説明

モルヒノンの立体選択的還元

本発明は、モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して、還元モルヒノンを形成するステップと、任意に水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合するステップと、を含む、合成方法を提供する。本発明の1つ以上の実施形態において、還元モルヒノンのα‐エピマーおよびβ‐エピマーの混合物を含む組成物が提供される。α‐エピマーおよびβ‐エピマーの比は、少なくとも60対40である。本発明の別の実施形態において、モルヒノンのケトンを選択的に還元して還元モルヒノンを形成するステップを含む合成方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明の1つ以上の実施形態は、特に化学合成方法に関する。さらに本発明は、(特に)水溶性ポリマーおよび活性剤の複合体、該複合体を含む組成物、および複合体を投与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
概念的に、PEG化は、ポリ(エチレングリコール)派生物を薬理活性剤に結合することにより「複合体」を形成することとして説明されている。実際には、ポリマー試薬(反応性官能基または「活性」官能基を担持する水溶性ポリマー)は、一般的に対象活性剤と反応し、水溶性ポリマーを(直接または連結部分を介して)共有結合により活性剤に結合または連結する。水溶性ポリマーの結合を欠く活性剤と比較すると、本複合体は長い生体内半減期、低い免疫原性、高い親水性、またはそれらのうちの幾つかの組み合わせを有する場合がある。Harrisらは、薬剤に対するPEG化の影響に関する概説を提供している。非特許文献1。
【0003】
商業的に入手可能なPEG化活性剤の幾つかの例は、PEGASYS(登録商標)PEG化インターフェロンα‐2a(Hoffmann‐La Roche、Nutley,NJ)、PEG‐ENTRON(登録商標)PEG化インターフェロンα‐2b(Schering Corp.,Kennilworth,NJ)、NEULASTATM PEG‐フィルグラスチム(Amgen Inc.,Thousand Oaks,CA)、およびMACUGEN(登録商標)PEG化アプタマー(Pfizer InCNew York,NY)を含む。これらの各例における活性剤はそれぞれ「巨大分子」であるが、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンおよびフルオロウラシル(非特許文献2)等の小分子(非特許文献3)もPEG化されている。そのため、多くの種類の分子がPEG化の利益を享受する可能性がある。
【0004】
PEG化の一般的な利点は知られているが、多くの場合、ポリ(エチレングリコール)派生物を活性剤に結合することは困難であり、必ずしも可能とは限らない。例えば、対象活性剤がポリマー試薬との反応に適した化学官能基を含まない場合に困難が生じる可能性がある。さらに、好適な化学官能基が対象活性剤上に存在する限りは、結合したポリマーが、例えば活性剤の活性に必要な結合部位を妨害するため、結果として生じる複合体が十分に薬理的に活性でない場合がある。
【0005】
特許文献1は、特にポリ(エチレングリコール)および麻薬拮抗薬の複合体について記載する。しかし、所望の位置における接合を達成するため、幾つかのステップを行う必要がある。本参照文献に記載されるように、3‐MEM‐ナロキソン(3‐ヒドロキシ保護ナロキソン)の6‐ケト基をボロヒドリドナトリウム(NaBH)で還元し、6‐ヒドロキシ‐3‐MEM‐ナロキソールのα‐およびβ‐エピマー混合物を形成する。その後、ポリマー試薬を使用可能なヒドロキシル基において共有結合することにより、6‐ポリマー‐3‐MEM‐ナロキソールのα‐およびβ‐エピマー混合物を形成する。保護基を除去した後、適切なカラムを使用してα‐およびβ‐エピマーを分離および単離する。特許文献1に示されるように、6‐ポリマー‐3‐MEM‐ナロキソールの個別の異性体は異なる特性を有するため、エピマーを分離および単離することが望ましい。
【0006】
トリ‐sec‐ブチルボロヒドリドを使用してナルトレキソンをα‐ナルトレキソンに立体選択的還元することについては、Malspeisらの非特許文献4に記述されている。しかしMalspeisらは、ナルトレキソン以外の化合物の立体選択的還元について説明していない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0136031号明細書
【非特許文献1】Harris et al.(2003)Nat.Rev.DrugDiscov.2(3):214‐221
【非特許文献2】Ouchi et al.(1992)Drug Des.Discov.9(1):93‐105
【非特許文献3】Zalipsky(1993)Bioconjug.Chem.4(4):296‐299
【非特許文献4】Malspeis et al.(1975)Res.Commum.Chem.Pathol.PharmAcol.12(1):43‐65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
米国特許出願公開第2005/0136031号に記載される6‐ポリマー‐3‐MEM‐ナロキソールの実質的に純粋な異性体を含む組成物を調製するアプローチが有効であるが、必要なステップの少ないアプローチ、例えば個別のエピマーを分離および単離する必要性を排除することが有利になると考えられる。そのため、本発明の1つ以上の実施形態は、特にポリ(エチレングリコール)および麻薬拮抗薬の複合体の個別エピマーを分離および単離する必要性を排除する合成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
したがって、モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して還元モルヒノンを形成するステップ、および任意に水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合するステップを含む合成方法を提供する。概して、モルヒノンはフェナントレンベースの部分であり、(a)以下の構造を含み、
【0009】
【化13】


化学式I
式中、
はH、有機ラジカル、またはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、

【0010】
【化14】

【0011】
(立体化学とは無関係)から成る群から選択され、式中、Rは有機ラジカルであり、
(b)ケトンを含む[ケトンについて、(a)、つまり化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分に対して定義される構造に従うか、または(a)、つまり化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分における原子の置換による]。特定のモルヒノンの場合、本発明の合成方法は、水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合するステップを含む。
【0012】
本発明の1つ以上の実施形態において、還元モルヒノンのα‐エピマーおよびβ‐エピマーの混合物を含む組成物を提供する。α‐エピマーおよびβ‐エピマーの比は、少なくとも60対40である。
【0013】
本発明の1つ以上の実施形態において、
モルヒノンのケトンを選択的に還元して還元モルヒノンを形成するステップを含む合成方法を提供し、モルヒノンは以下の構造を含み、
【0014】
【化15】


