説明

ラクトバチルス属細菌の定量方法

【課題】正確、簡便かつ迅速なラクトバチルス属細菌の定量が可能な、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量方法を提供する。
【解決手段】蛍光色素で標識された、特定の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプローブを検体中のラクトバチルス属細菌のDNAにハイブリダイズさせる工程、特定の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び特定の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて、検体中のラクトバチルス属細菌のDNA断片を増幅する工程、前記増幅反応により得られた蛍光強度を測定する工程、及び測定した蛍光強度に基づいて検体中のラクトバチルス属細菌を定量する工程、を含む、ラクトバチルス属細菌の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌の1種であるラクトバチルス属細菌は、ヒトの腸内、口腔内、表皮等に棲息するヒトの常在菌であり、ある種のラクトバチルス属細菌は免疫賦活など、ヒトに有益な機能をもたらす。また、ラクトバチルス属細菌は、ヨーグルト、乳酸菌飲料の製造など、飲食品製造において古くから用いられている。一方、ラクトバチルス属細菌は、酸性条件下にあっても耐酸性能・増殖能を有し、飲食品の汚染事故の原因菌ともなり得る。そのため、飲食品の衛生管理、原材料の鮮度確保にあっては、ラクトバチルス属細菌の制御が非常に重要である。このように、ラクトバチルス属細菌は産業上功罪の両面を有する微生物であり、ラクトバチルス属細菌を正確に検出、定量する技術が求められている。
【0003】
ラクトバチルス属細菌を検出する方法としては、特定の選択培地を用いて嫌気的に培養し、培地からラクトバチルス属細菌のDNAを抽出し、特定のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により特定領域のDNA断片を増幅し、確認する方法が知られている。特許文献1〜2及び非特許文献1には、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなる、ラクトバチルス属細菌検出用核酸プライマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−212140号公報
【特許文献2】特開2008−289379号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Walter J.et al.,Appl.Environ.Microbiol.,67,p.2578-2585,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、正確、簡便かつ迅速なラクトバチルス属細菌の定量が可能な、ラクトバチルス属細菌の定量方法を提供することを課題とする。また、本発明はこの方法に適用可能な定量キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特許文献1〜2及び非特許文献1に記載されている、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーについて検討を行った。その結果、後述の実施例でも示すように、前記プライマーを用いた場合、ラクトバチルス属細菌だけではなく、ヒトに対する病原性を有する白色ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や、ヒトのニキビの原因菌の1種であるプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)も検出されることが明らかになった。したがって、特許文献1〜2及び非特許文献1に記載のプライマーを用いた従来の方法では、ラクトバチルス属細菌と、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスとを区別することができず、試料に含まれるラクトバチルス属細菌を正確に定量することができない。さらに、前記方法によりラクトバチルス属細菌を正確に定量するには、ラクトバチルス属細菌の同定工程が必要となり、迅速性に欠ける。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明者は鋭意検討を行った。具体的には、プロピオニバクテリウム・アクネスの検出に配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドが用いられているが(例えば、Eishi Y.et al.,J.Clin.Microbiol.,40,p.198-204,2002参照)、データベースで検索したところ、プロピオニバクテリウム・アクネス以外にラクトバチルス属細菌も配列番号3に記載の塩基配列を有することを見出した。さらに、ラクトバチルス属細菌、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスのうち、配列番号1〜3に記載の塩基配列全てを有するのは、ラクトバチルス属細菌のみであることを見出した。これらの知見に基づき、配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマー、並びに蛍光色素で標識された配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプローブを用いて、プローブのハイブリダイゼーション及びDNA断片の増幅反応を行うことでラクトバチルス属細菌の正確な定量が可能となることを見出した。さらには、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプローブに代えて、白色ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の16S rRNAには存在しない、ラクトバチルス属細菌の16S rRNAの特定の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプローブを用いることによっても、ラクトバチルス属細菌の正確な定量が可能となることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、蛍光色素で標識された、下記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNA又はrRNAにハイブリダイズさせる工程、
