説明

メッキ装置

【課題】 メッキ被膜を良好に形成することができるメッキ装置を提供する。
【解決手段】 メッキ装置10は、内部に貫通孔16aを備えた筒型電極16を、シリンダブロック11の中空部12内に隙間S1を開けて配置することにより、メッキ流路38を円筒状に形成し、メッキ流路38および貫通孔16aを筒型電極16の上端部16bを経て連通し、メッキ流路38にメッキ液17を流し、筒状電極16の上端部16bまで到達したメッキ液17を貫通孔16aに導くことにより、内周壁14にメッキ被膜66を形成するしたものである。メッキ装置10は、メッキ流路38の下端部38aから上端部38bに向けて、メッキ液17を螺旋状に流すように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダなどの中空部の内周壁にメッキ皮膜を形成するメッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダの内周壁にメッキ被膜を形成する方法として、メッキ液をシリンダの内周壁に沿って強制的に流すことで、シリンダの内周壁にメッキ被膜を高速に形成する高速メッキ処理方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−118891号公報(図5)
【0003】
図12は従来の基本構成を説明する図である。
メッキ装置200の基台201に支持ブロック202を取り付け、支持ブロック202に筒状の筒型電極203を取り付ける。この状態で支持ブロック203の導出流路204および筒型電極の導出流路205を同軸上に配置する。
【0004】
支持ブロック202に、シリンダブロック207を上下反転させた状態(すなわち、クランクケース208側を上向きにした状態)で載せ、シリンダ209の内部に筒型電極203に配置する。
シリンダ209の内周壁209aと筒型電極203との間の隙間で流路211を形成し、この流路211を、支持ブロック202の導入流路212に連通する。
【0005】
シリンダ209の開口部(クランクシャフト側の開口部)209bを蓋体214で塞ぐ。この蓋体214にロッド215の下端部を連結し、このロッド215を上方に延ばし、ロッド215の上端部を支持プレート216で支える。
支持プレート216は、シリンダブロック207の上端部に載置した部材である。
【0006】
この状態で、導入流路212にメッキ液を供給することにより、メッキ液が導入流路212から、シリンダ209の内周壁209aと、筒型電極203との間の流路211に矢印Aの如く流入する。
【0007】
筒型電極230の上端まで到達したメッキ液は、蓋体214で案内されて筒型電極203内の導出流路205に矢印Bの如く流入し、この導出流路205から支持ブロック203の導出流路204に矢印Cの如く流れる。
このように、メッキ液をシリンダ209の内周壁209aに沿って強制的に流すことで、内周壁209aにメッキ被膜を高速に形成する。
【0008】
ここで、シリンダ209の内周壁209aと筒型電極203との間の隙間、すなわち流路211は、円筒状に形成されており、かつ比較的狭く形成されている。
この筒状の流路211に、メッキ液を矢印Aの如く供給した際に、筒状の流路211内の全域にメッキ液を均一に流すことは難しい。
このため、シリンダ209の内周壁209aに、メッキ皮膜を均一に形成することは難しく、そのことが生産性を上げる妨げになっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、メッキ被膜を良好に形成することができるメッキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、内部に貫通孔を備えた筒型電極を、ワークの中空部内に隙間を開けて配置することにより、この隙間を円筒状に形成し、この円筒状の隙間および貫通孔を筒型電極の端部を経て連通し、この円筒状の隙間にメッキ液を流し、筒状電極の端部まで到達したメッキ液を貫通孔に導くことにより、中空部の内周壁にメッキ被膜を形成するメッキ装置において、前記円筒状の隙間の下端から上端に向けて、前記メッキ液を螺旋状に流すように構成したことを特徴とする。
【0011】
円筒状の隙間の下端から上端に向けてメッキ液を螺旋状に流すことで、メッキ液の攪拌性を高める。メッキ液を攪拌することで、円筒状の隙間にメッキ液を均一に流すことができる。
