説明

モルモット免疫グロブリンEからなる画分及び抗体

アレルゲンで感作されたモルモットの血液から分離され精製されたモルモット免疫グロブリンE画分、該画分を抗原として得られた特異性の高い抗モルモット免疫グロブリンE抗体、及び該抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、特定の性状を有する本質的に精製されたモルモット免疫グロブリンE(以下「IgE」ということもある)からなる画分に関する。また本発明は、前記画分をヒト以外の動物に免疫して製造されるモルモットIgEを特異的に認識することができる抗体(以下「抗モルモットIgE抗体」ということもある)及び該抗体を含むモルモットIgEの免疫測定用試薬に関する。
【背景技術】
生体内に異物が侵入した場合、それを排除しようとして免疫反応が起こる。この免疫反応が過剰になった結果、生体に対して種々の病的症状をもたらす病態をアレルギーという。現在、乳幼児を中心としてアトピー性皮膚炎や喘息に代表される種々のアレルギー疾患患者が激増し、社会問題となっている。これらのアレルギー疾患の多くは、個々のアレルゲン(抗原)に対するIgE(抗体)が過剰に産生されることによって発症するI型(即時型)アレルギーである。
I型アレルギーにおけるIgEの産生調節メカニズムの解明や、アレルギーを抑制する薬物の研究・開発が進められている。IgEの関与が大きいこのようなI型アレルギーの実験現場では、例えば、受動皮膚アナフィラキシー反応(passive cutaneous anaphylaxis、以下「PCA反応」という)に代表されるように実験動物としてモルモットが使用されることが多い。
特開2000−266747号公報には、抗ラットIgE抗体及び該抗体を含むラットIgEの測定用キットが記載されており、特開2000−266748号公報には、抗マウスIgE抗体及び該抗体を含むマウスIgEの測定用キットが記載されている。これらの両文献には抗モルモットIgE抗体及び該抗体を含むモルモットIgE抗体の測定用キット(試薬)は記載されていない。
“Int.Archs Allergy appl.Immun.”、1985年、第77巻、p.438−444には、寄生虫を感染させたモルモットの血清からIgEが豊富に含まれる画分を分離して、該画分を抗原としてウサギに免疫して製造された抗モルモットIgE抗体が記載されている。しかしながらここに記載されているモルモットIgEを豊富に含む画分は、他のクラスの免疫グロブリン、例えば免疫グロブリンGも相当量含んでいると考えられる。そのため、該画分を抗原として得られた抗体(抗血清)は、モルモットIgEに対する特異性が低く、そこから抗モルモットIgE抗体を得るためには、抗血清を正常モルモット血清によって中和する必要があった。また、“Int Arch Allergy Appl Immunol”、1988年、第87巻、p.424−429及び“ANNALS OF ALLERGY”、1981年、第47巻、p.52−56にも前記文献と同様な画分及び抗体が記載されている。
“Journal of Immunological Methods”、1991年、第139巻、p.123−134には、モルモット血液中の免疫グロブリン画分から、免疫グロブリンの各クラスを分離する方法が開示されている。そして、その図8にはクロマトグラフィーにより分離された各フラクションのSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)による結果が示されているが、PCA反応の活性を指標としてIgEが含まれるとするフラクション3及び4の結果には、他のフラクションと区別できる固有の主バンドが形成されていない。これは、前記2つのフラクションには、その存在がSDS−PAGEでは捉えられない極微量のIgEしか含まれていないためであると考えられる。
仮にこのようなフラクションを抗原として使用したとしても特異性の高い抗モルモットIgE抗体を製造することはできない。
以上のとおり、これまで特異性に優れた抗モルモットIgE抗体及び該抗体を製造するための純度の高い抗原、すなわち、高純度のモルモットIgEはこれまで製造されていなかったし、その性状も知られていなかった。
【発明の開示】
前述のように、現在IgEが関与するアレルギーの実験系として、モルモットのPCA反応が実施されている。しかしながら、PCA反応はIgEそれ自体を定量的に測定するものではない。PCA反応においては、IgEと結合した肥満細胞が抗原により刺激され、放出されたケミカルメディエーター(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が血管に作用し、そこから漏出する色素量を測定することによって、アレルギー反応の程度を推測しているに過ぎない。
このような状況において、アレルギーの実験現場においては、特異性の高い抗モルモットIgE抗体及び該抗体を含む精度の高いモルモットIgE測定用試薬の開発が望まれていた。
本発明は、高度に精製されたモルモットIgEからなる画分、該画分を抗原として使用することによって製造される特異性に優れた抗モルモットIgE抗体及び、高い測定感度を有するとともに正確かつ簡便なモルモットIgEの免疫測定用試薬を提供することを目的としている。
本発明者らは、アレルゲン、特に卵白アルブミン(ovalbumin、以下「OVA」ということもある)で感作されたモルモットの血液から分離された免疫グロブリン画分よりIgEからなる画分を精製し、その性状を確認した。そして、この画分を抗原として使用することにより製造された抗モルモットIgE抗体がモルモットIgEを特異的に認識すること、さらには、この抗体を利用してIgEの免疫測定系を組み立てたところ高い感度で正確にモルモットのIgEが測定できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]アレルゲンで感作されたモルモットの血液から分離され、SDS−PAGEにより免疫グロブリンEの単一の主バンドを得るのに充分な純度をもつ本質的に精製された下記性状を有するモルモット免疫グロブリンEからなる画分;
(1)前記主バンドの分子量は約200kDaである、
(2)モルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体を製造するための抗原として使用できる、
(3)モルモットにおけるPCA反応が陽性である、
(4)実質的にモルモット免疫グロブリンGを含有しない。
[2]上記[1]に記載の画分において、主バンドの分子量が187〜195kDaであるモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
[3]モルモット免疫グロブリンEの分子量が質量分析法により測定して約186kDaである上記[1]又は[2]に記載のモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
[4]前記主バンドが還元性SDS−PAGEにより2つに分離され、分離後の各バンドの分子量が約70kDa及び約30kDaである、上記[1]〜[3]に記載の画分。
[5]アレルゲンが卵白アルブミンである上記[1]〜[4]に記載のモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
[6]上記[1]〜[5]に記載の免疫グロブリンEからなる画分でもってヒト以外の動物を免疫して製造されるモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
