説明

メタン製造用混合ガスの製造方法及びメタンの製造方法

【課題】 本発明は、メタンの合成に利用可能な混合ガスを、低圧且つ1段で製造することができ、しかも触媒損失が小さいことにより製造プロセスの長期運転が可能な、メタン製造用混合ガスの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のメタン製造用混合ガスの製造方法は、水蒸気を用いる触媒ガス化反応によるメタン製造用混合ガスの製造方法において、ガス化温度を600〜800℃とし、触媒の存在下、無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を制御することにより一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒ガス化反応によるメタン製造用混合ガスを製造する方法、及び該混合ガスを用いてフィッシャートロプッシュ反応によりメタンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭からメタンを、フィッシャートロプッシュ合成(以下、FT合成ともいう。)により製造するプロセス開発が行なわれている。その代表的なプロセスは、1)石炭ガス化により水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを製造し、次に2)水性ガスシフト反応で水素濃度を高め、次に3)FT合成反応によりメタンを製造する方法である。
【0003】
この方法によればメタンを製造することはできるが、前記水性ガスシフト反応を行わなければならないため、効率が悪いことから未だ商業化されていない。水性ガスシフト反応が必要な理由は、石炭のガス化による合成ガスの製造において、商業化のために必要とされるガス化速度は1,200℃以上で達成され、この条件下で得られる混合ガスにおけるH/CO比が0.7程度であるのに対し、FT合成反応で要求されるH/CO比は3であることから、水性ガスシフト反応を400℃で行なってH/CO比を3に調整しなければならないからである。即ち、従来のプロセスにおいては、1200℃の反応で合成ガスを製造し、一度400℃まで下げて水性ガスシフト反応を行うという2段階のプロセスを経なければメタンの製造用の混合ガスを製造することができなかった。その結果、エネルギーを大量に消費しなければならない上に、生産効率も悪いことにより、商業化が妨げられていた。
【0004】
また、高圧触媒ガス化プロセスによるメタンの製造も試みられている。この方法によれば、高圧且つ700℃で石炭を分解してガス化を行い、ガス化速度を触媒で向上させることにより、1段プロセスで直接メタンを製造することができる。しかし、従来の高圧触媒ガス化プロセスには触媒劣化によるロスが発生するという問題、50〜70気圧の高圧下で反応を行わなければならないという問題があるため、実用化は難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−143971号公報
【特許文献2】特開2009−13320号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.Tomita, Y. Tamai. Low-temperature gasification of Yallourn coal catalyzed by nickel. Fuel 1981, 60, 992.
【非特許文献2】N. C. Nahas. Exxon Catalytic Coal Gasification Process. Fuel 1983, 62, 239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メタンの合成に利用可能な混合ガスを、低圧且つ1段で製造することができ、しかも触媒損失が小さいことにより製造プロセスの長期運転が可能な、メタン製造用混合ガスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す混合ガスの製造方法が提供される。
[1] 触媒ガス化反応によるメタン製造用混合ガスの製造方法において、圧力を10気圧以下とし、ガス化温度を600〜800℃とし、触媒の存在下、無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を制御することにより一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御することを特徴とするメタン製造用混合ガスの製造方法。
[2] 大気圧下で触媒ガス化反応を行わせることを特徴とする前記1に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[3] 無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を0.01〜0.1に設定することを特徴とする前記1又は2に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[4] 触媒の種類、量により反応速度を調整することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[5] 触媒が炭酸カリウムであり、その無灰炭に対する添加量が6〜50重量%であることを特徴とする前記4に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[6] 亜瀝青炭又は褐炭由来の無灰炭を用いることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[7] 亜瀝青炭がパシール炭であることを特徴とする前記6に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[8] 褐炭がムリア炭であることを特徴とする前記6に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
