説明

ヤットコ

【課題】杭に対し緊密に接続することができ、且つ長手方向の複数の部位で杭との接続又は解除を操作し得るようにしたヤットコを提供する。
【解決手段】上端に回転トルクが伝達される伝達部材11を有する杭10と、杭10を埋設する埋設機の駆動装置と、を接続して回転トルクを伝達するヤットコAであって、鋼管からなる本体部1と、本体部1の下端1aに且つ杭10の有する伝達部材11と対応して配置され該伝達部材11を把持し又は離脱する把持部材2と、把持部材2を杭10の有する伝達部材11に圧接させる駆動部材3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭を地中に埋設する際に該杭と埋設機の駆動装置との間に介在させるヤットコに関し、特に、杭に対し緊密に接続することができ、且つ長手方向の複数の部位で杭との接続又は解除を操作し得るようにしたヤットコに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下構造物を有する建物を建築する場合、根伐り作業を容易に進行させることを考慮して杭の上端部が地下構造物の最下層の基礎に対応させて埋設するのが一般的である。この場合、杭の上端部と埋設機の駆動装置との間に回転トルクを伝達するためのロッド又はヤットコを介在させて埋設することが行われる。
【0003】
例えば、ロッドを利用する場合には図8に示すように、上端部に係合部52を設けた杭51に対し、ロッド55に接続されたキャップ53を上方から嵌め込んで該キャップ53に設けた伝達部54を係合部52に係合させ、この状態で、図示しない埋設機の駆動装置を駆動してロッド55、キャップ53を所定の方向(例えば時計方向)に回転させることで、駆動装置の回転トルクを杭51に伝えるようにしている。
【0004】
そして、杭51が予め設定された埋設深さに到達したとき、駆動装置を反時計方向に回転させてキャップ53の杭51に対する係合を解除し、その後、ロッド55を引き抜くことで、杭51を予め設定された深さに埋設している。
【0005】
一方、地中に圧入することで、或いはアースオーガによる掘削孔に対して挿入することで、埋設されるコンクリート杭の上端に対するヤットコの接合構造として、例えば特許文献1に記載された技術が提案されている。この技術は、コンクリート杭の頭部にねじ孔を有する鋼製座板を設けておき、該ねじ孔にヤットコよりも長いロッドの一端を螺合して他端をヤットコの上板から突出させ、この突出部のねじにナットを締結することで、ヤットコをコンクリート杭の上端部に結合するものである。
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3051124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したキャップ53を杭51に係合させて回転トルクを伝達する構造の場合、キャップ53の杭51に対する係合の解除を作業員が目視することができず且つ直接操作することができない部位で行われる。このため、キャップ53の回転方向を杭51を埋設する際の回転方向とは反対方向に回転させることによって係合を解除し得るように構成されると共に、前記解除を容易に行えるように、杭51の係合部52に対するキャップ53の伝達部54の結合を単純で且つ充分に大きな余裕を持った寸法を有する構造になっている。
【0008】
上記構造では、キャップ53の杭51に対する係合の解除を容易に行うことが可能であるものの、係合部52と伝達部54との関係寸法に大きな余裕を持たせることが必要となり、この寸法の余裕に起因して、杭51の埋設位置が予め設定された埋設位置の許容範囲を逸脱してしまう虞が生じる。即ち、杭51を埋設する作業中に、杭51の軸芯とロッド55の軸芯との間にズレが生じたり、両軸芯の間に折れが生じる虞がある。
【0009】
このように、ロッド55を介在させて杭51を埋設する場合、杭51は地中深く推進されてゆくことになり、目視により埋設精度に影響するような傾斜の発生等を確認することができないため、常に細心の注意を持って進行する必要がある。このことはロッド55に代えてヤットコを用いた場合でも変わりはない。このため、より容易に且つ精度良く杭を埋設することが可能な技術の開発が要求されているのが実状である。
【0010】
また特許文献1の技術はコンクリート杭を回転させながら埋設するものではないため、ヤットコ及びロッドは回転トルクを伝えるような構造にはなっていない。また、ロッドがヤットコの全長にわたる長さを有するため、複数のロッドをコンクリート杭に螺合した後ヤットコを接合するとしても、コンクリート杭にヤットコを載置した後ロッドを締結するとしても、ロッドの保持や位置合わせが容易ではなく、作業に大きな手間が掛かる虞がある。
【0011】