[7]抗体がモノクローナル抗体である上記[6]に記載のモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
[8]抗体がモルモット免疫グロブリンG又は免疫グロブリンMと実質的に交差反応しないものである上記[6]又は[7]に記載の抗体。
[9]モルモット免疫グロブリンG及び免疫グロブリンMとの交差反応率が0.0001%未満であるモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
[10]上記[6]〜[9]に記載の抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[11]上記[6]〜[9]に記載の抗体及び酵素標識された前記抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[12]免疫測定用試薬がサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法を実施するための試薬である上記[10]又は[11]に記載のモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[13]固相化された上記[6]〜[9]に記載の抗体及び標識物質により標識された卵白アルブミンを含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[14]固相化された卵白アルブミン及び標識物質により標識された上記[6]〜[9]に記載の抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[15]標識物質が酵素である上記[13]又は[14]に記載のモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
[16]モルモット免疫グロブリンEが卵白アルブミンを認識する免疫グロブリンEである上記[13]〜[15]のいずれかに記載の免疫測定用試薬。
[17]固相化されてなる上記[6]〜[9]に記載の抗体。
[18]モルモット免疫グロブリンEを製造または精製するための上記[17]に記載の抗体。
上記本発明[1]によれば、抗モルモットIgE抗体を製造するための高度に精製された抗原を提供することができる。上記本発明[6]は、特異性に優れた抗モルモットIgE抗体を提供するものであり、それを含む上記本発明[10]によって、血液等の生体試料中のモルモットIgEを高感度で、正確かつ簡便に測定することができる。
また、本発明[13]によれば、OVAを抗原抗体反応によって認識するモルモット免疫グロブリンEを特異的に測定することができる。
また、本発明[17]によれば、モルモット免疫グロブリンEを高純度に製造または精製することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のモルモットIgE画分の主バンドの分子量を表すSDS−PAGEによる分析結果である。
図2は、本発明のモルモットIgE画分の還元性SDS−PAGEによる分析結果である。
図3は、本発明のモルモットIgE画分のモルモットPCA反応の実験結果である。
図4は、本発明のモルモットIgE画分が実質的にIgGを含有しないことを示すウェスタンブロッティングの分析結果である。
図5は、本発明のモルモットIgEの免疫測定用試薬を使用して作成した標準曲線である。
図6は、本発明のモルモットIgEの免疫測定用試薬の希釈試験(検体1〜3)の結果である。
図7は、実施例5(3)項において作成した標準曲線である。
図8は、実施例5(4)項の(ア)の希釈試験の結果である。
図9は、実施例5(4)項の(オ)のPCA反応との相関性試験の結果である。
図10は、分子量曲線の作成に用いた本発明のモルモットIgE画分のSDS−PAGEによる分析結果である。
図11は、本発明のモルモットIgE画分の質量分析の結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、アレルゲンで感作されたモルモット血液から分離され、特定の性状を有するモルモット免疫グロブリンEからなる画分(以下「モルモットIgE画分」という)に関する。
本発明のモルモットIgE画分は、アレルゲンで感作されたモルモット血液の免疫グロブリン画分から精製されたものである。
アレルゲンとしては、そのものでもってモルモットを感作した場合に、その血液中にIgEを過剰に産生せしめるものであれば、特に制限されずこの分野で公知の何れのものも使用することができる。このようなアレルゲンとして例えば、OVA、ダニ抗原、寄生虫、寄生虫抽出蛋白、ウマ血清などが挙げられるが、これらの中でも、入手や取り扱いが容易な点においてOVAが好ましい。
感作は、常法、例えばアレルゲンをモルモット腹腔内に一定期間にわたって投与することにより行なうことができる。免疫グロブリン画分は、このようにしてアレルゲンによって感作されたモルモットの血液を採取し、飽和硫酸アンモニウム塩析法などの公知の処理をなすことにより製造することができる。
このようにして得られるモルモットの免疫グロブリン画分より、それ自体公知の物理化学的手段を複数組み合わせることによって、本発明のモルモットIgE画分を製造することができる。
例えば、免疫グロブリン画分中に大量に含まれる免疫グロブリンGを除去するためには、プロテインGカラムやDE52陰イオン交換樹脂を利用する方法がとられる。また、モルモットIgE画分の精製のためには、Q−SepharoseTMカラムクロマトグラフィーやMonoQTMカラムクロマトグラフィーなどの陰イオン交換処理、SuperdexTM200カラムクロマトグラフィーなどのゲル濾過カラム処理などが行なわれる。なお、これらの物理化学的手段の各々は、必要に応じて、複数回繰り返し実施してもよい。
上記各物理化学的手段においては、各手段に応じて通常使用される溶媒を特別な制限なく、適宜使用することができる。
より具体的には、後記実施例に記載されている方法によって本発明のモルモットIgE画分を製造することができる。
かくして得られる本発明のモルモットIgE画分が前記のような諸性状を有することは、後記実施例に示すとおりである。
本発明のモルモットIgE画分中に含まれるIgEの純度は高い方が、抗原として使用した場合に、より特異性の高い抗IgE抗体を得ることができる点において好ましい。
また、本発明は、上記モルモットIgE画分でもってヒト以外の動物を免疫して製造されるモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体に関する。
本発明の抗体は、モルモットのIgEを特異的に認識する抗体であればポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の何れでもよいが、特異性及び均一性が高い点においてモノクローナル抗体の方が好ましい。
ポリクローナル抗体は、本発明のモルモットIgE画分を抗原として使用し、ヒト以外の動物を免疫することにより製造することができる。詳細には、前記のようにして得られたモルモットIgE画分を適当なアジュバントと混合してウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリなどのヒト以外の動物に免疫し、血液を採取して公知の処理をなすことによって製造することができる。またモノクローナル抗体は、このように免疫された動物の脾臓細胞を採取し、ミルシュタインらの方法によりミエローマ細胞との細胞融合、抗体産生細胞スクリーニング及びクローニング等を行い、抗モルモットIgE抗体を産生する細胞株を樹立し、これを培養することにより製造することができる。