よって、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さで良好に形成することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、円筒状の隙間の下端部に、メッキ液を供給するための供給流路を連通し、この供給流路と前記下端部との間に、多数の孔を備えた多孔部材を設け、この供給流路に、エアを供給するエア供給手段を設け、このエア供給手段で供給流路にエアを供給することで、供給流路内のメッキ液中に気泡を混入させ、気泡が混入したメッキ液を多孔部材を経て円筒状の隙間に導くように構成したことを特徴とする。
【0013】
供給流路にエアを供給して、供給流路内のメッキ液中に気泡を混入させ、気泡が混入したメッキ液を多孔部材を経て円筒状の隙間に導くことで、気泡の大きさを均一に整える。
気泡を均一にすることで、気泡がメッキ液内で円滑に移動しやすくなる。気泡がメッキ液内で円滑に移動することにより、メッキ液を気泡で攪拌することができる。
よって、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さで一層良好に形成することができる。
【0014】
さらに、メッキ液が多孔部材を通過することで、メッキ液を多孔部材で拡散させるとともに、多孔部材でメッキ液の流れを均一に整えることができる。
よって、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一に導くことが可能になり、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さでより一層良好に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、円筒状の隙間の下端から上端に向けてメッキ液を螺旋状に流すことで、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さで良好に形成し、生産性を高めることができるという利点がある。
【0016】
請求項2に係る発明では、気泡をメッキ液とともに多孔部材に通して気泡の大きさを均一に整え、メッキ液を気泡で攪拌することで、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さで一層良好に形成し、生産性をさらに高めることができるという利点がある。
【0017】
また、請求項2に係る発明では、メッキ液を多孔部材に通してメッキ液を拡散させるとともに、流れを均一に整えることで、中空部の内周壁全域にメッキ被膜を均一の厚さでより一層良好に形成し、生産性をより一層高めることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るメッキ装置の第1実施の形態を示す概略図である。
メッキ装置10は、シリンダブロック(ワーク)11の中空部12(図5も参照)内に配置する筒形電極16を備えた電極ユニット15と、この電極ユニット15にメッキ液17を供給するメッキ液供給手段18と、メッキ液17中にエアを供給するエア供給手段21と、シリンダ13および筒形電極16間を通電する通電手段22とを備える。
【0019】
シリンダブロック11は、筒状のシリンダ13を備え、シリンダ13の内周壁14で中空部12を形成したものである。
このシリンダブロック11は、シリンダ13と一体にシリンダヘッド部11aを形成したもので、中空部12の上端部12aがシリンダヘッド部11aで略閉塞されたワークである。
【0020】
電極ユニット15は、支持ブロック25の凹部26にインナー部材27を載せ、インナー部材27と凹部26とで環状の導入流路28を形成し、この導入流路28に一対の渦発生流路29,29(図3も参照)を連通し、これらの渦発生流路29,29を連通流路30,30に連通し、インナー部材27の貫通孔27aおよび支持ブロック25の貫通孔25aで導出流路31を形成し、環状の導入流路28の上端28aを多孔部材33で覆い、インナー部材27に筒状の筒形電極16を取り付けることにより、筒形電極16の内部に形成した貫通孔16aを、導出流路31に連通し、筒形電極16の上端部16bの上方(端部上方)に遮蔽板(遮蔽部材)35を取付け手段36を介して取り付けたものである。
【0021】
また、電極ユニット15は、支持ブロック25にシリンダブロック11を載せ、シリンダブロック11の中空部12内に、筒形電極16を中空部12に対して隙間S1(円筒状の隙間)を開けて配置し、この隙間S1で円筒状のメッキ流路38を形成し、このメッキ流路38を多孔部材33を介して導入流路28に連通し、筒形電極16の貫通孔16aを導出流路31と同軸上に配置したものである。
