説明

モノフィラメント

【課題】 高比重でかつ靭性のあるモノフィラメントを提供する。
【解決手段】 熱可塑性エラストマーをマトリクス樹脂とする熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなる比重5以上のモノフィラメントを提供する。
【効果】 この発明のモノフィラメントを例えば、養殖漁網や定置網等各種漁網の錘に使用することで、万が一網が海底に沈んでも鉛害は防ぐことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなる高比重性及び高靭性を有するモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
高比重であることが求められる種々の用途に、従来より鉛は比重が大きく小スペースで錘として有用な材料として多く使用されている。
【0003】
しかしながら、鉛には毒性があり、しかも、皮膚から人間の体内に侵入した鉛は骨に沈着すると極めて排出されにくく、人間の体内に蓄積されることとなる。そして、万一人間の体内に鉛が蓄積されると、鉛中毒を起こす可能性も皆無ではない。
【0004】
一方、養殖漁網や定置網等各種漁網の錘には、編組で被われている鉛が使われているが、そのまま海に沈むことも多々あり、鉛害として問題となっている。
【0005】
それ故、代替え製品の開発が進められているが、鉛のように高比重で適度な柔軟性を備えた材料は未だに開発されていないのが現状である。
【0006】
なお、本願出願人らは、アクリル酸エステル共重合体、タングステン粉末及び飽和脂肪族カルボン酸化合物を配合した、射出成形用材料に係り、靭性と高比重性とを必要とする電気部品や機械部品等に好適な熱可塑性高比重樹脂組成物(例えば、特許文献1及び2を参照。)や、熱可塑性エラストマー及びタングステン粉末を含有する、自動車のバランスウェイト等に使用される高比重で柔軟性に優れた熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献3を参照。)などの、高比重性樹脂に関しては既に提案している。しかしながら、これらの樹脂をそのまま養殖漁網や定置網等各種漁網の錘などに使用するには、必ずしも容易であるとは言い難かった。
【0007】
【特許文献1】特開平3−215563号公報
【特許文献2】特開平3−215566号公報
【特許文献3】特開2000−290466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の目的とするところは、上記従来技術の問題点を解決し、高比重でありながら靭性があるモノフィラメントを提供することにある。また副次的な目的として、養殖漁網や定置網等各種漁網に使用される場合の清掃時溶剤使用を考慮して、高比重及び高靭性に加え、耐薬品性を備えたモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、熱可塑性エラストマーをマトリクス樹脂とする熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなることを特徴とする比重5以上のモノフィラメントによって達成される。更に、耐薬品性を考慮すると、マトリクス樹脂としては、ポリアミド系エラストマーが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモノフィラメントを養殖漁網や定置網等各種漁網の錘に使用することで、これらが海に沈んでも鉛害となることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のモノフィラメントのマトリクス樹脂に用いられる熱可塑性エラストマーは、分子中に弾性を持つゴム成分(ソフトセグメント)と、塑性変形を防止するための分子拘束成分(ハードセグメント)との両成分を持っており、ソフトセグメントの分子運動が局所的にハードセグメントによって拘束されているため、常温ではゴム弾性体としての挙動をとるが、温度上昇によって塑性変形をする高分子材料のことである。高温で可塑化して成形が可能となり、常温下ではその形状を保ち、かつ容易に変形することが求められるためである。
【0012】
具体的には、ハードセグメントがポリスチレン、ソフトセグメントが(水添)ポリブタジエンや(水添)ポリイソプレンであるポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがポリエチレンやポリプロピレン、ソフトセグメントがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)やブチルゴムであるオレフィン系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがポリエステル、ソフトセグメントがポリエーテルや脂肪族ポリエステルであるポリエステル系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがウレタン構造、ソフトセグメントがポリエーテルやポリエステルであるウレタン系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがポリアミド、ソフトセグメントがポリエーテルやポリエステルであるポリアミド系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0013】
また、ハードセグメントがシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、ソフトセグメントが非結晶ポリブタジエンである1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがトランス1,4−ポリイソプレン、ソフトセグメントが非結晶ポリイソプレンであるトランス1,4−ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントが金属カルボキシレートイオンクラスター、ソフトセグメントが非結晶ポリエチレンであるアイオノマー、ハードセグメントが結晶ポリエチレン、ソフトセグメントがエチレン−エチルアクリレート共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体であるPE/EEA,EVA系熱可塑性エラストマー、ハードセグメントがフッ素系樹脂、ソフトセグメントがフッ素系ゴムであるフッ素系熱可塑性エラストマー等を使用することも可能である。
【0014】