本発明の目的は、杭に対し緊密に接続することができ、且つ長手方向の複数の部位で杭との接続又は解除を操作し得るようにしたヤットコを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係るヤットコは、上端に回転トルクが伝達される伝達部材を有する杭と、前記杭を埋設する埋設機の駆動装置と、を接続して回転トルクを伝達するヤットコであって、鋼管からなる本体部と、前記本体部の下端に且つ杭の有する伝達部材と対応して配置され該伝達部材を把持し又は離脱する把持部材と、前記把持部材を杭の有する伝達部材に圧接させる駆動部材と、を有するものである。
【0013】
上記ヤットコに於いて、本体部の長手方向に駆動部材を操作する操作部を設け、夫々の操作部に対応した開口部を有することが好ましい。
【0014】
また上記何れかのヤットコに於いて、杭の有する伝達部材が杭の上端から起立した軸部と該軸部よりも径が大きい頭部とによって構成され、前記把持部材が本体部の長さ方向に移動して前記伝達部材の頭部に圧接又は離脱し得るように構成され、前記駆動部材が本体部の全長にわたって配置されると共に回転可能に支持されたロッドからなり該ロッドの回転に伴って前記把持部材を移動させるように構成され、更に、前記本体部に設ける前記操作部が前記ロッドを回転させる工具に応じた形状をもって構成されていることが好ましい。
【0015】
また上記何れかのヤットコに於いて、杭の有する伝達部材が杭の上端から起立した軸部と該軸部よりも径が大きい頭部とによって構成され、前記把持部材が本体部の長さ方向に移動して前記伝達部材の頭部に圧接又は離脱し得るように構成され、前記駆動部材が把持部材を本体部の長手方向に往復移動させるシリンダーによって構成され、更に、前記本体部に設ける前記操作部が切換弁によって構成されていることが好ましい。
【0016】
更に、上記何れかのヤットコに於いて、本体部の下端部に端板が設けられており、該端板の把持部材と対向する位置に杭の有する伝達部材を挿通させる長穴が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るヤットコでは、鋼管からなる本体部の下端に杭の上端に設けた伝達部材と圧接する把持部材と、この把持部材を駆動する駆動部材を有するので、ヤットコを杭の上端部分に接続して把持部材を杭の伝達部材に対向させ、駆動部材を操作することによって該把持部材を伝達部材に圧接させることができる。
【0018】
上記の如く、ヤットコに設けた把持部材を、杭に設けた伝達部材に対し圧接させることによって、両者の間には隙間が形成されることなく接続される。即ち、ヤットコを杭に対し緊密に接続することができる。このため、杭を埋設する際に杭とヤットコとの係合部分に於ける寸法上の余裕がなくなり、杭の軸芯とヤットコの軸芯との間にズレが生じたり、軸芯どうしの折れが生じることがない。そして杭はヤットコの回転方向の如何に関わらず正確に一致して回転することとなり、埋設位置の精度を向上させることができる。
【0019】
更に、杭とヤットコとが緊密な接続によって一体化するため、埋設中の杭に傾斜が生じたり、位置ズレが生じたような場合、この傾斜や位置ズレがヤットコに反映されることになる。この傾斜や位置ズレはヤットコの長さ分増幅して視認されることになり、ヤットコの姿勢を視認しながら杭の姿勢を調整することができる。このため、杭が地中深く埋設されるにも関わらず、埋設位置の精度を確保することができる。
【0020】
またヤットコの本体部の長手方向に駆動部材を操作するために操作部を設けると共に、操作部に対応した開口部を設けた場合には、把持部材による伝達部材の圧接又は圧接の解除を本体部の長手方向の所望の位置で行うことができる。このため、杭が所定の深さに埋設され、杭の上端部を直接目視し得ないような場合であっても、杭の上端部分から離隔した位置で把持部材の離脱操作を行うことができる。
【0021】
従って、ヤットコを杭に接続する場合には、最も杭に近い位置にある操作部を操作することによって把持部材を伝達部材に圧接させることができ、杭を地中に深く埋設した後、ヤットコを杭から離脱させる場合には、地面から上部に露出しているヤットコに設けた最も作業性の良い位置にある操作部を操作することによって把持部材の伝達部材に対する圧接を解除することができる。
【0022】
また把持部材が本体部の長さ方向に移動して伝達部材に対する圧接又は離脱し得るように構成され、駆動部材が回転可能に支持されたロッドによって構成され操作部がロッドを回転させる工具に応じた形状をもって構成されている場合には、本体部に設けた開口部を介して操作部を操作することで、把持部材による伝達部材の圧接、又は圧接を解除して離脱させることができる。
【0023】
