説明

ヨウ化水素製造方法および水素製造方法ならびにそれらの製造方法のための装置

【課題】ブンゼン反応を進行させながら、これによって生成された硫酸とヨウ化水素を分離し、これによってヨウ化水素生成効率を向上させる。
【解決手段】ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒(たとえばイオン液体)にヨウ素を溶解させてヨウ素溶液を生成し、このヨウ素溶液中に、二酸化硫黄および水に溶解した二酸化硫黄を注入してブンゼン反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成し、ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素を前記所定の溶媒に溶解させるとともに、ブンゼン反応によって生成された硫酸水溶液と分離する。または、ヨウ素と、ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素および硫酸水溶液とが収容された容器に、前記所定の溶媒を混入して、この所定の溶媒にヨウ素およびヨウ化水素を溶解させて硫酸水溶液と分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱化学分解法(IS法)を利用したヨウ化水素製造方法および水素製造方法ならびにこれらの製造方法に利用可能な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水から水素を取り出す手法として熱化学分解プロセスがある。水を化学的に水素を含んだ化学形態に変換して、熱エネルギーを用いて水素を取り出す。使用する化学薬品に種類に依存して、その手法は多種多様である。
【0003】
熱化学分解プロセスの1つにIS法がある(特許文献1〜7、非特許文献1および2参照)。IS法は以下の3つの基礎反応から成立している。
【0004】
+SO+2HO → 2HI+HSO (1)
2HI → H+I (2)
2HSO → 2SO+2HO+O (3)
まず、水をヨウ素(I)および二酸化硫黄(SO)と反応させて、ヨウ化水素(HI)と硫酸(HSO)を生成する。この反応はブンゼン反応とも呼ばれている。生成したヨウ化水素は400C以上で熱分解し、水素(H)とヨウ素に分解される。ヨウ化水素の熱分解生成物である水素こそが、熱化学分解プロセスで製造される最終目的である。このときに生成したヨウ素はブンゼン反応に戻され再利用される。ブンゼン反応で生成した硫酸も600C以上の高温で熱分解され、生成する二酸化硫黄もまたブンゼン反応に戻されて再利用される。
【0005】
一般にIS法でのヨウ化水素生成は常圧程度で実施されるが、2相分離によって得られる下相液中ヨウ化水素濃度は共沸組成を超えることがない。下相液中のヨウ化水素濃度が共沸組成を超えない原因として、大気圧条件下での二酸化硫黄の水に対する溶解度が重量百分率で5%程度と大きくないことが考えられる。二酸化硫黄は水に溶解すると以下の反応式の示すとおり、水和して亜硫酸(HSO)に変化する。二酸化硫黄1分子あたり水1分子が水和した化学種が一般に知られている亜硫酸である。
【0006】
SO+HO → HSO (4)
SO+nHO → SO・nHO (5)
亜硫酸は還元性を示し、ヨウ素と酸化還元反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成する。
【0007】
SO+I+HO → 2HI+HSO (6)
発明者らは、加圧条件下でヨウ化水素生成反応(反応式(1))を行なうことにより、下相中のヨウ化水素が共沸組成である57%を超えて、70%以上に到達できることを確認している。この時のヨウ化水素濃度は下相液中の全ヨウ化水素質量を、ヨウ化水素と水の質量の和で割り、100をかけたものである(式(7))。
【0008】
[HI]
=下相液中全ヨウ化水素質量[g]/(ヨウ化水素質量[g]+水質量[g])
×100 (7)
また生成したヨウ化水素は、過剰のヨウ素を使用することにより、2相として反応式(1)で同時に生成する硫酸と比重差で分離する必要がある。ヨウ化水素はヨウ素との親和性が大きいため、ヨウ素と錯体を形成して、下相液へ移行していく。主なヨウ化物イオンとヨウ素との錯形成反応を以下に示す。
【0009】
+I → I (8)
2I+I → I (9)
3I+I → I (10)
4I+I → I (11)
ヨウ化物イオンはヨウ素と錯形成することにより安定に下相に濃縮していくものと考えられる。また下相液中にわずかに溶解する硫酸とヨウ化水素が反応し、硫黄や硫化水素などの硫黄化合物が副生成物として発生し、下相中のヨウ化水素が減少する。
【特許文献1】特公昭60−52081号公報
【特許文献2】特公昭60−48442号公報
【特許文献3】特公平4−37001号公報
【特許文献4】特公平4−37002号公報
【特許文献5】特許第4089939号公報
【特許文献6】特許第4089940号公報
【特許文献7】特許第4127644号公報
【非特許文献1】M. Sakurai, H. Nakajima, R. Amir, K. Onuki, and S. Shimizu著, Experimental study on side-reaction occurrence condition in the iodine-sulfur thermochemical hydrogen production process, International Journal of Hydrogen Energy, 25 (2000) 613-619.