【0022】
メッキ液供給手段18は、支持ブロック25の連通流路30,30(図3参照)に供給流路41を介してタンク42を連通し、供給流路41の途中にエア供給手段21を備えるとともに供給ポンプ46を備え、戻り流路47を介して導出流路31をタンク42に連通し、戻り流路47の途中にコントロールバルブ48を備える。
【0023】
エア供給手段21は、エア供給源51を駆動することにより、エア供給流路52を経て供給流路41にエアを供給するものである。
通電手段22は、電流供給源23の陽極を筒形電極16側に接続し、陰極をシリンダ13側に接続したものである。
【0024】
コントロールバルブ48は、メッキ液17の液面高さを調整するためのバルブである。
メッキ液としては、例えば、メッキ液中にセラミックス粒子を混合させた複合メッキ液を例に説明するが、その他の例として、ニッケルメッキ用のメッキ液を用いることも可能である。
【0025】
図2は第1実施の形態の電極ユニットを示す斜視図である。
インナー部材27と凹部26とで環状の導入流路28を形成し、この導入流路28の上端28aを環状の多孔部材33で覆う。インナー部材27に筒状の筒形電極16をボルト54…で取り付ける。
この状態で、筒形電極16の内部に形成した貫通孔16aを、導出流路31と同軸上に配置する。
【0026】
筒形電極16の上端部16bにおいて、筒形電極16の内周56に、水平で且つ平坦な段部56aを有し、段部56aの外周端56bから上縁16cに向けて漸次拡径する傾斜面56cを有する。
この段部56aに取付け手段36を介して遮蔽板35が取り付けられている。
【0027】
図3は第1実施の形態の電極ユニットを示す分解斜視図である。
支持ブロック25は、中央に凹部26を形成し、凹部26の周壁26aを円形状に形成する。この周壁26aに接する接線と平行に、一対の渦発生流路29,29を180°の間隔をおいて形成する。
これらの渦発生流路29,29の供給口29a,29aをそれぞれ周壁26aに開口する。
【0028】
よって、渦発生流路29,29の供給口29a,29aから、凹部26の周壁26aに沿わせてメッキ液17(図1参照)を供給することで、メッキ液17を周壁26aに沿って円弧状に流すことができる。
さらに、支持ブロック25は、凹部26の底部26bに、4本のボルト54…を貫通する取付孔をそれぞれ等間隔に備え、底部26bの中央に貫通孔25aを備える。
【0029】
インナー部材27は、外径を周壁26aの内径より小さく形成し、中央に凹み27bを備える。この凹み27bに筒状電極16の下端突起16dを挿入することで、インナー部材27の上面27cに筒形電極16の下端部16eが当接する。
インナー部材27に、4本のボルト54…を貫通する取付孔をそれぞれ等間隔に備え、凹み27bの内側に貫通孔27aを備える。
なお、インナー部材27を、支持ブロック25の凹部26に取り付けた状態において、インナー部材27の上面27cと、支持ブロック25の上面25cとは面一になる(図1、図2参照)。
【0030】
多孔部材33は、一例として、複数本の線材で網目状に形成したメッシュ部材を環状プレートに形成し、外周部33aを支持ブロック25の嵌合溝25dに配置し、内周部33bをインナー部材27の嵌合溝27dに配置することにより、環状の導入流路28(図1、図2参照)の上端28aを覆う部材である。
多孔部材33は、一定の大きさの孔(微小孔)を多数備えた部材である。
【0031】
なお、多孔部材33の外周部33aを支持ブロック25の嵌合溝25dに配置するとともに、内周部33bをインナー部材27の嵌合溝27dに配置した状態において、多孔部材33の上面33c、インナー部材27の上面27c、および支持ブロック25の上面25cはそれぞれ面一になる(図1、図2参照)。
【0032】
筒形電極16は、内部に貫通孔16aを備えた筒状体であり、下端部に下端突起を備えるとともに、上端部16bの内周56に段部56aおよび傾斜面56bを備える。
下端突起16dをインナー部材27の凹み27bに挿入することで、インナー部材27の上面27cに筒形電極16の下端部16eを当接する。
【0033】
この状態で、4本のボルト54…を、支持ブロック25の取付孔およびインナー部材27の取付孔に差し込み、インナー部材27の取付孔から突出したボルト54…のねじ部54a…を、筒形電極16のねじ孔16f…(図2参照)にねじ結合することにより、支持ブロック25、インナー部材27および筒形電極16を一体に連結する。