[9] 無灰石炭と触媒とを混合し、それらを炉内へ供給して水蒸気と接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離することを特徴とする前記1〜8のいずれかに記載のメタン製造用する混合ガスの製造方法。
[10] ガス化炉にフィッシャートロプッシュ合成装置が直結された装置を用いて、前記1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる混合ガスを用いてメタンを製造することを特徴とするメタンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタン製造用混合ガスの製造方法においては、触媒と水蒸気を組み合わせて用いることにより、600〜800℃の低い温度であっても商業化が可能な速度で混合ガスを製造することができ、低い温度で反応させるため、低エネルギーでの製造が可能である。また、石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を制御することにより、得られる混合ガス中の一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御することができ、触媒の種類、添加量により反応速度を制御することができる。この方法により、低圧下低い温度での1段触媒ガス化反応で、H/CO比を3近傍にすることができるので、1段プロセスのでメタン製造用の混合ガスを得ることができる。
本発明においては、無灰石炭を用いることにより、触媒損失を小さく抑えることにより、長時間の連続運転が可能である。
更に、これらの効果が組み合わされることにより、FT合成反応によるメタンの製造を一の装置で連続して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、700℃、S/C比=0.03、0.07、0.24のそれぞれの場合における、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図2】図2(a)は、700℃における、S/C比(横軸)に対する混合ガスの組成(縦軸)を示すグラフであり、図2(b)は、700℃における、S/C比(横軸)に対するH/CO比(縦軸)を示すグラフである。
【図3】図3は、800℃、S/C比=0.03、0.24のそれぞれの場合における、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図4】図4(a)は、800℃における、S/C比(横軸)に対する混合ガスの組成(縦軸)を示すグラフであり、図4(b)は、800℃における、S/C比(横軸)に対するH/CO比(縦軸)を示すグラフである。
【図5】図5は、600℃、S/C比=0.03、0.24のそれぞれの場合における、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、600℃における、S/C比(横軸)に対する混合ガスの組成(縦軸)を示すグラフであり、図6(b)は、600℃における、S/C比(横軸)に対するH/CO比(縦軸)を示すグラフである。
【図7】図7は、原炭、無灰炭のそれぞれに対して、40重量%の炭酸カリウム(触媒)を添加した場合と、添加しない場合について、温度700℃、S/C比=0.24の条件下での反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、図7のそれぞれの組合せで反応させることにより得られた混合ガスの組成を示すグラフである。図8(b)は、図7のそれぞれの組合せで反応させることにより得られた混合ガスのH/CO比を示すグラフである。
【図9】本発明の混合ガス及びメタンの製造方法に用いる装置の例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のメタン製造用混合ガスの製造方法について詳細に説明する。
本発明においては、触媒の存在下、ガス化温度を600〜800℃とし、水蒸気を供給しながら、低圧下、好ましくは大気圧下で石炭のガス化反応を行って、水素と一酸化炭素を含有するメタン製造用混合ガスの製造を行なう。尚、50〜70気圧の高圧下であれば、メタンを直接製造することができる。しかし、大気圧に近い低圧になるほど、水素の含有量が多くなり、第二成分としての二酸化炭素、第三成分としての一酸化炭素を含有する混合ガスが得られるようになる。従って、低圧下でメタンを得るには、得られた混合ガスを反応させなければならない。その場合、一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を3に近づけることが好ましい。