このようにして得られた抗モルモットIgE抗体は、モルモットのIgEに対する特異性が極めて高く、他のクラスの免疫グロブリン、例えば、通常血液中においてIgEよりもはるかに大量に存在するとされている免疫グロブリンGを認識しないものである。
本発明の抗IgE抗体は、後述する本発明の免疫測定用試薬において好適に使用することができる。
さらに本発明は、上記抗モルモットIgE抗体を含むモルモットIgEの免疫測定用試薬に関する。
本発明のモルモットIgEの免疫測定用試薬は、本発明の抗モルモットIgE抗体の抗原に対する高い特異性に基づくものであり、種々の免疫測定法を実施するための試薬として有用である。ここにおける免疫測定法としては、抗原・抗体反応を含む測定法であればいずれでもよく、例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、エバネッセンス波分析法などが挙げられる。これらの中でも、EIA法やラテックス凝集法を実施するための本発明の試薬が操作の容易性の観点からして好適である。
本発明の免疫測定用試薬としてEIA法を実施するための試薬を選択した場合、EIA法がモルモットIgEに存在する異なるエピトープを認識する2種類の抗モルモットIgE抗体を用いたサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)であるのが好ましい。
また、サンドイッチELISA法の一種としてアビジン−ビオチン反応を利用した方法もある。本法は、試料中のモルモットIgEを固相化抗モルモットIgE抗体でもって捕捉し、捕捉されたモルモットIgEとビオチンで標識した抗体との間で抗原抗体反応を行わせ、次に、酵素標識ストレプトアビジンを加えて、アビジン−ビオチン反応を行わせることを測定原理としている。
このようなサンドイッチELISA法は、2種類の抗体を用いることから抗原に対する特異性が優れており、他のクラスの免疫グロブリンが混在する試料中のモルモットIgEを正確に測定することができる。
本発明のサンドイッチELISA法を実施するための試薬は、固相化抗モルモットIgE抗体及び酵素またはビオチン標識抗モルモットIgE抗体から構成される。
サンドイッチELISA法を実施するための試薬に含まれる2種類の抗モルモットIgE抗体は、モノクローナル抗体同士、ポリクローナル抗体同士又はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組合せの何れでも良い。
固相化抗モルモットIgE抗体は、前述のようにして得られた抗体を、例えば、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁気ビーズ、クロマトグラフィー用担体(例、SepharoseTM)などの固相に結合させることにより製造することができる。固相への結合は通常、抗体をクエン酸緩衝液等の適当な緩衝液に溶解し、固相表面と抗体溶液を適当な時間(1〜2日)接触させることにより行なうことができる。固相化抗モルモットIgE抗体は、モルモットIgEの測定のみならず、後記実施例4の添加回収試験に示されるように、モルモットIgEの回収率が良好であり、その性質を利用してモルモットIgEの製造または精製にも使用することができる。
さらに、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために牛血清アルブミン(BSA)や牛ミルク蛋白等のリン酸緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルク蛋白等でブロッキングすることが一般に行なわれる。
酵素標識抗モルモットIgE抗体は、上記固相化した抗体とは異なるエピトープを認識する抗モルモットIgE抗体と酵素とを結合(標識)させることにより製造することができる。該抗体を標識する酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。これらの酵素と抗モルモットIgE抗体との結合はそれ自体公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド法、マレイミド法などにより行なうことができる。
また、ビオチン標識抗モルモットIgE抗体はビオチンと抗モルモットIgE抗体とを周知の方法により結合させることにより製造することができる。例えば、市販のビオチン標識化キットを使用して、ビオチンと抗モルモットIgE抗体とを結合させることができる。
サンドイッチELISA法を実施するための本発明の試薬には上記抗モルモットIgE抗体以外に必要に応じて、標準物質、洗浄液、酵素活性測定用試薬(基質剤、基質溶解液、反応停止液等)などを構成試薬として含んでいてもよい。また、アビジン−ビオチン反応を利用した方法を実施するための本発明の試薬には、さらに酵素標識ストレプトアビジンを含んでいてもよい。
所望により試薬に含まれる基質剤としては、選択した標識酵素に応じて適当なものが選ばれる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを選択した場合においては、o−フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンチジン(TMB)などが使用され、アルカリホスファターゼを選択した場合においては、p−ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。また、反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを特に制限なく適宜使用することができる。
本発明の別の好ましい形態である、ラテックス凝集法を実施するための試薬には、抗モルモットIgE抗体はラテックス感作抗モルモットIgE抗体の形で含まれる。ラテックス粒子と抗体との感作(結合)は、この分野で公知の方法、例えば、架橋剤としてカルボジイミドやグルタルアルデヒド等を利用する化学結合法や物理吸着法により成すことができる。
ラテックス凝集法を実施するための試薬には、上記ラテックス感作抗モルモット免疫グロブリン抗体以外に、必要に応じて、希釈安定化緩衝液、標準物質などを含んでいてもよい。
なお、本発明の別の実施形態である放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法などを実施するための試薬も上記EIA法やラテックス凝集法を実施するための試薬に準じて常法に従い製造することができる。
以上のようにして製造された、本発明のモルモットIgEの免疫測定用試薬は、免疫グロブリンEのみを特異的に測定できるものであり、他のクラスの免疫グロブリン、例えば、後記実施例に示すように免疫グロブリンG、免疫グロブリンMとは交差しない。
また本発明は、固相化された前記抗モルモットIgE抗体及び標識物質により標識されたOVAを含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬に関する。
固相化された前記抗モルモットIgE抗体は、上記サンドイッチELISAの場合と同様にして製造することができる。
