説明

モノアルケニルベンゼン類の精製法

【目的】側鎖のα位に1個以上の水素原子が結合している芳香族炭化水素化合物の側鎖をジオレフィンでアルケニル化してモノアルケニルベンゼンを合成した後に、反応生成液から高純度及び高回収率を以てモノアルケニルベンゼンを精製取得する方法を提供する。
【構成】反応生成液中に含まれるアルカリ金属系触媒を、アルコ−ル、水、酸水溶液、固体酸、炭素材料、陽イオン交換樹脂等と接触させて失活及び除去し、蒸留することによるモノアルケニルベンゼンの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】[産業上の利用分野]本発明は、アルカリ金属系触媒の存在下、側鎖のα位に1個以上の水素原子が結合している芳香族炭化水素化合物の側鎖を炭素数4又は5の共役ジエン類を用いてによりアルケニル化してモノアルケニルベンゼン類を製造した後、反応生成液からモノアルケニルベンゼン類を精製取得する方法に関する。モノアルケニルベンゼン類は、高分子モノマー、医薬品を始めとする種々の有機化合物の中間原料として有用であり、例えばO−キシレンと1,3−ブタジエンから製造される5ー(O−トリル)ー2ーペンテンは、閉環後、脱水素、異性化、酸化して工業的に有用な2、6ーナフタレンジカルボン酸に変換される。
【0002】
【従来技術】芳香族炭化水素化合物の側鎖を炭素数4又は5の共役ジエン類を用いてアルケニル化してモノアルケニルベンゼン類を製造するための触媒としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属及びそれらの合金を用いる方法、塩基性カリウム化合物とアルミナとの混合物を焼成して得られる担体に、不活性気体下、金属ナトリウムを加え熱処理して得られる混合物を用いる方法、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物に金属ナトリウムまたは金属カリウムを担持して用いる方法が知られている。 これらの触媒のうち、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属及びそれらの合金を用いて、得られた反応生成液からモノアルケニルベンゼン類を分離回収するため、反応終了後、生成液を冷却、静置し、デカンテーション又は濾過により触媒と目的物を含む液相とに分離し、蒸留によりモノアルケニルベンゼン類を分離回収する場合には、モノアルキルベンゼン類の変質が起り高純度で回収率高くモノアルキルベンゼンを得られないことが知られている。
【0003】そこで、上述の様な問題を防ぐ為、特開昭51ー4127では蒸留原料とする炭化水素中のアルカリ金属と有機アルカリ金属化合物の合計の濃度を、炭化水素相1kg当りアルカリ金属成分0.09−15ミリグラム原子の範囲にするという提案がなされている。しかし、この方法ではアルカリ金属触媒成分の全てを取り除いた訳ではなく、その一部が可溶性のアルキルもしくはアルケニル錯体として液相に混入する。この生成液がそのまま蒸留塔に導入されると、活性な触媒の共存によりモノアルケニルベンゼン類が未反応のアルキルベンゼン類及びモノアルケニルベンゼン類自体と更に反応して高分子量の副生物を生成したり、逆反応により原料であるアルキルベンゼン類に戻ったり、二重結合の移動により目的のモノアルケニルベンゼン以外の異性体を生成したりする。アルカリ金属と有機アルカリ金属化合物の合計の濃度を低くするのは、その程度を少なくするだけであり、全く変質をおこさないようにすることはできない。また蒸留塔を長期に亘り運転した場合、蒸留塔で微量のアルカリ金属と有機アルカリ金属化合物の濃縮が起り、ついには高純度のモノアルケニルベンゼン類を得ることができなくなり回収率も低下してしまう。このモノアルケニルベンゼンの変質は、蒸留温度を低くすることによりある程度抑制することができるが、そのためには減圧状態で蒸留を実施する必要があり、モノアルケニルベンゼンの変質が全く起らないようにするには高真空を必要とし工業的に装置、運転コストがかさみ現実的ではない。
【0004】また特開昭49ー70929では、反応生成液より触媒を分離除去した後、二酸化炭素で処理し蒸留、又は反応生成液を二酸化炭素で処理した後、触媒を分離除去し蒸留する方法が提案されている。この方法では、アルカリ金属と有機アルカリ金属化合物が二酸化炭素処理で完全に失活し、蒸留においてモノアルケニルベンゼンの変質を防ぐことができるが、生成したアルカリ炭酸塩、アルカリカルボン酸塩等のアルカリ塩の一部は有機溶剤に可溶で蒸留塔に導入される。そして、蒸留において未反応の芳香族炭化水素を留出させた場合、溶解度以上のアルカリ塩は固体として析出し蒸留塔内部に蓄積してくる。そのため蒸留塔内での気液接触が低下し蒸留効率が低下するだけにとどまらず、最終的には蒸留塔が閉塞し蒸留操作を行うことができなくなってしまう。即ち、アルカリ金属成分を完全に除去してやらないと安定的に蒸留塔を運転し、高純度のモノアルケニルベンゼン類を取得できなくなる。