化学式II
式中、
はH、有機ラジカル、またはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、
水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合するステップを含む。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態は、本明細書に提供される合成方法により調製した複合体を含む組成物を提供する。
【0016】
本発明の1つ以上の実施形態は、医薬賦形剤と併用して、本明細書に記載されるように複合体を含む組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明の1つ以上の実施形態について説明する前に、特定のポリマー、合成技術等は変化する場合があるため、本発明はそれらに限定されないことを理解されたい。
【0018】
本明細書および意図される請求項で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段の明確な指定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。したがって、例えば「ポリマー」に対する言及は単一のポリマーと同様に2つ以上の同一または異なるポリマーを含み、「任意の賦形剤」に対する言及は、単一の任意の賦形剤、および2つ以上の同一または異なる任意の賦形剤等を意味する。
【0019】
本発明の1つ以上の実施形態に関する説明および主張において、以下の用語を下記の定義に基づいて使用する。
【0020】
「PEG」、「ポリエチレングリコール」および「ポリ(エチレングリコール)」は、本明細書で使用されるように交換可能であり、任意の非ペプチド水溶性ポリ(エチレンオキシド)を包含することを意図する。一般的に、本発明に基づいて使用するPEGは、以下の構造「‐(OCHCH‐」を含み、式中(n)は2〜4000である。本明細書において、PEGは末端酸素が置換されているかどうかによって「‐CHCH‐O(CHCHO)‐CHCH‐」および「‐(OCHCHO‐」も含む。明細書および請求項全体において、「PEG」という用語は様々な末端または「末端封止」基等を有する構造を含むことに留意すべきである。また「PEG」という用語は、‐OCHCH‐繰り返しサブユニットを大部分、つまり50%より多く含むポリマーを意味する。特定の形態に関して、PEGは任意の数の様々な分子量、および「分岐型」、「線状」、「フォーク状」、「多官能」等の構造または形状をとることができ、それらは以下に詳述する。
【0021】
「末端封止した」および「末端にキャップ構造が付いた」という用語は、本明細書において同義的に使用され、末端封止部分を有するポリマーの末端または終点を意味する。必ずしもそうではないが、一般的に、末端封止部分はヒドロキシまたはC1‐20アルコキシ基を含み、より好ましくはC1‐10アルコキシ基、およびさらに好ましくはC1‐5アルコキシ基を含む。そのため、末端封止部分の例はアルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシおよびベンジルオキシ)、およびアリール、ヘテロアリール、シクロ、複素環等を含む。末端封止部分は、ポリマーにおける末端モノマーの1つ以上の原子を含む場合があることに留意する必要がある[例えば、CHO(CHCHO)‐およびCH(OCHCH‐における末端封止部分「メトキシ」]。さらに、前述のそれぞれについて飽和、不飽和、置換および非置換形態が想定される。さらに、末端封止基はシランであってもよい。末端封止基は、検出可能な標識を有利に含んでもよい。ポリマーが検出可能な標識を含む末端封止基を有する場合、ポリマーおよび/またはポリマーが連結される部分(例えば、活性剤)の量または位置は、適切な検出器を使用することにより特定できる。そのような標識は、蛍光発光物質、化学発光物質、酵素標識に使用される部分、比色(例えば、染料)、金属イオン、放射性部分等を含むが、それらに限定されない。好適な検出器は、光度計、フィルム、分光計等を含む。末端封止基は、リン脂質を有利に含んでもよい。ポリマーがリン脂質を含む末端封止基を有する場合、ポリマーおよび結果として生じる複合体に対して固有の特性が付与される。典型的なリン脂質は、ホスファチジルコリンと称されるリン脂質の類から選択されるものを含むが、それらに限定されない。特定のリン脂質は、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステロイルホスファチジルコリン、ベヘノイルホスファチジルコリン、アラチドイルホスファチジルコリン、およびレシチンから成る群から選択されるもの含むが、それらに限定されない。
【0022】
本明細書に記載される、ポリマーに関しての「自然発生しない」とは、その全体が自然に検出されないポリマーを意味する。しかし本発明の自然発生しないポリマーは、全体的なポリマー構造が自然に検出されない限り、自然発生する1つ以上のモノマーまたはモノマーのセグメントを含み得る。
【0023】
「水溶性ポリマー」に見られるような「水溶性」という用語は、室温で水に溶解できる任意のポリマーである。一般的に水溶性ポリマーは、ろ過後の同一の溶液により透過される光の少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約95%を透過する。重量ベースで、水溶性ポリマーは好ましくは少なくとも約35(重量)%水溶性であり、より好ましくは少なくとも約50(重量)%水溶性、さらに好ましくは約70(重量)%水溶性、一層好ましくは約85(重量)%水溶性である。しかし最も好ましくは、水溶性ポリマーは約95(重量)%水溶性であるか、または完全に水溶性である。
【0024】
本発明の水溶性ポリマー、例えばPEGとの関係において、分子量は、数平均分子量または重量平均分子量のいずれかで表すことができる。別段の指定がない限り、本明細書における分子量に対するすべての言及は、重量平均分子量を意味する。数平均および重量平均分子量の決定はどちらも、ゲル透過クロマトグラフィまたはその他の液体クロマトグラフィ技術を使用して測定できる。分子量値を測定する他の方法、例えば末端基分析または束一性(例えば、凝固点降下、沸点上昇、または浸透圧)の測定を使用して数平均分子量を決定するか、あるいは光散乱法、超遠心法または粘度測定を使用して重量平均分子量を決定することができる。本発明のポリマーは、一般的に多分散性の値が低く、好ましくは約1.2未満、より好ましくは約1.15未満、さらに好ましくは約1.10未満、一層好ましくは約1.05未満、および最も好ましくは約1.03未満である。
【0025】
特定の官能基とともに用いられる場合の「活性」または「活性化」という用語は、別の分子上の求電子剤または求核剤と容易に反応する反応性官能基を意味する。これは、反応するために強い触媒または極めて非実用的な反応条件を必要とする基(例えば、「非反応性」または「不活性」基)とは対照的である。
【0026】
本明細書において、「官能基」またはその任意の同義語は、その保護形態および非保護形態を包含することを意味する。「保護」、「保護基(「protecting group」および「protective group」)は、分子内の特定の化学的に反応性の官能基の、ある反応条件化での反応を阻止またはブロックする部分(つまり保護基)の存在を意味する。保護基は、保護されている化学的反応基の種類、採用される反応条件および分子における追加の反応または保護基の存在(ある場合)によって異なる。当該技術分野において既知の保護基については、Greene,T.W.,et al.,PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS,3rd ed.,John Wiley & Sons,InC.,New York,NY(1999)を参照のこと。
【0027】
本明細書において、「スペーサ部分」、「リンケージ」、または「リンカー」という用語は、相互接続部分を連結するため任意に使用される原子または原子の集合を意味する。スペーサ部分は加水分解に安定であるか、または生理的に加水分解可能または酵素的に分解可能なリンケージを含んでもよい。
【0028】
「アルキル」は、一般的に約1〜15原子長の範囲の炭化水素鎖を意味する。そのような炭化水素鎖は、必ずしもそうではないが、好ましくは飽和状態であり、また分岐型または直鎖であってもよいが、一般的には直鎖が好ましい。典型的なアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、1‐メチルブチル、1‐エチルプロピル、3‐メチルペンチル等を含む。「アルキル」は、「低級アルキル」、「シクロアルキル」、および「シクロアルキレン」を含む。
【0029】
「低級アルキル」は、1〜6炭素原子を含むアルキル基を意味し、直鎖または分岐型であってもよく、メチル、エチル、n‐ブチル、i‐ブチル、およびt‐ブチルにより例示される。
【0030】
「シクロアルキル」は、好ましくは3〜約12炭素原子、より好ましくは3〜約8炭素原子から成る、架橋、融合、またはスピロ環式化合物を含む、飽和または不飽和環式炭化水素鎖を意味する。「シクロアルキレン」は、環式環系の任意の2炭素において鎖を結合することによりアルキル鎖に挿入されるシクロアルキル基を意味する。
【0031】
「アルコキシ」は‐O‐R基を意味し、Rはアルキルまたは置換アルキル、好ましくはC1‐6アルキル(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等)である。
【0032】
例えば「置換アルキル」に見られるような「置換」という用語は、例えばアルキル、C3‐8シクロアルキル、例えばシクロプロピル、シクロブチル等、ハロ(例えばフルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨード)、シアノ、アルコキシ、低級フェニル、置換フェニルだがこれらに限定されない1つ以上の非干渉置換基で置換される部分(例えば、アルキル基)を意味する。「置換アリール」は、1つ以上の非干渉基を置換基として有するアリールである。フェニル環上の置換基の場合、置換基は任意の方位(つまり、オルト、メタ、またはパラ)にあってもよい。
【0033】
「非干渉置換基」は、分子に存在する場合、一般的に分子内に含まれるその他の官能基との反応性がない基である。
【0034】
「アリール」は、それぞれ、5または6コア炭素原子を有する1つ以上の芳香環を意味する。アリールは、ナフチルのように融合されるか、またはビナフチルのように融合されなくてもよい複数アリール環を含む。アリール環は、1つ以上の環式炭化水素、ヘテロアリール、または複素環式環と融合されても融合されなくてもよい。本明細書において、「アリール」は「ヘテロアリール」を含む。
【0035】
「ヘテロアリール」は、1〜4のヘテロ原子、好ましくは硫黄、酸素、または窒素、あるいはそれらの組み合わせを含むアリール基である。ヘテロアリール環は、1つ以上の環式炭化水素、複素環式、アリール、またはヘテロアリール環と融合されてもよい。
【0036】
「複素環」または「複素環式」は、5〜12原子、好ましくは5〜7原子から成る1つ以上の環を意味し、不飽和または芳香族性を有する場合と有しない場合があり、炭素でない少なくとも1つの環原子を有する。好適なヘテロ原子は、硫黄、酸素、および窒素を含む。
【0037】
「置換ヘテロアリール」は、1つ以上の非干渉基を置換基として有するヘテロアリールである。
【0038】
「置換複素環」は、非干渉置換基から形成された1つ以上の側鎖を有する複素環である。
【0039】
本明細書における「有機ラジカル」は、アルキル、置換アルキル、アリール、および置換アリールを含むものとする。
【0040】
「求電子剤」および「求電子基」は、イオンまたはイオン性であってもよい原子または原子の集合を意味し、求電子中心、つまり求電子状態であり、求核剤と反応できる中心を有する。
【0041】
「求核剤」および「求核基」は、イオンまたはイオン性であってもよい原子または原子の集合を意味し、求核中心、つまり、求電子中心であるか、または求電子剤を含む中心を有する。
【0042】
「加水分解性」または「分解性」結合は、生理的条件下で水と反応する(つまり加水分解する)結合である。水中で加水分解するための結合傾向は、2つの原子を接続する一般的な種類のリンケージのみでなく、これらの原子に結合する置換基にも依存する。加水分解に不安定または弱い適切なリンケージは、カルボン酸塩エステル、リン酸エステル、無水物、アセタール、ケタール、アシルオキシアルキルエーテル、イミン、オルトエステル、ペプチドおよびオリゴヌクレオチドを含むが、それらに限定されない。
【0043】
「酵素的に分解可能なリンケージ」は、1つ以上の酵素による分解を受けやすいリンケージを意味する。
【0044】
「加水分解に安定な」リンケージまたは結合は、実質的に水中で安定する、つまり生理的条件下で感知できるほどの、いかなる加水分解をも長期間受けない化学結合、一般的には共有結合を意味する。加水分解に安定なリンケージの例は、(例えば、脂肪族鎖における)炭素‐炭素結合、エーテル、アミド、ウレタン等を含むが、それらに限定されない。一般に、加水分解に安定なリンケージは、生理的条件下で約1〜2%/日未満の加水分解率を示すものである。代表的な化学結合の加水分解率については、大部分の標準的な化学の教科書を参照できる。
【0045】
「薬学的に許容しうる賦形剤または担体」は、本発明の組成物に任意に含めることができ、患者に著しい有害な毒性効果を生じない賦形剤を意味する。「薬学的に有効な量」、「生理学的に有効な量」、および「治療上有効な量」は、本明細書において同義的に使用され、血流または標的組織において所望のレベルの複合体を提供するために必要な複合体の量を意味する。正確な量は、多くの要素、例えば複合体、治療組成物の構成要素および物理的特性、対象患者集団、個別患者の考慮事項等に依存し、本明細書で提供される情報に基づいて、当業者により容易に決定できる。
【0046】
「多官能」は、そこに含まれる3つ以上の官能基を有するポリマーを意味する。官能基は同一または異なってもよい。多官能ポリマーの官能基の数に対する典型的な範囲は、3〜100官能基、3〜50官能基、3〜25官能基、3〜15官能基、3〜10官能基を含む。一般的に、多官能ポリマーの官能基の数は、3、4、5、6、7、8、9または10官能基のうちの1つである。
【0047】
「患者」という用語は、活性剤(例えば、複合体)を投与することにより予防または治療できる状態を罹患する生物、またはその状態になりやすい生物を意味し、ヒトおよび動物の両方を含む。
【0048】
「任意の」または「任意に」とは、後述の状況が生じる場合と生じない場合があることを意味し、説明はその状況が生じる場合と生じない場合を含む。
【0049】
「実質的に」とは(他の場所で特定の文脈に対し明確に定義されるか、または文脈上別段の明確な指示がない限り)、ほぼすべて、または完全であること、例えば状態の50%より大、51%以上、75%以上、80%以上、90%以上、および95%以上のうちの1つ以上を満たすことを意味する。
【0050】
「α‐エピマーとβ‐エピマーの比は少なくとも」という表現は、α‐エピマーが記されたの比率または記された比率より多い量で存在することを意味する。例えば、「α‐エピマーとβ‐エピマーの比が少なくとも60:40である」場合、4つのβ‐エピマー毎に6つのα‐エピマー、または4つのβ‐エピマー毎に6つ以上のα‐エピマーがある(例えば、30のβ‐エピマー毎に70のα‐エピマー)。
【0051】
文脈上別段の明確な指示がない限り、数値に先行する「約」という用語は、規定の数値の±10%を意味することが理解される。
【0052】
本発明の1つ以上の実施形態に戻り、モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して還元モルヒノンを形成する合成方法を提供する。モルヒノンは、フェナントレンベースの部分であり、(a)以下の構造を含み、
【0053】
【化16】


