説明

メッキ装置

【課題】導電性を有する基材粒子の表面に、厚みが均一で平滑なメッキ層を効率よく形成するのに有効なメッキ装置の提供。
【解決手段】基材粒子および基材粒子にメッキ層を形成するためのメッキ液を収納し、第1の軸1を軸芯として公転するとともに第2の軸2を軸芯として自転するメッキ容器4と、前記メッキ容器に収納された基材粒子に通電可能に配された陰極8aと、前記メッキ容器に収納されたメッキ液に浸漬して前記基材粒子と離れた位置に配された陽極8bと、前記陰極および陽極に接続された電源7とを有し、前記第1の軸に対して前記第2の軸が非平行に配されたメッキ装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する基材粒子の表面にメッキ層を形成するメッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する基材粒子の表面にメッキ層を形成する技術として、Cuを主体としたコアボールの表面に半田メッキ層を形成して半田被覆Cuコアボール(以下Cuコアボールと称する)にする技術がある。以下、本明細書では従来技術の問題点を明らかにするために、Cuコアボールを製造するメッキ装置を例にして説明するが、本発明は必ずしもCuコアボールを製造するメッキ装置に限定されるものではない。
【0003】
近年、高密度実装により多ピッチ化・狭ピッチ化の進むBGA(Ball Grid Allay)やCSP(Chip Scale Package)等の半導体パッケージには、入出力端子用のバンプとして小径のCuコアボールが適用されている。Cuコアボールはリフローしてもコア部分が溶融せず、半導体素子と基板とを一定の距離を離した状態にして実装できるので、半導体素子の起動・停止で生じる熱サイクル負荷等に起因したエレクトロマイグレーションを抑制し断線防止に有効である。すなわち、半導体素子の接続信頼性確保に有効な技術と言える。
【0004】
Cuコアボールの製造技術としては、メッキ液が流通可能な多数の開口を有するバレル内にコアボールを収納し、バレルをメッキ浴中で自転させてCuコアボール表面に半田を形成するバレル式電気メッキ法が公知である。しかしながら、特に直径100μm以下の小径Cuコアボールの製造では、バレルの自転による転動だけではコアボールの攪拌が不十分であり、コアボールが凝集してメッキ層を介して連結したり、メッキ層表面が粗面化したり、メッキ層の厚みが部分的に不均一になる等、歩留まり低下が問題になる。
【0005】
上記バレル式電気メッキ法の問題を解消する例が特許文献1に記載されている。特許文献1には、充分かつ均一なメッキ層を短時間に得るため、「上端が開放した下開き椀形の樹脂ドームの外周部下面と、樹脂底板の外周部上面の間に被めっき物が回転中に押付けられるコンタクトリングと、処理液が流通飛散するポーラスリングを一体に結合してセルを形成し、上記セルを相対回転不能に支持しコンタクトリングと通電する導電ロータリープレートの中央部下面に垂直な導電駆動シャフトの上端を固定し、上記シャフトにコンタクトブラシを押圧してマイナス極に接続し、上記ドーム内に陽極バスケットを配置し、セルを覆うカバーを設けた」小物の回転メッキ装置が記載されている。かかる装置によれば、セル内に収納された被メッキ物は、セルの回転で生ずる遠心力の作用でコンタクトリングに強制的に押付けられ、セルとともに回転、加減速、停止を繰り返して均一に攪拌されることで、被メッキ物の表面には活発にメッキ液が流通され、厚みが均一なメッキ層が形成される、と記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の回転メッキ装置には生産効率の面での問題があった。この回転メッキ装置は、被メッキ物の表面にメッキ液が活発に流通するようセルの回転、加減速、停止を繰り返す必要があるが、被メッキ物の表面にメッキ層が形成されるのはセルが回転し被メッキ物が遠心力でコンタクトリングに接触する間だけで、セルが停止又は加減速する間はメッキ層が形成されず、メッキ層形成時間の割には全体の処理時間が長い。さらに、メッキ層が形成される間ボールはコンタクトリングに接触して攪拌されず、特に直径100μm以下の小径Cuコアボールのメッキではコアボールの凝集が顕著になり、製造装置としての使用が難しくなる。なお、コアボールの凝集を防ぐためにセルの回転、停止、加減速を頻繁に繰り返す方法も考えられるが、生産効率はさらに低下する。
