説明

メタン発酵槽

【課題】槽内に配置された担体が切断されにくく、担体の交換頻度を低減できるメタン発酵槽を提供する。
【解決手段】有機性廃棄物をメタン発酵処理するメタン発酵槽1内に、嫌気性微生物を担持する担体11が、メタン発酵槽の底部に固定配置された上部支持体21と、メタン発酵槽の上部に固定配置された下部支持体22との間で、その上下端が保持されて、メタン発酵槽1内に収容されており、担体11の上端が、浮力が作用しない状態で含水された担体11の重さによって伸びることが可能な伸縮継手13を介して上部支持体21と連結されているメタン発酵槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽内に担体が固定配置されたメタン発酵槽に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵処理は、有機性廃棄物を嫌気性下でメタン菌などの嫌気性微生物による作用により処理してメタンガスに転換する処理方法であり、有機性廃棄物をバイオガスと水とに分解して大幅に減量することができ、嫌気性のため曝気動力が不要であることから省エネルギーな有機性廃棄物の処理方法である。しかも、副産物として生成するメタンガスをエネルギーとして回収できるメリットがある。
【0003】
メタン発酵処理では、メタン発酵に関わる微生物の密度を上げることで、処理効率が向上するので、メタン発酵槽内に担体を配置し、該担体に微生物を付着保持させて密度を上げて発酵処理を行うことが行われている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、メタン発酵槽内に、支持体に吊り下げられた複数本の担体を配置し、該支持体を、回転及び/又は上下方向に駆動させて槽内の発酵液を攪拌してメタン発酵処理を行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2006−281112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メタン発酵が正常に運転している場合(定常運転時)は、担体を支持体で吊り下げ固定してメタン発酵槽内に配置していても、槽内の発酵液は担体の上端部まで満ちているため、担体には浮力が働いており、下方に引っ張られる力が弱く切断されにくい。
【0006】
しかしながら、槽内洗浄などのメンテナンス時に発酵液を流去するなどして、メタン発酵槽内の発酵液の水位が低下した場合は、担体自体の重さに加え、担体が吸水した重さがかかる。このため、担体を支持体で吊り下げて支持していると、担体が下方に引っ張られて切断され易かった。担体が切断されると、担体の切断片が発酵槽内を浮遊して、発酵液の排出口や、有機性破棄物の投入口などの配管を閉塞する等の不具合が生じ、更には、担体の交換・取り付けに手間を要し、メンテナンスに手間や費用が嵩む問題があった。
【0007】
上記特許文献1では、担体を吊り下げた支持体を回転及び/又は上下方向に駆動させているが、その目的は、担体に付着したバイオガス及び発酵汚泥を除去すると共に、発酵液を攪拌して温度分布などを均一化することにある。このため、この支持体の前記駆動操作は、メタン発酵槽内に発酵液が充分な水位で充填されている際に行うことを前提にしており、上記特許文献1にはメタン発酵槽内の発酵液の水位が低下した際の処置については何ら開示されていない。また、上記特許文献1では、下部支持体を固定することなく、上部支持体を回転及び/又は上下方向に駆動しているので、上部支持体と下部支持体との間隔は、上部支持体を上下方向に駆動させてもほぼ一定間隔を保つこととなり、メタン発酵槽内の水位が低下した際の上記問題点は解決できなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、槽内に配置された担体が切断されにくく、担体の交換頻度を低減できるメタン発酵槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のメタン発酵槽は、嫌気性微生物を担持する担体が配置されたメタン発酵槽であって、前記担体は、前記メタン発酵槽の底部に固定配置された下部支持体と、前記メタン発酵槽の上部に固定配置された上部支持体との間で、その上下端が保持されてメタン発酵槽内に支持され、前記担体の上端が、浮力が作用しない状態で含水された前記担体の重さによって伸びることが可能な伸縮継手を介して前記上部支持体と連結されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のメタン発酵槽の前記伸縮継手は、弾性体又はダンパからなることが好ましい。
【0011】
本発明のメタン発酵槽は、前記上部支持体、前記下部支持体及び前記担体が、かご状のフレームに収容されて、前記メタン発酵槽内に設置されていることが好ましい。
【0012】
本発明のメタン発酵槽の前記担体は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ビニロン繊維、塩化ビニリデン繊維、及び炭素繊維から選ばれる繊維素材を不織布状にしたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メタン発酵槽の底部に固定配置された下部支持体と、メタン発酵槽の上部に固定配置された上部支持体との間で、担体の上下端を保持してメタン発酵槽内に支持したことで、メタン発酵槽内の水位が低下すると、含水した担体の重力により伸縮継手が下方に伸びる。このため、担体が上下方向に縮んで下部支持体上に載り、その重さの大部分が下部支持体によって受けられ、担体が上下方向に引っ張られる荷重が減少するので、担体が切断されにくくなり、担体の交換頻度を低減できる。