OVAを標識する標識物質としては、酵素、蛍光物質、放射性物質等が挙げられる。酵素の具体例としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。また、蛍光物質としては、例えば、フルオレッセン又はその誘導体が挙げられ、放射性物質としては、例えば、125Iが挙げられる。このような標識物質のうち、取扱いが容易である点において酵素が好ましい。
標識されたOVAは、公知のグルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸法またはマレイミド法などの方法により、OVAと標識物質とを結合せしめることによって製造することができる。例えば、酵素標識OVAの具体的な製造方法は後記実施例に示すとおりである。
このようにして製造された、固相化抗モルモットIgE抗体及び標識OVAを含む本発明の免疫測定用試薬は、OVAを認識するモルモットIgEの濃度を特異的に測定するものである。その測定の機構は以下のとおりである。
マイクロプレート等に固相化された本発明の抗モルモットIgE抗体に検体中のIgEが捕捉され、そこに標識物質で標識されたOVAが添加されると、標識OVAは捕捉されたIgEの中、OVAを認識するIgEのみに結合し、その標識物質の量を公知の方法により測定することによって、OVAを認識するモルモットIgEを特異的に測定することができる。
上記の機構において、固相化抗体に代えて固相化OVAを使用し、標識OVAに代えて標識抗体を使用することによっても、OVAを認識するモルモットIgEを測定することができる。従って、本発明の試薬は、固相化されたOVA及び標識物で標識された前記抗モルモットIgE抗体を含むモルモットIgEの免疫測定用試薬の形態で実現されてもよい。
なお、OVAの固相化は、前述の抗モルモットIgE抗体の場合と同様にして行うことができる。
このようなモルモットIgEの免疫測定用試薬には、前述のサンドイッチELISA法による試薬と同様に、必要に応じて標準物質、洗浄液などを構成試薬として含んでいても良い。標識物質が酵素の場合には、さらに基質剤、基質溶解液、反応停止液などの酵素活性測定用試薬を構成試薬として含んでいても良い。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]モルモットIgE画分の製造
(1)アレルゲンの感作
10μgのOVAと4mLの水酸化アルミニウムゲルを混和し、モルモット(Hartley系、約600g、雌)の腹腔内に投与した。その後直ちに、百日咳ワクチン(2.5×1010菌体/個体)を同様にして腹腔内に投与した(初回感作)。12日後に250mg/kgの用量でシクロフォスファミドを腹腔内投与(生理食塩水4mL)した。その後、初回感作と同様な方法で2週間間隔で8回感作した。感作が完了した後、ジエチルエーテル麻酔下で開胸し、心臓より採血した。血液を遠心分離(3000rpm,10min,4℃)し、血清35mLを回収した。
(2)免疫グロブリン画分の分離
上記(1)により得られた血清を遠心分離(18,000rpm×15min)し、上清に等量の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を加えた。この混合液と等量の飽和硫安溶液を氷冷下にて攪拌しながら滴々添加し(50%飽和硫安)、添加後20分間攪拌した。次に遠心分離し(18,000rpm×30min)、得られた沈殿を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に対して透析し、免疫グロブリン画分液を得た。
(3)モルモットIgE画分の精製
上記(2)において得られた免疫グロブリン画分液を遠心分離し(18,000rpm×30min)内溶液中の混濁物を除去後、陰イオン交換樹脂(DE52)を100mL充填し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したカラムに展開した。10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)でカラムを洗浄後、次に35mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)でIgEを溶出させた。DE52のIgE溶出画分液を50%飽和硫安とし20分間攪拌後、遠心分離した(18,000rpm×30min)。得られた沈殿を20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で溶解し、同様の緩衝液にて透析を行い、IgE含有溶液を得た。硫安精製後のIgE含有溶液を20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したProtein Gカラム(Protein G Sepharose 4 Fast Flow[商品名]、カラムサイズ;1.6×3cm、アマシャムバイオサイエンス社)に展開した(流速0.5mL/分)。同緩衝液での素通り画分を分取した。再度Protein Gカラムへ同条件にて展開し、素通り画分を回収し、10mM Na,K リン酸緩衝液pH7.5に対して透析した。
Protein G処理後の透析内液をQ−Sepharose F.F.column(Q−Sepharose Fast Flow[商品名]、カラムサイズ;1.6×8.5cm、アマシャムバイオサイエンス社)に展開した(Buffer A=10mM Na,K リン酸緩衝液pH7.5,Buffer B=0.3M Na,K リン酸緩衝液pH7.5,Flow=3mL/min,Fraction size=3mL,Gradient=0%B for 5min.0−100%B in 90min)。後述するPCA反応試験によりIgE溶出画分を決定した。
Q−Sepharose IgE溶出画分液を限外ろ過にて濃縮し、Superdex 200 column(Superdex 200XK16/60[商品名]、カラムサイズ;1.6×60cm、アマシャムバイオサイエンス社)に展開した(流速;1mL/分、フラクションサイズ;1mL、溶出液;50mmol/L MES,0.1mol/L NaCl,pH6.5)。PCA反応試験によりIgE溶出画分を決定し、10mM Na,K リン酸緩衝液pH7.5に対して透析した。
Superdex 200 columnのIgE溶出画分をMono Q column(Mono Q HR5/5[商品名]、カラムサイズ;0.5×5cm、アマシャムバイオサイエンス社)に展開した(Starting buffer(buffer A):0.01M Na,K phosphate buffer pH7.5、Gradient buffer(buffer B):0.3M Na,K phosphate buffer pH7.5、Gradient:sampleチャージ後、0%B for 5min,0−100%B in 30min、流速1.0ml/min、UV range0−0.2)。後述するPCA反応試験によりIgE溶出画分を決定し、モルモットIgE画分を得た。
(4)モルモットIgE画分の諸性状
上記(3)で得られたモルモットIgE画分の諸性状は以下のとおりであった。
[1]SDS−PAGEによりIgEの単一の主バンドが得られ、その主バンドの分子量は約200kDaである;
SDS−PAGE(1)
