説明

ヨウ化水素製造方法および水素製造方法並びにそれらのための製造装置

【課題】ブンゼン反応を利用したヨウ化水素製造方法において、ヨウ化水素を含んだ下相液から、ヨウ化水素ガスを効率よく取り出せるようにする。
【解決手段】水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程(1)と、2相分離工程で分離された下相液に脱水剤を添加して脱水して、無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程(4)と、ヨウ化水素ガス生成工程で得られたヨウ化水素ガスを熱分解して水素を生成させる熱分解工程(6)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱化学分解法(IS法)を利用したヨウ化水素製造方法およびこれを利用した水素製造方法、並びにそのための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスである二酸化炭素(CO)の排出を抑えた燃料として水素を用いることが注目されている。そして、この水素の製造方法の一つとして、IS法(Iodine-Sulfur Method)が知られている(特許文献1〜4など参照)。
【0003】
IS法の主要な反応は反応式(1)〜(3)に示す3つの反応から成り立っている。まず水とヨウ素と二酸化硫黄を70〜100℃において反応させて、水素の原料であるヨウ化水素を生成する。このときに硫酸も同時に生成するが、ヨウ素をヨウ化水素の物質量の約2〜3倍量使用して、生成したヨウ化水素を抽出することでヨウ化水素と硫酸を分離する。2番目の工程として、ヨウ化水素を400℃で熱分解し、目的の水素を得る。3番目の工程では、硫酸を900℃の高温で熱分解して二酸化硫黄に戻す。ヨウ素はヨウ化水素の熱分解で得られるので、二酸化硫黄とともに再利用する。IS法は、二酸化硫黄とヨウ素と熱エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解するもので、熱化学分解法とも呼ばれている。
【0004】
+ SO +2HO → 2HI + HSO (1)
2HI → H + I (2)
2HSO → 2SO+ 2HO + O (3)
SO +HO → HSO (4−1)
SO +nHO → SO・nHO (4−2)
反応式(1)のヨウ化水素生成反応はブンゼン(Bunsen)反応とも呼ばれており、ヨウ化水素の生成効率が下流の反応に影響して、水素生成の効率を左右すると言ってもよい。ブンゼン反応で生成したヨウ化水素は過剰なヨウ素を用いて抽出され、その後電気透析あるいは蒸留などにより濃縮して、共沸組成を超える高濃度のヨウ化水素水溶液をつくる。共沸組成を超えたヨウ化水素水溶液は蒸留することにより容易にヨウ化水素ガスを取り出すことができる。
【0005】
ヨウ化水素ガスは、反応式(2)のヨウ化水素の分解により水素とヨウ素に分解される。ヨウ化水素の分解反応(ボーデンスタイン(Bodenstein)の反応)は均一気相反応である。ヨウ化水素分解反応は、400℃近傍において水素とヨウ素に解離し、ヨウ化水素、水素およびヨウ素の混合平衡気体として存在する。その圧平衡定数は50程度と求められており、解離度は22%である。したがって、ヨウ化水素生成反応において、ヨウ化水素生成率を高めて、共沸組成を超えるヨウ化水素水溶液を得ることは水素製造プロセスの中で重要である。
【0006】
亜硫酸とヨウ素は瞬時に定量的に反応するのに対して、二酸化硫黄とヨウ素とは化学量論的に数%しか反応しない。これは、二酸化硫黄がヨウ素と反応するときには水が必要であり、二酸化硫黄が水に溶解して亜硫酸に変化しないとヨウ素とは反応しないことによる。二酸化硫黄が水に溶解する反応の平衡定数は0.054であるが、この数値を考慮すれば、亜硫酸水とヨウ素の反応速度に比較して、二酸化硫黄が55℃では8%、80℃では4%しか反応が進まないというデータは合理的である。
【0007】
また、二酸化硫黄は直線的分子であり双極子モーメントがないのに対して、二酸化硫黄が水に溶解して亜硫酸になった場合は亜硫酸分子中の硫黄原子が正に帯電するため、ヨウ素と相互作用しやすい可能性がある。二酸化硫黄とヨウ素と水の反応で55℃で反応させた場合の方が80℃よりも速いのは、二酸化硫黄が温度の上昇に伴って水への溶解が減少することと、80℃のときにはヨウ素が昇華するため反応効率が下がってしまうことによる。
【0008】
水溶液系にヨウ化物イオンが存在する場合には、ヨウ素とヨウ化物イオンが一種の錯形成を起こし、水への溶解度が大きくなる。濃度が大きくなるに従い、分子も大きくなり、最大でIにまで到達する。
【0009】
+ I → I (5)
2I + I → I (6)
3I + I → I (7)
4I + I → I (8)
ブンゼン反応後の生成液中のヨウ化水素と硫酸は、ヨウ素を添加して、密度の違いから2相として分離する。ヨウ化物イオンとヨウ素は親和性があり、共存すると反応式(5)〜(8)に示したように会合することが知られている。その生成定数は調べられており、25℃におけるヨウ化ナトリウム水溶液中のヨウ化物イオン・ヨウ素錯体の生成定数は以下に示すとおりである。ただしβとβはデータがないのでβとβの差から見積もった。
【0010】
log(β/mol−1 dm
=log([I]/[I][I]/mol−1 dm
=2.86 (9−1)
log(β/mol−2 dm
=log([I]/[I][I/mol−2 dm
=5.27 (10−1)
log(β/mol−3 dm
=log([I]/[I][I/mol−3 dm
=7.23 (11−1)
log(β/mol−4 dm12
