説明

モーター封止用エポキシ樹脂成形材料及び成形品

【課題】作業環境性、生産性に優れ、長期耐熱性、熱伝導性の良好な、モーターの封止に適するエポキシ樹脂成形材料及び成形品を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、(C)硬化促進剤(D)無機フィラーからなり、(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量が、エポキシ樹脂成形材料100質量部中5〜70質量部を占め、かつ(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量100質量部中、20質量部以上が室温で固体の成分からなるモーター封止用エポキシ樹脂成形材料及びそれを硬化させてなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業環境性、生産性に優れ、長期耐熱性、熱伝導性の良好な、モーターの封止に適するエポキシ樹脂成形材料およびそれを硬化させてなる成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年地球環境への配慮から、自動車の駆動にエンジンとモーターを併用するハイブリッドカーの開発が活発に進められている。ここでモーターの高出力化を図った場合、モーターの駆動割合が増すことにより燃費向上、排気ガス低減という環境適応化、高性能化が図れるものの、モーターからの発熱量も同時に大きくなる。
【0003】
この自動車駆動用のモーターは制振、制音などを目的として、一般に不飽和ポリエステル樹脂と無機フィラーからなる成形材料で封止されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この成形材料は充分満足のいく耐熱性、熱伝導性を有していないのが現状である。また不飽和ポリエステル樹脂と無機フィラーからなる成形材料は、異臭を有する重合性モノマーを含有しているため作業環境性に劣ることや、その形状が粘土状であるため射出成形時、原料供給口に付着し生産性に劣るという問題を有している。
【特許文献1】特開2001−226573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に顧みてなされたものであり、モーターから発生する熱に充分な長期耐熱性、熱伝導性を有し、かつ作業環境性を劣悪にする重合性モノマーを含有せず、またその形状が固形状であるため、射出成形時においてもその生産性に優れるエポキシ樹脂成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量が、エポキシ樹脂成形材料100質量部中5〜70質量部を占め、かつ(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量100質量部中、20質量部以上が室温で固体の成分からなるモーター封止用エポキシ樹脂成形材料及びそれを硬化させてなる成形品は、高い耐熱性、熱伝導性を有し、かつ作業環境性が良好であり、トランスファー成形や射出成形時においてもその生産性に優れることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、作業環境性、生産性に優れ、長期耐熱性、熱伝導性の良好な、モーターの封止に適するエポキシ樹脂成形材料および成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のエポキシ樹脂成形材料及び成形品について詳細に説明する。
【0008】
本発明のエポキシ樹脂成形材料に用いる(A)エポキシ樹脂は、一分子中に2個以上のエポキシ基をもつ化合物であれば特に制限されず、単独または2種以上の混合物として用いることができる。このようなエポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、イソシアヌレートのエポキシ化物などが例示されるが、これらによって限定されるものではない。
【0009】
本発明のエポキシ樹脂成形材料に用いる(B)エポキシ樹脂硬化剤は、通常エポキシ樹脂の硬化剤として使用されるものであれば特に限定されず、単独または2種以上の混合物として用いることができる。このようなエポキシ樹脂硬化剤としてはトリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタンなどのアミン系硬化剤、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、無水トリメリット酸などの酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、フェノール樹脂などが例示されるが、これらによって限定されるものではない。
【0010】
前記(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の混合比は、通常用いられる範囲内であれば特に問題はなく、全エポキシ樹脂中のエポキシ基と全エポキシ硬化剤中のエポキシ基と反応する官能基との当量比(エポキシ基/エポキシ基と反応する官能基)は、好ましくは0.5〜2.0、より好ましくは0.7〜1.3である。上記範囲を外れると、硬化性、耐熱性等が低下し、好ましくない。
【0011】