【0005】また特公昭57ー26489では、アルケニルベンゼンと水とを接触させて、次いで水をpH6以下としアルカリ金属触媒を水溶性化してから分離する方法が提案されている。しかし、この方法は反応生成液を水と接触させる場合、多量の反応熱発生や発火の危険性がある。接触させる水もしくは反応生成液の量、及び添加時間で反応をある程度コントロールすることもできるが、工業的規模で実施しようとした場合、処理時間に長時間を必要とし、設備も大規模となるため現実的方法とは云えない。またUSP3,244,758では、予め蒸留前にイソプロパノールを加え生成液中に含有されているアルカリ金属やアルカリ金属化合物を不活性化することにより、蒸留中に好ましくない副反応を起るのを防いでいる。しかし、この方法では水を接触させる時に起る多量の反応熱発生や発火の危険性は回避できるが、失活したアルカリ金属触媒は有機溶剤に可溶のアルカリ金属アルコラートとして蒸留塔に導入され、前述のような問題を起こし好ましくない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述したように従来の技術では、反応生成液からモノアルケニルベンゼン類を高純度で回収率高く分離回収すること、及び蒸留塔を安定的に長時間運転することができず、また安全に工業的規模で実施できない。本発明の目的は、このような事実に鑑み、側鎖のα位に1個以上の水素原子が結合している芳香族炭化水素化合物の側鎖を炭素数4又は5の共役ジエン類を用いてアルカリ金属触媒によりアルケニル化してモノアルケニルベンゼン類を製造するに際して、該反応生成液からモノアルケニルベンゼン類を高純度で回収率高く、蒸留塔を安定的に長時間運転し、また安全に工業的規模で分離回収する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、芳香族炭化水素化合物のα位を炭素数4または5の共役ジエン類を用いてアルカリ金属触媒によりアルケニル化してモノアルケニルベンゼン類を製造し、該反応生成液からモノアルケニルベンゼン類を分離回収する方法について鋭意検討を重ねた結果、反応生成液からアルカリ金属触媒を失活及び/又は除去させた後、蒸留でモノアルケニルベンゼン類を分離回収することにより高純度、高回収率でモノアルケニルベンゼン類を精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち本発明は、該反応生成液中のアルカリ金属触媒を、アルコ−ルと接触させ、更に水、酸水溶液、又は固体酸、イオン交換樹脂等と接触させることにより、失活及び/又は除去した後、蒸留によりモノアルケニルベンゼン類を分離回収することを特徴とするモノアルケニルベンゼン類の精製法である。
【0008】以下に、本発明について詳細に説明する。本発明に用いる側鎖のα位に1個以上の水素原子が結合している芳香族炭化水素化合物としては、次のような化合物が用いられる。単環芳香族炭化水素としては、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、nーブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン等のモノアルキルベンゼン類、o−,m−およびp−キシレン、o−,m−およびp−エチルトルエン、o−,m−およびp−ジエチルベンゼン等のジアルキルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン等のトリアルキルベンゼン類、1、2、3、5ーテトラメチルベンゼン、1、2、4、5ーテトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン等のポリアルキルベンゼン類が用いられ、また多環芳香族炭化水素としては1ーおよび2ーメチルナフタレン、ジメチルナフタレン類、テトラヒドロナフタレン、インダン等が用いられる。 一方の原料となる炭素数4または5の共役ジエン類としては、1、3ーブタジエン、1、3ーペンタジエン、イソプレンが用いられる。
