説明

メタン発酵槽

【課題】 比較的簡易な装置構造であって、かつ、動力を特に要することなくメタン発酵槽内の液面におけるスカムの浮遊を防止できるメタン発酵槽を提供する。
【解決手段】 メタン発酵槽20の上蓋2内面の、該メタン発酵槽20内の発酵液のスカム形成面上方に位置する部分に、付着する凝縮水を集めて滴下させる複数の突起6を所定間隔で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性微生物を用いて、糞尿、生ゴミ、食品加工残滓等の有機性廃棄物を処理する際に用いるメタン発酵槽に関する。
【背景技術】
【0002】
生ゴミ等の有機性廃棄物のほとんどは、焼却や埋立処分されているが、焼却に伴うダイオキシンの発生や埋立処分地の逼迫、悪臭等の問題から、環境負荷の少ない処理方法が求められている。これらの問題を解決するために有機性廃棄物をメタン発酵処理し、発生したメタンガスを燃料電池やガスエンジンを用いて発電するシステムが研究、開発されている。
【0003】
メタン発酵は、有機性廃棄物を粉砕・スラリー化した後、このスラリーを発酵槽に投入し、嫌気性下でメタン菌により発酵処理することで、有機性廃棄物をメタンガスに転換するもので、投入原料の性状や運転条件等により様々な処理方法、発酵槽が提案されている。
【0004】
ごみ等の有機性廃棄物をメタン発酵法で効率的に処理するメタン発酵装置として、例えば下記特許文献1、2等には、有機性廃棄物をペースト状に粉砕して、50〜60℃で大きな活性を示す高温メタン菌で処理するメタン発酵装置が開示されている。高温菌は36〜38℃の中温で活性が大きくなる中温菌に比べ2〜3倍程の活性を持っており、高温菌でメタン発酵を行うことで分解速度の向上と消化率の向上を図っている。有機性廃棄物を用いたメタン発酵は、メタンガスの生成量を増大でき、燃料電池等のガス発電に有効利用できるメリットがある。
【0005】
しかしながら、メタン発酵処理においては、処理温度に関係なく、有機性廃棄物中の油脂や未発酵物や、発酵残渣等によるスカムが生成される。
【0006】
このスカムは、メタン発酵処理において、配管閉塞等の一因となり、メタン発酵処理の安定稼動に支障をもたらすことがある。
【0007】
メタン発酵槽内にスカムが形成されにくくするための各種方法が検討されており、例えば、下記特許文献3では、メタン発酵槽等の生物反応槽において、反応槽上部の水面近傍に、スカムを掻き取るスキマーを設けるか、あるいは、反応槽上部の天板に清水噴射シャワー管を設け、生物反応槽内のスカムを破砕している。
【0008】
また、下記引例4では、メタン発酵槽等の生物反応槽に、一時貯留槽と連通するサイホン管を設け、バイオガスの発生に伴って徐々に上昇する圧力を利用して、サイホン効果により一時貯留槽内に発酵液を貯留させ、その後、一時貯留槽の貯留した発酵液を一度に反応槽へ流下させることにより生物反応槽を攪拌して、スカムを破砕している。
【特許文献1】特開2001−46997号公報
【特許文献2】特開平10−137730号公報
【特許文献3】特開平7−284796号公報
【特許文献4】特開2001−70990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
メタン発酵槽内のスカム形成を防止するにあたって、例えば上記特許文献3のような動力を要する方法では、処理量の大容量化に伴ない、要する動力が過大となるため、運転コストがかかり、処理量の大容量化には適しにくいものであった。
【0010】
また、上記特許文献4の場合、一時貯留槽等サイホン効果により押し上げられた発酵液を貯留するための装置等をメタン発酵槽に併設する必要があるので、メタン発酵槽が大型化及び複雑化することが予想され、装置コストや設置スペースの点で問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、比較的簡易な装置構造であって、かつ、動力を特に要することなく、メタン発酵槽内の液面におけるスカムの浮遊を防止できるメタン発酵槽を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するにあたり、本発明のメタン発酵槽は、メタン発酵槽の上蓋内面の、該メタン発酵槽内の発酵液のスカム形成面上方に位置する部分に、付着する凝縮水を集めて滴下させる複数の突起を所定間隔で形成したことを特徴とする。
【0013】