前記(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量は、エポキシ樹脂成形材料100質量部中、5〜70質量部、より好ましくは10〜60質量部を占める。エポキシ樹脂成形材料100質量部中(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量が5質量部より少ないと、硬化性、成形性に劣り、70質量部より多いと耐熱性、熱伝導率が低下し、好ましくない。
【0012】
また、前記(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤は、それぞれ単独または2種以上の混合物として使用することが可能であることを上述したが、(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量100質量部中、20質量部以上、より好ましくは30質量部以上が、室温で固体の成分からなることが望ましい。(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量100質量部中、室温で固体の成分が20質量部より少ないと、エポキシ樹脂成形材料が室温にて粘性を持ち、例えば射出成形時、原料供給口に成形材料が付着するなど生産性が低下し、好ましくない。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂成形材料に用いる(C)硬化促進剤は、通常エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されるものであれば特に限定されず、単独または2種以上の混合物として用いることができる。このような硬化促進剤としては2−メチルイミダゾ−ル、2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、2−フェニルイミダゾ−ルなどのイミダゾ−ル類、トリブチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などのアミン類、トリフェニルホスフィンなどの有機リン系化合物などが例示されるが、これらによって限定されるものではない。この(C)硬化促進剤の使用量は、前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部の範囲で選定される。(C)硬化促進剤の使用量が(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部より少ないと、充分な硬化促進効果が得られず、10質量部より多いと、耐水性の低下など硬化物性に悪影響を及ぼし、また経済的観点からも好ましくない。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂成形材料に用いられる(D)無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、窒化アルミ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、マイカ、炭酸カルシウムなどを単独または2種以上の混合物として用いることができる。また無機フィラーの形状は、破砕品を用いることができるが、成形時における成形材料の流動性の観点から球状品を用いることも望ましい。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂成形材料は、さらに熱伝導率向上の観点からクラスター構造の酸化亜鉛をエポキシ樹脂成形材料100質量部中、1〜20質量部含有することが望ましい。エポキシ樹脂成形材料100質量部中、クラスター構造の酸化亜鉛が1質量部より少ないと熱伝導率向上に対する効果が少なく、20質量部より多いと経済上不利になる。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂成形材料にはこの他必要に応じ、シランカップリング剤、難燃剤、着色剤、離型剤、酸化防止剤、ガラス繊維やガラスフレーク、セラミック繊維、アルミナ繊維等の補強剤、滑剤などの各種添加剤が添加されても良い。
【0017】
そして本発明の成形品は、上記のエポキシ樹脂成形材料を圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等従来公知の方法で加温下必要箇所に封止し、ついでいわゆるアフターキュアと呼ばれる二次硬化を行うことによって得ることができるものである。
【0018】
また本発明のエポキシ樹脂成形材料は、不飽和ポリエステル系成形材料に含まれるような異臭を有する重合性モノマーを含有しないため、その取り扱い時の作業環境性に優れるものである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名EPICLON 850 大日本インキ化学社製 液状 粘度11000〜15000mPa・S)28.4質量部、フェノールノボラック樹脂(商品名PSM−4261 群栄化学工業社製 軟化点80〜82℃)16.1質量部(エポキシ当量/水酸基当量=1.0)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール0.28質量部、平均粒子径4〜5μmのアルミナ(商品名A31 日本軽金属社製)202.3質量部、ステアリン酸カルシウム0.40質量部を、表面温度が85℃と95℃の2本ロールを用いて混練し、冷却後粗砕してエポキシ樹脂成形材料を得た。
【0021】
