説明

ユリ科植物栽培基材の固結液剤およびユリ科植物栽培基材の固結方法

【課題】根鉢を形成しにくいタマネギなどのユリ科植物のセル成型苗の移植直前に、液剤を用いてセル内の栽培基材を斉一的に固結させ、セル苗移植時における該基材の崩壊を効果的に防ぎ、断根を減少させ、さらには定植後の活着を促進させ、機械移植全体の作業効率を高めるのにも有効な、安全で環境に優しいユリ科植物栽培基材の固結液剤を提供すること。
【解決手段】ジェランガムを含有することを特徴とするユリ科植物栽培基材の固結液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユリ科植物栽培基材の固結液剤およびユリ科植物栽培基材の固結方法に関する。さらに詳しくは、タマネギなどのユリ科野菜、若しくはアリウムなどのユリ科花卉の育苗苗の定植の際に、セル成型苗の機械移植直前に、液剤を用いてセル内の栽培基材を斉一的に固結させ、セル苗移植時における該基材の崩壊を効果的に防ぎ、断根を減少させ、さらには定植後の活着を促進させ、定植ストレスを効果的かつ持続的に回避させ、機械移植全体の作業効率を高めるのにも有効な、安全性の高いユリ科植物栽培基材の固結液剤の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来から、土地利用型野菜の生産では、労働生産性を向上させるため、栽培工程の省労力化や軽作業化が志向されてきた。そのためには、省力化手段としての機械化の導入が不可欠であり、特に育苗苗の機械移植技術が種々検討されてきた。ユリ科野菜であるタマネギの場合、生産期間が短い地域での生産も多いため、移植栽培技術の開発は特に重要で、今までに、紙筒苗(非特許文献1)、テープ苗、ペーパーポット苗、セル成型苗(非特許文献2)などの栽培移植技術が開発されたが、これらの中ではセル成型苗利用の機械移植が重要になっている。
【0003】
一般的に、セル成型育苗を用いた移植栽培では、育苗苗の機械移植時にセルトレイから苗を抜き取りやすくするために、根鉢を形成させることが必須条件となっている。ところが、タマネギなどのユリ科植物の一部は直根性のため細根がほとんど発生しないので、根鉢の形成が難しくなっている。特にタマネギの場合は上記の性質に加えて、1セルに種子を1粒まきするので、根鉢の形成が非常に難しくなっている。このように根鉢が不完全な状態で移植すると、根鉢が崩れたり、葉が曲がって絡み合ったりして、移植機への育苗苗の供給がうまくいかず、移植精度が下がってしまうという欠点を有していた。
【0004】
そこで、セル成型苗の培養土に固結剤を添加し、培養土を固め機械移植時の精度低下を防止する試みが検討された。播種前にセル成型苗の培養土に混合する固結剤としてはアクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合体(特許文献1、2)などが知られているが、アクリルアミドモノマーは神経毒性、生殖毒性を有するうえに発がん性が懸念されている(非特許文献3、4、5)。上記共重合体が、夾雑物として未反応モノマーが含まれていることを勘案すれば、育苗苗を、該固結剤を含有する根鉢毎、畑というオープン環境に移植することは環境に負荷をかけ、環境汚染を引き起こす危険性を有していると言わざるを得ず、環境保全の点から課題を残している。
【0005】
また、上記の方法は、機械移植時に移植の数日前から培養土を完全に乾燥させなければならず、定植の作業が煩雑になるうえに、アルミニウムイオンなどの多価カチオンを一定量以上含有させた専用土壌を用いなければならない(特許文献2)ことや、一度固結剤を添加してしまうと、その後の培養土の固結の度合いは制御できず、苗の生育状況に応じた柔軟な対応が利かないことから、育苗精度が落ちてしまうことなどの問題点を有していた。
【0006】
一方、移植直前に苗付の培養土に液状で添加し、土壌中のカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2価イオンの作用で培養土を固結させる固結剤としてはアルギン酸塩水溶液の利用が提案されている(特許文献3)。この固結方法によれば、苗の状況や、培養土の固結度の状況を見ながら固結剤水溶液を徐々に添加することができるので、培養土の固結度の制御不能による育苗精度の低下は防止できるが、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩は水和性が悪く、水溶液を調製するのに長時間を要したり、同じ固結度を得るのに必要な固結剤の量が他のゲル化剤より多くなるという欠点を有していた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−188947号公報