化学式I
式中、
はH、有機ラジカル、またはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであり(好ましくは、RはHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、有機ラジカルは
【0054】
【化17】

【0055】
でないということを条件とする)、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、

【0056】
【化18】

【0057】
から成る群から選択され(立体化学とは無関係)、式中、Rは有機ラジカルであり、
(b)ケトンを含む[ケトンについて、(a)、つまり化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分に定義された構造に従うか、または(a)、つまり例えば化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分における原子の置換による]。
【0058】
モルヒノンは以下の構造を含むことが特に好ましく、
【0059】
【化19】


化学式II
式中、
はH、有機ラジカルまたはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、有機ラジカルは
【0060】
【化20】

【0061】
でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSである。
【0062】
ケトンのケトン含有モルヒノンを立体選択的に還元するステップは、一般的に、立体選択的還元剤を(例えば、立体選択的還元剤を含む組成物を添加することにより)モルヒノンを含む組成物に添加するステップを含む。
【0063】
当業者に既知の任意の還元剤は、その還元剤が立体選択的である限り、選択的還元剤として機能できる。本文脈において、還元ステップ後の組成物が、対応する「非還元」モルヒノンの開始モル量に対して少なくとも65%量の特定エピマーの還元モルヒノンを含む場合、還元剤は立体選択的であると考えられる。選択的還元剤を使用して産生される還元モルヒノンの量を表す典型的な値は(対応する「非還元」モルヒノンの開始モル量に対するモル基準で)、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、および少なくとも99.9%を含む。
【0064】
当業者に既知の技術を使用する実験を使用し、所定の還元剤が立体選択的還元剤(つまり対応する「非還元」モルヒノンの開始モル量に対して少なくとも65%量の特定エピマーの還元モルヒノンを含む組成物を提供する還元剤)であるかどうかを判断できる。例えば、提案される還元剤を含む組成物は、モルヒノンを含む組成物と結合できる。結果として生じる組成物のアリコートは、エピマーにより分離することができ、各エピマーの量は従来技術を使用して(キラルカラム、質量分析、電気クロマトグラフィ、キャピラリ電気永動、および核磁気共鳴を用いた高性能液体クロマトグラフィを使用して)計算される。使用される還元剤により許容しうる量の単一エピマーを生じる場合(例えば、対応する「非還元」モルヒノンの開始モル量に対するモル基準で少なくとも65%)、提案される還元剤は、還元ステップを実行するために適した立体選択的還元剤である。
【0065】
立体選択的還元剤の例は以下、およびそれらの組み合わせを含む。
【0066】
MB(R(4‐p):式中、Mはリチウム(「Li」)、ナトリウム(「Na」)およびカリウム(「K」)から成る群から選択され、Rは(発生する毎に)、1〜10炭素原子を有する直鎖アルキル、1〜10炭素原子を有する分岐型アルキル、置換アリール、非置換アリール、1〜10炭素原子を有する直鎖アルコキシ、1〜10炭素原子を有する分岐型アルコキシ、およびRC(O)‐O‐から成る群から独立して選択され、式中、Rは(一般的に1〜10炭素原子を有する)有機ラジカルであり、(p)は1、2、および3から成る群から選択される整数である。
【0067】
Al(R[(3+s)‐p]:式中、Mはリチウム(「Li」)、ナトリウム(「Na」)およびカリウム(「K」)から成る群から選択され、Rは(発生する毎に)、2〜7炭素原子を有する直鎖および分岐型アルキルから成る群から独立して選択され、(q)はゼロまたは1であり、(p)は1、2、および3から成る群から選択される整数である。
【0068】
MAl(OR(4‐p):Mはリチウム(「Li」)、ナトリウム(「Na」)およびカリウム(「K」)から成る群から選択され、Rは(発生する毎に)、2〜7炭素原子を有する直鎖および分岐型アルキル、およびR‐O‐R10‐から成る群から独立して選択され(式中、Rは発生する毎に、独立して1〜3炭素原子の直鎖または分岐アルキルであり、RおよびR10は独立して1,2‐C2‐3アルキレンまたは1,3プロピレンである)、(p)は1、2および3から成る群から選択される整数である。
【0069】
さらに選択的還元剤は、リチウムトリエチルボロヒドリド、ナトリウムトリエチルボロヒドリド、カリウムトリエチルボロヒドリド、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド、カリウムトリアセトキシボロヒドリド、リチウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド、ナトリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド、カリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド、リチウム9‐ボラビシクロ[3.3.1]‐ノナン(9‐BBN)水素化物、リチウムヘキシルボロヒドリド、リチウムトリシアミルボロヒドリド、カリウムトリシアミルボロヒドリド、リチウムトリエチルボロ重化水素物、LiAlH(CEtCMe、およびそれらの組み合わせから成る群から選択できる。
【0070】
モルヒノンのケトンを立体選択的に還元するステップは、一般的に、当業者に既知の条件下または過度のな実験を行なわずに決定できる条件下(例えば、溶媒、温度、量等)で行う。典型的な条件をここに示す。
【0071】
モルヒノンを含む組成物に立体選択的還元剤を添加するステップは、一般的に、還元剤と容易に反応しない有機溶媒の存在下で実施する。還元剤と容易に反応しない典型的な有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、環式エーテル、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される有機溶媒を含む。追加の典型的溶媒は、トルエン、メチルt‐ブチル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルエーテル、ジエチルエーテル、ベンゼンおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される溶媒を含む。好適な有機溶媒は、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランから成る群から選択されるものを含む。当業者は、例えば提案される溶媒を使用し、還元モルヒノンの存在を試験する方法を行うことにより、任意の特定溶媒が還元ステップを実施するための溶媒として機能できるかどうかを判断できる。使用した溶媒が許容しうる量(例えば、対応する「非還元」モルヒノンの開始分子量に対するモルベースで少なくとも65%)を生じる場合、提案される溶媒は還元ステップの実施に適した溶媒である。
【0072】
モルヒノンを含む組成物に立体選択的還元剤を添加するステップは、一般的に、約‐100℃〜約90℃の温度で実施される。立体選択的還元剤の添加が行われる温度の典型的な範囲は、約‐90℃〜約80℃、約‐80℃〜約70℃、約‐70℃〜約50℃、約‐60℃〜約30℃、約‐50℃〜約20℃、約‐40℃〜約10℃、約‐30℃〜約0℃、約‐20℃〜約20℃、約‐20℃〜約10℃、および約‐20℃〜約0℃を含む。当業者は、例えば提案される温度を使用し、還元モルヒノンの存在を試験する方法を行うことにより、任意の特定温度が還元ステップを実施するための温度として機能できるかどうかを判断できる。使用した温度が許容しうる量(例えば、対応する「非還元」モルヒノンの開始分子量に対するモルベースで少なくとも65%)を生じる場合、提案される温度は還元ステップの実施に適した温度である。
【0073】
モルヒノンを含む組成物に立体選択的還元剤を添加するステップは、一般的に、その立体選択的還元剤が過剰添加されるように行われる。還元ステップを実施するための典型的なモル比(立体選択的還元剤:モルヒノン)は、50:1、20:1、15:1、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1.8:1、1.6:1、1.4:1、1.2:1、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:15、1:20、および1:50を含み、2:1、1.8:1、1.6:1、1.4:1、1.2:1、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、および1:2が好ましい。当業者は、例えば提案される比率を使用し、還元モルヒノンの存在を試験する還元ステップを行うことにより、任意の比率が還元ステップを実施するための比率として機能できるかどうかを判断できる。使用した比率が許容しうる量(例えば、対応する「非還元」モルヒノンの開始分子量に対するモルベースで少なくとも65%)を生じる場合、提案される比率は還元ステップの実施に適した比率である。
【0074】
モルヒノンを含む組成物に立体選択的還元剤が添加されると(それにより立体選択的還元が可能になる)、立体選択的還元は、還元モルヒノンを生じるような期間で行うことができる。還元モルヒノンを生じるために十分な特定期間は、溶媒、温度、反応剤のモル量等により異なる。しかし、一般的に立体選択的還元を行う時間量は、約5分未満、約10分未満、約30分未満、約1時間未満、約1.5時間未満、約2時間未満、約2.5時間未満、約3時間未満、約4時間未満、約5時間未満、約8時間未満、約10時間未満、約12時間未満、約16時間未満、約20時間未満、約24時間未満、約36時間未満、および約48時間未満の範囲の1つ以上を満たす。この点において、好適な時間は約10分〜約2時間である。
【0075】
本明細書において「モルヒノン」は、フェナントレンベースの部分を意味し、(a)以下の構造を含み、
【0076】
【化21】


