説明

メタン発酵消化液の液肥貯蔵方法

【課題】 貯留期間中の消化液の経時変化における炭酸の揮散によってアンモニアが揮散することを抑制し、肥効成分の窒素濃度の低下を抑制することができるメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法を提供する。
【解決手段】 有機性廃棄物のメタン発酵により生成するメタン発酵消化液を液肥貯蔵槽1に貯留するに際し、pH調整剤供給系3から酸を添加してpH計2で測定するメタン発酵消化液のpHを予め酸性の所定値であるpH5.5にpH調整し、この所定pH値の状態のメタン発酵消化液を液肥として貯蔵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法に関し、有機性廃棄物のメタン発酵により生じるメタン発酵消化液を液肥として利用する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性廃棄物のメタン発酵により生じるメタン発酵消化液を液肥として利用する場合に、メタン発酵消化液の貯蔵中に消化液からアンモニアが揮散して窒素濃度の低下が生じ、肥効成分が低下することがある。
【0003】
このアンモニアの揮散を防止するものとして、特許文献1に記載するものがある。これは肥効促進剤入り肥料の製造方法であり、その製造プロセスは、有機性廃棄物を嫌気的にメタン発酵するためのメタン発酵槽と、メタン発酵槽から取り出した消化液を透過分離するウルトラフィルターと、ウルトラフィルターを透過した消化液に無機酸を添加して、含有するアンモニアをアンモニウム塩溶液にするアンモニア固定槽とを備えるものである。
【0004】
このプロセスにおいては、メタン発酵工程で有機性廃棄物をメタン発酵槽内で嫌気的メタン発酵し、メタン発酵を終えた消化液をウルトラフィルターに供給して膜分離し、ウルトラフィルターを透過した浄化液をアンモニア固定槽に供給し、この消化液に含まれているアンモニアが揮散されないように、無機酸の添加によってアンモニアをアンモニウム塩溶液として固定するものである。
【0005】
ここで、アンモニアの揮散防止のために添加する無機酸の量は、肥効促進剤入り肥料の使用目的に応じて任意に選択して添加するが、その際消化液中に含まれる溶存COの一部が気化されて放散する。
【0006】
この消化液に添加する無機酸として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等各種の無機酸を使用し、好ましくはリン酸及び硫酸を使用するものであり、無機酸としてリン酸や硫酸を使用した場合には、消化液中に肥効上好ましいリン酸アンモニウム(リン安)や硫酸アンモニウム(硫安)を生成する。
【特許文献1】特開2003−55077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、メタン発酵消化液中には炭酸(HCO)が含まれており、炭酸が残留するメタン発酵消化液を貯留すると、炭酸が揮散することにともなって貯留したメタン発酵消化液のpHが高まり、結果としてアンモニアの揮散が増加する。
【0008】
このため、上記したように、消化液に含まれているアンモニアの揮散を防止するために、無機酸を添加して中和反応によりアンモニアをアンモニウム塩溶液として固定する構成においても、炭酸が残留する状態でメタン発酵消化液を貯留すると、炭酸の揮散によるpHの高まりにともなって消化液中のアンモニアが揮散する。
【0009】
本発明は上記した課題を解決するものであり、貯留期間中の消化液の経時変化における炭酸の揮散によってアンモニアが揮散することを抑制し、肥効成分の窒素濃度の低下を抑制することができるメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法は、有機性廃棄物のメタン発酵により生成するメタン発酵消化液を貯留するに際し、メタン発酵消化液のpHを予め酸性の所定値にpH調整し、この所定pH値の状態のメタン発酵消化液を液肥として貯蔵することを特徴とする。
【0011】