【0007】
また、バレル式電気メッキ法の問題を解消する他の例が特許文献2に記載されている。特許文献2には、粒子の融合又は凝集を防止し、妥当な処理時間で電着を実行することを目的として、「第一の軸線を中心に回転可能なプラテンと、当該プラテンに回転可能に取り付けられ、当該第一の軸線から平行にオフセットした第二の軸線を中心に回転可能な電解セルと、当該電解セルに配置可能な電極組立体と、を備えた回転式貫流電着装置であって、当該プラテンを回転させ且つ当該電解セルを回転させる時、当該電解セルは、当該第一の軸線に対する遊星回転を与えられる」、回転式貫流電着装置が記載されている。そして特許文献2の装置により、粒子は電気接点に接触した状態で連続的に転回されるので融合又は凝集の可能性を排除でき、セルは継続的に動作できるので停止/始動を連続させる必要が無くなる、と記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2のメッキ装置は粒子の表面に厚みが均一で平滑なメッキ層を形成する点で粒子の流動が不十分である。以下、図6のメッキ装置概略図を用いてその理由を説明する。
【0009】
図6(a)は、特許文献2のメッキ装置を側方から見た断面模式図である。電解セル72中に投入された粒子は、回転するプラテン71の遠心力で電解セル72の片側の内壁に寄せ集められて粒子の集合体74を形成する。また、図6(b)は、メッキ装置を上方から見た図であり、分かりやすいように、図6(a)のドーム73を省略している。図に示されるように、電解セル72の片側の内壁に寄せ集められた粒子は平面視において厚みを持つ三日月状の集合体74を形成する。
【0010】
集合体74を形成した粒子は、回転する電解セル72の壁面に遠心力で押付けられ、電解セル72の回転方向に転動することで流動して攪拌されるが、電解セル72の壁面は一方向への回転運動だけなので、粒子は電解セル72の回転方向にのみ流動することになる。すなわち、三日月状の集合体74を形成した粒子は、図6(b)に示されるように三日月の長手方向である矢印の方向にのみ流動する。
【0011】
粒子の表面に厚みが均一なメッキ層を形成するには、粒子が流動する際に陽極(図示されていない)と対向する粒子、すなわち、図6(b)の集合体74の表層にある粒子が効率よく内部の粒子と入れ替わるのが好ましい。粒子の入れ替わりが不十分であると局部的にメッキ層が成長し厚みが不均一なメッキ層が形成されやすくなる。さらに、異常粒成長でメッキ層の表面が粗面化する可能性もある。特に、等方的なメッキ層形成が必要な球状体の粒子では、不均一にメッキ層が形成されるのは好ましくない。特許文献2のメッキ装置は、粒子が三日月の長手方向にのみ流動して表層の粒子が入れ替わるだけであり、厚みが均一なメッキ層を形成する点において十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−239799号公報
【特許文献2】特表2006−509108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決する発明であり、導電性を有する基材粒子の表面に厚みが均一なメッキ層を形成するのに有効なメッキ装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のメッキ装置は、導電性を有する基材粒子の表面にメッキ層を形成するメッキ装置であって、前記基材粒子および前記基材粒子にメッキ層を形成するためのメッキ液を収納でき、第1の軸を軸芯にして公転するとともに第2の軸を軸芯にして自転するメッキ容器と、前記メッキ容器に収納された基材粒子に通電可能に配された陰極と、前記メッキ容器に収納されたメッキ液に浸漬して前記基材粒子と離れた位置に配された陽極と、前記陰極および陽極に接続された電源とを有し、前記第1の軸に対して前記第2の軸が非平行に配されたメッキ装置である。第1の軸と第2の軸を非平行に配することで、基材粒子の3次元(空間)的流動が活発になり攪拌が均一化する。なお、前記第2の軸は前記第1の軸の側に内傾して配されてもよい。
【0015】