また把持部材が本体部の長さ方向に移動して伝達部材に対する圧接又は離脱し得るように構成され、駆動部材が把持部材を本体部の長手方向に往復移動させるシリンダーによって構成され、操作部が切換弁によって構成されている場合には、本体部に設けた開口部を介して切換弁を操作することで、把持部材による伝達部材の圧接、又は圧接を解除して離脱させることができる。
【0024】
また、本体部の下端部に端板を設け、該端板の把持部材と対向する位置に杭の有する伝達部材を挿通させる長穴が形成されている場合には、杭に設けた伝達部材にヤットコを取り付ける作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るヤットコの幾つかの好ましい実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0026】
先ず、第1実施例に係るヤットコAの構成について図を用いて説明する。図1は第1実施例に係るヤットコの構造を説明する断面図である。図2はヤットコの下端部分に設けた把持部材と杭に設けた伝達部材との関係を説明する図である。図3は把持部材を伝達部材に圧接させ又は離脱させる手順を説明する図である。
【0027】
図に示すヤットコAは、杭10の上端に配置された伝達部材11と係合して図示しない埋設機の駆動装置からの回転トルクを杭10に伝達して回転させつつ、地中に埋設するためのものである。特に、ヤットコAは杭10を地中深くに埋設する際に用いられるものであり、杭10の上端が地面から露出している状態で該杭10に接続され、杭10が予め設定された埋設深さ(例えば地下12メートル)まで埋設されたとき、簡単な操作で離脱し得るように構成されている。
【0028】
回転トルクをヤットコAから杭10への伝達は、後述する杭10に設けた伝達部材11とヤットコAに設けた把持部材2との接触摩擦、及び把持部材2と伝達部材11との間に接触摩擦を作用させる際に、このときの反力を支持する部分の接触摩擦によって行われる。特に、反力を支持する部分の構造は特に限定するものではなく、杭10の上端に設けた接触面と、この面と接触するヤットコAの下端面に設けた接触面とによって行われる。
【0029】
ここで杭10の構成について簡単に説明する。杭10はヤットコAを介して伝えられた回転トルクによって一方向に回転しつつ地中に推進されて埋設されるものであり、このようにして埋設される杭であれば、鋼管杭であるか、コンクリート杭であるかを問うものではない。
【0030】
杭10の上端には支持部材12によって支持された複数の伝達部材11が起立しており、該伝達部材11を介してヤットコAから回転トルクが付与される。特に、伝達部材11の太さは杭10の重量、伝達すべき回転トルクの大きさ等の条件に対応させて適宜設計することが好ましい。即ち、伝達部材11は付与される回転トルクに対して充分に対抗し得る強度を有するもので、且つ把持部材2に圧接される構造であれば良く、本数や形状を限定するものではない。
【0031】
本実施例では、一部が杭10の上端面に固定されて起立する軸部11aと、該軸部11aの上端部分の頭部11bと、を有するボルト状の部材によって伝達部材11を構成しており、この伝達部材11を杭10の上端に4本設けている。
【0032】
また本実施例に於いて、支持部材12は伝達部材を支持して該伝達部材11に伝達された回転トルクによって作用する該伝達部材11の曲げや剪断力を支持する機能と、伝達部材11に対する把持部材2の圧接に伴って作用する反力を支持する機能とを有するものである。このため、前記機能を発揮するのに充分な強度を有するブロック状に或いはリング状に形成され、杭10に固定されている。
【0033】
尚、本実施例では、伝達部材11の支持と、反力の支持を支持部材12によって行っているが、必ずしもこの構成に限定するものではなく、伝達部材11を支持するための部材と、反力を支持するための部材とを異なる部材として構成しても良いことは当然である。
【0034】
ヤットコAは、鋼管からなる本体部1と、本体部1の内周側であって下端1aに設けられた複数(本実施例tでは4個)の把持部材2と、各把持部材2毎に設けられ該把持部材2を駆動する駆動部材となるロッド3と、本体部1の外部から操作されロッド3を操作する操作部4と、を有して構成されている。
【0035】
本体部1は、杭10の外径と略等しい外径を有し、且つ杭10の埋設深さ(例えば12メートル)と略等しいか或いはより長い長さを持った鋼管によって構成されている。本体部1の下端1a及び上端1bには夫々円板状の或いはリング状の端板1c、1dが溶接等の手段で接合されている。特に、下端1aの端板1cには把持部材2の数と配置位置に対応させて円弧状の長穴1eが形成されている。また上端1bの端板1dには長穴が形成されることなく、ロッド3を挿通する孔が形成されている。
【0036】