【0009】本発明に用いられるアルカリ金属触媒としては、ナトリウム金属、カリウム金属、およびナトリウムとカリウム金属の合金がある。また、これらのアルカリ金属の比重を高めるため他の元素を添加して使用してもよい。これらの触媒を反応に使用するに当っては、種々の反応方式が採られるが、一般的には原料の一方である芳香族炭化水素類を共役ジエン類に対して過剰に存在させる方法がモノアルキルベンゼン類への選択率を向上させることができる。そのためにはセミバッチ方式で共役ジエン類を連続的に反応系に供給する方法が好ましい。また完全混合方式で反応を連続的に実施する場合には反応器を多段に分け、各段に共役ジエン類を供給する等共役ジエン類の反応器中での濃度を下げることが可能な反応方式を採用する方が高選択率を得ることができ好ましい。
【0010】本発明方法における反応温度は100〜200゜Cの範囲である。これより低い場合にも反応は起るが充分な反応速度が得られず、また選択率が低下する傾向にある。これより温度が高い場合にはタール分等の副生物が多くなり好ましくない。本発明は、原料芳香族炭化水素、及び生成物が実質的に液体状態にある条件下で反応を行う。反応圧は、原料芳香族炭化水素、及び生成物が実質的に液体として存在するに充分な圧力であれば良く、特に制限はないが、絶対圧で0.05〜5気圧、好ましくは0.1〜2気圧の範囲である。本発明方法のおける原料芳香族炭化水素に対する一方の原料である炭素数4又は5の共役ジエンの比は、一般にはモル比で0.01〜1、好ましくは0.03〜0.5の範囲である。これよりもジエンが多い場合には生成したモノアルケニルベンゼンが更にジエンと反応して芳香族炭化水素1分子にジエンが2分子以上付加した化合物の生成が多くなり、またジエンの重合も起り易く選択率が低下するので好ましくない。本発明方法において用いる触媒の量は、原料の芳香族炭化水素に対して重量で0.01%以上、好ましくは0.05%以上である。
【0011】本発明方法は、バッチ方式、セミバッチ方式、完全混合流通方式等の反応方式が採用されるが、バッチ方式、セミバッチ方式での反応時間又は完全混合流通方式での滞留時間として0.1〜10時間が採用される。触媒を懸濁させて反応を行う場合、通常反応後、生成液を静置し触媒の大部分をまず沈降させる。次に生成液を反応槽から抜出し処理を行う。この時、一つの方法としては、まず5ミクロン以下のフィルターを用いて濾過しアルカリ金属触媒の大部分を除去する。これ以上の目の粗いフィルターを用いた場合微粒子状の触媒の一部が回収生成液中に含まれ蒸留工程でモノアルケニルベンゼンの変質を起こし好ましくない。また、5ミクロン以下のフィルターを用いアルカリ金属触媒をロ過し除去しても、アルカリ金属の一部が可溶性のアルキルもしくはアルケニル錯体またはアルカリ塩として液相に混入する。この生成液がそのまま蒸留塔に導入されると、活性な可溶性触媒により、モノアルケニルベンゼンの変質を起こさせる。可溶性触媒の量は決して多いものではないが、蒸留塔滞留液に濃縮され長期の運転を行う場合、モノアルケニルベンゼンの変質は無視できないほど増加する。そのため、活性な可溶性触媒は蒸留塔に生成液が導入される前に失活させる必要がある。 もう一つは、まず微粒子状の不溶性アルカリ金属触媒と可溶性のアルキルもしくはアルケニル錯体またはアルカリ塩を含む生成液から、アルカリ金属触媒成分を失活させた後、5ミクロン以下のフィルターを用い不活性化されたアルカリ金属触媒をロ過し除去する方法である。上記いずれの方法も用いることができるが、はじめの方法を用いた場合、フィルター上に補集された活性なアルカリ金属触媒はフィルター上でモノアルケニルベンゼンの変質を起こさせ高分子量のモノアルケニルベンゼンのポリマーを生成し、フィルターの目詰りを起こす場合がある。よって、後者の方法がより好適に使用される。
【0012】触媒を失活させるには、まずアルコールと生成液を接触させ、活性なアルカリ金属触媒を予めアルカリアルコキサイドに変換する必要がある。触媒の失活に水や酸水溶液を初めに使用した場合、前述したように多量の反応熱発生やび発火の危険性があり好ましくない。使用できるアルコールとしては、目的物であるモノアルケニルベンゼンとの沸点差の大きいものであれば特に制限はなく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、sec−ブタノール,ter−ブタノールなどが好適に使用される。特にイソプロパノール,ter−ブタノールのようなアルコールが反応性、安全性の面で好ましい。
