説明

ヨウ素の製造方法

【課題】晶析工程において塩素を用いなくとも、高品質のヨウ素を得ることができる、ヨウ素の製造方法を提供すること。
【解決手段】ヨウ素元素を含むイオンを含有する、ヨウ素濃度30g/L以下(I換算)の溶液に次亜塩素酸ソーダを添加して、ヨウ素を晶析させる晶析工程を備えることを特徴とする、ヨウ素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は、無機及び有機化合物の原料や、医薬、触媒、染料等として有用な化合物である。このヨウ素は、例えば、かん水等のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液を精製する精製工程、精製したヨウ素に還元剤を添加して、ヨウ素を主としてヨウ素イオンの形で溶液中に濃縮吸収させる濃縮吸収工程、得られたヨウ素吸収液に酸性条件下、酸化剤を添加してヨウ素を晶析させる晶析工程、及び晶析したヨウ素を溶融し更に精製する溶融工程を備える方法により工業的に製造される。
【0003】
上述の工程のうち、晶析工程においては、ヨウ素元素を含むイオンを酸化しヨウ素を晶析させるための酸化剤が用いられる。酸化剤としては、例えば亜硝酸塩、過酸化水素、塩素、次亜塩素酸ソーダ(次亜塩素酸ナトリウム)、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩が挙げられる。これらのうち、コストパフォーマンス等の点から、塩素及び次亜塩素酸ソーダが優れている。
【0004】
晶析工程における酸化剤として塩素を用いたヨウ素の製造方法は、例えば以下に説明する特許文献1及び2に開示されている。
特許文献1には、上述の精製工程、濃縮吸収工程及び晶析工程を備え、精製工程において水蒸気蒸留法を用いるヨウ素の製造方法が開示されている。
特許文献2には、上述の精製工程、濃縮吸収工程、晶析工程及び溶融工程を備え、精製工程においてイオン交換樹脂法を用いるヨウ素の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−158372号公報
【特許文献2】特開平6−157008号公報
【特許文献3】特開平6−199501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1及び2において、精製工程の前に有機ヨウ素化合物を含有する廃液からヨウ素を晶析させる際には、塩素又は次亜塩素酸ソーダが用いられているものの、晶析工程における酸化剤としては塩素のみが用いられており、次亜塩素酸ソーダは用いられていない。これは特許文献1及び2に限らず、晶析工程において次亜塩素酸ソーダは用いられていないのが現状である。
【0006】
このことは、従来のヨウ素の製造方法において、晶析工程における酸化剤として次亜塩素酸ソーダを用いると、高品質のヨウ素を得られなかったことに起因すると、本発明者らは考えている。
【0007】
すなわち、晶析工程は硫酸酸性で行われることが多く、この硫酸が次亜塩素酸ソーダと反応することにより、硫酸ソーダが生成する。この硫酸ソーダが晶析するヨウ素に取り込まれることによって、ヨウ素中の不純物(不揮発物)の濃度が上がる。これにより、従来の方法では高品質のヨウ素を得られないために、晶析工程において酸化剤として次亜塩素酸ソーダは用いられていなかったと本発明者らは考えている。
【0008】
また、上述の塩素ガス(液化塩素)は、高圧ガス保安法における特定高圧ガスであって、取り扱い、保管等において法的な規制がある。そこで近年、安全性の問題から、塩素ガスの使用を止めて、代替物を使用することを推奨する傾向にある。
【0009】
そこで、本発明は、晶析工程において塩素を用いなくとも、高品質のヨウ素を得ることができる、ヨウ素の製造方法を提供することを目的とする。なお、「高品質」とは、得られるヨウ素の純度が99.7%以上であり、ヨウ素中における不揮発物の濃度が0.02%以下であり、かつヨウ素中における硫酸塩の濃度がSO換算で50ppm未満であることをいう。また、これらの数値範囲は製品ヨウ素の出荷規格である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の硫酸ソーダが晶析するヨウ素に取り込まれることによる、ヨウ素中の不揮発物の濃度の増加を防止するためには、晶析工程に供されるヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液におけるナトリウムの濃度を低くすることが考えられる。しかし、本発明者らは、このナトリウムの濃度よりも、ヨウ素濃度を所定の範囲とすることが重要であることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、ヨウ素元素を含むイオンを含有する、ヨウ素濃度30g/L以下(I換算)の溶液に次亜塩素酸ソーダを添加して、ヨウ素を晶析させる晶析工程を備えることを特徴とする、ヨウ素の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の製造方法によれば、晶析工程において塩素を用いなくとも、高品質のヨウ素を得ることができる。このような効果が得られる理由は必ずしも明らかでないが、本発明者らは、ヨウ素濃度を特定の範囲としたことにより、晶析するヨウ素中への不純物(硫酸ナトリウム等の無機塩や水溶性の低い有機物)の取り込みが十分に防止されることが一つの要因であると考えている。
【0013】