=log([I]/[I][I/mol−4 dm12
=8.75 (12−1)
溶液中の全ヨウ化物イオン濃度C-は式(13)で表すことができ、C-と各全平衡定数から式(14)〜(18)が求まる。
【0011】
-=[I]+[I]+[I]+[I]+[I] (13)
式(9−1)より、
[I]=[I][I]β (9−2)
式(10−1)より、
[I]=[I][Iβ (10−2)
式(11−1)より、
[I]=[I][Iβ (11−2)
式(12−1)より、
[I]=[I][Iβ (12−2)
したがって
α=[I]/C-
=1/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (14)
α=[I]/C-
=[I]β/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (15)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (16)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (17)
α=[I]/C-
=[Iβ/(1+[I]β+[Iβ
+[Iβ+[Iβ) (18)
α〜αは各ヨウ化物イオン−ヨウ素錯体の生成分布を表している。生成分布曲線からヨウ化物イオンはヨウ素と相互作用し錯形成しやすいことがわかる。遊離の[I]が大きいところではヨウ化物イオンはヨウ素と結びついて高次の錯体を形成している。したがって、2相分離したHI/Iの下相側ではヨウ化水素がヨウ素と安定に結びつく。水が少ない条件でヨウ化物イオンの回収率が高くなるのは、相対的にヨウ素濃度が高くなるため、高次の錯体を形成し、下相への移行が増えると考えられる。
【特許文献1】特公昭60−52081号公報
【特許文献2】特公昭60−48442号公報
【特許文献3】特公平4−37002号公報
【特許文献4】米国特許第4127644号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術では気体のヨウ化水素を取り出すためにはブンゼン反応終了後にヨウ化水素と硫酸とをヨウ素を用いて2相分離させた後、下相液をヨウ化水素精製工程に移し、下相液中に含まれる硫酸をブンゼン反応の逆反応を起こして除去する。この段階ではヨウ化水素の重量百分率濃度(=(下相液に含まれるヨウ化水素の質量)/(下相液に含まれるヨウ化水素と水の質量の和))が共沸組成を超えることはできず、容易に無水のヨウ化水素ガスを直接取り出すことができない。そのため、ヨウ化水素を含む生成液を電気透析により濃縮して共沸組成を超えるまでヨウ化水素を濃縮する。ヨウ化水素の共沸組成は57%である。
【0013】
電気透析により共沸組成を超えて濃縮したヨウ化水素水溶液からは分離が容易であるため、次工程の蒸留により純粋なヨウ化水素ガスを取り出すことができる。ブンゼン反応終了後の反応液の2相分離により、下相液中のヨウ化水素濃度が共沸組成を超えることが可能ならば、電気透析等による濃縮工程は不要となる。また、下相液から直接ヨウ化水素ガスを取り出すことにより蒸留操作は不要となる。
【0014】
本発明は、ブンゼン反応を利用したヨウ化水素製造方法、水素製造方法およびこれらのための製造装置において、ヨウ化水素を含んだ下相液から、ヨウ化水素ガスを効率よく取り出せるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るヨウ化水素製造方法は、水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、前記2相分離工程で分離された前記下相液に脱水剤を添加して脱水させる、無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るヨウ化水素製造方法の他の態様は、水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、前記2相分離された下相液に、不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る水素製造方法は、水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、前記2相分離工程で分離された前記下相液に脱水剤を添加して脱水させて、無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、前記ヨウ化水素ガス生成工程で得られたヨウ化水素ガスを熱分解して水素を生成させる熱分解工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る水素製造方法の他の態様は、水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、前記2相分離された下相液に、不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、前記ヨウ化水素ガス生成工程で得られたヨウ化水素ガスを熱分解して水素を生成させる熱分解工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るヨウ化水素製造装置は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させるためのヨウ化水素製造装置において、前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、前記下相液貯蔵槽に脱水剤を注入することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる脱水剤注入手段と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るヨウ化水素製造装置の他の態様は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させるためのヨウ化水素製造装置において、前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、前記下相液貯蔵槽に不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる不活性ス通気手段と、を有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る水素製造装置は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成し、これによって生成されたヨウ化水素から水素ガスを生成させるための水素製造装置において、前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、前記下相液貯蔵槽に脱水剤を注入することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる脱水剤注入手段と、前記脱水剤注入手段によって生成された無水のヨウ化水素ガスを熱分解して水素ガスを生成させる熱分解手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る水素製造装置の他の態様は、ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成し、これによって生成されたヨウ化水素から水素ガスを生成させるための水素製造装置において、前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、前記下相液貯蔵槽に不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる不活性ス通気手段と、前記不活性ス通気手段によって生成された無水のヨウ化水素ガスを熱分解して水素ガスを生成させる熱分解手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ブンゼン反応を利用したヨウ化水素製造方法、水素製造方法およびこれらのための製造装置において、ヨウ化水素を含んだ下相液から、ヨウ化水素ガスを効率よく取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る水素製造方法およびそのための装置の実施形態を説明する。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係る水素製造方法のフロー図である。この製造方法のフローは次のとおりである。
【0026】
(1)0.1MPa以上の加圧条件下において水とヨウ素と二酸化硫黄を反応させて生成したヨウ化水素と硫酸を反応と同時に加圧条件下で2相分離させる。
【0027】
(2)上相と下相液は分離し、下相液は、高濃度のヨウ化水素を含む液となる。
【0028】
(3)下相液に脱水剤を添加する。
【0029】
(4)下相液に脱水剤を添加すると同時に下相液からヨウ化水素ガスが発生する。
【0030】
(5)ヨウ化水素ガスをヨウ化水素分解塔へ送り、水素を得る。
【0031】
(6)脱水剤の一つとして上相液を濃縮分解する際に生成する硫酸を添加する。
【0032】
下相液のヨウ素および上相液の分解から得られる二酸化硫黄、ヨウ化水素の分解から得られるヨウ素は上記(1)のヨウ化水素生成反応へ戻す。
【0033】
この実施形態で、加圧条件下でヨウ化水素生成反応と2相分離を同時に行なうことにより下相液に共沸組成濃度(57%)以上のヨウ化水素水溶液が生成濃縮され、そこに脱水剤を添加することによりヨウ化水素に強く水和している水分子を切り離すことができ、ほとんど水を含まない無水のヨウ化水素を気体として取り出すことができる。
【0034】
加圧条件下で下相液にヨウ化水素を濃縮できるため、電気透析を使用してヨウ化水素を濃縮する必要はない。また脱水剤を作用させることで無水のヨウ化水素ガスを抽出することができ、蒸留などによりヨウ化水素を取り出す必要がなく、熱エネルギーを作用させてヨウ素とヨウ化水素の分離を行なう必要がない。
【0035】
[第2の実施形態]
図2は本発明の第2の実施形態に係る水素製造装置の構成図であり、第2の実施形態を説明するものである。
【0036】
反応槽2は耐圧容器であって、反応槽2内の圧力を測定するための圧力計3が設置されている。反応槽2の上方にヨウ素溶液供給タンク5が配置され、ヨウ素溶液供給配管20およびヨウ素溶液供給弁21を介して反応槽2内にヨウ素および水を供給できるようになっている。反応槽2の外側に二酸化硫黄ボンベ1と、窒素ボンベ22が配置され、二酸化硫黄と窒素がそれぞれ、質量流量計23、二酸化硫黄供給弁24および二酸化硫黄供給配管25を介して反応槽2に送られるようになっている。二酸化硫黄供給配管25は反応槽2の上端から反応槽2内に入り、その下端は反応槽10内の上部にまで延びている。二酸化硫黄ボンベ1にはヒーター26が設けられている。
【0037】
反応槽2の下部には、下相液排出弁28を有する下相液排出管27が接続され、下相液排出管27を通じて反応槽2の下相液だけを抽出できるようになっている。反応槽2の上部には、背圧弁4を有する排気管29が接続され、背圧弁4の開度を調節することによって反応槽2内の圧力を大気圧以上の適当な圧力に調節できるようになっている。
【0038】