【0013】触媒を失活させるための接触温度は、室温から原料芳香族炭化水素の沸点迄の広い範囲で選択できるが、室温で充分である。 接触時間は、活性なアルカリ金属触媒を失活させるに充分な時間であればよい。接触方式としてはバッチ方式、セミバッチ方式、完全混合流通方式等の反応方式が採用されるが、いずれの方式でも液ー液接触が充分であれば問題ない。使用するアルコール量には特に制限はないが、生成液中の活性なアルカリ金属触媒を失活させるに充分な量であればよい。アルコールと接触させると、活性なアルカリ金属触媒はアルカリアルコラートとなる。 このうち溶解度以上のアルカリアルコラートは固体として析出してくる。この固体はフィルターを用い生成液より除去するが、生成液中にはまだ可溶性のアルカリアルコラートが存在している。もし、このままアルカリ金属成分を含んだ生成液をそのまま蒸留塔に導入すると、蒸留において未反応の芳香族炭化水素を留出させた場合、溶解度以上のアルカリアルコラートは固体として析出し蒸留塔内部に蓄積してくる。そのため蒸留塔内での気液接触が低下し蒸留効率が低下するだけにとどまらず、最終的には蒸留塔が閉塞し蒸留操作を行うことができなくなってしまう。 従って、安定的に蒸留塔を運転し、高純度のモノアルケニルベンゼン類を得には、アルカリ金属成分を完全に除去する必要がある。
【0014】アルカリ金属成分を除去する為には、更に水、酸水溶液等の液体、及び/又は固体酸、炭素材料、陽イオン性イオン交換樹脂等の固体と接触させるのがよい。酸水溶液としては特に制限はなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、及びギ酸、酢酸、酪酸、安息香酸等の有機酸が使用できる。 酸水溶液と生成液を接触させた場合、アルカリ金属成分はアルカリ塩水溶液として生成液と二層分離し水層に分離できる。使用する酸水溶液量は、アルカリ金属成分を除去するに充分な量であればよい。酸水溶液で接触させず、ドライな酸又は有機溶剤に可溶な有機酸そのものを添加させた場合、生成液に過剰の酸が残留すると蒸留工程において酸触媒によりモノアルケニルベンゼンが副反応を起こし好ましくない。水と生成液を接触させた場合、アルカリアルコラートとして存在していたアルカリ金属成分は水酸化アルカリ水溶液として生成液と二層分離し水層に分離できる。使用する水の量は、アルカリ金属成分を除去するに充分な量であればよい。アルカリ金属成分はアルカリ水酸化物水溶液として生成液と二層分離し水層に分離できる。これらの液体との接触時間には特に制限はなく、アルカリ金属成分を除去するに充分な時間であればよい。接触温度は室温から原料芳香族炭化水素の沸点迄の広い範囲で選択できるが、室温で充分である。接触方式としてはバッチ方式、セミバッチ方式、完全混合流通方式等の反応方式が採用されるが、いずれの方式でも液−液接触が充分であれば問題ない。
【0015】固体酸や炭素材料、又は陽イオン性イオン交換樹脂等の固体と接触させる方法について次に説明する。固体酸を用いた場合、酸塩基反応によりアルカリ金属成分は固体酸上に吸着され除去することができる。使用できる固体酸としては、活性白土、アルミナ、シリカーアルミナ、各種ゼオライトなどがある。ゼオライトを使用する場合には、特に水素イオン交換型ゼオライトが好適に用いられ、例えばモルデナイト、Y型、X型、ZSM型、フェリエライト等、ゼオライト等が用いられる。炭素材料を用いた場合、アルカリ金属成分は、表面水酸基、カルボン酸基等の官能基に吸着されるか、インターカレーション機構により炭素材料中に吸蔵されることにより除去することができる。 使用できる炭素材料としては、グラファイト、活性炭、石油系および石炭系ピッチを焼成して得られるアモロファスカーボン、PAN系炭素繊維等特に制限はなく、必要に応じて焼成、酸化を施し、炭化度、表面官能基、表面積を調節して使用することができる。陽イオン性イオン交換樹脂を用いた場合、酸塩基反応によりアルカリ金属成分は陽イオン性イオン交換樹脂上の官能基に吸着され除去することができる。使用できる陽イオン性イオン交換樹脂としては、スルホン酸型、カルボン酸型等があり、膨潤性より架橋度の高いイオン交換樹脂が好ましい。上述の使用する固体の量には特に制限はないが、アルカリ金属成分を除去するに充分な量であればよい。 これらの固体との接触時間は、アルカリ金属成分を除去するに充分な時間であればよい。 接触温度は室温から原料芳香族炭化水素の沸点の広い範囲で選択できるが、室温で充分である。 接触方式としてはバッチ方式、セミバッチ方式、スラリー完全混合流通方式、固定床流通方式等の反応方式が採用されるが、いずれの方式でも固ー液接触が充分であれば問題ない。
【0016】
【発明の効果】アルカリ金属触媒を失活及び/又は除去したアルケニルベンゼン生成液から蒸留によりアルケニルベンゼンを分離回収した場合には、常圧蒸留によっても変質は起らず高純度のアルケニルベンゼンを高回収率で得ること、及び安定的に蒸留塔を運転できることなど、その工業的意義は極めて大きい。
【0017】