メタン発酵槽内は、使用する嫌気性微生物により異なるが、おおよそ35〜55℃程度に保たれており、発酵液が蒸発して水蒸気として存在していたり、メタン発酵により生成されるバイオガス中の水分が水蒸気として存在し、極めて湿度の高い状態である。そして、この水蒸気は、メタン発酵槽内の上蓋内面等に付着し、凝縮して水となり、この凝縮水が天井面に溜まって水滴となって落ちていく。
【0014】
しかしながら従来はこの凝縮水の滴下位置について特に考慮されておらず、天井に溜まった凝縮水は、隔壁を伝わったり、上蓋の低くなった位置から滴下していた。例えば、メタン発酵処理を実施するにつれ、有機性廃棄物中の油脂等の汚染物が上蓋内面に付着していくことがあるが、この汚染物の付着した部位に凝縮水が溜まって、そこからのみ滴下する傾向があった。そのため、従来のメタン発酵槽では、凝縮水が発酵液のスカム形成面に効果的に落下する構造とはなっていなかった。
【0015】
本発明によれば、上蓋内面の、メタン発酵槽内の発酵液のスカム形成面上方に位置する部分に、付着する凝縮水を集めて滴下させる複数の突起を所定間隔で形成したので、突起の近傍の凝縮水が該突起の先端部に集中して集まり、凝縮水の滴下スポットを特定することができ、スカム形成面の所定位置に凝縮水を滴下させることができる。こうして、突起の先端部に集められた凝縮水を、発酵液中のスカム形成面に向かって滴下させることにより、メタン発酵槽内のスカムを効果的に破砕でき、スカムの浮遊を低減できる。
【0016】
また、本発明においては、前記メタン発酵槽の上蓋内面の、前記スカム形成面上方に位置する部分以外の部分は、凹状に湾曲していることが好ましい。この態様によれば、凝縮水をより突起に集約でき、スカムの破砕効果が高い。
【0017】
そして、前記メタン発酵槽の天井面には冷却機構が設置されていることが好ましく、この冷却機構は、フィンによる空冷機構及び/又は冷却水による水冷機構であることがより好ましい。この態様によれば、バイオガス中の水分や発酵液中の蒸発水分を、効率よく凝縮することができるので、凝縮水の発生量及び滴下量を増大することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上蓋内面の、メタン発酵槽内の発酵液のスカム形成面上方に位置する部分に、付着する凝縮水を集めて滴下させる複数の突起を所定間隔で形成したので、突起の近傍の凝縮水が該突起の先端部に集中して集まり、凝縮水の滴下スポットを特定することができ、スカム形成面の所定位置に凝縮水を滴下させて、メタン発酵槽内のスカムを効果的に破砕し、スカムの浮遊を低減できる。
【0019】
したがって、特に動力を要することなく、メタン発酵槽内の液面における、スカムの形成及び浮遊を防止できる。また、比較的簡易な装置構造であり、特に特殊な装置等も要することがないので、装置が複雑化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて更に詳細に説明する。なお、以下の各実施形態では、メタン発酵槽の形状は円筒状としたが、円筒状に限らず、角塔状等、各種形状とすることができる。
【0021】
図1、2は、本発明のメタン発酵槽の構成を示す第一の実施形態であり、このメタン発酵槽20は、円筒状の発酵槽筐体1と、その上部に配置し、槽内の気密性を保持するための発酵槽上蓋2とで主に構成されている。なお、上蓋2は、発酵槽筐体1と一体となって連結されていて、メタン発酵槽20の上壁をなしていてもよい。
【0022】
メタン発酵槽20内には、図示しないメタン菌等の嫌気性微生物が付着・担持された固定化微生物を充填した固定ろ床等の担体が設置されている。
【0023】
発酵槽筐体1の同壁下端部の一箇所には、メタン発酵槽20にスラリー状の有機性廃棄物を供給するためのスラリー供給口3と、それに連結されたスラリー供給管3aとが配置されている。また、同壁下端部の上記と対向する箇所には、メタン発酵処理後のスラリーを引き抜くための廃液排出口4と、それに連結された廃液引き抜き管4aとが設けられており、引き抜かれたスラリーは図示しない廃液処理槽で浄化処理されるようになっている。
【0024】
発酵槽上蓋2のメタン発酵槽の内部と接する面(以下単に内面とする)には、突起6が所定間隔で複数形成されており、その先端部に、メタン発酵処理によって発生するバイオガス中の水分、及び、発酵液の蒸発水分が凝縮した凝縮水を集めて、滴下させることができるようになっている。なお、この態様においては、発酵液の全面に渡ってスカムが形成する可能性がるので、発酵槽上蓋2の内面には、所定間隔で突起6が、全面にわたって配置されている。図2(a)に発酵槽上蓋2の正面図を、図2(b)にその底面図を示す。