下記(a)のオリゴヌクレオチド及び下記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて、検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNA断片を増幅する工程、
前記増幅反応により得られた蛍光強度を測定する工程、及び
測定した蛍光強度に基づいて検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌を定量する工程、
を含む、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量方法に関する。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(e)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(f)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
【0010】
また、本発明は、前記(a)のオリゴヌクレオチド及び前記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマー、並びに前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを含む、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量キットに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の定量方法によれば、正確、簡便かつ迅速にラクトバチルス属細菌を定量することができる。また、本発明の定量キットは、前記方法に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)JCM 1132株の16S rRNAの部分塩基配列、及び前記16S rRNAの塩基配列における本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図2】ラクトバチルス・デルブレッキイ亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp.lactis)BCRC 11051株の16S rRNAの全塩基配列、及び前記16S rRNAの塩基配列における本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図3】スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)ATCC 14990株の16S rRNAの部分塩基配列、及び前記16S rRNAの塩基配列における本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図4】スタフィロコッカス・アウレウス亜種アウレウス(Staphylococcus aureus subsp.aureus)ATCC 12600株の16S rRNAの部分塩基配列、及び前記16S rRNAの塩基配列における本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図5】プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)JCM 6473株の16S rRNAの部分塩基配列、及び前記16S rRNAの塩基配列における本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図6】実施例における、ラクトバチルス属細菌の定量結果を示す図である。
【図7】比較例における、ラクトバチルス属細菌の定量結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のラクトバチルス属細菌の定量方法は、蛍光色素で標識された、下記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなるプローブを検体中のラクトバチルス属細菌のDNA又はrRNAにハイブリダイズさせる工程、下記(a)のオリゴヌクレオチド及び下記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて、検体中のラクトバチルス属細菌のDNA断片を増幅する工程、前記増幅反応により得られた蛍光強度を測定する工程、及び測定した蛍光強度に基づいて検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌を定量する工程、を含むものである。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(e)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(f)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
本発明の方法によれば、従来のラクトバチルス属細菌の検出方法においてラクトバチルス属細菌とともに検出される白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスと、ラクトバチルス属細菌とを明確に区別でき、被検体に含まれるラクトバチルス属細菌を網羅的に定量することができる。
なお、本発明において、「ラクトバチルス属細菌の定量」とは、被検体におけるラクトバチルス属細菌密度の定量、被検体におけるラクトバチルス属細菌由来のDNA量の定量、などを特徴的に指すものとする。
また、本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
【0014】
本発明における「ラクトバチルス属細菌」とは、グラム陽性桿菌であり、乳酸を産生する微生物の総称である。ラクトバチルス属細菌としては、下記のものが知られているが、本発明はこれらに制限するものではない。
【0015】
【表1】

【0016】
発明者等は、図1〜5及び後述の実施例で示すように、ラクトバチルス属細菌、並びに白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスの16S rRNAの塩基配列の解析を行った。その結果、ラクトバチルス属細菌に特異的な16S rRNAの領域を見い出した。そして、この可変領域にハイブリダイズ可能な少なくとも3種のオリゴヌクレオチドを用いることにより、ラクトバチルス属細菌の正確な定量が可能となることを見い出した。