また、本発明のメッキ装置を構成して前記基材粒子を収納するメッキ容器は、第3の軸に回転対称な内壁部分を有し、前記第3の軸芯上における一方の側に開口部を設け、他方の側に底部を設けた形状を特徴とする。そして前記メッキ容器は、前記第3の軸と第2の軸とを一致させてメッキ装置に配してもよい。なお、前記開口部は前記底部に対して公転の内周側に位置するよう内傾してメッキ装置に配されるのが好ましい。加えて、メッキ容器の内壁は前記基材粒子に形成されるメッキ層より硬い材料で形成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明にかかるメッキ装置は従来技術の問題点を解決することができ、導電性を有する基材粒子の表面に厚みが均一なメッキ層を形成できる。なお上記メッキ装置の好ましい様態及びその効果については以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる実施様態のメッキ装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明にかかるメッキ容器内におけるコアボールの挙動を示す図である。
【図3】本発明にかかるメッキ容器の断面を示す図である。
【図4】本発明にかかる電極形態の一例を示す図である。
【図5】本発明にかかるメッキ液循環の一例を示す図である。
【図6】従来技術であるメッキ装置を説明する図である。
【図7】図1のメッキ装置の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかるメッキ装置をその実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。下記の実施態様は、導電性を有する基材粒子としてCuを主体とする球状のコアボール表面に、Snを主体とするメッキ層を形成するメッキ装置について説明しているが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、表面に無電解メッキでニッケル等の導電性を有する金属層を形成した樹脂やセラミックスの粒子、その他、導電性層を有する基材粒子等の表面に電気メッキ法で金属被覆層を形成するのに適用可能なメッキ装置である。また、コアボールのような球状の基材粒子だけでなく、例えば長軸と短軸を有する針状の基材粒子や、形状的特徴のない不定形の基材粒子の表面に電気メッキ法で金属被覆層を形成するのにも適用可能なメッキ装置である。
【0019】
(装置概略)
本発明にかかるメッキ装置の概略構成を図1に示す。本実施様態のメッキ装置50は、
第1の軸1(以下公転軸1と称す)を軸芯に回転する公転テーブル3と、公転軸1に非平行に配置された第2の軸2(以下自転軸2と称す)を軸芯に回転可能に公転テーブル3上に取り付けられた一対のメッキ容器4と、公転テーブル3の軸芯に設けられて公転テーブル3とともに回転するシャフト5と、一端部が回転電極6を介して電源7に接続されるとともに他端部がメッキ容器4内に配置されて陰極8aと陽極8bを構成する電極8と、メッキ液を流通可能とした中空状のシャフト5に一端が接続されて、他端である開放端からメッキ容器4にメッキ液を供給するメッキ液供給管9と、メッキ容器4からオーバーフローしたメッキ液を回収するメッキ液回収部10とシャフト5の上端に設けられたメッキ液供給口11に接続されてメッキ液の循環を可能にするメッキ液循環装置12とを基本的な構成とする。なお、本実施様態は一対のメッキ容器4が配置されたメッキ装置50であるが、本発明のメッキ装置はこれに限定されない。例えば、メッキ容器4を1個配置してもよいし、公転軸1を中心にして複数個のメッキ容器を等角度で円環状に配置してもよい。
【0020】
メッキ容器4は、軸芯である自転軸2を公転軸1側に内傾するようにして配され、ベアリング13により回転可能なホルダ14を介して公転テーブル3上に固定される。そして、メッキ容器4は、自転駆動モータ15の回転がプーリ16a、ベルト17a、プーリ16bを介して自転駆動シャフト5aに伝達され、自転駆動シャフト5aの上端に取り付けられたプーリ16cとベルト17bを介してホルダ14に回転が伝達されることで、自転軸2を軸芯にして回転(自転)することができる。また、メッキ容器4は、公転駆動モータ18の回転が、プーリ16d、ベルト17c、プーリ16eを介して公転テーブル3に伝達されることで、公転軸1を軸芯にして回転(公転)することができる。自転駆動モータ15と公転駆動モータ18とは各々独立して制御可能であり、メッキ容器4の公転速度と自転速度を任意に独立して設定することが可能である。