【0025】
また、発酵槽上蓋2には、メタン発酵処理にて発生したバイオガスを取り出すためのバイオガス排出口5と、それに連結するバイオガス排出管5aとが設けられている。そして、バイオガス排出管5aは、図示しないガスホルダーに連結されており、ガスホルダーにてバイオガスが回収される。
【0026】
また、本発明においては、発酵槽上蓋2には、フィンや、冷却水を流通させる水路等の冷却機構を設けてもよい。例えば、冷却機構としてフィンを用いた場合、図5のように、発酵槽上蓋2の外面に、フィン10を設置する。なお、フィンの構造や設置間隔は特に限定はないが、放冷効果が高くなるように配置すればよい。図5(a)にこの発酵槽上蓋2の正面図を、図5(b)にその平面図を示す。
【0027】
冷却機構を設けることで、凝縮水の発生量を増大することができ、凝縮水の滴下頻度が増加する。したがって、スカムの破砕効果を向上できる。ただし、冷却機構を設置した場合、発酵槽筐体1と接する箇所には断熱材等を介在させて、発酵槽筐体1から発酵槽上蓋2への熱の伝導を遮断できるような構成としたほうがよい。
【0028】
次に、このメタン発酵槽20を用いたメタン発酵処理方法について説明する。
スラリー供給管3aから、メタン発酵槽20内に供給された有機性廃棄物は、槽内の嫌気性微生物によって、メタン発酵処理される。
【0029】
メタン発酵処理は、使用する嫌気性微生物により異なるが、50〜60℃で行なうことが好ましい。これによれば、より活性の高い、高温メタン菌での発酵が行なえるので、有機性廃棄物の分解速度を向上することができ、かつ、槽内をより高湿度状態に保つことができる。
【0030】
メタン発酵槽20内は、発酵液中の蒸発水分や、メタン発酵処理によって発生したバイオガス中の水分により、高湿度状態となっている。そして、これらの水分は発酵槽上蓋2の内面や突起6に付着して凝縮水となり、発酵槽上蓋2の内面に付着した凝縮水は、その内面を伝って近傍の突起6に徐々に集まり、突起6の先端部から発酵液面Sに向かって順次に滴下していき、発酵液面Sに形成されたスカムを破砕する。突起6は、発酵液面Sの上方に均一に分散して設置されているので、スカム形成面にまんべんなく凝縮水が滴下してスカムを効果的に破砕でき、スカムの浮遊を防止できる。
【0031】
なお、一定時間毎に供給されるスラリーと同量の廃液が、廃液排出口4から図示しないスラリー引抜きポンプ等によって引き抜かれ、メタン発酵槽20内は、常に一定量のスラリーで満たされている。また、発酵により生成したバイオガスは、図示しないガスホルダーに回収され、燃料電池発電装置、ガスエンジン等の発電機やボイラーの燃料として有効利用されるようになっている。
【0032】
図3、4は、本発明のメタン発酵槽の構成を示す第二の実施形態である。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には、同符号を付してその説明を省略することとする。
【0033】
この実施形態においては、メタン発酵槽20aの内部には、円筒形状のドラフトチューブ7が、その両端開口部が上下に向くように配置されている。このドラフトチューブ7は、スラリーが供給されたり、バイオガスを吹き込まれたりされる部材であり、金属や樹脂にて主に形成されている。そしてこのドラフトチューブ7の外周には、メタン菌等の嫌気性微生物が付着・担持された担体が設置されている。
【0034】
スラリー供給口3と、それに連結されたスラリー供給管3aが、発酵槽上蓋2に設けられており、スラリー供給管3aからドラフトチューブ7の内部へスラリーを供給できるように構成されている。また、発酵槽筐体1の底部には、メタン発酵処理後のスラリーを引き抜くための廃液排出口4と、それに連結された廃液引き抜き管4aとが設けられている。
【0035】
発酵槽上蓋2の内面の中央部を除く部分には、突起6が所定間隔で形成されており、また、ドラフトチューブ7の内側の真上に位置する面は、凹状に形成されている。図4(a)にこの発酵槽上蓋2の正面図を、図4(b)にその底面図を示す。
【0036】