下相液排出管27は下相液貯蔵槽(ヨウ化水素単離槽)6に接続され、反応槽2の下相液が下相液貯蔵槽6に導かれて貯留されるように構成されている。下相液貯蔵槽6の上方には脱水剤供給タンク7が配置され、脱水剤供給タンク7内の脱水剤が、脱水剤供給配管30および脱水剤供給弁31を介して下相液貯蔵槽6に供給できるようになっている。
【0039】
下相液貯蔵槽6の上部は、ヨウ化水素排出管32およびヨウ化水素排出弁33を介して、ヨウ化水素分解塔8に接続されている。
【0040】
上記構成で、二酸化硫黄ボンベ1内の二酸化硫黄は、ヒーター26によって30〜50℃に加熱して反応槽2へ注入される。このとき二酸化硫黄は、背圧弁4等を用いて、反応槽2内の圧力がゲージ圧力計3で0.1MPa以上になるように調整制御する。反応槽2内には、あらかじめ、ヨウ素溶液供給タンク5からヨウ素溶液供給配管20およびヨウ素溶液供給弁21を介してヨウ素および水を入れておく。あるいは、ヨウ素と水の供給槽であるヨウ素溶液供給タンク5からヨウ素溶液供給配管20およびヨウ素溶液供給弁21を介して反応槽2へ補充する。水とヨウ素と二酸化硫黄を反応させ、生成したヨウ化水素と硫酸は、前者が下相、後者が上相に2相分離する。共沸組成以上のヨウ化水素水溶液を含む下相液を、下相液排出管27および下相液排出弁28を介して下相液貯蔵槽6へ移す。
【0041】
下相液貯蔵槽6で、脱水剤供給タンク7から脱水剤供給配管30および脱水剤供給弁31を介して、脱水剤を下相液貯蔵槽6内の下相液へ添加する。これにより、下相液貯蔵槽6内でヨウ化水素ガスが発生する。このヨウ化水素ガスは、ヨウ化水素排出管32およびヨウ化水素排出弁33を介してヨウ化水素分解塔8へ導かれる。ヨウ化水素ガスはヨウ化水素分解塔8で分解し、水素を生成する。
【0042】
上述のように、この実施形態では、ヨウ化水素水溶液を含む下相液に脱水剤を作用させることにより、ヨウ化水素に強く水和している水分子を切り離すことができ、ほとんど水を含まない無水のヨウ化水素を気体として取り出すことができる。また五酸化二リンや硫酸などの強酸を使用することによりヨウ化水素を単離できる。したがって、熱エネルギーを作用させてヨウ素とヨウ化水素の分離を行なう必要がない。
【0043】
[第3の実施形態]
図3は本発明の第3の実施形態に係る水素製造装置を説明するものであり、第2の実施形態と同一の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
この実施形態では、反応槽2内の下相液が、下相液排出管27および下相液排出弁28を介して下相液貯蔵槽9へ導かれるように構成されており、この下相液貯蔵槽9内の下相液に、アルゴン、窒素あるいは空気などの反応性が不活性な気体を通気し、ヨウ化水素を単離するように構成されている。下相液貯蔵槽9で発生したヨウ化水素ガスはヨウ化水素分解塔8へ導入されて、水素を生成する。この実施形態では、第2の実施形態(図2)にあった脱水剤供給タンク7、脱水剤供給配管30、脱水剤供給弁31は不要である。
【0045】
この実施形態では、不活性ガスを吹き込むことにより共沸組成以上の飽和以上に溶け込んでいたヨウ化水素が水溶液から放出され、無水のヨウ化水素ガスを抽出することができる。このため、熱エネルギーを作用させてヨウ素とヨウ化水素の分離を行なう必要がない。
【0046】
[第4の実施形態]
図4は本発明の第4の実施形態に係る水素製造装置を説明するものであり、第2の実施形態と同一の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
この実施形態では、脱水剤として硫酸が用いられる。反応槽2内の上相液部に上相液排出管40が接続され、上相液排出弁41を介して上相液濃縮器リボイラー10に連絡している。上相液濃縮器リボイラー10で、上相液の硫酸が濃縮され、濃縮された硫酸が硫酸戻し配管51を介して脱水剤供給タンク7へ戻される。上相液濃縮器リボイラー10の上方には硫酸分解塔11が配置され、上相液濃縮器リボイラー10から排出された揮発分は硫酸分解塔11で分解し、二酸化硫黄として、二酸化硫黄戻し配管42、二酸化硫黄戻し弁43を介して、反応槽2に戻される。
【0048】
この実施形態によれば、硫酸を作用させることにより、ヨウ化水素に強く水和している水分子を切り離すことができて、ほとんど水を含まない無水のヨウ化水素を気体として取り出すことができる。また、上相液から濃縮して得た硫酸を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る水素製造方法の第1の実施形態を示すフロー図。
【図2】本発明に係る水素製造方法の第2の実施形態で使用される水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【図3】本発明に係る水素製造方法の第3および第5の実施形態で使用される水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【図4】本発明に係る水素製造方法の第4の実施形態で使用される水素製造装置の一例を示す系統構成図。
【符号の説明】
【0050】
1…二酸化硫黄ボンベ、2…反応槽、3…圧力計、4…背圧弁、5…ヨウ素溶液供給タンク、6…下相液貯蔵槽(ヨウ化水素単離槽)、7…脱水剤供給タンク、8…ヨウ化水素分解塔、9…下相液貯蔵槽(ヨウ化水素単離槽)、10…上相液濃縮リボイラー、11…硫酸分解塔、20…ヨウ素溶液供給配管、21…ヨウ素溶液供給弁、22…窒素ボンベ、23…質量流量計、24…二酸化硫黄供給弁、25…二酸化硫黄供給配管、26…ヒーター、27…下相液排出管、28…下相液排出弁、29…排気管、30…脱水剤供給配管、31…脱水剤供給弁、32…ヨウ化水素排出管、33…ヨウ化水素排出弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、