【0021】
さらに、メッキ容器4は、メッキ中に複数のコアボール19とメッキ液20とを収納でき、メッキ液循環装置12から送出されたメッキ液20はシャフト5の上端に設けられたメッキ液供給口11より供給され、シャフト5の中心を通ってメッキ液供給管9からメッキ容器4に供給される。
【0022】
メッキ容器4には陰極8aと陽極8bとで構成される電極8が挿入されて容器内のメッキ液20に浸漬される。棒状のTiで形成された陰極8aは、一端部が回転電極6を介して電源7の負極に接続され、他端部を屈曲してメッキ容器4内に配されることで寄せ集められた複数のコアボール19に接触している。陽極8bは、一端部が回転電極6を介して電源7の正極に接続され、他端部は円柱形状に加工されたSnのブロックに接続されると同時に絶縁被覆材を隔てて陰極8aの外周に配される。そして、陽極8bは、寄せ集められた複数のコアボール19と距離をおいて配され、陰極5との間に電圧が印加されることでメッキが可能になる。
【0023】
(公転軸と自転軸)
メッキ装置50は、メッキ容器4が公転軸1を軸芯に公転するとともに自転軸2を軸芯に自転するメッキ装置であって、公転軸1に対して自転軸2を非平行に配するところに特徴がある。メッキ槽(メッキ容器)が自公転する従来のメッキ装置では公転軸と自転軸が平行であり、被メッキ物はメッキ液中で回転方向に沿った一方向にしか流動せず、厚みが均一なメッキ層を形成するのに不十分な流動状態であった。本発明は、メッキ容器4の自転軸2を公転軸1に対して非平行に配し、方向の異なる2つの流動を誘発することにより、従来のメッキ装置の不十分な流動状態を改善できる。
【0024】
図2のメッキ容器4の外観模式図により理由を説明すると、メッキ容器4内にあるコアボール19は、公転の遠心力により容器の公転最外周側の内壁部分に寄せ集められるが、メッキ容器4の自転により容器内壁が回転し、内壁に接触するコアボール19が内壁に引きずられて移動することで、寄せ集められた複数のコアボール19内に流動が生じる。ここで、本発明の一実施様態であるメッキ装置50では、メッキ容器4の自転軸2が公転軸1に対して非平行に配されるので、コアボール19はメッキ容器4の自転方向と交差する方向にも流動し、寄せ集まりの表層と内部のコアボール19の入れ替わりが十分になるので、厚みがより均一なメッキ層が形成されるようになる。
【0025】
図1のメッキ装置50は、自転軸2が公転軸1側に内傾して配されているが、本発明のメッキ装置は必ずしもこの位置関係に限定されない。例えば公転軸1に対して自転軸2がねじれの位置関係(公転軸と自転軸が交差しない位置関係)にあっても、メッキ容器4中のコアボール19はメッキ容器4の自転方向と交差する方向にも流動するので、コアボール11の表面に厚みがより均一なメッキ層が形成されるようになる。
【0026】
(メッキ容器)
図1のメッキ装置50では、円筒形状の内壁を有する有底のメッキ容器4を用い、円筒の回転対称軸を自転軸2と一致させるとともに開口部が公転軸1側になるように内傾させてホルダ14に固定している。しかし、本発明に用いることが可能なメッキ容器4は必ずしもこの形状に限定されなく、メッキ中に複数のコアボール19を収納でき、ある軸に回転対称な内壁部分を有し、回転対称軸の一方の側に開口部を設け他方の側に底部を設けた形状であればよい。すなわち、図3(a)のような丸底フラスコ型や、図3(b)の三角フラスコ型のメッキ容器4を用いてもよい。
【0027】
かかる形状のメッキ容器4を、内壁部分の回転対称軸と自転軸2とを一致させて回転させると、コアボール19はメッキ容器4における公転最外周側の内壁部分に寄せ集められた状態を安定的に維持して流動できるようになり、メッキ電流は安定するので厚みが均一なメッキ層を形成するのには好ましい。さらに、メッキ容器4の内壁部分のうちメッキ中にコアボール19が触れる部分を平滑な面にするほうがコアボール19を一層安定して流動できるので更に好ましい。
【0028】
また、メッキ容器4の開口部を底部に対して公転内周側にして配することで、公転軸1を軸芯としてメッキ容器4を回転させても、コアボール19およびメッキ液20が開口部から飛び出しにくくなる。特にメッキ容器4を高速で回転させたときにその効果は顕著である。