【0017】
本発明に用いるオリゴヌクレオチドが認識する、ラクトバチルス属細菌類、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスの16S rRNAの塩基配列を図1〜5及び配列番号7〜11に記載の塩基配列に基づき説明する。なお、配列番号7〜11に記載の塩基配列は、それぞれ、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)JCM 1132株の16S rRNAの部分塩基配列、ラクトバチルス・デルブレッキイ亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp.lactis)BCRC 11051株の16S rRNAの全塩基配列、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)ATCC 14990株の16S rRNAの部分塩基配列、スタフィロコッカス・アウレウス亜種アウレウス(Staphylococcus aureus subsp.aureus)ATCC 12600株の16S rRNAの部分塩基配列及びプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)JCM 6473株の16S rRNAの部分塩基配列を示す。
【0018】
前記(a)のオリゴヌクレオチド(本明細書において、Lac1 primerともいう)及び前記(b)のオリゴヌクレオチド(本明細書において、Lac2 primerともいう)はそれぞれ、図1〜2に示すように、配列番号7に記載の塩基配列のうち333位〜351位までの領域及び660位〜677位までの領域、並びに配列番号8に記載の塩基配列のうち367位〜385位までの領域及び694位〜711位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである。
なお、前記(b)のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、図3〜4に示すように、配列番号9及び10に記載の塩基配列のうち662位〜679位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能である。しかし、配列番号9及び10に記載の塩基配列には、前記(a)のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域は存在しない。さらに、図5に示すように、配列番号11に記載の塩基配列には、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域は存在しない。
【0019】
前記(c)のオリゴヌクレオチド(本明細書において、Lac3 probeともいう)は、図1〜2に示すように、配列番号7に記載の塩基配列のうち527位〜550位までの領域及び配列番号8に記載の塩基配列のうち561位〜584位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである。
なお、図3〜4に示すように、配列番号9及び10に記載の塩基配列には、前記(c)のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域は存在しない。また、前記(c)のオリゴヌクレオチドは、図5に示すように、配列番号11に記載の塩基配列のうち518位〜541位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能である。
【0020】
上記16S rRNAの塩基配列の解析結果に基づき、蛍光色素で標識された、前記(c)のオリゴヌクレオチドからなるプローブを検体中のラクトバチルス属細菌のDNA又はrRNAにハイブリダイズさせ、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて検体中のラクトバチルス属細菌のDNA断片を増幅反応を行い、該増幅反応によって発光する蛍光の強度を検出することにより、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスと、ラクトバチルス属細菌とを明確に区別して検体中のラクトバチルス属細菌を網羅的に定量する。
【0021】
さらに、後述の実施例でも示すように、ラクトバチルス属細菌の16S rRNAの塩基配列を解析した結果、ほぼ全てのラクトバチルス属細菌の16S rRNAの塩基配列中に、前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドの塩基配列と同じ配列が、前記(a)のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域と前記(b)のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域との間に存在することが明らかとなった。したがって、前記(c)のオリゴヌクレオチドからなるプローブに代えて、前記(d)、(e)又は(f)からなるプローブを用いても、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスと、ラクトバチルス属細菌とを明確に区別して検体中のラクトバチルス属細菌とを網羅的に定量することができることを見い出した。
【0022】
本発明に用いる前記オリゴヌクレオチド(a)〜(f)は、それぞれ配列番号1〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドが好ましい。また、本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜6のいずれかに記載の塩基配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであってもよく、相同性が80%以上であることがより好ましく、相同性が90%以上であることがさらに好ましく、相同性が95%以上であることが特に好ましい。また、本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜6のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個(好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、さらに好ましくは1から3個、よりさらに好ましくは1から2個、特に好ましくは1個)の塩基の欠失、置換、挿入又は付加されており、かつラクトバチルス属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド又はハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであってもよい。また、前記オリゴヌクレオチド(a)〜(f)に、適当な塩基配列を付加してもよい。