また、発酵槽上蓋2には、メタン発酵処理にて発生したバイオガスを取り出すためのバイオガス排出口5及びバイオガス排出管5aが設けられており、バイオガス排出管5aは、図示しないバイオガスホルダーへ向かう配管5bと、バイオガス循環ポンプ8へ向かうバイオガス供給管5cとに分岐している。そして、バイオガス循環ポンプ8に連結されたバイオガス供給管5cはドラフトチューブ7内部に向けて延びており、ドラフトチューブ内にバイオガスを吹き込むことができる構成となっている。
【0037】
次に、このメタン発酵槽20aを用いたメタン発酵処理方法について説明する。
【0038】
スラリー供給口3から有機性廃棄物が、メタン発酵槽20内に設置されたドラフトチューブ7内部に供給される。一方、バイオガス循環ポンプ8及びバイオガス供給管5cにより、バイオガスがドラフトチューブ7内に吹き込まれるようになっている。そのため、ドラフトチューブ7内では、バイオガスがスラリーを押しのけて上方へと流れるとともに、スラリーが上向きに持上げられて、いわゆるリフトオフ上昇流が発生し、スラリー供給管3aより供給された粒度の細かいスラリーは、ドラフトチューブ7の上端より、ドラフトチューブの外周部へ流入する。ドラフトチューブ7内は、バイオガスによるバブリング作用及びリフトオフ上昇流を受けて攪拌分散されているので、メタン発酵過程で生成するスカムは定期的に破壊されている。
【0039】
一方、ドラフトチューブ7の外周部には、メタン発酵過程で徐々にスカムが形成されていくが、突起6の先端部には、上蓋2の内面に付着した凝縮水が集中して集まり、その先端部から発酵液面Sに向かって順次滴下していき、発酵液面Sに形成されたスカムを効果的に破砕する。
【0040】
なお、この態様においては、上蓋2の、ドラフトチューブ7の上方に位置する面は、凹状に形成されているので、この凹状面に付着した凝縮水は、凹状面を伝って外周に移動し、スカム形成面の上方に設けた突起6へ集まり、スカム形成面に対して効果的に凝縮水を滴下できる。
【0041】
なお、一定時間毎に供給されるスラリーと同量の廃液が、廃液排出口4から図示しないスラリー引抜きポンプ等によって引き抜かれ、メタン発酵槽20内は、常に一定量のスラリーで満たされている。また、発酵により生成したバイオガスは、図示しないガスホルダーに回収され、燃料電池発電装置、ガスエンジン等の発電機やボイラーの燃料として有効利用されるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のメタン発酵処理方法は、生ゴミ、食品加工残滓、活性汚泥処理等の余剰汚泥等の、有機性廃棄物のメタン発酵処理に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のメタン発酵槽の構成を示す第一の実施形態である。
【図2】同メタン発酵槽の上蓋を示し、(a)は正面図、(b)は底面図である。
【図3】本発明のメタン発酵槽の構成を示す第二の実施形態である。
【図4】同メタン発酵槽の上蓋を示し、(a)は正面図、(b)は底面図である。
【図5】冷却構造としてフィンを取り付けた場合のメタン発酵槽の上蓋を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1:発酵槽筐体
2:発酵槽上蓋
3:スラリー供給口
4:廃液排出口
5:バイオガス排出口
6:突起
7:ドラフトチューブ
8:バイオガス循環ポンプ
10:フィン
20:メタン発酵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵槽の上蓋内面の、該メタン発酵槽内の発酵液のスカム形成面上方に位置する部分に、付着する凝縮水を集めて滴下させる複数の突起を所定間隔で形成したことを特徴とするメタン発酵槽。
【請求項2】
前記メタン発酵槽の上蓋内面の、前記スカム形成面上方に位置する部分以外の部分は、凹状に湾曲している請求項1に記載のメタン発酵槽。
【請求項3】
前記上蓋には冷却機構が設けられている請求項1又は2に記載のメタン発酵槽。
【請求項4】
前記冷却機構は、フィンによる空冷機構及び/又は冷却水による水冷機構である請求項3に記載のメタン発酵槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−247558(P2006−247558A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69302(P2005−69302)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】