また、担体同士が付着すると、その部分は発酵液との接触が無くなるため、発酵効率の低下を引き起こすが、発酵液が充分な水位で充填されている際は、伸縮継手の張力により、担体が常に伸びた状態が維持されるため、担体の伸びによるのたるみが防止され、担体のたるみによる担体同士の付着を防ぐことができ、発酵効率の低下を防止できる効果も有する。
また、上部支持体、下部支持体及び担体を、かご状のフレームに収容してメタン発酵槽内に設置した場合は、このかご状のフレームをメタン発酵槽内へ挿入し、あるいは引き上げるだけで、上部支持体、下部支持体及び担体をメタン発酵槽内に設置し、あるいは取り出しできる。その際、かご状のフレームが挿入や引き上げの際のガイドとなるので、設置や取出し作業が容易になり、メタン発酵槽の製造時やメンテナンス時に要する手間を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜3を参照して本発明のメタン発酵槽の一実施形態を説明する。
図1に示すように、このメタン発酵槽1は、円筒状の槽10内に、担体11が複数本配置されている。
【0015】
担体11としては、特に限定はなく、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ビニロン繊維、塩化ビニリデン繊維、及び炭素繊維から選ばれる繊維素材を不織布状に成形したものが、微生物の付着効率が良好であるとの理由から好ましく使用できる。
【0016】
この実施形態では、担体11は、断面が放射状をなす柱状の形状をなしている。なお、担体11の形状は特に限定されず、いずれの形状のものでも使用でき、表面積を大きくできる形状が好ましく使用できる。
【0017】
図2に示すように、担体11の下端部11aは、治具12によって下部支持体22と連結しており、担体11の上端部11bは、バネ体13を介して上部支持体21と連結している。すなわち、この実施形態では、バネ体13が本発明においける伸縮継手を構成している。
【0018】
上部支持体21、下部支持体22(以下、上部支持体21と下部支持体22とをまとめて「支持枠30a」という)は、図3(a)に示すように、環状の枠体31aに桟32aが平行に複数本(この実施形態では4本)配設された形状をなしている。担体11は、桟32aの取付け部33aにて連結される。
【0019】
なお、支持枠は、上記図3(a)の形態に限定されず、いずれの形状のものであっても使用できる。なかでも、発酵液が通過でき、担体11の充填率を高くできるような形状をなすものが好ましく使用でき、図3(b)、(c)に示す構造の支持枠などが他の好ましい一例として挙げられる。図3(b)の支持枠30bは、環状の枠体31bに格子状の桟32bが配設されており、担体11の上端部11b又は下端部11aが、桟32bに設けられた複数の取付け部33bで連結して保持される。図3(c)の支持枠30cは、環状の枠体31cに、該枠体31cと同心状の桟32cと、該枠体31cの中心から放射状に伸びた桟32dとが配設されており、担体11の上端部11b又は下端部11aが、桟32c及び32dに設けられた複数の取付け部33cで連結して保持される。
【0020】
上部支持体21及び下部支持体22の外周には、支持架台23が複数本(この実施形態では4本)配置されている。そして、支持架台23と上部支持体21との当接部分、及び、支持架台23と下部支持体22との当接部分は、それぞれ溶接などされて支持架台23の所定位置に固定されている。支持架台23の下端部は、槽10内の底壁10aに当接しており、支持架台23の下端部が脚部となってメタン発酵槽内に配置されている。
【0021】
次に、上記メタン発酵槽を用いたメタン発酵処理方法について、図4〜7を用いて説明する。
【0022】
メタン発酵槽1内に、図示しない有機性廃棄物導入管などから有機性廃棄物を供給し、槽内に供給された有機性廃棄物を、担体11に担持された嫌気性微生物によりメタン発酵する。なお、槽内の発酵液は、供給された有機性廃棄物と同量の発酵液が図示しない発酵廃液引き抜き管等から引き抜かれ、槽内には常時一定量の発酵液が満ちている。そして、有機性廃棄物をメタン発酵して得られたバイオガスは、図示しないバイオガス取出し管等から取り出される。
【0023】
定常運転時は、図4に示すように、メタン発酵槽1内の発酵液の液面L1は、ほぼ担体11の上端部まで満ちている。このため、担体11のほぼ全体に浮力が働いており、重力により下方へ引っ張られる力が弱く、担体11は切断されにくい。また、担体11の上下端が、上下支持体によって支持されているので、発酵液中に担体11が浮遊することもない。
【0024】
しかしながら、槽内洗浄などのメンテナンス時に槽内から発酵液を流去するなどして発酵液の水位が低下すると、担体11にかかる浮力が低下するばかりか、担体11は発酵液を吸水してその重量が増加しているので、担体11が下方に引っ張られる力が強くなる。また、メタン発酵槽内の発酵液は、高温、高アルカリ性の溶液であることから、メタン発酵処理を長期間実施すると担体が腐食劣化して耐久性が低下し易いので、切断され易くなっている。
【0025】
