説明

モールド変圧器のシールド

【課題】電界シールドを構成して取り付ける際、周辺部材の寸法ばらつきを考慮しなければならず、また電界シールドの取り付け作業においても多くの工数を費やしている。
【解決手段】鉄心を包括して巻き回す電界シールドを、シート状の2枚の導電性部材を用いて概略同サイズのシート状の絶縁体を挟み込みんで構成した。その2枚の導電性部材は、互いに電気的に接続されていて、それぞれ内側絶縁筒を包括するように巻き回した、巻き始め端と巻き終わり端の間にはスリットが設けてある。そしてそのスリットは、2枚の導電性部材の間で位置が重ならないようにして構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド変圧器の一次巻線と二次巻線の間に設けられるシールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モールド変圧器は、その断面を図4に示すように高圧側の一次巻線1とその内側に配置される低圧側の二次巻線2の間にシールド3を配置し、シールド3と一次巻線1間の絶縁をエポキシ樹脂4などの固体絶縁とすることにより、一次、二次巻線間の絶縁距離を小さくすることが行われている。すなわち、エポキシ樹脂などからなる固体絶縁媒体は空気などの気体絶縁媒体に比べて数倍の絶縁耐力を有するため一次巻線1とアース電位であるシールド3間の絶縁距離が小さくでき、もってモールド変圧器の全体寸法を小型化することができる。
【0003】
この場合、シールド3は、端部同士が電気的に導通した円筒状であるとループ電流が流れるため、端部を電気的に絶縁する必要がある。モールド変圧器ではないが、変圧器の鉄心と巻線間に使用される円筒状のシールドであって、端部の絶縁を確実に行う構造として特許文献1に開示された構造が提案されている。その構造を図3に示す。鉄心5の外周に内側絶縁筒7を配置し、その外周にシート状の電界シールド10を両端が若干ラップするように巻きつけ、内側の端部10bに端部を包み込むように断面U字形の絶縁部材12を取り付け、絶縁部材12の一方の足部が電界シールド10のラップしている寸法よりも長くなるようにして、シールド端部同士が導通するのを確実に防止している。なお、8は外側絶縁筒、20は巻線である。
【0004】
図3に示す電界シールド10にあっては、端部10aと10bとの絶縁は確実に行えるが、この構造をモールド変圧器のシールドに適用しようとすると、以下の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−67557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、従来必要とされていたシールド端部を絶縁する断面U字形の絶縁部材を挟み込む必要があるので、シールドの外周に段差が生じ、一次巻線と一体に樹脂モールドした際、一次巻線とシールド間の樹脂層の厚みが円周方向で不均一になり、円周方向の電界分布が不均一になるという問題がある。
【0007】
本発明ではこのようなことを鑑み、作業性を犠牲にすることなく、一次巻線とシールド間の樹脂層の厚みが均一で、円周方向の電界分布が均一になり、絶縁性能の優れたモールド変圧器用シールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、モールド変圧器の一次巻線と二次巻線間に配置され、かつ高圧側の一次巻線と固体絶縁物で一体にモールドされるシールドであって、前記シールドはシート状の2枚の導電性部材と、前記2枚の導電性部材間には前記導電性部材同士が導通するのを防止するシート状の絶縁体を挟み込み、また前記2枚の導電性部材は互いに電気的に接続され、また前記2枚の導電性部材はそれぞれ略円筒状に巻き回した巻き始めと巻き終わり端部間はラップしないようにスリットが設けてあり、またそれぞれ導電性部材に設けられたスリットの位置は、円周方向で重ならないようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような構成にすると、シールドの巻き回し端が重なり合わない寸法にしておけば、その寸法を厳密に管理する必要が無くなり、また円筒状に巻きつける際も、閉ループを構成させないための絶縁物の取り付けが必要なくなるので、巻き回し作業が簡単になり工数を低減できる。すなわち内側シールドを端部間にスリットが形成されるように巻き回した上に薄いフイルム状の絶縁体を両端がラップするように巻き回し、その上に外側シールドを端部間にスリットが形成されるように巻き回せば良いので、作業性が良くなる。また、従来必要とされていたシールド端部を絶縁する断面U字形の絶縁部材を挟み込む必要がないことに加えてシールドの端部にラップする部分がないことにより、シールドの外周に段差が生じる事がなく、シールドの外側に配置する一次巻線との間隔が一定になり、樹脂モールドした際、円周方向の電界分布が均一になるというメリットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明を適用したモールド変圧器の水平断面図である。
【図2】図2は、シールドの分解図である。
【図3】図3は、特許文献1に示された電界シールドを備えた変圧器の断面図である。
【図4】図4は、一般的なモールド変圧器の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
以下この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この項の以下の説明においては、巻線や従来例の電界シールドを備えた鉄心と同一部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図1は、本発明の実施形態を示すものであって、モールド変圧器の水平断面である。