なお、本明細書中、「ヨウ素元素を含むイオン」とは、IやI、IO等のヨウ素元素を含むイオンを示す。また、上記溶液は遊離ヨウ素を含むものであってもよく、「ヨウ素濃度」とは、上記溶液に含まれるヨウ素元素を含むイオン、及び遊離ヨウ素を全てI原子換算した場合の濃度を示す。なお、「ヨウ素濃度」は、硫酸酸性下、亜硝酸ナトリウムを用いてヨウ素元素を含むイオンをヨウ素(I)として遊離させた後、有機溶媒にて抽出し、抽出したヨウ素(I)をチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することにより求めることができる。
【0014】
また、上述の製造方法によれば、晶析させたヨウ素の純度を99.7%以上とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、晶析工程において塩素を用いなくとも、高品質のヨウ素を得ることができる、ヨウ素の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0017】
図1は、本発明におけるヨウ素の製造方法の好適な実施形態を示すフローチャートである。このフローチャートにあるように、本実施形態の製造方法では精製工程、濃縮吸収工程、晶析工程、溶融工程及び製品化工程を経てヨウ素が製造される。以下、各工程について詳述する。
【0018】
「精製工程」は、ヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液から不純物を取り除き、精製する工程である。ヨウ素の精製は従来公知の方法、例えばブローイングアウト法、イオン交換樹脂法、水蒸気蒸留法等により行うことができる。
【0019】
「濃縮吸収工程」は、精製工程において精製したヨウ素に還元剤を含む溶液を添加して、ヨウ素を主としてヨウ素イオンの形で溶液中に吸収させると同時にヨウ素を濃縮する工程である。この濃縮吸収工程は従来公知の方法により行うことができる。また、還元剤としては、例えば亜硫酸ソーダ(亜硫酸ナトリウム)、重亜硫酸ソーダ(亜硫酸水素ナトリウム)等を用いることができる。
【0020】
「晶析工程」は、濃縮吸収工程において得られたヨウ素吸収液に酸性条件下、酸化剤として次亜塩素酸ソーダを添加してヨウ素を晶析させ、泥状ヨウ素として回収する工程である。
【0021】
この晶析工程においては、濃縮吸収工程において得られた高濃度のヨウ素吸収液に水を加えて所定のヨウ素濃度に希釈した後に晶析することが要求される。晶析に供されるヨウ素吸収液におけるヨウ素濃度は30g/L以下であり、2〜28g/Lであることが好ましい。ヨウ素濃度が30g/Lを超える場合には、晶析により生成した泥状ヨウ素の中への不純物(硫酸ナトリウム等の無機塩や水溶性の低い有機物)の取り込みが多くなり、高品質のヨウ素を得ることができない。また、ヨウ素濃度が2g/L未満である場合には、晶析廃液が多量となり、それに伴い装置を大型化する必要があるため、生産性が低下する傾向にある。
【0022】
また、晶析に供されるヨウ素吸収液中の無機塩等の代表であるナトリウムの濃度は、15g/L以下であることが好ましく、6g/L以下であることがより好ましい。これによれば、ヨウ素をより高い純度で得ることができる。
【0023】
さらに、晶析に供されるヨウ素吸収液におけるナトリウムとヨウ素との濃度比は、0.10〜0.50であることが好ましく、0.12〜0.20であることがより好ましい。これによれば、ヨウ素をさらに高い純度で得ることができる。
【0024】
晶析工程において、溶液を「酸性」にするために用いる酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸が挙げられるが、硫酸を用いることが好ましい。「酸性条件」における溶液のpHは、0〜4.0であることが好ましく、0.5〜3.0であることがより好ましい。これによれば、ヨウ素を効率よく晶析させることができる。
【0025】
「次亜塩素酸ソーダ」としては、例えば、固形状のものや、水中に溶解させ溶液としたものを用いることができるが、操作性等の観点から、溶液を用いることが好ましい。次亜塩素酸ソーダ溶液としては、例えば通常流通している有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ソーダ液を用いることができる。
【0026】
添加する次亜塩素酸ソーダの量は、晶析電位を指標として決めることができる。次亜塩素酸ソーダは、晶析電位が450〜650mVとなるように添加することが好ましく、460〜600mVとなるように添加することがより好ましい。これによれば、ヨウ素を特に高い純度で得ることができる。
【0027】
「溶融工程」は、晶析したヨウ素を溶融し更に精製する工程である。ヨウ素の溶融は従来公知の方法により行うことができ、例えば120〜160℃でヨウ素を溶融させることができる。
【0028】
「製品化工程」は、溶融させたヨウ素を適宜冷却した後に、造粒や破砕等により成型し、ヨウ素製品を製造する工程である。造粒や破砕等による成型には、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。なお、実施例におけるヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液及び晶析工程における廃液のヨウ素濃度は、硫酸酸性下、亜硝酸ナトリウムを用いてヨウ素元素を含むイオンをヨウ素(I)として遊離させた後、有機溶媒にて抽出し、抽出したヨウ素(I)をチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することにより求めた。また、製造されたヨウ素の純度等はJIS K8920に準じて測定した。
【0030】
(実施例1)