化学式I
式中、
はH、有機ラジカル、またはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、有機ラジカルは
【0077】
【化22】

【0078】
でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、

【0079】
【化23】

【0080】
(式中、Rは有機ラジカル)から成る群から選択され、
(b)ケトンを含む[ケトンについて、(a)、つまり化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分に対して定義される構造に従うか、または(a)、つまり例えば化学式Iにおいて提供されるフェナントレンベースの部分における原子の置換による]。モルヒニンは、1つ以上の単一ケトンを含んでもよい。モルヒニンが1つ以上の単一ケトンを含む場合、化学選択的および立体選択的試薬の使用が、本発明を実施するために必須である。化学選択的還元のためのアプローチは当業者により知られており[例えば、Larock(1989)Comprehensive Organic Transformations VCH:NY,p.993を参照]、および/または過度な実験を伴わずに決定できる。好ましくは、モルヒノンは(化学式Iに関して定義されるように)フェナントレンベースの部分であり、式中R
【0081】
【化24】

【0082】
である。
【0083】
好適なモルヒノンは以下の構造を含み、
【0084】
【化25】


化学式II
式中、
はH、有機ラジカルまたはヒドロキシル保護基であり、
はHまたはOH(好ましくはOH)であり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、有機ラジカルは
【0085】
【化26】

でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカル(好ましくはH)であり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはS(好ましくはO)である。
【0086】
ヒドロキシル保護基を含むモルヒノンに関して(例えば、化学式Iおよび化学式IIにおいてRがヒドロキシル保護基である場合)、ヒドロキシル保護基は、遊離ヒドロキシル基を保護でき、保護が採用される反応に続いて、残りの分子を阻害することなく除去できる任意の基であることができる。様々なヒドロキシル基の保護基、その合成、および保護基を添加および除去する方法については、Greene,T.,and Wuts,Peter G.M.,“PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS,”Chapter6,3rd Edition,John Wiley and Sons,Inc.,New York,1999を参照のこと。ヒドロキシル保護基の特定および非限定例(例えば、化学式Iおよび化学式IIにおけるR)は、2〜5炭素を有するアルカノイル(アセチル等)、7〜11炭素を有するアリーロイル(ベンゾイル等)、ベンジル、1‐エトキシエチル、メトキシメチル、4‐メトキシフェニルメチルメトキシメチル、メトキシエトキシメチレン、1‐エトキシエチル、ベンジルオキシメチル、(β‐トリメチルシリルエトキシ)メチル、テトラヒドロピラニル、2,2,2‐トリクロロエトキシカルボニル、t‐ブチル(ジフェニル)シリル、トリアルキルシリル、トリクロロメトキシカルボニル、および2,2,2‐トリクロロエトキシメチルを含む。
【0087】
還元モルヒノンの保護ヒドロキシル基は、従来の技術を使用して脱保護できる(つまり元のヒドロキシル基が「再生される」)。そのような技術は当業者に知られており、以下のGreene et al.に記載されている。任意に、本明細書に記載の方法は、水溶性ポリマーを結合した後、脱保護ステップを実施してヒドロキシル保護基を(存在する場合)除去するステップを含む。
【0088】
本発明において有用な典型的モルヒノンは以下を含む。
【0089】
【化27】


ヒドロモルフォン
(7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)、
【化28】


ヒドロコドン
(3‐メチル‐7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)、
【化29】


オキシモルフォン
(14‐ヒドロキシ‐7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)、
【化30】


オキシコドン
(14‐ヒドロキシ‐3‐メチル‐7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)、
【化31】


ナロキソン
(N‐アリル‐14‐ヒドロキシ‐7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)、および
【化32】


