にしてサンプルの静置培養を行った。
【0038】
(比較例1)
サンプルについて、水による希釈を行わないこと以外は、実施例1と同様にしてサンプル(濃度1.5M)の静置培養を行い、メタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。
【0039】
(比較例2)
サンプルについて、水による希釈を行わないこと以外は、実施例2と同様にしてサンプル(濃度1.5M)の静置培養を行い、メタンおよび二酸化炭素の濃度測定を行った。
【0040】
図3は、実施例及び比較例にかかるメタン発酵実験の結果を示すグラフである。図3に示すように、実施例1では、養時間が35日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が24%に到達した。また、実施例2では、培養時間が21日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が31%に到達した。一方、比較例1では、培養時間が35日経過してもメタン生成割合は0%であり、メタンの生成は確認されなかった。また、比較例2では、35日を経過した後からメタン濃度が増加し、培養時間が115日になるとメタン生成割合が8%に到達した。
【符号の説明】
【0041】
1 解緩槽
2 分離槽
3 濾過機
4 乾燥機
5 樹脂クロマト塔
6 電気透析槽
7 発酵槽
8 セルロース廃液(高濃度グルコース)
9 酪酸
10 カプロン酸
11 酢酸
12 メタン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し、糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法。
【請求項2】
メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法。
【請求項3】
糖液にアルカリ性化合物を添加して中和することで糖液のpHを維持することを特徴とする請求項2記載のメタン発酵方法。
【請求項4】
アルカリ性化合物が、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選択されるいずれか1種である請求項3記載のメタン発酵方法。
【請求項1】
グルコースの単量体および/またはその多量体を含む糖液中の炭素濃度を0.3mol/L以下に調整し、糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法。
【請求項2】
メタン発酵中の糖液のpHを6.4〜7.0に維持しながら糖液をメタン発酵させるメタン発酵方法。
【請求項3】
糖液にアルカリ性化合物を添加して中和することで糖液のpHを維持することを特徴とする請求項2記載のメタン発酵方法。
【請求項4】
アルカリ性化合物が、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選択されるいずれか1種である請求項3記載のメタン発酵方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2011−239715(P2011−239715A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113960(P2010−113960)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物への発表 発行者 日本微生物生態学会 刊行物名 第25回日本微生物生態学会講演要旨集 発行日 2009年11月21日 2.研究集会において文書をもって発表 研究集会名 第25回日本微生物生態学会 主催者名 日本微生物生態学会 開催日 2009年11月21日
【出願人】(391041660)株式会社藤井基礎設計事務所 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物への発表 発行者 日本微生物生態学会 刊行物名 第25回日本微生物生態学会講演要旨集 発行日 2009年11月21日 2.研究集会において文書をもって発表 研究集会名 第25回日本微生物生態学会 主催者名 日本微生物生態学会 開催日 2009年11月21日
【出願人】(391041660)株式会社藤井基礎設計事務所 (4)
【Fターム(参考)】
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