モルモットIgE画分を非還元性試料用緩衝液(62.5mmol/L Tris−HCl pH6.8、25%グリセロール、2% SDS及び0.01%ブロムフェノールブルー)に溶解し、100℃で3分間加熱後、SDS−PAGEを行った。アクリルアミド濃度が5〜20%濃度勾配のゲル(E−T520L型、アトー社)で試料を分離した。電気泳動緩衝液として、62.5mmol/L Tris−HCl pH8.3、192mmol/L グリシン、0.1% SDSを使用した。40mAで80分間電気泳動した後、ゲルを銀染色(銀染色キットワコー、和光純薬工業)した。分子量マーカーとして、HMW SDSマーカーキット(ミオシン[212,000Da]、αマクログロブリン[170,000Da]、βガラクトシダーゼ[116,000Da]、トランスフェリン[76,000Da]、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ[53,000Da]、アマシャムバイオサイエンス社)を使用した。
図1に示すように、分子量約200kDaのところに、単一の主バンドが認められた(レーン1;マーカー、レーン2;モルモットIgE画分)。
SDS−PAGE(2)
分子量を詳細に求めるために、アクリルアミド濃度が7.5%濃度のゲル(E−T7.5L型、アトー社)を用いてSDS−PAGEを前記と同様にして行った。なお、ゲルはクマシー染色(Bio−safe Coomassie,Bio−Rad社)した。分子量マーカーは前記と同じものを使用し、分子量曲線を作成して、本画分の分子量範囲を求めた。その結果、分子量範囲は187kDa〜195kDaであった。
図10にこの時のSDS−PAGEの結果を示す(レーン1;マーカー、レーン2;モルモットIgE画分)。
質量分析
モルモットIgE画分の質量分析を下記の条件で行った。
機器;AXIMA−CFR plus(島津製作所)
レーザー光源;窒素封入型レーザー(λ=337.1nm)
検出イオン;正イオン
飛行モード;リニアモード
加速電圧;20kV
遅延引き出し;オン(m/z180000に最適化)
Beam Blanking;m/z10000以下のイオン検出を排除
マトリクス溶液;20mgのsinapinic acidをアセトニトリル350μLと0.1%のTFA(トリフルオロ酢酸)350μLの混合溶媒で溶解して調製した。
質量較正;Invitromass High Molecular Weight Mass Calibration Kit(Invitrogen社)の160kDa Mass Calibrantを用いた。160kDa Mass Calibrantの[M+H]m/z156081、[M+2H]2+79541及び[3M+2H]2+238621を用い、外部標準法にて較正した。
試料調製;試料原液(モルモット免疫グロブリン画分)0.5μLをサンプルプレートにアプライした直後にマトリクス溶液0.5μLをさらに加え、風乾した後、測定した。
測定の結果、図11に示すように、主成分としてm/z185596が検出された。なお、m/z92883及びm/z62892はそれぞれ、主成分の[M+2H]2+及び[M+3H]3+イオン、m/z126388は主成分の[2M+3H]3+イオンと考えられる。従って、本試料に含まれるモルモットIgEの分子量の計測値は185596であった。
[2]前記主バンドは還元性SDS−PAGEにより2つに分離され、分離後の各バンドの分子量は約70kDa及び約30kDaである;
モルモットIgE画分を還元性試料用緩衝液(62.5mmol/L Tris−HCl pH6.8、350mmol/Lジチオスレイトール、25%グリセロール、2% SDS及び0.01%ブロムフェノールブルー)に溶解し、100℃で3分間加熱後、SDS−PAGEを行った。アクリルアミド濃度が5〜20%濃度勾配のゲル(E−T520L型、アトー社)で試料を分離した。電気泳動緩衝液として、62.5mmol/L Tris−HCl pH8.3、192mmol/Lグリシン、0.1% SDSを用いた。40mAで80分間電気泳動した後、上記と同様にしてゲルを銀染色した。分子量マーカーとして、LMWマーカーキット(ホスフォリラーゼ b[97,000Da]、アルブミン[66,000Da]、卵白アルブミン[43,000Da]、カルボニックアンヒドラーゼ[30,000Da]、トリプシンインヒビター[20,100Da]、α−ラクトアルブミン[14,400Da]、アマシャムバイオサイエンス社)を使用した。
図2に示すように、モルモットIgE画分の還元性SDS−PAGEにより、上記[1]において認められた約200kDaの主バンドは認められず、約70kDaと約30kDaのバンドが認められた(レーン1;マーカー、レーン2;モルモットIgE画分)。
[3]モルモットIgEを特異的に認識することができる抗体を製造するための抗原として使用できる;
この性状については、後記実施例2に記載されているとおりである。
[4]モルモットにおけるPCA反応が陽性である;
モルモットIgE画分を生理食塩水を用いて、蛋白濃度が31.3、62.5、125及び250ng/mLとなるように希釈系列を調製した。モルモット(Hartley、雌、450〜600g)をエーテル麻酔し、背皮毛を刈り、皮膚に調製したモルモットIgE画分を0.1mLずつ皮内注射した。8日間飼育後、前肢より、1mg/mLOVA及び1%エバンスブルーの生理食塩水液を1mL注入し、30分放置した。図3に示すように、屠殺後の皮膚裏側にはモルモットIgE画分の蛋白濃度依存的に青斑が認められた。
[5]実質的にモルモット免疫グロブリンGを含有しない;
モルモットIgE画分を精製する過程におけるProtein Gカラムクロマトグラフィーにて、カラムに吸着したIgGを溶出し、モルモットIgG画分とした。モルモットIgG画分とモルモットIgE画分を上記非還元性条件にてSDS−PAGEを行った(図4参照。レーン1;マーカー、レーン2;モルモットIgG画分、レーン3;モルモットIgE画分)。
ホライズブロット(アトー社)にてゲル中の分離された蛋白をニトロセルロース膜に転写した(131mAで1時間)。転写後のニトロセルロース膜をブロッキング溶液(2%ブロックエース[登録商標]粉末)中で室温にて30分間振盪した後、洗浄液(20mmol/L Tris,500mmol/L NaCl,0.05% Tween[登録商標]−20,pH7.5)中で室温にて10分間振盪した。ヤギ抗モルモットIgG抗体(ケミコン社)をブロッキング溶液にて最終抗体濃度が10μg/mLとなるように希釈した。洗浄後のニトロセルロース膜を10μg/mLに希釈したヤギ抗モルモットIgG抗体で室温にて1時間振盪した。ニトロセルロース膜を洗浄液中で室温にて5分間振盪し、洗浄液を除去後、洗浄液を加えて再度室温にて5分間振盪した。洗浄後のニトロセルロース膜を、ブロッキング溶液にて西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ブタ抗ヤギIgG抗体(大日本製薬)を2000倍希釈した溶液中で室温にて1時間振盪した。洗浄液中で室温にて5分間の振盪を2回繰り返し、20mmol/L Tris,500mmol/L NaCl,pH7.5中で室温にて5分間振盪した。ニトロセルロース膜をImmun−blot assay kit(Bio−Rad社)の試薬であるDeveloperと室温にて5分間振盪し、発色反応を行い、蒸留水で洗浄し、反応を停止させた。
図4に示すようにモルモットIgG画分試料では分子量約160kDa付近にモルモットIgGに関与する強い発色が認められた(レーン4;モルモットIgG画分)。一方、モルモットIgE画分試料では分子量約160kDa付近には発色が認められなかった(レーン5;モルモットIgE画分)。これらのことより、本発明のモルモットIgE画分が実質的にモルモットIgGを含有しないことが示された。
[実施例2]抗モルモットIgE抗体の製造