本発明は、後述するように、無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を制御することにより一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御することを特徴とするものである。
なお、水蒸気を供給しないと、熱分解だけが進行し、その結果多量のチャー(石炭残留分)、タール、ガスが生成し、メタン製造用の混合ガスを得ることはできない。
【0012】
本発明におけるガス化温度は600〜800℃であり、好ましくは650〜800℃、より好ましくは700〜800℃である。従って、低エネルギーで混合ガスを得ることができるので、低コストでの製造が可能である。なお、600〜800℃でのガス化を行うと反応速度が遅くなってしまうが、本発明においては、後述するように、触媒を用いることにより商業化可能な反応速度が達成される。
【0013】
ガス化温度を600〜800℃に維持する手段は、バッチ式や連続式などの反応方式を考慮することにより、適宜選定されるが、たとえば副生炭(抽出残渣)の燃焼熱などの外部熱源による加熱方法を採用することが好ましい。
また、昇温速度は、特に制限はなく、例えば20〜1000℃/分、反応時間は、例えば1〜120分が好ましく、30〜60分が更に好ましい。
【0014】
本発明のガス化反応は、好ましくは大気圧下で行なわれる。但し、本発明の目的を損なわない程度の圧力をかけることもできる。其の場合、製造装置の製造が容易であることから、10気圧以下が好ましく、順に5気圧以下、3気圧以下、2気圧以下、1.5気圧以下がより好ましい。
なお、本発明における大気圧とは、意図的に加圧しなくても、石炭から発生するガスが装置内部で急激に膨張することにより、加圧されることを含む意味である。
【0015】
700℃、触媒存在下での、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を図1に示す。図1から、1時間以内で反応が十分に進むことが判る。
800℃、触媒の存在下での、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を図3に示す。図3から、1時間以内で反応が十分に進むことが判る。
600℃、触媒の存在下での、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を図5に示す。図5から、1時間で商業化可能な程度に反応が進むことが判る。
図1、図3、図5から、触媒存在下であれば、600〜800℃の範囲で、所望されるガス化反応が商業化可能な速度で進むことが判る。
なお、図1は、温度700℃での無灰炭に対して40重量%の炭酸カリウムを用いる条件下での、S/C比=0.03、0.07、0.24のそれぞれの場合における、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。図3、図5は、それぞれ温度800℃、600℃での無灰炭に対して40重量%の炭酸カリウムを用いる条件下での、S/C比=0.03、0.24のそれぞれの場合における、反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【0016】
前記の通り、大気圧に近い低圧になるほど、混合ガス中の水素(H)の含有量が多くなる傾向がある。本発明においては、水蒸気の供給量を制御することにより、得られる混合ガス中の一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を変化させる。即ち、無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を大きくするとH、COが増加して、COが減少し、S/C比を小さくするとH、COが減少して、COが増加する。
【0017】
具体例として、温度700℃、800℃、600℃のそれぞれについて、無灰炭に対して40重量%の炭酸カリウム(触媒)を用いる条件下で得られた混合ガスの組成を図2、図4、図6に示す。図2、図4、図6から、600〜800℃の範囲で、水蒸気の供給量を制御することにより、得られる混合ガス中の一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御できることが判る。
なお、図2(a)、図4(a)、図6(a)は、それぞれ700℃、800℃、600℃における、S/C比(横軸)に対する混合ガスの組成(縦軸)を示すグラフであり、図2(b)、図4(b)、図6(b)は、S/C比(横軸)に対するH/CO比(縦軸)を示すグラフである。
【0018】
前記図1、図3、図5に示す関係を利用することにより、H/CO比を3近傍に調整することができる。具体的には、水蒸気の供給量は、S/C比で0.01〜0.1が好ましく、より好ましくは0.02〜0.1であり、更に好ましくは、0.03 〜0.1である。H/CO比を3近傍にするためには、温度が600〜650℃であれば、S/C比を0.01〜0.02とし、温度が650〜700℃であれば、S/C比を0.02〜0.03とし、温度が700〜800℃であれば、S/C比を0.03〜0.1とすることが好ましい。
【0019】