塩基配列の相同性については、Lipman−Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0023】
前記オリゴヌクレオチドの結合様式は、天然の核酸に存在するホスホジエステル結合だけでなく、例えばホスホロアミデート結合、ホスホロチオエート結合等であってもよい。
【0024】
前記オリゴヌクレオチドは、例えばDNA自動合成機等を用いた化学合成等の通常の合成方法により調製したり、試薬メーカーから購入することができる。また、ラクトバチルス属細菌の遺伝子から制限酵素等を用いて直接切り出したり、また遺伝子をクローニングして単離精製した後、制限酵素などを用いて切り出して調製することも可能である。操作の容易さ、大量かつ安価に一定品質のオリゴヌクレオチドを得られる点から化学合成により調製するのが好ましい。また、合成後、吸着カラム、高速液体クロマトグラフィーや電気泳動法を用いて精製したものを用いることもできる。また、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドについても、通常の方法を使用して合成できる。
【0025】
前記プローブの標識に用いる蛍光色素は、オリゴヌクレオチドを標識して、核酸の測定及び検出に通常用いられるものを使用できる。具体的には、フルオレセイン(fluorescein)又はその誘導体類(例えば、カルボキシフルオレセイン(FAM)やテトラクロロフルオレセイン(TET)、ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)又はこれらの誘導体)、Alexa類、Cy3、Cy5、ローダミン(rhodamine)又はその誘導体(例えば、ローダミン6G(R6G)、ローダミンB、ローダミン6GP、ローダミン3GO、5−カルボキシローダミン6G(CR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA)等)、テキサスレッド(TEXAS red)、ボデピー(BODIPY)類(商標名;モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社製、米国)、ROX、JOE、BHQ類が挙げられる。このうち、フルオレセイン又はその誘導体類が好ましく、FAMがより好ましい。
【0026】
オリゴヌクレオチドを蛍光色素で標識するには、通常の標識法のうちの所望のものを利用することができる(例えば、Nature Biotechnology、第14巻、第303〜308頁、1996年;Applied and Environmental Microbiology、第63巻、第1143〜1147頁、1997年;Nucleic acids Research、第24巻、第4532〜4535頁、1996年参照)。
例えば、5’末端に蛍光色素を結合させる場合は、先ず常法に従って5’末端のリン酸基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−SH基を導入する。この場合、nは3〜8の整数、好ましくは6である。このスペーサーにSH基反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。また、オリゴヌクレオチドの3’末端に蛍光色素を結合させることもできる。この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にスペーサーとして、例えば、−(CH2)n−NH2基を導入する。また、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にスペーサーとして、例えば−(CH2)n−SH基を導入する。これらの場合、nは3〜8、好ましくは4〜7の整数である。このスペーサーにアミノ基、SH基に反応性を有する蛍光体基又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。また、核酸プローブの鎖内に蛍光色素分子を導入することも可能である(例えば、Analytical Biochemistry、第225巻、第32−38頁(1998年参照))。このようにして合成された蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明で使用する核酸プローブとすることができる。
【0027】
本発明に用いるプローブは、発光が抑制された蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドであり、ラクトバチルス属細菌のDNA断片の標的配列にハイブリダイズし、該配列の増幅反応により該蛍光色素が発光し、増幅反応中に蛍光が減衰しないものが好ましい。
【0028】
標的核酸にハイブリダイズしたときに蛍光の発光を抑制するには通常の方法を採用することができる。例えば、2つの末端の一方が蛍光色素で標識され他方が消光剤で修飾されたプローブを用いる方法、蛍光標識されたプローブの末端においてグアニン(G)とシトシン(C)の塩基対形成時に蛍光発光が抑制される蛍光物質を用いる方法、などを採用することができる。
2つの末端の一方が蛍光色素で標識され他方が消光剤で修飾されたプローブを用いる場合、前記消光剤としては、その吸収スペクトルと前記蛍光色素の蛍光スペクトルとがオーバーラップするものが好ましく、具体的には、DNP、TAMRA、DABCYL、BHQ類(商標名、Biosearch Technologies社製)、QXL520等のQXL類(商標名;AnaSpec社)、Iowa black FQ(商品名)、Iowa black RQ(商品名)、BODIPYFL及びQSY7dyeが挙げられ、DNP、TAMRAが好ましく、TAMRAがより好ましい。
蛍光標識されたプローブの末端においてグアニン(G)とシトシン(C)の塩基対形成時に蛍光発光が抑制される蛍光色素を用いる場合、前記蛍光色素の具体例としては、フルオロセイン又はその誘導体(例えば、FITC)、ボデピー類、ローダミン又はその誘導体(例えば、CR6G、TAMRA)などが挙げられる。