【特許文献2】特開2000−188948号公報
【特許文献3】特開平6−153690号公報
【非特許文献1】信田守雄、小川修、大橋建男:「紙筒利用によるタマネギの機械化移植試験」、農業機械学会誌、第38巻、第2号、278頁、1976年
【非特許文献2】村井信仁:「たまねぎ機械化最前線」、農業機械学会誌、第61巻、第2号、3頁−11頁、1999年
【非特許文献3】橋本和夫:「アクリルアミド(AAM)の毒性」、産業医学、第22巻、第4号、233頁−248頁、1980年
【非特許文献4】伊規須英輝:「神経毒性化学物質の曝露と影響の評価」、産業医学レビュー、第19巻、第3号、171頁−186頁、2006年
【非特許文献5】津田弘久:「アクリルアミドの遺伝毒性、発ガン性」、環境変異原研究、第26巻、183頁−191頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、上記従来技術の欠点および問題点を克服し、根鉢を形成しにくいタマネギなどのユリ科植物のセル成型苗の移植直前に、液剤を用いてセル内の栽培基材を斉一的に固結させ、セル苗移植時における該基材の崩壊を効果的に防ぎ、断根を減少させ、さらには定植後の活着を促進させ、機械移植全体の作業効率を高めるのにも有効な、安全で環境に優しいユリ科植物栽培基材の固結液剤およびユリ科植物栽培基材の固結方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成すべく鋭意研究の結果、ジェランガムの水溶液をタマネギなどのユリ科植物のセル成型苗栽培基材の固結液剤として用いることにより、上記の如き従来技術の欠点および問題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ジェランガムを含有することを特徴とするユリ科植物栽培基材の固結液剤を提供する。
【0010】
上記本発明においては、ジェランガムは、導電率1μS/cm以下の水に溶解すること;ジェランガムは、水100質量部当たり0.3質量部〜1.5質量部を溶解すること;ユリ科植物が、タマネギであること;ジェランガムが、脱アシル化ジェランガムであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記本発明の固結液剤をユリ科植物栽培基材に適用することを特徴とするユリ科植物栽培基材の固結方法を提供する。この固結方法では、固結液剤を、機械移植直前のユリ科植物栽培基材に適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジェランガムをセル成型苗用栽培基材の固結成分として用いることにより、ユリ科植物栽培基材の固結液剤となし、これをタマネギなどのユリ科植物のセル成型苗の機械移植時に、移植直前にセル内の苗つき栽培基材に添加することにより、セル内の栽培基材を斉一的に固結させ、セル苗移植時における栽培基材の崩壊を防ぎ、断根を減少させ、移植後の活着を促進させ、機械移植全体の作業性能が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に用いられるユリ科植物栽培基材とは、ユリ科に属する野菜や花卉などの農園芸植物を栽培するための基材で、単位素材としては、山土、山砂、川砂、田土、火山灰土、ボラ土、赤土、赤玉土、マサ土、鹿沼土などの無機質土壌、ピートおよびピートモス、バークおよびオガクズ、モミガラ、ミズゴケ、くん炭、落葉、腐葉、腐植質、堆肥、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、ロックウール、浮遊スラグ、軽石などが含まれる。また、複数の上記単位素材を一定の比率で配合、混合し、栽培用とした培養土、培土、用土なども上記ユリ科植物栽培基材に含まれる。
【0014】
本発明におけるユリ科植物栽培基材の固結液剤の機能素材はジェランガムである。ジェランガムは単体ではゲル強度は弱いが、カルシウムなどのカチオンと反応して強固なゲルを形成する。特に2価のカチオンの場合は、ジェランガムがイオン結合により架橋するため熱不可逆性のゲルになる。本発明は、ジェランガムのこの性質をユリ科植物栽培基材の固結液剤に利用したものである。
【0015】
本発明で使用されるジェランガムとは、エロデア属の水草から分離した微生物であるSphingomonas elodea 60によって生産された多糖類で、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、脱アセチル化ジェランガムなどが含まれるが、水和性の関係で脱アシル化ジェランガムや脱アセチル化ジェランガムが好適に用いられる。