[実施例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名EPICLON 850大日本インキ化学社製 液状 粘度11000〜15000mPa・S)28.4質量部、フェノールノボラック樹脂(商品名PSM−4261 群栄化学工業社製 軟化点80〜82℃)16.1質量部(エポキシ当量/水酸基当量=1.0)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール0.28質量部、平均粒子径4〜5μmのアルミナ(商品名A31 日本軽金属社製)192.2質量部、クラスター構造の酸化亜鉛(商品名WZ0501 松下電器産業社製)10.1質量部、ステアリン酸カルシウム0.40質量部を、表面温度が85℃と95℃の2本ロールを用いて混練し、冷却後粗砕してエポキシ樹脂成形材料を得た。
【0022】
[実施例3]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名EOCN−1020−62 日本化薬社製 固体 軟化点62℃)29.7質量部、メチルテトラヒドロフタル酸無水物(商品名EPICLON B−570 大日本インキ化学社製 液体 粘度40mPa・s)25.1質量部(エポキシ当量/酸無水物当量=1.0)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール0.30質量部、平均粒子径4〜5μmアルミナ(商品名A31 日本軽金属社製)208.4質量部、クラスター構造の酸化亜鉛(商品名WZ0501 松下電器産業社製)11.0質量部、ステアリン酸カルシウム0.44質量部を、表面温度が85℃と95℃の2本ロールを用いて混練し、冷却後粗砕してエポキシ樹脂成形材料を得た。
【0023】
[比較例1]
ビスフェノールAエポキシ樹脂(商品名EPICLON 850 大日本インキ化学社製 液状 粘度11000〜15000mPa・S)28.4重量部、メチルテトラヒドロフタル酸無水物(商品名EPICLON B−570 大日本インキ化学社製 液体 粘度40mPa・s)25.1重量部(エポキシ当量/酸無水物当量=1.0)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール0.29重量部、平均粒子径4〜5μmアルミナ(商品名A31 日本軽金属社製)203.3重量部、クラスター構造の酸化亜鉛(商品名WZ0501 松下電器産業社製)10.7重量部、ステアリン酸カルシウム0.43重量部を、表面温度が80℃と85℃の2本ロールを用いて混練し、エポキシ樹脂成形材料を得た。
【0024】
[比較例2]
不飽和ポリエステル樹脂(商品名5410ジャパンコンポジット社製)200質量部、過酸化ベンゾイル2質量部、平均粒子径4〜5μmのアルミナ(商品名A31 日本軽金属社製)800質量部をケンミックスミキサ−にて混練し、不飽和ポリエステル樹脂成形材料を得た。
【0025】
得られた成形材料を下記の測定方法で評価した。
【0026】
形状、臭気:得られた成形材料について、目視により形状を観察した。またその臭気の有無について確認した。
【0027】
耐熱性:トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間180秒にて、幅10mm、長さ100mm、厚さ3mmの成形物を作成した。これを恒温乾燥機中にて180℃5時間アフタ−キュアすることにより、テストピ−スを得た。このテストピ−スを200℃の熱風乾燥機中で600時間熱処理し、東洋精機社製 ストログラフV10−Cにて曲げ強度を測定し、未熱処理の場合の曲げ強度との保持率を下記式にて算出した。
保持率(%)=(熱処理後の曲げ強度)/(未熱処理の曲げ強度)×100
【0028】
熱伝導率:成形物についてアルバック理工社製 熱伝導率測定装置GH−1にて熱伝導率を測定した。
【0029】
実施例、比較例について、評価結果を表1にまとめた。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、本発明で規定したモーター封止用エポキシ樹脂成形材料は形状が固形となり、ベタツキがなく取り扱いに容易であり、また作業環境を劣悪にする異臭もない。さらにその成形物は耐熱性、熱伝導性に優れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機フィラーを必須成分として含有することを特徴とし、(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量が、エポキシ樹脂成形材料100質量部中5〜70質量部を占め、かつ(A)エポキシ樹脂と(B)エポキシ樹脂硬化剤の総量100質量部中、20質量部以上が室温で固体の成分からなることを特徴とするモーター封止用エポキシ樹脂成形材料。
【請求項2】
前記(D)無機フィラーとして、エポキシ樹脂成形材料100質量部中、クラスター構造の酸化亜鉛を1〜20質量部含有してなることを特徴とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項3】
請求項1乃至2に記載のエポキシ樹脂成形材料を硬化させてなるモーター封止用エポキシ樹脂成形品。

【公開番号】特開2008−13720(P2008−13720A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188976(P2006−188976)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【出願人】(000236609)フドー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】