【非特許文献2】M. Sakurai, H. Nakajima, K. Onuki, and S. Shimizu著, Investigation of 2 liquid phase separation characteristic on the iodine-sulfur thermochemical hydrogen production process, International Journal of Hydrogen Energy, 25 (2000) 605-611.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術では、ヨウ化水素生成反応であるブンゼン反応を実施し、その後に2相分離を行なって、生成したヨウ化水素と硫酸を比重差で分離しているが、この段階において上相の硫酸が下相のヨウ化水素とヨウ素の混合水溶液へ溶け込み、ヨウ化水素と硫酸が反応してヨウ化水素が減少してしまう。また硫酸が混合したまま下相液を蒸留するとヨウ化水素と反応を起こして硫黄および硫化水素を生成してしまう。
【0011】
14HI+2HSO
→ HS+7I+S+8HO (12)
反応式(12)からわかるように、硫酸1molあたり7molのヨウ化水素を消費してしまう。そのため、硫酸がわずかにでも存在すれば、加圧条件下で下相に濃縮できたヨウ化水素は消失してしまう。
【0012】
二酸化硫黄についても同様な反応が起こる。すなわち、次の反応式(13)からわかるように、二酸化硫黄1molあたり5molのヨウ化水素を消費してしまう。
【0013】
10HI+2SO → HS+5I+S+4HO (13)
したがって、蒸留によりヨウ化水素を単離する前に、下相液から硫黄化合物を除去しておくのが望ましい。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ヨウ化水素生成反応(反応式(1))を進行させながら、これによって生成された硫酸とヨウ化水素を分離することによってヨウ化水素生成効率、ひいては水素生成効率を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るヨウ化水素製造方法は、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させてヨウ素溶液を生成し、このヨウ素溶液中に、二酸化硫黄および水に溶解した二酸化硫黄を注入してブンゼン反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成し、前記ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素を前記所定の溶媒に溶解させるとともに、前記ブンゼン反応によって生成された硫酸水溶液と分離すること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るヨウ化水素製造方法は、ヨウ素と、ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素および硫酸水溶液とが収容された容器に、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒を混入して、この所定の溶媒にヨウ素およびヨウ化水素を溶解させて硫酸水溶液と分離すること、を特徴とするヨウ化水素製造方法。
【0017】
また、本発明に係るヨウ化水素製造装置は、加圧状態で二酸化硫黄を水に溶解させて亜硫酸水溶液を生成する二酸化硫黄溶解槽と、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させたヨウ素溶液と、前記二酸化硫黄溶解槽から亜硫酸水溶液を受け入れて加圧状態でブンゼン反応を起こさせてヨウ化水素と硫酸を生成するブンゼン反応槽と、前記ブンゼン反応槽の下部から取り出された前記所定の溶媒とこの溶媒に溶解したヨウ化水素およびヨウ素を蒸留してヨウ化水素を得るための蒸留塔リボイラーおよび凝縮器と、前記凝縮器で分離されたヨウ素および前記所定の溶媒を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、前記ブンゼン反応槽の上部から取り出された硫酸水溶液を二酸化硫黄と水と酸素に分解する硫酸分解塔と、前記硫酸分解塔で得られた二酸化硫黄を前記二酸化硫黄溶解槽に戻