【0029】
さらに、メッキ容器4の内壁のうち、メッキ中にコアボール19が触れる内壁部分をコアボール11に形成されるメッキ層よりも硬い絶縁材料、例えば、硬質のセラミックスや硬質のセラミックスを被覆した内壁部分にすれば、コアボール19の表面に形成されるメッキ層の平滑化が促進されるので好ましい。
【0030】
表面にメッキ層が形成されたコアボール19は、流動中に遠心力の作用でメッキ容器4の内壁部分に押付けられ、メッキ層に形成された微小凹凸が押し潰されて平滑なメッキ層を形成する。従って、メッキ層よりも硬い内壁部分にすることで、メッキ層に形成された微小凹凸を効果的に押し潰すことができるので平滑なメッキ層を形成するのに好ましい。なお、ここで言う「硬い」とはコアボール19に形成されるメッキ層と比較して機械的硬度の高い材料を意味するものであり、絶対的な数値により規定されるものではない。
【0031】
(メッキ容器の回転)
メッキ装置50は、公転テーブル3とメッキ容器4の回転数を検出して自転駆動モータ15と公転駆動モータ18の回転数を帰還制御し、公転テーブル3とメッキ容器4を安定的に高速回転させることが可能な装置にするのが好ましい。ここで言う高速回転とは、概ね100rpm以上の回転を指す。
【0032】
本発明のメッキ装置50において、メッキ容器4の公転は、主としてコアボール19と容器内壁、もしくはコアボール19どうしを強く接触させてメッキ層を平滑化することに寄与するパラメータであり、メッキ容器4の自転は、主としてコアボール19と容器内壁、もしくはコアボール19どうしの流動距離および速度を調整し、コアボール19を攪拌することでメッキ層の厚みを均一にすることに寄与するパラメータである。これらの相乗効果により真球度の高い平滑なメッキ層が形成可能になる。
【0033】
公転テーブル3とメッキ容器4を同時に高速回転させればメッキ容器4の内壁部分に寄せ集められたコアボール19がより高速に流動することになるので、厚みが均一なメッキ層を形成するのに効果的である。また同時に、コアボール19は遠心力の作用でメッキ容器4の容器内壁もしくはコアボール19どうしが強く接触するようになるので、平滑なメッキ層を形成するのにも効果的である。なお、コアボール19の平滑化作用は、遠心力および流動距離が大きくなるほど大きくなるので、メッキ層の形成に支障の無い範囲で公転速度および自転速度共に大きい方が好ましい。
【0034】
また、コアボール19に加わる遠心力の加速度が大きいほどコアボール19表面の平滑化が促進されることから、コアボール19に加わる遠心力の加速度は、重力加速度の10倍以上、さらに好ましくは100倍以上にするのがよい。
【0035】
また、コアボール19の径が小さくなるほどコアボール19に作用する遠心力が小さくなるので、コアボール19が遠心力の作用でメッキ容器4の内壁部分に押付けられる力が小さくなり、流動化しにくく凝集しやすくなる。公転テーブル3とメッキ容器4を高速回転させることで、径の小さいコアボール19でも凝集することなしにメッキ可能になる。
【0036】
さらに、公転テーブル3とメッキ容器4を高速回転させればメッキ中にコアボール19表面から発生する反応ガスを脱泡する効果が得られる。メッキ中に発生する反応ガスは、メッキ層表面に滞留するとメッキ層の成長を阻害し、粗面化したメッキ層形成の原因になる。高速回転による脱泡の効果により、メッキ層表面から速やかに反応ガスを除去できるので、平滑なメッキ層を形成するのには効果的である。
【0037】
なお、公転テーブル3とメッキ容器4の回転数およびその比率は、装置形状、コアボール19の材質、メッキ層の材質、メッキ電流等により適宜最適化する必要があるのは言うまでもない。
【0038】
(電極)
図1のメッキ装置50では、陰極8aをメッキ容器4の開口部から挿入してメッキ容器4における公転最外周側の内壁部分に寄せ集められた複数のコアボール19に接触させることでコアボール19への電気的導通を可能とし、陽極8bに接続したSnブロックを円柱形状にして陰極8aの周囲に配することでメッキ液への電気的導通を実現している。陰極8aと陽極8bとは一体に組み立てられて電極8を形成するが、両極間に直接電気が流れないように絶縁され、それぞれが回転電極6を介して外部の電源7に接続されて両極間の電圧印加が可能になる。このように陰極8aと陽極8bとが一体化した電極8は構造上簡単であり、電極に付着した膜除去等のメンテナンスも容易であるので、製造装置の構成要素として好ましい。