また本体部1の長手方向には、各ロッド3の長手方向に複数設けられた操作部4に対応させた位置に夫々開口部1fが形成されている。この開口部1fは、ロッド3に設けられた操作部4を操作する際に必要な工具を挿入し、或いは作業員の手を挿入するためのものであり、挿入すべき工具の形状や機能に対応させて最も合理的な形状や寸法に形成されている。
【0037】
把持部材2は杭10の上端に設けた伝達部材11の頭部11bに圧接して把持することでヤットコAと杭10とを一体化させて回転トルクを伝達し、一体化を解除して離脱する機能を有するものである。
【0038】
本実施例では、把持部材2はロッド3の回転に応じて本体部1の長さ方向(軸方向)に往復移動し得るように構成されており、本体部1の下端に設けた端板1cから離隔(上方に移動)するように移動したときに伝達部材11の頭部11bの下面と圧接し、端板1cに接近(下方に移動)するように移動したときに頭部11bに対する圧接を解除して離脱し得るように構成されている。
【0039】
このため、本体部1の内周側であって端板1cに形成した長穴1eの端部に対応する部位に把持部材2の軸方向の移動を案内する案内部材6が設けられており、この案内部材6に把持部材2が移動可能に収容されている。特に、案内部材6は、把持部材2の移動を案内する際に該把持部材2が常に一定の姿勢を保持し得るように、多角形(本実施例では四角形)の案内部を有している(図3(a)参照)。
【0040】
把持部材2は、伝達部材11の頭部11bの下面と当接する当接部2aと、ロッド3に螺合するねじ部2bと、当接部2aとねじ部2bとを連結する連結部2cと、を有する側面視がコ字状に、平面視が案内部材6の案内部の形状に対応する形状(本実施例では四角形)に形成されている。当接部2aには伝達部材11の軸部11aを受け入れる溝2dが形成されている。また、当接部2aとねじ部2bとの間隔は、伝達部材11の頭部11bの厚さよりも充分に大きい寸法を有している。
【0041】
従って、溝2dに伝達部材11の軸部11aを受け入れた状態で把持部材2を上方に向けて移動させると、当接部2aが頭部11bの下面と当接し、把持部材2の更なる上方への移動に伴って圧接する。従って、伝達部材11には把持部材2からの引張力が作用することとなり、両者は緊密に接続される。即ち、ヤットコAに回転トルクが作用したとき、把持部材2は伝達部材11に対し位置ズレを起こすことなく、回転トルクを伝えることが可能となる。
【0042】
ロッド3は把持部材2を駆動する機能を有するものである。ロッド3は両端部にねじ部3aが設けられており、下端に設けたねじ3aが把持部材2のねじ部2bに螺合すると共に、上端に設けたねじ3aが本体部1の上端1bに設けた端板1dから突出し、この突出したねじ部3aにナット3bが締結されている。
【0043】
またロッド3は、本体1の内周面に設けた軸受部7に対し回転可能に支持されると共に、長手方向(軸方向)への移動が不能なように支持されている。従って、ロッド3を回転させることで、この回転に伴って把持部材2を本体部1の長手方向に移動させることが可能となる。
【0044】
上記の如く、ロッド3は本体部1の全長にわたって配置されている。そしてロッド3には長手方向に複数の操作部4が設けられている。ロッド3に設ける操作部4の数は、ロッド3の長さに応じて適宜設定することが好ましい。またロッド3は必ずしも1本の棒材によって構成する必要はなく、操作部4を利用して複数の棒材を接続して構成することも可能である。
【0045】
操作部4はロッド3を回転させる操作を行う部分であり、ロッド3を回転させる際に用いる工具に対して最も適切な形状であることが好ましい。例えば、ロッド3を回転させる工具がスパナであるような場合、操作部4は断面が四角形或いは六角形に形成されることが好ましい。また工具がパイプレンチであるような場合、操作部4は断面が円形或いは楕円形に形成されることが好ましい。更に、ロッド3が充分な太さを有するような場合、操作部4としては太さ方向に貫通する穴を形成し、工具としてこの穴に挿入する丸棒やパイプを用いることも可能である。このように、操作部4の形状は一義的に設定されるものではなく、工具との関係で設定することが好ましい。
【0046】
本実施例では、図2に示すように、ロッド3を本体部1の上端側と下端側に分割し、夫々のロッド3の端部にキー4aを取り付けて構成している。また、操作部4を、2本のロッド3の端部を嵌合すると共にキー4aを受け入れるキー溝を形成したパイプ4bによって構成している。そして、パイプ4bの両端からロッド3を嵌合すると共にボルト、ナット4cによって固定することで構成している。
【0047】
本体部1には、夫々のロッド3に設けた操作部4毎に対応する位置に開口部1fが形成されている。
【0048】
次に、上記の如く構成されたヤットコAを杭10に接続する際の手順について図3により説明する。
【0049】