【0029】
本発明に用いるプローブは、2つの末端の一方が蛍光色素で標識され他方が消光剤で修飾されたプローブが好ましく、5’末端側が蛍光色素で標識され、3’末端側が消光剤で修飾されており、ラクトバチルス属細菌のDNAにアニーリニングしている間は前記蛍光色素の発光が前記消光剤により抑制され、DNAポリメラーゼにより前記プローブが分解されると発光の抑制が解除され前記蛍光色素が発光するプローブがより好ましい。
【0030】
本発明において、前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる1種又は2種以上のプローブを用いることができる。
本発明において、前記プローブをラクトバチルス属細菌のDNA又はrRNAにハイブリダイズさせる条件としては特に制限はない。
【0031】
本発明において、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて、検体中のラクトバチルス属細菌のDNA断片の増幅を行う。DNA断片を増幅する方法として特に制限はなく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、RCA(Rolling-circle amplification)法、LAMP(Loop mediated isothermal amplification)法など通常の方法を用いることができる。本発明においては、PCR法を用いるのが迅速性及び簡便性の観点から好ましい。
【0032】
PCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。
PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を90〜98℃で1秒間〜15分間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応及びDNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を50〜70℃で10〜90秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約20〜40サイクル行う。
【0033】
PCR反応に用いるDNAポリメラーゼとしては特に制限はなく、一般的に核酸増幅反応に使用できるものであればよい。例えば、Taq DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
DNAポリメラーゼの中には、エキソヌクレアーゼ活性を有するものがある。しかし、このようなDNAポリメラーゼを用いると、増幅反応中に標識プローブを分解し、分解された標識プローブが非特異的にDNAにハイブリダイズする場合がある。したがって、本発明において、エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼ、例えば、KOD DNAポリメラーゼを用いるのが好ましい。
【0034】
本発明において、前記増幅反応の際又は前記増幅反応の後、増幅反応により、プローブがハイブリダイズする標的核酸から遊離した蛍光色素の蛍光強度を測定する。蛍光強度の測定手段としては特に制限はなく、蛍光顕微鏡等通常の手段を採用することができる。
また、本発明において、前記増幅反応と蛍光強度の測定を同時(リアルタイム)に行う方法(例えば、リアルタイム検出ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法)により行ってもよい。
【0035】
本発明において使用される検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができる。
検体からDNAを調製する方法としては、ラクトバチルス属細菌の定量を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、未精製の状態でも使用できるが、さらに分離、抽出、濃縮、精製等の前処理をして使用することもできる。例えば、フェノール及びクロロホルム抽出を行って精製したり、市販の抽出キットを用いて精製して、核酸の純度を高めて使用することができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。
【0036】
本発明のラクトバチルス属細菌の定量キットは、前記(a)のオリゴヌクレオチド及び前記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマー、並びに前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを含むものである。このキットは、ラクトバチルス属細菌の定量方法に用いることができる。本発明のキットは、前記核酸プローブ及びプライマーの他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、細菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
試験例1
インターネット上でRibosomal Database Project II(RDPII)(http://rdp.cme.msu.edu/)に公開されている解析ソフト(Probe mach)を用いて、同データベースに登録されているラクトバチルス属細菌の16S rRNAの塩基配列に、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域、並びに配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の下流及び/又は配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の上流に配列番号3〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域が含まれているかの確認を行った。なお、解析方法は解析ソフトの操作方法に従った。その結果を表2〜4に示す。表2〜4において、ラクトバチルス属細菌の16S rRNAの塩基配列に配列番号1〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域が含まれている場合は「○」、含まれていない場合「−」と記載した。