実施例1で得られた画分とアジュバント(Titer Max:シグマ社製)を等量混合後、超音波処理により乳化させ、実施例1で得られた画分25μg/エマルジョン0.5mL/マウスとなるよう調製した。この免疫抗原をマウス(BALB/c、4週齢)に2週間間隔で3回皮内及び皮下に投与した。3回目の免疫から1週間後に、マウスより脾臓細胞を取り出し、マウスミエローマ細胞とPEG法にて細胞融合した。融合後、ハイブリドーマを96ウェルプレートに分注し、37℃の炭酸ガス培養器(5%CO,37℃)中で1−2週間培養し、HAT培地による選択を行った。モルモットIgE画分を固相化したマイクロプレートを用いて、融合細胞の上清をELISA法により検出し、抗体の有無を確認した。陽性となったウエルに対しては、限界希釈法によるクローニングを2回繰り返し、モルモットIgEに対する反応性を有するクローンを選出した。得られたクローンの産生するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞をBALB/cマウスの腹腔内で増殖させた後、その腹水中からプロテインGセファロースゲルを用いて精製した。
[実施例3]サンドイッチELISA試薬の製造
サンドイッチELISA法によるモルモットIgEの測定用試薬を以下のように製造した。
(1)西洋ワサビペルオキシダーゼ標識マウス抗モルモットIgEモノクローナル抗体の調製
西洋ワサビペルオキシダーゼ4mgを蒸留水1mLに溶解し、その600μLに0.1mol/L過ヨウ素酸ナトリウム溶液120μLを加えて、室温で20分間反応させた。この溶液を1mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.4)に対して一夜透析し、過ヨウ素酸酸化ペルオキシダーゼ溶液を得た。過ヨウ素酸酸化ペルオキシダーゼ溶液300μLに、0.2mol/L炭酸緩衝液を15μL加えて、実施例2において製造したマウス抗モルモットIgEモノクローナル抗体(2mg/ml)を混合し、常温、遮光下で2時間インキュベーションした。その後、4mg/mL水素化ホウ素ナトリウムを25μL加え、4℃で2時間放置した。50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)に一晩透析した。
(2)マウス抗モルモットIgE抗体の担体へのコーティング
実施例2において得られたマウス抗モルモットIgE抗体を抗体液用緩衝液(5mmol/Lリン酸塩、0.9%NaCl pH7.0)に10μg/mLとなるように溶解した。これをマイクロタイタープレート(マイクロモジュールプレート、Maxsorp−F8、Nunc社)に200μLずつ分注し、4℃で3晩放置した。
(3)マイクロタイタープレートのブロッキング
各ウェルを300μLのプレート洗浄液(40mmol/Lリン酸塩、0.9%NaCl、0.1%防腐剤[プロクリン150;ローム・アンド・ハース社]0.1%ウシ血清アルブミンpH7.0)で3回洗浄後、保存用緩衝液(0.1%プロクリン150、1%ブロックエース[登録商標]粉末;大日本製薬)300μLを加え室温で2時間放置し、その後保存用緩衝液を除去した。
(4)標準物質の調製
前記と同様にして非還元性条件にて、モルモットIgE画分のSDS−PAGEを行い、ゲルをクマシーブリリアントブルー染色した。染色したゲルをデンシトメーター(島津二波長フライングスポットスキャニングデンシトメータCS−9300PC)で計測した。約200kDaのモルモットIgE主バンドの染色強度の割合を求めた結果、79%であった。本画分をBCA protein assay kit(Pierce社)で蛋白定量し、その蛋白濃度に0.79を乗じた値を本画分中のモルモットIgE濃度とした。本画分をウシ胎児血清で希釈し、0,25,50,100,200,400,800ng/mLの標準溶液を調製した。
[実施例4]実施例3で製造した試薬によるモルモットIgEの測定
(1)標準曲線の作成
マイクロタイタープレートの各ウェルに反応用緩衝液(20mmol/L 2−モルホリノエタンスルホン酸−NaOH,0.9%NaCl,0.1% BSA,0.2%プロクリン150)を100μL分注した。ここに、標準物質(0,50,100,200,400,800ng/mL)を同様に各ウェルに25μL加え、室温で1時間放置した。また、各ウェルを洗浄液300μlで3回洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識マウス抗モルモットIgEモノクローナル抗体を希釈液で希釈し、100μlずつ加え、室温で1時間放置した。次に、各ウェルを洗浄液300μLで3回洗浄後、TMB溶液を100μLずつ加え、室温遮光下で30分間反応させた。その後、3.2mol/L硫酸を100μLずつ加え反応を停止させた。各ウェルの吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm、副波長630nmで測定した。図5に標準モルモットIgE(800ng/ml)の希釈系列試料の測定結果を示した。この図は良好な標準曲線が得られたことを示している。
(2)試薬の基礎性能試験
(ア)希釈試験
上記(1)の方法に従ってモルモット血清検体の希釈試験を行った。血清はIgE量の不明な血清3検体を検体希釈液でそれぞれ希釈系列を調製し、同時に測定した標準モルモットIgEから得られた標凖曲線に基づいて、検体のIgE濃度を算出した。図6の結果に示すとおり、ほぼ原点を通る良好な希釈直線性が得られた。
(イ)添加回収試験
上記(1)の方法に従ってモルモットIgEの添加回収試験を行った。血清検体3検体に標凖モルモットIgEを添加し、測定値から添加したIgE量の回収率を求めた。下記表1に示すとおり、添加回収率は98.9%から109.7%と良好な結果が得られた。

(ウ)同時再現性試験
上記(1)の方法に従って、同一のモルモット血清サンプルを8回測定して、同時再現性試験を実施した。その間の変動係数CV%は1.8%以下という良好な成績であった。
(エ)交差反応性試験
上記(1)の方法に従って、精製モルモットIgG及び精製モルモットIgM(Cortex社)を試料として測定した結果、下記表2に示すように、IgG及びIgMとはほとんど交差しなかった(交差反応率は、0.0001%未満)。よって、本測定系はモルモットIgG及びモルモットIgMには交差反応しない測定系であり、モルモットIgEに特異的な測定系であることが示された。

これらの基礎性能試験の結果は、本発明の免疫測定試薬は非常に高い精度でモルモットIgEを測定することができることを示すものである。
また、本発明の免疫測定用試薬は、わずか25μLのモルモット血清中に存在する6.2ng/mL、さらには3.1ng/mLのモルモットIgEが検出可能であり、非常に感度が高いものであった。本発明の免疫測定用試薬では、測定可能なモルモットIgEの濃度範囲を適宜設定することができるが、例えば血液試料の場合、約3〜約800ng/mLの範囲が好適である。なお、本発明の免疫測定用試薬で正常モルモットの血液中IgE濃度を測定したところ、31.9〜97.6ng/mLであった。
[実施例5]OVAを認識するモルモットIgEの測定
(1)OVAを認識するモルモットIgE標準物質の調製
実施例3で調製したモルモットIgE標準物質をOVA固相化カラムに展開して、OVAを認識するモルモットIgEだけを吸着させた。カラムを通過したモルモットIgEを実施例4に記載の方法で定量し、カラムに展開したモルモットIgE量から差し引くことによりカラムに吸着したOVAを認識するモルモットIgEの濃度を求めた。