本発明のモノフィラメントのマトリクス樹脂に用いられる好ましい熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーである。この中で、特にポリアミド系熱可塑性エラストマーが好ましい。これは、耐薬品生が優れているからである。具体的には、養殖漁網や定置網等各種漁網に使用される場合、網に付着したバクテリアが腐敗して塩基性を呈したり、網にへばりついた藻を除去する際、キシレンを含む溶剤を使用するが、ポリアミド系熱可塑性エラストマーはこれらに対して耐性が有る。
【0015】
本発明のモノフィラメントを製造するのに使用する熱可塑性樹脂組成物とは、上記熱可塑性エラストマーに比重の大きい非鉛系無機粉末を溶融混練で分散させたものである。比重の大きい非鉛系無機粉末とは、タングステン粉末が好ましいが、イリジウム粉末(22.5)、オスミウム粉末(22.5)等も使用可能である。
【0016】
本発明に使用する非鉛系無機粉末は、熱可塑性エラストマーと均一にブレンドする必要があることから、その粒子径は好ましくは300μm以下であり、特に好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは50μm以下である。
【0017】
また、本発明で使用する非鉛系無機粉末は、樹脂との親和性を高める場合には、カップリング処理をして用いることが好ましい。カップリング剤としては、チタネート系、アル
ミニウム系、シラン系等が用いられるが、本発明においては、シラン系が最も親和性改善効果が高い。
【0018】
本発明のモノフィラメントは、比重が5以上であることが肝要である。5未満の場合、重量感に乏しく本発明の目的から逸脱する。
【0019】
一方、本発明のモノフィラメント比重が12以下であることが好ましい。12を超える場合、得られるモノフィラメントは脆くなる。
【0020】
なお、本発明のモノフィラメントを製造するのに使用する熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、結晶化促進剤、骨材、添加剤添着液、染料、軟化剤、老化防止剤、架橋剤等を添加することができる。
【0021】
本発明のモノフィラメントの製造方法は、特に限定されるものではなく、単軸または2軸押出機を用いてペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した後、再び単軸または2軸押出機や溶融紡糸機を用いてモノフィラメントを得る方法や熱可塑性樹脂組成物を製造する際に同時にモノフィラメントを得る方法等、公知の種々の方法を採用することができる。
【0022】
本発明のモノフィラメントはその断面形状は特に限定されるものではなく丸形、三角形、長方形等どのような形状でも構わない。製造上の面から丸形状か楕円形状が最も好ましい。
【0023】
本発明のモノフィラメントの直径は、特に限定されるものではなく、付与するのに必要な重量を考慮して設計すればよい。
【0024】
以上のように、本発明のモノフィラメントは、高比重性及び高靭性を有し、防鳥ネット、養殖漁網や定置網等各種網用途、種々のスポーツ用具、電気・電子部品、機械部品等、様々な用途に使用することができる。
【0025】
また、本発明のモノフィラメントは熱可塑性樹脂組成物を使用しているので、使用済みのモノフィラメントを回収し、溶融紡糸することでリサイクルが可能であるという利点がある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
各評価方法
1.比重:ASTM D792の試験法に準拠して比重を評価した。
2.引張特性:ASTM D638の試験法に準拠して引張最大強度及び引張破断伸度を評価した。
【0028】
(シラン系カップリング処理方法)シラン系カップリング剤として、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(SH6020、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を使用した。高速攪拌翼付き混合槽(スーパーミキサー)で攪拌中のタングステン粉末(平均粒径13μm、(株)アライドマテリアル製)へ、シラン系カップリング剤を0.3重量%滴下し、槽内温度が120℃になるまで攪拌を続けた。その後冷却し、シラン系カップリング処理済みタングステン粉末として使用した。
【0029】
(モノフィラメントの製造、モノフィラメント比重及び引張特性評価)
実施例1〜8、比較例1
表1に示した種々の熱可塑性エラストマー及び事前にカップリング処理したタングステン粉末を表1に示した組成で配合し、高速攪拌翼付き混合槽(スーパーミキサー)で予備混合した後、スクリュー径が25mmの単軸押出機で溶融混錬してペレットを得た。このペレットを再び25mmの単軸押出機で直径1.5mmのモノフィラメントを溶融紡糸した。得られたモノフィラメントの比重及び引張特性を評価した。結果も表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
(モノフィラメントの耐薬品性評価)
実施例2、実施例5、実施例6及び実施例8で得られた高比重で高靭性のモノフィラメントをキシレン及び5%水酸化ナトリウム水溶液に室温で24時間浸漬した後、それぞれの表面状態の変化を観察した。その結果、実施例2で得られたモノフィラメントは、表面の変化は見られなかったが、その他のものは、表面にクラックや膨潤が見られた。
【0032】
以上の結果から、本発明のモノフィラメントは、高比重性及び靭性に優れていることがわかった。また、ポリアミド系エラストマーをマトリクス樹脂に使用したものは、特に、耐薬品性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のモノフィラメントは、特に漁業分野での使用に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーをマトリクス樹脂とする熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなることを特徴とする比重5以上のモノフィラメント。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーのうちいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1または2に記載のモノフィラメント。

【公開番号】特開2006−97165(P2006−97165A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283313(P2004−283313)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(596154239)カネボウ合繊株式会社 (29)
【出願人】(591018877)日東製網株式会社 (6)
【Fターム(参考)】