杭10は既に先端部分から所定の部位まで地中に埋設されており、上端を含む上方の一部が露出している。このような杭10の上方にヤットコAを対向させ、端板1cの長穴1eを杭10の伝達部材11に嵌め込む。このとき、端板1cの下面は杭10の上端にある支持部材12と接触する。
【0050】
その後、同図(a)に示すように、ヤットコAを矢印a方向に回動させることで、把持部材2の溝2dに伝達部材11の軸部11aを嵌合させる。このとき、同図(b)に示すように、伝達部材11の頭部11bは把持部材2の当接部2aとねじ部2bとの間に嵌合される。
【0051】
伝達部材11が把持部材2に嵌合されたことを確認し(このときは杭10の上端は地上に露出しているため、目視で確認することが可能である)、その後、本体部1に形成した開口部1fを介して工具(パイプレンチ)を挿入し、同図(c)に示すように、操作部4を外部から操作してロッド3を時計方向に回転させる。
【0052】
ロッド3の時計方向への回転に伴って把持部材2は上方へ移動する。連続的なロッド3の回転により、当接部2aが伝達部材11の頭部11bの下面に当接し、更なる回転に伴って頭部11bの下面に圧縮力を作用させる。予めロッド3を回転させる際に付与するトルクを設定しておき、パイプレンチを介してロッド3に付与したトルクが設定値になったとき、把持部材2と伝達部材11との間に予め設定された圧縮力が作用し、同時に、端板1cと杭10の支持部材12も圧接することになる。これにより、ヤットコAの把持部材2と杭10の伝達部材11とは緊密に接続されたことになる。
【0053】
従って、上記の如くして杭10に接続されたヤットコAに対し、図示しない埋設機の駆動装置から回転トルクを付与すると、付与された回転トルクは把持部材2の当接部2aと伝達部材11の頭部11bとの圧接による接触摩擦、及び端板1cと支持部材12との接触摩擦によって杭10に伝達され、これにより杭10が回転し、地中に推進される。
【0054】
杭10が所定の深さまで埋設されたことが確認されたとき(この状態では杭10の上端は地中の深い位置にあり、地上から視認することができず、操作することもできない)、ヤットコAの地上に露出している部分であって、地上から安全に且つ確実に作業することが可能な開口部1fを選択し、同図(d)に示すように、開口部1fを介して対応する操作部4を操作してロッド3を反時計方向に回転させる。
【0055】
ロッド3の反時計方向への回転に伴って把持部材2は下方へと移動し、当接部2aの伝達部材11の頭部11bの下面への圧接が解除され、更なるロッド3の回転に伴って当接部2aが頭部11bから離脱する。この状態になったとき、同図(a)に示すように、ヤットコAを矢印b方向に回転させて伝達部材11を長穴1eに沿って把持部材2から離脱させる。これにより、ヤットコAは杭10から離脱したことになる。
【0056】
上記の如くしてヤットコAを杭10から離脱させた後、図示しない埋設機を駆動してヤットコAを上昇させることで地上に引き抜き、これにより、杭10を地中に埋設することが可能となる。
【0057】
尚、上記の如く構成されたヤットコAでは、杭10を埋設する際に本体部1に形成した開口部1fから土砂や地下水が内部に入り込む虞があるため、該開口部1fに蓋をすることが好ましい。しかし、蓋の構成や開閉構造については特に限定するものではなく、作業性を考慮して簡単に開閉し得るような構造であることが好ましい。
【0058】
またヤットコAと杭10とが圧接する部位は、伝達部材11と把持部材2であることが必須であるが、端板1cと支持部材12とが圧接することは必ずしも必要ではなく、支持部材12に対し、案内部材6の下面が圧接し得るように構成されていても良い。
【0059】
また、ヤットコAから杭10に回転トルクを伝達する場合、必ずしも前述した摩擦接触のみによるものではなく、例えば、伝達部材11に当接した把持部材2の連結部2c、或いは案内部材6による曲げ力を介して伝達されることを排除するものではない。
【実施例2】
【0060】
次に第2実施例に係るヤットコBの構成について図を用いて説明する。図4は本実施例に係るヤットコの構成を説明する断面図である。図5は図4に示すヤットコの制御系の構成を説明する図である。図6は杭との接続手順を説明する図である。尚、図に於いて、前述の第1実施例と同一部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施例に係るヤットコBは、把持部材2を駆動する駆動部材としてシリンダー20を用い、操作部として切換弁21を用いて構成されている。即ち、前述の第1実施例では把持部材2をロッド3によって駆動して杭10と接続、離脱を行っていたのに対し、第2実施例ではシリンダー20を駆動して杭10との接続、離脱を行えるようにした点で異なっている。
【0062】