す配管と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る水素製造装置は、加圧状態で二酸化硫黄を水に溶解させて亜硫酸水溶液を生成する二酸化硫黄溶解槽と、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させたヨウ素溶液と、前記二酸化硫黄溶解槽から亜硫酸水溶液を受け入れて加圧状態でブンゼン反応を起こさせてヨウ化水素と硫酸を生成するブンゼン反応槽と、前記ブンゼン反応槽の下部から取り出された前記所定の溶媒とこの溶媒に溶解したヨウ化水素およびヨウ素を蒸留してヨウ化水素を得るための蒸留塔リボイラーおよび凝縮器と、前記凝縮器で分離されたヨウ素および前記所定の溶媒を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、前記ブンゼン反応槽の上部から取り出された硫酸水溶液を二酸化硫黄と水と酸素に分解する硫酸分解塔と、前記硫酸分解塔で得られた二酸化硫黄を前記二酸化硫黄溶解槽に戻す配管と、前記凝縮器で得られたヨウ化水素を水素とヨウ素に分解するヨウ化水素分解塔と、前記ヨウ化水素分解塔で得られたヨウ素を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ヨウ化水素生成反応を進行させながら、これによって生成された硫酸とヨウ化水素が分離され、これによってヨウ化水素生成効率、ひいては水素生成効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るヨウ化水素と硫酸の分離および製造方法の実施形態を説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係るヨウ化水素製造方法(水素製造方法)を示すフロー図である。
【0022】
二酸化硫黄または、二酸化硫黄を水に溶解した亜硫酸水溶液を、ヨウ素を含む水溶液へ添加して、ブンゼン反応を起こしながら、生成した硫酸とヨウ化水素の2相分離を行なう。比重差により、生成したヨウ化水素はヨウ素を含む下相へ移行し、硫酸は上相へ分離される。ブンゼン反応により生成した2相液へイオン液体を添加する。イオン液体とは、一般に、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であって、特に液体化合物をいう。ここで用いるイオン液体は、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しないものを選択する。
【0023】
2相液に接触したイオン液体中へヨウ素が溶け込み、それに伴ってヨウ化水素もイオン液体へ取り込まれる。硫酸水溶液はイオン液体とは混合することなく、そのまま上相に残留する。ヨウ化水素とヨウ素を含むイオン液体の相を蒸留塔へ移して、ヨウ化水素を単離し、水素へと分解する。ヨウ素、イオン液体、硫酸を分解生成した二酸化硫黄はブンゼン反応槽へ戻す。
【0024】
次にこの実施形態の作用を説明する。二酸化硫黄は水に溶解して亜硫酸としてから、ヨウ素と反応させる。二酸化硫黄は水に溶解することにより水和し、亜硫酸に変化して還元性を有するため、ヨウ素と反応してヨウ化水素と硫酸を生成する。ブンゼン反応で生成するヨウ化水素の物質量に対してヨウ素の物質量が過剰に存在する段階では、ブンゼン反応と同時に相分離が起こる。ヨウ素とヨウ化水素は親和性が大きいため、ヨウ化物イオンとヨウ素との錯形成反応(式(4)〜(7))が進み、ポリヨウ化水素が生成し、下相へ濃縮される。
【0025】
比重の小さい硫酸水溶液は上相へと相分離される。硫酸水溶液とポリヨウ化水素酸水溶液の2相液へ、ヨウ素を溶解し、水溶液とは混じり合わない溶媒を添加する。そのような溶媒として、たとえば、イオン液体であるトリオクチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(trioctylmethylammonium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide)が好適である。イオン液体の相は添加直後は最上相の硫酸水溶液相と最下相のポリヨウ化水素酸水溶液相の中間に位置しているが、ポリヨウ化水素酸水溶液相中のヨウ素がイオン液体の相へ移行し、ヨウ素の移行に伴ってヨウ化水素も移行し、上相の硫酸水溶液相とポリヨウ化水素酸を溶解したイオン液体相の2相が形成される。硫酸はイオン液体へ溶解していかないため、この段階で硫酸とヨウ化水素を完全に分離できる。ポリヨウ化水素酸を溶解したイオン液体の相を分取し、蒸留することによりヨウ化水素を単離できる。この蒸留は、たとえば150℃以上で行なうことが好ましい。