【0016】
ジェランガムの構造はグルコース、グルクロン酸、グルコース、L−ラムノースの4単糖結合ユニットが繰り返し単位となった直鎖状の多糖で、ネイティブジェランガムは、グルコースのC6位にアセチル基が、そして2位にグリセリル基がそれぞれ1/2残基存在する。また、これらの官能基を取り去り精製したものが脱アシル化ジェランガムである。単に「ジェランガム」または「脱アセチル化ジェランガム」と呼ばれるものも、この脱アシル化ジェランガムを意味する場合が多い。これらのジェランガムではグルクロン酸のカルボキシル基はカリウム塩の形をしている。
【0017】
本発明で野菜や花卉の栽培に用いられるユリ科植物は、アリウム属(Allium)、ヒアシンス属(Hyacinthus)、ラケナリア属(Lchenalia)、ムスカリ属(Muscari)、エケアンディア属(Echeandia)、オルニトガルム属(Ornithogalum)などに属する草本類で、本発明では特にアリウム属に属する植物が好適に用いられる。
【0018】
アリウム属に属する植物のうち、好適に用いられるのは、タマネギ(Allium cepa)、ネギ(Allium fistulosum)、ニンニク(Allium sativum)、ギョウジャニンニク(Allium victorialis)、ラッキョウ(Allium chinense)、ミヤマラッキョウ(Allium splendens)、ヒメラッキョウ(Allium anisopodium)、ヤマラッキョウ(Allium thunbergii)、イトラッキョウ(Allium virgunculae)、ニラ(Allium tuberosum)、ヒメニラ(Allium monanthum)、オオニラ(Allium tuberosum Rottler var. latifolium Kitamura)、カンカケイニラ(Allium togashii)、ワケギ(Allium fistulosum L. var. caespitosum Makino)、アサツキ(Allium schoenoprasum L. var. foliosum Regel)、ノビル(Allium nipponicum)、リーキ(Allium porrum)、アリウム(Allium rosenbachianum)などである。特に好適に用いられるのはタマネギ(Allium cepa)である。
【0019】
ユリ科でアリウム属野菜のタマネギ(Allium cepa)のセル成型育苗を例にとり説明する。タマネギのセル成型苗の培養土に用いられる固結剤は、播種の前に添加するタイプと機械移植直前に添加するタイプに分けられる。播種の前に培養土に添加するタイプの固結剤を利用する場合は、固結された培養土に播種することになり、発芽から定植までの育苗を固結された培養土で行うことになるので、培養土の硬さが適切でないと、発根や根の伸長に悪影響を及ぼしかねない。また、一度培養土を固結させてしまうと、培養土が硬すぎて植物体の生育に不適当であったとしても、或いは逆に培養土が柔らかすぎたり、培養土の固結状態に斑が生じて機械移植に必要な固結状態を作り出せなかったとしても、事後的に硬さを調節するのは難しくなるため、セル苗の移植精度が大幅に落ちる可能性がある。
【0020】
これに対して、機械移植直前に添加するタイプの固結剤は、液剤の形で用いられ、液剤の培養土への添加は育苗が終わった後に行われるため、固結剤の発根や根の伸長といった苗の生育への影響は考慮する必要がない。また、培養土への添加の際は、固結の状況を見ながら液剤を数回に分けて段階的に添加することができるので、所望の固結度を簡単に作り出すことができ、培養土の固さ作りに失敗がない。さらに、培養土への添加時に液剤が培養土に斉一的に浸透するようにすれば、培養土内に含まれるカチオンと反応し、斉一的な固結化が成し遂げられ、総じてセル苗の移植精度が高められる。
【0021】
本発明のジェランガムを用いたユリ科植物栽培基材の固結液剤は、後者のタイプに属する固結剤である。ジェランガムは少量の添加量で高い粘度(固結度)を生じさせることができるので、アルギン酸ナトリウムなど、他の機械移植直前に添加するタイプの固結剤に比して、栽培基材に添加する固結剤の絶対量が少なくて済み、環境への負荷が非常に少ない。加えて、栽培基材に添加する際の水溶液の濃度を比較的低濃度に抑えることができるので、栽培基材への浸透性が良好である。また、他の固結剤と同じ濃度のジェランガム水溶液を添加した時には、他の固結剤使用時より高い固結度を得ることができる。さらに、アルギン酸ナトリウムなどの他の固結剤に比較して、水和性が良好であるので、比較的簡単に水溶液を作ることができるので作業性も優れている。したがって、機械移植直前に、低濃度のジェランガム水溶液を栽培基材に添加し、浸透させれば、栽培基材中の2価カチオンと反応し、1日〜2日で栽培基材が固結する。