ナルトレキソン
(N‐シクロプロピルメチル‐14‐ヒドロキシ‐7,8‐ジヒドロモルフィン‐6‐オン)。
【0090】
これらおよびその他のモルヒノンは、既に記述され、特徴付けられている。例えば、米国特許番号第2,628,962号、第2,654,756号、および第2,649,454号(ヒドロモルフォン等)、米国特許番号第2,715,626号(ヒドロコドン等)、米国特許番号第2,806,033号(オキシモルフォン等)、Freund et al.(1916)J.Prak.Chemie 94:135‐178(オキシコドン)、米国特許番号第3,254,088号(ナロキソン等)、および米国特許番号第3,332,950号(ナルトレキソン等)を参照のこと。
【0091】
任意にこの方法は、水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合するステップをさらに含む。水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合する任意のアプローチを使用することができ、本発明はこの点に限定されない。有利にも、還元モルヒノンのヒドロキシル基は、水溶性ポリマーの結合点として機能できる。一般的に、水溶性ポリマーの結合点として機能するヒドロキシル基は、モルヒノンのケトンを立体選択的還元した後に生成されるヒドロキシル基である。
【0092】
例えば、米国特許出願公開2005/0136031に記載されるように、ヒドロキシル基を担持する還元モルヒノンは、基本的な条件下で配置することにより、対応するアルク酸化基を形成できる。その後、ハロ置換した水溶性ポリマーを還元モルヒノンに添加し、エーテル結合した複合体を形成できる。ハロ置換した水溶性ポリマーを調製する方法は、米国特許出願公開2005/0136031に記載されている。
【0093】
さらに、ヒドロキシル基を担持する還元モルヒノンは、適切な有機溶媒中で離脱基、例えばスルホン酸ベースの離脱基(例えば、メシレート、トレシレート、おおよびトシレート離脱基)を担持する水溶性ポリマーと反応できる。
【0094】
さらに、カルボン酸終端した水溶性ポリマーを還元モルヒネに添加し、エステル化反応を介して複合体を形成できる。そのようなエステル化反応は、酸(例えば、HSO)の存在下、一般的に共沸蒸留、脱水剤の添加、または分子篩の使用により水を除去して行う。カルボン酸終端した水溶性ポリマーを調製する方法は、米国特許番号第5,672,662号に記載されている。
【0095】
しかし特定の例において、モルヒノンは1つ以上のヒドロキシル基(例えば、化学式IIにおいてRがH、RがOHである場合)を含んでもよく、これによって望ましいヒドロキシル基における共役への方向付けが困難になる場合がある。そのような場合、接合ステップを実施する前に、ヒドロキシル含有モルヒノンのヒドロキシル基をヒドロキシル保護基で保護することが望ましい場合がある。このようにして、1つ以上ヒドロキシル基は、1つ以上の望ましくない位置での接合から「保護」される。一部の例において、モルヒノンのケトンを立体選択的還元する前に、保護ステップを行うことが有利となる。それにより、ヒドロキシル基の保護がモルヒノンのケトン基の立体選択的還元からもたらされたヒドロキシル基に対して競合することがない。
【0096】
その他の例では、モルヒノンの1つ以上のヒドロキシル基を保護する必要がない。ヒドロキシル基の保護が不要である例は、ヒドロキシル基共役が有害な生成物をもたらさない場合、および/または、例えば立体効果を含むヒドロキシル基が容易に接合しない場合を含む。任意の所定ヒドロキシル基を保護する必要があるかどうかは、当業者が決定できる。例えば、保護形態のヒドロキシル基を有する提案モルヒノンを含む第1の組成物、および非保護状態のヒドロキシル基を有する対応モルヒネを含む第2の組成物は、共役条件に曝露することができる。第1の組成物中のモルヒノンから保護ヒドロキシル基を除去する際に、例えば、クロマトグラフィおよび/または核磁気共鳴技術を使用し、2つの組成物のそれぞれから得た複合体の構造を試験することができる。その構造が実質的に同一である場合(例えば、水溶性ポリマーの数および結合位置に関して組成物が実質的に同一である場合)、特定のモルヒノンとの接合を実施する前に特定のヒドロキシル基を保護する必要がない。
【0097】
(水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合する任意のステップに先立つ)水溶性ポリマー
水溶性ポリマーに関して、水溶性ポリマーは非ペプチド、非毒性、非自然発生、および生体適合性である。生体適合性に関して、臨床医、例えば医師による評価により、物質を単独または生体組織と併せて別の物質とともに使用すること(例えば、患者への投与)に関連する有益な効果が、いかなる悪影響をも上回る場合、物質は生体適合性であると見なされる。非免疫原性に関して、意図される生体内での物質の使用が、望ましくない免疫反応(例えば、抗体の形成)を生じない場合、または免疫反応が生じる時には、そのような反応が臨床医により、臨床的に有意または重要であるとは見なされない場合、物質は非免疫原性であると見なされる。。非ペプチド水溶性ポリマーは、生体適合性および非免疫原性であることが特に好ましい。
【0098】
水溶性ポリマーの例は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(「PPG」)、エチレングリコールおよびプロピレングリコールのコポリマー等のポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α‐ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N‐アクリロイルモルホリン)、および前述のいずれかの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0099】
ポリマーは特定の構造に限定されず、線状(例えば、アルコキシPEGまたは二官能性PEG)、分岐型またはマルチアーム(例えば、フォーク状PEGまたはポリオールコアに結合されるPEG)、樹状であってもよく、または分解可能なリンケージを有してもよい。さらに、ポリマーの内部構造は、任意の数の異なるパターンで組織化でき、ホモポリマー、代替コポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、代替トリポリマー、ランダムトリポリマー、およびブロックトリポリマーから成る群から選択できる。
【0100】
一般的に、水溶性ポリマーを還元モルヒノンに共有結合する任意のステップで使用される水溶性ポリマーは、活性化した水溶性ポリマー(活性化したPEG等)であり、一般的に「ポリマー試薬」と称される。そのためポリマー試薬は、還元モルヒノンと反応する反応基を有する。代表的なポリマー試薬、およびこれらのポリマーを活性部分に接合する方法は当該技術分野において知られており、参照文献に詳述されている。例えば、米国特許出願公開番号2003/0124086および2005/0136031を参照のこと。
【0101】
一般的に、複合体における水溶性ポリマーの重量平均分子量は、約100ダルトン〜約5,000ダルトンである。しかし、典型的な範囲は、100ダルトンより大〜5,000ダルトン未満の範囲、約100ダルトン〜約4,750ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約4,500ダルトンの範囲、100ダルトンより大〜約4,500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約4,250ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約3,750ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約3,500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約3,250ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約3,000ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約2,750ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約2,500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約2,250ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約2,000ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約1,750ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約1,500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約1,500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約1,250ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約1,000ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約900ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約800ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約700ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約600ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約500ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約400ダルトンの範囲、約100ダルトン〜約300ダルトンの範囲、約200ダルトン〜約2,000ダルトンの範囲、約300ダルトン〜約1000ダルトンの範囲、約300ダルトン〜約1,500ダルトンの範囲、および約50ダルトン〜約1,500ダルトンの範囲の重量平均分子量を含む。任意の所定水溶性ポリマーの場合、これらの範囲の1つ以上に含まれる分子量を有するPEGが好適である。
【0102】
水溶性ポリマーの典型的な重量平均分子量は、約100ダルトン、約200ダルトン、約300ダルトン、約400ダルトン、約500ダルトン、約600ダルトン、約700ダルトン、約750ダルトン、約800ダルトン、約900ダルトン、約1,000ダルトン、約1,250、約1,500ダルトン、約1,750ダルトン、約2,000ダルトン、約2,250ダルトン、約2,500ダルトン、約2,750ダルトン、約3,000ダルトン、約3,250ダルトン、約3,500ダルトン、約3,750ダルトン、約4,000ダルトン、約4,250ダルトン、約4,500ダルトン、約4,750ダルトン、および約5,000ダルトンを含む。前述のうちいずれかの総分子量を有する分岐型バージョンの水溶性ポリマー(例えば、2つの2,500ダルトンポリマーで構成される分岐型5,000ダルトン水溶性ポリマー)を使用することもできる。
【0103】
ポリマーとして使用される場合、PEGは一般的に多くの(OCHCH)モノマー[またはPEGがどのように定義されるかによって(CHCHO)モノマー]を含む。本記述全体で使用されるように、繰り返し単位の数は、「(OCHCH」または「(CHCHO)」の下付き文字「n」により識別される。したがって(n)の値は、一般的に2〜約113、約2〜約102、約2〜約91、約2〜約80、約2〜約68、約2〜約57、約2〜約45、約2〜約34、約2〜約23、約2〜約20、および約2〜約15のうちの1つ以上の範囲に含まれる。例えば(n)の値は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20を含む。分子量が知られている任意の所定ポリマーの場合、ポリマーの総重量平均分子量を繰り返しモノマーの分子量で割ることにより、繰り返し単位(つまり「n」)の数を決定できる。
【0104】
本発明における使用に特に好適なポリマーの1つは末端封止ポリマー、つまり比較的不活性な基、例えば低級Cアルコキシ基等で封止された末端を少なくとも1つ有するポリマーであるが、ヒドロキシル基を使用することもできる。ポリマーがPEGである場合は、例えば、メトキシ‐PEG(一般にmPEGと称される)を使用することが好ましい。これは線形のPEGであり、ポリマーの一端はメトキシ(‐OCH)基であるが、別の一端はヒドロキシルまたは任意に化学修飾できるその他の官能基である。
【0105】
本発明の1つ以上の実施形態において有効な一形態では、遊離または非結合PEGは、各末端がヒドロキシル基で終結した線状ポリマー、
HO‐CHCHO‐(CHCHO)‐CHCH‐OH
であり、
式中、(n)はゼロ〜約4,000の範囲である。
【0106】
上述のポリマー、α‐、オメガ‐ジヒドロキシルポリ(エチレングリコール)は、HO‐PEG‐OHという簡略形で表すことができ、‐PEG‐という記号は、以下の構造単位を表すことができる。
【0107】
‐CHCHO‐(CHCHO)‐CHCH
式中、(n)は上述のように定義される。
【0108】
本発明の1つ以上の実施形態において有効な別の種類のPEGは、メトキシ‐PEG‐OH、または短縮形でmPEGであり、その一端は比較的不活性なメトキシ基であるが、別の一端はヒドロキシル基である。mPEGの構造を以下に示す。
【0109】
CHO‐CHCHO‐(CHCHO)‐CHCH‐OH
式中、(n)は上述の通りである。
【0110】
例えば米国特許番号第5,932,462号に記載されるようなマルチアームまたは分岐型PEG分子は、PEGポリマーとして使用することもできる。例えば、PEGは以下の構造を有してもよく、
【0111】
【化33】

【0112】
式中、
polyおよびpolyはPEG骨格(同一または異なる)、例えばメトキシポリ(エチレングリコール)であり、
R”は非反応性部分、例えばH、メチルまたはPEG骨格等であり、
PおよびQは非反応性リンケージである。好適な実施形態において、分岐型PEGポリマーはメトキシポリエチレングリコール二置換リジンである。
【0113】
PEGポリマーはPEG鎖の末端ではなく、PEGの長さに沿って共有結合したカルボキシル等の反応基を有するペンダントPEG分子を含んでもよい。ペンダント反応基は、PEGに直接結合するか、またはアルキレン基等のスペーサ部分を介して結合できる。
【0114】
典型的な複合体は以下の構造を含み、
【0115】
【化34】


化学式III
式中、
はHまたは有機ラジカル(好ましくはH、ヒドロキシル保護基、またはCH等の低級アルキル)であり、
はHまたはOH(好ましくはOH)であり、
はHまたは有機ラジカルであり(好ましくは、Rが有機ラジカルである場合、有機ラジカルは