【0012】
本発明を実施したモールド変圧器の鉄心5、二次巻線2、シールド3、巻線スペーサ6、一次巻線1の基本的な配置は、図4の従来のモールド変圧器と同じである。
【0013】
本発明の特徴は、シールド3の構成にあり、その分解図を図2に示している。シールド3は、導電材料からなり円筒状で端部にスリット31Sを形成した内側シールド31と、その外側に配置され完全な円筒状をなす絶縁材33と、絶縁材33の外側に配置され導電材料からなり円筒状で端部にスリット32Sを形成した外側シールド32と、内側及び外側のシールド31と32とを電気的に導通するリード線34から構成されている。
【0014】
内側シールド31のスリット31Sと外側シールド32のスリット32Sの円周方向の位置は図2に示すように、円筒の中心に関して点対称の位置に配置されているが、スリット31S、32Sの位置が互いに重なっていなければ、シールドとしての効果にかわりがない。
【0015】
内側シールド31は、導電性を有する金属繊維などのシート材が適用され、柔軟性を持ち、矩形状に裁断され、図示を省略したが、円筒状の金型に巻きつけて成形される。
【0016】
次に絶縁体33であるが、電気絶縁フイルム(例えば、厚さ0.1mm)が用いられる。内側シールド31と同様に矩形状に裁断されたフイルムを内側シールド31の外側に巻きまわし、その両端がラップするようにして構成される。すなわち絶縁体33は、略完全な円筒状をなしている。
【0017】
次に外側シールド32であるが、その形状や仕様は内側シールド31と同じなので説明を省略する。内側及び外側シールド31及び32の取り付けに於いては、前記したシールドのスリット31Sと32Sとが重複しないように、スリットの位置を円周方向にずらして配置する。
【0018】
仮にスリット31Sとスリット32Sが重複してしまうと、その部分のシールド効果が期待できなくなる。しかしこのシールドのスリットの幅は、互いにスリットが重ならない範囲であれば、周方向寸法の3分1程度まで広げてもシールド効果は期待できる。
【0019】
そして、任意の位置でシールド31とシールド32を、リード線34で半田付け等の方法で電気的に接続してある。図示していないが、リード線34はアースにも接続されている。
【0020】
本発明において、一次巻線1とシールド3とをエポキシ樹脂4にて一体成形する手順を説明する。先ず、円筒状の金型を準備し、その円周外面に、矩形のシート状の内側シールド31を巻きつける。このときシールド31の端部にスリット31Sが形成されるように予め、シートの寸法を決定しておく。内側シールド31を巻きつけたら絶縁テープで仮止めを行い、その外周にシート状の絶縁材33を巻きつける。絶縁材33の端部が若干ラップするように、絶縁材33の寸法を決めておく。絶縁材33の外周にも絶縁テープで仮止めを行い、更にその外周から外側シールド32を巻きつける。外側シールド32の端部にスリット32Sが形成されるように外側シールド32の寸法を決めておく。内側及び外側のシールド31と32をリード線34で接続する。そしてスリット31Sと32Sの位置が重ならないように位置を決める。外側シールド32を巻いた後、絶縁テープで仮止めを行い、外周に所定の間隔を取るための巻線スペーサ6を配置して、その外側に一次巻線1を巻く。一次巻線1を巻き終わると、2分割にした円筒状の金型をかぶせて、金型内にエポキシ樹脂4を注入し、加熱して硬化させる。
【0021】
以上の処理を行うことにより、巻線スペーサ6間の隙間、一次巻線1の外表面、シールド3にエポキシ樹脂4が含浸され、熱硬化することにより、シールド3と一次巻線1とが一体化した、樹脂成形品が得られる。
【0022】
また本発明では、従来行っていた電界シールドの巻き始め端部と巻き終わり端部に、絶縁部材を挟み込む作業が必要なくなるため、シールド取り付けの際に発生していた絶縁確認作業が無くなり、大幅な工数低減が可能となる。更に、従来必要であったU字形の絶縁材がなくなったので、シールド3の外周に段差が生じなくなり、シールド3と一次巻線1とが同心円状に配置されるので、電界分布も改善される。
【0023】
なお本発明で使用した内側シールド31及び外側シールド32は、金属繊維製シート材であるが、導電性が付与された柔軟なシート状のものであれば、同様の効果が期待できる。また絶縁体33として電気絶縁フイルムを使用したが、同等の特性を持った絶縁部材であれば、同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0024】
1 一次巻線
2 二次巻線
3 シールド
4 エポキシ樹脂
5 鉄心
6 巻線スペーサ
31 内側シールド
31S スリット
32 外側シールド
32S スリット
33 絶縁材
34リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド変圧器の一次巻線と二次巻線間に配置され、かつ高圧側の一次巻線と固体絶縁物で一体にモールドされるシールドであって、前記シールドはシート状の2枚の導電性部材と、前記2枚の導電性部材間には前記導電性部材同士が導通するのを防止するシート状の絶縁体を挟み込み、また前記2枚の導電性部材は互いに電気的に接続され、また前記2枚の導電性部材はそれぞれ略円筒状に巻き回した巻き始めと巻き終わり端部間はラップしないようにスリットが設けてあり、それぞれ導電性部材に設けられたスリットの位置は、円周方向で重ならないようにしたことを特徴とするモールド変圧器のシールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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