【0039】
陰極8aの先端は、公転軸1に対する自転軸2の傾きに合わせて屈曲し、メッキ容器4における公転最外周側の内壁部分に寄せ集まった複数のコアボール19に接触しやすい形状になっており、材料にはPt、Ti等を用いることができる。また、陽極8bにはSnを主体とする材料が接続されているが、必要に応じてAg、Cu等の成分を添加した材料を接続することもできる。
【0040】
また、メッキ装置50には、図4のようにメッキ容器4の開口部から挿入される陽極8bと、メッキ容器4の壁面に配されてメッキ容器4の外部と電気的動通を可能にする陰極8aとを構成してもよい。この場合、メッキ容器4を保持するホルダ14には、メッキ容器4の陰極8bとホルダ14外部との電気的導通を可能にする電極部21が設けられ、メッキ容器4が自転する際、回転電極6を介して電源8に接続された導電性ローラ22等を電極部22に接触させることで、コアボール19が寄せ集まった部位の陰極8aに接点が順次移り変わり、陽極8bとの間のみに電圧を印加できる。
【0041】
かかる構成の電極は、図1の電極8と比較して構造が複雑になるものの、寄せ集められた複数のコアボール19を陰極8aでせき止めることなく安定的に流動化できるので、コアボール19表面に厚みが均一なメッキ層を形成するのに効果的である。
【0042】
(メッキ液の循環)
図1のメッキ装置50では、メッキ液循環装置12から送出されたメッキ液20は、シャフト5の上端に設けられたメッキ液供給口11に供給され、シャフト5の内部を通ってメッキ液供給管9からメッキ容器4に供給される。そして、メッキ容器4からオーバーフローしたメッキ液20がメッキ液回収部10で回収されて再びメッキ液循環装置12に戻って循環を繰り返す。本循環方式は、メッキ容器4周りの構造が非常に簡単な点で好ましい。
【0043】
なお、メッキ装置50は、図5のように、メッキ液がメッキ液供給管9からメッキ容器4に供給され、過剰となる液がホルダ14を貫通してメッキ容器4の底部に突出するよう設けられたメッキ液排出孔23を通して排出され、排出されたメッキ液20がメッキ液回収部10で回収されるメッキ液循環方式としてもよい。この場合、陽極8bはメッキ液排出孔23を避けるとともにメッキ液20に浸漬可能な形状にすればよい。また、メッキ液20の液位はメッキ液排出孔23の突出高さ(量)で調整することが可能である。本循環方式は、図1の方式と比べてメッキ容器4から排出されるメッキ液20の回収が容易な点で好ましい。
【0044】
(装置の動作手順)
以下、メッキ装置50の動作について説明する。まず準備工程において複数のコアボール19とコアボール19全てが浸漬される程度のメッキ液20をメッキ容器4に収納する。ここで、複数のコアボール19は予め酸で表面酸化層を除去するのが好ましく、必要に応じて表面にニッケルメッキ下地層を形成したコアボール19を用いてもよい。また、メッキ容器4に収納する粒子は必ずしもコアボール19に限定されず、例えば、コアボール19の流動を促進する流動促進体として、例えば半田や鋼を主体とした導電性ダミーボール、樹脂やセラミックス等を主体とした非導電性ダミーボールを適量加えても良い。その後メッキ容器4をホルダ14に固定し、電極8を取り付けて準備工程を完了する。
【0045】
メッキ装置50の動作は、まず公転テーブル3を回転させてメッキ容器4中のコアボール19を公転外周側の内壁部分に寄せ集め、陰極8aの屈曲した先端を接触させる。その後メッキ容器4を自転させてコアボール10の流動を開始する。そして回転が安定した後、メッキ液供給口11からメッキ容器4にメッキ液20を供給し、メッキ容器4からメッキ液20がオーバーフローするのを確認したところで陰極8a−陽極8b間に電圧を印加する。
【0046】
電圧の印加と同時に寄せ集められた複数のコアボール19の表層にはメッキ層が形成されるが、コアボール19はメッキ容器4の自転と公転により3次元的に流動攪拌され、直ちに表層にある複数のコアボール19は内部のコアボール19と入れ替わり、新たに形成された表層に対してメッキ層が形成される。
【0047】