以下、詳細に説明する。
(a)OVA固相化カラムの調製
NHS−activated Sepharose 4 Fast Flow(アマシャムバイオサイエンス社製)を5mLカラムにとり、イソプロパノールを除去した。氷冷した30mLの1mmol/L HClで洗浄後、最終濃度が10mg/mL OVAとなるようにカップリング緩衝液(0.5mol/L NaCl,0.2mol/L炭酸ナトリウム[sodium carbohydrate],pH8.3)で希釈した溶液を5mL加え、室温で30分間静置した。30mLのカップリング緩衝液、30mLの洗浄緩衝液(0.5mol/L NaCl,0.1mol/L酢酸ナトリウム[sodium acetate],pH4.0)、30mLのブロッキング緩衝液(0.15mol/L Tris−HCl,pH8.8)で洗浄し、室温で1時間静置した。30mLの洗浄緩衝液、30mLのブロッキング緩衝液、30mLの洗浄緩衝液で洗浄した。OVAを固相化したNHS−activated Sepharose 4 Fast Flowゲルを展開緩衝液(20mmol/Lリン酸ナトリウム[sodium phosphate],pH7.0)で懸濁し、ゲル容量が1mLとなるように別のカラムに詰めた。
(b)OVA固相化カラムクロマトグラフィーによるOVAを認識するモルモットIgE濃度の測定
前項で調製したOVA固相化Sepharose 4 Fast Flowカラム(ゲル容量:1mL)を前項と同様の展開緩衝液10mLで平衡化した。760ng/mLのモルモットIgE標準物質100μLをカラムに展開し、展開緩衝液でカラムを洗浄した。カラムを通過した分画は、1mLずつ採取した。採取した分画中のモルモットIgE濃度を実施例4に記載の方法で定量した。定量した結果を下記表3に示した。カラムを通過した分画中のモルモットIgEの積算量は19.2ngであった。カラムに展開したモルモットIgE量(76ng)からカラムを通過したモルモットIgE量(19.2ng)を差し引くことにより、カラムに吸着したOVAを認識するモルモットIgE量(56.8ng)を求めた。これより、上記OVA固相化カラムクロマトグラフィーに用いたモルモットIgE標準物質試料(760ng/mL)中には568ng/mLのOVAを認識するモルモットIgEが含有されていることが示された。

(2)西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識OVAの調製
(a)OVAのSATA修飾
27mgのOVA(シグマ社製)を1mLの0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解した。最終濃度が24mmol/L SATA(N−Succinimidyl S−acetylthioacetate,ピアス社製)となるようにN,N’−dimethylformamideで希釈した溶液を調製し、上記OVA溶液に0.1mL添加し、30℃で30分間インキュベートした後、0.1mLの0.1mol/L EDTA溶液(pH7.0)、0.1mLの1mol/L Tris−HCl(pH7.0)、0.15mLの1mol/Lヒドロキシルアミン(hydroxylamine)(pH7.0)を添加し、30℃で15分間インキュベートした。Hi−Trap G−25(5mL)カラムに展開し(展開緩衝液:0.1mol/Lリン酸ナトリウムpH6.0,5mmol/L EDTA、流速:0.5mL/min、分画容量:0.5mL)で精製後、最終濃度が4mg/mLとなるようにOVA−SATA修飾溶液を調製した。
(b)HRP−Sulfo−HMCSの調製
16mgのHRP(東洋紡社製、TYPE I−C)を2.0mLの0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解した。4mgのSulfo−HMCS(N−(8−Maleimidocapryloxy)sulfosuccinimide,sodium salt同仁化学研究所社製)を0.275mLの0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解した。上記HRP溶液全量に、0.2mLのSulfo−HMCS溶液を加え、30℃で60分間インキュベートした。Hi−Trap G−25(5mL)カラムに展開し(展開緩衝液:0.1mol/Lリン酸ナトリウムpH6.0,5mmol/L EDTA、流速:0.5mL/min、分画容量:0.5mL)で精製後、最終HRP濃度が7.2mg/mLとなるようにHRP−Sulfo−HMCS溶液を調製した。
(c)OVAのHRP標識
OVA−SATA修飾溶液と等量のHRP−Sulfo−HMCS溶液を混合し、4℃で20時間インキュベートした。10mmol/Lシステアミン塩酸塩(Cysteamine Hydrochloride)を1mLあたり20μL添加した。Sephacryl S−200 XK−26/70カラム(展開緩衝液:0.1mol/Lリン酸ナトリウムpH6.5、流速:0.8mL/min、分画容量:2.0mL)に展開し、ゲルろ過分画した。各分画のHRP活性及び、力価測定より回収画分を決定した。
(3)標準曲線の作成
プラスチック製マイクロプレートの各ウェルに150μLの反応用緩衝液(20mmoL/L 2−モルホリノエタンスルホン酸−NaOH,0.9%NaCl,0.1% BSA,0.2%プロクリン150)を分注し、さらに前項(1)において調製した標準物質の希釈系列(0,35.5,71.0,141.9,283.9,568ng/mL)を同様に各ウェルに15μL加え、攪拌後室温で10分間放置した。プラスチック製マイクロプレートの各ウェルより110μLずつ試料を取り出し、実施例3において調製したマウス抗モルモットIgE抗体をコーティングしたマイクロタイタープレートの各ウェルに分注し、攪拌後、室温で1時間放置した。各ウェルを洗浄液300μLで3回洗浄後、上記調製の西洋ワサビペルオキシダーゼ標識OVAを100μLずつ加え、室温で30分間放置した。次に、各ウェルを洗浄液300μLで3回洗浄後、TMB溶液を100μLずつ加え、室温遮光下で30分間反応させた。その後、3.2mol/L硫酸を100μLずつ加え反応を停止させた。各ウェルの吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm、副波長630nmで測定した。図7に前項(1)において調製したIgE標準物質(568ng/ml)の希釈系列試料の測定結果を示した。この図は良好な標準曲線が得られたことを示している。
(4)試薬の基礎性能試験
(ア)希釈試験
前項(3)の方法に従ってモルモット血清検体の希釈試験を行った。血清はOVAを認識するIgE量の不明な血清3検体を検体希釈液でそれぞれ希釈系列を調製し、前項(3)と同様にして得られた標準曲線に基づいて、検体中の、OVAを認識するIgE濃度を算出した。図8の結果に示すとおり、ほぼ原点を通る良好な希釈直線性が得られた。
(イ)添加回収試験
前項(3)に記載の方法に従ってOVAを認識するモルモットIgEの添加回収試験を行った。血清検体5検体に前項(1)と同様にして調製された標準モルモットIgEを添加し、測定値から添加したIgE量の回収率を求めた。下記表4に示すとおり、添加回収率は97.7%から103.7%と良好な結果が得られた。

(ウ)同時再現性試験
前項(3)の方法に従って、同一のモルモット血清サンプルを8回測定して、同時再現性試験を実施した。その間の変動係数CV%は5%以下という良好な成績であった。
(エ)特異性試験