但し、図1、図3、図5に示すように、S/C比を小さくするとガス化速度は小さくなる傾向がある。本発明においては、触媒を用いて反応速度を制御することにより、商業化が可能な反応速度が達成される。具体的には、図1、図3、図5に示すように、S/C比を小さくすると反応速度が遅くなるが、触媒を用いることにより商業化が可能な速度での反応速度が達成される。

【0020】
前記触媒としては石炭の触媒ガス化に用いられる触媒として従来知られているものを好適に用いることができ、特に限定されない。このような触媒としては、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等が例示され、これらのうち、分散性と触媒活性の点からみて、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましく、炭酸カリウムが特に好ましい。また、触媒使用量は、炭酸カリウムの場合には、無水無灰ベースの無灰炭量に対して、6〜50重量%とすることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0021】
触媒を用いることにより、反応が促進される例を図7に示す。図7は、原炭、無灰炭のそれぞれに対して、40重量%の炭酸カリウム(触媒)を添加した場合と、添加しない場合について、温度700℃、S/C比=0.24の条件下で反応時間(横軸)に対する反応率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【0022】
図7から、触媒を添加しないと、原炭、無灰炭とも極めてガス化速度は低いが、40重量%の炭酸カリウムを添加すると、いずれもガス化速度は増加し、50分でほとんど100%ガス化することが判る。但し、触媒のリサイクル利用は無灰炭だけが可能である。
【0023】
なお、図8(a)に、図7のそれぞれの組合せで反応させることにより得られた混合ガスの組成を、図8(b)に、図3のそれぞれの組合せにより得られた混合ガスのH/CO比を示す。
触媒無しでは、H:58〜50 %;CO:5〜6 %;CO:43〜35%;CH:1.5 %となった。一方、触媒存在下では、H:63〜62 %;CO:3〜2%;CO:37〜35%;CH:0 %となった。H/CO比は触媒無しでは10であり、触媒有りでは21以上となった。但し、このような高いH/CO比での合成ガスはメタン製造には不向きであり、メタン製造に用いる混合ガスは、前記の通りH/CO比が3近傍に調整されたものであることが好ましい。
【0024】
本発明の触媒ガス化反応においては、無灰炭を原料として用いることにより、触媒の失活を防ぐことができるので(触媒損失が小さい)、長時間にわたる連続運転が可能である。無灰炭は、亜瀝青炭や褐炭などの埋蔵量が豊富な低品位炭から得ることができ、これらの低品位炭から得られる無灰炭は、高品位炭に比べて価格が安いものである。
【0025】
本発明で用いる無灰石炭とは、有機溶剤を用いた溶剤抽出法により脱灰することにより得られたものであり、ハイパーコールとも呼ばれる。無灰石炭は鉱物質をほとんど含有しないため、触媒ガス化反応において触媒を被毒することがないので触媒の失活を防ぐことができる。
【0026】
以下に無灰石炭の製造方法の一例を示す。
まず、石炭に2〜3倍量の溶剤を混合し石炭スラリーを調製する。溶剤としては2環芳香族が好適に用いられ、具体的には、1−メチルナフタレン、粗メチルナフタレン油等が用いられる。この石炭スラリーは150℃程度で脱水された後、昇温昇圧されて溶剤抽出工程へ送液される。該石炭スラリーは溶媒抽出工程で360〜400℃程度に加熱され、これにより一部の石炭が溶剤に溶解する。次いで固液分離工程へ送られ、固形分をほとんど含まないオーバーフローと固形分が濃縮されたアンダーフローとに分けられる。オーバーフロー液からさらに溶剤を回収することにより無灰石炭(ハイパーコール)を得ることができる。回収された溶剤は、循環使用される。
【0027】
本発明においては、無灰石炭として、亜瀝青炭または褐炭由来のものを用いることが好ましい。
ここで、亜瀝青炭とは、一般に、可燃分:55〜80%、水分:15〜45%からなる組成を有する低品位炭を意味する。このような亜瀝青炭としては、たとえば、パシール炭、ワイオミング炭, グニュンバヤン炭、MTBU炭、キタディン炭、ビニュンガン炭、ワイオダック炭、ロンコウ炭、K−プリマ炭、タニトハルム炭、マリナウ炭、太平洋炭が例示される。
【0028】
また、褐炭とは、一般に、可燃分:35〜55%、水分:45〜65%からなる組成を有する低品位炭を意味する。このような褐炭としては、たとえば、ムリア炭、ロイヤング炭, ビューローザップ炭、ヤルーン炭、アダロ炭、ベラウ炭が例示される。
【0029】
本発明で用いる亜瀝青炭または褐炭由来の無灰炭の製造例を原炭としてパシール炭を用いた場合を例にとり、具体的に説明する。
溶剤としては2環芳香族が好適に用いられ、具体的には、1−メチルナフタレン、ライトサイクルオイル、粗メチルナフタレン油等が用いられる。まず石炭を抽出セルに詰め、溶剤を送液ポンプで一定流量で流しながら、予熱部で360〜400℃に加熱し、これを抽出セルに1時間流すことにより、一部の石炭が溶剤に溶解する。次いで抽出セルの入口と出口には、平均孔径0.5μmの焼結フィルターを取り付け、出口のフィルターで固液分離を行なうことにより、抽出物が抽出液として回収される。その後抽出液から溶剤を回収することで、無灰炭が得られる。