【0022】
本発明の栽培基材の固結液剤に用いられる水は、カチオンフリーの水である。水中にカチオンが存在するとジェランガムがゲル化して溶液状態を保てず、土壌への浸透が進行しない。本発明の栽培基材の固結液剤に用いられる水のカチオンフリー度は、導電率として1μS/cm以下であることが好ましい。導電率1μS/cm以下の水の例としては、蒸留水、イオン交換水(イオン交換樹脂通過水またはイオン交換膜通過水)、RO水(逆浸透膜通過水)などの純水が挙げられる。また、これらの純水が使用できない場合には、メタリン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムなどのキレート剤を栽培基材の固結液剤に用いる水に添加し、水に含まれるカチオンをキレート化することにより、当該カチオンをジェランガムとの反応系から取り除いた水を使用することもできる。ただし、この場合には、添加するキレート剤の量は、栽培基材の固結液剤に用いる水に含まれるカチオンをキレート化するに足る量を超えてはならない。この量を超えると、培養土などの栽培基材に添加後に栽培基材が容易に固結しない。
【0023】
本発明のユリ科栽培基材の固結液剤の標準的な使用方法を、ユリ科アリウム属野菜であるタマネギを例にとり説明する。市販のセルトレイのセルに栽培基材である培養土を充填し、播種後、十分に灌水し、水分を保ちつつ暗黒で3日間25℃を維持し、タマネギを発芽させる。その後、光照射12時間、暗黒12時間のサイクルを繰り返し、25℃で栽培を続ける。播種より約60日後、苗が移植可能な大きさに成長したら、移植の3日前に適量のジェランガム水溶液をセル内の苗付培養土に添加し、3日放置後、セル内の培養土が固結し根鉢が形成したのを確認した後、移植機にて根鉢を地床に移植する。
【0024】
本発明の栽培基材の固結方法に用いられる栽培基材の要件を、培養土を例にとり説明する。培養土の粒径としては、一般的には0.2〜10.0mmの範囲が好ましく、2.0〜4.0mmの範囲の培養土が特に好ましい。粒径が粗すぎると、機械播種の覆土の際に播種した種がセルから動いてしまい育苗がうまくいかない。また、細かい粒径の土壌粒子がそろった培養土は、固結液剤の浸透性が悪く、本発明の固結方法に用いる培養土としては適当でない。本発明の固結方法に好ましい培養土は、上記の粒径範囲の様々な粒径の土壌粒子が適度に混合されている培養土である。例えば、粒径の異なる2種類以上の用土をよく混合した培養土が好適に用いられる。
【0025】
本発明の固結方法に用いられる培養土の含水率は10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜40質量%の範囲の培養土が特に好ましい。含水率が上記の値より低すぎると発根が遅れたり、活着が抑制されたりして、植物体の生育状況に悪影響を及ぼす可能性がある。また、含水率が上記の値より高すぎると根腐れを起こす可能性がある。
【0026】
培養土の組成は、上記の培養土に関する要件が満たされれば特に限定されないが、ピートモス、赤玉土、バーミキュライトなどを混合したものが好適に用いられる。上記の組成の配合比率としては、例えば、質量比でピートモス:赤玉土:バーミキュライト=7:1:2若しくはこの配合比に類する配合の培養土が好適に用いられる。また、粒度調整や保水性確保のため、培養土に無機物や腐植などの各種の添加物を混合してもよい。具体的には、例えば、多孔質ケイ酸カルシウム水和物やシリカゲルなどが培養土に添加される。
【0027】
イオン交換水に溶解させたジェランガム水溶液の育苗培養土への処理方法としては、ジェランガム水溶液を育苗培養土の上から散水する方法とセルトレイの底面から給水(底面給水)する方法が挙げられる。また、本発明の栽培基材の固結液剤に好適に使用されるジェランガム水溶液の濃度は、0.1質量%〜3.0質量%程度であるが、0.3質量%〜1.5質量%が好ましく、0.5質量%〜1.0質量%が特に好ましい。濃度が低すぎると充分な固結が得られず、濃度が高すぎると粘度が高くなり、培養土によってはジェランガム水溶液が培養土全体に充分に浸透できず、固結が不均一になってしまい、良好な根鉢を形成できない。
【0028】