メッキ液20には、例えばSn−Ag−Cu系の液組成を有する、大和化成製の商品名「DAIN TINSIL SBB 2」やローム&ハース製の商品名「SOLDERON BP SAC5000」等に添加剤を加え、例えばホウフッ化浴など周知のメッキ浴に適宜調整して用いることができる。
【0048】
[実施例]
本発明に係わる図1のメッキ装置50に、直径50μmのコアボールを50万個投入し、厚み20μmを目標値として、上記説明した方法により所定の条件でメッキ処理し、Sn−Ag−Cu系のメッキ層を形成したCuコアボールを得た。メッキ装置50でメッキした場合のCuコアボールおよび先行技術文献1のメッキ装置でメッキした場合のCuコアボールの外観写真および断面写真を図7に示す。
【0049】
図7(a)(b)に示すように、メッキ装置50でメッキ層が形成されたCuコアボールは、非常に表面が滑らかで平滑化され、かつコアボールの表面にメッキ層が均一に形成され、さらにメッキ層の内部にボイドが生じていない。一方で、同図(c)(d)に示すように、先行技術文献1のメッキ装置でメッキ層が形成されたCuコアボールは、ボイドの原因となる凹凸がメッキ層の表面に発生し、その凹凸のために真円度が低くかつ直径および真円度のバラツキも大きいということが確認された。
【0050】
本発明のように、メッキ容器を自公転させながらメッキ層を形成するメッキ装置において、メッキ容器の公転軸に対して自転軸を非平行に配することで、被メッキ物をより効果的に流動させることができ、その表面に厚みがより均一なメッキ層を形成することが可能になる。上記メッキ装置の配置は、メッキ容器をより高速回転させたときにより効果を奏し、本発明のメッキ装置は、メッキ容器の高速回転に対応し得る構成のメッキ装置である。
【符号の説明】
【0051】
1 第1の軸(公転軸)
2 第2の軸(自転軸)
3 公転テーブル
4 メッキ容器
5 シャフト
5a 自転駆動シャフト
6 回転電極
7 電源
8 電極
8a 陰極
8b 陽極
9 メッキ液供給管
10 メッキ液回収部
11 メッキ液供給口
12 メッキ液循環装置
13 ベアリング
14 ホルダ
15 自転駆動モータ
16a、16b、16c、16d、16e プーリ
17a、17b、17c ベルト
18 公転駆動モータ
19 コアボール
20 メッキ液
21 電極部
22 導電性ローラ
23 メッキ液排出孔
50 メッキ装置
71 プラテン
72 電解セル
73 ドーム
74 集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材粒子の表面にメッキ層を形成するメッキ装置において、
前記基材粒子および前記基材粒子にメッキ層を形成するためのメッキ液を収納でき、
第1の軸を軸芯にして公転するとともに第2の軸を軸芯にして自転するメッキ容器と
前記メッキ容器に収納された基材粒子に通電可能に配された陰極と、
前記メッキ容器に収納されたメッキ液に浸漬して前記基材粒子と離れた位置に配された陽極と、
前記陰極および陽極に接続された電源とを有し、
前記第1の軸に対して前記第2の軸が非平行に配されたことを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
前記第2の軸が前記第1の軸の側に内傾して配されたことを特徴とする請求項1に記載のメッキ装置。
【請求項3】
前記メッキ容器が第3の軸に回転対称な内壁部を有するとともに、前記第3の軸の軸芯上における一方の側に開口部を設け、他方の側に底部を設けた形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のメッキ装置。
【請求項4】
前記メッキ容器が前記第3の軸と第2の軸とを一致して配されているとともに、前記開口部が前記底部に対して公転の内周側に位置するよう内傾して配されていることを特徴とする請求項3に記載のメッキ装置。
【請求項5】
前記メッキ容器の内壁が前記基材粒子に形成されるメッキ層より硬い材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−195849(P2011−195849A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60715(P2010−60715)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)