でないということを条件とする)、
はHまたは有機ラジカル(好ましくはH)であり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、
(n)は整数(例えば1〜14)であり、
(a)はゼロまたは1であり、
は存在する場合、スペーサ部分(例えば、‐O‐および‐O‐C(O)‐)である。
【0116】
スペーサ部分(「X」)は存在する場合、水溶性ポリマーと還元モルヒノン間の共有結合を表す。典型的なスペーサ部分は、エーテル、エステル、アミド、ウレタン(カルバミン酸としても知られる)、アミン、チオエーテル(硫化物としても知られる)、または尿素(カルバミドとしても知られる)を含む。特定スペーサ部分の例は、‐O‐、‐S‐、‐S‐S‐、‐C(O)‐、‐O‐C(O)‐、‐C(O)‐O‐、‐C(O)‐NH‐、‐NH‐C(O)‐NH‐、‐O‐C(O)‐NH‐、‐C(S)‐、‐CH‐、‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐CH‐、‐O‐CH‐、‐CH‐O‐、‐O‐CH‐CH‐、‐CH‐O‐CH‐、‐CH‐CH‐O‐、‐O‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐O‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐O‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐O‐、‐O‐CH‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐O‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐O‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐O‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐CH‐O‐、‐C(O)‐NH‐CH‐、‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐、‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐、‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐、‐C(O)‐O‐CH‐、‐CH‐C(O)‐O‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐O‐CH‐、‐C(O)‐O‐CH‐CH‐、‐NH‐C(O)‐CH‐、‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐、‐CH‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐、‐NH‐C(O)‐CH‐CH‐、‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐CH‐、‐C(O)‐NH‐CH‐、‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐O‐C(O)‐NH‐CH‐、‐O‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐、‐NH‐CH‐、‐NH‐CH‐CH‐、‐CH‐NH‐CH‐、‐CH‐CH‐NH‐CH‐、‐C(O)‐CH‐、‐C(O)‐CH‐CH‐、‐CH‐C(O)‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐CH‐CH‐、‐CH‐CH‐C(O)‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐NH‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐NH‐C(O)‐、‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐、および‐CH‐CH‐CH‐C(O)‐NH‐CH‐CH‐NH‐C(O)‐CH‐CH‐から成る群から選択されるものを含むが、それらに限定されない。
【0117】
任意に、水溶性ポリマーおよび還元モルヒノンの複合体は、薬学的に許容しうる賦形剤を含む。必要に応じて、薬学的に許容しうる賦形剤を複合体に添加し、組成物を形成できる。
【0118】
典型的な賦形剤は、炭水化物、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、界面活性剤、緩衝剤、酸、塩基、およびそれらの組み合わせから成る群から選択されるものを含むが、それらに限定されない。
【0119】
糖、アルジトール、アルドン酸等の誘導体化した糖、エステル化した糖、および/またはポリマー糖等の炭水化物は、賦形剤として含有されてもよい。特定の炭水化物賦形剤は、例えば、フラクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D‐マンノース、ソルボース等のモノサッカリド、乳糖、スクロース、トレハロース、セロビオース等のジサッカリド、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、スターチ等のポリサッカリド、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトール等のアルジトールを含む。
【0120】
また賦形剤は、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム等の無機塩または緩衝剤、およびそれらの組み合わせを含むこともできる。
【0121】
本組成物は、最近の成長を予防または遅延させるための抗菌剤を含むこともできる。本発明の1つ以上の実施形態に適切な抗菌剤の非限定例は、ベンザルコニウムクロリド、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、フェニル水銀硝酸、チメローソール、およびそれらの組み合わせを含む。
【0122】
抗酸化剤も同様に組成物中に含有することができる。抗酸化剤を使用して酸化を防ぐことにより、複合体または製剤のその他の構成要素の劣化を防ぐ。本発明の1つ以上の実施形態において使用に適した抗酸化剤は、例えば、アスコルビルパルミチン酸、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素塩ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含む。
【0123】
界面活性剤は、賦形剤として含有できる。典型的な界面活性剤は、「Tween 20」および「Tween 80」等のポリソルベートおよびF68およびF88等のプルロニック(どちらもBASF,Mount Olive,New Jerseyから入手可能)、ソルビタンエステル、レシチンおよび他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(リポソーム形態でないことが好ましいが)、脂肪酸および脂肪酸エステル等を含むリン脂質等の脂質、コレステロール等のステロイド、およびEDTA、亜鉛およびその他の適切なカチオン等のキレート剤を含む。
【0124】
酸または塩基は、組成物中の賦形剤として含有できる。使用できる酸の非限定例は、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される酸を含む。適切な塩基の例は、水酸化ナトリウム、ナトリウム酢酸、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、およびそれらの組み合わせから成る群から選択されるものを含むが、それらに限定されない。
【0125】
組成物中の複合体の量は多くの要素によって異なるが、組成物が単位投与形態に格納される場合に治療上有効な用量が最適となる。治療上有効な用量は、増加量の複合体を繰り返し投与することにより実験的に決定し、望ましい臨床的エンドポイントを生じる量を特定できる。
【0126】
組成物中の任意の個別賦形剤の量は、賦形剤の活性および組成物の特定ニーズにより異なる。一般的に、任意の個別賦形剤の最適量は、通常の実験を通じて、つまり、可変量の賦形剤(少量から多量までの範囲)を含む組成物を調製し、安定性およびその他のパラメータを評価した後、著しい副作用なく最適性能が達成される範囲を特定することにより、決定する。
【0127】
しかし、一般に賦形剤は、賦形剤の約1重量%〜約99重量%、好ましくは約5重量%〜約98重量%、より好ましくは約15〜約95重量%で組成物中に含有され、30重量%未満の濃度が最も好ましい。
【0128】
これら前述の医薬賦形剤およびその他の賦形剤は、“Remington:The Science & Practice of Pharmacy”,19th ed.,Williams & Williams,(1995)、“Physician’s Desk Reference”,52nd ed.,Medical Economics,Montvale,NJ(1998)、およびKibbe,A.H.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd Edition,American Pharmaceutical Association,Washington,D.C.,2000に記載されている。
【0129】
複合体および任意の賦形剤を含む組成物は、当該技術分野において既知の技術を利用して、さらに投与形態に形成できる。
【0130】
例えば、経口投与に適切な組成物は、カプセル、カシェット,錠剤、トローチ剤等の不連続単位形態にすることができ、それぞれ事前に定義された量の複合体を粉末または顆粒、水溶液または非水溶液中の懸濁液、例えばシロップ、エリキシル剤、乳剤、ドラフト等として含む。
【0131】
錠剤は、任意に1つ以上の副成分とともに、圧縮または成形によって形成してもよい。圧縮錠剤は、粉末または顆粒等の自由に流動する形態の複合体を、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、不活性希釈剤、界面活性剤または分散剤と任意に混合して、適切な機械で圧縮することにより調製することができる。適切な担体で構成される成形錠剤は、適切な機械で成形することにより形成することができる。
【0132】
シロップは、複合体を砂糖の濃縮水溶液、例えばスクロースに添加することにより形成してもよく、これに任意の副成分を添加してもよい。そのような副成分は、香味剤、適切な防腐剤、砂糖の結晶化を遅らせる物質、および多価アルコール、例えば、グリセロールまたはソルビトール等の任意の他の成分の溶解性を高める物質を含んでもよい。
【0133】
非経口投与に適した製剤は、受容者の血液に等張となるよう調整できる複合体の滅菌水溶液調製を便宜的に含む。
【0134】
鼻腔用スプレー製剤は、複合体の精製水溶液を防腐剤および等張剤とともに含む。そのような製剤は、鼻腔粘膜に適合するpHおよび等張状態に好ましく調節する。
【0135】
肛門投与用の製剤は、ココアバター、または硬化油脂あるいは硬化油脂カルボン酸等の好適な担体とともに坐薬形態とすることができる。
【0136】
眼科製剤は、pHおよび等張要素を眼のそれに合うよう好ましく調節することを除いて、鼻腔用スプレーと同様の方法で調製する。
【0137】
局所製剤は、ミネラルオイル、石油、ポリヒドロキシアルコールまたは局所製剤に使用される他のベース等の1つ以上の媒体に溶解または懸濁した複合体を含む。上記のその他の副成分を添加することも望ましい場合がある。
【0138】
吸入用エアロゾルとしての投与に適した医薬製剤も提供する。これらの製剤は、望ましい複合体またはその塩の溶液または懸濁液を含む。望ましい製剤は、小さい容器に入れて噴霧することができる。噴霧は、空気を圧縮するか、または超音波エネルギーによって行うことができ、複合体またはその塩を含む複数の液滴または固体粒子を形成する。
【0139】
複合体を含有する組成物が液体または半固体状である限り、適切な充てん機を使用してその液体または半固体を柔らかいゼラチンカプセルに充てんできる。代替として、そのような複合体含有組成物を噴霧、粒状化、または基質上にコーティングし、適切な凝固剤または結合剤の添加にかかわらず組成物が室温で凝固する場合は、さらにカプセル化または錠剤化できる粉末、顆粒またはビーズとすることができる。このアプローチにより、「融合混合物」、「固溶体」または「共融混合物」の形成が可能になる。
【0140】
本発明は、複合体を用いた治療に応答する疾患の患者に本明細書で提供される複合体を投与する方法も提供する。本方法は、一般に経口投与により治療上有効な量の複合体(好ましくは医薬組成物の一部として提供される)を患者に投与するステップを含む。
【0141】
本投与方法を使用し、複合体を投与することにより治療または予防可能な任意の状態を治療することができる。当業者は、特定の複合体がどの状態を有効に治療できるかを理解する。例えば複合体を使用し、オピオイド誘発の便秘を患う患者を治療できる。有利に、別の活性薬剤の投与前、同時、または投与後に複合体を患者に投与できる。
【0142】
投与される実際の用量は、対象の年齢、体重、全身状態、および治療対象状態の重篤度、医療専門家の判断、および投与される複合体により異なる。治療上有効な量は、当業者に知られており、および/または該当する参考書および参照文献に記載されている。一般に、治療上有効な量は、約0.001mg〜100mg、好ましくは用量で0.01mg/日〜75mg/日、より好ましくは用量で0.10mg/日〜50mg/日の範囲である。
【0143】
任意の所定複合体の単位用量(ここでも、好ましくは医薬製剤の一部として提供される)は、医師の判断、患者のニーズ等に応じて様々な投与計画で投与することができる。特定の投与計画は当業者に既知、または通常の方法を使用して実験的に決定できる。典型的な投与計画は、1日1回の投与、1週間に3回、1週間に2回、1週間に1回、1ヶ月に2回、1ヶ月に1回、およびそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されない。臨床的エンドポイントが達成された場合は、組成物の投与を中止する。
【0144】
本発明はその好適な特定の実施形態と併せて記述されているが、前述の説明および以下の例は例示を目的とし、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。本発明の範囲内のその他の側面、利点、および修正は、本発明が属する技術に精通する者に明らかとなる。
【0145】
本明細書で参照されるすべての記事、書籍、特許およびその他出版物は、それら全体の参照によりここに込みこまれる。
【実施例】
【0146】
実験
本発明の実施は、別段の指示がない限り、当該技術分野の範囲である有機合成、生化学、タンパク質精製等の従来技術を採用する。そのような技術は、参照文献において完全に説明される。例えば、上記のJ.March,Advanced Organic Chemistry:Reactions Mechanisms and Structure,4th Ed.(New York:Wiley‐Interscience,1992)を参照のこと。
【0147】
以下の例において、使用される数字(例えば、量、温度等)に関する正確性を保証する努力が為されているが、ある程度の実験誤差および偏差を考慮する必要がある。別段の指定がない限り、温度は摂氏であり、圧力は海面レベルの大気圧であるか、またはそれに近似する。以下の各例は、当業者が本明細書に記載の1つ以上の実施形態を実施するために有益であると見なされる。
【0148】
実験では以下の材料(括弧内はそれらの供給源)を使用した:ナトリウムボロヒドリド(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、ボラン1.0MのTHF溶液(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、ボランジエチルアニリン(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、ナトリウムトリエチルボロヒドリド1.0MのTHF溶液(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、ナトリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド1.0MのTHF溶液(Aldrich Chemical,Milwaukee WI,SELECTRIDE(登録商標)ブランドとして販売)、カリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド1.0MのTHF溶液(Aldrich Chemical,Milwaukee WI,SELECTRIDE(登録商標)ブランドとして販売)、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、(S)‐2‐メチル‐オキサボロリジン、(S)‐MeCBS1.0Mのトルエン溶液(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、テトラヒドロフラン(THF)、無水物(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、メタノール、無水物(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、エタノール、無水物(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、アセトニトリル、無水物(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、ジクロロメタン、(Aldrich Chemical,Milwaukee WI)、そして、3‐MEM‐O‐ナロキソンは、米国特許出願公開番号2005/0136031に記載のように得られた。すべてのH NMR測定は、Bruker300NMR上で実施した(Bruker BioSpin,Billerica MA)。
【0149】
実施例1
K‐トリ‐sec‐ブチルボロヒドリドを使用した実質的に純粋なα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールの調製
【0150】
【化35】