【実施例】以下に、実施例、及び比較例にて本発明の方法を詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0018】実施例1窒素で置換され実質的に酸素と水の存在しない撹拌式反応器に金属ナトリウム60g、金属カリウム100gを投入し、次いでモレキュラーシーブを用いて脱水したO−キシレン100kgを窒素気流中で加え、140゜Cに加熱した。常圧下、撹拌しながら1,3−ブタジエン7.0kgを1時間で導入して反応させた。 反応後、撹拌を停止し静置、降温し生成液を抜出した。この生成液の一部を採りガスクロマトグラフィーにより分析した。結果を表1に示した。1,3−ブタジエン基準の5−(O−トリル)−2−ペンテン選択率は、83.0%であった。この反応生成液にイソプロパノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更に2%塩酸水溶液と接触させアルカリ金属成分を水層に全量除去した。 油層の生成液を1ミクロンの細孔径を有するステンレス焼結金属フィルターを通しオルソキシレン回収塔に10kg/hrの速度で導入した。常圧において、釜温度230゜Cでオルソキシレン回収塔を運転した場合の塔頂液、釜出液の組成および重量を表2に示す。目的生成物である釜出液中の5−(O−トリル)−2−ペンテンの変質は認められなかった。 次に、5−(O−トリル)−2−ペンテン精製塔を常圧下、釜温度250゜Cで運転し、塔頂より5−(O−トリル)−2−ペンテンを回収した。 純度は99.8%であり、回収率は98.5%であった。
【0019】実施例2ter−ブタノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更に2%酢酸水溶液と接触させアルカリ金属成分を水層に全量除去した以外は、実施例1と同様に行った。 5−(O−トリル)−2−ペンテン純度は99.7%であり、回収率は98.4%であった。
実施例3イソプロパノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更に水と接触させアルカリ金属成分を水層に全量除去した以外は、実施例1と同様に行った。 5−(O−トリル)−2−ペンテン純度は99.6%であり、回収率は98.3%であった。
【0020】実施例4イソプロパノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更に活性白土と接触させアルカリ金属成分を固体上に全量除去した以外は、実施例1と同様に行った。 5−(O−トリル)−2−ペンテン純度は99.5%であり、回収率は98.5%であった。
実施例5ter−ブタノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更に活性炭と接触させアルカリ金属成分を固体上に全量除去した以外は、実施例1と同様に行った。 5−(O−トリル)−2−ペンテン純度は99.5%であり、回収率は98.5%であった。
実施例6イソプロパノールを添加し、アルカリ金属触媒を完全に失活させた後、更にスルホン酸系陽イオン交換樹脂と接触させアルカリ金属成分を固体上に全量除去した以外は、実施例1と同様に行った。 5−(O−トリル)−2−ペンテン純度は99.5%であり、回収率は98.5%であった。
【0021】比較例1実施例1において、アルケニル化反応後の生成液を静置し降温後抜出した。この生成液をフィルターに通さずに、そのままオルソキシレン回収塔に10kg/hrの速度で導入した。常圧において、釜温度230゜Cでオルソキシレン回収塔を運転した場合の塔頂液、釜出液の組成および重量を表2に示す。目的生成物である5−(O−トリル)−2−ペンテンの変質が起り、釜出液中の5−(O−トリル)−2−ペンテン量は著しく減少し、5−(O−トリル)−2−ペンテンとオルトキシレンのさらに反応した高沸成分、アルケニル化反応の逆反応によるオルソキシレンの増加、5−(O−トリル)−2−ペンテンの二重結合の移動による異性体である5−(O−トリル)−3−ペンテン、5−(O−トリル)−4−ペンテンの生成が認められた。
【0022】比較例2実施例1において、アルケニル化反応後の生成液を静置し降温後、反応生成液を1ミクロンの細孔径を有するステンレス焼結金属フィルターを通し抜出した。この生成液をアルカリ金属触媒成分の失活を行わずに、そのまま20mmHgの減圧下、釜温度120゜Cの条件で運転しているオルソキシレン回収塔に10kg/hrの速度で導入した。オルソキシレン回収塔運転1日後の塔頂液、釜出液の組成および重量を表2に示す。 5−(O−トリル)−2−ペンテンの変質量は減少したが副生物を抑えることはできなかった。