【0034】
遮蔽板35は、絶縁材で円盤状に形成し、外径D1を内周壁の内径D2(図1参照)より小さく形成し、略中央に4個の取付孔61…を備えたプレートである。
この遮蔽板35を、取付け手段36のスタッドボルト58…を介して筒形電極16の上端部16aに取り付ける。
スタッドボルト58は、高さH1の脚部58aを備え、脚部58aの下端部にねじ58bを備え、脚部58aの上端58cにねじ孔58d…を備える。
【0035】
図4は図1の4部拡大図である。
筒形電極16の上端部16bにおいて、筒形電極16の内周56に、水平で且つ平坦な段部56aを形成し、段部56aの外周端56bから上縁16cに向けて漸次拡径する傾斜面56cを有する。
段部56aから上縁16cまでの高さはH2である。
【0036】
この段部56aに取付け手段36を介して遮蔽板35が取り付けられている。
すなわち、取付け手段36は、4本のスタッドボルト58…(図1〜図3に手前側の2本のみを示す)およびボルト62…からなる。
段部56aに等間隔に4個のねじ孔57…(1個のみを図示する)を形成し、それぞれのねじ孔57…にスタッドボルト58…のねじ58b…をねじ結合する。
スタッドボルト58の脚部58aは、高さH1である。高さH1は、段部56aから上縁16cまでの高さH2より大きい。すなわち、H1>H2の関係が成立する。
【0037】
スタッドボルト58…の上端58c…に遮蔽板35を載せ、遮蔽板35の取付孔61…にボルト62…を差し込み、遮蔽板35の取付孔61…から突出したボルト62…を、スタッドボルト58…の上端58cに形成したねじ孔58d…にねじ結合する。
【0038】
これにより、スタッドボルト58…の上端58c…に遮蔽板35を取り付ける。
スタッドボルト58の脚部58aの高さH1を、段部56aから上縁16cまでの高さH2より大きくしたので、遮蔽板35を、筒形電極16の上端部16bの上方(端部上方)に取り付けることができる(図1も参照)。
よって、筒形電極16の上縁16cと遮蔽板35との間に隙間H3を開けることができる。
【0039】
この状態において、遮蔽板35の外周端下部35aを、メッキ処理面14aとメッキ処理境界面(メッキ処理面の上方の面)14bとのメッキ境界位置(境界位置)P2に合わせて配置し、またはメッキ境界位置P2の上方に配置する。
メッキ処理面14aとは、内周壁14のうち、メッキ被膜66(図9参照)を形成する面をいう。
また、メッキ処理境界面14bとは、メッキ処理面14aの上方の面をいう。
【0040】
遮蔽板35の外周端下部35aをメッキ境界位置P2に合わせて配置し、またはメッキ境界位置P2の上方に配置することで、遮蔽板35の外周端下部35aと、メッキ境界位置P2との間の間隔H4を0〜10mmに設定する。
【0041】
間隔H4を0〜10mmに設定した理由は以下の通りである。
すなわち、間隔H4が0mm未満になると、遮蔽板35の外周端下部35aがメッキ境界位置P2より下方に位置することになり、メッキ皮膜66をメッキ境界位置P2まで形成することが難しい。
そこで、メッキ皮膜66をメッキ境界位置P2まで形成するために、間隔H4を0mm以上に設定した。
【0042】
一方、間隔H4が10mmを超えると、遮蔽板35の外周端下部35aがメッキ境界位置P2より上方に離れすぎることになり、メッキ皮膜66がメッキ境界位置P2を超えて形成される虞がある。
そこで、メッキ皮膜66の形成をメッキ境界位置P2に抑えるために、間隔H4を10mm以下に設定した。
【0043】
遮蔽板35は、絶縁材で円盤状に形成し、外径D1を内周壁の内径D2より小さく形成した部材である。これにより、遮蔽板35の外周35bと内周壁14との間にメッキ液導入隙間S2を形成する。
具体的には、メッキ液導入隙間S2を、0.25〜5mmに設定した。
【0044】
メッキ液導入隙間S2を、0.25〜5mmに設定した理由は以下の通りである。
メッキ液導入隙間S2が0.25mm未満になると、メッキ液導入隙間S2が小さすぎて、メッキ液導入隙間S2にメッキ液17を導くことが難しい。
メッキ液導入隙間S2にメッキ液17を導くことができないと、遮蔽板35の外周35aを内周壁14に接触させた状態と同じことになり、従来技術で説明したようにメッキ皮膜の境界部にバリが発生する虞がある。
そこで、メッキ液導入隙間S2を0.25mm以上に設定して、メッキ皮膜66の境界部66aにバリが発生することを防ぐことにした。