【0151】
3‐MEM‐O‐ナロキソンベース(2.0g、4.8mmol、米国特許出願公開番号2005/0136031に記載の調製)の無水テトラヒドロフラン(50mL)溶液に、不活性雰囲気下‐20℃で、カリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド(7.2mL、7.2mmol)の1M溶液を15分以上かけてゆっくり添加した。溶液を窒素雰囲気下−20℃で、さらに1.5時間連続的に撹拌した後、水(10mL)をゆっくり添加した。反応混合物をさらに10分間‐20℃で撹拌した後、放置して室温に温めた。溶媒を減圧下で除去し、残渣をCHCl(100mL)に溶解した。CHCl相を0.1N HCl/NaCl水溶液(3x100mL)で抽出し、混合した水溶性抽出物をCHCl(1x300mL)で洗浄した。炭酸ナトリウムを添加し、水溶液をpH=8にした。溶液をCHCl(3x300mL)で再度抽出し、有機抽出物を混合、無水NaSC上で乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で除去した。結果として生じた残渣を真空で一晩乾燥させた。所望の生成物は、99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであった。所望の生成物は、無色からわずかに黄色の粘液として得られた(1.7g、4.1mmol、単離収率85%)。H NMR(CDCl、ppm、図1):δ6.84(1H、二重項、ナロキソンの芳香族プロトン)、6.59(1H、二重項、ナロキソンの芳香族プロトン)、5.80(1H、多重項、ナロキソンのオレフィンプロトン)、5.56(1H、二重項、MEMのプロトン)、5.17(2H、多重項、ナロキソンのオレフィンプロトン)、5.13(1H、二重項、MEMのプロトン)、4.61(1H、二重項、J=4.9Hz、ナロキソンのCプロトン)、4.17(1H、多重項、ナロキソンのCプロトン)、3.86(2H、多重項、MEMのプロトン)、3.54(2H、三重項、MEMのプロトン)、3.36(3H、一重項、MEMのプロトン)、1.26〜3.12(14H、多重項、ナロキソンのプロトン)。
【0152】
反応変換(つまりケトンからヒドロキシルへの変換)、組成物中のαエピマー率、および組成物中のβエピマー率は、それぞれプロトンNMRにより特定した。ナロキソンのCプロトンは、3‐MEM‐O‐ナロキソンについて、CDCl(参照としてTMS)中、4.67ppmで一重項を示し、α‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールについて4.61ppm(J=4.9Hz)で二重項、β‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールについて4.47ppm(J=5.8Hz)で二重項を示した。
【0153】
この実施例1に記載の合成を数回実施し、一部の例では、温度を‐78℃から30℃まで上げた。すべての場合において、収率(つまりケトンからヒドロキシルへの変換)は85%以上であり、生成物は常に99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであった。
【0154】
実施例2
Na‐トリ‐sec‐ブチルボロヒドリドを使用した実質的に純粋なα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールの調製
【0155】
【化36】

【0156】
3‐MEM‐O‐ナロキソンベース(100mg、0.24mmol、米国特許出願公開番号2005/0136031に記載の調製)の無水テトラヒドロフラン(8mL)溶液に、不活性雰囲気下‐20℃で、ナトリウムトリ‐sec‐ブチルボロヒドリド(0.36mL、0.36mmol)の1M溶液をゆっくり添加した。溶液を−20℃で窒素雰囲気下、さらに1.0時間連続的に撹拌した後、水(1mL)をゆっくり添加した。反応混合物をさらに10分間‐20℃で撹拌し、放置して室温に温めた。溶媒を減圧下で除去し、残渣をCHCl(30mL)に溶解した。CHCl相を0.1N HCl/NaCl水溶液(3x30mL)で抽出し、混合した水溶性抽出物をCHCl(1x30mL)で洗浄した。炭酸ナトリウムを添加し、水溶性をpH=8にした。溶液をCHCl(3x30mL)で再度抽出し、有機抽出物を混合、無水NaSO上で乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で除去した。結果として生じた残渣を真空で一晩乾燥させた。所望の生成物は、無色の粘液として得られた(82mg、0.20mmol、単離収率82%)。H NMR(CDCl)は、所望の生成物が99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであり、βエピマーは検出されなかったことを示した。
この実施例2に記載の合成を数回実施し、一部の例では、温度を‐20℃から30℃まで上げた。すべての場合において、収率(つまりケトンからヒドロキシルへの変換)は82%以上であり、生成物は常に99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであった。
【0157】
実施例3
ナトリウムトリエチルボロヒドリドを使用した実質的に純粋なα‐6‐OH‐3‐MEMO‐O‐ナロキソールの調製
【0158】
【化37】

【0159】
3‐MEM‐O‐ナロキソンベース(100mg、0.24mmol、米国特許出願公開番号2005/0136031に記載の調製)の無水テトラヒドロフラン(6mL)溶液に、不活性雰囲気下0℃で(氷浴によって)、ナトリウムトリエチルボロヒドリド(0.36mL、0.36mmol)の1M溶液をゆっくり添加した。溶液を窒素雰囲気下で5.0時間撹拌し、ゆっくり室温に温めた後、酢酸(0.5mL)を徐々に添加して過剰なナトリウムトリエチルボロヒドリドを破壊した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をCHCl(30mL)に溶解した。CHCl相を0.1N HCl/NaCl水溶液(3x30mL)で抽出し、混合した水溶性抽出物をCHCl(1x30mL)で洗浄した。炭酸ナトリウムを添加し、水溶液をpH=8にした。溶液をCHCl(3x30mL)で再度抽出し、有機抽出物を混合、無水NaSO上で乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で除去した。結果として生じた残渣を真空で一晩乾燥させた。所望の生成物は、無色の粘液として得られた(89mg、0.21mmol、単離収率89%)。H NMR(CDCl)は、所望の生成物が99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであり、βエピマーは検出されなかったことを示した。
【0160】
この実施例3に記載の合成を数回実施し、一部の例では、温度を‐20℃から30°Cまで上げた。すべての場合において、収率(つまりケトンからヒドロキシルへの変換)は85%以上であり、生成物は常に99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであった。
【0161】
実施例4
ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを使用した実質的に純粋なα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールの調製
【0162】
【化38】

【0163】
3‐MEM‐O‐ナロキソンベース(100mg、0.24mmol、米国特許出願公開番号2005/0136031に記載される調製)の無水メタノール(10mL)溶液に、不活性雰囲気下室温で、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド(77mg、0.36mmol)および酢酸(15mg、0.24mmol)を添加した。溶液を室温で窒素雰囲気下5.0時間撹拌し、2NのHClメタノール溶液(0.5mL)をゆっくり添加し、反応液をさらに5分間撹拌した。炭酸ナトリウム水溶液を添加することにより、反応混合物をPH=8に調節した。すべての溶媒を減圧下で除去し、残渣をCHCl(30mL)に溶解した。CHCl相を0.1N HCl/NaCl水溶液(3x30mL)で抽出し、混合した水溶性抽出物をCHCl(1x30mL)で洗浄した。炭酸ナトリウムを添加し、水溶液をpH=8とした。溶液をCHCl(3x30mL)で再度抽出し、有機抽出物を混合、無水NaSO上で乾燥、ろ過して溶媒を減圧下で除去した。また結果として生じた残渣を真空で一晩乾燥させた。生成物は、無色の粘液として得られた。H NMR(CDCl)は、99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールが約80%変換で得られ、βエピマーは検出されなかったことを示した。
【0164】
この実施例4に記載の合成を数回、テトラヒドロフラン、エタノールおよびアセトニトリル等の異なる溶媒中で実施し、一部の場合において、温度を‐20℃から30℃まで上げた。すべての場合において、変換(つまりケトンからヒドロキシルへの変換)は43%以上であり、生成物は常に99%を上回るα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールであった。
【0165】
実施例5
比較研究
幾つかの還元剤を使用し、以下に概略を示す反応においてケトンを還元した。
【0166】
【化39】