【0026】
この実施形態によれば、イオン液体をポリヨウ化水素酸の抽出剤に使用することにより、ブンゼン反応で生成した硫酸とヨウ化水素を完全に分離することができる。水溶液に対して相溶解しないイオン液体を使用することにより、硫酸水溶液がイオン液体へ混入することはなく、またブンゼン反応が進行するとともに生成する2相液の下相中の水もイオン液体中に溶解することがない。
【0027】
硫酸とヨウ化水素を完全に分離することにより、ブンゼン反応の後段で実施する蒸留において、硫酸とヨウ化水素の副反応による硫黄化合物の生成を完全に抑制できる(式(12))。
【0028】
一方、二酸化硫黄の全量を水に溶解させることにより、すべて亜硫酸へ変換することができる。亜硫酸はヨウ素とは定量的に反応するため、ブンゼン反応で生成するヨウ化水素と余剰の二酸化硫黄が副反応を起こしてヨウ化水素が消費されることがない(式(13))。
【0029】
[第2の実施形態]
図2は本発明の第2の実施形態に係るヨウ化水素製造方法(水素製造方法)を示すフロー図である。
【0030】
ヨウ素を溶解し水溶液と相溶解しないイオン液体にヨウ素を溶解し、二酸化硫黄を水に溶解した亜硫酸水溶液を、接触混合させる。イオン液体の相と亜硫酸水溶液の接触面でブンゼン反応が起こり、イオン液体中のヨウ素と亜硫酸が反応してヨウ化水素と硫酸を生成する。生成したヨウ化水素はヨウ素と結びつきイオン液体中へ移行する。硫酸水溶液はイオン液体の相へ混入することなく上相を形成する。
【0031】
ヨウ化水素とヨウ素を含むイオン液体の相を蒸留塔へ移して、ヨウ化水素を単離し、水素へと分解する。ヨウ素、イオン液体、硫酸を分解生成した二酸化硫黄はブンゼン反応槽へ戻す。なお、ヨウ化水素を含むイオン液体の蒸留は、たとえば150℃以上で行なうことが好ましい。
【0032】
第1の実施形態と同様に、二酸化硫黄は水に溶解して亜硫酸としてから、ヨウ素と反応させる。二酸化硫黄は水に溶解することにより水和し、亜硫酸に変化して還元性を有するため、ヨウ素と反応してヨウ化水素と硫酸を生成する。ブンゼン反応で生成するヨウ化水素の物質量に対してヨウ素の物質量が過剰に存在する段階では、ブンゼン反応と同時に相分離が起こる。ヨウ素とヨウ化水素は親和性が大きいため、ヨウ化物イオンとヨウ素との錯形成反応(式(4)〜(6))が進み、ポリヨウ化水素が生成し、下相へ濃縮される。
【0033】
比重の小さい硫酸水溶液は上相へと相分離される。硫酸水溶液とポリヨウ化水素酸水溶液の2相液へ、ヨウ素を溶解し、水溶液とは混じり合わない溶媒を添加する。そのような溶媒として、たとえば、第1の実施形態で述べたイオン液体であるトリオクチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドが好適である。イオン液体の相は添加直後は最上相の硫酸水溶液相と最下相のポリヨウ化水素酸水溶液相の中間に位置しているが、ポリヨウ化水素酸水溶液相中のヨウ素がイオン液体の相へ移行し、ヨウ素の移行に伴ってヨウ化水素も移行し、上相の硫酸水溶液相とポリヨウ化水素酸を溶解したイオン液体相の2相が形成される。硫酸はイオン液体へ溶解していかないため、この段階で硫酸とヨウ化水素を完全に分離できる。ポリヨウ化水素酸を溶解したイオン液体の相を分取し、蒸留することによりヨウ化水素を単離できる。
【0034】
この実施形態では、イオン液体の界面またはイオン液体中においてブンゼン反応を起こし、生成したヨウ化水素はポリヨウ化水素酸としてイオン液体中へ抽出することにより、ブンゼン反応で生成した硫酸とヨウ化水素を完全に分離することができる。水溶液に対して相溶解しないイオン液体を使用することにより、硫酸水溶液がイオン液体へ混入することはなく、またブンゼン反応が進行するとともに生成する2相液の下相中の水もイオン液体中に溶解することがない。
【0035】
硫酸とヨウ化水素を完全に分離することにより、ブンゼン反応の後段で実施する蒸留において、硫酸とヨウ化水素の副反応による硫黄化合物の生成を完全に抑制できる(式(12))。
【0036】