培養土に対するジェランガム水溶液の1回の散布量は、培養土の種類や粒径により異なるが、一般的なタマネギ用育苗セルトレイ(みのるポット448、31.5×61.9cm)の場合、1セル(2.4cm2:上φ1.6cm、下φ1.3cm、高さ2.5cm)に0.5〜5ml程度の散布が好ましく、1〜3mlの範囲の散布量がより好ましい。散布量が少なすぎると液剤がセル中の培養土全体に浸透せず培養土の固結が不充分になり、散布量が多すぎると、セルから溢れ出てしまい無駄が多くなる。
【0029】
栽培基材の固結液剤添加の効果は、セル内の培養土(根鉢)の崩壊防止のほかに、灌水労力の省力化、活着の促進などが挙げられる。根鉢の水分は定植後の活着に重大な影響を及ぼす。定植後における根鉢からの発根は、地上部の茎葉への水分供給を促し、葉面積を拡大させ、延いては光合成量の増加をもたらし、活着の促進に繋がる。一方、根鉢からの発根は、根鉢の水分に依存することから、根鉢からの発根を促進し、活着を促すためには定植後の根鉢の含水率を高く維持することが望ましい。しかしながら、セル成型苗に用いられる培養土の多くはピートモスを主体としたものであり、培養土が乾燥すると、根鉢が撥水しやすくなる上に、セル成型育苗においては培養土がセル毎に仕切られているため、根鉢の水分状態が苗毎に異なりやすく、セルトレイ内の各根鉢の水分の斉一化が確保できなくなり、活着精度の低下を招来する結果となる。したがって、セル内の培養土を乾燥させないこと、すなわち、根鉢の水分の保持が活着精度を向上させるのに重要な要件となる。
【0030】
本発明の栽培基材の固結液剤は、培養土などの栽培基材に添加し浸透させることにより、栽培基材を固結し、根鉢の形成を促すと同時に、栽培基材の保湿効果を発揮し、栽培基材からの水分の蒸散を抑止し、根鉢の含水率を維持し、根鉢からの発根を促進し、延いては苗の活着を促進する効果を有する。
【実施例】
【0031】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳しく説明する。尚、文中「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0032】
実施例1(本発明品の培養土に対する固結効果)
プラスチックセルトレイ(セル寸法:上径1.6cm、下径1.3cm、高さ2.5cm、448セル)に、有機タマネギ苗用培養土(明光社製:粒径4mm以下)を充填し、その上から、本発明品の固結液剤であるイオン交換水に溶解させたジェランガム(脱アシル化ジェランガム、ケルコゲルAFT、米国CPケルコ社製)0.5%水溶液を1セル当たり2ml散布し、25℃の恒温器に静置した。
【0033】
比較例として同様にイオン交換水で溶解したアルギン酸ナトリウム(試薬1級、アルギン酸ナトリウム80〜120、和光純薬工業株式会社製)1.0%水溶液、および対照としてイオン交換水を1セル当たり2ml散布し、25℃の恒温器に静置した。3日後および5日後にセル底面の細隙から割り箸でセル中の培養土を押し上げ、培養土が円柱形の根鉢状に固結しているかを観察した。その結果、3日後にはジェランガム水溶液を散布したセルで培養土が根鉢状に固結していたが、アルギン酸ナトリウム水溶液、およびイオン交換水では、培養土が固結せずセル底面の細隙から培養土を押し上げると崩壊した。
【0034】
さらに散布から5日後に観察したところ、ジェランガム水溶液およびアルギン酸ナトリウム水溶液を散布したセル中の培養土が根鉢状に固結した。円柱形をした根鉢状の固結培養土の硬度を円柱の上側から果実硬度計(藤原製作所製KM−1型)を押し当てて計測したところ、3セルの平均がジェランガム水溶液散布培養土では0.24kg、アルギン酸ナトリウム水溶液散布培養土では0.16kgであった。その結果を表1に示す。この結果より、本発明品の固結液剤であるジェランガム0.5%水溶液はタマネギ苗用培養土を固結させ、根鉢状態を形成させることができ、しかもその固結培養土の硬度は、比較例として用いたアルギン酸ナトリウム水溶液を用いた場合より大きいことがわかった。
【0035】

【0036】
実施例2(本発明品のタマネギ移植効果)
プラスチックセルトレイ(セル寸法:上径1.6cm、下径1.3cm、高さ2.5cm、448セル)に、有機タマネギ苗用培養土(明光社製:粒径4mm以下)を充填し、2種のタマネギの種子(「きぬ玉葱」および「玉ねぎラピュタII」、(株)トーホク)を1セルに1粒ずつ播種し、十分に灌水した後、上部を新聞紙で覆い、さらにその上から散水した。この状態で水分を保ちつつ暗黒で3日間25℃を維持し、発芽させた。
【0037】