さらに、同データベースに登録されているブドウ球菌科細菌、ブドウ球菌属細菌、乳酸桿菌科細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス科細菌、ロイコノストック科細菌、連鎖球菌科細菌及びプロピオニバクテリア科細菌の数、並びに、配列番号1〜6のいずれかに記載の各塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域が16S rRNAの塩基配列に含まれている細菌の数を確認した。その結果を表5〜6に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
表2〜5に示したように、ほぼ全てのラクトバチルス属細菌の16S rRNAの塩基配列に、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域、並びに配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の下流及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の上流に配列番号3〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域が含まれることが明らかとなった。
これに対して、表5及び6に示したように、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域、並びに配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の下流及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の上流に配列番号3〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域、の両者とも16S rRNAの塩基配列に含むラクトバチルス属細菌以外の細菌類は存在しない。
このように、16S rRNAの塩基配列に、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域、並びに配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の下流及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域の上流に配列番号3〜6のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な領域が含まれるのは、ラクトバチルス属細菌に限られることが判明した。
【0045】
実施例
(1)プライマーの設計
配列番号1の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Lac1 primer)及び配列番号2の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Lac2 primer)を設計し、つくばオリゴ(株)に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
また、配列番号3の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプローブ(Lac3 probe)(5’末端を蛍光色素FAMで修飾し、3’末端を消光剤TAMRAで修飾したTaqMan PCR用プローブ)を、つくばオリゴ(株)に合成依頼し入手した。
【0046】
(2)検体の調製
本発明の有効性の評価に用いる微生物としては、白色ブドウ球菌JCM2414T株、黄色ブドウ球菌JCM2413株、プロピオニバクテリウム・アクネスJCM6425株、ラクトバチルス・アシドフィルスJCM1021株、ラクトバチルス・デルブレッキイ亜種ラクティスJCM1107株を用いた。
白色ブドウ球菌JCM2414T株、黄色ブドウ球菌JCM2413株及びプロピオニバクテリウム・アクネスJCM6425株は、SCDLP寒天培地(日本製薬社製)にて37℃で1日培養した。ラクトバチルス・アシドフィルスJCM1021株及びラクトバチルス・デルブレッキイ亜種ラクティスJCM1107株は、MRS寒天培地(和光純薬社製)にて37℃で2日間培養した。
【0047】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収し、PBS溶液1mLに懸濁後、14000rpmにて3分間遠心分離を行い、さらに上清を除去して、菌体を回収した。
回収した菌体に、下記表7に示す組成のDNA Isilation buffer200μL、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール水溶液(25:24:1[vol/vol/vol]、Invitrogen社)200μL及び高圧滅菌したガラスビース(粒径約0.1mm、アズワン社)300mgを添加し、ボルテックスにて5分間攪拌した。14000rpm、20℃で10分間遠心分離を行い、水相150μLを回収した。この水相に共沈剤(エタ沈メイト、和光純薬工業社)1μL及び3M酢酸ナトリウムバッファー(pH5.2)15μLを添加した。さらに、100%エタノールを375μL(回収量の2.5倍量)加え、14000rpm、4℃で10分間、遠心分離してDNAペレットとし、上清を除去した。沈殿に70%エタノール200μLを添加し、14000rpm、4℃で10分間遠心分離して沈殿の洗浄を行った。上清を除去して回収したDNAペレットを滅菌水50μLに再溶解し、回収したDNAを精製した。
なお、前記DNA Isilation bufferは、10%Triton−X溶液2mL、10mM EDTA溶液1mL、1M NaCl溶液1mL、10%SDS溶液1mL、100mM Tris−HCl(pH8.0)溶液1mL及び滅菌水4mLを混合し、フィルター滅菌して調製した。
【0048】
【表7】

【0049】
(4)ラクトバチルス属細菌の定量
前記(3)で調製したゲノムDNA溶液をDNAテンプレートとし、下記組成のPCR反応液を調製した。
PCR反応液
ゲノムDNA溶液 5μL
TaqMan Universal PCR Master Mix
(DNAポリメラーゼ試薬、商品名、アプライドバイオシステムズ社) 15μL
Lac1 primer(配列番号1) 250nM
Lac2 primer(配列番号2) 250nM
Lac3 probe(配列番号3) 100nM
滅菌水 バランス
全量 30μL
【0050】
前記PCR反応液について、下記PCR条件で、リアルタイム検出ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によりPCR反応を行い、下記蛍光検出装置及び制御ソフトウェアを用いてDNA量の定量を行っった。