【0045】
一方、メッキ液導入隙間S2が5mmを超えると、メッキ液導入隙間S2が大きくなりすぎて、メッキ液導入隙間S2からメッキ液17が流出する虞がある。
メッキ液導入隙間S2からメッキ液17が流出すると、メッキ処理不要部へのメッキ液17の付着が多くなってしまう。また、メッキ処理部上部の電流密度が小さくなってしまい。その部位におけるメッキ厚さが薄くなってしまう。
そこで、メッキ液導入隙間S2を5mm以下に抑えて、メッキ液導入隙間S2からメッキ液17が流出することを防ぐことにした。
【0046】
また、遮蔽板35を筒形電極16に取り付けるように構成したので、スタッドボルト58…やボルト62…のみで筒形電極16に遮蔽板35を取り付けることができる。
よって、遮蔽板35を取り付ける部材、すなわち、スタッドボルト58…やボルト62…の簡素化やコンパクト化を図ることが可能になり、設備費を抑えることができる。
【0047】
次に、メッキ装置でシリンダの内周面にメッキ皮膜を形成する方法を図5〜図10に基づいて説明する。
図5は第1実施の形態のメッキ装置にシリンダブロックをセットする例を説明する図である。
電極ユニット15の支持ブロック25に、シリンダブロック11を矢印aの如く載置する。この際、筒状のシリンダ13内の中空部12に下端部(一端部)12b側から筒形電極16を配置する(図1参照)。
【0048】
ここで、シリンダブロック11は、シリンダヘッド部11aが一体に形成されており、中空部12の上端部12aがシリンダヘッド部11aで閉塞されている。
このため、支持ブロック25にシリンダブロック11をセットした後、中空部12の上端部12a側から遮蔽板35を所定位置に取り付けることはできない。
【0049】
そこで、筒形電極16の上端部16bに遮蔽板35を取り付けた。これにより、支持ブロック25にシリンダブロック11を載置した際に、中空部12の下端部12b側から遮蔽板35を所望位置に配置することができる。
よって、中空部12の下端部12bのみが開口したシリンダブロック11にも、メッキ装置10の適用が可能になり、ワークの形状によって、メッキ装置10の適用が制約されることがなく、用途の拡大を図ることができる。
【0050】
図6(a),(b)は第1実施の形態のメッキ液供給手段でメッキ液を供給する例を説明する図である。
(a)において、供給ポンプ46を駆動することにより、タンク42内のメッキ液17が供給流路41内を矢印bの如く渦発生流路29,29((b)も参照)に向けて導かれる。
同時に、エア供給源51を駆動することにより、エア供給流路52を経て供給流路41にエアを矢印cの如く供給する。これにより、供給流路41内のメッキ液17中にエアによる気泡65…(図7(a)参照)が発生する。
気泡65…を含んだメッキ液17を、渦発生流路29,29まで矢印dの如く導く。
【0051】
(b)において、支持ブロック25に凹部26が形成され、凹部26の周壁26aに接する接線と平行に、一対の渦発生流路29,29が形成されている。
よって、渦発生流路29,29の供給口29a,29aから、凹部26の周壁26aに沿わせてメッキ液17を供給することで、メッキ液17を周壁26aに沿って円弧状に矢印eの如く流す。
【0052】
図7(a),(b)は第1実施の形態のメッキ液流れを説明する図である。
(a)において、凹部26にインナー部材27を配置することで、凹部26およびインナー部材27で環状の導入流路28が形成されている。
気泡65…を含んだメッキ液17を、環状の導入流路28に沿って円弧状に流す。導入流路28に沿って円弧状に流れたメッキ液17は、導入流路28の上端28aの多孔部材33を経てメッキ流路38内に流れる。
【0053】
ここで、導入流路28のメッキ液17は矢印fの如く集中して流れる傾向にある。このメッキ液17を多孔部材33を経てメッキ流路38内に導くことで、メッキ液17の流れを矢印gのように拡散するとともに、拡散したメッキ液17の流れを均一に整える。
【0054】
また、エア供給流路52から供給流路41にエアを供給した状態のままでは、メッキ液17中の気泡65…は比較的大きく、かつサイズも不均一である可能性が高い。
そこで、気泡65…を含んだメッキ液17を多孔部材33を経てメッキ流路38内に導くことで、メッキ液17中の気泡65…を比較的小さくし、かつ気泡65…のサイズを均一に整え、さらに気泡65…を均一に分散するようにした。
【0055】
(b)において、均一に分散したメッキ液17を、メッキ流路38に沿って螺旋状に上向きに矢印gの如く流す。