【0030】
このようなパシール炭由来等の無灰炭は、原炭に比べて炭素含有量が高く、酸素および水分含有量が低い。また、灰分は0.02%〜0.1%で、原炭に比べて約1.5倍の熱量を有し、すべて高い燃焼性と流動性を示す。さらには、鉱物質をほとんど含有しないため、触媒ガス化において触媒を被毒することがなく触媒の失活を防ぐことができる。
【0031】
水蒸気を供給しながらガス化反応させる方法としては、前記無灰炭と触媒とを混合し、それらを炉内へ供給して、水蒸気と熱風とを供給しながら前記無灰炭と前記触媒とをよく接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離する方法が好ましく挙げられる。水蒸気と熱風とを供給することにより、無灰炭を細粒化し流動化状態にしてガス化を行うことができ、効率的にガス化反応を起こすことができる。このような反応に用いる装置の例を図9に示す。
なお、図9において、1はガス化炉を、2はフィーダーを、3は無灰炭製造プロセスを、4はボイラーを、5は触媒回収器を、6は熱交換器を、7はコンプレッサーを、8はFT合成装置をそれぞれ示す。
【0032】
本発明においては、図9に一例を示すように、ガス化炉にコンプレッサーを介してフィッシャートロプッシュ(FT)合成装置が直結された装置を用いて、前記触媒ガス化反応により得られる混合ガスからメタンを製造することが好ましい。このようにすると、1段の触媒ガス化反応で得られた混合ガスを用いて、直ちにFT反応が行われるので、メタンを効率良く製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0034】
実施例1〜3
パシール亜瀝青炭(炭素72%)を原炭とし、溶剤抽出/脱灰法により、パシール無灰炭を製造した。つぎに、熱重量測定装置にこのパシール無灰炭を投入し、触媒(KCO:40重量%)、温度700℃、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.03(実施例1)、0.07(実施例2)、0.24(実施例3)の条件でガス化反応を行なった。その結果を図1、図2に示す。
なお、同じ触媒を用いて2〜4回目の反応を行っても、1回目と同様の速度で反応が起きた。
【0035】
図1は実施例1〜3におけるS/C比を変化させた場合の反応速度の変化を示すグラフである。S/C比が小さくなると速度は若干低下するが、商業化には十分な速度を維持できることが判る。
【0036】
図2は、700℃の無灰炭の触媒ガス化において水蒸気と炭素の割合を0.03、0.07、0.24に変化させた時のガス組成とS/C比の関係を示すグラフである。図1から、S/C比が小さいとH、COが少なくなり、COが多くなり、それによってH/CO比はS/C=0.03で3、S/C=0.07で9、S/C=0.24で21となった。この結果から、700℃において、水蒸気と炭素の割合(S/C)を0.03近傍に設定することにより、大気圧下1段でH/CO比=3の混合ガスが得られることが判る。この合成ガスはFT合成プロセスによるメタン製造の原料として好適に利用することができる。
【0037】
参考例1
パシール亜瀝青炭(炭素72%)の原炭に実施例3と同様に触媒を添加して、熱重量測定装置に投入し、700℃、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.24の条件でガス化反応を行なった。実施例3と同様の速度で反応した。但し、同じ触媒を用いて2回目の反応を行うと、反応速度は減少してしまった。
【0038】
比較例1
実施例1〜3で製造したパシール無灰炭に触媒を添加しないで、熱重量測定装置に投入し、触媒(KCO:40重量%)700℃、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.24の条件でガス化反応を行なった。
【0039】
比較例2
パシール亜瀝青炭(炭素72%)の原炭に触媒を添加しないで、熱重量測定装置に投入し、700℃、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.24の条件でガス化反応を行なった。
【0040】
図7に、実施例3、参考例1、比較例1、比較例2における反応速度を示す。
触媒を添加しないと、原炭、無灰炭とも極めてガス化速度が遅いことがわかる。一方、40%の炭酸カリウムの存在下では、いずれもガス化速度は増加し、50分でほとんど100%ガス化した。しかし、無灰炭の場合、触媒のリサイクル利用が可能であるが、原炭の場合には、触媒のリサイクル利用が不可能になる。
【0041】
図8は、実施例3、参考例1、比較例1、比較例2で得られた混合ガスのガス組成とH/CO比を示すグラフである。触媒無しでは、H:58〜50%;CO:5〜6%;CO:43〜35%;CH:1.5 %であった。一方、触媒存在下では、H:63〜62%;CO:3〜2%;CO:37〜35%;CH:0%とであった。
【0042】
実施例4、5
反応温度を800℃に設定し、触媒の存在下、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.03(実施例4)、0.24(実施例5)の条件で、実施例1と同様にガス化反応を行なった。その結果を図3、図4に示す。
なお、同じ触媒を用いて2〜4回目の反応を行っても、1回目と同様の速度で反応が起きた。