<PCR条件>
1.変性温度:95℃、10分
2.変性温度:95℃、15秒
3.アニール及び伸長反応温度:60℃、60秒
(上記2〜3の反応を最大40サイクル繰り返した。)
<蛍光検出装置>
7500 Real Time PCR System(商品名、アプライドバイオシステムズ社)
<制御ソフトウェア>
7500 System SDS Software(商品名、アプライドバイオシステムズ社)
定量結果を図6に示す。
【0051】
図6の結果からも明らかなように、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマー、並びに前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを組み合わせて用いることにより、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスの16S rRNA断片を増幅させることなくラクトバチルス属細菌の16S rDNA断片のみが増幅され、DNA断片の増幅に伴って傾向強度も増大し、正確な乳酸菌の定量が可能となることが確認された。
【0052】
比較例
DNAポリメラーゼ試薬としてTaqMan Universal PCR Master Mixに代えてPower SYBR Green Master Mix(商品名、アプライドバイオシステムズ社)を用い、Lac3 probeをPCR反応液には添加しなかったこと以外は同様にして、実施例と同様の試験操作を行った。その結果を図7に示す。
【0053】
図7の結果からも明らかなように、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーのみを用いてDNA断片の増幅を行った場合、ラクトバチルス属細菌だけではなく、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及びプロピオニバクテリウム・アクネスの16S rRNAも増幅されてしまう。したがって、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いた従来のラクトバチルス属細菌の検出方法では、ラクトバチルス属細菌を特異的に検出することはできず、ラクトバチルス属細菌の定量を正確に行うこともできない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光色素で標識された、下記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNA又はrRNAにハイブリダイズさせる工程、
下記(a)のオリゴヌクレオチド及び下記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマーを用いて、検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNA断片を増幅する工程、
前記増幅反応により得られた蛍光強度を測定する工程、及び
測定した蛍光強度に基づいて検体中のラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌を定量する工程、
を含む、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(e)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(f)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
【請求項2】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により行う、請求項2記載の定量方法。
【請求項3】
前記増幅反応及び前記蛍光強度の測定をリアルタイム検出ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により行う、請求項1又は2記載の定量方法。
【請求項4】
前記プローブの5’末端側が蛍光色素で標識され、前記プローブの3’末端側が消光剤で修飾されており、前記プローブがラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNAにアニーリニングしている間は前記蛍光色素の発光が前記消光剤により抑制され、DNAポリメラーゼにより前記プローブが分解されると発光の抑制が解除され前記蛍光色素が発光する、請求項1〜3のいずれか記載の定量方法。
【請求項5】
下記(a)のオリゴヌクレオチド及び下記(b)のオリゴヌクレオチドからなる核酸プライマー、並びに下記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1種のプローブを含む、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の定量キット。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列の増幅に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(e)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
(f)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌の16S rDNAの部分塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド
【請求項6】
前記プローブの5’末端側が蛍光色素で標識され、前記プローブの3’末端側が消光剤で修飾されており、前記プローブがラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌のDNAにアニーリニングしている間は前記蛍光色素の発光が前記消光剤により抑制され、DNAポリメラーゼにより前記プローブが分解されると発光の抑制が解除され前記蛍光色素が発光する、請求項5記載の定量キット。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187067(P2012−187067A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54425(P2011−54425)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】