このメッキ液17中には、比較的小さく、かつサイズを均一に整えた気泡65…が含まれている。
【0056】
メッキ流路38の下端部(円筒状の隙間の下端部)38aから上端部(円筒状の隙間の上端部)38bに向けてメッキ液17を螺旋状に流すことで、メッキ液17の攪拌性を高める。
メッキ液17を攪拌性を高めることで、メッキ流路38にメッキ液17を均一に流すことができる。
よって、シリンダ13の内周壁14全域にメッキ被膜66(図9)を均一の厚さで良好に形成することができる。
【0057】
図8(a),(b)は第1実施の形態のメッキ液と気泡との関係を説明する図である。
(a)において、メッキ液17中の気泡65…を、比較的小さく、かつ気泡65…のサイズを均一にすることで、気泡65…がメッキ液17内で円滑に移動しやすくなる。
【0058】
気泡65…がメッキ液17内で円滑に移動することにより、メッキ液17(特に、メッキ液17中のセラミックス粒子)を気泡65…で矢印hの如く攪拌することができる。
ここで、通電手段22(図6(a)参照)で筒形電極16およびシリンダ13は通電状態にある。
よって、メッキ液17中のメッキ成分を矢印iの如くシリンダ13の内周壁14全域に均一に導く。これにより、内周壁14全域にメッキ被膜66を均一の厚さで一層良好に形成することができる。
【0059】
さらに、メッキ液17を多孔部材33(図7(a)参照)で拡散させるとともに、多孔部材33でメッキ液17の流れを均一に整えることで、シリンダ13の内周壁14全域にメッキ被膜66をより一層均一に導くことが可能になる。
よって、シリンダ13の内周壁14全域にメッキ被膜66を均一の厚さでより一層良好に形成することができる。
【0060】
(b)において、筒形電極16の上端部16bまで到達したメッキ液17のうち、殆どのメッキ液17は、遮蔽板35で案内されて矢印jの如く筒形電極16内に流れる。筒形電極16内に流れたメッキ液17を、筒形電極16の貫通孔16aに導く。
一方、筒形電極16の上端部16bまで到達したメッキ液17のうち、残りのメッキ液17は、遮蔽板35と内周壁14との間のメッキ液導入隙間S2に矢印kの如く入り込む。
ここで、メッキ液導入隙間S2を5mm以下に抑えることで、メッキ液導入隙間S2からメッキ液17が流出することを防ぐ。
【0061】
図6(a)に示すように、筒形電極16内の貫通孔16aに流入したメッキ液17は、矢印l(アルファベット小文字のエル)の如く流れ、導出流路31を経て戻り流路47に進入する。戻り流路47に矢印mの如く進入したメッキ液17は、コントロールバルブ48を経てタンク42に戻る。
【0062】
ここで、メッキ液17が適量の流量であれば、コントロールバルブ48で調整しなくても、図9の状態、すなわちメッキ液導入隙間S2内のメッキ液17の液面高さh1を遮蔽板35の上面35dと略面一にできる。
万が一、メッキ液導入隙間S2内のメッキ液17の液面高さh1が遮蔽板35の上面35dと異なる場合には、コントロールバルブ48で調整することで、液面高さh1を遮蔽板35の上面35dと略面一にすることは可能である。
【0063】
図9は第1実施の形態の遮蔽板とメッキ被膜との関係を説明する図である。
遮蔽板35の外周35bと内周壁14との間のメッキ液導入隙間S2にメッキ液17を導いた状態において、通電手段22(図6(a)参照)で筒形電極16およびシリンダ13を通電する。
この状態において、シリンダ13の下端位置P1およびメッキ境界位置P2間の電流密度を一定値A1を保ち、メッキ境界位置P2およびメッキ上限位置P3間の電流密度を、メッキ境界位置P2からメッキ上限位置P3に向けて漸次減少させる。
【0064】
なお、シリンダの下端位置P1およびメッキ境界位置P2間は、「メッキ処理面14a」、メッキ境界位置P2およびメッキ上限位置P3間は、「メッキ処理境界面14b」である。
【0065】
ここで、内周壁14において、メッキ処理面14aに対して筒形電極16の表面16gを平行に対向させた。
これにより、メッキ処理面14aに対する電流密度を一定値A1を保ち、メッキ処理面14aに形成したメッキ被膜66のメッキ厚さtを一定に確保することができる。
【0066】
一方、メッキ境界位置P2に合わせて、またはメッキ境界位置P2の上方に遮蔽板35を配置し、この遮蔽板35を絶縁材で形成した。
よって、メッキ処理境界面14bにおいて、電流密度は、メッキ境界位置P2からメッキ上限位置P3に向けて漸次減少し、メッキ上限位置P3で0になる。