【0043】
図3は実施例4、5におけるS/C比を変化させた場合の反応速度の変化を示すグラフである。S/C比が小さくなると速度が若干低下する傾向は700℃の場合と同様であるが、800℃では急速に反応が進むことが判る。
【0044】
図4は、800℃の無灰炭の触媒ガス化において水蒸気と炭素の割合を0.03、0.24に変化させた時のガス組成とS/C比の関係を示すグラフである。図4から、700℃の場合と同様に、S/C比が小さいとH、COが少なくなり、COが多くなり、それによってH/CO比はS/C=0.03で2.5、S/C=0.24で7となった。この結果から、800℃において、水蒸気と炭素の割合(S/C)を0.03近傍に設定することにより、大気圧下1段でH/CO比=3の混合ガスが得られることが判る。この合成ガスはFT合成プロセスによるメタン製造の原料として好適に利用することができる。

【0045】
実施例6、7
反応温度を600℃に設定し、触媒の存在下、水蒸気と炭素の割合(S/C比)0.03(実施例6)、0.24(実施例7)の条件で、実施例1と同様にガス化反応を行なった。その結果を図5、図6に示す。
なお、同じ触媒を用いて2〜4回目の反応を行っても、1回目と同様の速度で反応が起きた。

【0046】
図5は実施例6、7におけるS/C比を変化させた場合の反応速度の変化を示すグラフである。S/C比が小さくなると速度は若干低下する傾向は700℃の場合と同様であるが、600℃では反応速度は低下する。それでも、1時間で60%以上が反応するので、工業化は可能である。
【0047】
図6は、600℃の無灰炭の触媒ガス化において水蒸気と炭素の割合を0.03、0.24に変化させた時のガス組成とS/C比の関係を示すグラフである。図4から、700℃の場合と同様に、S/C比が小さいとH、COが少なくなり、COが多くなり、それによってH/CO比はS/C=0.03で12、S/C=0.24で98となった。この結果から、600℃において、水蒸気と炭素の割合(S/C)を0.01近傍に設定することにより、大気圧下1段でH/CO比≒3の混合ガスが得られることが判る。この合成ガスはFT合成プロセスによるメタン製造の原料として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ガス化炉
2 フィーダー
3 無灰炭製造プロセス
4 ボイラー
5 触媒回収器
6 熱交換器
7 コンプレッサー
8 FT合成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒ガス化反応によるメタン製造用混合ガスの製造方法において、ガス化温度を600〜800℃とし、触媒の存在下、無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を制御することにより一酸化炭素に対する水素のモル比(H/CO比)を制御することを特徴とするメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項2】
大気圧下で触媒ガス化反応を行わせることを特徴とする請求項1に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項3】
無灰石炭に対する水蒸気の重量比(S/C比)を0.01〜0.1に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項4】
触媒の種類、量により反応速度を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項5】
触媒が炭酸カリウムであり、その無灰炭に対する添加量が6〜50重量%であることを特徴とする請求項4に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項6】
亜瀝青炭又は褐炭由来の無灰炭を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項7】
亜瀝青炭がパシール炭であることを特徴とする請求項6に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項8】
褐炭がムリア炭であることを特徴とする請求項6に記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項9】
無灰石炭と触媒とを混合し、それらを炉内へ供給して水蒸気と接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のメタン製造用混合ガスの製造方法。
【請求項10】
ガス化炉にフィッシャートロプッシュ合成装置が直結された装置を用いて、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる混合ガスを用いてメタンを製造することを特徴とするメタンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−261021(P2010−261021A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83126(P2010−83126)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】