上記した構成により、貯蔵に先立ってメタン発酵消化液のpHを予め酸性の所定pH値に調整することで、液肥の貯蔵期間中のアンモニアの揮散を抑制し、液肥中の肥効成分をなす窒素濃度の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明のメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法は、有機性廃棄物のメタン発酵により生成するメタン発酵消化液を貯留するに際し、メタン発酵消化液に含まれた炭酸を予め揮散させて炭酸濃度を低下させるものであり、メタン発酵消化液のpHを酸の添加により酸性の所定値にpH調整して過飽和となった炭酸をメタン発酵消化液から揮散させ、この炭酸を揮散させた所定pH値の状態のメタン発酵消化液を液肥として貯蔵することを特徴とする。
【0013】
上記した構成により、貯蔵に先立ってメタン発酵消化液のpHを酸性の所定pH値に調整し、メタン発酵消化液に含まれた炭酸を予め揮散させて炭酸濃度を低下させることにより、液肥の貯蔵期間中においてアンモニアが揮散する要因を生じさせる炭酸の揮散を抑制することで、アンモニアの揮散を抑制し、液肥中の肥効成分をなす窒素濃度の低下を抑制することができる。
【0014】
また、所定pH値はメタン発酵消化液中に炭酸が微少残留するpH5.5付近に調整することで液肥がpH緩衝能を有することを特徴とするものである。
上記した構成により、液肥の施肥後の土壌環境に対応するための液肥の効能が増加する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、貯蔵に先立ってメタン発酵消化液のpHを酸性の所定pH値に調整し、さらにはメタン発酵消化液に含まれた炭酸を予め揮散させて炭酸濃度を低下させることにより、貯留期間中の消化液の経時変化における炭酸の揮散によってアンモニアが揮散することを抑制し、肥効成分の窒素濃度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、液肥貯蔵槽1には有機性廃棄物のメタン発酵により生成するメタン発酵消化液を液肥として貯留する。このメタン発酵消化液は前段のメタン発酵槽(図示省略)において膜分離された膜分離液である。
【0017】
液肥貯蔵槽1はpH計2およびpH調整剤として酸を供給するpH調整剤供給系3を備えており、pH計2の値を指標としてpH調整剤供給系3の供給量を制御する。制御は作業者による手動操作によって行っても良く、あるいは自動制御で行うことも可能である。pH調整剤の酸としては、硝酸もしくはリン酸、あるいは硝酸とリン酸の併用とする。
【0018】
上記した構成において、液肥貯蔵槽1にメタン発酵消化液を液肥として貯留するに際し、pH計2の値を指標としてpH調整剤供給系3から供給する酸の供給量を制御しながら、メタン発酵消化液を酸性の所定値であるpH5.5程度にpH調整する。
【0019】
このpH調整によって過飽和となった炭酸をメタン発酵消化液から揮散させ、メタン発酵消化液に含まれた炭酸を貯蔵の始めに予め揮散させて炭酸濃度を低下させる。そして、この炭酸を揮散させた所定pH値の状態のメタン発酵消化液を液肥として貯蔵する。
【0020】
この貯蔵初期にメタン発酵消化液のpHを酸性の所定pH値に調整して炭酸濃度を低下させることにより、以後における液肥の貯蔵期間中での炭酸の揮散を抑制してアンモニアの揮散を抑制することができ、結果として貯蔵した液肥中の肥効成分をなす窒素濃度の低下を抑制することができる。
【0021】
図2は炭酸揮散とアンモニア揮散の関係を示すものである。メタン発酵消化液はNレベルで市販培養液と同等になるように希釈した。図2(a)はメタン発酵消化液中の炭酸濃度HCO(mg/L)の経時変化を示すものであり、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値がそれぞれpH4.5、pH5.5、pH6.5、pH7.5、pH未調整である場合の炭酸濃度の低下傾向を示している。
【0022】
図2(a)により明らかなように、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値が低いほどに経時変化における炭酸濃度の低下傾向は緩くなり、初期値pH4.5、pH5.5のメタン発酵消化液においては貯蔵日数が1日を経過して後は安定した傾向となる。
【0023】
図2(b)はメタン発酵消化液のpH値の経時変化を示すものであり、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値がそれぞれpH4.5、pH5.5、pH6.5、pH7.5、pH未調整である場合のpH値の上昇傾向を示している。
【0024】