比較例3比較例2において、更にオルソキシレン回収塔を5日間運転後の塔頂液、釜出液の組成および重量を表2に示す。 5−(O−トリル)−2−ペンテンの変質量は増加した。アルカリ金属触媒の濃縮が蒸留塔内で起り、蒸留塔の運転条件だけでは5−(O−トリル)−2−ペンテンの変質量を減らし高回収率で精製することができなかった。
【0023】比較例4比較例2において、更にオルソキシレン回収塔を10日間運転したが、蒸留塔フィード段付近で固形物の析出が起り生成液のフィードが困難となり運転を停止した。
比較例5実施例1において、イソプロパノールを添加しアルカリ金属触媒を完全に失活させた後、析出した固形物を1ミクロンの細孔径を有するステンレス焼結金属フィルターを通しろ過した。この生成液中にはまだ、有機溶剤に可溶のアルカリアルコラートが含まれていた。生成液からアルカリ金属成分を全量除去することなく、そのまま20mmHgの減圧下、釜温度120゜Cの条件で運転しているオルソキシレン回収塔に10kg/hrの速度で導入した。オルソキシレン回収塔を10日間運転したが、蒸留塔フィード段付近で固形物の析出が起り生成液のフィードが困難となり運転を停止した。
【0024】
【表1】
─────────────────────────── オルソキシレン 81.87wt% OTP−2 16.10wt% OTP−3 0.003wt% OTP−4 0.016wt% C20H 0.071wt% その他高沸副生物 2.03wt%───────────────────────────OTP−2;5−(O−トリル)−2−ペンテン。
OTP−3;5−(O−トリル)−3−ペンテン。
OTP−4;5−(O−トリル)−4−ペンテン。
C20H ;5−(O−トリル)−2−ペンテンとオルソキシレンが反応して生成した分子量266の化合物。
【0025】
【表2】
──────────────────────────────────── 実施例1 比較例1 比較例2 比較例3────────────────────────────────────塔頂液重量 kg/hr 8.19 8.28 8.21 8.31組成 wt%オルソキシレン 99.99 99.99 99.99 99.99OTP−2 0.001 0.001 0.001 0.001────────────────────────────────────釜出液 重量 kg/hr 1.81 1.72 1.79 1.69組成 wt%オルソキシレン 0.001 0.001 0.001 0.001OTP−2 88.36 71.46 85.43 60.45OTP−3 0.015 0.71 0.14 0.83OTP−4 0.088 4.73 0.95 6.28C20H 0.39 2.67 0.53 4.06その他高沸副生物 11.15 20.42 12.95 28.38────────────────────────────────────OTP−2;5−(O−トリル)−2−ペンテン。
OTP−3;5−(O−トリル)−3−ペンテン。
OTP−4;5−(O−トリル)−4−ペンテン。
C20H ;5−(O−トリル)−2−ペンテンとオルソキシレンが反応して生成した分子量266の化合物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】アルカリ金属系触媒の存在下、側鎖のα位に1個以上の水素原子が結合している芳香族炭化水素化合物の側鎖を炭素数4又は5の共役ジエン類を用いてによりアルケニル化してモノアルケニルベンゼン類を製造するに際して、該反応生成液からアルカリ金属系触媒を失活及び/又は除去した後、蒸留によりモノアルケニルベンゼン類を分離回収することを特徴とするモノアルケニルベンゼン類の精製法。
【請求項2】反応生成液を5ミクロン以下のフィルターを用いて濾過しアルカリ金属系触媒を除去する請求項1記載の方法。
【請求項3】アルコールと接触させることによりアルカリ金属系触媒を失活させる請求項1記載の方法。
【請求項4】アルコールと接触させ、更に水及び/又は酸水溶液と接触させることによりアルカリ金属系触媒を失活及び/又は除去する請求項1記載の方法。
【請求項5】アルコールと接触させ、更に固体酸、炭素材料、陽イオン性イオン交換樹脂の固体と接触させることによりアルカリ金属系触媒を失活及び/又は除去する請求項1記載の方法。
【請求項6】金属カリウム及び金属ナトリウム、又はその合金をアルカリ金属系触媒とする請求項1記載の方法。

【公開番号】特開平7−41440
【公開日】平成7年(1995)2月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−190162
【出願日】平成5年(1993)7月30日
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)