図4〜図6に於いて、鋼管からなる本体部1の下端1aに複数の把持部材2が配置されており、各把持部材2は夫々シリンダー20によって駆動されると共に案内部材6に案内されて本体部1の長手方向(上下方向)に往復移動し得るように構成されている。
【0063】
シリンダー20は案内部材6の上部に取り付けられており、シリンダーロッド20aに把持部材2のねじ部2bが締結されている。従って、シリンダー20に圧力流体を供給することによって把持部材2が案内部材6に案内されて上下方向に直線移動することが可能である。そして、ロッド20aが伸長したとき、把持部材2の当接部2aが伝達部材11の頭部11bの下面よりも下側にあり、且つねじ部2bが頭部11bに干渉することがない位置にあり、ロッド20aが縮小したとき、当接部2aが頭部11bの下面に対し充分な圧縮力を作用させて圧接し得るように構成されている。
【0064】
シリンダー20としては油圧シリンダー、エアシリンダー、水圧シリンダー等の流体圧シリンダーの中から選択的に用いることが可能である。またシリンダー20のストロークは杭10に設けられた伝達部材11の形状に対応させて適宜設定される。尚、本実施例ではシリンダー20として油圧シリンダーを用いている。
【0065】
本体部1の長手方向には操作部となる複数の切換弁21が予め設定された間隔をもって配置されており、各切換弁21毎に対応させて開口部1fが形成されている。そして、図5に示すように、各切換弁21は配管22a、22bを介して並列に接続され、分配器23、配管24a、24bを介して各シリンダー20と接続されている。
【0066】
切換弁21は、シリンダー20に圧油を供給して把持部材2を駆動し、この駆動に伴って当接部2aを伝達部材11の頭部11bの下面に圧接させる機能を有するものである。このため、切換弁21は2ポート2位置切換弁として構成され、非作動状態では接続された配管22a、22bに対する逆止弁として機能している。
【0067】
従って、何れかの切換弁21の操作ハンドル21aを作動側に操作したとき、ポート21bに接続された油圧ポンプから供給された圧油が配管22aに供給され、この圧油が分配器23、配管24aを経てシリンダー20に供給され、ロッド20aを縮小させる。このロッド20aが縮小する過程で把持部材2を上方に移動させて、当接部2aを伝達部材11の頭部11bの下面に圧接させることが可能である。
【0068】
シリンダー20のロッド20aの縮小に伴って、該シリンダー20から排出された作動油は配管24b、分配器23、配管22bを経て図示しないオイルタンクに還流する。
【0069】
上記の如く構成されたヤットコBに於いて、把持部材2による伝達部材11に対する圧接を解除する場合には、配管22b、分配器23、配管24bの配管系に圧油を供給してロッド20aを伸長させるか、配管22a、分配器23、配管24aの配管系に作用している圧油をオイルタンクに還流させることで良い。このような操作は、図示しない埋設機の運転席に設けた油圧制御系で行うことが可能である。
【0070】
しかし、切換弁21として、必ずしも本実施例の2ポート2位置切換弁を用いることに限定するものではなく、他の構成の切換弁を用いることも可能であり、例えば4ポート3位置切換弁を用いた場合には、操作ハンドルの操作によってシリンダー20のポートに対する圧油の供給を切り換えてロッド20aの伸長、縮小を制御することが可能である。
【0071】
要するに、駆動部材となるシリンダー20の操作部として切換弁を用いることが必要であり、採用する切換弁に対応させてシリンダー20との配管系や制御系を構成することが必要となる。
【0072】
次に、上記の如く構成されたヤットコBを杭10に接続する際の手順について図6により説明する。
【0073】
既に先端部分から所定の部位まで地中に埋設され、上端を含む上方の一部が露出している杭10に対し、ヤットコBを対向させて、把持部材2の溝2dに伝達部材11の軸部11aを嵌合させる作業は前述の第1実施例と同じである。
【0074】
そして、伝達部材11が把持部材2に嵌合されたことを確認した後、最も操作に適した位置にある切換弁21の操作ハンドル21aを外部から作動方向に操作する。この操作に応じて、圧油がシリンダー20に供給され、ロッド20aを縮小させる。
【0075】
ロッド20aの縮小に伴って把持部材2は上方へ移動し、当接部2aが伝達部材11の頭部11bの下面に当接して圧縮力を作用させる。当接部2aの頭部11bの下面に対する圧接は、両者の間に生じる圧縮力がシリンダー20のピストンの面積と作動油の圧力との積と等しくなるまで上昇する。このように、当接部2aが頭部11bの下面に対し充分に大きい圧縮力を作用させて圧接することで、ヤットコAの把持部材2と杭10の伝達部材11とは緊密に接続されたことになる。
【0076】