一方、二酸化硫黄の全量を水に溶解することにより、すべて亜硫酸へ変換することができる。亜硫酸はヨウ素とは定量的に反応するため、ブンゼン反応で生成するヨウ化水素と余剰の二酸化硫黄が副反応を起こしてヨウ化水素が消費されることがない(式(13))。
【0037】
[第3の実施形態]
図3は本発明の第3の実施形態に係るヨウ化水素製造装置(水素製造装置)の概略構成図である。
【0038】
水素製造装置は、二酸化硫黄溶解部(1,2)、加圧ブンゼ反応槽3、蒸留部(4,5,6)、ヨウ化水素分解塔8、硫酸分解塔10、配管11〜18、圧力調整部(19,20,21)などから構成される。
【0039】
二酸化硫黄溶解部は二酸化硫黄溶解槽1と水供給タンク2とを含み、硫酸分解塔10から発生する二酸化硫黄を、水供給タンク2からの水とともに、配管11を経由して二酸化硫黄溶解槽1に導入する。このとき、二酸化硫黄は加圧ポンプ(図示せず)および背圧弁19を用いて二酸化硫黄溶解槽1内の圧力がゲージ圧力計で0.1MPa以上になるように調整制御して供給する。二酸化硫黄溶解槽1内において二酸化硫黄を完全に溶解水和させて亜硫酸水溶液を生成させた後に、加圧ブンゼン反応槽3へ水和した二酸化硫黄を供給する。
【0040】
加圧ブンゼン反応槽3にはあらかじめ、ヨウ素、水および所定の溶媒を入れておく。この所定の溶媒は、第1および第2の実施形態と同様に、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない溶媒であって、たとえばそのような特性を有するイオン液体である。加圧ブンゼン反応槽3の中でヨウ素と二酸化硫黄の水和水(亜硫酸水溶液)をブンゼン反応させ、ヨウ化水素と硫酸を生成させる。加圧ブンゼン反応槽3には背圧弁20が接続され、加圧ブンゼン反応槽3内の圧力が、ゲージ圧力計でたとえば0.1MPa以上になるように調節されている。
【0041】
ブンゼン反応後に、ヨウ素とヨウ化水素を含んだ加圧ブンゼン反応槽3内の下相液のみを、配管12を経由して蒸留塔リボイラー4へ圧送し、蒸留を行なう。蒸留塔リボイラー4で留出したヨウ化水素を、凝縮器5に導き、冷媒で冷却し、液化ガスとしてヨウ化水素回収管6に捕集する。蒸留後、蒸留塔リボイラー4に残留したヨウ素を含むイオン液体は配管15を経由して加圧ブンゼン反応槽3へ戻される。
【0042】
一方、加圧ブンゼン反応槽3の上相に分離された硫酸水溶液は、配管13を経由して硫酸分解塔10へ送られる。硫酸分解時に発生する水は配管17を経由して水供給タンク2へ戻る。硫酸分解塔10から発生する二酸化硫黄は、配管18を経由して二酸化硫黄溶解槽1へ戻される。
【0043】
ヨウ化水素回収管6に集められたヨウ化水素は、背圧弁21を通してヨウ化水素貯蔵槽7へ送られる。ヨウ化水素は、ヨウ化水素貯蔵槽7で気化されて、配管14を経由してヨウ化水素分解塔8に送られ、ここで水素とヨウ素に分解される。ヨウ化水素分解塔8で発生した水素は製品として回収され、ヨウ素は配管16を経由して加圧ブンゼン反応槽3へ戻されブンゼン反応に再利用される。なお、図3ではヨウ化水素分解塔8が2台並置されているが、何台であってもよい。
【0044】
以上説明した水素製造装置により、ヨウ素と二酸化硫黄と水を反応させてヨウ化水素と硫酸を生成する前に、まず加圧条件下で二酸化硫黄を水へ溶解させ、水和させる。加圧条件下において二酸化硫黄溶解槽1中で水に二酸化硫黄を注入することにより、二酸化硫黄を完全に水に溶解でき、亜硫酸水溶液が生成する。水和した二酸化硫黄は還元性を有するため、ヨウ素へ添加することにより、ヨウ素と酸化還元反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成する。加圧状態を維持したまま加圧ブンゼン反応槽3へ圧送することにより、高濃度を維持した亜硫酸水溶液をヨウ素と酸化還元反応させることができる。そのため大気圧条件下に比較して使用する二酸化硫黄の単位物質量あたり生成するヨウ化水素は、加圧条件下の方が大きくなる。
【0045】
ブンゼン反応で生成するヨウ化水素の物質量に対してヨウ素の物質量が過剰に存在する段階では、ブンゼン反応と同時に相分離が起こる。ヨウ素とヨウ化水素は親和性が大きいため、ヨウ化物イオンとヨウ素との錯形成反応(式(4)〜(6))が進み、ポリヨウ化水素が生成し、下相へ濃縮される。
【0046】