これにより、メッキ処理境界面14bにおいて、メッキ被膜66のメッキ厚さtを、メッキ境界位置P2からメッキ上限位置P3に向けて漸次薄くし、メッキ上限位置P3で0にすることができる。
【0067】
このように、メッキ処理面14aにメッキ皮膜66を一定のメッキ厚さtで確実に形成し、かつメッキ処理境界面14bにおいてメッキ被膜66のメッキ厚さtを漸次減少させることで、好適なメッキ被膜66を形成することができる。
これにより、メッキ皮膜66の表面を加工する際に、メッキ皮膜66が境界部66aから剥離することを防ぐことができる。
【0068】
加えて、遮蔽板35を設けることで、メッキ液17がメッキ処理面14aの上方に上昇することを遮蔽板35で抑える。
よって、メッキ被膜66が必要なメッキ処理面14aにのみ、メッキ皮膜66を確実に形成することができる。
【0069】
図10は第1実施の形態の遮蔽板とメッキ被膜との関係を説明するグラフである。縦軸はシリンダの内周壁の位置P(mm)を示し、横軸はメッキ厚さtを示す。
なお、縦軸の位置Pにおいて、シリンダの下端位置P1およびメッキ境界位置P2間はメッキ処理面14aであり、メッキ境界位置P2およびメッキ上限位置P3間はメッキ処理境界面14bである。
【0070】
グラフg1は、メッキ境界位置P2に遮蔽板35(図9参照)を設けない状態を示す。
グラフg2は、間隔H4(図4参照)を1mm、メッキ液導入隙間S2(図4参照)を3mmに設定した状態で、メッキ被膜を形成した例を示す。
グラフg3は、間隔H4を1mm、メッキ液導入隙間S2を2mmに設定した状態で、メッキ被膜を形成した例を示す。
【0071】
グラフg4は、間隔H4を1mm、メッキ液導入隙間S2を1mmに設定した状態で、メッキ被膜を形成した例を示す。
なお、間隔H4は、遮蔽板35の外周端下部35aとメッキ境界位置P2との間の間隔である。また、メッキ液導入隙間S2は、遮蔽板35の外周35bと内周壁14との間の所定の隙間である。
【0072】
ここで、シリンダ13の内周壁14のうち、メッキ処理面14aにおいて、ホーニング加工後の平均メッキ厚さtを、一例として100μm(想像線で示す)に保つことが好ましい。
そこで、グラフg1、グラフg2、グラフg3およびグラフg4の上記条件でメッキ被膜66を形成し、それぞれのメッキ厚さtがメッキ処理面14aにおいて、100μmを確保しているか否かを判定した。
判定の結果、100μmを確保しているものを○、確保していないものを×とした。
【0073】
グラフg1は、メッキ境界位置P2と、メッキ境界位置P2の下方位置P4との間で、メッキ厚さtは、平均メッキ厚さ100μmを確保できなかった。
すなわち、グラフg1は、メッキ処理面14aにおいて、100μmを確保することができなかった。
よって、グラフg1の評価は×である。
【0074】
グラフg2は、メッキ処理面14aにおいて、100μmを確保することができた。
よって、グラフg2の評価は○である。
【0075】
グラフg3は、グラフg2と同様に、メッキ処理面14aにおいて、100μmを確保することができた。
よって、グラフg2の評価は○である。
【0076】
グラフg4は、グラフg2と同様に、メッキ処理面14aにおいて、100μmを確保することができた。
よって、グラフg2の評価は○である。
【0077】
また、グラフg2、グラフg3およびグラフg4からメッキ液導入隙間S2が小さくなるにしたがってメッキ被膜の厚さを大きく確保できることが分かる。
さらに、上記試験を、間隔H4が0〜10mmの範囲で、かつメッキ液導入隙間S2が0.25〜5mmの範囲で実施した結果、評価が良になることが確認された。
【0078】
次に、第2実施の形態のメッキ装置を図11に基づいて説明する。なお、第2実施の形態のメッキ装置において、第1実施の形態のメッキ装置と同一部材については同一符合を付して説明を省略する。
【0079】
図11は本発明に係るメッキ装置の第2実施の形態を示す断面図である。
第2実施の形態のメッキ装置70は、第1実施の形態のメッキ装置10と比較して遮蔽板71が異なるだけで、その他の構成は第1実施の形態のメッキ装置10と同じである。
すなわち、メッキ装置70は、筒形電極16の上端部16bの上方(端部上方)に絶縁性の遮蔽板(遮蔽部材)71を取付け手段36を介して取り付け、遮蔽板71の外周下面71aを、外周71bの近傍部位71cから外周端下部71dに向けて下り勾配の傾斜面となるように形成したものである。