上記の如くして杭10に接続されたヤットコBに対し、図示しない埋設機の駆動装置から回転トルクを付与すると、付与された回転トルクは把持部材2の当接部2aと伝達部材11の頭部11bとの圧接による接触摩擦によって杭10に伝達され、これにより杭10が回転し、地中に推進される。
【0077】
杭10が所定の深さまで埋設されたことが確認されたとき、シリンダー20のロッド20aを伸長させる方向に、或いはロッド20aを縮小する方向に作用している圧油の圧力を減少させることで、把持部材2を下方へと移動させる。これに伴って、当接部2aの伝達部材11の頭部11bの下面への圧接が解除される。
【0078】
把持部材2の当接部2aの伝達部材11の頭部11bの下面に対する当接が解除した後、前述の第1実施例と同様に、本体部1を回動させて伝達部材11の軸11aを把持部材2の当接部2aに形成された溝2dから離脱させる。これにより、ヤットコAが杭10から離脱する。
【0079】
上記の如くしてヤットコAを杭10から離脱させた後、図示しない埋設機を駆動してヤットコAを上昇させることで地上に引き抜き、これにより、杭10を地中に埋設することが可能となる。
【実施例3】
【0080】
次に、把持部材の他の構成について図を用いて説明する。図7は他の実施例に係る把持部材の構成を説明すると共に該把持部材によって伝達部材を把持する際の手順を説明する図である。
【0081】
図に示す把持部材30は、例えば第1実施例に於ける駆動部材となるロッド3、又は第2実施例に於ける駆動部材となるシリンダー20のロッド20a、或いはこれらのロッド3、20aに接続されたロッド等からなる駆動部材31の先端部分に設けられ、本体部1の長手方向に移動するのに伴って開閉する一対の開閉部材30aを有して構成されている。
【0082】
駆動部材31は案内部材32に貫通して配置されており、該駆動部材31の先端部分に設けた回動ピン31aに一対の開閉部材30aが夫々回動可能に取り付けられている。開閉部材30aはフック状に形成されており、先端部分に当接部30bが形成されている。
【0083】
案内部材32は開閉部材30aを拘束する一対の拘束片32aを有しており、開閉部材30aが上昇したとき、対応する開閉部材30aの外側面30cと当接して互いに接近した状態を保持し得るように構成されている。
【0084】
また把持部材30は、開閉部材30aが案内部材32の拘束片32aよりも下方にあるとき、これら一対の開閉部材30aが回動ピン31aを中心として互いに離隔する方向に回動し得るように構成されている。駆動部材31の上下方向への移動に伴う開閉部材30aの開閉を如何にして規定するかは特に限定するものではなく、例えば、回動ピン31aに図示しない捻りコイルばねを取り付けておき、この捻りコイルばねの付勢力によって互いに離隔する方向に回動し、拘束片32aに拘束されて互いに接近する方向に回動し得るように構成することが可能である。また案内部材32に開閉部材30aの開閉動作と同じ経路を持った溝を形成した溝カムを設けると共に夫々の開閉部材30aに前記溝に嵌合する突起を設け、該突起を溝カムの溝に嵌合して開閉部材30aを開閉させるように構成することも可能である。
【0085】
上記の如く構成された把持部材30では、同図(a)に示すように、駆動部材31を上方へ移動させると、この移動に伴って回動ピン31aの位置が上昇する。そして回動ピン31aの上昇に伴って開閉部材30aが回動ピン31aを中心として互いに接近する方向に回動し、この回動によって、先ず当接部30bが伝達部材11の頭部11bの下面に対向する。
【0086】
同図(b)に示すように、引き続く駆動部材31の上昇に伴って開閉部材30aは互いに接近した位置を保持して上昇する。このとき、開閉部材30aは外面30cが案内部材32の拘束片32aに拘束されて解放方向に回動することがない。更なる駆動部材31の上昇に伴って当接部30bが頭部11bの下面に当接して圧縮力を作用させる。そして、当接部30bと頭部11bの下面との間で生じた圧縮力が予め設定された値に達したとき、杭10は把持部材30を介してヤットコと接続されたことになる。
【0087】
また杭10とヤットコとの接続を解除する場合には、同図(c)に示すように、駆動部材31を下方へ移動させると、この移動に伴って回動ピン31aの位置が下降する。そして回動ピン31aの下降に伴って開閉部材30aの当接部30bの伝達部材11の頭部11この下面に対する圧接が解除される。更なる駆動部材31の下降に伴って、開閉部材30aが互いに離隔する方向に回動し、これにより、把持部材30は伝達部材11から離脱する。
【0088】
上記把持部材30では、一対の開閉部材30aが互いに最も離隔した状態で伝達部材11と対向することが可能となり、ヤットコの杭10に対する位置合わせを容易に行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のヤットコは、地下構造物を有する建物の杭を埋設する際に利用したとき、埋設された杭の位置精度を確保できるため有利である。