図2(b)により明らかなように、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値が低いほどに経時変化におけるpH値の上昇傾向は緩くなる。初期値pH4.5のメタン発酵消化液は、貯蔵日数が2日を経過して後はpH6.5付近で安定した傾向を示し、初期値pH5.5のメタン発酵消化液は、貯蔵日数が2日を経過して後はpH7.5付近で安定した傾向を示している。
【0025】
図2(c)はメタン発酵消化液中のアンモニア濃度NH−N(mg/L)の経時変化を示すものであり、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値がそれぞれpH4.5、pH5.5、pH6.5、pH7.5、pH未調整である場合のアンモニア濃度の経日変化を示している。
【0026】
図2(c)により明らかなように、貯蔵初期におけるメタン発酵消化液のpH値が低いほどに経時変化におけるアンモニア濃度の低下傾向は緩くなる。初期値pH4.5および初期値pH5.5のメタン発酵消化液はアンモニア濃度が約150mg/L以上において安定した傾向を示している。
【0027】
したがって、図2により明らかなように、貯蔵初期にメタン発酵消化液のpHを酸性の所定pH値5.5に調整して炭酸濃度を低下させることにより、以後における液肥の貯蔵期間中での炭酸の揮散を抑制してアンモニアの揮散を抑制することができる。
【0028】
また、所定pH値をpH5.5程度とすることにより、メタン発酵消化液中に炭酸を微少残留させることができ、この微少残留する炭酸によって液肥がpH緩衝能を有し、液肥の施肥後の土壌環境に対応するための液肥の効能が増加する。
【0029】
ところで、市販培養液の窒素形態は硝酸態窒素である。これはほとんどの植物がアンモニアを嫌う好硝酸性作物であることによる。これに対してメタン発酵消化液はアンモニア態窒素が大部分を占める。消化液は窒素レベルで市販培養液と同等とするためには10から20倍程度に希釈する必要があるが、他の肥効成分の濃度が低くなりすぎる。このため、添加する酸として硝酸を用いることで、作物に必要な肥効成分を補足してアンモニアを嫌う好硝酸性作物にも液肥として利用でき、アンモニア過剰害を防ぐことができる。
【0030】
酸としてリン酸を用いた場合には作物に必要なリンを補足することができるが、リン酸はpHが下がり難いので硝酸との併用が好ましい。さらに、リン酸や硫酸を単独で使用する場合にはメタン発酵消化液中のリン、硫黄の濃度が高くなりすぎるので、硝酸との併用が好ましい。
【0031】
【表1】

【0032】
表1は消化液および一般的な市販培養液における無機要素濃度を示している。消化液原液では、各無機要素が肥効成分として十分な濃度を有するが、20倍に希釈した消化液では、アンモニア態窒素およびカリウムが十分であっても他の肥効成分の濃度が低くなりすぎる。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表2および表3は膜分離液であるメタン発酵消化液の原液(pH8.34)の100mL当たりの酸添加量(mL)を示し、目標の所定pH値とするのに必要な硫酸、硝酸、リン酸の各添加量(mL)を示している。硫酸および硝酸は所定pH値5.5とするのに必要な添加量が13mLであるのに対してリン酸は35.0〜36.0mLを必要とする。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表4および表5は膜分離液であるメタン発酵消化液の原液(pH8.34)の100mL当たりに上記した表2および表3の酸を添加した場合におけるメタン発酵消化液中のS、N、Pの各濃度の増加量を示している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態におけるメタン発酵消化液の液肥貯蔵装置を示す模式図
【図2】同発明の実施の形態における炭酸揮散とアンモニア揮散の関係を示すグラフ図
【符号の説明】
【0040】
1 液肥貯蔵槽
2 pH計
3 pH調整剤供給系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物のメタン発酵により生成するメタン発酵消化液を貯留するに際し、メタン発酵消化液のpHを予め酸性の所定値にpH調整し、この所定pH値の状態のメタン発酵消化液を液肥として貯蔵することを特徴とするメタン発酵消化液の液肥貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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