OVAを感作したモルモット(Hartley系)及び無感作のモルモット(同系)より採取した血清検体を試料として、実施例4及び本実施例において使用した測定試薬によってIgE量を測定し、得られた値を比較した。感作は20mgのOVA(シグマ社製)を0.8mLの生理食塩水に溶解し、モルモットの腹腔内と背側皮下に0.4mLずつ注入することにより行い、感作から6週間後にモルモットから血液を採取した。
下記表5の測定結果に示すように、無感作モルモット血液中においては、実施例4に記載の試薬によって測定した場合にはIgEが検出され、本実施例に記載の試薬によって測定した場合IgEは検出されなかった。これに対し、OVA感作モルモットにおいては、両試薬で測定した場合ともにIgEが検出され、その濃度は実施例4に記載の試薬で測定した場合の方が高かった。この結果は、実施例4に記載の試薬はOVAを認識するIgE及びそれ以外のIgEを測定しており、本実施例に記載の試薬はOVAを認識するIgEを特異的に測定していることを意味している。

(オ)PCA反応との相関性試験
血液中に存在するOVAを認識するIgEの指標であるモルモットのPCA反応と、本実施例の測定系との相関性を次のようにして検討した。18匹のHartley系モルモットを対象とし、その中の1匹にはOVA感作を行わずに血液を採取し、常法に従い血清を得た。残りの17匹には、腹腔内と背側皮下に25mg/mLのOVA生理食塩水溶液を注入して感作した。感作後、6週間に至るまで、感作したモルモットを経時的に屠殺して血液を採取し、常法に従い血清を得た。このようにして得られた血清中のIgE量を本実施例に記載の方法により測定した。
PCA反応は次のようにして実施した。採取したモルモット血清を生理食塩水にて10倍、20倍、40倍及び80倍に希釈し、希釈系列を調製した。Hartley系モルモットをエーテル麻酔し、背皮毛を刈り、皮膚に調製した希釈系列試料を0.1mLずつ皮内注射した。7日間モルモットを飼育後、前肢より1mg/mLOVA及び1%エバンスブルーの生理食塩水液を1mL注入し、30分間放置した。モルモットを屠殺後、背皮を剥いで、青い斑点が認められる最高希釈倍率をPCA反応値とした。図9に示すように、本実施例の測定系とPCA反応との間には、回帰式y=2.2x+4.8、相関係数r=0.967という非常に良好な相関関係が認められた。このような試験結果は、本実施例のモルモットIgEの免疫測定試薬は、OVAを認識するIgEを特異的に測定できることを示すものである
【産業上の利用可能性】
本発明は、高度に精製されたモルモットIgE画分、特異性に優れた抗モルモットIgE抗体、及び該抗体を含むモルモットIgEを正確かつ簡便に測定可能な試薬を提供する。このような本発明により、アレルギーなどの動物実験の現場において、例えば、モルモット血液中のIgE濃度を感度良く測定することができる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2003−434618(出願日:2003年12月26日)及び特願2004−289939(出願日:2004年10月1日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲンで感作されたモルモットの血液から分離され、SDS−PAGEにより免疫グロブリンEの単一の主バンドを得るのに充分な純度をもつ本質的に精製された下記性状を有するモルモット免疫グロブリンEからなる画分;
(1)前記主バンドの分子量は約200kDaである、
(2)モルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体を製造するための抗原として使用できる、
(3)モルモットにおける受動皮膚アナフィラキシー反応が陽性である、
(4)実質的にモルモット免疫グロブリンGを含有しない。
【請求項2】
請求の範囲1に記載の画分において、主バンドの分子量が187〜195kDaであるモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
【請求項3】
モルモット免疫グロブリンEの分子量が質量分析法により測定して約186kDaである請求の範囲1又は2に記載のモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
【請求項4】
前記主バンドが還元性SDS−PAGEにより2つに分離され、分離後の各バンドの分子量が約70kDa及び約30kDaである、請求の範囲1〜3に記載の画分。
【請求項5】
アレルゲンが卵白アルブミンである請求の範囲1〜4に記載のモルモット免疫グロブリンEからなる画分。
【請求項6】
請求の範囲1〜5に記載の免疫グロブリンEからなる画分でもってヒト以外の動物を免疫して製造されるモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
【請求項7】
抗体がモノクローナル抗体である請求の範囲6に記載のモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
【請求項8】
抗体がモルモット免疫グロブリンG又は免疫グロブリンMと実質的に交差反応しないものである請求の範囲6又は7に記載の抗体。
【請求項9】
モルモット免疫グロブリンG及び免疫グロブリンMとの交差反応率が0.0001%未満であるモルモット免疫グロブリンEを特異的に認識することができる抗体。
【請求項10】
請求の範囲6〜9に記載の抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項11】
請求の範囲6〜9に記載の抗体及び酵素標識された前記抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項12】
免疫測定用試薬がサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法を実施するための試薬である請求の範囲10又は11に記載のモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項13】
固相化された請求の範囲6〜9に記載の抗体及び標識物質により標識された卵白アルブミンを含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項14】
固相化された卵白アルブミン及び標識物質により標識された請求の範囲6〜9に記載の抗体を含むモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項15】
標識物質が酵素である請求の範囲13又は14に記載のモルモット免疫グロブリンEの免疫測定用試薬。
【請求項16】
モルモット免疫グロブリンEが卵白アルブミンを認識する免疫グロブリンEである請求の範囲13〜15のいずれかに記載の免疫測定用試薬。
【請求項17】
固相化されてなる請求の範囲6〜9に記載の抗体。
【請求項18】
モルモット免疫グロブリンEを製造または精製するための請求の範囲17に記載の抗体。

【国際公開番号】WO2005/063978
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516713(P2005−516713)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019694
【国際出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】