【0090】
尚、前述した各実施例では、ヤットコが杭10に対し回転トルクを伝える機能を有するものとして説明したが、必ずしも回転トルクを伝える構造にのみ利用して有利なものではなく、例えば予めアースオーガによって掘削孔を形成しておき、この掘削孔に対して挿入することで埋設されるコンクリート杭に対するヤットコとして利用しても有利である。
【0091】
上記の如く、本発明のヤットコと、杭に対し回転トルクを伝えるような利用方法でも、回転トルクを伝えることなく杭を圧入し、或いは既に形成されている掘削孔に挿入するような場合でも、利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】第1実施例に係るヤットコの構造を説明する断面図である。
【図2】ヤットコの下端部分に設けた把持部材と杭に設けた伝達部材との関係を説明する図である。
【図3】把持部材を伝達部材に圧接させ又は離脱させる手順を説明する図である。
【図4】本実施例に係るヤットコの構成を説明する断面図である。
【図5】図4に示すヤットコの配管系の構成を説明する図である。
【図6】杭との接続手順を説明する図である。
【図7】他の実施例に係る把持部材の構成を説明すると共に該把持部材によって伝達部材を把持する際の手順を説明する図である。
【図8】杭を地中に埋設する際に用いる従来の技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0093】
A、B ヤットコ
10 杭
11 伝達部材
11a 軸部
11b 頭部
12 支持部材
1 本体部
1a 下端
1b 上端
1c、1d 端板
1e 長穴
1f 開口部
2 把持部材
2a 当接部
2b ねじ部
2c 連結部
2d 溝
3 ロッド
3a ねじ
3b ナット
4 操作部
4a キー
4b パイプ
4c ボルト、ナット
6 案内部材
20 シリンダー
20a ロッド
21 切換弁
21a 操作ハンドル
21b ポート
22a、22b、24a、24b
配管
23 分配器
30 把持部材
30a 開閉部材
30b 当接部
30c 外側面
31 駆動部材
31a 回動ピン
32 案内部材
32a 拘束片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端に回転トルクが伝達される伝達部材を有する杭と、前記杭を埋設する埋設機の駆動装置と、を接続して回転トルクを伝達するヤットコであって、鋼管からなる本体部と、前記本体部の下端に且つ杭の有する伝達部材と対応して配置され該伝達部材を把持し又は離脱する把持部材と、前記把持部材を杭の有する伝達部材に圧接させる駆動部材と、を有することを特徴とするヤットコ。
【請求項2】
前記本体部の長手方向に前記駆動部材を操作する操作部を設け、夫々の操作部に対応した開口部を有することを特徴とする請求項1に記載したヤットコ。
【請求項3】
前記杭の有する伝達部材が杭の上端から起立した軸部と該軸部よりも径が大きい頭部とによって構成され、前記把持部材が本体部の長さ方向に移動して前記伝達部材の頭部に圧接又は離脱し得るように構成され、前記駆動部材が本体部の全長にわたって配置されると共に回転可能に支持されたロッドからなり該ロッドの回転に伴って前記把持部材を移動させるように構成され、更に、前記本体部に設ける前記操作部が前記ロッドを回転させる工具に応じた形状をもって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載したヤットコ。
【請求項4】
前記杭の有する伝達部材が杭の上端から起立した軸部と該軸部よりも径が大きい頭部とによって構成され、前記把持部材が本体部の長さ方向に移動して前記伝達部材の頭部に圧接又は離脱し得るように構成され、前記駆動部材が把持部材を本体部の長手方向に往復移動させるシリンダーによって構成され、更に、前記本体部に設ける前記操作部が切換弁によって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載したヤットコ。
【請求項5】
本体部の下端部に端板が設けられており、該端板の把持部材と対向する位置に杭の有する伝達部材を挿通させる長穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載したヤットコ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−263914(P2009−263914A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112294(P2008−112294)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】