前記2相分離工程で分離された前記下相液に脱水剤を添加して脱水させる、無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項2】
前記脱水剤は赤リンまたは五酸化二リン、硫酸を含むことを特徴とする請求項1記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項3】
前記2相分離工程で分離された前記上相液中の硫酸を濃縮する硫酸濃縮工程を有し、
前記脱水剤として、前記硫酸濃縮工程で濃縮された硫酸を用いること
を有することを特徴とする請求項2に記載のヨウ化水素製造方法。
【請求項4】
水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、
前記2相分離された下相液に、不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造方法。
【請求項5】
水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、
前記2相分離工程で分離された前記下相液に脱水剤を添加して脱水させて、無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、
前記ヨウ化水素ガス生成工程で得られたヨウ化水素ガスを熱分解して水素を生成させる熱分解工程と、
を有することを特徴とする水素製造方法。
【請求項6】
水とヨウ素と二酸化硫黄を大気圧以上の加圧条件下で反応させて、ヨウ化水素および硫酸を生成させるとともに、ヨウ化水素の濃度が比較的高い下相液とヨウ化水素の濃度が比較的低い上相液とに2相分離させる2相分離工程と、
前記2相分離された下相液に、不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させるヨウ化水素ガス生成工程と、
前記ヨウ化水素ガス生成工程で得られたヨウ化水素ガスを熱分解して水素を生成させる熱分解工程と、
を有することを特徴とする水素製造方法。
【請求項7】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させるためのヨウ化水素製造装置において、
前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、
前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、
前記下相液貯蔵槽に脱水剤を注入することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる脱水剤注入手段と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造装置。
【請求項8】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させるためのヨウ化水素製造装置において、
前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、
前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、
前記下相液貯蔵槽に不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる不活性ス通気手段と、
を有することを特徴とするヨウ化水素製造装置。
【請求項9】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成し、これによって生成されたヨウ化水素から水素ガスを生成させるための水素製造装置において、
前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、
前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、
前記下相液貯蔵槽に脱水剤を注入することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる脱水剤注入手段と、
前記脱水剤注入手段によって生成された無水のヨウ化水素ガスを熱分解して水素ガスを生成させる熱分解手段と、
を有することを特徴とする水素製造装置。
【請求項10】
ヨウ素と二酸化硫黄と水とを反応させてヨウ化水素と硫酸を生成し、これによって生成されたヨウ化水素から水素ガスを生成させるための水素製造装置において、
前記反応を大気圧以上の加圧下で行なわせるための耐圧容器である反応槽と、
前記反応槽内にヨウ素を含む水溶液を供給する手段と、
前記反応槽内に加圧された二酸化硫黄を供給する手段と、
前記反応槽内の圧力を大気圧よりも高い所定の圧力に保持する圧力調整手段と、
前記反応槽内の下部に生成された下相液を抽出して貯留する下相液貯蔵槽と、
前記下相液貯蔵槽に不活性なガスを通気することにより無水のヨウ化水素ガスを生成させる不活性ス通気手段と、
前記不活性ス通気手段によって生成された無水のヨウ化水素ガスを熱分解して水素ガスを生成させる熱分解手段と、
を有することを特徴とする水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−106628(P2007−106628A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298445(P2005−298445)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)