よって、遮蔽板71によれば、遮蔽板71の下面71eの下方に外周端下部71dを配置することができる。
【0080】
遮蔽板71の下面71eの下方に外周端下部71dを配置したので、外周端下部71dを、メッキ境界位置P2に対して間隔H4(0〜10mm)を開けて配置した際に、遮蔽板71の下面71eと筒形電極16の上縁16cとの間の間隔H5を大きく確保することができる。
【0081】
よって、筒形電極16の上端部16bまで到達したメッキ液17を、遮蔽板71で案内して、間隔H5から矢印nの如く筒形電極16内の貫通孔16aに一層円滑に導くことができる。
さらに、第2実施の形態のメッキ装置70によれば、第1実施の形態のメッキ装置10と同様の効果を得ることができる。
【0082】
なお、前記実施形態では、メッキ液17中に気泡65を混入させ、このメッキ液17でメッキ被膜66を形成する例について説明したが、これに限らないで、気泡65を混入させないメッキ液を用いてメッキ被膜66を形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、シリンダの内周壁にメッキ皮膜を形成するメッキ装置への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係るメッキ装置の第1実施の形態を示す概略図である。
【図2】第1実施の形態の電極ユニットを示す斜視図である。
【図3】第1実施の形態の電極ユニットを示す分解斜視図である。
【図4】図1の4部拡大図である。
【図5】第1実施の形態のメッキ装置にシリンダブロックをセットする例を説明する図である。
【図6】第1実施の形態のメッキ液供給手段でメッキ液を供給する例を説明する図である。
【図7】第1実施の形態のメッキ液流れを説明する図である。
【図8】第1実施の形態のメッキ液と気泡との関係を説明する図である。
【図9】第1実施の形態の遮蔽板とメッキ被膜との関係を説明する図である。
【図10】第1実施の形態の遮蔽板とメッキ被膜との関係を説明するグラフである
【図11】本発明に係るメッキ装置の第2実施の形態を示す断面図である。
【図12】従来の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0085】
10…メッキ装置、11…シリンダブロック(ワーク)、12…中空部、13…シリンダ、14…内周壁、14a…メッキ処理面、14b…メッキ処理境界面(メッキ処理面の上方の面)、16…筒型電極、16a…貫通孔、16b…筒形電極の上端部(筒形電極の端部)、17…メッキ液、21…エア供給手段、28…導入流路、29…渦発生流路、30…連通流路、33…多孔部材、35,71…遮蔽板(遮蔽部材)、35a,71d…遮蔽部材の外周端下部、38…メッキ流路(円筒状の隙間)、38a…メッキ流路の下端部(円筒状の隙間の下端部)、38b…メッキ流路の上端部(円筒状の隙間の上端部)、41…供給流路、65…気泡、66…メッキ被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貫通孔を備えた筒型電極を、ワークの中空部内に隙間を開けて配置することにより、この隙間を円筒状に形成し、この円筒状の隙間および貫通孔を筒型電極の端部を経て連通し、この円筒状の隙間にメッキ液を流し、筒状電極の端部まで到達したメッキ液を貫通孔に導くことにより、中空部の内周壁にメッキ被膜を形成するメッキ装置において、
前記円筒状の隙間の下端から上端に向けて、前記メッキ液を螺旋状に流すように構成したことを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
前記円筒状の隙間の下端部に、メッキ液を供給するための供給流路を連通し、この供給流路と前記下端部との間に、多数の孔を備えた多孔部材を設け、この供給流路に、エアを供給するエア供給手段を設け、
このエア供給手段で供給流路にエアを供給することで、供給流路内のメッキ液中に気泡を混入させ、気泡が混入したメッキ液を多孔部材を経て円筒状の隙間に導くように構成したことを特徴とする請求項1記載のメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−2206(P2006−2206A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178927(P2004−178927)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)