このメタン発酵槽1は、担体11の上端部11bと上部支持体21とを、バネ体13を介して連結したので、定常運転時等のように担体11に浮力が働いている間は、図4,5に示すように、バネ体13は収縮した状態をなしているが、メタン発酵槽1内から発酵液を排水するなどして槽内の発酵液の水位が低下すると、担体11に働く浮力が小さくなり、下方に引っ張られる力が強くなるので、バネ体13が下方へと引っ張られ、図6,7に示すようにバネ体13が伸びる。このように、担体11が下方へと引っ張られる力が強くなると、バネ体13が伸びて担体11が上下方向に縮み、担体11が下部支持体22上に載るので、担体11の重さの大部分が下部支持体22によって受けられ、上下方向に引っ張られる荷重が減少する。このため、担体11が切断されにくくなり、担体11の交換頻度を低減できる。
【0026】
なお、この実施形態では、伸縮継手としてバネ体を用いたが、浮力が作用しない状態で含水された担体11の重さによって伸縮可能なものであれば特に限定はなく、ダンパなどを使用することができる。
【0027】
図8,9を用いて、伸縮継手としてダンパを使用した場合の例について説明する。
【0028】
定常運転時等のように担体11に浮力が働いている間は、図8に示すように、ダンパ14は収縮した状態をなしている。しかしながら、メタン発酵槽1内から発酵液を排水するなどして槽内の発酵液の水位が低下して担体11が下方に引っ張られる力が強くなると、図9に示すように、ダンパ14は伸び、担体11が上下方向に縮んで下部支持体22上に載る。このため、その重さの大部分が下部支持体22によって受けられ、上下方向に引っ張られる荷重が減少するので、担体11が切断されにくくなり、担体11の交換頻度を低減できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により、本発明の作用効果を説明する。
【0030】
(実施例)
図1に示すメタン発酵槽を用いて、メタン発酵を行った。担体11として、厚さ10mm、開孔径200μm、空隙率97%程度のポリエステル製の不織布を、幅10cm、長さ2mに裁断して10枚束ねたものを用いた。
担体11の下端11aと下部支持体22とをSUS板(厚さ1mm、長さ10cm)でリベット接続し、担体11の上端11bと上部支持体21とを、中間部にバネ部を有するSUS板でリベット接続して、メタン発酵槽1内に収容した。
メタン発酵槽1内に発酵液を充填した後、排水するという操作を10回行ったところ、担体11は切断されることなく、またその破断強度も初期値と変わらない値であった。
【0031】
(比較例)
実施例において、担体11の上端部11bと上部支持体21とを、バネ部を有していないSUS板でリベット接続して、メタン発酵槽1内に収容した以外は、実施例と同様のメタン発酵槽を用いて、実施例と同様の操作を行ったところ、排水操作時に担体11が吸水した水の重さで伸びた後に切断した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のメタン発酵槽の一実施形態の概略図である。
【図2】担体の概略図である。
【図3】支持枠の概略図である。
【図4】本発明のメタン発酵槽を用いて定常運転した際の状態図である。
【図5】図4の上部支持体と担体との連結部分の拡大図である。
【図6】同メタン発酵槽の槽内から発酵液を引き抜いた際の状態図である。
【図7】図6の上部支持体と担体との連結部分の拡大図である。
【図8】伸縮継手としてダンパを使用して定常運転した際の状態図であって、上部支持体と担体との連結部分の拡大図である。
【図9】伸縮継手としてダンパを使用してメタン発酵槽の槽内から発酵液を引き抜いた際の状態図であって、上部支持体と担体との連結部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
1:メタン発酵槽
11:担体
12a,12b:治具
13:バネ部
14:ダンパ
21:上部支持体
22:下部支持体
23:支持架台
30a,30b,30c:支持枠
31a,31b,31c:枠体
32a,32b,32c,32d:桟
33a,33b,33c:取り付け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性微生物を担持する担体が配置されたメタン発酵槽であって、
前記担体は、前記メタン発酵槽の底部に固定配置された下部支持体と、前記メタン発酵槽の上部に固定配置された上部支持体との間で、その上下端が保持されてメタン発酵槽内に支持され、
前記担体の上端が、浮力が作用しない状態で含水された前記担体の重さによって伸びることが可能な伸縮継手を介して前記上部支持体と連結されている、
ことを特徴とするメタン発酵槽。
【請求項2】
前記伸縮継手は、弾性体又はダンパからなる、請求項1に記載のメタン発酵槽。
【請求項3】
前記上部支持体、前記下部支持体及び前記担体は、かご状のフレームに収容されて、前記メタン発酵槽内に設置されている、請求項1又は2に記載のメタン発酵槽。
【請求項4】
前記担体は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ビニロン繊維、塩化ビニリデン繊維、及び炭素繊維から選ばれる繊維素材を不織布状にしたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のメタン発酵槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−136670(P2010−136670A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315712(P2008−315712)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】