この後、光照射(1,300Lux)12時間、暗黒12時間のサイクルを繰り返し、25℃で栽培を続けた。播種より57日後に、苗付きのセルの上から、本発明品の固結液剤であるイオン交換水に溶解させたジェランガム(脱アシル化ジェランガム、ケルコゲルAFT、米国CPケルコ社製)0.7%水溶液を1セル当たり2ml散布し、添加区のセルトレイとした。また、イオン交換水を、苗付きのセルの上から、1セル当たり2ml散布し、対照区のセルトレイとした。添加区と対照区との双方のセルトレイを25℃の恒温器中に静置した。
【0038】
3日放置後、苗の状況を観察したところ、苗の生育状況は、試験区と対照区で大差が無かった。また、セル内の培養土の状況を観察したところ、本発明の固結液剤を添加したセル内の培養土のみが固結し、根鉢が形成されていた。次に、この根鉢を地床に移植し、7日放置後、苗を引き上げ、根鉢からの発根の状況を観察した。これらの結果を表2にまとめる。
【0039】
これらの結果から、本発明品の固結液剤を苗付き培養土に添加することにより、該苗付き培養土を固結させ、根鉢を形成させるとともに、タマネギの苗の生育には悪影響を与えず、根鉢の移植後はタマネギ苗が活着することが明らかになった。
【0040】

【0041】
実施例3(本発明品の水分減少低減効果)
プラスチックシャーレ(φ9cm、高さ2cm)に、本発明品の固結液剤であるイオン交換水に溶解させたジェランガム0.5%水溶液(実施例1)、および対照としてのイオン交換水を1シャーレ当たり約20g注ぎ、25℃の恒温器にフタを開けて48時間静置した。この後、残った溶液の重さを測定して次式により水分減少率を算出した。
水分減少率(%)=[(初期液量(g)−48時間経過後液量(g))/初期液量(g)]×100
この結果を表3に示す。この結果より、本発明品であるジェランガム水溶液は対照のイオン交換水より水分減少率が低く、水分減少低減効果が示された。
【0042】

【0043】
実施例4(本発明品の培養土に対する保水効果)
プラスチックトレイに、タマネギ苗用培養土を充填し、その上から本発明品の固結液剤であるイオン交換水に溶解させたジェランガム0.5%水溶液(実施例1)、比較例としてのイオン交換水に溶解させたアルギン酸ナトリウム1.0%水溶液(比較例1)、および対照としてのイオン交換水を1セル当たり2ml散布した。散布直後、および25℃の送風乾燥器に16時間静置した後、セル中の培養土の含水率を測定した。さらに、各培養土の含水率から次式により、各培養土の水分減少率を算出した。
水分減少率(%)=[(散布直後培養土含水率(%)−16時間経過後培養土含水率(%))/散布直後培養土含水率(%)]×100
その結果を表4に示す。ジェランガム水溶液散布培養土は水分が多く、培養土に対する保水効果が示された。
【0044】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、ジェランガムをセル成型苗用栽培基材の固結成分として用いることにより、ユリ科植物栽培基材の固結液剤となし、これをタマネギなどのユリ科植物のセル成型苗の機械移植時に、移植直前にセル内の苗つき栽培基材に添加することにより、セル内の栽培基材を斉一的に固結させ、セル苗移植時における栽培基材の崩壊を防ぎ、断根を減少させ、移植後の活着を促進させ、機械移植全体の作業性能が改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェランガムを含有することを特徴とするユリ科植物栽培基材の固結液剤。
【請求項2】
ジェランガムを導電率1μS/cm以下の水に溶解してなる請求項1に記載の固結液剤。
【請求項3】
ジェランガムの0.3質量部〜1.5質量部を水100質量部に溶解してなる請求項1または2に記載の固結液剤。
【請求項4】
ユリ科植物が、タマネギである請求項1〜3のいずれか1項に記載の固結液剤。
【請求項5】
ジェランガムが、脱アシル化ジェランガムである請求項1〜4のいずれか1項に記載の固結液剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の固結液剤をユリ科植物栽培基材に適用することを特徴とするユリ科植物栽培基材の固結方法。
【請求項7】
固結液剤を、機械移植直前のユリ科植物栽培基材に適用する請求項6に記載の固結方法。

【公開番号】特開2010−142176(P2010−142176A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324159(P2008−324159)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】