ヨウ素濃度(I換算)20.4g/L、ナトリウム濃度(Na換算)2.87g/L(ナトリウムとヨウ素との濃度比0.14)のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液に、有効塩素濃度が12%である次亜塩素酸ソーダ溶液を添加し、晶析電位約500mV(490〜520mV、以下同じ)で晶析槽にて、泥状ヨウ素を晶析させた(晶析工程)。この泥状ヨウ素を溶液中から分離して、GLの1m溶融釜で約150℃にて溶融し、ヨウ素を更に精製した(溶融工程)。
得られたヨウ素について物性を測定したところ、不揮発物の濃度が0.008%であり、硫酸塩の濃度がSO換算で2ppmであり、ヨウ素の純度は99.82%であった。
なお、上述の晶析工程における廃液においては、ヨウ素濃度(I換算)が2.1g/Lであり、ナトリウムとヨウ素との濃度比は3.70であった。
【0031】
(実施例2)
ヨウ素濃度(I換算)25.8g/L、ナトリウム濃度(Na換算)2.86g/L(ナトリウムとヨウ素との濃度比0.11)のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液に、有効塩素濃度が12%である次亜塩素酸ソーダ溶液を添加し、晶析電位約500mVで晶析槽にて、泥状ヨウ素を晶析させた(晶析工程)。この泥状ヨウ素を溶液中から分離して、GLの1m溶融釜で約150℃にて溶融し、ヨウ素を更に精製した(溶融工程)。
得られたヨウ素について物性を測定したところ、不揮発物の濃度が0.009%であり、硫酸塩の濃度がSO換算で2.4ppmであり、ヨウ素の純度は99.82%であった。
なお、上述の晶析工程における廃液においては、ヨウ素濃度(I換算)が1.18g/Lであり、ナトリウムとヨウ素との濃度比は2.99であった。
【0032】
(実施例3)
ヨウ素濃度(I換算)28.3g/L、ナトリウム濃度(Na換算)2.7g/L(ナトリウムとヨウ素との濃度比0.010)のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液に、有効塩素濃度が12%である次亜塩素酸ソーダ溶液を添加し、晶析電位約500mVで晶析槽にて、泥状ヨウ素を晶析させた(晶析工程)。この泥状ヨウ素を溶液中から分離して、GLの1m溶融釜で約150℃にて溶融し、ヨウ素を更に精製した(溶融工程)。
得られたヨウ素について物性を測定したところ、不揮発物の濃度が0.011%であり、硫酸塩の濃度がSO換算で3.0ppmであり、ヨウ素の純度は99.77%であった。
なお、上述の晶析工程における廃液においては、ヨウ素濃度(I換算)が1.41g/Lであり、ナトリウムとヨウ素との濃度比は2.73であった。
【0033】
(比較例1)
ヨウ素濃度(I換算)32.5g/L、ナトリウム濃度(Na換算)6.1g/L(ナトリウムとヨウ素との濃度比0.19)のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液に、有効塩素濃度が12%である次亜塩素酸ソーダ溶液を添加し、晶析電位約500mVで晶析槽にて、泥状ヨウ素を晶析させた(晶析工程)。この泥状ヨウ素を溶液中から分離して、GLの1m溶融釜で約150℃にて溶融し、ヨウ素を更に精製した(溶融工程)。
得られたヨウ素について物性を測定したところ、不揮発物の濃度が0.030%であり、硫酸塩の濃度がSO換算で8.0ppmであり、ヨウ素の純度は99.73%であった。
なお、上述の晶析工程における廃液においては、ヨウ素濃度(I換算)が1.39g/Lであり、ナトリウムとヨウ素との濃度比は2.82であった。
【0034】
(比較例2)
ヨウ素濃度(I換算)35g/L、ナトリウム濃度(Na換算)5.4g/L(ナトリウムとヨウ素との濃度比0.15)のヨウ素元素を含むイオンを含有する溶液に、有効塩素濃度が12%である次亜塩素酸ソーダ溶液を添加し、晶析電位約500mVで晶析槽にて、泥状ヨウ素を晶析させた(晶析工程)。この泥状ヨウ素を溶液中から分離して、GLの1m溶融釜で約150℃にて溶融し、ヨウ素を更に精製した(溶融工程)。
得られたヨウ素について物性を測定したところ、不揮発物の濃度が0.035%であり、硫酸塩の濃度がSO換算で8.0ppmであり、ヨウ素の純度は99.62%であった。
なお、上述の晶析工程における廃液においては、ヨウ素濃度(I換算)が1.48g/Lであった。
【0035】
以上のように、実施例1〜3においては高品質のヨウ素を得ることができたが、比較例1においては不揮発物の濃度、比較例2においてはヨウ素の純度及び不揮発物の濃度が所定の要件を満たしていない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明におけるヨウ素の製造方法の好適な実施形態を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素元素を含むイオンを含有する、ヨウ素濃度30g/L以下(I換算)の溶液に次亜塩素酸ソーダを添加して、ヨウ素を晶析させる晶析工程を備えることを特徴とする、ヨウ素の製造方法。
【請求項2】
晶析させたヨウ素の純度が99.7%以上である、請求項1記載のヨウ素の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−173462(P2009−173462A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10723(P2008−10723)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(390005681)伊勢化学工業株式会社 (9)