比重の小さい硫酸水溶液は上相へと相分離される。このときに2相液に対して、ヨウ素を溶解し水溶液とは相溶解しない溶媒(イオン液体)が存在すると下相中のヨウ素がイオン液体中へ溶解移行し、これに伴ってヨウ化水素もイオン液体相へ移行する。硫酸はイオン液体中に溶解しないため、この段階においてヨウ化水素と硫酸を完全に分けることができる。
【0047】
ヨウ素を溶解して水溶液とは相溶解しない溶媒として、化学的に不活性であり、上相および下相とも反応しないイオン性液体を使用することにより、ヨウ化水素と硫酸の相分離を向上できる。通常の2相分離では、ヨウ素とヨウ化水素の錯形成反応により生成したポリヨウ化水素の下相液への濃縮が行なわれるが、上相の硫酸水溶液が常に下相に接触しているため上相と下相との界面から相互に溶解平衡に到達するまで上相の硫酸水溶液が下相へ移行してしまう。また界面で副反応による硫黄の生成も観察される。イオン液体は水をはじめとするほとんどの溶媒と溶解せず、化学的に安定であるため反応して分解することもない。
【0048】
かくして、ブンゼン反応で生成するヨウ化水素と硫酸の相分離において、ヨウ化水素と硫酸を完全に分離することができる。ヨウ素を含むイオン液体相でブンゼン反応が起こった場合に、ヨウ化水素はヨウ素との親和性からそのままイオン液体相に留まるが、硫酸は比重が小さく、イオン液体中に溶解しないため上相へ移行する。上相へ移行した硫酸は最下相のイオン液体相中のポリヨウ化水素の水溶液へ混合することはない。
【0049】
この実施形態によれば、二酸化硫黄をあらかじめ水へ溶解し亜硫酸水溶液としておくことにより、二酸化硫黄と水の反応による硫黄の生成を回避できる。また注入した二酸化硫黄すべてをヨウ素と反応させることができる。これにより、水和しない二酸化硫黄を加圧ブンゼン反応槽へ持ち込むことがなく、二酸化硫黄とブンゼン反応で生成したヨウ化水素が副反応を起こして硫黄や硫化水素などの硫黄化合物を生成してしまう危険性を回避できる(式(13))。
【0050】
ブンゼン反応で生成したヨウ化水素と硫酸の相分離において、下相のヨウ素およびヨウ化水素をイオン性液体相へ取り入れることにより、硫酸は上相へ、ヨウ化水素はイオン液体相へ移行し、ポリヨウ化水素酸と硫酸を完全に分けることができる。ポリヨウ化水素酸を含むイオン液体相へ硫酸が溶け込むことがないため、下相においてヨウ化水素と硫酸が副反応することを回避できる(式(12))。またイオン液体相は水も入れないため、イオン液体相はヨウ素とヨウ化水素とイオン液体だけから構成され、加圧条件下ではヨウ化水素と水との割合が共沸組成である57%を超えているため、その下相液からヨウ化水素を蒸留により単離できる。このとき蒸留される下相液には硫酸をはじめとする硫黄化合物が存在していないため、下相液蒸留時にヨウ化水素と硫酸との副反応が起こることなく、ヨウ化水素を単離できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るヨウ化水素製造方法(水素製造方法)を示すフロー図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るヨウ化水素製造方法(水素製造方法)を示すフロー図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るヨウ化水素製造装置(水素製造装置)の概略構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 … 二酸化硫黄溶解槽
2 … 水供給タンク
3 … 加圧ブンゼン反応槽
4 … 蒸留塔リボイラー
5 … 凝縮器
6 … ヨウ化水素回収管
7 … ヨウ化水素貯蔵槽
8 … ヨウ化水素分解塔
10 … 硫酸分解塔
11,12,13,14,15,16,17,18 … 配管
19,20,21 … 背圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させてヨウ素溶液を生成し、
このヨウ素溶液中に、二酸化硫黄および水に溶解した二酸化硫黄を注入してブンゼン反応を起こしてヨウ化水素と硫酸を生成し、
前記ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素を前記所定の溶媒に溶解させるとともに、前記ブンゼン反応によって生成された硫酸水溶液と分離すること、
を特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項2】