【0167】
試験した還元剤の構造を以下に示す。
【0168】
【化40】

【0169】
【化41】

【0170】
反応変換(つまりケトンからヒドロキシへの変換)、組成物中のαエピマー率、および組成物中のβエピマー率は、それぞれプロトンNMRにより特定した。ナロキソンのCプロトンは、3‐MEM‐O‐ナロキソンについて、CDCI(参照としてTMS)中、4.67ppmで一重項を示し、α‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールについて4.61ppm(J=4.9Hz)で二重項、およびβ‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールについて4.47ppm(J=5.8Hz)で二重項を示した。
【0171】
表1に示されるように、巨大な基を有しないボランジエチルアニリンおよびナトリウムボロヒドリドは、α‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソール、およびβ‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールの両方を、βエピマーと比較して、αエピマーを主要生成物として産生した。ナトリウムボロヒドリドの反応変換(最大92%)は、ボランジエチルアニリンの反応変換(最大29%)よりはるかに高かった。しかし、変換量は両還元剤に対して比較的低かった。ナトリウムボロヒドリドの場合であっても、αエピマーへの変換量はモルベースで65%未満であった(約92%変換 * 約68%αエピマー)。
【0172】
(表1)
ボランおよびボロヒドリドによる3‐MEM‐O‐ナロキソンの立体選択的還元
【0173】
【表1】

すべてのナトリウムトリアルキルボロヒドリドが、α‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールを排他的にほぼ定量収率で(検出の範囲内で)産生し、いかなる検出可能なβエピマーもなかったことがわかった。表2を参照のこと。反応を‐78℃、‐20℃または0℃で実施した場合での差はなく、反応は概して数時間で完了した。理論に捉われるわけではないが、これらの還元試薬に関連する3つの巨大な基は、ケトンを含有する構造の比較的開いた側のみから試薬にアプローチすることにより、αエピマーのみを産生できるような立体効果をもたらした。さらにアルキル基の電子供与性は、対応するボロヒドリドの活性を高めると理論付けられ、高い収率をもたらす。ナトリウムトリアルキルボロヒドリドは、水または酢酸により容易に破壊できる。ナトリウムトリアルキルボロヒドリドは、選択性および反応性に関して好適であるように思われる。
【0174】
(表2)
ナトリウムトリアルキルボロヒドリドによる3‐MEM‐O‐ナロキソンの立体選択的還元
【0175】
【表2】

ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドは、軽度の立体選択的還元剤であった。これは固形であり、ナトリウムトリアルキルボロヒドリドよりも湿気および空気に対する感度が低かった。異なる溶媒および反応条件におけるナトリウムトリアセトキシボロヒドリドによる還元結果を表3に一覧表示する。
【0176】
最大1%のβエピマーが検出されたTHF中の還元を除いて、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを使用したその他の還元は、すべて100%α‐6‐HO‐3‐MEM‐O‐ナロキソールを生じ、いかなる検出可能なβエピマーもなかった。再度、理論に捉われるわけではないが、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドの3つのアセトキシ基は、ボロヒドリドのケトン基を選択的に攻撃させるに足る大きさであると考えられている。しかし、この反応変換は理想的ではなく、メタノール>THF>アセトニトリルの順に溶媒の影響を受けた。表3の3行目に見られるように、放射線照射は変換率を改善しなかったようである。
【0177】
(表3)
ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドによる3‐MEM‐O‐ナロキソンの立体選択的還元
【0178】
【表3】

ボランソースの存在下で、エナンチオ選択的触媒(S)‐MeCBSおよびナトリウムトリエチルボロヒドリドを使用し、3‐MEM‐O‐ナロキソンの還元も試験した。表4を参照のこと。どちらの反応からも望ましい結果が得られなかった。プロトンNMRは、ボラン/NaBH(Et)を使用した場合にいくらかの副生成物が生じたことを示した。表4の2行目を参照のこと。
【0179】
(表4)
3‐MEM‐O‐ナロキソンの触媒立体選択的還元
【0180】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、CDCl中のα‐6‐OH‐3‐MEM‐O‐ナロキソールのH NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して還元モルヒノンを形成するステップを含む合成方法であって、前記モルヒノンは以下の構造を有し、
【化1】


式中、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、前記有機ラジカルは
【化2】


でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、
任意に水溶性ポリマーを前記還元モルヒノンに共有結合する、合成方法。

【請求項2】
YはOであり、RおよびRはそれぞれHである、請求項1に記載の方法。

【請求項3】
前記任意の二重結合が存在する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。

【請求項4】
はHである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【請求項5】
は有機ラジカルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【請求項6】
の有機ラジカルはヒドロキシル保護基である、請求項5に記載の方法。

【請求項7】
は有機ラジカルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【請求項8】
前記有機ラジカルであるRは、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、アリル、n‐ブチル、1‐メチルプロピル、2‐メチルプロピル、t‐ブチル、ベンジルおよびフェニルから成る群から選択される、請求項7に記載の方法。

【請求項9】
前記モルヒノンは麻薬拮抗薬である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【請求項10】
前記モルヒノンは麻薬作動薬である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【請求項11】
前記モルヒノンは以下の構造を有し、
【化3】


式中、RはHまたは有機ラジカルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【請求項12】
はHである、請求項11に記載の方法。

【請求項13】
は有機ラジカルである、請求項11〜12のいずれか1項に記載の方法。

【請求項14】
前記有機ラジカルであるRはヒドロキシル保護基である、請求項13に記載の方法。

【請求項15】
前記還元モルヒノンはαエピマーの形態である、請求項1に記載の方法。

【請求項16】
前記モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して還元モルヒノンを形成することにより、前記αエピマーを産生する可能性が90%を上回る、請求項14に記載の方法。

【請求項17】
前記αエピマーは以下の構造を有し、
【化4】


式中、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、前記有機ラジカルは
【化5】

でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSである、請求項15に記載の方法。

【請求項18】
前記還元モルヒノンは以下の構造を有し、
【化6】


式中、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、前記有機ラジカルは
【化7】


でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSである、請求項1に記載の方法。

【請求項19】
前記還元モルヒノンは以下の構造を有し、
【化8】


式中、RはHまたは有機ラジカルである、請求項1に記載の方法。

【請求項20】
はHである、請求項18に記載の方法。

【請求項21】
は有機ラジカルである、請求項18に記載の方法。

【請求項22】
の有機ラジカルはヒドロキシル保護基である、請求項20に記載の方法。

【請求項23】
水溶性ポリマーを前記還元モルヒノンに共有結合する任意のステップを実施する、請求項1に記載の方法。

【請求項24】
前記還元モルヒノンは以下の構造を有し、
【化9】


式中、RはHまたは有機ラジカルである、請求項22に記載の方法。

【請求項25】
は有機ラジカルである、請求項23に記載の方法。

【請求項26】
の有機ラジカルはヒドロキシル保護基である、請求項24に記載の方法。

【請求項27】
水溶性ポリマーを前記還元モルヒノンに共有結合する前記ステップは、前記還元モルヒノンをハロゲン終端した水溶性ポリマーと反応させることにより行われる、請求項25に記載の方法。

【請求項28】
前記ハロゲン終端した水溶性ポリマーは以下の構造を有し、
CHO‐(CHCHO)n‘‐CHCH‐(X‐ハロ
式中、(n)は1〜14の整数であり、(a)はゼロまたは1であり、Xは存在する場合、スペーサ部分であり、ハロはフルオロ、ブロモ、クロロおよびヨードから成る群から選択される、請求項26に記載の方法。

【請求項29】
(n)は2〜9の整数であり、(a)はゼロであり、ハロはブロモである、請求項27に記載の方法。

【請求項30】
水溶性ポリマーを前記還元モルヒノンに共有結合するステップを実施した後に複合体が形成され、前記複合体は以下の構造を有し、
【化10】


式中、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであるが、Rが有機ラジカルである場合、前記有機ラジカルは
【化11】

でないということを条件とし、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、
(n)は1〜14の整数であり、
(a)はゼロまたは1であり、
は存在する場合、スペーサ部分である、請求項22に記載の方法。

【請求項31】
還元モルヒノンのαエピマーおよびβエピマーの混合物を含む組成物であって、αエピマー対βエピマーの比は少なくとも60対40である、組成物。

【請求項32】
モルヒノンのケトンを立体選択的に還元して還元モルヒノンを形成するステップを含む合成方法であって、前記モルヒノンは以下の構造を有し、
【化12】


式中、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたはOHであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
はHまたは有機ラジカルであり、
点線(「‐‐‐」)は任意の二重結合を表し、
はOまたはSであり、
水溶性ポリマーを前記還元モルヒノンに共有結合するステップを含む、方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−534393(P2009−534393A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506622(P2009−506622)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/009761
【国際公開番号】WO2007/124114
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(500321438)ネクター セラピューティックス エイエル,コーポレイション (18)