ヨウ素と、ブンゼン反応によって生成されたヨウ化水素および硫酸水溶液とが収容された容器に、ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒を混入して、この所定の溶媒にヨウ素およびヨウ化水素を溶解させて硫酸水溶液と分離すること、を特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項3】
前記所定の溶媒を混入して、これを連続的に接触させて、この所定の溶媒にヨウ素およびヨウ化水素を溶解させて硫酸水溶液と分離すること、を特徴とする請求項2に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項4】
前記硫酸水溶液と分離されてヨウ素およびヨウ化水素を溶解している前記所定の溶媒を、蒸留して、ヨウ化水素を単離すること、を特徴とする請求項2または請求項3に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項5】
前記所定の溶媒はイオン液体であること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項6】
前記イオン液体はトリオクチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドであること、を特徴とする請求項5に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項のヨウ化水素製造方法によって製造されたヨウ化水素を水素とヨウ素に分解すること、を特徴とする水素製造方法。
【請求項8】
加圧状態で二酸化硫黄を水に溶解させて亜硫酸水溶液を生成する二酸化硫黄溶解槽と、
ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させたヨウ素溶液と、前記二酸化硫黄溶解槽から亜硫酸水溶液を受け入れて加圧状態でブンゼン反応を起こさせてヨウ化水素と硫酸を生成するブンゼン反応槽と、
前記ブンゼン反応槽の下部から取り出された前記所定の溶媒とこの溶媒に溶解したヨウ化水素およびヨウ素を蒸留してヨウ化水素を得るための蒸留塔リボイラーおよび凝縮器と、
前記凝縮器で分離されたヨウ素および前記所定の溶媒を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、
前記ブンゼン反応槽の上部から取り出された硫酸水溶液を二酸化硫黄と水と酸素に分解する硫酸分解塔と、
前記硫酸分解塔で得られた二酸化硫黄を前記二酸化硫黄溶解槽に戻す配管と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造装置。
【請求項9】
加圧状態で二酸化硫黄を水に溶解させて亜硫酸水溶液を生成する二酸化硫黄溶解槽と、
ヨウ素およびヨウ化水素を溶解可能であって水溶液と混合しない所定の溶媒にヨウ素を溶解させたヨウ素溶液と、前記二酸化硫黄溶解槽から亜硫酸水溶液を受け入れて加圧状態でブンゼン反応を起こさせてヨウ化水素と硫酸を生成するブンゼン反応槽と、
前記ブンゼン反応槽の下部から取り出された前記所定の溶媒とこの溶媒に溶解したヨウ化水素およびヨウ素を蒸留してヨウ化水素を得るための蒸留塔リボイラーおよび凝縮器と、
前記凝縮器で分離されたヨウ素および前記所定の溶媒を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、
前記ブンゼン反応槽の上部から取り出された硫酸水溶液を二酸化硫黄と水と酸素に分解する硫酸分解塔と、
前記硫酸分解塔で得られた二酸化硫黄を前記二酸化硫黄溶解槽に戻す配管と、
前記凝縮器で得られたヨウ化水素を水素とヨウ素に分解するヨウ化水素分解塔と、
前記ヨウ化水素分解塔で得られたヨウ素を前記ブンゼン反応層に戻す配管と、
を有することを特徴とする水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−100867(P2008−100867A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283809(P2006−283809)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)